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1008 YAKUGAKU ZASSHI Vol. 139, No. 7 (2019) Fig. 1. Alpha-synuclein Protein (as) (A) Schematic diagram of as. The amino-terminal region consists of seven imperfect repeats with the consensus sequence KTKEGV (black boxes).sixmissense mutations (A30P, E46K, H50Q, G51D, A53E and A53T) and duplications/triplications of the SNCA gene have been identiˆed in patients having a familial history of PD. Amyloid ˆbril core region spans from residue 31 to 109. Serine129 is highly phosphorylated in diseased brains. (B) Comparison of amino acid sequences of alpha-synuclein in human, common marmoset and mouse. Human alpha-synuclein shares 97.2% identity with marmoset and 95% with murine homologs. 原因であり,aS 病理が脳内で伝播する過程は疾患の進行過程である可能性を示唆している.SNCA 遺伝子は家族性 PD 又は DLB の原因遺伝子の 1 つでもあり, これまでに 6 つのミスセンス変異 (A30P, E46K, H50Q, G51D, A53E, A53T) と SNCA 遺伝子を含む領域の重複 (duplication, triplication) が報告されている [Fig. 1(A)]. ミスセンス変異の多く (E46K, H50Q, G51D, A53T) は試験管内でアミロイド線維形成を促進させる効果を示す. また SNCA 遺伝子領域の重複は野生型 as タンパクの発現量が増加するだけで神経変性疾患の発症につながることを示しており,duplication 家系よりも triplication 家系で発症年齢が若いことからも as タンパク量の重要性がわかる.aS のアミロイド線維形成反応は as 濃度依存性であり as 濃度が高ければ線維形成は促進されることが試験管内モデルの解析からわかっている. これらの知見を総合すると, 孤発性シヌクレイノパチーだけでなく, 家族性 PD,DLB 病態においても as の構造変化が最重要因子であると理解できる.aS のアミロイド線維 形成を試験管内で行う場合, タンパク濃度を数 mg/ ml の高濃度で静置しても数週間を要する. しかしながら可溶性 as 溶液中に 1/100 量程度の微量の as アミロイド線維を加えると, 線維形成は劇的に促進される [Fig. 2(A)]. これは微量の as アミロイド線維が鋳型 ( シード ) として働き, 可溶性タンパク質をアミロイド線維に変換する, シード依存性の線維化機構が機能していることを示唆する [Fig. 2 (B)]. このシード依存的なアミロイド線維形成反応は異常型プリオンの増幅機構とよく似ている. プリオンの伝播では, クロス b シート構造をとった異常型プリオンタンパク質が正常型プリオンと接触することにより異常型に変換し, 異常型プリオンが増幅されて急速に進行する. 試験管内では as もシード依存性の線維形成機構により増幅するが, 生体内においてはどうだろうか. その可能性を示唆する報告が 2008 年に異なる 2 つのグループから発表された. 2,3) それは胎児ドパミンニューロンの移植を受けた PD 患者の剖検脳解析を行ったところ, 移植した若い神経細胞に as 蓄積が観察されたというも

Vol. 139, No. 7 (2019) YAKUGAKU ZASSHI 1009 Fig. 2. Seed-dependent Mechanism of as Amyloid Fibril Formation (A) In vitro ˆbril formation of as is dramatically facilitated in the presence of pre-formed ˆbrils. (B) Prion-like propagation model of as amyloid ˆbrils. のである. この報告は as 蓄積病理が若い神経細胞に伝播した可能性を強く示唆するものであった. 3. 生体内での as 伝播 ( げっ歯類モデル ) 上述の報告で観察された as 病理が宿主側から移植細胞へ伝播する 現象が実験的に再現できるか, 最も身近な実験動物であるげっ歯類を用いて検討がなされた. その結果, マウス脳やラット脳への細胞移植実験によっても同様の現象が観察された. 4 6) 細胞移植実験の場合 as 蓄積が輸送され移植細胞に移動したのか, 又はシード依存的なプリオン様伝播により広がったのか明らかではない. そこでプリオン感染実験の手法を用いた検討が行われた. プリオンの感染実験では異常型プリオンを含む試料を実験動物脳内に接種し, 感染の有無を病理評価や接種動物の生存期間短縮等によって判断できる. こ の脳内接種実験は as トランスジェニックマウスを用いて行われ, 不溶性 as を脳内接種すると数ヵ月で as 蓄積病理形成が促進され, 神経変性と運動障害を呈してマウスは死亡した. 7,8) as 接種は脳の片側にしているにもかかわらず,aS 蓄積病理は時間経過に伴い脳全体に観察されるようになる. 8) このトランスジェニックマウス (M83 line) は凝集能の高い A53T 変異を導入した as を過剰発現しており, 加齢に伴い as 病理を示すモデルである. そのため脳内接種による as 蓄積の促進効果が過剰発現によるものか, あるいは A53T 変異特異的な反応である可能性が否定できなかった. また, トランスジェニックマウスは家族性シヌクレイノパチーのモデルとしては適当かもしれないが, シヌクレイノパチー患者の 90% 以上を占める遺伝的背景を持たな

1010 YAKUGAKU ZASSHI Vol. 139, No. 7 (2019) Table 1. Comparison of Prion-like Propagation EŠeciency in Wild-type Mice at 15 Months after Injection Injection samples No. of mice No. of mice with as pathology in the ipsilateral brain No. of mice with as pathology in the contralateral brain Soluble human as n = 8 0/8(0%) 0/8(0%) Insoluble human as ˆbrils n = 24 22/24(91.6%) 19/24(79.2%) Soluble mouse as n = 4 0/4(0%) 0/4(0%) Insoluble mouse as ˆbrils n=8 8/8(100%) 8/8(100%) DLB brain extracts n=14 7/14(50%) 1/14(7.1%) Immunostained with anti-phospho as antibody, #1175. Values show number of mice with as pathology/total mice, with percentage of mice with as pathology in the ipsilateral side of brain (injection side) and the contralateral side (non-injected side). DLB=dementia with Lewy bodies. い孤発性発症のモデルにはなり得ない. 筆者らは,aS 過剰発現や遺伝子変異を持たない野生型マウスを用いて孤発性シヌクレイノパチー病態に as のプリオン様伝播が関与するか検討を行った.Figure 1(B) に示したように,aS のアミノ酸配列はヒト マウス間で 95% の相同性を有するが, 抗ヒト as 特異抗体 LB509( エピトープ :115 122 a.a.) を用いるとヒト as とマウス as を区別することができる. そこで野生型マウスの中脳黒質に様々な合成 as( 可溶性ヒト as, ヒト as 線維, 可溶性マウス as, マウス as 線維 ) あるいは DLB 患者脳不溶性画分の接種実験を行った. 9) その結果,aS 線維又は DLB 患者脳不溶性画分を接種した群ではリン酸化 as 抗体陽性の病理が観察された. 病理はユビキチン,p62 陽性であり, 患者脳の病理と同様の免疫染色性を示した.aS 病理は時間経過に伴い脳内の様々な領域に伝播する傾向が認められ, 特に中脳黒質と神経連絡のある領域では早期から病理が観察された. 一方, 可溶性 as 接種群では病理形成は認められなかった (Table 1). 合成ヒト as 線維を脳内接種した群について生化学的解析を行ったところ, 接種後 1 週間で接種試料であるヒト as 線維は分解され検出レベル以下に減少したのに対し, 接種後 3 ヵ月でリン酸化 ユビキチン化された内在性マウス as の蓄積が認められた. この結果は接種試料に含まれるヒト as 線維が蓄積 輸送されたのではなく, 内在性のマウス as が不溶性に変換されて蓄積したことを示している.aS ノックアウトマウスへの脳内接種では病理形成 伝播が認められないこと 9 11) も, この結果を支持している. さらにプリオン感染実験で観察されるような 種の壁 が as 伝播においても存在するか, 各接種サンプルの野生型 マウスに対する病理誘導能を比較した. 9) マウス as 線維接種群では 8 匹中すべての個体で接種側, 非接種側ともリン酸化 as 抗体陽性病理が観察されたのに対し, ヒト as 線維接種群では接種側で病理がみられたのは 24 匹中 22 匹 (91.6%), 非接種側への as 病理伝播を示した個体は 19 匹 (79.2%) とマウス as 線維接種群に比べ若干低い傾向が認められた (Table 1). この結果は野生型マウスを宿主とした場合, ヒト as 線維よりもマウス as 線維の方が as 病理誘導 伝播の効率が高い可能性を示唆しており, 9) as 伝播においてもプリオンと同様の 種の壁 や 株 が存在する可能性が高い. 上述したようにヒト マウス間 as アミノ酸配列は非常に似ているが, わずかなアミノ酸配列の違いがそのアミロイド線維構造に違いを生じさせるようである. 一方 DLB 患者脳由来の不溶性画分を接種した群では, 合成 as 線維接種に比べ病理誘導 伝播の効率が低い結果が得られた (Table 1). これは患者脳不溶性画分に含まれる as 量が少なかったためと考えているが, それでも 50% の個体で病理が観察されており, 患者脳由来の不溶性 as もプリオン様伝播能を有することを示している.aS 伝播の経路については, 中脳黒質に接種した際の病理分布をみてみると扁桃体中心核や分界条といった直接神経連絡している部位に早期から伝播がみられる. 接種部位を線条体に変えてみると早期の病理は扁桃体や中脳黒質に集中した. 嗅内野に接種すると海馬, 海馬采, 中隔核に伝播がみられる. 11) これは as 病理の脳内分布 伝播が接種部位に依存すること,aS 伝播は神経回路を介して広がる可能性を示している. 4. 生体内での as 伝播 ( 霊長類モデル ) 野生型マウス脳内で as 伝播が認められたが,

Vol. 139, No. 7 (2019) YAKUGAKU ZASSHI 1011 げっ歯類よりも高等な動物において同様に as 伝播が起き得るのか疑問が残った. そこで霊長類を用いた as 脳内接種実験も報告されている.Recasens らはアカゲザル 4 頭を用い, 線条体 (n =2) あるいは中脳黒質 (n =2) に PD 患者脳由来のレビー小体画分を脳内接種し,14 ヵ月後に病理評価を行った. 12) その結果,aS 病理の伝播と中脳黒質ドパミンニューロンの脱落傾向が認められ, 霊長類脳においても as 伝播が進行する可能性が示された. しかしながらこの研究においては接種試料に含まれるヒト as とアカゲザル内因性 as を区別していないため, 接種試料が蓄積して輸送されたのか, アカゲザル内因性 as がプリオン様伝播により蓄積したのか不明である. 筆者らは小型の霊長類であるコモンマーモセットを用いて合成 as 線維の脳内接種実験を行っている. コモンマーモセットの as アミノ酸配列もよく保存されており, ヒト as と 97.2% の相同性がある [Fig. 1(B)]. 内因性のマーモセット as がプリオン様伝播機構によって蓄積するか明らかにするため, 接種試料として合成マウス as 線維を使用した. 抗ヒト as 特異抗体 LB509 は接種試料であるマウス as には反応しないが, マーモセット as に反応するため両者を区別可能となる [Fig. 1(B)]. マーモセット 2 頭を用い,1 頭は右脳尾状核に, もう 1 頭は右脳の尾状核と被殻の 2 ヵ所に合成 as 線維の接種を行い,3 ヵ月後に病理評価を行った. 驚くべきことに, わずか 3 ヵ月で接種部位である尾状核, 被殻だけでなく, 中脳黒質, 扁桃体, 帯状皮質などにリン酸化 as 抗体陽性の as 蓄積病変が多く観察された. 13) 蓄積病理は LB509 抗体陽性であり, マウス as をシードとしてマーモセット内因性 as が蓄積 伝播したことが分かった. マーモセット脳でみられた as 病理もユビキチン,p62 陽性であった. さらに接種側である右脳の中脳黒質においてドパミン神経マーカーであるチロシン水酸化酵素の染色性に低下傾向が認められ,aS 伝播による神経変性が誘導された可能性が高い. 13) マーモセット 2 頭を用いた極めて小規模な実験であったが, 霊長類であるコモンマーモセット脳内においても as のプリオン様伝播が進行することが明らかとなった. 霊長類で実験を行う場合, 飼育設備, 費用面がげっ歯類とは大きく異なるため実験動物数を増やすのが難しいと いう問題点があるが, 現在頭数を増やしてさらに検討を行っている. 現在進行中の実験では運動機能 行動解析も行っており, 線維接種群では聴覚 痛覚反応の低下傾向が認められるようである (data not shown). 聴覚 痛覚の機能低下の原因は明らかではないが,3 ヵ月での病理解析の結果において体性感覚野と聴覚野にも多くの as 病理がみられていたことから,aS 蓄積により機能低下が引き起こされている可能性がある. 5. as 線維は感染性を持つか 野生型マウスやサルに対する as 線維の脳内接種が as 蓄積とプリオン様伝播を引き起こすことから, as アミロイド線維にはプリオンのように感染性を持つ可能性がある. プリオン研究の功績で 1997 年にノーベル生理学 医学賞を受賞した Prusiner 博士は論文の中で as の感染性に言及しており, 現時点では as の個体間感染の有無は不明であるが as 線維はプリオンの定義をすべて満たしており, 感染の可能性に注意を払うべき と述べている. 14) 筆者らは as 線維の感染性を考慮し,aS 線維を野生型マウスに経口, 腹腔内, 鼻腔内投与し, それぞれ 6 ヵ月,12 ヵ月,21 ヵ月後に脳の病理解析を行ったが as 病理形成は認められなかった. 9,11) しかしながらさらに長期の潜伏期間を経て発症する可能性は否定できず, 今後の検討が待たれる.aS トランスジェニックマウス (M83 line) を用いた解析では, 合成 as 線維を後肢に筋注すると, 脊髄と脳に病理形成 伝播が生じ生存期間が短縮することが示されている. 15) 筋注前に坐骨神経を切断すると生存期間が延長することから as は座骨神経と脊髄を介して脳へ到達したと予想される. しかしながらこのトランスジェニックマウスに as 線維を筋注すると 90 日以内にすべてのマウスが死亡する 15) という強烈な効果を示しており, これは同じトランスジェニックマウスに as 線維を脳内接種した場合の生存期間よりも短い. 7,8) この報告では野生型マウスと as ノックアウトマウスに対しても筋注を行っているが 12 ヵ月経過後でも中枢神経系での as 蓄積, 伝播は認められていない. 末梢からの as 伝播は as 過剰発現系のみでみられる人為的な反応である可能性もあるが, 今後更なる検討が必要である. 6. 治療標的としての as 伝播機構 as 伝播はシヌクレイノパチーの進行過程とみな

1012 YAKUGAKU ZASSHI Vol. 139, No. 7 (2019) すことができるため,aS 伝播を阻害できれば発症 後の進行を抑制する新規治療法となり得る. そのため野生型マウスを用いた as 脳内接種モデルは as 伝播過程の阻害剤スクリーニングに極めて有用と考えられる. 最近ではこのモデルを用いて新規治療法の評価が進められており, 抗体療法 16) や graphene quantum dots 投与 17) により as 伝播が抑制できるとの報告がある. また,aS 伝播に係わる因子の検索にも用いられており lymphocyte-activation gene 3 (LAG3) が同定された. 18) LAG3 は as 線維が細胞内へ取込まれる際の細胞膜上受容体として機能しており,LAG3 と as 線維の結合を阻害できれば as 伝播を抑制できる可能性がある. 今後 as 伝播を標的とした様々な新規治療法スクリーニングが行われ, シヌクレイノパチー進行を抑制する新規手法の開発が進められると考えられる. 7. おわりに as 脳内接種により,aS 線維がプリオン様のシード依存的増幅機構を介して増幅し, 神経回路を通って脳内に伝播することが明らかになってきた. しかしながら伝播に係わるメカニズムの多く ( 神経細胞への取込, 輸送, 放出機構 ) は, いまだ不明な点が多く今後の解析が期待される.PD や DLB といったシヌクレイノパチー患者数は現代の超高齢化社会においては増加の一途をたどっており, 新たな治療法が開発されれば社会的なインパクトは極めて大きい. 筆者らが研究してきた as 伝播マウスモデル, マーモセットモデルが as 伝播メカニズムの全容解明あるいは新規治療法開発に寄与することができれば幸いである. 利益相反開示すべき利益相反はない. REFERENCES 1) Braak H., Del Tredici K., R äub U., de Vos R. A., Jansen Steur E. N., Braak E., Neurobiol. Aging, 24, 197 211 (2003). 2) Kordower J. H., Chu Y., Hauser R. A., Freeman T. B., Olanow C. W., Nat. Med., 14, 504 506 (2008). 3) Li J. Y., Englund E., Holton J. L., Soulet D., Hagell P., Lees A. J., Lashley T., Quinn N. P., Rehncrona S., Bjäorklund A., Widner H., Revesz T., Lindvall O., Brundin P., Nat. Med., 14, 501 503 (2008). 4) Desplats P., Lee H. J., Bae E. J., Patrick C., Rockenstein E., Crews L., Spencer B., Masliah E., Lee S. J., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 13010 13015 (2009). 5) Kordower J. H., Dodiya H. B., Kordower A. M., Terpstra B., Paumier K., Madhavan L., Sortwell C., Steece-Collier K., Collier T. J., Neurobiol. Dis., 43, 552 557 (2011). 6) Angot E., Steiner J. A., Lema Tomáe C.M., Eksträom P., Mattsson B., Bj äorklund A., Brundin P., PLoS One, 7, e39465 (2012). 7) Mougenot A. L., Nicot S., Bencsik A., Morignat E., Verch àere J., Lakhdar L., Legastelois S., Baron T., Neurobiol. Aging, 33, 2225 2228 (2012). 8) Luk K. C., Kehm V. M., Zhang B., O'Brien P.,TrojanowskiJ.Q.,LeeV.M.,J. Exp. Med., 5, 975 986 (2012). 9) Masuda-Suzukake M., Nonaka T., Hosokawa M., Oikawa T., Arai T., Akiyama H., Mann D. M., Hasegawa M., Brain, 136, 1128 1138 (2013). 10) Luk K. C., Kehm V., Carroll J., Zhang B., O'Brien P., Trojanowski J. Q., Lee V. M., Science, 338, 949 953 (2012). 11) Masuda-Suzukake M., Nonaka T., Hosokawa M., Kubo M., Shimozawa A., Akiyama H., Hasegawa M., Acta Neuropathol. Commun., 2, 88(2014). 12) Recasens A., Dehay B., Bováe J., Carballo- Carbajal I., Dovero S., P áerez-villalba A., Fernagut P. O., Blesa J., Parent A., Perier C., Fari ãnas I., Obeso J. A., Bezard E., Vila M., Annals Neurol., 75, 351 362 (2014). 13) Shimozawa A., Ono M., Takahara D., Tarutani A., Imura S., Masuda-Suzukake M., Higuchi M., Yanai K., Hisanaga S. I., Hasegawa M., Acta Neuropathol. Commun., 5, 12(2017). 14) Watts J. C., Giles K., Oehler A., Middleton L., Dexter D. T., Gentleman S. M., DeArmond S. J., Prusiner S. B., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, 19555 19560 (2013). 15) Sacino A. N., Brooks M., Thomas M. A., McKinney A. B., Lee S., Regenhardt R. W., McGarvey N. H., Ayers J. I., Notterpek L., Borchelt D. R., Golde T. E., Giasson B. I., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 111, 10732 10737

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