北 米 地 域 統 合 と 途 上 国 経 済 解 明 に 向 かっている 筆 者 は これを 取 り 上 げる 理 由 として 産 業 集 積 自 体 そ してそれとの 多 国 籍 企 業 との 関 わりについては これまでも 研 究 が 蓄 積 されてき たが この 議 論 を 一 国 民 経

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●電力自由化推進法案


18 国立高等専門学校機構

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平成25年度 独立行政法人日本学生支援機構の役職員の報酬・給与等について

m07 北見工業大学 様式①

公表表紙

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公 的 年 金 制 度 について 制 度 の 持 続 可 能 性 を 高 め 将 来 の 世 代 の 給 付 水 準 の 確 保 等 を 図 るため 持 続 可 能 な 社 会 保 障 制 度 の 確 立 を 図 るための 改 革 の 推 進 に 関 する 法 律 に 基 づく 社 会 経 済 情

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 27 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 2,142 ( 地 域 手 当 ) 17,205 11,580 3,311 4 月 1

2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 役 名 法 人 の 長 理 事 理 事 ( 非 常 勤 ) 平 成 25 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 16,936 10,654 4,36

Ⅰ 人 口 の 現 状 分 析 Ⅰ 人 口 の 現 状 分 析 1 人

代 議 員 会 決 議 内 容 についてお 知 らせします さる3 月 4 日 当 基 金 の 代 議 員 会 を 開 催 し 次 の 議 案 が 審 議 され 可 決 承 認 されました 第 1 号 議 案 : 財 政 再 計 算 について ( 概 要 ) 確 定 給 付 企 業 年 金 法 第

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1 林 地 台 帳 整 備 マニュアル( 案 )について 林 地 台 帳 整 備 マニュアル( 案 )の 構 成 構 成 記 載 内 容 第 1 章 はじめに 本 マニュアルの 目 的 記 載 内 容 について 説 明 しています 第 2 章 第 3 章 第 4 章 第 5 章 第 6 章 林 地

1 総 合 設 計 一 定 規 模 以 上 の 敷 地 面 積 及 び 一 定 割 合 以 上 の 空 地 を 有 する 建 築 計 画 について 特 定 行 政 庁 の 許 可 により 容 積 率 斜 線 制 限 などの 制 限 を 緩 和 する 制 度 である 建 築 敷 地 の 共 同 化 や

小 売 電 気 の 登 録 数 の 推 移 昨 年 8 月 の 前 登 録 申 請 の 受 付 開 始 以 降 小 売 電 気 の 登 録 申 請 は 着 実 に 増 加 しており これまでに310 件 を 登 録 (6 月 30 日 時 点 ) 本 年 4 月 の 全 面 自 由 化 以 降 申

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03 平成28年度文部科学省税制改正要望事項

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検 討 検 討 の 進 め 方 検 討 状 況 簡 易 収 支 の 世 帯 からサンプリング 世 帯 名 作 成 事 務 の 廃 止 4 5 必 要 な 世 帯 数 の 確 保 が 可 能 か 簡 易 収 支 を 実 施 している 民 間 事 業 者 との 連 絡 等 に 伴 う 事 務 の 複 雑

容 積 率 制 限 の 概 要 1 容 積 率 制 限 の 目 的 地 域 で 行 われる 各 種 の 社 会 経 済 活 動 の 総 量 を 誘 導 することにより 建 築 物 と 道 路 等 の 公 共 施 設 とのバランスを 確 保 することを 目 的 として 行 われており 市 街 地 環

社会保険加入促進計画に盛込むべき内容

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預 金 を 確 保 しつつ 資 金 調 達 手 段 も 確 保 する 収 益 性 を 示 す 指 標 として 営 業 利 益 率 を 採 用 し 営 業 利 益 率 の 目 安 となる 数 値 を 公 表 する 株 主 の 皆 様 への 還 元 については 持 続 的 な 成 長 による 配 当 可

その 他 事 業 推 進 体 制 平 成 20 年 3 月 26 日 に 石 垣 島 国 営 土 地 改 良 事 業 推 進 協 議 会 を 設 立 し 事 業 を 推 進 ( 構 成 : 石 垣 市 石 垣 市 議 会 石 垣 島 土 地 改 良 区 石 垣 市 農 業 委 員 会 沖 縄 県 農

Microsoft Word - ★HP版平成27年度検査の結果

説 明 内 容 料 金 の 算 定 期 間 と 請 求 の 単 位 について 分 散 検 針 制 日 程 等 別 料 金 料 金 の 算 定 期 間 と 支 払 義 務 発 生 日 日 程 等 別 料 金 の 請 求 スケジュール 料 金 のお 支 払 い 方 法 その 他 各 種 料 金 支 払

16 日本学生支援機構

入 札 参 加 者 は 入 札 の 執 行 完 了 に 至 るまではいつでも 入 札 を 辞 退 することができ これを 理 由 として 以 降 の 指 名 等 において 不 利 益 な 取 扱 いを 受 けることはない 12 入 札 保 証 金 免 除 13 契 約 保 証 金 免 除 14 入

国 家 公 務 員 の 年 金 払 い 退 職 給 付 の 創 設 について 検 討 を 進 めるものとする 平 成 19 年 法 案 をベースに 一 元 化 の 具 体 的 内 容 について 検 討 する 関 係 省 庁 間 で 調 整 の 上 平 成 24 年 通 常 国 会 への 法 案 提

(2)大学・学部・研究科等の理念・目的が、大学構成員(教職員および学生)に周知され、社会に公表されているか


は 固 定 流 動 及 び 繰 延 に 区 分 することとし 減 価 償 却 を 行 うべき 固 定 の 取 得 又 は 改 良 に 充 てるための 補 助 金 等 の 交 付 を 受 けた 場 合 にお いては その 交 付 を 受 けた 金 額 に 相 当 する 額 を 長 期 前 受 金 とし

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は し が き


資料6 国の行政機関等における法曹有資格者の採用状況についての調査結果報告(平成27年10月実施分)(法務省提出資料)

1. 中 小 企 業 等 経 営 強 化 法 の 目 的 (1) 生 産 性 向 上 の 必 要 性 (3) 業 種 別 の 経 営 課 題 への 対 応 少 子 高 齢 化 人 手 不 足 等 の 状 況 において 効 果 的 に 付 加 価 値 を 生 み 出 せるよう 製 造 業 はもとより

平成16年年金制度改正 ~年金の昔・今・未来を考える~

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平成24年度税制改正要望 公募結果 153. 不動産取得税

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セルフメディケーション推進のための一般用医薬品等に関する所得控除制度の創設(個別要望事項:HP掲載用)

(5) 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しの 実 施 状 況 について 概 要 の 給 与 制 度 の 総 合 的 見 直 しにおいては 俸 給 表 の 水 準 の 平 均 2の 引 き 下 げ 及 び 地 域 手 当 の 支 給 割 合 の 見 直 し 等 に 取 り 組 むとされている

経 常 収 支 差 引 額 等 の 状 況 平 成 26 年 度 予 算 早 期 集 計 平 成 25 年 度 予 算 対 前 年 度 比 較 経 常 収 支 差 引 額 3,689 億 円 4,597 億 円 908 億 円 減 少 赤 字 組 合 数 1,114 組 合 1,180 組 合 66

市 町 村 税 の 概 況 市 町 村 税 の 概 況 は 平 成 25 年 度 地 方 財 政 状 況 調 査 平 成 26 年 度 市 町 村 税 の 課 税 状 況 等 の 調 及 び 平 成 26 年 度 固 定 資 産 の 価 格 等 の 概 要 調 書 等 報 告 書 等 の 資 料 に

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った 場 合 など 監 事 の 任 務 懈 怠 の 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 減 算 する (8) 役 員 の 法 人 に 対 する 特 段 の 貢 献 が 認 められる 場 合 は その 程 度 に 応 じて 業 績 勘 案 率 を 加 算 することができる

平成24年度 業務概況書

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第4回税制調査会 総4-1

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共 通 認 識 1 官 民 較 差 調 整 後 は 退 職 給 付 全 体 でみて 民 間 企 業 の 事 業 主 負 担 と 均 衡 する 水 準 で あれば 最 終 的 な 税 負 担 は 変 わらず 公 務 員 を 優 遇 するものとはならないものであ ること 2 民 間 の 実 態 を 考

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( 別 途 調 査 様 式 1) 減 損 損 失 を 認 識 するに 至 った 経 緯 等 1 列 2 列 3 列 4 列 5 列 6 列 7 列 8 列 9 列 10 列 11 列 12 列 13 列 14 列 15 列 16 列 17 列 18 列 19 列 20 列 21 列 22 列 固 定

4 松 山 市 暴 力 団 排 除 条 の 一 部 風 俗 営 業 等 の 規 制 及 び 業 務 の 適 正 化 等 に 関 する 法 律 等 の 改 正 に 伴 い, 公 共 工 事 から 排 除 する 対 象 者 の 拡 大 等 を 図 るものです 第 30 号 H H28.1

質 問 票 ( 様 式 3) 質 問 番 号 62-1 質 問 内 容 鑑 定 評 価 依 頼 先 は 千 葉 県 などは 入 札 制 度 にしているが 神 奈 川 県 は 入 札 なのか?または 随 契 なのか?その 理 由 は? 地 価 調 査 業 務 は 単 にそれぞれの 地 点 の 鑑 定

(5) 事 業 者 等 自 転 車 及 び 自 動 車 の 製 造 輸 入 販 売 又 は 修 理 を 業 として 行 っている 者 及 びそ れらの 者 の 団 体 並 びにその 他 の 事 業 者 をいう (6) 所 有 者 等 自 動 車 の 所 有 権 占 有 権 若 しくは 使 用 権 を

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市 の 人 口 密 度 は 5,000 人 を 超 え 図 4 人 口 密 度 ( 単 位 : 人 /k m2) に 次 いで 高 くなっている 0 5,000 10,000 15,000 首 都 圏 に 立 地 する 政 令 指 定 都 市 では 都 内 に 通 勤 通 学 する 人 口 が 多

1 はじめに 財 政 の 役 割 資 源 配 分 ( 公 共 財 供 給 ) 所 得 再 分 配 経 済 安 定 化 ( 景 気 調 整 ) 地 方 自 治 体 の 役 割 は 資 源 配 分 ( 公 共 財 の 安 定 供 給 )とされる ( 所 得 再 分 配 や 経 済 安 定 化 は 国 の

3 圏 域 では 県 北 沿 岸 で2の 傾 向 を 強 く 見 てとることができます 4 近 年 は 分 配 及 び 人 口 が 減 少 している 市 町 村 が 多 くなっているため 所 得 の 増 加 要 因 を 考 える 場 合 は 人 口 減 少 による 影 響 についても 考 慮 する

基 準 地 価 格 3 年 に1 度 審 議 直 近 ではH23 年 12 月 に 審 議 土 地 評 価 替 えの 流 れと 固 定 資 産 評 価 審 議 会 基 準 地 とは 土 地 評 価 の 水 準 と 市 町 村 間 の 均 衡 を 確 保 するための 指 標 となるものであり 各 市

就 学 前 教 育 保 育 の 実 施 状 況 ( 平 成 23 年 度 ) 3 歳 以 上 児 の 多 く(4 歳 以 上 児 はほとんど)が 保 育 所 又 は 幼 稚 園 に 入 所 3 歳 未 満 児 (0~2 歳 児 )で 保 育 所 に 入 所 している 割 合 は 約 2 割 就 学

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2 役 員 の 報 酬 等 の 支 給 状 況 平 成 26 年 度 年 間 報 酬 等 の 総 額 就 任 退 任 の 状 況 役 名 報 酬 ( 給 与 ) 賞 与 その 他 ( 内 容 ) 就 任 退 任 法 人 の 長 副 理 事 長 A 理 事 16,638 10,332 4,446 1,

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損 益 計 算 書 自. 平 成 26 年 4 月 1 日 至. 平 成 27 年 3 月 31 日 科 目 内 訳 金 額 千 円 千 円 営 業 収 益 6,167,402 委 託 者 報 酬 4,328,295 運 用 受 託 報 酬 1,839,106 営 業 費 用 3,911,389 一

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4. 農 業 所 得 減 少 の 要 因 農 産 物 生 産 量 の 減 少 米 の 消 費 量 減 少 輸 入 品 との 競 合 農 家 戸 数 の 減 少 高 齢 化 販 売 価 格 の 低 下 価 格 支 持 政 策 の 縮 小 廃 止 ウルグアイラウンド 輸 入 価 格 の 低 下 円 高

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経 常 収 支 差 引 額 の 状 況 平 成 22 年 度 平 成 21 年 度 対 前 年 度 比 較 経 常 収 支 差 引 額 4,154 億 円 5,234 億 円 1,080 億 円 改 善 赤 字 組 合 の 赤 字 総 額 4,836 億 円 5,636 億 円 800 億 円 減

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Transcription:

書 評 所 康 弘 著 北 米 地 域 統 合 と 途 上 国 経 済 NAFTA 多 国 籍 企 業 地 域 経 済 西 田 書 店 2009 年 東 京 外 国 語 大 学 田 島 陽 一 1. 本 書 の 分 析 視 点 本 書 は メキシコを 輸 入 代 替 工 業 化 戦 略 から 新 自 由 主 義 的 開 発 戦 略 に 転 換 を 遂 げた 途 上 国 開 発 モデルの 先 駆 的 な 事 例 として 注 目 し 分 析 の 対 象 に 据 えている 同 書 では 開 発 戦 略 の 転 換 がメキシコ 経 済 に 与 えた 影 響 を 分 析 するのに 先 立 ち 日 本 においてこれまで 十 分 紹 介 されてこなかったメキシコ 国 内 の 研 究 者 による 主 な 先 行 研 究 を 渉 猟 し 分 析 視 点 を 設 定 している 現 地 での 先 行 研 究 として その 理 論 的 基 礎 を 新 古 典 派 開 発 経 済 学 に 置 き 外 資 主 導 の 開 発 モデルを 積 極 的 に 評 価 する 研 究 群 がある これらは 外 国 直 接 投 資 (FDI)と 輸 出 額 の 増 加 そして 一 部 の 産 業 における 生 産 性 の 上 昇 に 注 目 している これに 対 して 新 たなメキシコの 開 発 モデルを 批 判 的 に 評 価 するいくつかの 研 究 群 の 視 点 の 中 から 著 者 は 製 造 業 輸 出 部 門 における 国 内 地 場 産 業 からの 国 内 調 達 率 の 視 点 を 重 要 と 捉 え 本 書 の 問 題 意 識 の 1 つとしている なぜならマキラドー ラや NAFTA 等 の 枠 組 みを 通 じて 米 国 から 高 付 加 価 値 の 中 間 財 輸 入 が 増 加 す る 一 方 国 内 からの 中 間 財 や 部 品 調 達 率 が 改 善 されないという 同 国 経 済 の 輸 入 志 向 性 すなわち 国 内 産 業 連 関 の 欠 如 という 経 済 発 展 の 隘 路 をそこに 看 取 する からである 本 書 が 分 析 視 点 としてもう 1 つ 重 視 しているのは インダストリアル ディ ストリクト 論 ( 産 業 集 積 クラスター)である ただし 地 場 中 小 企 業 の 専 門 化 企 業 間 協 力 によって 柔 軟 な 専 門 化 が 発 揮 されるという 同 議 論 の 理 念 型 でメキ シコの 産 業 集 積 やクラスターを 捉 えることはできず その 特 徴 はメキシコに 進 出 した 多 国 籍 企 業 の 産 業 立 地 戦 略 と 強 固 に 連 結 している 点 にあると 指 摘 している さらに 本 書 の 研 究 関 心 は 産 業 集 積 がもたらす 同 国 国 民 経 済 の 分 極 化 の 69

北 米 地 域 統 合 と 途 上 国 経 済 解 明 に 向 かっている 筆 者 は これを 取 り 上 げる 理 由 として 産 業 集 積 自 体 そ してそれとの 多 国 籍 企 業 との 関 わりについては これまでも 研 究 が 蓄 積 されてき たが この 議 論 を 一 国 民 経 済 内 の 地 域 間 不 均 衡 および 地 域 経 済 統 合 (NAFTA 日 墨 EPA)という 今 日 的 な 国 際 経 済 環 境 と 関 わらせて 論 じたものは 少 なく そこに 研 究 上 の 空 白 があることをあげている 2. 各 章 の 要 約 第 1 章 経 済 開 発 戦 略 と 累 積 債 務 危 機 累 積 債 務 危 機 の 概 観 とともに 1980 年 代 以 降 の 新 自 由 主 義 の 台 頭 に 累 積 債 務 危 機 が 果 たした 歴 史 的 役 割 に 関 する 考 察 に 重 点 を 置 いている 危 機 から 構 造 調 整 政 策 の 導 入 によってメキシコの 経 済 運 営 が IMF 世 銀 および 多 国 籍 銀 行 企 業 に 共 同 管 理 されるに 至 った 一 連 の 過 程 に 焦 点 を 当 てながら 新 自 由 主 義 的 開 発 戦 略 の 起 源 を 明 らかにしようとしている 第 2 章 NAFTA と 主 要 輸 出 産 業 の 展 開 自 動 車 産 業 メキシコの 主 要 輸 出 製 造 業 部 門 である 自 動 車 産 業 を 取 り 扱 っている 自 動 車 産 業 の 大 きな 連 関 効 果 そして 対 外 開 放 政 策 と NAFTA 発 効 に 伴 い 同 産 業 向 けの FDI が 急 増 したことから 対 外 開 放 化 がメキシコ 経 済 に 与 えた 影 響 を 考 察 する 上 で 同 産 業 の 動 向 や 変 容 パターンを 検 討 することが 重 要 であると 指 摘 している メキシコの 自 動 車 産 業 は 国 産 化 率 の 大 幅 な 低 下 を 伴 いながら 輸 入 部 品 の 使 用 を 容 易 にする 自 由 化 の 結 果 一 定 程 度 国 際 競 争 力 のある 輸 出 車 を 生 産 できるよ うになった 他 方 で 輸 出 車 に 組 み 込 まれる 部 品 には 輸 入 部 品 が 一 層 用 いられるようになり サポーティング インダストリーの 発 展 にはほとんど 寄 与 していない 同 時 に 国 内 向 け 自 動 車 の 生 産 も 国 内 販 売 市 場 に 占 める 輸 入 完 成 車 のシェア 拡 大 により 市 場 規 模 が 延 びていない 第 3 章 自 由 貿 易 協 定 (FTA) 戦 略 の 進 展 2005 年 に 発 効 した 日 墨 経 済 連 携 協 定 (EPA)を 取 り 上 げている 前 述 の 自 動 車 産 業 と 同 様 に メキシコの 主 要 輸 出 産 業 である 電 気 電 子 機 器 部 門 では メキシコが 積 極 的 に 誘 致 してきた 日 本 多 国 籍 企 業 と 国 内 地 場 産 業 との 後 方 連 関 が 相 変 わらず 断 絶 状 態 に 置 かれている 日 墨 EPA によって 今 後 70

同 部 門 においても 輸 入 関 税 が 撤 廃 されれば この 後 方 連 関 の 非 接 合 状 況 はま すます 悪 化 すると 筆 者 は 推 測 している 日 墨 EPA は 日 本 多 国 籍 企 業 が 米 国 EU の 多 国 籍 企 業 との 国 際 競 争 に 打 ち 勝 ち さらなる 利 潤 獲 得 を 目 指 すために 制 度 設 計 されており 資 本 蓄 積 の 論 理 を 追 求 するものである それは 日 本 が 工 業 製 品 に メキシコが 一 次 産 品 に 特 化 し た 垂 直 的 な 国 際 分 業 構 造 を 固 定 化 する かつ 日 本 からの 投 資 も 特 定 地 域 に 偏 るこ とから 国 内 の 地 域 間 格 差 をより 強 固 なものとする さらに 国 内 地 場 産 業 にとっ ては 致 命 的 な 状 況 に 追 い 込 まれる 可 能 性 がある 第 4 章 NAFTA と 産 業 集 積 (クラスター)の 進 捗 過 程 NAFTA 発 効 による 北 米 域 内 のコスト 構 造 の 変 化 ( 貿 易 投 資 の 自 由 化 )が 多 国 籍 企 業 の 産 業 立 地 戦 略 に 与 えた 影 響 と それによるメキシコの 地 域 間 不 均 衡 の 拡 大 過 程 に 焦 点 を 当 てている NAFTA は 北 米 域 内 の 産 業 再 編 を 促 進 し メキシコ 国 内 においては 北 部 国 境 地 域 と 中 心 部 首 都 圏 に 産 業 の 二 極 集 中 化 を 生 起 させた 地 域 経 済 統 合 に 起 因 す る 国 内 経 済 の 利 益 は 必 ずしも 各 地 域 へ 均 等 に 分 配 されるわけではなく 多 国 籍 企 業 の 付 加 価 値 活 動 のネットワークに 参 加 できる 地 域 と 脱 落 する 地 域 が 選 別 化 され ており 産 業 発 展 態 様 が 地 域 間 で 不 均 質 (=モザイク 化 )となっている しかも 北 部 国 境 地 域 におけるマキラドーラの 集 積 は 中 間 投 入 財 調 達 からデ ザイン 販 売 マーケティングといった 前 方 後 方 連 関 を 強 固 に 米 国 と 連 結 してい る 多 国 籍 企 業 に 完 全 に 管 理 支 配 されており メキシコの 地 場 産 業 の 下 請 参 加 は 極 めて 稀 少 となっている OEM 生 産 を 行 うグアダラハラ 電 子 産 業 集 積 も それは 多 国 籍 企 業 に 主 導 されたものであり 地 場 産 業 の 発 展 あるいは 下 請 への 参 加 は 制 限 されている このように 前 方 後 方 連 関 が 極 めて 希 薄 な マキラドーラ 型 開 発 モデルの 問 題 点 は 依 然 として 未 解 決 のままである 第 5 章 NAFTA と 地 域 経 済 / 地 域 格 差 米 国 と 国 境 を 接 した 北 部 国 境 6 州 と 同 国 最 貧 州 の 1 つである 南 部 オアハカ 州 を 取 り 上 げ 地 域 経 済 間 の 比 較 分 析 を 行 っている 同 章 の 主 要 な 結 論 は 以 下 のよ うにまとめられる NAFTA はメキシコの 地 域 経 済 の 一 人 当 たり GDP 指 数 の 格 差 を 拡 大 しながら 展 開 している 南 部 州 では 依 然 として 恒 常 的 な 貧 困 の 蓄 積 が 進 行 している 一 方 で 北 部 州 では マキラドーラを 梃 子 に FDI の 受 入 れが 進 み 他 律 的 な 富 71

北 米 地 域 統 合 と 途 上 国 経 済 の 蓄 積 が 進 行 している そして 特 定 地 域 内 での 蓄 積 能 力 に 限 界 が 生 じると 企 業 は 別 の 空 間 に 地 域 間 の 不 均 衡 = 地 理 的 差 異 を 積 極 的 に 作 り 出 し 新 たな 資 本 蓄 積 の 源 泉 を 創 出 するとい うハーベイ(Harvey)によって 指 摘 された 視 点 が 本 書 が 対 象 とした 問 題 を 捉 える 上 で 重 要 であるとしている 3. 本 書 の 意 義 と 論 点 提 起 本 書 の 意 義 を まず その 視 点 と 分 析 対 象 から 述 べてみたい 筆 者 は 対 外 開 放 政 策 の 下 で 生 じた 1 製 造 業 輸 出 部 門 における 国 内 地 場 産 業 からの 国 内 調 達 率 の 低 下 2メキシコに 進 出 した 多 国 籍 企 業 とそれによって 形 成 された 産 業 集 積 3 同 国 国 民 経 済 の 分 極 化 すなわち 地 域 間 不 均 衡 の 拡 大 以 上 3 点 を 関 連 付 けて 分 析 している 本 書 に 関 連 する 先 行 研 究 としては 1について 日 本 では 田 島 [2006]が それに 注 目 してメキシコの 輸 出 志 向 工 業 化 と 韓 国 台 湾 のそれとの 異 質 性 を 示 すことを 試 みている 2については 谷 浦 [2000]が クルグマンの 空 間 経 済 学 のモデル( 需 要 規 模 収 穫 逓 増 輸 送 費 )を 用 いて 分 析 を 行 っている 3につ いては 対 外 開 放 化 以 降 のメキシコ 経 済 を 主 に 国 民 経 済 全 体 の 視 野 から 分 析 した Dussel Peters [2000]が 分 極 化 するメキシコ という 視 点 を 提 起 している 筆 者 は 各 論 者 から 個 別 に 提 起 されてきた 視 点 を 一 貫 性 のある 自 らの 論 理 展 開 の 中 に 位 置 づけ より 広 く 深 い 視 野 から 開 発 戦 略 の 転 換 がメキシコ 経 済 にもた らした 影 響 を 明 らかにしようとしている とくにメキシコ 経 済 の 対 外 開 放 政 策 に よって メキシコ 国 内 の 南 ( 部 州 における 貧 困 ) 北 ( 部 州 における 成 長 ) 問 題 が 進 行 したことを 詳 細 なデータを 基 に 解 明 する 試 みが 評 者 には 斬 新 に 感 じら れた さらに 筆 者 は Harvey [2005]の 視 点 を 援 用 して メキシコにおいて 地 理 的 不 均 等 発 展 が 起 こった 要 因 を 多 国 籍 企 業 が NAFTA 等 の 対 外 済 開 放 政 策 に 受 動 的 に 反 応 したことだけに 求 めるのではなく 多 国 籍 企 業 が 自 らの 活 動 にとって 有 利 な 空 間 経 済 を 能 動 的 に 再 編 成 する 政 治 経 済 的 主 体 として 行 動 した 側 面 か らも 捉 えている 我 が 国 においても FTA プラス 以 上 の 地 域 経 済 統 合 協 定 の 推 進 が 盛 んに 唱 導 されているが 本 書 が 提 示 した 視 点 からその 経 済 的 利 益 と 不 利 益 が 帰 結 する 先 を 冷 静 に 検 討 してみることが 必 要 であると 感 じた その 他 の 本 書 の 意 義 として これまで 我 が 国 では 十 分 紹 介 されてきたとは 言 え 72

ない メキシコ 国 内 の 研 究 者 を 含 む 大 量 の 先 行 研 究 を 渉 猟 していることがあげら れる また 著 者 の 主 張 を 裏 付 ける 豊 富 なデータや 図 表 も 類 書 の 中 では 群 を 抜 い たものとなっている 以 上 のことから 本 書 は メキシコ 経 済 研 究 を 志 す 者 にとっ て 格 好 の 手 引 きともなろう 最 後 に 本 書 で 示 された 議 論 を 発 展 させるために 重 要 と 考 えられる 論 点 を 提 起 したい 第 1 に 多 国 籍 企 業 主 導 による 産 業 集 積 で 先 進 国 との 分 業 において は 相 対 的 に 労 働 集 約 的 工 程 を 担 うことになるとは 言 え 先 進 国 からの 産 業 移 転 に よって メキシコの 産 業 構 造 が 徐 々に 高 度 化 しているとは 言 えないだろうか 自 動 車 電 子 産 業 ばかりではなく さらには 本 書 で 触 れられていない 航 空 機 産 業 IT サービス 産 業 のメキシコにおける 発 展 も( 国 際 貿 易 投 資 研 究 所 [2009]) こ れまでと 同 様 の 視 点 で 捉 えられるか 否 かを 検 討 しなければならないと 思 われる 第 2 に 中 所 得 国 の 罠 (Middle-Income Trap) (Ohno [2009])をいかに メキシコが 突 破 するかという 点 である メキシコにとって 多 国 籍 企 業 が 中 核 と なって 創 り 上 げた 産 業 集 積 による 発 展 というレベルから 韓 国 台 湾 のように より 自 力 で 高 品 質 の 製 品 部 品 を 世 界 に 供 給 できるレベルに 達 することが 次 の 目 標 となる これには 国 内 市 場 ( 内 需 )の 拡 大 による 規 模 の 経 済 を 利 用 し 裾 野 の 広 いサポーティング インダストリーを 育 成 することが 必 要 であろう( 芹 田 [2000]) 第 3 に 内 需 の 拡 大 そして 高 い 経 済 成 長 を 達 成 するには メキシコが 以 前 から 抱 えている 構 造 的 問 題 である 財 政 ( 税 制 ) 労 働 市 場 およびエネルギー 改 革 が 必 要 であり( 中 畑 [2010]) そのためにはそれらの 改 革 を 阻 む 国 内 外 の 政 治 経 済 的 要 因 を 分 析 しなければならない したがって 今 後 メキシコの 経 済 開 発 について 国 際 政 治 経 済 学 的 な 視 点 からの 分 析 をさらに 深 める 必 要 があると 考 えられる 参 考 文 献 国 際 貿 易 投 資 研 究 所 編 平 成 20 年 度 米 墨 間 国 際 分 業 関 係 の 研 究 報 告 書 国 際 貿 易 投 資 研 究 所 2009 年 芹 田 浩 司 経 済 グローバル 化 とメキシコ 自 動 車 産 業 国 内 部 品 産 業 に 対 する 多 国 籍 企 業 戦 略 のイ ンパクト アジア 経 済 第 41 巻 第 3 号 2000 年 3 月 田 島 陽 一 グローバリズムとリージョナリズムの 相 克 メキシコの 開 発 戦 略 晃 洋 書 房 2006 年 谷 浦 妙 子 メキシコの 産 業 発 展 立 地 政 策 組 織 アジア 経 済 研 究 所 2000 年 73

北 米 地 域 統 合 と 途 上 国 経 済 中 畑 貴 雄 メキシコ 経 済 の 基 礎 知 識 ジェトロ 2010 年 Dussel Peters, Enrique, Polarizing Mexico: The Impact of Liberalization Strategy, Boulder, Lynne Rienner Publishers, 2000. Harvey, David, A Brief History of Neoliberalism, Oxford, New York, Oxford University Press, 2005 ( 渡 辺 治 監 訳 森 田 成 也 木 下 ちがや 大 屋 定 晴 中 村 好 孝 翻 訳 新 自 由 主 義 その 歴 史 的 展 開 と 現 在 作 品 社,2007 年 ) Ohno, Kenichi, Avoiding the Middle-Income Trap: Renovating Industrial Policy Formulation in Vietnam, ASEAN Economic Bulletin, Vol. 26, Num. 1, April 2009. 74