教 訓 ノート6-2 6. 災 害 防 災 の 経 済 財 政 世 界 銀 行
著 者 Olivier MahulおよびEmily White: 世 界 銀 行
教 訓 ノート6-2 6. 災 害 防 災 の 経 済 財 政 2011 年 3 月 に 日 本 の 東 北 地 方 を 襲 った 地 震 は 世 界 の 記 録 史 上 4 番 目 の 大 きさで 多 く の 人 的 損 害 をもたらし 経 済 的 にも 大 打 撃 を 引 き 起 こした 被 害 は16 兆 9,000 億 円 と 推 定 されており 史 上 もっとも 被 害 額 の 大 きい 災 害 となった それでも 民 間 の 損 害 保 険 会 社 は 重 大 な 損 失 を 被 ることなく 立 ち 直 ると 予 想 されている これは ひとえに( 保 険 契 約 の 構 成 と 再 保 険 によって) 保 険 責 任 が 慎 重 に 規 定 されており ( 民 間 の 損 害 保 険 会 社 と 共 済 組 合 の) 二 種 類 からなる 地 震 損 害 補 償 制 度 が 充 分 に 発 達 しているためである しかし 日 本 の 住 宅 の 過 半 数 は 依 然 として 無 保 険 であり 地 震 が 起 きれば 政 府 に 大 きな 財 政 負 担 をか ける 可 能 性 がある 知 見 住 宅 : 保 険 責 任 を 慎 重 に 規 定 した 二 重 構 成 日 本 では は 主 として 民 間 の 損 害 保 険 会 社 と 共 済 組 合 によって 提 供 されている 両 者 の 地 震 リスクにおける 財 務 管 理 は 根 本 的 に 異 なっているものの 東 日 本 大 震 災 後 に どちらの 制 度 も 効 率 的 に 保 険 金 を 支 払 い また 財 務 上 の 健 全 性 を 示 した 表 1で 民 間 の と 国 内 最 大 の 共 済 組 合 である 全 国 共 済 農 業 協 同 組 合 連 合 会 (JA 共 済 1 )の 共 済 制 度 と 比 較 している 両 制 度 は 対 象 としている 災 害 と 資 産 およびその 保 障 範 囲 は 類 似 しているが 損 害 保 険 会 社 では 契 約 は 任 意 で リスクを 基 準 として 保 険 料 が 設 定 されてい るのに 対 し 共 済 では 均 一 の 掛 金 で 火 災 共 済 に 付 帯 している どちらの 制 度 でも 保 険 責 任 については 慎 重 に 規 定 されている 保 障 対 象 は( 上 限 を 設 定 した 上 で) 火 災 における 保 険 額 の50%までに 制 限 されている 同 様 に 両 制 度 は 洗 練 さ 1 全 共 連 とも 称 する 3
表 1: 日 本 における の 二 重 構 成 損 害 保 険 会 社 共 済 組 合 (JA 共 済 ) 適 用 災 害 地 震 噴 火 津 波 地 震 噴 火 津 波 保 障 対 象 建 物 家 財 建 物 家 財 保 障 範 囲 限 度 額 あり 火 災 保 険 の 保 険 額 の30-50% 限 度 額 あり 火 災 共 済 損 害 額 のの50% 加 入 方 法 火 災 保 険 に 任 意 で 付 帯 す る 火 災 共 済 にあらかじめ 付 帯 保 険 料 ( 地 域 区 分 及 び 建 造 物 形 式 に 応 じた)リスク 相 応 地 域 は 一 律 ( 木 造 / 非 木 造 別 ) 再 保 険 日 本 地 震 再 保 険 株 式 会 社 (JER)および 日 本 政 府 国 際 的 な 再 保 険 および 債 券 市 場 損 害 の 認 定 基 準 3 段 階 方 式 比 例 判 定 制 世 帯 加 入 率 ( 世 帯 数 に 対 す る 割 合 ) 25% 11% れた 再 保 険 の 戦 略 をとっている 損 害 保 険 会 社 が 引 き 受 けた 契 約 は 法 律 に 基 づ き 設 立 された 日 本 地 震 再 保 険 株 式 会 社 ( 地 再 社 )が 再 保 険 により 引 き 受 けている 共 済 組 合 では 国 際 的 な 再 保 険 と 債 券 市 場 を 利 用 しており 政 府 は 介 在 していない どちらの 制 度 でも 損 害 保 険 会 社 と 共 済 組 合 は 再 保 険 により 保 険 責 任 が 限 定 されている 損 害 保 険 会 社 による の 世 帯 加 入 率 は 日 本 全 体 でおよそ25% 程 度 と 推 定 され ており 保 有 契 約 件 数 は1,300 万 件 弱 で 火 災 保 険 への 付 帯 率 は48%である さらに 共 済 組 合 の 地 震 共 済 に 加 入 している 世 帯 がおよそ14% 存 在 するため 加 入 率 は 合 計 で 39%になると 推 定 される 2 JA 共 済 は 共 済 組 合 による 市 場 の 中 で 大 きなシェアを 有 してお り ( 日 本 の 全 世 帯 数 の11%に 相 当 する)540 万 世 帯 が 地 震 災 害 補 償 が 付 帯 した 建 物 更 正 共 済 に 加 入 している 同 じく 共 済 組 合 である 全 労 済 の 自 然 災 害 補 償 付 帯 の 火 災 共 済 の 保 有 契 約 件 数 は170 万 件 であり これは 日 本 の 全 世 帯 数 の3%を 占 めている 2 総 世 帯 数 は 約 5,100 万 世 帯 と 推 定 されている( 内 閣 統 計 局 ) 有 効 契 約 数 の 出 典 は 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 (2010) JA 共 済 Business Operations(2011)および 全 労 済 年 次 報 告 書 (2010) 共 済 組 合 のデータはJA 共 催 の 市 場 シェア85%から 推 定 4 教 訓 ノート6-2
民 間 の 損 害 保 険 会 社 と 日 本 地 震 再 保 険 株 式 会 社 民 間 の 損 害 保 険 会 社 による は 火 災 保 険 に 付 帯 して 提 供 される の 保 障 は 住 宅 の 場 合 で5,000 万 円 家 財 で1,000 万 円 を 限 度 として 火 災 保 険 の 保 険 金 額 の 30%から50% 以 下 となっている 3 段 階 制 の 保 険 金 支 払 区 分 により 迅 速 な 被 害 評 価 と 保 険 金 支 払 いが 可 能 である 支 払 いは 被 害 の 状 況 によって 全 損 半 損 一 部 損 の3 段 階 に 区 分 され それぞれ 契 約 金 額 に 対 して100% 50%あるいは5%が 支 払 われる 保 険 料 は 危 険 度 を 基 準 としており 住 宅 の 立 地 している 都 道 府 県 ( 八 つのリスク 区 分 に 分 割 )と 建 物 の 構 造 ( 木 造 非 木 造 )によって 決 まる 1,000 万 円 の 保 険 額 に 対 して 保 険 料 は 最 低 で 長 崎 県 の 非 木 造 建 築 で 年 額 5,000 円 から 最 高 で 東 京 の 木 造 建 築 で 年 額 31,300 円 までとなっている また 耐 震 建 築 であれば 1981 年 以 降 に 建 設 された 建 築 物 に 適 用 される 割 引 率 10%を 含 めて 最 高 30%までの 割 引 が 適 用 される 損 害 保 険 料 率 算 出 機 構 で 算 出 している 保 険 料 は 純 保 険 料 と 付 加 保 険 料 率 で 構 成 される は 営 利 を 目 的 としていないため 利 益 は 織 り 込 まれていない こうした 料 率 設 定 に 関 わらず 多 発 する 地 震 のため 保 険 料 はかなり 高 額 になる 地 再 社 は (1964 年 の 新 潟 地 震 を 受 けて)1966 年 に 制 定 された に 関 する 法 律 に 基 づいて 設 立 された 民 間 の 損 害 保 険 会 社 が 引 き 受 けた は いったんすべて 図 1: 日 本 における 地 震 再 保 険 (2011 年 5 月 時 点 ) 兆 円 ( 再 起 率 :220 年 ) 4 兆 3,9 億 円 1,1 億 円, 10 億 円 1,1 億 円 1,1 0 億 円 3,0 億 円 1,1 0 億 円 23 億 円 政 府 負 担 地 再 社 負 担 11 億 円 民 間 負 担 5
地 再 社 が 再 保 険 を 引 き 受 け リスクは 均 等 化 される これにより 実 質 的 に 地 再 社 は 民 間 の 保 険 市 場 で 唯 一 の 地 震 再 保 険 事 業 者 として 機 能 している さらに 地 再 社 が 引 き 受 けた 保 険 責 任 のうち 一 定 部 分 を ( 各 社 の 市 場 シェアに 応 じて) 損 害 保 険 会 社 と 政 府 に 再 々 保 険 している この 再 保 険 事 業 は 民 間 保 険 各 社 と 地 再 社 自 体 の 保 険 責 任 が 料 を 積 み 立 てた 準 備 金 を 上 回 らない 範 囲 に 制 限 されている 図 1では 東 日 本 大 震 災 の 発 生 を 受 けて2011 年 5 月 に 改 訂 された 再 保 険 制 度 を 図 解 している 現 在 の 総 支 払 い 限 度 額 は 1923 年 の 関 東 大 震 災 が220 年 に 一 度 発 生 すると 想 定 して 5 兆 5,000 億 円 となってい る 3 支 払 うべき 保 険 金 の 総 額 がこの 限 度 額 を 超 過 した 場 合 各 契 約 ごとの 保 険 金 を 削 減 できることになっている この 制 度 では 日 本 政 府 が 中 核 的 な 役 割 を 担 っている 保 険 責 任 の 分 担 は 政 府 が87% 地 再 社 が10% 民 間 が3%に 設 定 されている なお (2011 年 5 月 の) 改 訂 以 前 は 政 府 の 分 担 は78%で 残 りを 地 再 社 と 民 間 が 均 等 に 負 担 することとなっていた 東 日 本 大 震 災 によって 地 再 社 と 民 間 の 準 備 金 が 減 少 したため 政 府 の 分 担 が 増 やされた 日 本 の 会 計 基 準 は 損 害 保 険 会 社 が( 料 を 積 み 立 てた 上 で 手 数 料 や 販 売 管 理 費 を 差 し 引 いて) 長 期 的 に 形 成 される 準 備 金 をもって 保 険 金 を 支 払 うことを 認 めている この 準 備 金 の 額 は 将 来 生 じうる 保 険 契 約 上 の 債 務 によって 決 定 される 同 様 に 日 本 政 府 も 地 震 再 保 険 特 別 会 計 において 政 府 責 任 準 備 金 を 積 み 立 てている 表 2に2010 年 度 末 すなわち 東 日 本 大 震 災 の 発 生 以 前 の 準 備 金 の 額 を 示 している 震 災 は 準 備 金 の 約 半 分 を 消 耗 させた なお 東 日 本 大 震 災 以 前 でさえ 制 度 を 支 えている 準 備 金 の 総 額 は すべての 関 係 者 の 保 険 責 任 の 一 部 にしか 相 当 していない 点 に 留 意 する 必 要 がある この 潜 在 的 な 格 差 は 主 として 政 府 の 準 備 金 に 対 する 保 険 責 任 の 比 率 が 低 い 水 準 に 抑 えられているためで ある 準 備 金 を 上 回 る 被 害 をもたらす 大 規 模 な 地 震 災 害 の 発 生 時 には 追 加 的 な 財 源 を 即 表 2: 事 業 における 準 備 金 2010 年 度 末 準 備 金 (10 億 円 ) 日 本 政 府 1,343 日 本 地 震 再 保 険 424 民 間 保 険 会 社 489 合 計 2,256 出 所 : 地 再 社 2011a. 3 総 支 払 い 限 度 額 は2012 年 には6.2 兆 円 に 増 額 される( 財 務 省 2012 年 ) 6 教 訓 ノート6-2
座 に 動 員 する 必 要 がある 共 済 組 合 協 同 組 合 の 共 済 事 業 を 担 当 している 共 済 組 合 も 地 震 損 害 補 償 制 度 を 提 供 している 最 大 の 規 模 を 有 するのはJA 共 済 で 共 済 組 合 の 火 災 共 済 全 体 の85%もの 市 場 シェアを 持 つ と 推 定 される 共 済 組 合 の 例 に 漏 れず JA 共 済 も 非 営 利 を 前 提 としており その 商 品 は 民 間 の 損 害 保 険 会 社 とは 異 なっている JA 共 済 は 建 物 更 正 共 済 を 提 供 しており 民 間 の より 包 括 的 な 保 障 を 設 定 している これは 自 然 災 害 などによる 建 物 被 害 の 修 復 資 金 を 確 保 する 貯 蓄 制 度 の 一 種 と 見 なすことができる 5 年 (ないしより 長 期 の) 契 約 で 自 動 的 に 火 災 洪 水 地 震 その 他 の 自 然 災 害 による 被 害 について 建 物 と 家 財 を 保 障 する 保 障 期 間 満 了 時 に 満 期 共 済 金 が 支 払 われる 2011 年 初 頭 の 時 点 で JA 共 済 の 建 物 更 正 共 済 の 保 有 契 約 件 数 は1,100 万 件 以 上 であった JA 共 催 の 建 物 更 正 共 済 には 地 震 に 対 する 保 障 も 自 動 的 に 付 帯 されている 共 済 金 の 支 払 いは2 億 5,000 万 円 を 上 限 として 火 災 共 済 額 の50%に 制 限 されている 平 均 的 な 火 災 共 済 額 は3 億 円 となっているため における 上 限 補 償 額 は 平 均 1 億 5,000 万 円 である 建 物 更 正 共 済 では 地 震 被 害 に 応 じて 共 済 金 が 支 払 われる 共 済 金 は 損 害 査 定 員 が 家 屋 被 害 を 調 査 し 被 害 割 合 を 共 済 契 約 の 上 限 額 に 乗 じて 算 出 される 掛 金 は 均 一 制 で 住 居 の 所 在 地 に 関 わらず 一 定 となっている ただ 木 造 と 非 木 造 家 屋 では 料 率 設 定 は 異 なる 共 済 組 合 は に 関 する 法 律 の 適 用 対 象 外 であり 地 再 社 には 参 加 していない 共 済 組 合 は 民 間 の 規 制 の 枠 組 に 属 さず 代 わりにそれぞれの 所 轄 省 庁 に 対 して 責 任 を 負 っ ている 例 えばJA 共 済 であれば 農 林 水 産 省 の 監 督 下 にある 民 間 とは 対 照 的 に 共 済 組 合 は 再 保 険 に 国 際 市 場 を 利 用 している JA 共 済 の 再 保 険 は 世 界 でも 最 大 規 模 とされてお り 再 保 険 能 力 は750 億 円 を 上 回 る また 大 規 模 かつ 充 分 に 分 散 された 資 産 基 盤 によ り 健 全 な 財 務 体 質 を 持 つ 伝 統 的 な 再 保 険 以 外 にJA 共 済 はリスク 分 散 を 目 的 として キャットボンドを 発 行 している Box 1 参 照 工 業 および 商 業 従 来 工 業 商 業 は 比 例 的 に 限 定 した 補 償 を 行 う 縮 小 支 払 い 方 式 にて 提 供 されてきた 保 障 は 所 在 地 によって 異 なり 東 京 の15%から 新 潟 の100%まで 日 本 を 12のリスクゾーンに 区 分 している 日 本 における 保 険 市 場 で 大 規 模 な 規 制 緩 和 を 実 現 し た1996 年 の 保 険 業 法 の 改 正 にて 実 損 てん 補 保 険 の 提 供 も 開 始 され 保 険 額 ( 保 険 金 の 支 払 上 限 )が 大 幅 に 増 加 している 地 震 による 収 益 損 失 や 事 業 の 中 断 に 対 する 保 障 はこれ まで 提 供 されておらず いまだに 加 入 率 は 低 い 7
Box 1: 災 害 リスク 金 融 の 革 新 : 地 震 から 日 本 の 農 民 を 保 護 する 起 債 市 場 2008 年 ドイツを 拠 点 とするミュンヘン 再 保 険 は 特 別 目 的 会 社 のMuteki Ltd.を 通 じ 2 回 目 となるJA 共 済 のキャットボンド3 億 ドルを 発 行 した キャットボンドは 事 前 に 規 定 された 自 然 災 害 が 発 生 した 際 に 共 済 金 支 払 い 財 源 の 一 部 として 充 填 するための 指 数 に 連 動 する 債 権 である 通 常 キャットボンドは 最 高 水 準 のリスクをカバーしており 主 として 年 間 発 生 確 率 が2% 未 満 の(すなわち 再 起 確 率 が50 年 以 上 の) 災 害 を 対 象 として 起 債 される 従 来 型 の 再 保 険 とは 異 なり キャットボンドは 全 面 的 に 担 保 保 証 されており 満 期 は 複 数 年 ( 通 常 は3~5 年 )で ある 3 年 満 期 のMutekiキャットボンドは ミュンヘン 再 保 険 との 再 保 険 契 約 により JA 共 済 全 共 連 に 対 して 間 接 的 に 日 本 における 地 震 発 生 について 保 険 金 支 払 いの リスクを 分 散 している 他 のキャットボンドと 同 様 に Mutekiキャットボンドは 実 際 の 損 失 額 ではなく 地 震 の 場 所 と 規 模 を 指 数 として 発 行 条 件 が 設 定 されている 東 日 本 大 震 災 ののち Mutekiキャットボンドは 地 震 災 害 の 発 生 により 再 保 険 金 を 回 収 する 初 めてのキャットボンドとなり 発 行 金 額 3 億 米 ドル 全 額 が 回 収 された 2012 年 2 月 には Guy Carpenter and Companyが SPV Kibou Ltd,を 通 じて JA 共 済 を 相 手 方 とする 3 億 ドルのキャットボンドの 起 債 を 発 表 している この 場 合 も やはり 強 震 観 測 網 (K-Net)が 設 置 している 各 地 の 地 震 計 の 記 録 する 地 震 デー タを 基 に パラメータ 式 の 発 効 条 件 を 設 定 している その 他 に 地 震 火 災 費 用 保 険 金 が 存 在 する これは 地 震 の 後 で 発 生 する 火 災 について 限 定 的 に 補 償 するもので 店 舗 用 の 包 括 契 約 など 一 部 の 保 険 に 自 動 的 に 付 加 されている 補 償 は 一 定 額 を 上 限 に 火 災 保 険 の 保 険 額 の5%に 限 定 されている 地 震 補 償 を 付 加 したそ の 他 の 保 険 としては 積 み 荷 保 険 自 動 車 保 険 および 技 術 保 険 がある 経 済 被 害 と 補 償 東 日 本 大 震 災 は 被 害 総 額 は16 兆 9,000 億 円 という 大 規 模 な 直 接 被 害 を 引 き 起 こした (KN6-1) 民 間 における( 家 屋 商 業 工 業 ) 建 造 物 の 被 害 が 全 体 の62% 公 共 インフ ラが13%を 占 める( 附 属 1 参 照 ) 保 険 により2 兆 7,500 億 円 総 経 済 被 害 の16%が 補 償 されたと 推 定 される このうち 住 宅 資 産 が78%を 占 める 56%は 民 間 と 地 再 社 により 44%は 共 済 組 合 に 補 償 された( 附 属 1 参 照 ) 形 式 の 違 いに 関 わらず 民 間 と 共 済 組 合 の 地 震 損 害 補 償 制 度 は 保 険 責 任 と 再 保 険 によ 8 教 訓 ノート6-2
る 効 率 的 な 損 害 管 理 により 保 険 金 支 払 いに 応 じるのに 充 分 な 資 金 を 有 していた 民 間 が 運 営 する 制 度 は 推 計 で 総 額 1 兆 2,000 億 円 の 損 失 を 被 った 内 訳 は 民 間 が 42% 地 再 社 が13% 政 府 が45%となっている 民 間 と 地 再 社 の 双 方 の 準 備 金 が 激 減 したため 政 府 の 支 払 い 限 度 額 が 引 き 上 げられた JA 共 済 が 被 った 損 失 は8,300 億 円 と 推 定 され そのうち90%が 住 宅 の 被 害 によるものだった 58%は 回 収 された 再 保 険 金 が あてられた 民 間 保 険 会 社 が 採 用 している3 段 階 方 式 の 損 害 認 定 基 準 により 迅 速 な 保 険 金 の 支 払 い が 可 能 となった 全 損 の 判 定 には 衛 星 画 像 も 利 用 され さらに 迅 速 な 支 払 いが 可 能 となっ た 震 災 発 生 後 日 本 損 害 保 険 協 会 は 衛 星 画 像 を 基 に 全 損 地 域 を 指 定 した(KN5-2) この 地 域 内 からの 保 険 金 支 払 い 請 求 については 損 害 調 査 は 不 要 とされ 迅 速 に 支 払 いを 完 了 した 741,000 件 の 支 払 い 請 求 1 兆 2,000 億 円 のうち 60%は 震 災 後 2カ 月 以 内 に 90%が5カ 月 以 内 に 支 払 いを 完 了 している 東 日 本 大 震 災 とその 他 近 年 の 地 震 災 害 の 比 較 分 析 東 日 本 大 震 災 で 発 生 した 経 済 と 財 政 への 影 響 を 近 年 発 生 した 他 の 地 震 災 害 -2010 年 のチリ 大 地 震 2011 年 に 発 生 したニュージーランド カンタベリー 地 震 を 比 較 すると 興 味 深 い 結 果 が 得 られる 3 件 の 地 震 はいずれも 激 甚 で 震 源 のあった 国 々に 重 大 な 経 済 被 害 をもたらしている 表 3に 比 較 分 析 の 概 要 を 示 した 絶 対 的 な 被 害 としては 東 日 本 大 震 災 が 最 大 だが 国 内 総 生 産 (GDP)に 対 する 比 率 では 日 本 の 経 済 規 模 が 大 きいため チリあるいはニュージーランドの 震 災 よりも 低 くなっている 政 府 支 出 に 対 する 割 合 と して 政 府 の 負 担 した 直 接 的 な 損 失 (あるいは 追 加 支 出 )は 東 日 本 大 震 災 で8% ニュージーランド カンタベリー 地 震 で11%である また 再 保 険 により 補 償 された 損 失 は チリが95% ニュージーランドが29%( 地 震 委 員 会 が 損 失 の 大 部 分 を 引 き 受 けて いる)で 日 本 は23%と 推 計 されている ここからは 国 内 の 民 間 の 再 保 険 に 依 存 する 地 再 社 と 再 保 険 の 大 部 分 を 国 外 で 調 達 しているJA 共 済 の 明 らかな 違 いはわからない 9
表 3: 東 日 本 大 震 災 カンタベリー 地 震 およびチリ マウレ 地 震 の 比 較 分 析 東 日 本 ニュージーラン ド カンタベリー チリ マウレ 年 2011 2011 2010 マグニチュード 9.0 6.3 8.8 推 定 される 直 接 的 経 済 損 失 (10 億 ドル) 推 定 される 直 接 的 経 済 損 失 ( 対 GDP 比 ) 政 府 が 負 担 したと 推 定 される 直 接 的 経 済 損 失 ( 対 政 府 支 出 比 ) 推 定 される 保 証 損 失 ( 対 直 接 的 経 済 損 失 比 ) 国 際 再 保 険 により 補 填 されたと 推 定 される 保 証 損 失 225 15 20 4% 9% 9% 8% 11% n/a 16% 80% 40% 23% 73% 95% 出 典 : Swiss Re 2011 年 ;Aon Benfield 2011 年 ; 日 本 財 務 省 2012 年 ;ニュー ジーランド 財 務 省 2011 年 ;RMS 2011 年 註 記 : 直 接 経 済 被 害 は 物 的 資 産 (インフラ 含 )への 被 害 である 教 訓 東 日 本 大 震 災 での 経 験 から 日 本 の 地 震 損 害 補 償 制 度 からいくつか 重 要 な 教 訓 を 導 き 出 せる: 万 能 の 解 決 策 は 存 在 しない 日 本 が 採 用 している 二 種 類 の 制 度 は 制 度 に おいて 万 能 の 解 決 策 など 存 在 しないことを 示 している 二 種 類 の 大 きく 異 なった 制 度 が 地 震 の 多 発 地 帯 である 一 国 内 で 共 存 し 10 世 帯 のうち4 世 帯 にまで 地 震 損 害 補 償 を 提 供 している 10 教 訓 ノート6-2 制 度 にとって 強 靭 さは 不 可 欠 である 健 全 な 契 約 運 用 と 慎 重 な 再 保 険 の 確 保 により どちらの 制 度 も 東 日 本 大 震 災 後 に 問 題 なく 保 険 責 任 を 果 たしている 現 行 制 度 の 強 靭 さは 持 続 可 能 性 を 損 なわずとも 改 善 することが 可 能 であった 一 例 と して JA 共 済 の 地 震 共 済 の 上 限 は 10%から 始 まって 段 階 的 に 現 在 の50%にま で 引 き 上 げられてきた
大 規 模 災 害 が 発 生 しても 迅 速 な 保 険 金 の 支 払 いは 可 能 である 民 間 の3 段 階 方 式 の 損 害 の 認 定 基 準 は 迅 速 な 被 害 の 認 定 と 保 険 金 の 支 払 いを 可 能 にした また 大 規 模 災 害 時 には 多 数 の 損 害 査 定 員 が 派 遣 されることも 考 えられている 3 段 階 基 準 の 単 純 さにより 迅 速 な 対 応 が 可 能 となる 日 本 では 加 入 率 は 高 いものの 依 然 大 幅 な 拡 大 の 余 地 がある 全 世 帯 の 約 40%は 共 済 による 保 障 を 得 ているが 60%は 無 保 険 となっている 国 際 的 な 経 験 を 踏 まえれば 自 発 的 な 加 入 による 限 り 一 定 水 準 を 超 えて 保 険 の 普 及 率 を 拡 大 するのは 不 可 能 ではないにせよ 極 めて 困 難 である したがって 強 制 的 な 地 震 保 険 の 導 入 も 検 討 する 必 要 がある 東 日 本 大 震 災 は 民 間 の 運 用 する 制 度 について いくつかの 課 題 も 浮 き 彫 りに している: 保 険 金 支 払 いは 総 額 で 制 限 されている 現 在 の 支 払 い 額 の 上 限 は5 兆 5,000 億 円 (2012 年 には6 兆 2,000 億 円 に 増 額 予 定 )で 1923 年 の 関 東 大 震 災 のような 大 規 模 な 震 災 にも 対 応 できる 額 となっている しかし 現 状 は 連 続 した 大 規 模 地 震 の 発 生 を 考 慮 しておらず もし 発 生 すれば 事 業 の 支 払 い 能 力 を 破 綻 させる 可 能 性 があ る 地 再 社 制 度 では 日 本 政 府 の 保 険 責 任 は 事 前 の 準 備 を 越 えている 政 府 における 支 払 い 限 度 額 は 民 間 の 損 害 保 険 会 社 と 地 再 社 の 双 方 の 準 備 金 の 残 高 と 事 業 によって 規 定 された 保 険 責 任 の 上 限 に 応 じて 調 整 されている 現 在 政 府 は87%を 分 担 し ているが これだけ 多 額 の 保 険 金 支 払 いは 特 別 会 計 では 十 分 でないため 大 規 模 災 害 が 発 生 すれば 速 やかに 予 算 を 割 り 当 てるか 再 配 分 する 必 要 が 生 じる 限 定 された 保 障 では 被 保 険 者 のニーズに 充 分 に 対 応 できない 可 能 性 がある 事 業 は 地 震 等 による 被 災 者 の 生 活 の 安 定 に 寄 与 することを 目 的 と して(1966 年 に 関 する 法 律 第 1 条 ) 火 災 保 険 の 保 険 金 額 の50%までを 保 障 するよう つくられている より 高 い 保 障 への 需 要 が 高 まりつつあるものの 制 度 の 財 務 的 持 続 可 能 性 を 維 持 するためには 慎 重 に 検 討 する 必 要 がある 保 険 金 支 払 いは 大 きなリスクをもたらしており 改 訂 の 余 地 がある 3 段 階 方 式 の 損 害 認 定 基 準 により 迅 速 な 保 険 金 の 支 払 いが 可 能 となるが 一 部 損 (5%)と 半 損 (50%)の 間 には 大 きな 格 差 がある このため 保 険 金 が 被 害 に 見 舞 われた 被 保 険 者 のニーズと 一 致 しないリスク( 基 本 リスク)を 増 大 させる リスク 低 減 のために は 中 間 的 な4 段 階 目 の 基 準 を 導 入 することが 考 えられる 日 本 における 大 災 害 のリスクモデルは 洗 練 されているものの 改 善 の 余 地 がある 日 本 では 最 先 端 の 大 災 害 リスクモデルが 開 発 されているが ( 東 日 本 大 震 災 では 損 11
失 全 体 の30%を 引 き 起 こした) 津 波 あるいは 液 状 化 現 象 など 2 次 的 な 損 失 の 危 険 はモデルでも 組 み 入 れられていない また こうしたモデルは 公 共 施 設 やイン フラの 大 災 害 時 におけるより 綿 密 なリスク 評 価 にも 活 用 できる 途 上 国 への 提 言 妥 当 かつ 維 持 可 能 な 災 害 リスク 保 険 制 度 の 形 成 日 本 における 制 度 は 東 日 本 大 震 災 後 に 相 当 な 強 靭 さを 発 揮 している この 経 験 から 災 害 リスク 保 険 を 普 及 させる 意 図 を 持 つ 災 害 の 頻 発 する 途 上 国 に 対 して 妥 当 か つ 維 持 可 能 な 保 険 制 度 を 構 築 し 官 民 パートナーシップ(PPP)における 政 府 の 役 割 を 明 確 にするのに 役 立 つ 提 言 を 導 くことができる 保 険 は 持 続 し 維 持 できる 制 度 として 形 成 する 災 害 リスク 保 険 は 保 険 会 社 が 保 険 責 任 を 管 理 し 維 持 できるよう 設 計 すべきである 契 約 者 のニーズに 対 してよりよく 対 応 し 同 時 に 大 規 模 災 害 に 際 して 制 度 の 強 靭 さを 確 保 できるよう 改 訂 し 続 けるべきである 2 種 類 ある 日 本 の 地 震 損 害 補 償 制 度 がいずれも 提 供 している 部 分 的 な 保 障 と 民 間 が 採 用 し ている 簡 略 化 された 損 害 認 定 プロセスは どちらもコスト 低 減 に 役 立 っている 保 険 料 は 潜 在 するリスクに 応 じて 価 格 を 設 定 する 保 険 料 率 にはリスク 区 分 および 建 築 の 種 類 に 応 じて 潜 在 するリスクを 反 映 させる 必 要 がある リスクを 基 準 とする 保 険 料 率 は 契 約 者 に 対 して 現 実 に 存 在 しているリスクの 所 要 コストを 認 識 させ それによってリ スクの 緩 和 に 向 けた 財 務 的 な 動 機 を 与 えることになる たとえ 被 保 険 者 がコスト 全 額 を 負 担 しなくても 助 成 が 明 確 になることでリスクの 潜 在 するコストが 認 識 できる 災 害 リスクの 緩 和 に 投 資 するインセンティブを 提 供 する リスク 低 減 に 投 資 する 保 険 契 約 者 には 保 険 料 の 割 引 あるいは 控 除 など 追 加 的 なインセンティブを 提 供 できる 保 険 の 加 入 を 強 制 する 仕 組 みを 検 討 する 通 常 自 発 的 な 災 害 リスク 保 険 契 約 では 保 険 市 場 が 高 度 の 発 達 を 遂 げた 環 境 においても あまり 高 い 普 及 率 は 望 めない 大 多 数 の 国 民 を 自 然 災 害 から 保 護 するには 火 災 保 険 契 約 に 災 害 保 障 を 自 動 的 に 付 帯 するような な んらかの 強 制 的 な 仕 組 みが 必 要 になる 災 害 リスク 保 険 を 提 供 する 経 路 の 多 重 化 を 推 進 する 大 災 害 時 リスク 保 険 の 提 供 にあ たっては 民 間 や 共 済 組 合 など 既 存 の 損 害 保 険 の 仕 組 みを 活 用 すべきである 日 本 にお ける 制 度 は 異 なる 社 会 的 階 層 に 適 切 に 対 応 するには たとえ 極 めて 類 似 した 製 品 であっ ても 提 供 する 仕 組 みを 変 えたほうが 効 果 的 であると 実 証 している したがって 災 害 リ スク 保 険 についても 提 供 方 法 の 多 重 化 を 検 討 すべきである 12 教 訓 ノート6-2
詳 細 な 災 害 リスクモデルを 構 築 する 詳 細 なリスク 評 価 保 険 料 率 の 算 出 ならびに 災 害 リスク 保 険 における 保 険 責 任 を 効 率 的 に 管 理 するには 詳 細 な 大 災 害 時 のリスクモデル とデータベースが 不 可 欠 となる リスク 評 価 には 災 害 リスクモデルに 加 えて 危 険 にさ らされる 資 産 ( 建 築 物 およびインフラ)の 詳 細 な 危 険 性 データベースと 災 害 危 険 度 を 詳 細 な 金 銭 的 損 失 へと 変 換 する 脆 弱 性 関 数 が 必 要 とされる 一 般 に こうしたモデルの 開 発 は 民 間 のリスクモデル 企 業 によって 行 われるが 保 険 市 場 が 未 発 達 な 一 部 地 域 では 政 府 と 支 援 機 関 が 公 共 インフラとしてモデルの 開 発 を 全 面 的 ないし 部 分 的 に 負 担 し 市 場 の 発 達 を 支 援 している 災 害 時 リスク 保 険 市 場 におけるインフラを 構 築 する 災 害 リスク 保 険 市 場 を 育 成 するに は 災 害 リスクモデルや 危 険 性 データベース 製 品 設 計 や 価 格 設 定 など 基 盤 をなすイン フラへの 大 規 模 な 投 資 が 必 要 となる 民 間 保 険 会 社 が 費 用 対 効 果 の 高 い 保 険 商 品 を 提 供 す るにあたり 政 府 はこの 種 のインフラの 構 築 で 主 導 的 な 役 割 を 果 たすことができる 法 律 規 制 の 実 施 環 境 を 整 える 自 動 車 保 険 をはじめとする 一 般 的 な 保 険 とは 異 な り 災 害 リスク 保 険 は 保 険 会 社 に 対 して 相 互 に 関 連 性 のある 多 額 の 損 失 を 発 生 しかねな い 実 際 に 災 害 が 発 生 したとき 保 険 会 社 が 保 険 金 の 支 払 いに 応 じられるよう 法 的 規 制 的 枠 組 によって 適 切 な 価 格 設 定 準 備 金 の 確 保 および 再 保 険 の 調 達 を 実 現 する 必 要 があ る 災 害 保 険 事 業 における 官 民 パートナーシップを 促 進 する 持 続 維 持 可 能 な 事 業 の 形 成 において 政 府 は 重 要 な 役 割 を 果 たすことができる 民 間 が 技 術 的 専 門 知 識 と 財 務 能 力 を 活 かす 一 方 で 政 府 は 持 続 可 能 な 市 場 ベースの 保 険 商 品 の 育 成 に 向 けて 公 の 制 度 および 保 険 市 場 といったインフラの 構 築 を 支 援 できる 政 府 には 最 後 の 手 段 となる 資 金 提 供 者 としての 役 割 が 期 待 される 民 間 の 再 保 険 機 能 が 利 用 できず あるいは 高 価 すぎて 国 内 の 保 険 事 業 者 が 費 用 対 効 果 の 高 い 保 険 商 品 を 提 供 できない 場 合 最 後 の 手 段 として 政 府 が 資 金 提 供 者 として 行 動 する 必 要 がある 政 府 は 民 間 の 再 保 険 市 場 に 対 抗 するのではなく 市 場 を 補 完 すべきである 必 要 に 応 じて 政 府 は 公 的 な 再 保 険 あるいは 信 用 保 証 によって 民 間 会 社 に 保 証 を 提 供 すべきである 13
Box 2: 農 業 および 漁 業 保 険 農 業 および 漁 業 分 野 における 保 険 制 度 は 東 日 本 大 震 災 にて 農 家 や 漁 師 が 受 けた 損 失 や 損 害 を 補 償 し 経 営 の 安 定 化 に 寄 与 している 被 災 地 ではほとんどの 漁 船 がなん らかの 損 害 を 受 け 保 険 により 補 償 されている 日 本 では こうした 制 度 は 地 域 の 農 民 や 漁 師 による 互 助 活 動 として 発 足 した 後 にこれらは 政 府 の 設 立 した 互 助 事 業 へと 発 展 し 政 府 は 農 民 および 漁 師 の 支 払 う 保 険 料 と 管 理 費 用 の 一 部 を 助 成 するととも に 再 保 険 を 提 供 している 2009 年 時 点 で 発 効 していた 農 業 漁 業 漁 船 保 険 契 約 加 入 世 帯 数 補 償 耕 地 面 積 保 証 額 普 及 率 (1,000 世 帯 ) (1,000ha) (100 万 円 ) 農 作 物 水 稲 1,752 1,479 1,223,157 91%( 面 積 ) 陸 稲 0.4 0.2 46 5%( 面 積 ) 小 麦 大 麦 49 252 83,277 95%( 面 積 ) 果 樹 作 物 共 済 76 45( 箱 数 ) 107,200 26%( 数 量 ) 樹 木 共 済 4 1 7,000 2%( 数 量 ) 家 畜 89 6.665 724,585 42%( 数 量 ) ( 家 畜 頭 数 ) 耕 地 作 物 82 259 140,400 62% 漁 船 192( 隻 ) n.a. 1,028,517 >100% ( 隻 数 ) 漁 業 61 n.a. 394,155 52%( 世 帯 ) n.a. = 該 当 せず 漁 業 保 険 今 回 の 震 災 と 津 波 により 25,000 隻 に 達 する 漁 船 が 被 害 を 受 け 被 害 額 は1,700 億 円 にも 達 している 岩 手 宮 城 福 島 3 県 の 漁 船 の90%が 損 傷 しており こうし た 漁 船 は 漁 業 とともに 水 産 養 殖 にも 利 用 されているため 水 産 業 全 体 に 甚 大 な 影 響 を もたらした 津 波 襲 来 以 前 被 災 3 県 は( 水 産 養 殖 を 除 く) 日 本 の 漁 業 全 体 の10% に 相 当 する 漁 獲 を 上 げていた 牡 蠣 とワカメの 養 殖 が 盛 んに 行 われていた 岩 手 宮 城 14 教 訓 ノート6-2
両 県 を 中 心 に 水 産 養 殖 業 も 大 きな 被 害 を 受 けている 水 産 養 殖 業 における 被 害 額 は 1,310 億 円 に 上 り そのうち570 億 円 は 養 殖 物 740 億 円 は 養 殖 設 備 で 占 められて いる 日 本 における 漁 業 保 険 は 充 分 に 組 織 化 され 小 規 模 漁 業 者 を 含 むすべての 漁 師 に 適 正 な 価 格 で 基 本 的 な 保 険 サービスを 提 供 している 1952 年 の 漁 船 損 害 等 補 償 法 の 制 定 を 受 けて 設 立 された 漁 船 保 険 制 度 は 漁 船 が 受 けた 損 失 や 損 害 を 補 償 して 漁 業 経 営 の 安 定 化 を 図 ることを 目 的 としている この 制 度 には 以 下 の 保 険 が 含 まれる: 戦 乱 拿 捕 による 損 害 を 補 償 する 特 殊 保 険 を 含 めて 事 故 および 災 害 により 生 じた 損 害 を 補 償 する 漁 船 保 険 漁 船 の 運 航 に 伴 って 生 じた 不 慮 の 費 用 および 損 害 を 補 償 する 漁 船 船 主 責 任 保 険 漁 船 の 乗 組 船 主 が 漁 船 上 において 死 亡 したり 行 方 不 明 となったりした 場 合 の 補 償 を 行 う 漁 船 乗 組 船 主 保 険 漁 獲 した 漁 獲 物 貨 物 を 運 搬 中 に 生 じた 損 害 を 補 償 する 漁 船 積 荷 保 険 プレジャーボートの 運 航 に 伴 って 生 じた 損 害 賠 償 責 任 や 救 助 費 用 などを 補 償 するPB 責 任 保 険 転 載 積 荷 保 険 乗 組 員 が 抑 留 された 場 合 の 給 与 を 補 償 する 漁 船 乗 組 員 給 与 保 険 1964 年 の 漁 業 災 害 補 償 法 に 基 づいて 設 立 された 漁 業 共 済 は 自 然 災 害 によって 引 き 起 こされた 漁 獲 量 の 低 下 で 損 失 を 被 った 中 小 漁 業 経 営 者 における 漁 業 水 産 養 殖 事 業 の 安 定 化 をその 目 的 としている この 制 度 は 漁 獲 水 産 養 殖 業 特 定 養 殖 業 およ び 漁 具 を 対 象 としている 政 府 は 保 険 料 の3 分 の1から2 分 の1を 助 成 している 漁 船 保 険 は2010 年 に165 億 円 の 剰 余 金 を 達 成 したが 漁 業 共 済 保 険 では289 億 円 の 損 失 が 発 生 している 農 林 水 産 省 では 東 日 本 大 震 災 による 保 険 金 の 支 払 額 を1,204 億 円 と 推 定 してお り そのうち 日 本 政 府 の 負 担 は940 億 円 あるいは78%になるとしている 2012 年 3 月 13 日 の 時 点 で 634 億 円 の 支 払 いが 完 了 しており その 内 訳 は 漁 船 保 険 制 度 によるものが475 億 円 漁 業 共 済 制 度 による 補 償 が159 億 円 である 漁 船 のうち 15
60%は 漁 船 保 険 の 適 用 を 受 けており 被 保 険 船 舶 の80%が20トンを 超 える 漁 船 と なっていた 被 保 険 船 舶 の 約 80%は 船 齢 が15 年 以 上 であった 保 険 制 度 では 船 舶 の 補 償 はその 残 存 価 格 を 対 象 としているため 支 払 われた 保 険 金 は 船 舶 の 更 新 費 用 を 賄 えない 可 能 性 がある (10 億 円 ) 漁 船 保 険 制 度 漁 業 共 済 保 険 合 計 政 府 72.7(78%) 21.3(77%) 94.0(78%) 政 府 特 別 会 計 準 備 金 11.0(12%) 11.0(9%) 全 国 共 済 組 合 1.4(2%) 3.0(11%) 4.4(4%) 各 共 済 組 合 7.8(8%) 3.2(12%) 11.0(9%) 合 計 92.9(100%) 27.5(100%) 120.4(100%) 農 業 保 険 東 日 本 大 震 災 による 農 産 物 および 農 業 施 設 への 損 害 は630 億 円 に 達 している 日 本 では 米 が 主 要 な 農 産 物 となっているが 東 日 本 大 震 災 の 発 生 は 米 作 期 以 前 だったた め 米 作 における 損 失 には 保 険 はほとんど 適 用 されていない 福 島 第 一 原 子 力 発 電 所 の 事 故 に 伴 う 補 償 はいまだに 確 定 していないため 農 業 保 険 に 基 づいて 支 払 われる 保 16 教 訓 ノート6-2
険 金 の 総 額 も 不 確 定 である 宮 城 県 では 農 業 保 険 制 度 の 下 で 震 災 の 被 害 を 受 けた 温 室 に 対 する 保 険 金 10 億 円 が 支 払 われた 農 業 保 険 は 1947 年 の 農 業 災 害 補 償 法 に 基 づき 自 然 災 害 によって 受 けた 被 害 を 補 償 し 農 業 経 営 の 安 定 化 を 図 る 目 的 で 導 入 された 制 度 は 主 要 な 農 産 物 のほぼすべ てについて 保 険 による 補 償 を 提 供 している 本 来 は 保 険 料 を 賄 うための 準 備 金 を 募 る 互 助 組 織 として 発 足 した 制 度 だが 後 に 農 業 共 済 組 合 組 織 へと 発 展 している 保 障 には 米 麦 大 麦 保 険 (20ha 以 上 の 免 責 のある 水 田 は 強 制 加 入 ) 家 畜 保 険 果 実 果 樹 保 険 耕 地 作 物 および 園 芸 作 物 保 険 温 室 保 険 と 家 屋 および 資 産 が 含 まれる なお 農 家 の 支 払 う 保 険 料 の 半 額 を 政 府 が 助 成 している 著 者 石 渡 幹 夫 : 世 界 銀 行 著 者 Olivier MahulおよびEmily White: 世 界 銀 行 参 考 文 献 Benfield, Aon. 2011. Earthquake Insurance Business in Japan. December 2011. General Insurance Association of Japan. 2011. Annual Report 2010-2011. JA Kyosai. 2011. Annual Report 2010, Business Operations. Japan Credit Rating Agency Ltd. 2011. JCR Affirmed AAp/Stable on Japan Earthquake Reinsurance. December 28. JER(Japan Earthquake Reinsurance Co., Ltd). 2011a. Annual Report 2011.. 2011b. Response to the Great East Japan Earthquake by the General Insurance Industry. Presentation, World Forum, Jamaica, October 25-26, 2011. McAllister, S., and E. Cohen. 2011. Japanese Casualty Insurers Show 17
Resilience. www.contingencies.org. Muir-Wood, R. 2011. Designing Optimal Risk Mitigation and Risk Transfer Mechanisms to Improve the Management of Earthquake Risk in Chile. OECD Working Papers on Finance, Insurance and Private Pensions No. 12, Organisation for Economic Co-operation and Development, Paris. Non-Life Insurance Rating Organization of Japan. 2011. www.nliro.or.jp. SCOR Global P&C. 2011. Technical Newsletters, December and October 2011. Swiss Re. 2012. Lessons from Major Earthquakes. Economic Research and Consulting, January 2012. Zenrosai. 2011. Annual Report 2010. 18 教 訓 ノート6-2
附 属 1: 東 日 本 大 震 災 における 経 済 被 害 と 保 険 金 支 払 い 東 日 本 大 震 災 における 被 害 (16000 )に する 分 別 東 日 本 大 震 災 における 保 険 支 払 い(2500 )に する 分 別 東 日 本 大 震 災 における 保 険 支 払 い(2 10 )に する 別 19
附 属 2: 種 別 による 東 日 本 大 震 災 における 支 払 い 負 担 民 の 支 払 い 負 担 (1 2 000 ) 済 支 払 保 険 金 (00 ) 20 教 訓 ノート6-2