更 新 日 :2010/6/24 メキシコ 湾 油 流 出 事 故 による 米 政 策 及 び 上 流 事 業 への 影 響 調 査 部 : 市 原 路 子 (ワシントン 事 務 所 ヒューストン 事 務 所 BP ホームページ ホワイトハウス 鉱 物 資 源 局 PIW 誌 他 ) メキシコ 湾 でのリグ 爆 発 油 流 出 事 故 の 発 生 は オバマ 政 権 が 石 油 ガス 開 発 促 進 に 乗 り 出 した 直 後 の 出 来 事 であった 事 故 を 受 けて 後 退 させている 現 在 オバマ 政 権 は 事 故 調 査 を 優 先 させるため 大 水 深 (500feet 以 深 ) 掘 削 を 禁 止 する 措 置 をと り 米 国 規 制 当 局 も 原 因 究 明 とともに 海 洋 掘 削 における 安 全 規 制 の 強 化 を 進 める 油 流 出 事 故 を 受 けて 米 国 で 議 論 が 始 まった 安 全 規 制 の 強 化 補 償 問 題 さらに 他 の 産 油 国 での 対 応 を 通 じて 今 後 の 上 流 開 発 に 長 期 的 に 影 響 を 及 ぼす 可 能 性 が 見 込 まれる 1. 大 水 深 での 事 故 発 生 洋 上 の 石 油 ガス 田 開 発 は 80 年 代 以 降 徐 々に 浅 海 部 から 深 海 部 に 進 展 してきた 今 回 の 掘 削 リグ 事 故 は 難 易 度 の 高 い 大 水 深 域 エリア( 水 深 1500M)で 発 生 した 大 水 深 域 での 探 鉱 開 発 エリアは 事 故 の 起 きた 米 国 メキシコ 湾 (1980 年 代 ~)のみならず 現 在 では ブラジル 沖 (1990 年 代 ~) 西 アフリカ 沖 (1990 年 代 後 半 ~) 東 南 アジア(2000 年 代 ~) 近 年 北 海 のほか 東 アフリカから 南 アフリカ 沖 合 南 アジア(インド バングラディシュ) さらに 黒 海 (トルコ 領 ルーマニア 領 )に 広 がっている 事 故 原 因 の 究 明 それに 基 づく 早 急 な 改 善 策 が 求 められるところ である 事 故 経 緯 及 び 事 故 発 生 の 原 因 等 の 議 論 については 伊 原 米 国 : 掘 削 リグ Deepwater Horizon の 暴 発 と 沈 没 についての 技 術 的 考 察 をご 参 照 ください 図 1.メキシコ 湾 の 大 水 深 域 とリグ 事 故 の 位 置 今 回 の 掘 削 事 業 は 大 水 深 域 に おける 最 大 の 生 産 者 ( 図 2)で かつ 生 産 規 模 で 最 大 のメジャー である BP( 英 国 )がオペレータ ーを 務 める 掘 削 作 業 も 沖 合 掘 削 リグ 事 業 者 として 業 界 最 大 手 の スイスの Transocean が 担 当 し
ていた 業 界 最 大 手 によって 進 められた 大 水 深 開 発 での 大 規 模 な 油 流 出 を 伴 う 掘 削 事 故 は 今 後 の 上 流 開 発 にどのような 影 響 を 及 ぼすのだろうか まずは 事 故 に 伴 う 米 国 政 策 の 動 きを 整 理 し 上 流 事 業 等 への 影 響 を 推 し 量 っていきたい 図 2. 大 水 深 開 発 にリーダーシップ(BP の 2010 年 3 月 投 資 家 向 け 資 料 より ホームページ) 2. 揺 れるオバマ 政 権 の 上 流 政 策 今 回 の 事 故 は オバマ 大 統 領 がグリーンニューディール 政 策 を 掲 げた 当 初 の 方 針 を 後 退 させ 上 流 開 発 も 含 めた 現 実 的 なエネルギー 政 策 路 線 に 舵 を 切 った 直 後 に 発 生 した 1) 大 統 領 による 方 針 転 換 事 故 直 前 の 2010 年 3 月 31 日 オバマ 大 統 領 は 2009 年 1 月 の 就 任 後 初 めて 上 流 政 策 に 関 わ る 具 体 的 な 政 策 表 明 を 行 った 現 行 の 5 ヶ 年 (2007-2012 年 )の 鉱 区 入 札 計 画 では アラスカ 北 部 沖 合 鉱 区 を 新 たに 付 与 しないが 次 期 の5ヶ 年 計 画 (2013-2017)において アラスカ 北 部 沖 合 に 加 えて 大 西 洋 沿 岸 部 メキシコ 湾 東 部 を 新 たな 開 放 海 域 候 補 として 事 前 の 環 境 影 響 評 価 を 開 始 するという 上 流 鉱 区 拡 大 の 政 策 を 示 した 同 大 統 領 は 就 任 当 初 から 環 境 エネルギー 投 資 機 会 の 創 出 と 増 強 政 策 及 び CO2 削 減 規 制 の 導 入 をエネルギー 政 策 の 柱 にして 取 り 組 んできたが 今 回 の 発 表 は 国 内 の 石 油 ガスを 促 進 するための 第 1 歩 でもあった 新 しい 上 流 政 策 を 踏 まえ 民 主 党 上 院 議 員 は 4 月 22 日 の 地 球 の 日 前 後 に 新 たなエネルギ ー 温 暖 化 対 策 法 案 を 上 院 議 会 に 提 案 する 準 備 を 整 えていた なお 現 5ヶ 年 の 鉱 区 リース 計 画 は 前 政 権 のブッシュ 大 統 領 時 代 に 策 定 されていたもの この
計 画 は 既 存 生 産 地 域 のメキシコ 湾 ( 中 部 西 部 )に 加 え アラスカ 北 部 沖 合 当 時 掘 削 禁 止 海 域 であったバージニア 州 沖 合 が 入 札 対 象 として 含 まれ ブッシュ 大 統 領 の 拡 大 路 線 が 色 濃 く 反 映 され ていた 2008 年 夏 には 原 油 価 格 の 高 騰 により 同 大 統 領 は 国 内 開 発 促 進 を 強 く 主 張 して 太 平 洋 及 びバージニア 沖 合 を 含 む 大 西 洋 側 の 掘 削 禁 止 令 を 解 除 し 同 時 期 に 米 議 会 も 同 様 の 掘 削 禁 止 令 を 解 除 した しかし 2009 年 1 月 のオバマ 政 権 誕 生 以 降 新 民 主 党 大 統 領 は 環 境 政 策 に 傾 注 し 石 油 ガスの 上 流 政 策 に 関 し 無 策 の 状 態 が 続 いていた 他 方 で 環 境 団 体 からの 訴 えにより アラスカ 北 部 沖 合 の 鉱 区 付 与 が 問 題 視 され 2009 年 4 月 どのような 影 響 を 海 洋 生 物 に 与 えるか 十 分 に 事 前 の 影 響 評 価 を 行 っていないとして 鉱 区 付 与 の 見 直 すよう 判 決 が 出 されていた 図 1.3 月 31 日 に 打 ち 出 したオバマ 大 統 領 の 新 政 策 ( 黄 色 = 次 期 5カ 年 計 画 の 開 放 対 象 候 補 )
2) 新 エネルギー 環 境 対 策 法 案 2009 年 12 月 の 国 連 気 候 変 動 COP15 コペンハーゲン 大 会 後 から4ヶ 月 間 の 準 備 を 経 て 新 しい エネルギー 環 境 対 策 法 案 ( 通 称 :ケリー リーバーマン 法 案 )が 策 定 され 5 月 12 日 に 上 院 議 会 に 提 案 された 大 統 領 は 同 案 の 年 内 通 過 を 目 指 すととともに 改 めて 支 持 を 表 明 した 同 案 は 産 油 ガス 産 業 がバックアップする 共 和 党 議 員 の 支 持 を 取 り 付 ける 狙 いから 3 月 末 の 上 流 拡 大 策 が 盛 り 込 まれるとみられていたが 油 流 出 事 故 の 発 生 に 配 慮 して 提 案 された 上 流 政 策 は 具 体 的 な 鉱 区 開 放 海 域 に 触 れておらず 石 油 生 産 ロイヤリティの 37.5%(そのほか 陸 水 保 全 基 金 に 12.5%)を 沿 岸 州 に 配 布 するとともに 沿 岸 75 マイル 以 内 に 対 する 掘 削 拒 否 権 を 沿 岸 州 に 与 えるという 内 容 に 留 まった そのほか 同 法 案 では 2020 年 までに CO2 排 出 量 (GHG)を 2005 年 比 で 17% 削 減 すること を 規 定 するとともに 再 生 可 能 エネルギーの 導 入 促 進 省 エネ 促 進 やCCS 技 術 開 発 や 電 気 自 動 車 実 用 化 促 進 等 のほか 政 府 がオークションで 放 出 するCO2 排 出 権 を 取 引 できる キャップアンド トレード を 導 入 する 内 容 が 盛 り 込 まれている ただし 石 油 消 費 に 対 するCO2 排 出 権 は オー クション 対 象 から 除 かれ 事 業 対 象 者 は 固 定 価 格 でCO2 排 出 権 を 取 得 することが 規 定 されている 法 案 は 上 院 に 提 案 されたものの 現 在 のところ 審 議 日 程 が 固 まっていない 11 月 の 中 間 選 挙 を 控 えて 移 民 法 案 や 金 融 改 革 法 案 等 の 重 要 法 案 が 優 先 され 法 案 審 議 のために 残 されている 時 間 は 限 定 的 であり 年 内 通 過 は 極 めて 難 しいとの 見 方 が 広 がっている 3) 事 故 発 生 の 原 因 究 明 を 優 先 オバマ 大 統 領 は 今 回 の 事 故 を 受 けて 事 故 発 生 の 原 因 究 明 を 最 優 先 させる 措 置 をとった 5 月 22 日 に 同 大 統 領 は 専 門 家 らからなる 国 家 事 故 調 査 委 員 会 を 設 置 することを 宣 言 するとともに 6ヶ 月 以 内 に 再 発 防 止 策 に 向 けた 提 言 書 を 取 りまとめるように 委 員 会 に 指 示 した その 翌 週 の 27 日 その 間 一 部 掘 削 を 停 止 する 措 置 を 発 表 した 5 月 27 日 の 一 時 措 置 は 以 下 の4 点 である a) 今 後 6ヶ 月 (-11 月 ) 大 水 深 域 (500ft 以 深 )での 掘 削 を 禁 止 する( 掘 削 中 案 件 も 含 め) b)2010 年 8 月 に 予 定 していた 大 水 深 を 含 むメキシコ 湾 海 域 の 鉱 区 入 札 を 中 止 c)アラスカ 北 部 沖 合 において 今 後 1 年 間 掘 削 禁 止 d)2012 年 に 予 定 するバージニア 州 沖 合 鉱 区 入 札 を 延 期 メキシコ 湾 の 大 水 深 域 は 通 常 当 海 域 では 水 深 1000feet 以 深 を 示 すが 今 回 の 掘 削 禁 止 対 象 は 浮 遊 式 掘 削 リグを 利 用 し また 作 業 員 が 直 接 アクセスの 出 来 ない 水 深 域 を 含 むため 500feet
以 深 と 定 められた c)に 関 して 1 年 のうち 大 半 が 氷 に 閉 ざされるアラスカ 北 部 沖 合 は 油 流 出 の 際 に 油 回 収 作 業 等 が 一 般 の 海 上 と 異 なる 点 が 指 摘 されている 当 海 域 では 今 夏 に Shell がチャクチ 海 とボーフォー ト 海 でそれぞれ1 坑 の 掘 削 を 予 定 していたが 政 府 から Shell に 事 前 に 通 知 され 掘 削 を 延 期 した また d)に 関 しては 鉱 区 付 与 予 定 エリアの 75%が 軍 事 演 習 海 域 と 重 なっており 流 出 事 故 を 想 定 した 場 合 に 油 回 収 作 業 に 支 障 が 出 るため 入 札 手 続 きが 延 期 されたとみられる a)に 関 連 して 発 表 当 時 メキシコ 湾 の 掘 削 禁 止 対 象 エリアには 33 基 の 掘 削 リグが 配 置 され 内 16 基 が 掘 削 中 であった 政 府 の 掘 削 中 止 命 令 に 伴 い 石 油 会 社 は 次 の 安 全 地 点 まで 掘 進 後 に 速 やかに 中 断 することが 要 求 された 掘 削 リグをリースする 石 油 会 社 (オペレーター)の 中 には Statoil, ExxonMobil, Shell などの 大 手 石 油 企 業 から Anadarko や Hess などの 中 堅 企 業 のほか LLOG Walter Energy や ATP など 小 規 模 地 元 企 業 まで 含 まれる 複 数 の 石 油 会 社 がリグ 会 社 に 対 して 不 可 抗 力 (フォースマジュール)を 宣 言 したとも 報 じられている 6 ヶ 月 間 に 及 ぶ 掘 削 禁 止 については ルイジアナ 州 など 沿 岸 州 選 出 の 共 和 党 議 員 から 政 府 に 対 し 17 千 人 の 失 業 者 が 発 生 する 恐 れがあると 懸 念 を 伝 えており また 早 期 解 除 を 裁 判 所 に 求 める 沖 合 関 連 会 社 も 現 れている Salazar 内 務 長 官 も 国 家 事 故 調 査 委 員 会 による 調 査 結 果 が 早 い 段 階 で 出 されれば 期 間 の 変 更 もありうると 述 べるなど 早 期 終 結 の 可 能 性 も 否 定 できない 他 方 同 調 査 委 員 会 の 共 同 議 長 として Bob Graham 元 上 院 議 員 ( 民 主 党 )と 1989 年 のバルデ ィズ 号 事 故 当 時 の 環 境 保 護 局 長 官 (1989-1993)William Reilly 氏 が5 月 22 日 に 任 命 されていた が 遅 れて6 月 半 ばに 残 りの5 名 のエキスパートが 選 任 されている 同 委 員 会 の 発 足 が 遅 れ 報 告 書 の 提 出 が 11 月 を 過 ぎることも 想 定 されており 掘 削 解 禁 の 遅 延 を 憂 慮 する 声 もある 4) 沖 合 探 鉱 開 発 に 関 わる 安 全 対 策 規 制 の 強 化 今 回 の 事 故 を 受 けてオバマ 大 統 領 は 30 日 以 内 に 当 面 の 対 応 策 を 取 りまとめるように 内 務 省 に 指 示 し 5 月 27 日 に 内 務 省 は 対 応 策 に 関 する 提 案 書 を 発 表 した この 提 案 書 では 掘 削 操 業 に 関 わる 安 全 対 策 の 見 直 し 強 化 策 を5 項 目 にわたって 提 案 している 1)BOP 装 置 と 緊 急 時 システム 2) 新 しい 安 全 装 置 基 準 とその 操 業 手 順 3) 坑 井 圧 力 制 御 ガ イドラインと 流 体 循 環 4) 坑 井 デザイン 5) 安 全 基 準 及 び 手 順 の 厳 格 化 である 具 体 的 には 坑 井 デザイン(ケーシング セメンチング)や 坑 井 内 の 圧 力 制 御 に 関 する 追 加 要 件 暴 噴 防 止 装 置 (BOP)などの 安 全 操 業 用 の 装 置 に 関 する 要 件 追 加 緊 急 時 プログラムの 実 施 要 領 の 強 化 作 業 員 への 訓 練 プログラム 導 入 などが 示 されているが 詳 細 なルールの 策 定 は 順 次 進 められていくとみ
られる 大 水 深 掘 削 のみならず 浅 海 部 も 含 めルール 改 定 を 実 施 する 方 針 である 27 日 の 同 提 案 書 に 沿 って 6 月 8 日 及 び18 日 に 操 業 者 に 対 して 一 部 改 善 策 が 通 知 されている BOPの 性 能 証 明 や 安 全 措 置 の 順 守 証 明 書 等 の 提 出 の 義 務 づけ 油 流 出 に 伴 う 最 悪 シナリオに 関 す る 情 報 提 供 などが 求 められている これらに 伴 う 過 剰 な 提 出 書 類 に 疑 問 を 呈 する 声 もある 5) 鉱 物 資 源 管 理 局 (MMS:Mineral Management Service)の 組 織 改 革 今 回 の 掘 削 事 故 を 受 けて 監 督 局 である 内 務 省 の 鉱 物 資 源 管 理 局 (MMS)が 石 油 業 界 と 癒 着 関 係 にあることに 矛 先 が 向 けられた この 問 題 は 2 年 前 の 2008 年 に MMSが 石 油 業 界 から 飲 食 や 娯 楽 等 の 接 待 を 受 けていたことを 内 務 省 自 らが 明 らかにしたことで 一 般 紙 に 連 日 大 きく 報 じら れた MMS の 体 質 が 事 故 発 生 要 因 の 一 つとの 見 方 が 浮 上 し Salazar 内 務 長 官 は 急 遽 MMSを 解 体 し 新 組 織 設 置 と 再 編 プランを 発 表 した 新 組 織 は BOE(Bureau of Ocean Energy Management, Regulation and Enforcement) 新 組 織 は 安 全 操 業 を 監 視 する 独 立 した 部 門 を 設 置 するととも に ロイヤリティ 収 入 等 を 徴 収 する 部 門 とリース 計 画 等 を 策 定 する 戦 略 部 門 のあわせて3 部 門 で 編 成 される 計 画 Salazar 内 務 長 官 は 6 月 18 日 MMS に 代 わる 新 組 織 BOE のトップに 連 邦 検 事 の Michael Bromsich 氏 を 任 命 した 6) 経 済 的 損 失 及 び 環 境 被 害 に 対 する 補 償 財 源 の 確 保 油 濁 対 策 費 用 の 財 源 としては 下 記 詳 細 の 通 り ア) 油 濁 責 任 者 による 補 償 と イ) 油 濁 対 策 基 金 の 二 つの 法 的 措 置 がある 議 会 では それに 関 わる 支 出 制 限 を 解 除 する あるいは 引 き 上 げるこ とで 財 源 確 保 しようと 議 論 が 続 いている 今 のところ 最 終 合 意 に 至 っていない 議 論 が 収 束 しない 中 で 政 府 はBP 側 と 直 接 交 渉 を 行 い 下 記 のウ)の 通 り 補 償 額 の 一 部 を 取 り 付 けている ア) 油 濁 責 任 者 による 補 償 額 の 見 直 し 1989 年 のタンカー 座 礁 による 油 流 出 事 故 を 受 けて 油 濁 責 任 を 規 定 する 法 律 が 1990 年 に 制 定 されている(1990: 油 濁 法 Oil Pollution Act) この 規 定 では 油 濁 責 任 者 は 油 回 収 費 用 のほか 経 済 的 損 失 環 境 的 損 失 を 含 めて 油 流 出 事 故 により 発 生 するすべての 損 失 に 対 する 補 償 責 任 があることが 規 定 されている ただし 産 業 活 性 化 の 観 点 から 同 法 は 当 事 者 に 故 意 重 過 失 がない 場 合 海 洋 施 設 事 故 では
油 回 収 費 を 除 く 上 限 75 百 万 ドルを 補 償 限 度 額 1 として 定 めている 現 在 この 補 償 限 度 額 の 引 き 上 げあるいは 撤 廃 が 審 議 されているが アラスカ 州 議 員 など 共 和 党 議 員 は 補 償 額 の 引 き 上 げに 伴 い 中 小 の 石 油 企 業 が 開 発 事 業 から 撤 退 しなければならないとして 異 議 を 唱 えている 議 会 では 引 き 上 げ 方 針 にほぼ 一 致 しているものの 引 き 上 げ 額 について 合 意 が 得 られず 法 案 審 議 が 難 航 している 模 様 である イ) 油 濁 対 策 基 金 この 油 濁 法 に 沿 った 油 濁 責 任 者 からの 補 償 を 超 える 範 囲 に 対 しての 財 源 の 確 保 が 急 務 である 1980 年 代 から 米 国 では 油 濁 対 策 基 金 を 設 置 して 生 産 石 油 及 び 輸 入 石 油 に 対 して 一 定 額 を 徴 収 する 制 度 を 設 けている 現 在 この 積 立 金 は1バレルあたり 8 セントが 徴 収 されており 運 用 規 定 では 1 件 あたりの 支 出 額 の 上 限 を 10 億 ドルに 定 めている 現 在 この 石 油 に 課 せられる 積 立 金 と 支 出 限 度 額 を 引 き 上 げる 法 案 が 議 会 で 審 議 されている 5 月 28 日 民 主 党 が 多 数 を 占 める 下 院 では 石 油 税 関 連 法 案 の 中 で 積 立 金 を1バレル 34 セ ントに 引 き 上 げること 支 出 限 度 額 を 50 億 ドルに 引 き 上 げることが 合 意 された 2010 年 6 月 現 在 の 同 基 金 の 残 高 は 16 億 ドルであるが この 積 立 金 引 き 上 げにより 10 年 後 に 120 億 ドル 近 くに 積 みあがるとの 見 込 みである 上 院 議 会 でも 同 時 に 引 き 上 げに 関 する 審 議 が 進 められているが 前 述 のア)と 同 様 に 石 油 会 社 への 負 担 増 に 対 する 反 対 意 見 も 強 く 6 月 18 日 現 在 引 き 上 げ 額 の 合 意 に 至 っていない ウ)200 億 ドルの 損 害 賠 償 基 金 の 設 置 なお 6 月 17 日 オバマ 大 統 領 がBP 側 と 直 接 交 渉 を 行 った 結 果 BP 側 は 200 億 ドルの 損 害 賠 償 基 金 を 創 設 することで 合 意 した 同 基 金 は まず 2010 年 第 3 四 半 期 に 30 億 ドル 第 4 四 半 期 に 20 億 ドル その 後 3 年 間 にわたって 四 半 期 ごと 12.5 億 ドルの 支 払 いによって 積 み 立 てられ る 積 立 中 200 億 ドルは 米 国 内 の 同 社 資 産 によって 担 保 される この 基 金 は 天 然 資 源 に 関 する 被 害 補 償 州 政 府 および 州 政 府 の 対 策 費 用 を 含 む 合 法 的 な 請 求 に 対 して 支 払 いを 行 うもので 罰 金 は 含 まれない ただし この 上 限 額 がBPの 補 償 額 の 上 限 ではない 基 金 設 立 の 合 意 とともにBPは 4 月 に 発 表 していた 第 1 四 半 期 の 配 当 支 払 いを 中 止 し 今 年 度 1 注 )タンカーからの 油 流 出 や 陸 上 施 設 での 流 出 事 故 の 場 合 は 同 法 で 定 めている 補 償 上 限 額 はこれと 異 なる
の 第 2 第 3 四 半 期 の 配 当 も 見 送 ることを 発 表 した 3. 事 故 による 影 響 について 1) 石 油 市 場 への 影 響 について まず 短 期 的 な 面 から 石 油 市 場 への 影 響 を 推 し 量 ると 現 在 のところ 油 膜 がタンカーに 付 着 す るため 河 川 内 に 入 る 際 にクリーンアップが 必 要 となるケースもあるものの 原 油 石 油 供 給 に 遅 延 等 の 直 接 的 な 影 響 は 発 生 していない また 6 ヶ 月 の 大 水 深 掘 削 が 禁 止 されることで 浮 遊 式 の 掘 削 リグ(Semi-submarsible 及 び Drill Ship リグ)に 余 剰 が 発 生 することから 弱 材 料 が 加 わっている 状 況 しかしながら 掘 削 禁 止 は 一 時 的 なものに 過 ぎないことから 中 期 的 には 戻 すとみられる さらに 市 場 への 影 響 として 中 期 的 にはメキシコ 湾 大 水 深 の 生 産 遅 延 が 考 えられる 大 水 深 は 米 国 の 石 油 生 産 全 体 の 約 4 分 の1を 生 産 している 近 年 も 大 水 深 部 での 発 見 が 相 次 ぎ 油 田 開 発 が 目 白 押 しの 状 態 である 掘 削 禁 止 及 び 掘 削 計 画 の 承 認 期 間 30 日 間 から 90 日 間 の 変 更 計 画 を 想 定 すると 約 10 万 ~30 万 b/d の 生 産 が1~2 年 ほど 遅 れると 推 定 されている ただし 現 在 OP ECは 減 産 しているため 余 剰 能 力 を 十 分 に 抱 えており さらに 米 国 の 原 油 在 庫 量 も 高 水 準 であるこ とから これにともなう 世 界 市 場 への 影 響 は 限 定 的 とみられる 図 3.メキシコ 湾 生 産 量 ( 緑 : 石 油 と 赤 :ガス) 破 線 = 浅 海 域 実 線 = 大 水 深 (1000ft 以 深 ) 出 所 : 米 国 鉱 物 資 源 管 理 局 MMS 2) 上 流 開 発 への 影 響 としてはコストアップ 上 流 開 発 への 影 響 としては 前 述 してきたように 米 政 権 の 政 策 変 更 が 進 展 しており それに 伴
って 掘 削 生 産 操 業 に 関 するコストの 上 昇 が 懸 念 される これまでも 2000 年 に 入 って 資 源 アク セスが 容 易 で 低 コスト 開 発 が 可 能 な 在 来 型 の 油 ガス 田 開 発 が 限 界 になりつつあり 大 手 石 油 会 社 は 高 度 な 技 術 を 要 する 西 アフリカやブラジル 沖 などの 大 水 深 開 発 や 西 アフリカや 中 東 アジア 太 平 洋 圏 のLNG 開 発 カナダのオイルサンド 開 発 の 大 規 模 案 件 に 投 資 先 を 広 げてきた その 中 で 探 鉱 開 発 コストもこの 10 年 間 にわたって 全 般 的 に 上 昇 傾 向 を 示 していきた 特 に 2005 年 以 降 は リグのアベイラビリティや 熟 練 スタッフ 数 の 限 界 から 掘 削 コストが 跳 ね 上 がる 状 況 が 続 き オ イルサンド 開 発 や 大 水 深 開 発 を 中 心 に 高 コストが 続 いた 今 回 の 事 故 を 受 けて 米 国 が 規 制 強 化 等 に 動 き 出 すとともに 世 界 での 石 油 ガス 開 発 事 業 に 影 響 する 点 がいくつか 考 えられる ア) 米 国 での 沖 合 操 業 に 関 する 安 全 規 制 強 化 2.4)を 参 照 米 国 の 沖 合 掘 削 規 制 の 見 直 しの 動 きは 始 まったばかりである しかしながら ある 金 融 機 関 の 見 方 として 大 水 深 開 発 を 中 心 にした 規 制 強 化 に 伴 い 米 国 メキシコ 湾 大 水 深 開 発 で 20% 程 度 のコス トが 上 昇 し 世 界 に 波 及 すれば 世 界 の 大 水 深 域 油 田 開 発 は 10% 程 度 のコスト 上 昇 に 繋 がる 可 能 性 を 示 唆 する(PIW 6/14 誌 ) BP のほか Shell や Chvron などのスーパーメジャー Anadarko, Apache や Hess などの 中 堅 企 業 など 民 間 企 業 の 多 くがメキシコ 湾 に 参 画 する ブラジル 大 水 深 は Petrobras 中 心 に 拡 大 している が メキシコ 湾 大 水 深 は 中 小 も 含 めて 活 動 する 競 争 性 の 高 いエリアである メキシコ 湾 大 水 深 開 発 は 大 水 深 開 発 トレンドのさきがけであり また 現 在 でもその 中 心 地 である メキシコ 湾 でのコスト 上 昇 は 他 海 域 への 影 響 波 及 も 十 分 に 想 定 される イ) 保 険 料 の 上 昇 石 油 ガス 開 発 及 びその 周 辺 関 連 の 保 険 料 が 上 昇 しやすい 地 合 いとなる 大 水 深 開 発 に 関 する 保 険 料 ( 保 険 市 場 価 格 )の 更 新 価 格 が 50%ほど 引 き 上 げられているとの 情 報 (Platts 5/24)もある ま た 巨 大 リスクの 顕 在 化 により 保 険 でカバーする 範 囲 を 限 定 化 する 保 険 会 社 も 出 ているとの 情 報 もある もともとメキシコ 湾 では ハリケーン 等 の 襲 来 の 可 能 性 が 高 いため 原 油 流 出 のリスクは 極 めて 高 いと 認 識 されている こうした 状 況 の 中 で 石 油 会 社 は 高 い 保 険 料 を 支 払 って 不 測 事 態 に 対 処 する か あるいは 保 険 を 付 保 しない 無 保 険 で 操 業 ( 自 己 保 険 )を 行 うのかなどの 経 営 的 判 断 も 要 求 され
る ウ) 補 償 額 油 濁 対 策 費 の 引 き 上 げ 2.6)を 参 照 本 件 は 中 小 企 業 が 事 業 を 円 滑 に 継 続 できるかどうかの 重 要 な 要 素 でもある 掘 削 時 に 石 油 会 社 は 油 濁 に 備 えて 支 払 い 能 力 を 保 険 証 書 や 財 務 諸 表 等 によってMMSに 証 明 する 必 要 がある 現 在 の 規 定 では 最 低 1.5 億 ドルの 支 払 い 能 力 を 要 求 されているが 財 務 諸 表 での 証 明 の 場 合 には こ の 10 倍 以 上 の 自 己 資 本 が 求 められている この 油 濁 責 任 者 に 対 する 補 償 額 の 上 限 が 青 天 井 に 引 き 上 げられてしまうと 操 業 できなくなる 中 小 企 業 が 続 出 することになり 最 終 的 に 米 国 の 上 流 産 業 が 低 迷 する 恐 れがある 米 議 会 内 でも 慎 重 な 議 論 を 求 める 動 きが 出 ている エ)これら 上 記 の 政 策 変 更 に 伴 う 他 の 沖 合 開 発 への 波 及 沖 合 掘 削 は 冒 頭 の 通 り 大 水 深 海 域 だけでも 近 年 世 界 各 地 へ 広 がっている 現 在 のところ 米 国 での 油 流 出 事 故 を 受 けて 他 諸 国 政 府 が 沖 合 掘 削 の 禁 止 措 置 を 講 じている 国 は ないものの 掘 削 事 故 防 止 策 の 必 要 性 や 油 流 出 対 応 策 の 検 討 を 行 っている 国 は 出 てきている 隣 国 カナダでは 油 の 流 出 を 想 定 して オイルサンドを 太 平 洋 部 から 輸 出 する 港 湾 整 備 に 関 する 環 境 汚 染 の 懸 念 が 高 まっている また 連 邦 政 府 は 氷 に 覆 われる 北 極 海 での 掘 削 に 懸 念 が 強 い 2014 年 まで 掘 削 予 定 はないものの 掘 削 する 際 にリリーフ 井 の 掘 削 も 視 野 に 入 れて 安 全 強 化 策 が 提 案 されている ブラジルは 国 営 石 油 会 社 Petrobras を 中 心 に 大 水 深 開 発 が 進 展 しているが 同 国 政 府 としては 米 国 の 規 制 強 化 の 動 きを 注 意 深 く 見 守 るという 態 度 を 示 している ノルウェーでは 原 因 がはっき りするまで 大 水 深 域 に 関 して 新 規 付 与 を 一 時 見 合 わせたいとの 意 向 が 石 油 エネルギー 大 臣 から 示 されている 同 国 は 他 方 で 現 行 の 安 全 及 び 環 境 規 制 に 関 しては 世 界 最 高 水 準 にあると 自 負 する 大 水 深 を 含 む 沖 合 油 ガス 田 を 擁 する 英 国 は 現 在 の 安 全 規 制 を 見 直 すとともに 定 期 的 な 検 査 を 増 やすことを 念 頭 に 強 化 策 を 検 討 していることが 明 らかになった 同 様 の 動 きは 他 の 産 油 国 でも 十 分 に 考 えられる 4.まとめ 4 月 20 日 の 事 故 発 生 から2ヶ 月 が 経 過 した 6 月 初 めに 油 の 一 部 回 収 が 始 まり 8 月 中 旬 には リリーフ 井 による 井 戸 からの 油 阻 止 を 行 う 作 戦 が 想 定 され 事 態 収 束 が 見 られる 中 で 事 故 に 関 する
議 論 は 事 故 原 因 のほか 政 策 的 動 向 及 び 上 流 事 業 への 影 響 に 移 りつつある 上 流 事 業 への 影 響 について その 最 終 的 な 規 模 は 現 時 点 で 定 量 的 に 推 し 量 れるものではないもの の 定 性 的 には 安 全 規 制 の 強 化 補 償 問 題 さらに 他 の 産 油 国 での 対 応 を 通 じて 今 後 の 上 流 開 発 に 長 期 的 に 影 響 を 及 ぼす 可 能 性 が 十 分 に 想 定 される 参 考 米 国 上 流 業 界 の 反 応 について(ヒューストン 事 務 所 より) 米 国 では 石 油 メジャー 企 業 の 多 くが 加 盟 する API(American Petroleum Institute: 会 員 企 業 約 400 社 )と 独 立 系 企 業 の 多 くが 加 盟 する IPAA(Independent Petroleum Association of Americas: 会 員 企 業 は 数 千 社 )が 存 在 する API IPAAまたはメキシコ 湾 岸 地 元 事 業 者 の 反 応 A.6ヶ 月 間 の 大 水 深 域 掘 削 禁 止 と 規 制 強 化 について: メキシコ 湾 岸 域 での 経 済 活 動 停 滞 と 雇 用 喪 失 ( 石 油 ガス 産 業 : 米 全 体 920 万 人 メキシコ 湾 開 発 関 連 で 17 万 人 雇 用 ) と 海 外 依 存 度 の 高 まりが 懸 念 される 事 業 者 からは 大 水 深 での 掘 削 活 動 を 全 面 禁 止 など 行 き 過 ぎであるとして 中 間 選 挙 に 向 けた 民 主 党 共 和 党 双 方 にとっての 政 治 道 具 との 意 見 もある 対 応 の 必 要 性 を 是 認 しつつも 規 制 強 化 策 の 検 討 の 前 に 十 分 な 原 因 調 査 を 求 めている 産 業 界 が 積 極 的 に 関 与 することによってベストプラクティスに 基 づく 有 益 かつ 現 実 的 な 規 制 に 繋 がるとの 意 見 もある APIとしても 安 全 環 境 保 全 対 策 ガイドラインの 見 直 しを 開 始 している B. 油 濁 責 任 者 への 補 償 額 引 き 上 げについて 中 小 企 業 の 締 め 出 しと 批 判 している 保 険 市 場 からの 資 金 保 証 だけでは 必 要 証 明 額 をカバーで きなくなる API IPAAともに 基 金 の 増 額 の 必 要 性 について 十 分 に 精 査 すべきと 慎 重 な 姿 勢 を 議 会 に 求 めている