の 地 域 愛 着 醸 成 と 交 通 行 動 ~ 自 動 車 非 利 用 への 積 極 性 の 影 響 について~ 鈴 木 春 菜 1 万 本 怜 司 2 榊 原 弘 之 3 1 正 会 員 山 口 大 学 大 学 院 助 教 理 工 学 研 究 科 ( 755-8611 山 口 県 宇 部 市 常 盤 台 2-16-1) E-mail:suzuki-h@yamaguchi-u.ac.jp 2 会 員 山 口 大 学 大 学 院 理 工 学 研 究 科 ( 755-8611 山 口 県 宇 部 市 常 盤 台 2-16-1) 3 正 会 員 山 口 大 学 大 学 院 准 教 授 理 工 学 研 究 科 ( 755-8611 山 口 県 宇 部 市 常 盤 台 2-16-1). 本 研 究 は, 交 通 行 動 が 地 域 愛 着 に 及 ぼす 影 響,ならびに 自 動 車 非 利 用 者 の 積 極 性 が 地 域 愛 着 醸 成 に 及 ぼ す 影 響 について 検 証 することを 目 的 とした. に 対 するアンケート 調 査 のデータから, 自 動 車 を 利 用 した 外 出 が 多 い 被 験 者 ほど 地 域 愛 着 ( 選 好 )が 低 く, 徒 歩 での 外 出 が 多 い 被 験 者 ほど 地 域 愛 着 ( 選 好 )が 高 いという, 仮 説 を 支 持 する 結 果 が 得 ら れた. また, 交 通 不 便 地 域 に 居 住 する の 調 査 と 一 般 の の 調 査 の 結 果 を 比 較 し, 消 極 的 自 動 車 非 利 用 者 は, 自 動 車 利 用 者,あるいは 積 極 的 自 動 車 非 利 用 者 よりも 地 域 愛 着 の 程 度 が 低 いという 仮 説 を 支 持 する 結 果 が 得 られた. 自 動 車 が 利 用 できない 場 合, 活 動 機 会 が 制 約 されるためであると 考 えられ, 自 動 車 利 用 者 と 非 利 用 者 の 移 動 格 差 が 存 在 すると 推 察 される. Key Words : place attachment, passive non-user of automobile, mobility gap 1. はじめに 人 々の 地 域 への 想 い,また, 時 にもたらされる 協 力 的 献 身 的 な 関 与 は, 地 域 社 会 の 持 続 的 な 発 展 に 大 きく 寄 与 する. 例 えば,まちづくりを 成 功 に 導 く 上 では,ご く 少 数 の 熱 心 に 取 組 む 人 の 存 在 が 極 めて 重 要 であり 1), このような 人 々の 存 在 には 周 囲 の 人 々がこのような 行 動 に 感 謝 することが 有 効 である 2) ことが 知 られている.こ のような 献 身 的 な 関 与 はもちろん, 地 域 に 資 する 協 力 行 動 への 感 謝 もまた, 地 域 への 肯 定 的 な 態 度 から 育 まれる であろうと 考 えられる. 既 往 研 究 においても, 居 住 地 域 への 愛 着 が 強 いほど 地 域 活 動 に 参 加 する, 行 政 への 信 頼 が 高 くなるなどの 傾 向 が 示 されている 3),4). 地 域 愛 着 の 醸 成 に 影 響 を 及 ぼす 規 定 因 については, 年 齢 や 居 住 年 数 などの 個 人 属 性 の 他, 地 域 に 存 在 する 慣 習 祭 事 や, 治 安 行 政 サービスといった 社 会 的 な 環 境, 立 地 している 施 設 や 手 に 入 る 商 品, 自 然 環 境 といった 物 質 的 な 環 境 への 主 観 的 評 価 などの 諸 要 素 が 地 域 愛 着 に 影 響 を 及 ぼしうる 可 能 性 が 示 唆 されている 5). 筆 者 らの 既 往 研 究 6) では, 地 域 愛 着 への 規 定 因 として 風 土 との 関 わり の 重 要 性 を 指 摘 し, 個 人 が 地 域 に 内 在 する 種 々の 地 物 や 風 景 等 を 見 たり 触 れたり 眺 めたりす る 機 会 (= 地 域 風 土 との 接 触 機 会 )が 多 いほど, 地 域 愛 着 が 強 いであろうという 仮 説 を 検 証 した. 萩 原 ら 7) は, 移 動 中 の 交 通 手 段 の 違 いによって, 風 土 との 接 触 量 に 生 じる 違 いについて 検 証 し, 徒 歩 や 自 転 車 など 速 度 が 遅 く 短 距 離 の 移 動 が 多 い 場 合 は 居 住 する 地 域 の 地 域 風 土 との 接 触 量 が 多 い 一 方 で, 自 動 車 や 鉄 道 など 速 度 が 速 く 長 距 離 の 移 動 が 多 い 場 合 は 車 の 利 用 は 風 土 との 接 触 量 を 低 下 させる 傾 向 があることを 示 している. このように,これまでに 交 通 行 動 の 差 異 による 地 域 風 土 との 接 触 量 の 差 異,あるいは 地 域 風 土 との 接 触 による 地 域 愛 着 醸 成 の 差 異 についてはそれぞれ 示 されているも のの, 交 通 行 動 と 地 域 愛 着 の 関 係 については 直 接 的 には 示 されていない. 地 域 風 土 接 触 量 が 変 化 してから 地 域 愛 着 醸 成 程 度 の 変 化 が 導 かれるには 時 間 がかかることが 指 摘 されており 6), 既 居 住 者 を 対 象 として 調 査 をする 場 合, 被 験 者 の 地 域 愛 着 は 長 期 間 に 蓄 積 された 風 土 接 触 により 醸 成 されたものであり, 短 期 間 の 行 動 の 変 化 では 変 容 し にくいことが 一 因 ではないかと 考 えられる.つまり, 当 該 地 域 への については, 転 入 前 に 当 該 地 域 への 接 触 がほとんどなく,その 程 度 が 同 じであると 想 定 される なら, 転 入 後 の 風 土 接 触 量 が 当 該 地 域 への 地 域 愛 着 によ り 強 い 影 響 を 及 ぼすのではないかと 考 えられる. 以 上 を 1
踏 まえて, 本 研 究 では 以 下 の 仮 説 を 措 定 した. 仮 説 1 : 転 入 後 に 自 動 車 鉄 道 の 利 用 割 合 が 低 い 人 ほど 地 域 愛 着 が 低 く, 徒 歩 自 転 車 の 利 用 割 合 が 高 い 人 ほど 地 域 愛 着 が 高 い 用 者 は, 自 動 車 利 用 者,あるいは 積 極 的 自 動 車 非 利 用 者 よりも 地 域 愛 着 の 程 度 が 低 い 本 研 究 では, を 対 象 にアンケート 調 査 を 実 施 し 上 記 の 仮 説 を 検 証 することとした. さて, 先 述 したとおり, 自 動 車 や 鉄 道 などの 移 動 が 多 い 人 は 地 域 風 土 と 接 触 する 機 会 が 少 なく, 地 域 愛 着 の 醸 成 程 度 が 低 下 してしまう 可 能 性 が 指 摘 されている. 利 用 する 交 通 手 段 が 地 域 愛 着 醸 成 にこのような 方 向 に 影 響 を 及 ぼすのは, 居 住 地 域 内 の 移 動 に 複 数 の 交 通 手 段 を 用 い ることができるような 地 域 であると 考 えられる. しかしながら, 自 動 車 を 用 いないと 地 域 内 の 移 動 が 困 難 であるような 地 域 においては, 自 動 車 を 用 いることが できない 状 況 が, 逆 に 地 域 風 土 との 接 触 を 制 約 する 条 件 となってしまうとも 想 定 される. 例 えば, 地 方 都 市 郊 外 部 の 居 住 者 など, 自 動 車 を 利 用 しないと 生 活 に 必 要 な 諸 活 動 が 著 しく 制 限 されるような 地 域 では, 自 動 車 を 使 えない 人 は 地 域 風 土 との 接 触 機 会 が 少 なくなってしま うと 考 えられる.すなわち, 自 動 車 を 所 有 しているが 環 境 や 健 康 に 及 ぼす 影 響 などを 考 慮 して 利 用 しない 人,あ るいは 自 動 車 利 用 の 必 要 性 を 感 じておらず 実 際 に 所 有 し ていない 人 ( 積 極 的 自 動 車 非 利 用 者 )と, 居 住 地 域 の 生 活 環 境 の 制 約 などから 自 動 車 を 利 用 したくとも, 身 体 的 経 済 的 状 況 などから 自 動 車 を 利 用 できない 人 ( 消 極 的 自 動 車 非 利 用 者 )とでは,おなじ 自 動 車 非 利 用 者 でも 地 域 風 土 との 接 触 機 会 が 異 なり, 地 域 愛 着 醸 成 の 効 果 も 異 なると 考 えられる. 国 内 の 地 方 都 市 では, 商 業 施 設 の 郊 外 化 大 規 模 化 に よる 買 い 物 難 民 の 発 生 などに 示 される 高 齢 者 や, 若 者 短 期 居 住 者 など 消 極 的 自 動 車 非 利 用 者 が 多 数 存 在 してい る.このような 消 極 的 自 動 車 非 利 用 者 のうち, 本 研 究 で 着 目 したいのは 大 である. 近 年, 大 都 市 圏 の 一 部 の 大 学 で 都 心 のキャンパスに 移 転 増 設 するなどの 動 きが みられるものの, 郊 外 に 立 地 している 大 学 は 多 い. 特 に 規 模 の 大 きい 大 学 では, 用 地 確 保 などの 観 点 から 郊 外 部 にキャンパスを 所 有 している 大 学 が 多 い.しかしながら, 自 動 車 の 保 有 には 多 額 の 費 用 が 必 要 であり, 経 済 状 況 等 から 自 動 車 の 維 持 が 困 難 である も 少 なくないであろ う.そのような は 自 転 車 や 徒 歩 で 通 学 するためにキ ャンパスの 近 くに 居 住 することが 多 いと 想 定 され,さら に 社 会 的 活 動 の 機 会 を 制 限 することにつながっているの ではないかと 懸 念 される.そして,そのような 地 域 での 活 動 機 会 が 減 少 することによって, 当 該 地 域 への 愛 着 醸 成 にも 影 響 を 及 ぼすと 考 えられる. 以 上 を 踏 まえ, 本 研 究 ではいかの 仮 説 を 措 定 した. 仮 説 2: 地 方 都 市 郊 外 部 に 居 住 する 消 極 的 自 動 車 非 利 2. 調 査 (1) 調 査 の 概 要 本 研 究 では 山 口 県 宇 部 市 に 転 入 届 を 提 出 した を 対 象 としてアンケート 調 査 を 実 施 した.また, 大 に ついては 転 入 届 を 提 出 せずに 居 住 している 可 能 性 が 高 い ため, 別 途 調 査 を 実 施 した. まず,2010 年 11 月 に 宇 部 市 の を 対 象 とした 調 査 を 実 施 した. 同 年 6 月 から9 月 の 間 に 宇 部 市 に 転 入 届 を 提 出 した600 世 帯 の 世 帯 主 宛 に 郵 送 で 配 布 回 収 を 行 った. 有 効 回 答 数 は206 人 で, 回 収 率 は34.3%であった. 回 答 者 206 人 のうち, 男 性 は127 名 (62.0%), 女 性 は78 名 (38.0%), 不 明 1 名 であった. 回 答 者 の 年 齢 は, 平 均 41.01 歳, 標 準 偏 差 16.591 歳, 最 低 19 歳, 最 高 93 歳 であっ た. 大 対 象 の 調 査 は, 山 口 大 学 工 学 部 で 実 施 した. 山 口 大 学 工 学 部 では,1 年 次 は 市 外 に 位 置 する 別 のキャン パスに 所 属 し,2 年 次 から 宇 部 市 にあるキャンパスに 所 属 する.このため, 宇 部 市 で 生 活 するのは2 年 次 以 降 で ある.1 年 次 所 属 キャンパスと 宇 部 市 との 都 市 間 交 通 が 充 実 しておらず,2 年 進 学 時 に 宇 部 市 に 転 入 する が 多 い.このため, 工 学 部 の2 年 生 を 対 象 としてアンケー ト 調 査 を 実 施 した.2 年 次 から 所 属 するキャンパスは 市 街 地 から3.5kmほど 離 れた 台 地 に 立 地 している. 周 辺 は 住 宅 地 であり, 近 隣 店 舗 も 少 ない. の 多 くが 自 動 車 を 保 有 しているが, 自 動 車 を 保 有 していない も 半 数 近 くおり,このような が 自 動 車 の 消 極 的 非 利 用 者 と なっていると 考 えられる. 調 査 対 象 は 工 学 部 社 会 建 設 工 学 科, 感 性 デザイン 工 学 科 の2 年 生 であり,2010 年 7 月 に 実 施 した. 社 会 建 設 工 学 科 80 人 中 78 名, 感 性 デザイン 工 学 科 70 人 中 68 名, 合 計 146 名 から 回 答 が 得 られ, 回 収 率 は97.3%であった. 回 答 者 146 人 のうち, 男 性 は119 名 (82.6%), 女 性 は25 名 (17.4%), 不 明 2 名 であった. 回 答 者 の 年 齢 は, 平 均 19.73 歳, 標 準 偏 差 0.928 歳, 最 低 18 歳, 最 高 23 歳 であった. (2) 調 査 項 目 調 査 項 目 は, 日 常 の 交 通 行 動, 宇 部 市 への 意 識, 個 人 属 性 である. 以 下, 各 項 目 について 述 べる. a) 日 常 の 交 通 行 動 自 動 車 鉄 道 バスを 用 いた 外 出 回 数,ならびに 自 転 2
車 のみ 徒 歩 のみ 外 出 回 数 について, 平 日 の 場 合 休 日 の 場 合 のそれぞれについて 尋 ねた. 回 答 結 果 から 各 交 通 手 段 のひと 月 あたりの 交 通 生 成 量 と 分 担 率 を 算 出 し 用 い た. b) 宇 部 市 への 愛 着 ( 選 好 )に 関 する 調 査 項 目 地 域 愛 着 の 測 定 項 目 として, 既 往 研 究 6) によって 短 期 に 醸 成 されると 指 摘 されている 地 域 愛 着 ( 選 好 )を 用 い た.これは, 当 該 地 域 に 対 する 個 人 的 な 選 好 ( 好 き 嫌 い)の 程 度 を 意 味 する 地 域 愛 着 の 一 要 素 である. 地 域 愛 着 の 構 成 尺 度 として, 他 に 当 該 地 域 を 大 切 に 思 い, 愛 着 を 感 じ, 住 み 続 けたいと 感 じる,という 要 素 を 意 味 す る 地 域 愛 着 ( 感 情 ), 当 該 地 域 の 永 続 を 願 う 愛 着 要 素 で ある, 地 域 愛 着 ( 持 続 願 望 )があるが,これらの 愛 着 要 素 は 長 期 間 に 醸 成 されることが 示 されており, 今 回 の 調 査 は 転 入 後 間 もない 被 験 者 を 対 象 とするため 省 いた. 本 研 究 では, 地 域 愛 着 ( 選 好 )を 構 成 する 質 問 項 目 の うち 宇 部 市 に お 気 に 入 りの 場 所 がある 宇 部 市 が 好 きだ 宇 部 市 では リラックスできる という 質 問 を 用 いた.それぞれ, とてもそう 思 う と 全 くそう 思 わない を 両 端 とする5 件 法 で 尋 ねた. c) 個 人 属 性 に 関 する 調 査 項 目 個 人 属 性 について 以 下 の 項 目 を 尋 ねた: 年 齢 性 別 自 動 車 保 有 の 有 無 自 転 車 保 有 の 有 無 3. 結 果 (1) 交 通 分 担 率 の 算 出 まず, 両 調 査 から 得 られた 結 果 をもとに 宇 部 市 の 一 般 と 大 の 交 通 分 担 率 をそれぞれ 算 出 した.その 結 果 を 表 1に 示 す. 一 般 の は65.7%, の は28.9%であった. (2) の 地 域 愛 着 に 交 通 行 動 が 及 ぼす 影 響 につい て 転 入 後 の 交 通 行 動 が の 地 域 意 識 に 影 響 を 与 える という 仮 説 を 検 証 するため, 一 般 の 調 査 結 果 を 用 いて, 交 通 手 段 別 外 出 割 合 と 地 域 愛 着 ( 選 好 )の 相 関 分 析 を 行 った. 結 果 を 表 2 示 す. 自 動 車 を 用 いた 外 出 の 割 合 と 宇 部 市 への 愛 着 ( 選 好 )の 各 項 目 が 統 計 的 有 意 に 負 の 相 関 を 示 す 一 方, 徒 歩 についてはいずれも 有 意 に 正 の 相 関 を 示 し た.これは,1.で 措 定 した 仮 説 を 部 分 的 に 支 持 するも のであり, 自 動 車 による 外 出 の 割 合 が 多 い 人 ほど 地 域 愛 着 ( 選 好 )が 低 く, 宇 部 市 にお 気 に 入 りの 場 所 を 見 出 し づらくなったり, 好 きでなくなったり,リラックスでき なくなったりする,という 傾 向 を 示 す 結 果 である. 一 方, 徒 歩 については 逆 の 効 果 があると 考 えられる.また, 自 3 動 車 保 有 が 地 域 愛 着 ( 選 好 )に 及 ぼす 影 響 について, 自 動 車 保 有 有 無 別 の 各 項 目 の 平 均 値 を 比 較 した. 図 1に 示 される 通 り,いずれも 非 保 有 者 において 平 均 値 が 高 く, お 気 に 入 りの 場 所 があるかどうか, 及 び 市 への 好 意 度 に ついてはこの 差 が 統 計 的 に 有 意 であった. (3) の 自 動 車 利 用 の 状 況 と 交 通 行 動 が 地 域 愛 着 に 及 ぼす 影 響 について 大 を 対 象 とした 調 査 からは,まず 被 験 者 の 居 住 地 と 自 動 車 の 利 用 状 況 について 調 査 した. 被 験 者 の 通 学 時 間 は 平 均 9.4 分 で,89%が 大 学 から 徒 歩 15 分 以 内 の 範 囲 に 居 住 していた. 自 動 車 の 保 有 率 は 41%であった. 表 1 宇 部 市 交 通 分 担 率 2010 年 (%) 2006 年 調 査 一 般 平 日 休 日 自 動 車 65.7 28.9 80.0 80.5 鉄 道 2.6 2.0 バス 4.7 0.4 2.4 2,4 自 転 車 11.9 43.1 6.9 7.1 徒 歩 15.1 20.9 5.1 5.7 その 他 - - 5.6 6.7 合 計 100.0 100.0 100 100 8) 2006 年 調 査 は 宇 部 市 南 部 地 域 で 実 施 した OD 調 査 表 2 交 通 手 段 別 外 出 割 合 と 地 域 愛 着 ( 選 好 )の 相 関 分 析 ( 一 般 ) 各 交 通 手 段 外 出 割 合 n=199 宇 部 市 にお 気 に 入 りの 場 所 がある 宇 部 市 が 好 き 宇 部 市 は リラックス できる 自 動 車 r -.209** -.201** -.142* p 4.011.046 鉄 道 r -.119 -.048 -.055 p.095.496.440 バス r.119.066.051 p.095.353.476 自 転 車 のみ r.103.074.037 p.149.297.607 徒 歩 のみ r.186**.182*.173* p 8.010.015 r= 相 関 係 数,p=r の p 値,n=サンプル 数 *p<.05, **p<.01 4 3.5 3 2.5 2 p=.018 p=.039 p=.103 2.98 3.59 3.09 3.55 3.17 3.55 お 気 に 入 りの 場 所 宇 部 市 がすき リラックスできる 自 動 車 保 有 自 動 車 非 保 有 図 1 自 動 車 保 有 有 無 別 の 宇 部 市 への 意 識 ( 一 般 )
表 3 交 通 手 段 別 外 出 割 合 と 地 域 愛 着 ( 選 好 )の 相 関 分 析 ( ) 各 交 通 手 段 外 出 割 合 n=136 宇 部 市 にお 気 に 入 りの 場 所 がある 宇 部 市 が 好 き 宇 部 市 は リラックス できる 自 動 車 r.074.221*.150 p.394.010.081 鉄 道 r -.118 -.125 -.152 p.170.149.077 バス r.134.016.099 p.120.852.251 自 転 車 のみ r -.071 -.199* -.132 p.414.020.127 徒 歩 のみ r.037.048.028 p.669.582.743 r= 相 関 係 数,p=r の p 値,n=サンプル 数 *p<.05, **p<.01 4 3 3 2 2 1 1 宇 部 市 にお 気 に 入 りの 場 所 がある 4 3 次 に, 一 般 と 同 様 に 交 通 手 段 別 外 出 割 合 と 宇 部 市 への 意 識 の 相 関 分 析 を 行 った.その 結 果 を 表 3に 示 す. この 結 果, 宇 部 市 が 好 き の 項 目 について, 自 動 車 を 用 いた 外 出 の 割 合 が 正 に, 自 転 車 のみの 外 出 の 割 合 が 負 に,それぞれ 統 計 的 有 意 な 相 関 を 示 した.これは, 既 往 研 究 で 述 べられており, 一 般 の 調 査 の 結 果 から も 示 された 交 通 行 動 が 地 域 愛 着 に 及 ぼす 影 響 と 逆 の 方 向 である. 3 2 2 1 1 (4) 自 動 車 非 利 用 の 積 極 性 が 地 域 愛 着 に 及 ぼす 影 響 に ついて 大 の 被 験 者 において, 自 動 車 を 使 う 割 合 が 高 いほ ど 地 域 愛 着 ( 選 好 )が 高 く, 自 転 車 のみを 使 う 外 出 の 割 合 が 高 いほど 地 域 愛 着 ( 選 好 )が 低 くなる 理 由 として, 仮 説 2で 述 べたとおり, には 消 極 的 な 自 動 車 非 利 用 者 が 多 く 地 域 愛 着 が 低 くなったと 考 えられる. 一 般 利 用 者, の 被 験 者 の の 分 布 を 表 4に 示 す. 一 般 居 住 者 では,45%が 100%, 自 動 車 を 利 用 していない 被 験 者 は17%であるのに 対 し, は 自 動 車 を 全 く 利 用 しない 被 験 者 が43%であった. 表 4に 示 した 分 担 率 の 分 類 毎 の, 地 域 愛 着 ( 選 好 )の 各 項 目 の 平 均 値 を 図 2に 示 す. まず,いずれの 項 目 についても, は 自 動 車 分 担 表 4 の 分 布 自 動 車 外 出 割 合 一 般 居 住 者 n % n % 0% 31 17 63 43 1~50% 25 14 48 33 51~% 45 24 23 16 100% 82 45 12 8 合 計 183 100 146 100 宇 部 市 が 好 き 4 3 3 2 2 1 1 宇 部 市 はリラックスできる 図 2 地 域 愛 着 ( 選 好 ) 各 項 目 の 自 動 車 利 用 状 況 別 回 答 平 均 値 率 が0%の 被 験 者 の 回 答 が 最 も 高 く, の 増 加 につれて 回 答 値 が 低 下 する 傾 向 が 示 された. につ いては, 逆 の 傾 向 が 示 された. について, 自 動 車 分 担 率 が0%の と 少 しでも 自 動 車 を 使 っているそれ 以 外 の との 回 答 の 平 均 値 の 差 を 検 定 したところ, 宇 部 市 が 好 き 宇 部 市 はリラックスできる の 各 項 目 に 4
おいてこの 差 が 統 計 的 に 有 意 であった.また, 一 般 転 入 者 と の が0%の 被 験 者 について, 回 答 値 の 差 を 検 定 したところ 全 ての 項 目 についてこの 差 が 統 計 的 に 有 意 であった.また, が100%の 被 験 者 については, と の 回 答 値 の 間 に 有 意 な 差 はなかった. この 結 果 は, が 自 動 車 を 利 用 できれば 一 般 の 居 住 者 と 同 様 の 地 域 風 土 との 接 触 機 会 が 得 られるものの, 自 動 車 を 利 用 できないことで 逆 に 地 域 風 土 との 接 触 機 会 を 逸 している 可 能 性 を 示 唆 するものであり, 仮 説 2を 支 持 する 結 果 であると 考 えられる. 4. おわりに 本 研 究 では, に 対 するアンケート 調 査 を 用 い, 交 通 行 動 が 地 域 愛 着 に 及 ぼす 影 響,ならびに 自 動 車 非 利 用 者 の 積 極 性 が 地 域 愛 着 醸 成 に 及 ぼす 影 響 について 検 証 した. その 結 果, 調 査 のデータからは, 自 動 車 を 利 用 した 外 出 が 多 い 被 験 者 ほど 地 域 愛 着 ( 選 好 )が 低 く, 徒 歩 での 外 出 が 多 い 被 験 者 ほど 地 域 愛 着 ( 選 好 )が 高 いと いう, 仮 説 を 支 持 する 結 果 が 得 られた. また, 交 通 不 便 地 域 に 居 住 する の 調 査 と 一 般 の 転 入 者 の 調 査 の 結 果 を 比 較 し, 消 極 的 自 動 車 非 利 用 者 は, 自 動 車 利 用 者,あるいは 積 極 的 自 動 車 非 利 用 者 よりも 地 域 愛 着 の 程 度 が 低 いという 仮 説 を 支 持 する 結 果 が 得 られ た. 自 動 車 の 消 極 的 非 利 用 者 は, 自 動 車 の 利 用 による 地 域 風 土 との 接 触 量 の 低 下 よりも, 自 動 車 が 利 用 できない ことによる 地 域 風 土 との 接 触 機 会 の 減 少 に 大 きな 影 響 を 受 け, 地 域 愛 着 が 低 くなったと 考 えられる. 自 動 車 利 用 が 可 能 であるか 否 かで 活 動 機 会 が 制 約 され る 地 域 は, 自 動 車 利 用 者 と 非 利 用 者 の 移 動 格 差 が 存 在 す ると 考 えられる.このような 地 域 では, 徒 歩 や 自 転 車 で の 活 動 機 会 を 増 加 するとともに,カーシェアリングの 導 入 など 自 動 車 利 用 機 会 を 提 供 するような 施 策 が 求 められ ると 考 えられる. 参 考 文 献 1) 羽 鳥 剛 史, 藤 井 聡, 住 永 哲 史 : 地 域 カリスマ の 活 力 に 関 する 解 釈 学 的 研 究 :インタビューを 通 した 観 光 カリス マ の 実 践 描 写, 土 木 技 術 者 実 践 論 文 集, 1, pp. 122-136, 2010. 2) 藤 井 聡, 松 山 公 紀 : まちづくり 問 題 に 関 する 進 化 論 的 検 討 (2) 利 他 的 行 動 と 感 謝 の 創 発 に 関 す る 進 化 シミュレーション 分 析 と 実 証 分 析, 土 木 計 画 学 研 究 講 演 集 vol.32,2005. 3) 鈴 木 春 菜, 藤 井 聡 : 地 域 愛 着 が 地 域 への 協 力 行 動 に 及 ぼす 影 響 に 関 する 研 究, 土 木 計 画 学 研 究 論 文 集, 土 木 学 会 土 木 計 画 学 研 究 委 員 会,25(2),pp. 357-362, 2008. 4) 引 地 博 之, 青 木 俊 明, 大 渕 憲 一 : 地 域 に 対 する 協 力 行 動 の 要 因 : 地 域 に 対 する 評 価 と 愛 着 の 効 果, 日 本 社 会 心 理 学 会 第 48 回 大 会 発 表 論 文 集, pp.456-457, 2007. 5) Brown, G., Brown, B. & Perkins, D.: New housing as neighborhood revitalization place attachment and confidence among residents-, Environmental and behavior, vol.36 No.6, pp.749-775, 2004. 6) 鈴 木 春 菜, 藤 井 聡 : 地 域 風 土 への 移 動 途 上 接 触 が 地 域 愛 着 に 及 ぼす 影 響 に 関 する 研 究, 土 木 学 会 論 文 集 D, 土 木 学 会,Vol.64,No. 2,pp.179-189, 2008. 7) 萩 原 剛, 藤 井 聡 : 交 通 行 動 が 地 域 愛 着 に 与 える 影 響 に 関 する 分 析, 土 木 計 画 学 研 究 講 演 集,2005. 8) 山 口 大 学 : 宇 部 市 における 環 境 負 荷 低 減 に 向 けた 公 共 交 通 機 関 利 用 促 進 策 報 告 書, 宇 部 市 委 託 研 究, 2007 5