特 集 実 用 新 案 制 度 の 改 正 4 改 正 実 用 新 案 制 度 について 思 う 会 員 山 本 晃 司 目 次 1.はじめに 2. 実 用 新 案 制 度 の 利 用 状 況 の 把 握 (1) 審 議 会 の 参 考 資 料 の 検 討 (2) 審 議 会 における 肯 定 的 意 見 3. 実 用 新 案 制 度 の 使 い 勝 手 と 平 成 15 年 法 改 正 が 与 える 影 響 について (1) 明 細 書 の 整 備 に 関 する 自 由 度 について (2) 特 許 出 願 と 実 用 新 案 登 録 出 願 との 選 択 について (3) 存 続 期 間 の 延 長 について (4) 実 用 新 案 制 度 の 存 在 価 値 についての 付 言 4.おわりに 1.はじめに 平 成 5 年 の 法 改 正 により 実 用 新 案 制 度 が 無 審 査 登 録 制 へ 移 行 してから 10 年 余 の 期 間 が 経 過 した 法 改 正 当 時 は, 特 許 制 度 との 役 割 分 担 が 明 確 化 されたことに より 相 応 の 利 用 があるのではないかとの 期 待 的 意 見 と, 権 利 の 不 安 定 さ 等 を 理 由 とする 無 審 査 登 録 制 への 懐 疑 的 な 意 見 とが 入 り 交 じっていたように 思 うが,こ の 10 年 間 の 現 実 はどうであったろうか 出 願 数 でみ れば, 平 成 5 年 の 旧 制 度 における 出 願 数 が 約 7.7 万 件 であったところ, 平 成 5 年 改 正 の 施 行 直 後 の 平 成 6 年 の 出 願 数 は 約 1 万 6 千 件 へと 激 減 し, 以 降 出 願 数 は 漸 次 減 少 して 平 成 14 年 は 8 千 件 程 度 であったという (1) さて,この 減 少 傾 向 を 捉 えて 実 用 新 案 制 度 の 意 義 はな くなったと 見 るべきなのか,それとも 未 だに 制 度 維 持 の 要 請 があると 見 るべきなのか 正 直 なところ, 筆 者 は 無 審 査 登 録 制 における 実 用 新 案 登 録 出 願 を 殆 ど 経 験 しておらず,どちらかと 言 えば 前 者 寄 りの 立 場 であっ た しかしながら, 本 稿 の 依 頼 をきっかけとして, 筆 者 は 産 業 構 造 審 議 会 知 的 財 産 政 策 部 会 特 許 制 度 小 委 員 会 の 実 用 新 案 制 度 ワーキンググループ( 以 下, 実 用 新 案 制 度 WG と 略 す )の 平 成 15 年 法 改 正 に 関 する 審 議 資 料 等 を 改 めて 通 読 してみた また, 筆 者 の 周 囲 の 実 務 家 にも 実 用 新 案 制 度 の 利 用 状 況 について 問 うてみ た その 結 果 として 実 用 新 案 制 度 の 利 用 にはそれなり の 理 由 があり, 制 度 の 存 在 価 値 はあながち 否 定 できな いことを 実 感 した 無 審 査 登 録 制 度 移 行 後 の 出 願 動 向 から 見 て, 実 用 新 案 制 度 に 対 し 制 度 の 存 在 価 値 に 懐 疑 的 な 印 象 を 持 っている 弁 理 士 は 少 なくないと 推 察 する が, 平 成 15 年 法 改 正 を 踏 まえて, 今 一 度, 実 用 新 案 制 度 の 存 在 価 値 を 検 討 しておくことも 無 駄 ではないで あろう 筆 者 が 感 じたことを 少 しでもお 伝 えできれば と 思 い 本 稿 を 執 筆 した 次 第 である 2. 実 用 新 案 制 度 の 利 用 状 況 の 把 握 (1) 審 議 会 の 参 考 資 料 の 検 討 従 来 の 無 審 査 登 録 制 度 ( 平 成 15 年 改 正 前 の 制 度 ) については, 早 期 権 利 化 に 対 して 一 定 の 魅 力 を 感 じつ つも, 存 続 期 間 が 出 願 後 6 年 と 短 い( 実 15 条 ), 技 術 評 価 書 を 提 示 しなければ 行 使 ができない( 実 29 条 の 2), 権 利 行 使 を 基 礎 付 ける 実 用 新 案 登 録 が 無 効 となっ た 場 合 に 無 過 失 を 証 明 しない 限 り 損 害 賠 償 責 任 を 負 う ( 実 29 条 の 3), 過 失 の 推 定 規 定 ( 特 103 条 )の 準 用 がない( 実 30 条 ), 登 録 後 は 請 求 項 の 削 除 しか 訂 正 が できない( 実 14 条 の 2),といった 権 利 行 使 に 対 する 制 限 が 大 きいがために 特 許 出 願 を 選 択 せざるを 得 ない というのが 我 々の 一 般 的 な 認 識 であったように 思 う このような 認 識 は, 実 用 新 案 制 度 WG が 参 照 したア ンケート 調 査 の 結 果 (2) からも 伺 える しかしながら,アンケート 調 査 結 果 では, 回 答 者 を 資 本 金 1 億 円 以 上 の 大 企 業,1 億 円 未 満 の 中 小 企 業, 及 び 個 人 に 区 分 して, 区 分 毎 に 回 答 を 集 計 しているが, これらの 区 分 間 で 回 答 状 況 が 幾 分 異 なることに 注 意 し たい 例 えば, 制 度 の 利 用 度 に 関 するアンケートでは, 大 企 業 の 59%が 制 度 改 正 があっても 実 用 新 案 制 度 を 全 く 利 用 しないと 答 える 一 方, 中 小 企 業 及 び 個 人 で 同 一 回 答 をしたものはそれぞれ 27%,21%に 止 まって いる さらに, 特 許 制 度 と 実 用 新 案 制 度 とを 併 存 させ る 必 要 性 に 関 しては, 大 企 業 の 75%が 特 許 制 度 だけ で 十 分 とする 一 方, 中 小 企 業 の 59%, 個 人 の 71%は Vol. 57 No. 10-22 - パテント 2004
併 存 が 必 要 と 回 答 している また, 平 成 5 年 改 正 法 の 下 における 実 用 新 案 の 国 内 出 願 人 の 内 訳 は 約 60%が 法 人, 約 40%が 個 人 で 占 め られており, 法 人 出 願 の 約 45%は 中 小 企 業 による 出 願 であるという (3) 特 許 出 願 の 内 訳 は 法 人 が 約 95%, 約 5%が 個 人 である これらの 状 況 から 察 するに, 無 審 査 登 録 制 へ 移 行 後 の 実 用 新 案 制 度 は 中 小 企 業 や 個 人 の 利 用 によって 支 え られている 側 面 が 特 許 制 度 に 比 して 遙 かに 大 きく,こ れらの 利 用 者 が 今 後 も 制 度 利 用 に 積 極 的 な 態 度 を 示 し ているようである 無 審 査 登 録 制 へ 移 行 後 の 実 用 新 案 制 度 は, 制 度 の 仕 組 みが 特 許 制 度 と 大 きく 異 なったこ とに 伴 い,その 利 用 状 況 においても 特 許 制 度 とは 異 な る 側 面 が 確 実 に 現 れている,と 言 えるであろう そし て,この 度 の 法 改 正 においても,こうした 中 小 企 業, 個 人 を 中 心 とした 利 用 者 による 制 度 存 続 の 要 望 に 応 え るべく, 制 度 廃 止 論 を 排 してさらなる 制 度 改 善 を 目 指 すこととなったようである (4) 但 し, 筆 者 はここで 念 のために 指 摘 しておきたいが, 中 小 企 業 や 個 人 によ る 制 度 存 続 の 要 望 が 大 企 業 のそれよりも 高 いというの はアンケート 調 査 が 出 願 人 の 規 模 毎 に 集 計 結 果 を 示 し たことの 反 射 として 導 かれるものに 過 ぎず, 大 企 業 に おける 実 用 新 案 制 度 存 続 の 要 望 を 全 否 定 するものでは ない 大 企 業 においても 事 案 の 性 質 によっては 実 用 新 案 制 度 が 特 許 制 度 よりも 適 応 する 局 面 が 当 然 に 存 在 す るはずである 要 は, 実 用 新 案 のメリットがより 強 く 発 揮 される 事 案 が, 大 企 業 におけるそれよりも 中 小 企 業, 個 人 において 相 対 的 に 多 いということであろう (2) 審 議 会 における 肯 定 的 意 見 では, 実 用 新 案 制 度 WG の 審 議 会 においては 実 用 新 案 制 度 の 利 用 に 対 して 具 体 的 にいかなる 意 見 が 出 て いたのであろうか 特 許 庁 ホームページで 公 開 されて いる 審 議 会 の 議 事 録 を 参 照 してみると, 実 用 新 案 制 度 の 廃 止, 特 許 制 度 への 一 本 化 を 主 張 する 意 見 が 企 業 の 立 場 から 主 張 されていることにまず 気 付 く しかしな がら, 実 用 新 案 制 度 を 肯 定 的 に 捉 えた 立 場 の 意 見 も 少 なからず 存 在 する 例 えば, 第 1 回 審 議 会 において, 玩 具 メーカー( 企 業 規 模 から 言 えば 大 企 業 である)に 所 属 の 委 員 は, 出 願 後 約 5 ヵ 月 で 登 録 を 受 けられるこ とが 非 常 に 魅 力 的 であること, 技 術 評 価 書 において(6) の 評 価 (すなわち 先 行 技 術 文 献 が 存 在 しないとの 評 価 ) を 受 けることができた 場 合 には 発 売 直 後 に 出 てくる 模 倣 品 の 排 除 に 効 果 があること, 評 価 書 (6)の 実 用 新 案 権 については 大 手 の 流 通 業 者 やそれに 付 随 する 問 屋 が 模 倣 品 を 取 り 扱 わないことを 指 摘 している また, 実 用 新 案 の 出 願 数 が 多 いという 企 業 の 委 員 からは, 模 倣 品 対 策 にとっては 特 許 制 度, 実 用 新 案 制 度, 意 匠 制 度, 商 標 制 度 のように 色 々な 制 度 があった 方 が 望 ましい, という 指 摘 がある さらに, 模 倣 品 対 策 に 関 しては 特 許 制 度 では 対 応 し 切 れない 面 があり, 半 年,1 年 のラ イフサイクルのものであっても 権 利 を 取 得 しているこ とによる 抑 止 効 果 があるという 指 摘 が 他 の 委 員 からも 出 されている このように, 製 品 のライフサイクルが 短 く, 模 倣 品 が 直 ぐに 登 場 するような 業 界 においては, 権 利 行 使 に おける 制 限 の 大 きさを 踏 まえたとしても, 早 期 権 利 化 のメリットが 大 きく,そこに 実 用 新 案 制 度 を 利 用 する 十 分 な 理 由 が 存 在 するようである 我 々が 実 用 新 案 制 度 の 存 在 価 値 を 考 えるとき, 特 許 出 願 されている 多 く の 発 明 を 実 用 新 案 で 出 願 した 場 合 にどうであろうか, という 視 点 で 捉 えがちである まず,この 点 について の 考 え 方 を 改 め, 現 実 に 実 用 新 案 制 度 を 利 用 している 者 の 立 場 で 物 事 を 考 える 必 要 があろう 制 度 設 計 が 異 なる 以 上 は, 特 許 制 度 に 適 した 案 件 もあれば, 実 用 新 案 制 度 に 適 した 案 件 もあり, 実 用 新 案 の 存 在 価 値 やそ の 利 用 を 検 討 するならば, 実 用 新 案 制 度 に 適 した 案 件 を 念 頭 に 置 いて 制 度 の 利 用 や 法 改 正 の 影 響 を 考 えなけ ればならない,ということである なお, 権 利 取 得 による 抑 止 効 果 に 関 しては, 実 際 に 制 度 を 利 用 している 弁 理 士 から 筆 者 が 教 示 されたこと をお 伝 えしておきたい すなわち, 実 用 新 案 登 録 を 受 けた 場 合,その 後 に 考 案 の 技 術 的 範 囲 に 属 する 模 倣 品 を 製 造 販 売 することは 実 用 新 案 権 の 侵 害 行 為 として 損 害 賠 償 請 求 の 対 象 となる これに 対 して, 特 許 出 願 の 場 合 には, 出 願 内 容 が 客 観 的 に 特 許 性 を 有 すると 考 え られるものであったとしても, 権 利 が 取 得 されるまで はせいぜい 補 償 金 請 求 権 の 対 象 となるだけである ラ イフサイクルの 短 い 製 品 では, 出 願 公 開 さえ 未 だの 状 況 が 少 なくないであろうから, 模 倣 品 の 製 造 販 売 に 対 して 抑 止 力 がない すなわち, 権 利 成 立 までは 模 倣 の し 放 題 ということになりかねない このように, 早 急 な 権 利 行 使 が 必 要 とされる 局 面 においては, 実 用 新 案 権 の 早 期 登 録 による 模 倣 抑 止 効 果 が 確 実 に 発 揮 されるの である また, 筆 者 は 審 議 会 の 議 事 録 において 次 の 指 摘 も 気 がかりであった それは 実 用 新 案 登 録 出 願 に 関 する 外 国 人 と 内 国 人 との 出 願 比 について, 外 国 人 の 比 率 が パテント 2004-23 - Vol. 57 No. 10
徐 々に 増 加 しているという 指 摘 である( 第 1 回 審 議 会 の 議 事 録 及 びその 資 料 1 を 参 照 されたい) 特 許 出 願 においては 外 国 人 の 出 願 比 率 が 10% 程 度 でほぼ 一 定 しているようであるが, 実 用 新 案 については 1996 年 でほぼ 10%であるところ,2001 年 には 20%を 超 える ほどに 上 昇 している この 点 に 関 して, 審 議 会 で 一 つ の 脅 威 として 捉 えている 意 見 があるし,ドイツの 実 用 新 案 制 度 に 関 して, 実 用 新 案 制 度 が 存 在 する 国 ( 例 え ば 中 国, 韓 国 )からドイツの 実 用 新 案 への 出 願 が 多 い が 日 本 からドイツの 実 用 新 案 制 度 への 出 願 はそうでも ないという 指 摘 もある 勿 論, 特 許 では 権 利 が 取 得 で きないようなものを 無 審 査 登 録 に 着 目 して 実 用 新 案 で 出 願 して 権 利 を 取 得 する,という 使 われ 方 が 相 当 数 含 まれていることもあろうが, 我 々が 思 う 以 上 に 外 国 ( 特 に 実 用 新 案 制 度 が 利 用 されている 国 であろう )の 出 願 人 において 我 が 国 の 実 用 新 案 制 度 の 存 在 価 値 が 理 解 され,それが 我 が 国 の 実 用 新 案 に 関 する 出 願 人 比 率 に 反 映 されているのではないかという 懸 念 を 拭 い 去 るこ とができない 我 々は 実 用 新 案 制 度 の 活 用 について 大 きな 見 落 としをしているのかもしれない 3. 実 用 新 案 制 度 の 使 い 勝 手 と 平 成 15 年 法 改 正 が 与 える 影 響 について ここまでの 説 明 により, 実 用 新 案 制 度 の 存 在 価 値 に ついて 筆 者 が 思 うところを 多 少 なりとも 理 解 して 頂 け たであろうか しかしながら, 存 在 価 値 については 理 解 できても, 実 用 新 案 制 度 のデメリットとされている 権 利 行 使 の 種 々の 制 限 を 考 慮 すれば, 未 だ 実 用 新 案 の 利 用 に 躊 躇 する 向 きも 少 なくないであろうし, 平 成 15 年 法 改 正 によってもなおその 実 用 新 案 制 度 のデ メリットは 十 分 に 解 消 されていないと 見 る 向 きも 少 な くないであろう しかしながら, 平 成 15 年 法 改 正 に より 権 利 行 使 に 関 するこれまでの 制 限 は 緩 和 されてお り, 改 正 前 制 度 を 既 に 利 用 していた 者 からみれば 制 度 の 使 い 勝 手 は 確 実 に 向 上 しているように 筆 者 は 思 う そこで, 以 下 では 平 成 15 年 法 改 正 下 における 実 用 新 案 制 度 の 使 い 勝 手 について 筆 者 なりの 検 討 を 加 えてみ たい 但 し,あくまでも 私 見 に 過 ぎないことをお 断 り しておく (1) 明 細 書 の 整 備 に 関 する 自 由 度 について 我 々 弁 理 士 が 従 来 の 実 用 新 案 制 度 の 使 い 勝 手 につい て 真 っ 先 に 懸 念 を 覚 えることは, 出 願 後 に 明 細 書 を 整 備 する 機 会 が 乏 しいということであったように 思 う 特 許 制 度 においては, 補 正 の 制 限 があるとはいえども, 出 願 後 に 発 見 された 先 行 技 術 や 第 三 者 の 実 施 状 況 に 応 じて 明 細 書 を 補 正 又 は 訂 正 してこれらに 対 応 する 自 由 度 がある 程 度 は 確 保 されている これに 対 して, 従 来 の 実 用 新 案 制 度 では, 出 願 後 5 ヵ 月 程 度 で 実 用 新 案 権 が 登 録 され, 以 降 は 請 求 項 の 削 除 でしか 後 発 的 事 由 に 対 応 する 明 細 書 の 整 備 ができなかったため, 登 録 後 の 対 応 の 自 由 度 が 乏 しいとの 実 感 があった 勿 論, 出 願 時 に 入 念 に 先 行 技 術 調 査 をし, 明 細 書 作 成 に 完 全 を 期 しておけば 請 求 項 の 削 除 のみでも 十 分 な 対 応 が 取 り 得 るであろうが,これに 要 する 時 間 的, 経 済 的 負 担 を 考 慮 すれば 現 実 問 題 としては 相 当 の 無 理 があった しか しながら, 平 成 15 年 法 改 正 によれば, 特 許 制 度 の 訂 正 と 同 様 に 実 用 新 案 登 録 請 求 の 範 囲 の 減 縮 訂 正 が 可 能 となった( 改 正 後 の 実 14 条 の 2) これにより, 後 発 的 事 由 への 対 応 自 由 度 は 相 当 に 改 善 されたのではいで あろうか もっとも, 減 縮 訂 正 の 回 数 は 1 回 限 りであり,しか も 実 用 新 案 技 術 評 価 書 の 送 達 後 2 ヵ 月 以 内, 又 は 最 初 に 提 起 された 無 効 審 判 の 答 弁 書 期 間 のうち,いずれか 早 い 時 期 までという 時 期 的 制 限 がある( 改 正 後 の 実 14 条 の 2 第 1 項 ) しかしながら, 実 用 新 案 制 度 の 利 用 状 況 の 特 質 を 考 慮 すると,これらの 制 限 は 減 縮 訂 正 を 認 めた 意 義 を 実 質 的 に 失 わしめるほどのものではな いように 筆 者 は 思 う まず, 特 許 制 度 においても 権 利 行 使 に 際 して 頻 繁 に 訂 正 を 繰 り 返 す 事 例 がどれほど 存 在 するであろうか そもそも 訂 正 は 権 利 行 使 に 対 する 無 効 審 判 請 求 と 対 をなすものと 言 って 過 言 ではなく, 繰 り 返 し 訂 正 をする 必 要 があるということは 権 利 行 使 が 繰 り 返 し 行 われ,その 都 度 に 権 利 の 有 効 性 を 巡 る 新 たな 攻 撃 防 御 が 行 われるということであろうが,その ようなケースは 比 較 的 希 なものではないであろうか 実 用 新 案 制 度 は 製 品 のライフサイクルが 短 く, 模 倣 品 が 早 期 に 出 現 するような 技 術 分 野 に 対 してより 適 した 制 度 として 活 用 されていることは 上 述 した 通 りであ る そうであるならば, 実 用 新 案 権 についての 権 利 行 使 の 機 会 はいわば 一 発 勝 負 的 なものが 多 数 ではないか と 解 されるのであり,その 権 利 行 使 の 機 会 に 訂 正 を 検 討 すれば 十 分 な 対 応 ができる 事 案 は 決 して 少 なくない のではなかろうか 実 用 新 案 技 術 評 価 に 対 応 した 訂 正 に 関 しては, 従 来 の 技 術 評 価 の 体 裁 やその 信 頼 性 の 面 で 疑 問 を 呈 する 意 見 があり, 技 術 評 価 の 結 果 を 踏 まえて 行 った 訂 正 がそ の 後 の 権 利 行 使 に 対 する 攻 撃 防 御 に 果 たして 耐 え 得 る Vol. 57 No. 10-24 - パテント 2004
か,という 意 見 もあろう しかし, 平 成 15 年 法 改 正 と 前 後 して 特 許 庁 が 公 表 した 実 用 新 案 技 術 評 価 書 の 作 成 の 改 定 審 査 基 準 によれば, 平 成 16 年 7 月 28 日 以 降 に 作 成 の 実 用 新 案 技 術 評 価 については, 評 価 に ついての 説 明 の 欄 に, 審 査 官 がそのような 評 価 をした 理 由 が 理 解 できるような 説 明 を 記 載 する とされてお り, 少 なくとも 技 術 評 価 に 関 する 利 用 者 の 理 解 度 が 高 まり,より 的 確 な 訂 正 を 行 い 得 るようになるものと 期 待 できる さらに 進 んで, 出 願 段 階 における 明 細 書 の 整 備 に 関 しても, 筆 者 はいずれそのハードルが 低 下 するものと 感 じている その 理 由 は 特 許 出 願 に 対 する 環 境 の 変 化 にある 特 許 出 願 に 関 しては 平 成 2 年 法 改 正 により 明 細 書 の 補 正 が 大 幅 に 制 限 され, 新 規 事 項 の 追 加 が 一 切 禁 止 されることとなった これに 伴 って, 審 査 段 階 に おける 特 許 請 求 の 範 囲 の 補 正 の 自 由 度 が 大 幅 に 低 下 し たことは 周 知 の 事 実 である つまり, 特 許 出 願 に 関 し ても 出 願 段 階 から 整 備 された 明 細 書 を 作 成 することが 13 年 前 から 求 められているのである しかも, 先 行 技 術 文 献 記 載 制 度 ( 特 36 条 4 項 2 号 )の 導 入 により, 間 接 的 であるにせよ (5), 特 許 出 願 時 に 先 行 技 術 文 献 を 踏 まえて 明 細 書 を 整 備 することが 促 されている さら に, 工 業 所 有 権 に 関 する 手 続 等 の 特 例 に 関 する 法 律 ( 以 下, 特 例 法 )の 平 成 15 年 改 正 により, 調 査 機 関 が 民 間 開 放 され( 特 例 法 37 条 ), 特 例 登 録 調 査 機 関 制 度 の 導 入 より, 外 部 調 査 機 関 を 出 願 人 が 先 行 時 技 術 調 査 のために 利 用 することも 認 められるに 至 った( 特 例 法 39 条 の 2) これらの 措 置 により, 先 行 技 術 調 査 に 関 する 精 度 向 上, 負 担 の 軽 減 が 見 込 まれ, 出 願 前 にお いて 整 備 された 明 細 書 を 作 成 することに 対 する 出 願 人 の 負 担 感 は 徐 々に 低 減 されていくのではないであろう か しかも, 裁 判 所 の 侵 害 訴 訟 においても 特 許 の 無 効 判 断 がごく 一 般 的 に 行 われるようになり, 権 利 行 使 に 対 する 防 御 方 法 として 必 ずしも 無 効 審 判 を 経 る 必 要 が 無 くなってしまったし, 裁 判 の 迅 速 化 もあって, 特 許 の 明 細 書 に 関 しては 出 願 前 の 整 備 の 重 要 性 が 明 らかに 増 している つまり, 特 許 出 願 に 関 してさえも, 出 願 時 に 作 成 した 明 細 書 の 内 容 でその 後 の 運 命 が 概 ね 決 ま り, 事 後 的 な 対 応 の 余 地 は 確 実 に 狭 まっているのであ る このような 作 用 が 特 許 出 願 に 関 して 働 くほど, 実 用 新 案 登 録 出 願 の 明 細 書 を 作 成 する 際 の 負 担 感 は 相 対 的 に 低 減 されるように 思 う そうすると, 実 用 新 案 制 度 におけるメリットである 早 期 権 利 化 の 比 重 が 相 対 的 に 高 まり, 訂 正 の 回 数 及 び 時 期 に 関 する 制 限 はさした る 問 題 ではなくなる 可 能 性 があるのではないであろう か そうであれば, 減 縮 訂 正 が 許 容 されたことにより 実 用 新 案 制 度 の 使 い 勝 手 は 確 実 に 向 上 していると 言 っ て 過 言 ではなかろう (2) 特 許 出 願 と 実 用 新 案 登 録 出 願 との 選 択 について 次 に, 実 用 新 案 制 度 の 利 用 をためらわせていた 理 由 としては, 出 願 後 の 事 情 の 変 化 により, 早 期 権 利 化 と いう 実 用 新 案 のメリットが 薄 れ, 実 体 審 査 を 経 た 信 頼 性 の 高 い 特 許 権 を 取 得 することが 必 要 となった 場 合 の 対 応 ができない,ということがあった 例 えばライフ サイクルが 短 いと 見 込 んで 実 用 新 案 登 録 出 願 をして 製 品 を 販 売 したところ,これが 当 たってライフサイクル の 長 期 化 が 見 込 まれる 場 合 の 対 応 ができない,といっ たケースに 対 して 従 前 の 実 用 新 案 制 度 では 対 応 が 難 し かった 訳 である この 点 が 出 願 当 初 に 特 許 出 願 を 選 択 せざるを 得 ない 大 きな 理 由 になっていたように 思 う この 点 に 関 しては, 今 回, 実 用 新 案 登 録 に 基 づく 特 許 出 願 が 制 度 化 されたことにより( 特 46 条 の 2), 大 きな 転 換 が 図 られた もっとも, 登 録 後 の 特 許 出 願 は 実 用 新 案 登 録 出 願 後 3 年 に 限 られているから, 当 初 から 特 許 出 願 をして 審 査 請 求 を 保 留 し, 必 要 に 応 じて 実 用 新 案 登 録 への 出 願 変 更 ( 実 10 条 )を 検 討 した 方 がよい,との 見 方 もあろう しかしながら, 出 願 時 に 早 期 権 利 行 使 が 予 想 される 事 案 においては, 特 許 出 願 を 選 択 して 模 倣 品 に 対 する 何 らの 抑 止 力 を 持 たない 状 態 で 放 置 するよりも, 実 用 新 案 登 録 により 出 願 後 3 年 間 に 亘 って 抑 止 効 果 を 確 保 し ておく 方 がより 適 切 なケースが 確 実 に 存 在 するのでは ないか 出 願 後 3 年 もあれば,その 間 の 製 品 の 販 売 や 模 倣 品 の 出 現 状 況 からライフサイクルについての 予 測 も 十 分 付 くであろう また, 実 用 新 案 登 録 に 基 づく 特 許 出 願 制 度 においては, 実 用 新 案 技 術 評 価 を 請 求 した 案 件 について 特 許 出 願 の 選 択 を 認 めない 制 限 を 課 して いるが,これについても 無 用 な 実 用 新 案 技 術 評 価 を 避 け, 模 倣 品 対 策 として 必 要 に 迫 られた 場 合 に 限 り 実 用 新 案 技 術 評 価 を 請 求 することである 程 度 は 回 避 が 可 能 なはずである では, 模 倣 品 が 出 てくる 前 に 他 人 ( 権 利 行 使 を 嫌 う 模 倣 品 関 係 者 であろう)により 実 用 新 案 技 術 評 価 が 請 求 された 場 合 はどうであろうか この 場 合 には 確 かに 見 極 めが 難 しい しかしながら, 他 人 が 実 用 新 案 技 術 評 価 を 請 求 するということは, 請 求 人 が 権 利 に 関 心 を 持 っており, 少 なからずのケースで 特 許 出 願 への 切 り 換 えによる 権 利 の 空 白 化 を 狙 う 意 図 が 存 パテント 2004-25 - Vol. 57 No. 10
在 すると 見 てよいように 思 う 侵 害 者 の 側 において 実 用 新 案 登 録 が 存 在 する 場 合 に 一 番 厄 介 なことは, 模 倣 行 為 が 権 利 侵 害 による 損 害 賠 償 請 求 に 直 結 することで あろうからである この 点 を 意 識 して 模 倣 行 為 の 状 況 を 俯 瞰 すれば, 特 許 出 願 に 切 り 換 えるべきか,それと も 実 用 新 案 登 録 を 維 持 すべきかはある 程 度 の 予 測 が 付 くことも 決 して 少 なくないであろうし, 仮 に 実 用 新 案 登 録 を 選 んだ 場 合 でも 上 述 した 通 り 技 術 評 価 書 を 踏 ま えた 減 縮 訂 正 が 可 能 であるから, 従 来 制 度 と 比 して 実 用 新 案 制 度 の 使 い 勝 手 は 確 実 に 向 上 している すなわ ち, 従 来,ライフサイクルの 不 透 明 性 を 理 由 として 特 許 出 願 を 当 初 から 選 択 せざるを 得 なかったケースの 少 なからずが, 今 後 の 実 用 新 案 制 度 の 下 では, 当 初 より 実 用 新 案 を 選 択 して 早 期 権 利 化 による 抑 止 効 果 を 優 先 するという 対 応 を 取 り 得 るということである この 点 は 早 期 権 利 化 に 魅 力 を 感 じる 利 用 者 において 大 いに 検 討 されるべきものと 思 う (3) 存 続 期 間 の 延 長 について 従 来 の 実 用 新 案 制 度 に 関 しては 出 願 後 6 年 の 存 続 期 間 では 短 すぎるという 批 判 があったようであるが,こ の 点 は 諸 外 国 (ドイツ, 中 国, 韓 国 等 )に 歩 調 を 合 わ せるように 出 願 後 10 年 へと 存 続 期 間 が 延 長 された( 実 15 条 ) 筆 者 は 早 期 権 利 化 による 模 倣 品 排 除 に 実 用 新 案 制 度 の 意 義 を 見 出 しており,その 多 くは 短 期 勝 負 で あり,ライフサイクルが 長 期 化 するものについては 実 用 新 案 登 録 に 基 づく 特 許 出 願 を 選 択 することが 適 当 で はないかと 思 う しかしながら, 出 願 時 に 実 用 新 案 登 録 又 は 特 許 出 願 のいずれを 選 択 するかを 検 討 する 際 に おいて,6 年 という 存 続 期 間 が 利 用 者 を 特 許 出 願 に 向 けさせる 作 用 を 有 していたであろうことは 否 定 できな いし,これが 10 年 に 延 長 されたことにより, 利 用 者 をして 特 許 出 願 よりも 実 用 新 案 出 願 を 選 択 させる 作 用 は 相 応 に 生 じるであろう もっとも, 存 続 期 間 の 延 長 に 関 しては,その 付 随 的 改 正 でもある 登 録 料 の 改 定 ( 実 31 条 )に 注 目 すべきで ある 実 用 新 案 を 選 択 した 場 合 と 特 許 出 願 を 選 択 した 場 合 との 間 におけるコストの 比 較 は 実 用 新 案 制 度 WG でも 行 われており, 平 均 的 請 求 項 数 (7.6)においては 実 用 新 案 技 術 評 価 をしたとしても 未 だに 実 用 新 案 登 録 を 選 択 した 方 が 特 許 出 願 よりも 低 コストである,と 説 明 されている 但 し,これには 代 理 人 費 用 が 含 まれて いないし, 出 願 後 3 年 間 に 限 って 言 えば, 特 許 出 願 で は 審 査 請 求 料 の 支 払 を 保 留 することができる 一 方 で, 実 用 新 案 の 場 合 には 登 録 料 を 支 払 う 必 要 が 確 実 に 存 在 するから, 一 概 に 実 用 新 案 制 度 の 方 が 低 コストと 決 め 付 ける 訳 にはいかない しかしながら, 単 純 なコスト 比 較 はさておいて, 今 回 の 法 改 正 では, 存 続 期 間 が 10 年 に 延 びたこともあって 登 録 料 が 見 直 され, 特 に 登 録 後 1 年 ~ 3 年 目 の 登 録 料 が 大 幅 に 減 額 された 実 用 新 案 をひとまず 選 択 し, 出 願 後 3 年 間,つまり 特 許 出 願 へと 切 り 換 え 得 る 最 大 期 間 における 登 録 維 持 のコ ストの 低 減 を 図 ったものとして 大 いに 歓 迎 すべき 改 正 であり,この 点 においても 実 用 新 案 制 度 の 使 い 勝 手 は 確 実 に 向 上 したと 言 えるであろう (4) 実 用 新 案 制 度 の 存 在 価 値 についての 付 言 平 成 15 年 法 改 正 は 上 記 の 3 点 を 柱 とするものと 見 てよいが,ここでは 法 改 正 を 離 れて 実 用 新 案 制 度 の 存 在 価 値 についてさらなる 考 察 を 加 えてみたい 我 々が 実 用 新 案 制 度 の 存 在 価 値 を 否 定 しがちであった 理 由 は そもそも 何 であっただろうか 一 つには 訂 正 の 制 限 緩 和 の 項 で 指 摘 したように, 明 細 書 の 作 成 に 関 する 負 担 感 があったように 思 うが,この 点 は 上 記 したように 特 許 制 度 に 関 する 環 境 変 化 により 相 対 的 に 薄 れてきてい たのであり,むしろ 整 備 された 明 細 書 を 出 願 時 から 作 成 する 努 力 を 我 々が 十 分 に 果 たしてきたか,という 疑 問 に 突 き 当 たる 実 用 新 案 制 度 の 利 用 状 況 の 特 徴 を 十 分 に 考 慮 しておけば, 果 たして 従 来 制 度 下 において 権 利 行 使 に 耐 え 得 る 明 細 書 を 作 成 することが 本 当 に 無 理 な 相 談 であったのか 技 術 的 には 特 許 出 願 よりも 易 し いものが 実 用 新 案 に 回 っているのであり, 実 用 新 案 に 求 められている 成 果 にしても, 特 許 によって 保 護 され るべき 大 発 明 のそれと 比 して 遙 かに 小 さいもので 十 分 ではなかったであろうかという 点 に 鑑 みれば, 実 用 新 案 に 関 して 我 々が 向 けるべき 努 力 は, 特 許 出 願 におけ る 補 正 の 制 限 への 対 策 として 我 々が 求 められてきたも のと 本 質 的 には 大 差 がなかったのではないか 実 用 新 案 制 度 について 十 分 な 検 討 をせず,いわば 食 わず 嫌 い の 状 態 でこれまで 通 してきたのではないか,という 感 慨 を 筆 者 は 本 稿 の 執 筆 を 通 じて 痛 感 した 次 第 である また, 権 利 行 使 というと 我 々が 思 い 浮 かべる 第 一 は 警 告 書 を 発 し, 十 分 な 成 果 が 得 られなければ 司 法 解 決 を 求 めるというものであり,いわば 狭 義 の 権 利 行 使 と 言 ってもよいであろう しかしながら, 権 利 行 使 を 広 義 に 解 すれば, 権 利 行 使 は 何 も 司 法 による 最 終 解 決 を 前 提 としたものに 限 らないのである むしろ, 司 法 解 決 を 前 提 とせず,ライセンス 交 渉 により 当 事 者 間 で 自 Vol. 57 No. 10-26 - パテント 2004
主 的 に 紛 争 を 解 決 することが 企 業 間 における 一 般 的 な 権 利 行 使 の 態 様 であろう 上 記 したように, 玩 具 業 界 では 技 術 評 価 書 で(6)の 評 価 を 得 た 実 用 新 案 登 録 に 対 する 模 倣 品 については 流 通 が 止 まるという 慣 行 が 存 在 するようであるし, 筆 者 が 聞 き 及 んだところでは, 中 小 企 業 間 における 自 主 交 渉 においては, 実 用 新 案 登 録 が 存 在 すること 自 体 により 交 渉 が 進 むことも 希 ではな いようである こうした 視 点 に 立 てば, 我 々がこれま で 権 利 行 使 の 制 限 により 実 用 新 案 制 度 は 使 い 勝 手 が 悪 い,と 抱 いていた 感 想 は 果 たして 正 解 であったであろ うか この 点 についても 筆 者 は 大 いに 考 えさせられる ものであった さらに, 無 審 査 登 録 が 利 用 者 に 与 えるプラスの 心 理 的 効 果 についても 筆 者 は 教 えられるものがあったので ここでお 伝 えしておきたい それは, 中 小 企 業 や 個 人 においては, 技 術 開 発 の 成 果 を 知 的 財 産 で 守 るように 薦 めても, 特 許 出 願 に 対 しては 未 だ 抵 抗 感 (ここでは そんな 大 層 なものではない,という 感 覚 )があり,こ れに 対 して 実 用 新 案 に 関 しては 小 発 明 保 護 という 伝 統 的 な 感 覚 が 存 在 するがために 比 較 的 受 け 入 れられ 易 く,しかも 早 期 に 登 録 が 得 られることにより,これら の 利 用 者 に 自 己 の 技 術 に 対 する 一 種 の 自 信,そして 次 なる 技 術 開 発 への 意 欲 を 生 じさせる 作 用 がある,とい うものである 一 笑 に 付 される 指 摘 なのかもしれない が, 筆 者 には 実 用 新 案 制 度 の 存 在 価 値 について 極 めて 重 要 な 示 唆 を 含 んでいるように 思 えてならない 4.おわりに 以 上 のように, 実 用 新 案 制 度 に 関 しては 確 実 にこれ を 活 用 している 分 野 が 存 在 するのであり, 使 い 勝 手 に 関 しても, 立 場 が 変 われば 必 ずしも 悪 いと 決 め 付 けら れるべきものではなかったし, 平 成 15 年 法 改 正 によ り 使 い 勝 手 は 確 実 に 向 上 している それ 故 に, 実 用 新 案 制 度 についてはもっと 多 くの 利 用 者 に 活 用 されても よいのではないであろうか 今 回 の 改 正 内 容 について は, 肯 定, 否 定 の 両 説 が 入 り 乱 れているようであるが, 少 なくとも 実 用 新 案 制 度 をより 望 ましい 方 向 に 修 正 す べく 関 係 各 位 が 努 力 されたことは 確 かであるし, 現 に 制 度 存 続 を 強 く 要 望 していた 利 用 者 が 存 在 する 以 上, 改 正 制 度 を 実 効 あらしめるべく 努 力 することは 我 々 弁 理 士 の 責 務 でもある 筆 者 は 平 成 5 年 改 正 が 議 論 されていた 当 時, 三 宅 正 男 先 生 のとある 講 演 会 に 参 加 したところ, 実 用 新 案 制 度 の 撤 廃 は 先 人 の 知 恵 と 努 力 とを 踏 みにじるものであ ると 三 宅 先 生 が 壇 上 で 大 層 憤 慨 されておられたことを 今 でも 鮮 明 に 記 憶 している 制 度 の 意 義 や 価 値 が 時 代 とともに 変 遷 することは 当 然 としても, 利 用 者 が 減 少 したからといって 単 純 にこれを 廃 止 すればよい,とい う 問 題 ではないであろう 現 実 に 活 用 している 者 があ る 限 り,それを 参 考 にしてさらなる 活 用 を 検 討 すべき であるし, 多 くの 利 用 者 に 活 用 されるようになれば, 制 度 もより 良 きものへと 改 善 されていくはずである 筆 者 は 日 本 弁 理 士 会 知 的 財 産 支 援 センターにおいて 3 年 半 ほど 中 小 企 業 支 援 担 当 の 事 業 部 にて 活 動 をして きたが,その 経 験 から, 知 的 財 産 を 活 用 した 地 域 活 性 化,それによる 知 財 立 国 の 実 現 を 図 るためには, 大 企 業 の 大 発 明 のみならず 中 小 ベンチャー 企 業 においても 知 的 財 産 を 活 用 した 自 立, 成 長 が 必 要 不 可 欠 であるこ とを 実 感 している しかも,これらの 者 にとっては 模 倣 品 対 策 が 最 も 重 要 な 課 題 となっており,それには 実 用 新 案 制 度 が 極 めて 有 効 な 手 段 となり 得 る 可 能 性 を 秘 めているように 思 う また, 今 回 の 法 改 正 作 業 におい ても, 中 小 企 業 個 人 からの 制 度 存 置 の 要 望 が 高 かっ たことが 制 度 廃 止 論 を 排 して 法 改 正 を 進 めた 一 つの 支 えとなっている 知 財 立 国 に 対 する 弁 理 士 への 期 待 が かつてないほど 高 まっている 現 状 においては, 今 一 度, 実 用 新 案 制 度 のメリットを 見 直 し,その 活 用 を 少 しで も 多 くの 弁 理 士 に 検 討 して 頂 きたく 思 う 本 稿 がその 一 助 になれば 望 外 の 喜 びである 注 (1) 産 業 構 造 審 議 会 知 的 財 産 政 策 部 会 特 許 制 度 小 委 員 会 作 成 の 報 告 書 実 用 新 案 制 度 の 魅 力 向 上 に 向 けて の 第 1 章 の 4 実 用 新 案 制 度 の 現 状 を 参 照 されたい (2) 実 用 新 案 制 度 WG の 第 3 回 審 議 会 で 資 料 4 として 配 布 されており, 特 許 庁 ホームページから 入 手 することがで きる URL は http://www.jpo.go.jp/shiryou/index.htm (3) 実 用 新 案 制 度 WG の 第 1 回 審 議 会 で 配 布 された 資 料 1 実 用 新 案 制 度 の 現 状 と 課 題 を 参 照 (4) 特 許 庁 総 務 課 制 度 改 正 審 議 室 の 木 村 陽 一 氏 による 実 用 新 案 制 度 の 見 直 し ( L&T No.23 2004/4)にも, 審 議 会 においては, 実 用 新 案 制 度 の 利 用 に 対 する 根 強 い 要 望 に 鑑 み, 議 論 はあったが,これを 存 続 させることでコ ンセンサスが 形 成 された とある (5) 先 行 技 術 文 献 記 載 制 度 は 出 願 前 に 出 願 人 が 知 っていた 文 献 を 記 載 することを 求 めるものであって, 先 行 技 術 調 査 を 義 務 付 けるものではないが, 先 行 技 術 文 献 に 対 する 差 別 化 を 意 識 して 出 願 時 から 整 備 された 明 細 書 を 作 成 す ることを 促 す 効 果 はそれなりに 存 在 するように 筆 者 は 思 う ( 原 稿 受 領 2004.9.13) パテント 2004-27 - Vol. 57 No. 10