B 型肝炎ワクチン反応不良者における液性免疫能の検討 熊谷エツ子. 吉本桂子. 二宮久美子 大野亜紀子. 安岡陽子 A Seroepidemiological Study of EB Virus and Other Viruses in Poor Responders against Hepatitis B Vaccine. Etsuko Kumagai. Keiko Yoshimoto. Kumiko Ninomiya Akiko Ono. Youko Yasuoka RecombinanthepatitisB(HB)vaccineisgenerallyperformed1andthevaccineisknown tobehighlyeffectivenevertheless,therearesomepercentageofno-respondersorlowrespondersagainsthbvaccine,toclarifytheimmunologicalbackgroundinpoorrespondersoantibodiesagainstebvirusand3otherviralantigensincludingherpessimplex1 cytomegalovirusandrubellaweremeasuredon31femalehospitalpersonnelsand26female collegestudentsmjectedwithhbvaccmethreetimes Twentytwo(71.0%)hospitalpersonal vaccineersbecamehbsantibodypositive](12,9%)vaccineersshowedaweakreactivityemd (16.1%)vaccineerswereHBsantibodynegativeTwentyone(80.8%)collegestudent vaccineersbecamehbsantibodypositive,and(19.2%)vaccineerswerehbsnegative There werenoapparentdifferencesinthefrequencyoftheantibodiestoebvand3otherviralantigensbetweenpoorrespondersandrespondersagainsthbvaccine,theantibodytiterstoebv andotherviralantigenssuggestthattheremaybenodecreaseofb-cellmediatedimmunity inthepoorresponders. KeyWords;HBvaccine,poorresponder,HBviruscarrier,immunity はじめに B 型肝炎 (HB) 予防のために, 医療従事者などのハイリスクグループに対するワクチン接種が普及している. 現在使用きれいるHBワクチンは, ほとんどが遺伝子組換型のワクチン (YHBワクチン) である.YHBワクチンはヒト血液由来ワクチン (PHBワクチン) に比べてり未知の病原体に感染する可能性が低く,HBS 抗体獲得率が高い!):). しかし, このようなYHB ワクチンを接種してもなおワクチン反応不良者が若干存在するその理由としてⅢ 抗原性の脆弱, ワクチンの注射量などの抗原側の問題, およびワクチン接種者の年齢, 性, 免疫状態などの宿主側の問題が考えられる. 今回, われわれはHBワクチン反応不良者とワクチン応答者 (responder) およびHBウイル ス不顕性感染者との免疫能の違いを, 大部分の人が生涯中に- 度は感染するといってもよいほど極めて普遍的なヘルペスウイルスに対する抗体産生状況から調べた. 対象および方法 1) 対象医療従事者 76 名 (HBワクチン接種者 31 名, 未接種者 7 名 ), および熊本大学医療技術短期大学部学生 10 名 ( ワクチン接種者 26 名, 未接種者 11 名 ) を調査対象とした. それぞれの年齢分布幅は, 医療従事者 23~60 歳, 学生 18~23 歳である. また, 対象者は両群ともすべて女性である. なお, 対象からは除外したが, 副作用のためにワクチンを3 回接種できなかった人が -1-
熊谷エツ子 他 人数 霊租 876321,! く 18161:1618321:61:1281:261:12B1:102 図 1 医療従事者における HBS 抗体価の分布状態 医療従事者に6 名みられた. 検査用の採血は, 医療従事者の場合ワクチン 3 回接種後約 3カ月目に, 学生の場合約 1カ月目に行った. 2) 方法今回使用したHBワクチンはすべて遺伝子組換えワクチンであるが, 医療従事者には シオノギ 製を, 学生には 化血研 製を用いた. ワクチンの接種はいずれも皮下投与にて行った. HBS 抗原 抗体の測定には, それぞれイムニスHBsAgElA( 特殊免疫研 ), セロクリット抗 HBS( 化血研 ) を用いた. また,EBウイルス (EBV)-viralcapsidantigenWCA) 単純へルペスウイルス (HSV), サイトメガロウイルス <CMV), および風疹ウイルスに対する各抗体の測定には,KAYAKUvCASLmE( 科薬 ), サイトメガロELA-IgG( 協和 ), ファッセイH SV( 化血研 ), ルベラIgG-ElA( 生研 ) を用いた. IgG 濃度の測定にはNORパルチゲンIgG (BEHRlNG) を用いた. 結果 1)HBS 抗体陽性率および抗体価 HBワクチン接種後のHBS 抗体産生状況につ いてみると, 医療従事者では抗体陽性 ( 1:32) 例が31 名中 22 名 (71.0%), 弱陽性 (1:16) 例が 名 (12.9%), 陰性 (<l:16) 例が 名 (16. 1%) みられた. 一方, 学生ではHBS 抗体陽性例が26 名中 21 名 (80.8%), 陰性例が 名 (19.2 %) みられた. HBS 抗原保有者が医療従事者に2 名, 学生に 1 名みられたので, 彼らを除いた残りのHBワクチン未接種者におけるHBS 抗体陽性率をみると, 医療従事者では6.7%( 名中 21), 学生では2.7%(113 名中 3 名 ) であった. 医療従事者のHBS 抗体価を図 1に示した.1:2 6 以上の抗体価を有する人の頻度は,HBV 不顕性感染者 (7.6%) がHBワクチン接種者 (7. 6%) よりも高い傾向を示した. 2) 各ヘルペスウイルスおよび風疹ウイルス抗体保有率表 1に示すように, 医療従事者および学生の EBV-VCA/IgG,HSV,CMVおよび風疹ウイルスに対する各抗体保有率は, それぞれHBワクチン応答群, 反応不良群, 不顕性感染群間に有意差はみられなかった. 3)HBS 抗体価と各ヘルペスウイルス抗体価およびIgG 濃度との関係これまでの調査結果 3M) から,EBV-VCA/Ig -2-
B 型肝炎ワクチン反応不良者における液性免疫能の検肘 表 1 医療従事者および大学生における各ウイルス抗体保有者率 HBV ワクチン 医巌従事者 学生 ルベラ + 22 22 19 20 17 21 18 11 1 20 接 (86.) (91.0) (77.3) (8.7) (0.) (71.) (9.2) ± 3 種 2 (0.0) 未接種 3 000) () は % を示す G 抗体では, 抗体価が1:60 以上を異常陽性,H SV 抗体では1:2600 異常を異常陽性として,HB ワクチン接種群とHBV 不顕性感染群の両抗体異常率を調べた. 表 2に示すように, 医療従事者におけるEBV-VCA/IgG 抗体の異常率は,H Bワクチン接種群および不顕性感染群いずれも HBS 抗体価がl:32 以下のグループが1:6 以上のグループよりも高値を示す傾向がみられた. 一方 ⅢHBS 抗体価とHSV 抗体価,IgG 濃度との間には特定の関係は函められなかった. 考察 HBウイルス (HBV) は血液のみならず体液 ( 唾液, 精液など ) からの感染も少なからず認められる. その感染経路は多種多様であるが, ワクチンや抗 HBヒト免疫グロブリンの開発, デイスポーザプル器具の普及, 輸血用血液のH BC 抗体のチェックなどによって, 新たなHBV 感染者は減少している. しかし, 子宮内で感染したりHBワクチンを接種しても抗体が産生されない場合があるので,HBVの感染を100% 予防できないのが現状である. HBワクチンの投与は, 一般に初回,1カ月後,6カ月後に3 回行われている. 従来の死菌ワクチンは皮下に投与するが,YHBワクチン では筋肉内投与も可能であるそして, 筋肉内投与の方が皮下投与よりもより高いHBS 抗体価を獲得することが明らかにされている)6).HB ワクチン接種後の抗体産生状況は,3 回接種後 1カ月目, つまり初回接種より7カ月目の抗体価で判定されている. 矢野らは,HBワクチン反応不良者をlowres ponderとnoresponderに分けている. つまり通常置のワクチンを3 回接種後,R1A 法でHBS 抗体の陽転が見られないものをnoresponder, 僅かにHBS 抗体が産生される場合 (HBS 抗体がP HA 法では陰性で,R1A 法のみ陽性を示す ) を lowresponderと呼んでいる?). 今回の調査では, PHA 法でのみHBS 抗体を測定したので,low responderとnoresponderを合わせた反応不良者の頻度をみると, 医療従事者では16.1%, 学生では19.2% であった. これまでの報告では, HBワクチン接種後, 健常者の8~99% がHBS 抗体を獲得するといわれているが, これらの成績は若年者が大半で, かつ3 回目接種 1ケ月後における高感度測定法を用いての抗体保有率である2)8),). しかし, 長期間, 十分畳の抗体を保持する比率はさほど高くなく, 山舗ら '0) の鯛査では, ワクチン接種後 ~6ケ月目のHBS 抗体検出率は62% であった. 今回, 医療従事者にH -3-
熊谷エツ子 他 表 2 医療従事者における EBV-VCA/IgG および HSV 抗体異常頻度について ウイルスー抗体対象ワクチン接糎者不顕性感染者計 EBV-VCA/IgG 抗体 liijiii 釧蕊 iiii 義 1/1(6.7) O/6(0) l/21(.8) l:60 3/16(18.8) 3/1(20.0) 6/31(19.) /1(26.7) 2/6(33.3) 6/21(28.9) () は % を示す Bs 抗体弱陽性例が約 13% みられたが, これは3 回目のワクチン接種後約 3ケ月目に抗体の測定を行ったために, 抗体価が低下している可能性が考えられる. 後藤らu) は,HBワクチンに対する免疫応答の強弱とHLA 抗原との関連を調べ,noresponder のHLA-CwlとDRW9の頻度がresponnderに比べて有意に高いことを報告している. しかし, 大内ら '2) は両者間に有意差を認めていない. このような違いが何によるものかの結論はでていない. さらに, 大内らI 鋤はnoresponderとres ponder 間のT 細胞,B 細胞の各マーカーに有意差がないことを報告している. 最近,HBワクチン反応不応答の原因として, HBS 抗体を特異的に抑制する抑制 T 細胞および可溶性の抑制因子の存在とB 細胞の機能低下が関与しているのではないのかと考えられている!). しかし, 今回対象としたHBワクチン応答群とワクチン反応不良群の各ヘルペスウイルスおよび風疹ウイルスに対する抗体の保有率間に有意差がみられなかったことは,HBワクチン反応不良者のB 細胞には異常がないことを示唆しているものと思われる. さらに,HBS 抗体価と各種ウイルス抗体価およびIgG 濃度との関係を調べたところ,EBV 以外の各ヘルペスウイルス抗体およびIgG 濃度と HBS 抗体価との間には特定の関連は認められなかった. 一方,EBV-VCA/IgG 抗体価が極めて高い値を示した人が,HBワクチンに対する highresponder グループに多くみられた. この 点に関しては, 例数を増やした上で改めて考察 する予定である. noresponder に対して追カロワクチンを 1 回行っ た場合, その 62% は依然として noresponder で あり, 残り 38% は抗体を獲得するが抗体価は低 値を示すことが多い 2). しかし, 追加ワクチン によって HB ワクチン反応不良例は確実に減少 する 13). 最近, 従来の HB ワクチンで感染予防が できないないだけでなく, 逆にこれらのワクチ ンによって誘導される可能性がある逃避変異株 が,Carmann ら いによって報告されている. こ の変異株は HBS 抗原 a 決定基の重要部分に突然 変異が起こったものであるが, この株に対して は pre-s2 抗体と HBS 抗体が独立して働く pre-s2 含有 HB ワクチンによって予防可能である. noresponder に対して検討の余地が残されて いるが, 今後とも基本的な感染予防対策を充実 させることによって,B 型肝炎が撲滅される日 がそう遠くないことを信じている. 文献 1) 山内克己 :HB ワクチンに対する免疫応答, 臨床免疫,21: 2-001989 2) 八橋弘, 矢野右人 :HB ワクチン, 縫合臨床,39:1868-18 7,1990 3)EtsukoK,etalEffectsoflpng-termLowDoseRadiation-Epstein-BarrVirus-SpecificAntibodiesin RadiologicalTechno1ogists- JRADIANTRES29:20 3-21001988 ) 熊谷エツ子, 他 : 熊大医療短大学生におけるヘルペス科ウイルスおよび風疹ウイルスの血清疫学検杢, 熊本大学医療技術短期大学部紀要, 創刊号 :6-68,1991 --
B 型肝炎ワクチン反応不良者における液性免疫能の検肘 ) 矢野右人 : 遮伝千組換え酵母由来 B 型肝炎ワクチン第 Ⅲ 相臨床減験成繍, 避礎と臨床 121:2681,1987 6)StriderAC,BtaliHopatitjsBImmunization:Effect ofthandthlnjectionsfoilowingsuboptimal SorocolweresioninHealthCareWorkors CanadiELn Jo PUbliC HBalth78:31-317,1987 7) 矢野右人, 他 :HB ワクチンと使用法. 日本臨床,6:88-9701988 8)StevensCE,etal;Yeast-recombinantHepatitisB VacCine JAMA27:2612-261611987 1,) 山鹸昌由, 他 : 院内検診におけるHBワクチン接撤状況と HBS 抗体丑について, 肝臓,30(Supp1,2):,1989 11) 後麗柵二, 他 :HBワクチン接種後のHBS 抗体消艇とワクチンに対する抗体非獲得者の免疫遺伝学的背嬢, 肝臓,2: 70,198 12) 大内栄悦, 他 :B 型肝炎の予防医学, 囲床病理,37:1193-11 9901989 13) 新宮世三 : 遺伝子組換えHBワクチンによる追加接種効果 Ⅲ pro9.m0..11:1901-19001991 1)CarmanWF,etal8VeLccinB-inducedEscapeMutantof 9) 市田文弘 ; 組換え B 型ワクチン (GB-O892) の臨床第 Ⅲ 相 HepatitisBvirus Lancet,336:32-329,1990 騨強成鏡, 選礎と臨床,22:3109,1988 --