2020/04/09 鳥取市立病院モーニングレクチャー 終末期の症候 鳥取市立病院総合診療科足立誠司
メッセージ 看取りの一般的な経過や徴候を理解する 看取りの時期は 十分な症状緩和と共に 不必要な治療やケアの見直しも検討する 家族に対して適切な病状説明や今後予測される変化とその対応 患者との接し方について説明する
死因疾患の主な臨床経過 機能 高い がん 臓器不全 ( 心不全 呼吸不全など ) 低い 時間 死亡 認知症 虚弱
がん : 経過 Lynn J, JAMA.2001;285:925-932 機能 高い がん 低い 時間 死亡 1 経過が予想しやすく 比較的最期まで ADL が保たれる 2 最期の 2 か月以内にセルフケアが困難となることが多い 3 包括的サービスを提供するホスピスの形態に合致 4 ホスピスサービスの受け入れや利用が遅延する
臓器不全 : 経過 Lynn J, JAMA.2001;285:925-932 機能 高い 臓器不全 ( 心不全 呼吸不全など ) 低い 時間 死亡 1 時に急性増悪を伴い 数か月 数年の期間で悪化する 2 急性増悪で死に直面する場合があるが 通常は何度か回復する 3 患者 家族は急性増悪のたびに回復することを期待している 4 予後は不明確で 病状の最終段階にならないとわからない 5 治療内容は 積極的治療と緩和的治療が混在する
認知症 虚弱 : 経過 機能 高い 認知症 虚弱 Lynn J, JAMA.2001;285:925-932 低い 時間 死亡 1 ADL 低下 認知機能低下のため長期間日常生活支援が必要 2 介護力不足のため 介護サービス利用などが必要 3 大腿骨頸部骨折や肺炎などを契機に病状が悪化する 4 本人の意思決定困難で 治療介入が難しい
死が近づいた時の身体症状 疼痛 呼吸困難 気道分泌 死前喘鳴 嘔気 嘔吐 便秘 尿閉 失禁 発熱 倦怠感 嚥下困難 意識障害 認知障害 不穏 興奮 抑うつ 浮腫 掻痒 その他 7
死の過程における主な徴候 ( 古典的 ) 予後数日または 1 週間程度 終日臥床状態 半昏睡 / 意識低下 経口摂取がほとんどできない 錠剤の内服が困難である 予後数日以内 意識レベル低下 呼吸パターンの変化チェーンストークス呼吸 下顎呼吸 死前喘鳴 四肢チアノーゼ
死亡直前と看取りのエビデンス 森田 死亡直前と看取りのエビデンス 医学書院 PS 低下 意識レベル低下 水分の嚥下困難はほとんどの患者で生じるが 死亡直前とは限らない ( 早期死亡前徴候 ) 死前喘鳴 下顎呼吸 チェーンストークス呼吸 四肢のチアノーゼ 橈骨動脈の触知不可 12 時間の尿量が100ml 未満は全員に生じるとは限らないが 生じた場合は死亡する確率は高い ( 晩期死亡前徴候 ) PPS20% 以下と鼻唇溝の低下があれば 3 日以内の死亡を予測できる バイタルサインは多くの患者で死亡当日まで正常である 30% は急変 ( 誤嚥 肺炎 出血など ) で死亡する 看取りのパンフレットはもらったときにはつらいことではあるが この先の変化がわかる 気持ちの準備をする 家族がしてもよいことがわかる ほかの家族に状況を伝えることに役立つ
Palliative Performance Scale 100 90 80 70 60 50 起居活動と症状 ADL 経口摂取意識レベル 100% 起居している ほとんど起居している ほとんど座位か横たわっている 正常の活動が可能症状なし 正常の活動が可能いくらかの症状がある いくらかの症状はあるが努力すれば正常の活動が可能 何らかの症状があり通常の仕事や業務が困難 明らかな症状があり趣味や家事を行うことが困難 自立 時に介助 しばしば介助 正常 正常または減少 清明 清明または混乱 40 ほとんど臥床著明な症状がありどんな仕ほとんど介助清明事もすることが困難または 30 減少混乱 20 または常に臥床全介助数口以下傾眠 10 マウスケアのみ傾眠または昏睡 Anderson F, J Palliat Care, 1996
Palliative Prognostic Index Palliative Performance Scale 経口摂取量 *1 10~20 30~50 60 著明に減少 ( 数口以下 ) 中程度減少 ( 減少しているが数口よりは多い ) 正常 点数 4 2.5 0 2.5 1.0 0 浮腫 安静時呼吸困難 せん妄 ありなし ありなし あり *2 なし *1 消化器閉塞のため高カロリー輸液を施行している場合は 0 点とする *2 原因が薬物単独 臓器障害に伴わないものは含めない 1.0 0 3.5 0 4.0 0 Morita T, Support Care Cancer, 1999
Palliative Prognostic Index 6 点より大きい場合 予後が 3 週以内 感度 83% 特異度 85% 陽性的中率 80% 陰性的中率 87% 4 点より大きい場合 予後が 6 週以内 感度 79% 特異度 77% 陽性的中率 83% 陰性的中率 71% Morita T, Support Care Cancer, 1999
早期死亡前徴候と晩期死亡前徴候 早期死亡前徴候 Hui D et al: Oncologist. 2014 Jun; 19(6): 681 687. 水分の嚥下困難意識レベル低下 PS 低下末梢チアノーゼチェーンストークス呼吸 12 時間の尿量 100ml 未満無呼吸下顎呼吸死前喘鳴橈骨動脈の触知不可 晩期死亡前徴候 死亡前の日数
視覚刺激への反応低下 晩期死亡前徴候 Hui D et al: Cancer. 2015 Mar 15;121(6):960-7. 3 日以内の死亡陽性尤度比 (95% 信頼区間 ) 6.7(6.3-7.1) 首の過伸展 鼻唇溝の低下 * * 多変量解析で有意差 7.3(6.7-8) 8.3(7.7-8.9) 瞳孔反射の消失 * 16.7(14.9-18.6) 声かけへの反応低下 呻吟 閉眼困難 8.3(7.7-9) 11.8(10.3-13.4) 13.6(11.7-15.5) 死亡までの日数
3 日以内の予後予測 Hui D et al: Cancer. 2015; 121: 3914-21. PPS20% 以下かつ鼻唇溝 ( ほうれい線 ) の低下があれば 3 日以内の死亡率が 94%
死が近づいた時のバイタルサイン バイタルサイン ( 血圧 脈拍 呼吸数 酸素飽和度 体温 ) 血圧低下 脈拍増加 酸素飽和度低下が相関 3 日以内の死亡予測 : 感度 35% 以下 特異度 80% 以上 多くの患者は死亡当日までバイタルサインは正常 死亡予測のための ルーティンのバイタル測定は支持しない Bruera S, J Pain Symptom Management, 2014
死が近づいた時のアセスメント 身体症状 身体症状に対する薬物療法 投薬 処方の見直し 不必要な治療 検査の中止や減量 不必要な看護介入の中止 患者と家族の病状認識 宗教 信条 家族 関係者のコミュニケーション 患者 家族へのケア計画の説明と理解 17
遺族からみた臨終前後の患者に対する 医療者による望ましいケアShinjo, J Clin Oncol 2010 現在苦痛がないことを保証する 予測される経過を説明する 医療者の説明 患者の聴覚が保たれていることを保証する 苦痛なく亡くなることを保証する 詳細な説明なく 急変の可能性だけを警告しない 医療者の行為 患者の苦痛を気にかける 患者への接し方やケアの仕方をコーチする 以前と同じように患者と接する 慌ただしく説明しない 過度な警告をすることがない 患者のそばで 患者に聞かれたくない話をしない 臨終前後の状況 患者のそばに家族がいられるように配慮する 死後の処置や接し方に配慮する 医療者の思慮のない会話を避ける 患者の宗教 信仰を尊重する 家族の労をねぎらう 家族全員がそろってから死亡確認をする 家族が十分に悲嘆できる時間を確保する 18
OPTIM これからの過ごし方について ダウンロードで使用可 19
OPTIM これからの過ごし方について パンフレットを使った家族の感想 81 が役に立ったと回答 N=260 この先どのような変化があるかわかる 症状や変化がなぜおきているのかわかる 気持ちの準備をすることに役立つ 家族ができることやしてもよいことがわかる ほかの家族に状況を伝えるために利用できる 看取りのパンフレットを使用する上での注意点 家族の死に向き合うことはつらい体験であることを理解 一緒につらい状況を乗り越えていく気持ちが大切 あまり知りたくない内容であった いろいろな情報があり かえって不安になる まさかと思った そんなことはないと思った もっと早く渡してほしかった 山本 Palliative Care Research, 2012
コミュニケーションが大切 相手 価値観の異なる人と対峙 相手の気持ちは変化する 相手が話し合いたい人はそれぞれである 相手にも話し合いたい時期がある 自分 相手の価値観を尊重し 自分の価値観にも気づくプロセス 誰かの支えになろうとする人こそ 一番の支えが必要 まずは自分の在り方が重要
自分の在り方 ホスピスの母シシリー ソンダース博士 ホスピスケアの原点 Not doing, but being 何かをすることではなくて 患者と共に居ること
コミュニケーションは難しいまずは自分の在り方が重要 私見 : 参考まで 分人主義 死にゆくプロセスとともにある Being with Dying マインドフルネス
分人主義 個人 (Individual) In + dividual: これ以上分けられない divide( 分ける ) 分人 (dividual) 新しい単位での考え方 分けられる 個人という単位で考えれば 一つだけ 本当の自分 と うその自分 表の顔 と 裏の顔 本音 と 建前 私とは何か 個人 から 分人 へ平野啓一郎講談社現代新書 分人という単位で考えれば 複数でもよい その人らしさは 複数の分人の構成比率で決まる例 )A さんは 医療者 母 妻 子としての分人
分人を用いた A さんのイメージ 妻 母 医療者 子 母 夫に対して娘に対して患者に対して 医療者 妻 子 妻 医療者 母 子 妻 母 医療者 子 分人の構成比率が違うしかし すべて本人である
他者との関係 A さん 相手 妻 医療者 職業 夫婦 親 子 病人 親
他者との関係 A さん 相手 妻 夫婦 親 医療者 病人 職業 子 親 お互いの関係の中で分人の構成比率は変化する
死にゆくプロセスとともにあるマインドフルネス Not Knowing わかったつもりにならない Bearing Witness 見届ける ( 見守る ) Compassionate Action 慈悲深い行為 Joan Halifax 文化人類学者 禅僧 ハーバード大学名誉研究員 UPAYA 禅センター主管 Being with Dying; Cultivating Compassion and Fearlessness in the Presence of Death 日本語訳 死にゆく人と共にあること : マインドフルネスによる終末期ケア
まとめ 看取りの一般的な経過や徴候を理解する 看取りの時期は 十分な症状緩和と共に 不必要な治療やケアの見直しも検討する 家族に対して適切な病状説明や今後予測される変化とその対応 患者との接し方について説明する
ご清聴ありがとうございました