24 年 新 潟 県 中 越 地 震 の 地 震 動 について, 翠 川 三 郎 2, 三 浦 弘 之, 秋 場 俊 一 東 京 工 業 大 学 都 市 地 震 工 学 センター 2 東 京 工 業 大 学 大 学 院 総 合 理 工 学 研 究 科 人 間 環 境 システム 専 攻 2.はじめに 24 年 月 23 日 に 発 生 した 新 潟 県 中 越 地 震 (M J 6.8)では, 震 源 近 傍 に 位 置 する 小 千 谷 市 と 川 口 町 において 震 度 7 相 当 の 地 震 動 が 観 測 された. 特 に 震 源 に 近 い 川 口 町 では 甚 大 な 被 害 が 生 じた.この 地 震 での 地 震 動 の 特 性 や 被 害 状 況 を 調 査 するため, 月 3 日 ~3 日 にかけて 強 震 観 測 点 における 常 時 微 動 観 測 と 被 害 状 況 の 調 査 を 行 った.ここでは, 本 震 での 強 震 記 録 の 特 性, 川 口 町 における 被 害 状 況 とその 地 震 動 強 さ, 常 時 微 動 観 測 結 果,および K-NET 小 千 谷 における 地 盤 の 非 線 形 性 状 について 報 告 する. 2. 地 震 と 強 震 記 録 の 概 要 24 年 新 潟 県 中 越 地 震 (M J 6.8: 最 大 震 度 7)は, 月 23 日 7:56 に 発 生 した.この 本 震 に 続 いて, 8:3 に 発 生 した 余 震 (M J 6.3: 最 大 震 度 5 強 ),8: に 発 生 した 余 震 (M J 6.: 最 大 震 度 6 強 ),8:34 に 発 生 した 最 大 余 震 (M J 6.5: 最 大 震 度 6 強 )と 月 27 日 :4 に 発 生 した 余 震 (M J 6.: 最 大 震 度 6 弱 ) と M6 クラスの 余 震 が 数 多 く 発 生 している. 山 中 (24)によると, 本 震 での 断 層 の 走 向 は 北 北 東 - 南 南 西 で, 北 西 傾 斜 の 逆 断 層 タイプ, 断 層 面 積 は 24 8km 程 度, 震 源 深 さは 約 3km と 浅 く,すべりの 大 きな 破 壊 はそこから 浅 い 方 向 に 進 んだために, 地 表 での 揺 れが 大 きくなったものと 推 定 されている.この 地 震 の M W は 6.6, 最 大 すべり 量 は 約.9m と されている.また, 最 大 余 震 の 断 層 は 本 震 のものとほぼ 平 行 であるが, 震 源 深 さは 約 5km と 本 震 より も 深 い 位 置 で 発 生 しており, 本 震 とは 異 なる 断 層 面 が 動 いたものと 推 定 されている.また, 最 大 余 震 の 断 層 面 積 は 2 8km 程 度,M W は 6.3 とされている. この 地 震 では,K-NET,KiK-net, 気 象 庁, 自 治 体 などの 強 震 計 により 多 くの 強 震 記 録 が 得 られている. これらの 強 震 記 録 による 本 震 と 最 大 余 震 での 計 測 震 度 の 分 布 を 図 に 示 す.どちらの 地 震 でも 断 層 の 上 盤 側 にあたる 断 層 の 北 西 側 において 震 度 6 強 以 上 の 強 い 地 震 動 が 観 測 されている. 中 でも 震 度 7( 計 測 震 度 6.5)を 観 測 した 川 口 町 では, 最 大 加 速 度,722cm/s 2 (3 成 分 合 成 )が 記 録 されている. 震 源 近 傍 に 位 置 する JMA 小 千 谷 ( 計 測 震 度 6.3),K-NET 小 千 谷 ( 計 測 震 度 6.7),K-NET 長 岡 ( 計 測 震 度 5.5)お よび K-NET 十 日 町 ( 計 測 震 度 6.2)での 加 速 度 波 形, 速 度 波 形 を 図 2 に 示 す. JMA 小 千 谷 では 最 大 加 速 度 約 9cm/s 2, 最 大 速 度 約 85cm/s である. 一 方,JMA 小 千 谷 の 南 南 西 約 8m に 位 置 する K-NET 小 千 谷 では, 最 大 加 速 度 約,3cm/s 2, 最 大 速 度 約 3cm/s と 非 常 に 大 きな 地 震 動 が 観 測 されている.JMA 小 千 谷 と 比 較 すると, 全 体 的 な 波 形 の 形 状 は 似 通 っているものの, 最 大 振 幅 は K-NET 小 千 谷 の 方 が 水 平 成 分 で 約.4 倍 大 きい.また,K-NET 小 千 谷 の 加 速 度 波 形 成 分 では, 図 中 の 線 で 囲 った 秒 前 後 の 範 囲 におていスパイク 状 の 波 がみられる.これは 地 盤 の 剛 性 低 下 に 伴 うサイク リックモビリティの 影 響 によるものと 推 察 される.また,K-NET 長 岡 では 最 大 加 速 度 約 47cm/s 2, 最 大 速 度 約 5cm/s であった.K-NET 十 日 町 では, 最 大 加 速 度 約,7cm/s 2 と K-NET 小 千 谷 以 上 の 大 きな 加 速 度 が 観 測 されているが, 速 度 波 形 ではその 振 幅 は 小 千 谷 に 比 べるとやや 小 さく, 最 大 速 度 で 約 5cm/s であった. 主 な 強 震 記 録 の 2 次 元 速 度 応 答 スペクトルを 図 3 に 示 す. 図 には 比 較 のため,995 年 兵 庫 県 南 部 地 震
Seismic Intensity - 7 6+ 6-5+ 5-4 以 下 K-net 長 岡 Seismic Intensity 6+ 6-5+ 5-4 以 下 JMA 小 千 谷 KiK-net 長 岡 山 古 志 村 JMA 小 千 谷 /23 8:34 M6.5 小 国 町 K-net 小 千 谷 川 口 町 - - /23 7:56 M6.8 小 国 町 川 口 町 十 日 町 市 K-net 十 日 町 K-net 十 日 町 2km 2km 本 震 (/23 7:56)での 震 度 分 布 最 大 余 震 (/23 8:34)での 震 度 分 布 図 24 年 新 潟 県 中 越 地 震 における 計 測 震 度 の 分 布 ( 断 層 位 置 は 纐 纈 ほか(24)による) 24//23 7:56: JMA 小 千 谷 ( 計 測 震 度 6.3) Max=779.2(cm/s/s) - Max=-897.6(cm/s/s) - Max=73.8(cm/s/s) - 2 3 24//23 7:56: JMA 小 千 谷 ( 計 測 震 度 6.3) Max=67.4(cm/s) - Max=84.(cm/s) - Max=-24.9(cm/s) - 2 3 24//23 7:56: K-net 小 千 谷 ( 計 測 震 度 6.7) Max=47.4(cm/s/s) - Max=37.9(cm/s/s) - Max=82.2(cm/s/s) - 2 3 24//23 7:56: K-net 小 千 谷 ( 計 測 震 度 6.7) Max=-98.(cm/s) - Max=27.8(cm/s) - Max=-3.3(cm/s) - 2 3 図 2 JMA 小 千 谷,K-NET 小 千 谷 での 加 速 度 波 形 と 速 度 波 形
24//23 7:56: K-net 長 岡 ( 計 測 震 度 5.5) Max=468.4(cm/s/s) - Max=-369.(cm/s/s) - Max=33.(cm/s/s) - 2 3 24//23 7:56: K-net 長 岡 ( 計 測 震 度 5.5) Max=-48.2(cm/s) - Max=-23.3(cm/s) - Max=-5.3(cm/s) - 2 3 24//23 7:56: K-net 十 日 町 ( 計 測 震 度 6.2) 24//23 7:56: K-net 十 日 町 ( 計 測 震 度 6.2) Max=75.5(cm/s/s) - Max=849.6(cm/s/s) - Max=564.3(cm/s/s) - 2 3 Max=54.6(cm/s) - Max=-49.7(cm/s) - Max=3.4(cm/s) - 2 3 図 2( 続 き) K-NET 長 岡,K-NET 十 日 町 での 加 速 度 波 形 と 速 度 波 形 での 神 戸 海 洋 気 象 台 (JMA 神 戸 )と JR 鷹 取 駅, 葺 合 におけるスペクトルも 併 せて 示 している.K-NET 小 千 谷 でのスペクトルは 周 期.7 秒 に 明 瞭 なピークがみられ, 最 大 速 度 応 答 は 6cm/s 程 度 であった. その 応 答 はほぼ 全 周 期 帯 域 で JMA 神 戸 を 上 回 っており, 周 期 秒 以 下 では 鷹 取 や 葺 合 の 記 録 よりも 大 きい.しかし, 周 期 秒 以 上 の 応 答 は 鷹 取 や 葺 合 に 比 べるとやや 小 さい.また,JMA 小 千 谷 では 周 期.6~.8 秒 付 近 にピークがみられ,スペクトル 形 状 は K-NET 小 千 谷 のものとはやや 異 なっている.その 応 答 は JMA 神 戸 と 比 較 して 周 期.7~ 秒 あたりではやや 小 さいが,その 他 の 周 期 帯 域 ではほぼ 同 程 度 であった.K-NET 十 日 町 では.2 秒 付 近 に 明 瞭 なピークがみられ,その 応 答 は 2cm/s 程 度 と 神 戸 での 記 録 よりも 大 きいが, 周 期 秒 以 上 の 成 分 については 比 較 的 小 さく, 神 戸 の 記 録 に 比 べても 応 答 は 小 さ かった. 3. 川 口 町 における 被 害 と 地 震 動 計 測 震 度 6.5 が 観 測 された 川 口 町 役 場 周 辺 では, 小 千 谷 や 十 日 町 の 中 心 部 に 比 べて 大 きな 被 害 がみら れた. 倒 壊 した 建 物 の 多 くは, 老 朽 化 したもの, 商 店 やガレージなど 階 に 大 きな 開 口 部 があるものな どであり, 新 しい 建 物 には 大 きな 被 害 はみられなかった. 南 東 - 北 西 方 向 の 道 沿 いの 商 店 街 の 建 物 は 北 西 方 向 に 倒 壊 ないし 傾 斜 したものが 多 い.しかし,これと 直 交 する 道 沿 いでは 建 物 が 北 東 に 倒 壊 したり, 高 さ 2m 幅.8m 程 度 の 自 販 機 が 南 西 側 に 転 倒 したりしており, 被 害 の 方 向 性 は 明 瞭 ではない.ある 住 民 の 話 では, 自 分 の 商 店 は 度 目 の 本 震 の 揺 れで 倒 壊 したという.また, 越 後 川 口 駅 付 近 で 線 路 の 屈 曲 が 数 カ 所 でみられた.
Velocity Response Spectra (cm/s) h=.5 24 年 新 潟 県 中 越 K-net 小 千 谷 JMA 小 千 谷 K-net 十 日 町 995 年 兵 庫 県 南 部 JMA 神 戸 鷹 取 葺 合. 図 3 新 潟 県 中 越 地 震 と 兵 庫 県 南 部 地 震 での 速 度 応 答 スペクトルの 比 較 : 沖 積 層 : 洪 積 層 : 新 第 三 紀 : 古 第 三 紀 以 前 図 4 常 時 微 動 観 測 点 と 表 層 地 質 ( 括 弧 内 の 数 字 は 本 震 での 計 測 震 度 を 表 す) 町 役 場 付 近 にある 宝 積 寺 では,2 基 強 の 墓 石 の 内, 立 っていたのは 3 基 であり, 転 倒 率 は 約 95%で あった. 墓 石 の 大 きさは 高 さ 75cm 幅 3cm 程 度 であった.この 他 に 地 震 動 の 強 さを 示 唆 する 現 象 とし て,ガレージ 内 に 駐 車 していた 軽 自 動 車 がシャッターを 突 き 破 って m 程 度 南 西 側 に 移 動 していた.こ れらの 墓 石 の 大 きな 被 害 や 自 動 車 の 移 動 は 兵 庫 県 南 部 地 震 での 震 度 7 の 地 域 でも 観 察 されており( 内 山 ほか(995), 翠 川 (996)), 川 口 町 で 震 度 7 という 判 定 と 調 和 的 である. 震 度 計 は 3 階 建 の 庁 舎 の 直 近 に 設 置 されている. 最 大 加 速 度 は,3 成 分 合 成 で,722cm/s 2, 成 分 で,42cm/s 2, 成 分 で,676cm/s 2, 成 分 で 87cm/s 2 であった. 卓 越 周 期 は 成 分 で. 秒, 成 分 で.3 秒, 成 分 で.9 秒 であった. 卓 越 周 期 は 主 要 動 秒 間 のフーリエ 加 速 度 スペクトルの 最 大 値 に 対 応 する 周 期 である. 例 えば,JMA 小 千 谷 の 成 分 は, 卓 越 周 期 が.7 秒 で, 最 大 加 速 度 および 最 大 速 度 がそれぞれ 898cm/s 2 および 84.cm/s だった. 川 口 町 では, 卓 越 周 期 がこれより 長 いことから, 最 大 加 速 度 に 対 する 最 大 速 度 の 比 は. 程 度 はあったものと 推 測 され, 最 大 速 度 は ないし 5cm/s 程 度 に 達 している 可 能 性 がある. 4. 強 震 観 測 点 における 常 時 微 動 特 性 強 震 観 測 点 における 地 盤 特 性 について 検 討 するため, 震 源 近 傍 において 震 度 6 弱 以 上 を 観 測 した 長 岡 市, 小 千 谷 市, 十 日 町 市, 川 口 町, 川 西 町, 小 国 町, 中 里 村 の 強 震 観 測 点 4 地 点 において 常 時 微 動 観 測 を 行 った. 観 測 点 の 位 置 と 表 層 地 質 を 図 4 に 示 す. 常 時 微 動 観 測 を 行 った 地 点 は 全 て 沖 積 層 または 洪 積 層 上 に 位 置 している. 観 測 には 周 期 2 秒 まで 平 坦 な 特 性 をもつ 速 度 計 を 用 い,サンプリング 周 波 数 Hz で 4.96 秒 間 の 観 測 を 3 回 以 上 行 った. 観 測 された 波 形 からノイズの 影 響 が 少 ないと 考 えられる 2.48 秒 間 のデータを 切 り 出 して 水 平 上 下 動 振 幅 スペクトル 比 (H/V スペクトル 比 )を 算 出 した.H/V スペ クトル 比 の 計 算 では, 時 松 宮 寺 (992)にならって 成 分 と 成 分 の 相 乗 平 均 を 水 平 成 分 として 算 出 した.
(a) 長 岡 市 周 辺 (b) 小 千 谷 市 周 辺. JMA 長 岡 K-net 長 岡 KiK-net 長 岡 国 交 省 長 岡.. JMA 小 千 谷 K-net 小 千 谷 川 口 町 国 交 省 妙 見 堰. (c) 十 日 町 市 周 辺 (b) その 他 の 町 村. K-net 十 日 町 十 日 町 市 国 交 省 十 日 町... 川 西 町 小 国 町 中 里 村 図 5 常 時 微 動 の H/V スペクトル 比 各 地 点 での H/V スペクトル 比 を 図 5(a)~(d)に 示 す.(a)は 長 岡 市 の 観 測 点 を,(b) 小 千 谷 市 と 川 口 町 の 観 測 点 を,(c)は 十 日 町 市 の 観 測 点 を,(d)はその 他 の 町 村 の 観 測 点 をそれぞれ 示 している. 図 5(a)をみる と,JMA 長 岡 では 周 期.25 秒 付 近 にピークがみられるのに 対 して,その 近 傍 に 位 置 する K-NET 長 岡 で は 周 期.5 秒 付 近 にピークがみられ, 卓 越 周 期 には 違 いがみられる.このため, 比 較 的 近 い 距 離 にあっ ても 地 盤 特 性 が 変 化 していることが 示 唆 される.また,それらの 観 測 点 のやや 東 側 に 位 置 する 国 土 交 通 省 の 長 岡 国 道 事 務 所 では 周 期.5 秒 付 近 に 明 瞭 なピークがみられる. 図 5(b)の 小 千 谷 市 周 辺 のスペクトル 比 をみると,JMA 小 千 谷 と K-NET 小 千 谷 ではそれぞれ 周 期.5 秒,.3 秒 付 近 にピークがみられ, 長 岡 市 と 同 様 に 比 較 的 近 傍 に 位 置 する 地 点 でも 卓 越 周 期 には 違 いがみ られる. 一 方, 川 口 町 ではスペクトル 形 状 は 平 坦 に 近 く, 明 瞭 なピークはみられなかった. 図 5(c)の 十 日 町 市 周 辺 のスペクトル 比 では, 十 日 町 市 と 国 土 交 通 省 十 日 町 出 張 所 では 周 期.5 秒 付 近 にピークがみ られるのに 対 して, 十 日 町 市 役 所 では 周 期.35 秒 付 近 に 明 瞭 なピークが 確 認 できる. 図 5(d)をみると, 川 西 町 では 明 瞭 なピークはみられないが, 小 国 町 や 中 里 村 では.2 秒 前 後 のピークが 確 認 できる. 5.K-NET 小 千 谷 における 地 盤 の 非 線 形 性 状 5. 本 震 前 後 の 常 時 微 動 記 録 と 地 震 記 録 のスペクトルの 比 較 K-NET 小 千 谷 では, 図 5(b)に 示 すように 常 時 微 動 の 卓 越 周 期 は.3 秒 付 近 であるのに 対 して, 図 3 に 示 す 本 震 での 卓 越 周 期 は.7 秒 と 長 周 期 側 に 移 行 している.また, 加 速 度 波 形 にはサイクリックモビリ
ティの 影 響 と 考 えられる 波 がみられることと 併 せて 考 えると,K-NET 小 千 谷 では 地 盤 の 非 線 形 性 の 影 響 が 顕 著 に 現 れているものと 考 えられる. 筆 者 のひとりは,998 年 5 月 に K-NET 小 千 谷 と K-NET 十 日 町 において 常 時 微 動 観 測 を 行 っている.そこで, 本 震 前 後 の 常 時 微 動 記 録 と 地 震 記 録 を 用 いて,K-NET 小 千 谷 における 地 盤 の 非 線 形 性 状 について 検 討 する. 本 震 前 の 998 年 5 月 と 本 震 後 の 24 年 月 に 計 測 した 常 時 微 動 の H/V スペクトル 比 の 比 較 を 図 6 に 示 す.なお,998 年 の 観 測 では 周 期 秒 まで 平 坦 な 特 性 を 持 つ 速 度 計 を 用 いている. 図 6(b)に 示 す K-NET 十 日 町 においては, 本 震 前 後 のスペクトル 比 の 形 状 や 卓 越 周 期 に 明 確 な 違 いはみられない. 一 方 で, 図 6(a)に 示 す K-NET 小 千 谷 では 本 震 前 のスペクトル 比 は 周 期.2 秒 強 にピークがみられるのに 対 し て, 本 震 後 のスペクトル 比 では 周 期.3 秒 にピークがみられ, 本 震 後 に 卓 越 周 期 が 長 周 期 化 している 傾 向 がみられた. Band Width.5Hz K-net 小 千 谷 (a) Band Width.2Hz K-net 十 日 町 (b).2s.3s. : 本 震 前 (98/5) : 本 震 後 (4/).. : 本 震 前 (98/5) : 本 震 後 (4/). 図 6 本 震 前 後 での 常 時 微 動 H/V スペクトル 比 の 比 較 Fourier Spectra (cm/s/s*s) K-net 小 千 谷. 24//23 7:56 PGA=,38cm/s 2 /27 :4 495cm/s 2 2//4 4cm/s 2 /25 :27 88cm/s 2 /24 22:4 2cm/s 2 998//8 6cm/s 2 実 線 : 本 震 余 震 点 線 : 本 震 前 の 地 震 図 7 本 震 前 後 の 地 震 記 録 のフーリエスペクトルの 比 較
各 地 震 記 録 のスペクトル 形 状 の 変 化 を 検 討 するため, 本 震 と 主 な 余 震, 本 震 前 の 地 震 について 加 速 度 フーリエスペクトルを 比 較 したものを 図 7 に 示 す. 図 中 の 太 実 線 で 示 したスペクトルは 本 震 のものであ り, 実 線 は 余 震 記 録 のスペクトル, 点 線 は 本 震 前 の 地 震 記 録 のスペクトルを 表 しており, 図 の 右 側 には 各 地 震 での 最 大 加 速 度 も 併 せて 示 している. 本 震 と 余 震 でのスペクトルを 比 較 すると, 卓 越 周 期 は.3 ~.7 秒 の 範 囲 にみられ, 振 幅 が 大 きくなるほど 長 周 期 側 にピークが 移 行 している. 同 レベルの 加 速 度 が 観 測 された 余 震 記 録 と 本 震 前 の 記 録 のスペクトルを 比 較 すると, 本 震 前 のスペクトルの 卓 越 周 期 は.25 秒 付 近 にみられるのに 対 して, 余 震 のスペクトルの 卓 越 周 期 は.3~.4 秒 であり, 常 時 微 動 の 結 果 と 同 様 に, 本 震 後 に 卓 越 周 期 が 長 周 期 化 している 傾 向 がみられた.これらのことは, 本 震 での 強 い 地 震 動 に より 地 盤 が 非 線 形 化 し, 低 下 した 剛 性 が 本 震 後 にも 復 元 していないことを 示 唆 しているものと 考 えられ る. 5.2 地 震 記 録 から 推 定 される 地 盤 の 非 線 形 性 状 K-NET 小 千 谷 におけるボーリング 調 査 結 果 を 図 8 に 示 す.この 地 盤 では 表 層 3m まで N 値 ~2, V S m/s の 軟 弱 な 層 が 存 在 し,その 下 には 深 さ 3m まで N 値 5 以 上,V S 38~58m/s の 礫 からなるや や 堅 い 層 が 続 き,さらに 下 層 には N 値 2 以 上,V S 34m/s の 岩 盤 が 深 さ 8m まで 存 在 している.3m 以 深 の V S 38m/s 層 を 基 盤 とみなして 表 層 地 盤 の 理 論 増 幅 率 を 描 くと, 図 9 中 の 太 実 線 のようになる(ケ ース A).この 場 合, 地 盤 の 卓 越 周 期 は. 秒 付 近 であり, 図 6(a)に 示 した 常 時 微 動 の 卓 越 周 期 とは 一 致 しない. そこで,ケース A と 同 様 に 3m 以 深 の 層 を 基 盤 とみなし, 表 層 の V S を m/s から 6m/s に 変 化 させ て 増 幅 率 を 描 くと 図 中 の 太 点 線 のようになる(ケース B).この 場 合, 卓 越 周 期 は.2 秒 にみられ, 常 時 微 動 の 結 果 と 対 応 する.また, 図 8 に 示 す 地 盤 モデルのさらに 下 層 の 8m 以 深 に V S,m/s の 基 盤 層 が 存 在 するものと 仮 定 すると, 増 幅 率 は 図 中 の 細 破 線 のようになる(ケース C).この 場 合, 表 層 3m の 低 速 度 層 に 対 応 する 周 期. 秒 付 近 のピークのほかに,それ 以 深 の 層 による 周 期.2 秒 弱 にもやや 小 さな ピークがみられるようになる. 図 8 の 地 盤 モデルによる 卓 越 周 期 と 常 時 微 動 による 卓 越 周 期 が 対 応 して いない 原 因 として, 上 記 のように 最 表 層 の V S が PS 検 層 結 果 よりもさらに 低 速 度 であるか,あるいはよ り 深 い 地 盤 の 影 響 が 考 えられる.しかし, 現 時 点 では 8m 以 深 の 地 盤 については 不 明 なため, 今 回 は 予 備 的 検 討 として,ケース B のように 表 層 3m の 層 の V S を 6m/s と 設 定 し, 強 震 時 にはその 層 のみが 非 線 形 化 するものと 仮 定 して 以 下 の 解 析 を 行 った. Depth (m) N-Value 5 5 V S (m/s) 4 8 Soil Column Fill soil Silt Volcanic ash cray Gravel Amplification SH 波 入 射 入 射 角 地 表 波 / 入 射 波 5 Rock Gravel Rock 2 図 8 K-NET 小 千 谷 におけるボーリング 調 査 結 果 A. 3m 以 深 の 層 を 基 盤 とした 場 合 B. 表 層 Vs=6m/sを 仮 定 した 場 合 C. 8m 以 深 の 層 にVs,m/sの 基 盤 層 を 仮 定 した 場 合. 図 9 K-NET 小 千 谷 における 理 論 増 幅 率
得 られた 地 震 記 録 から,Tokimatsu et al.(989)による 方 法 を 用 いて, 表 層 地 盤 のせん 断 剛 性 比 や 有 効 せ ん 断 ひずみを 算 出 した.この 方 法 では,まず 表 層 地 盤 のせん 断 剛 性 比 G/G を() 式 で 算 出 する. 2 (T /T) G/G = () ここで,T は 微 少 ひずみ 時 における 地 盤 の 卓 越 周 期 で,T は 地 震 記 録 の 卓 越 周 期 を 表 す.ここで,T には 図 6(a)に 示 す 本 震 前 の 常 時 微 動 の H/V スペクトル 比 から.2 秒 を 用 いる. 次 に, 地 表 面 での 速 度 波 形 v(t) を 用 いて 任 意 の 深 さ z における 地 盤 のひずみを(2) 式 で 算 出 し, 各 深 度 の 最 大 ひずみγ max を 平 均 した 値 から(3) 式 によって 有 効 ひずみγ を 算 出 する. eff { v( t + z / VSE ) v( t z / VSE )}/ VSE γ ( t, z) = 2 (2) γ eff = a ( γ max ) ave (3) V SE は 地 震 記 録 の 卓 越 周 期 から 推 定 される 地 盤 の S 波 速 度, 定 数 a は.65 である. 解 析 に 用 いた 地 震 記 録 を 表 に 示 す. 本 震 以 前 の 地 震 については 最 大 加 速 度 が 2cm/s 2 程 度 以 上 のも の 6 記 録, 余 震 は 最 大 加 速 度 ~4cm/s 2 程 度 のもの 3 記 録 を 用 いた. 解 析 では 水 平 2 成 分 のうち 最 大 速 度 が 大 きい 方 の 成 分 を 用 いた. 求 められた 有 効 ひずみとせん 断 剛 性 比 の 関 係 を 図 に 示 す. 図 には 比 較 のため,Tokimatsu et al.(989)による 結 果 も 併 せて 示 している. 本 震 時 のひずみレベルは 3-2 程 度 表 解 析 に 用 いた 地 震 記 録 日 付 時 間 M PGA(cm/s 2 ) 日 付 時 間 M PGA(cm/s 2 ) 998/2/2 9:55:45 5. 94.8 24//25 6:5:2 5.6 285.2 998/2/22 2:49:35 3.7 3.8 24//25 :27:57 4.5 32.5 本 震 以 前 の 2//4 3:8:3 5. 4.2 24//25 2:26:36 3.9 8.2 地 震 22/4/2 22:3:2 3.9 2. 24//27 :4:56 6. 495.8 24//9 22:5: 4. 49.4 24//27 :26:25 4.3 85. 24/3/5 7:38:4 4.7 7.9 24//27 :56:45 4.2 6.2 本 震 24//23 7:56:3 6.8 37.9 24//27 2:5:46 4.2 46.7 24//23 9:46: 5.9 432. 24//27 :35:28 4. 25.9 24//23 9:35:36 5.2 26.7 24//27 :56:34 4.2 5.6 24//23 2::28 4.4 72.7 余 震 24//28 2:3:59 4. 48.2 24//24 4:2:37 4.9 4.6 24// 4:35:53 5. 5.8 24//24 9:28:8 4.6 26. 24// 3:4:26 3. 2. 余 震 24//24 23::39 5. 65. 24//2 :4:2 3.9 34. 24//24 7:6: 4.2 43.3 24//4 8:57:35 5.2 326. 24//24 7:8:7 4.5 36.2 24//5 4:56:49 4. 44.2 24//24 3:54:3 3.9 3.5 24//6 22:5:5 4.4 54.5 24//24 :36:42 3.7 2. 24//8 :6:6 5.8 73. 24//24 :29:3 4.2 9.8 24// 3:43:7 5. 46.5 24//25 :28:2 5.2 38.7 24//2 2:24:4 4.3 48. Shear Modulus Ratio G/G.5 本 震, 余 震 本 震 以 前 の 地 震 本 震 4//23 7:56-6 -5-4 -3-2 - Effective Shear Strain γ eff 図 有 効 せん 断 ひずみとせん 断 剛 性 比 の 関 係 (Tokimatsu et al.(989)に 加 筆 )
V max /V S -2-3 本 震 4//23 7:56-4 本 震, 余 震 本 震 以 前 の 地 震 -5-4 -3-2 - Effective Shear Strain γ eff 図 有 効 せん 断 ひずみと 基 準 化 した 最 大 速 度 の 関 係 (Tokimatsu et al.(989)に 加 筆 ) と 求 められ, 既 往 の 結 果 に 比 べて 約 倍 大 きな 値 となっている.また,せん 断 剛 性 比 は / 程 度 に 低 下 している. 本 震 での 結 果 は 既 往 の 室 内 試 験 結 果 を 外 挿 するような 傾 向 がみられた.また, 本 震 前 後 の 結 果 を 比 較 すると, 本 震 後 では 卓 越 周 期 が 長 周 期 化 していることから, 同 程 度 のひずみレベルでも 本 震 前 に 比 べてせん 断 剛 性 比 が 低 くなっていることが 確 認 できる. 有 効 せん 断 ひずみと 表 層 地 盤 の S 波 速 度 に 対 する 地 表 の 最 大 速 度 の 比 の 関 係 を 図 に 示 す.Tokimatsu et al.(989)によると 両 者 には 線 形 な 関 係 がみられることが 指 摘 されており, 本 検 討 でも 同 様 な 傾 向 がみられた.なお, 前 述 のように 本 解 析 には いくつかの 仮 定 が 含 まれており, 今 後 さらに 検 討 を 加 える 必 要 がある. 6.まとめ 24 年 新 潟 県 中 越 地 震 では 多 くの 観 測 点 で 震 度 6 以 上 の 記 録 が 得 られた. 特 に, 震 源 近 傍 の 川 口 町 と K-NET 小 千 谷 では 震 度 7 が 観 測 された. 兵 庫 県 南 部 地 震 での 強 震 記 録 と 比 較 すると, 全 般 に 新 潟 県 中 越 地 震 での 強 震 記 録 は 周 期 秒 以 下 の 成 分 は 神 戸 での 記 録 よりもやや 大 きいものの, 秒 以 上 の 成 分 につ いては JMA 神 戸 と 同 程 度, 鷹 取 や 葺 合 の 記 録 と 比 べると 小 さい 傾 向 がみられた.また, 甚 大 な 被 害 が 生 じた 川 口 町 では, 墓 石 の 大 きな 被 害 や 自 動 車 の 移 動 がみられ, 最 大 速 度 で ~5cm/s の 地 震 動 であ った 可 能 性 を 指 摘 した. 震 源 近 傍 の 強 震 観 測 点 4 点 において 常 時 微 動 観 測 を 行 い, 地 盤 特 性 について 検 討 した.その 結 果, 比 較 的 近 くに 位 置 する 地 点 でも H/V スペクトル 比 の 形 状 や 卓 越 周 期 には 違 いがみられた.また,K-NET 小 千 谷 では 本 震 前 後 で 常 時 微 動 記 録, 地 震 記 録 ともに 卓 越 周 期 が 長 周 期 化 していることを 示 し, 地 震 記 録 と 地 盤 データを 用 いて 地 盤 の 非 線 形 性 状 について 検 討 した.その 結 果, 本 震 時 のひずみレベルは 3-2 程 度 であること,せん 断 剛 性 比 は / 程 度 に 低 下 したこと, 本 震 後 のせん 断 剛 性 比 は 本 震 前 のもの と 比 較 して 顕 著 に 低 下 していること,を 示 した.ただし, 地 盤 の 情 報 については 不 明 な 点 も 残 されてお り, 今 後 さらに 検 討 を 加 える 必 要 がある. 謝 辞 調 査 に 際 して, 各 市 町 村 役 場 の 関 係 各 位 にご 協 力 いただいた. 防 災 科 学 技 術 研 究 所 の K-NET および KiK-net, 気 象 庁 によるデータを 使 用 させていただいた.995 年 兵 庫 県 南 部 地 震 の 鷹 取 と 葺 合 の 記 録 は それぞれ JR 西 日 本, 大 阪 ガスによるものである. 記 して 謝 意 を 表 します.
参 考 文 献 纐 纈 一 起, 引 間 和 人, 三 宅 弘 恵, 田 中 康 久 : 24 年 新 潟 県 中 越 地 震 強 震 動 と 震 源 過 程, http://taro.eri.u-tokyo.ac.jp/saigai/chuetsu/chuetsu.html, 24.(/2 現 在 ) 翠 川 三 郎 : 飛 び 跳 ねる 自 動 車 - 兵 庫 県 南 部 地 震 での 激 震 動 -, 地 震 ジャーナル, No.42, pp.38-43, 996. Tokimatsu, K., Midorikawa, S. and Yoshimi, Y.: Dynamic Soil Properties Obtained from Strong Motion Records, Proc. 2th Intern. Conf. on Soil Mechanics and Foundation Engineering, Vol.3, pp.25-28, 989. 時 松 孝 次, 宮 寺 泰 生 : 短 周 期 微 動 に 含 まれるレイリー 波 の 特 性 と 地 盤 構 造 の 関 係, 日 本 建 築 学 会 構 造 系 論 文 報 告 集, 第 439 号, pp.8-87, 992. 内 山 泰 生, 翠 川 三 郎, 武 村 雅 之 : 995 年 兵 庫 県 南 部 地 震 の 際 の 墓 石 の 転 倒 調 査 その 2 墓 石 の 転 倒 率 と 地 震 動 強 さの 関 係, 日 本 建 築 学 会 大 会 学 術 講 演 梗 概 集, pp.3-4, 995. 山 中 佳 子 : EIC 地 震 学 ノート No.54+, 24 年 月 新 潟 県 中 越 地 方 の 地 震 (Mj6.8, Mj6.5, Mj6.), http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/sanchu/seismo_note/24/eic54a.html, 24.(/2 現 在 )