部活動としての水泳の今後の在り方について 水泳専門部山形県立寒河江高等学校白田亜弓
1 1 はじめに 2016 年 リオデジャネイロオリンピックの年が開けた 水泳競技においては32 年ぶりの水球男子オリンピック出場決定や競泳の若手選手の活躍などますます盛り上がりを見せ センターポールに日の丸を! のスローガンのもと 大きな目標に向かっている 山形県においては 各学校の顧問の先生方とスイミングクラブ等コーチの方のご尽力により 毎年全国で活躍する選手を輩出してきている しかし 県高校総体などの大会出場人数は数年前に比べると減少してきており この状況がさらに進めば 競技力低下を招くことにもなりかねないのではということが懸念されている また 本校においては部員不足がより深刻であり 水泳部の部員数は過去 3 年で19 名 14 名 6 名と激減しており 現在は現 2 年生の2 名のみとなってしまった さらに 本校の生徒会規約には 部において部員がなく活動停止期間が1 年を越えたとき 愛好会に降格となる とあり 来年度の新入部員が入らなければ 水泳部は秋に降格になるという危機的状況にある そのため 今後どのように部員を確保していくかが本校水泳部の現在の大きな課題となっている このように部員不足に悩む学校がある一方で 近年水泳部のない学校からの大会出場も見られるようになった また 部活動の意義や位置づけが全国的なニュースになるなど 部活動の在り方が問われているが 本県では少子化による問題も出てきている そこで 本研究では本校の1 年次生と県内の水泳部員からのアンケートを基に 今の高校生がどのような観点で部活動を選択するのか等についての意見をまとめ 今後の山形県における水泳競技の活性化や競技人口の増大に役立てるものとした また 各校の先生方から部活動の現状と課題を出していただき 今後の部活動の在り方を探ってみることにした 2 研究の方法 (1) 調査方法アンケート調査 (2) 調査対象 1 山形県立寒河江高等学校平成 27 年度入学生 2 平成 27 年度山形県高等学校総合体育大会水泳競技に出場の生徒 3 平成 27 年度山形県高等学校総合体育大会水泳競技出場校の引率教員 (3) 調査期間平成 27 年 6 月 26 日 ~28 日 (4) 調査内容以下の記述内容による 3 結果と考察 (1) 高校生の部活動選択に関する意識について 寒河江高校平成 27 年度入学生からのアンケートより ア ) 回答人数内訳 男子 女子 合計 107 85 192
イ ) これまでのスポーツ経験 ( 複数回答可 ) ウ ) 高校の部活動を選んだ理由 ( 複数回答可 ) 2 剣道 12 前からやりたかった 48 サッカー 19 親の勧め 7 卓球 25 友達に誘われた 24 ソフトテニス 25 先輩に誘われた 15 テニス 9 雰囲気が良かった 36 バスケ 14 先輩が魅力的 25 バレー 18 新しいことを始めたい 61 陸上 15 中学でやっていた 81 野球 32 部活動見学をしてみて 58 水泳 104 部活動紹介を見て 22 0 20 40 60 80 100 120 エ ) 中学での部活動を継続したか オ ) 入部を決めた時期 0 20 40 60 80 100 5% 入学前 58% 42% はい いいえ 45% 42% 部紹介後 部見学後 8% その他 カ ) 高校で部活動に入った決め手は何ですか ( ) 内は同様の意見の数 楽しそう 面白そう(12) 部活の雰囲気が良さそう(20) 部活動見学で先輩の姿が格好良かった(9) 部活動見学で優しく教えてもらった(5) 部活動の様子で本気度が伝わった(3) 体験してみて楽しかった(7) 初心者からでも始められそう(3) 憧れの先輩がいたから(7) 勉強との両立ができる(2) やりがいがあるという言葉に惹かれた 自分が必要だと言ってもらった 指導していただきたい先生がいる 経済的負担が軽い(2) 練習があまりハードでない(4) 部活動紹介の実演で興味を持った(3) 部活動紹介での面白いパフォーマンス(10) 先輩の技術の高さと成績に感動した(7) 中学で悔しい思いをしたからまた挑戦する(2) 参考 ) 平成 27 年度の寒河江高校における部活動入部までの流れ 4 月 7 日 ( 火 ) 入学式 4 月 8 日 ( 水 ) 部活動紹介 1つの部につき3 分で部活動の紹介や実演を行う 4 月 8 日 ( 水 )~17 日 ( 金 ) 部活動見学 体験期間 4 月 20 日 ( 月 ) 部活動登録 イ ) より 習い事としての水泳の人気は非常に高く 生徒の半数以上に習った経験があった しかし 4 泳法を習得したタイミングで辞めてしまったり 他の部活動を選んだり 進んだ中学校に水泳部がなかったりという理由からか 本校の生徒においては高校で水泳を続けることにはつながらなかったようだ
3 ウ ) より 高校の部活動を選んだ理由の一位は 中学校でやっていた であり 次いで 新しいことを始めたい が多かった また エ ) の結果からも中学の部活を継続していない生徒の割合の方が高いことがわかった 高校には中学校にはなかった部活動があったり 選択肢が増えたりするため 新しいことにチャレンジしたいという希望を持って入学する生徒も多いのではないかと考えられる オ ) より 入部を決めた時期は 入学前 と 部活動見学期間後 がほぼ同率であった これは 中学校での部活動を継続する生徒は入学前から入部を決めていることが多く 反対に新しい部に入る生徒は部活動見学後に決めていることからではないかと考えた なお 部活動紹介後 が少数であるのは 各部の紹介を見るだけでは決め手にはならず 興味を持った部活動での見学や体験を通して決断に至るのではないかと考えられる カ ) の回答からもそのことが読み取れる なお 本校の部活動入部までの流れを参考 ) に示した カ ) より 部活動を選択するにあたり 先輩の姿や楽しさなどの部活動全体の雰囲気を重視している生徒が多いようだ また 学業との両立や経済面での理由を挙げた生徒もおり 生徒はその競技をやりたいという気持ちだけではなく その部活動の居心地の良さ 続けられる環境かどうかや充実度など 様々な観点で部活動を選択しているようだ さらに 先輩からの言葉にも大きく影響を受けていることもわかった 県内水泳部生徒からのアンケートよりケ ) 回答人数内訳 1 年 2 年 3 年 合計 男子 49 52 51 152 女子 27 26 31 84 合計 76 78 82 236 コ ) 中学でも水泳部だったか サ ) スイミングクラブに通った経験 15% 12% はい あり 85% いいえ 88% なし シ ) 高校選択で水泳部の有無を考えたかス ) 高校で水泳部を選んだ理由 ( 複数回答可 ) 先輩に誘われた 32 親の勧め 18 32% 68% はい いいえ 他にやりたいことがない水泳選手への憧れ泳げるようになりたい 24 18 64 水泳の仲間が好き 94 水泳が好き 133 記録に挑戦したい 115 0 50 100 150
セ ) 部員確保のため 新入生にどのようなアプローチが有効だと思うか ( ) 内は同様の意見の数 4 < 勧誘するときに効果的だと思われる言葉など> 水泳の楽しさを知ってもらうしかない(29) 体力がつくし 生涯スポーツである(11) 海で遊ぶときに役立つ(4) 高校からでもOKという雰囲気を出す 消費カロリーが多いのでダイエット向き(7) 理想的な体型になる(5) 目標に向かって努力している様子を見せる(4) 他競技に比べて故障が少ない(2) 大会の時の盛り上がりが楽しい 小学校の教員や体育の教員になるために 種目が多いため 大会出場しやすい(5) は水泳が必修である 達成感がある(4) 頑張った分だけ結果が出る(3) ベストが出たときの嬉しさや泳ぐ楽しさ 夏はとても気持ちがよい(2) 楽しそうな活動の動画を流す(15) 全国での活躍を知ってもらう <その他 > 学校関係なくみんなで応援するようにする(2) 学校にプールをつくる 室内施設の充実(14) 水泳の授業を楽しいものにする(4) 上位選手だけでなく下位選手の合宿の実施(2) 大会での50m 種目を増やす (3) イベントを開催( シンクロ 有名選手 )(5) 普通高校の推薦入試を復活させる(3) 学習と両立できる環境にする(2) 指導者の育成(2) クラブではなく学校での練習を推進する 無理にしなくても やりたい人でよい(5) 小中学生を増やす 辞めないようにする(9) 大会に観に来てもらえるようにする 練習をもっと楽しい雰囲気にする(6) 始めやすいようにメニューを考慮する(11) 水泳のアニメやドラマを増やす(3) コ ) サ ) より 水泳部は経験者からの入部が大半であることがわかった この理由の一つとして 水泳部は中学校でも高校でもスイミングクラブに所属して練習を行っている場合が多いため スイミングクラブに入会しないと入部できないという印象が強いのではないかということが考えられる その結果 生徒にとっては敷居の高い部活になってしまっているのではないだろうか セ ) でも意見が出ていたが もし学校のプールで練習をすることができ そのイメージが浸透すれば 高校からでも入りやすくなるのではないかと考えられる それが難しいとしても 初心者やブランクのある生徒を積極的に受け入れられる環境であることは 今後競技人口を増やしていくためには必要不可欠である シ ) より 水泳部の有無を考えずに高校を選択した生徒の割合が32% と 予想より多い結果となった その理由は今回の調査からは読み取ることができなかったが 水泳をやりたいからこの学校に入りたい という生徒は多くはないのではないかと思われる またこれは推測であるが 近年は中学校でも外部でスポーツを行う生徒が増えていると聞くため そのことも関係している可能性もあるのではないだろうか オ ) より 高校で水泳部を選んだ理由は 水泳が好き 記録に挑戦したい 水泳の仲間が好き の項目が高く やはり競技そのものの魅力にひかれて入部した生徒が多いようだ そのことがセ ) にも表れており 勧誘するときに効果的だと思われる言葉では 水泳の楽しさを知ってもらうしかない という声が最も多かった 水泳部員として水泳の魅力を十分知っているからこその意見だと感じる また 水泳が習い事として人気がある理由として 比較的道具を揃えやすく 始めやすいスポーツであることがある さらに 健康の保持増進に効果があることもあり 運動部に入りたいと考えている生徒へこの点をアピールすることは有効であると考えられる その反面 やりたい人だけやればよい という意見もあり 現水泳部にとっては目の前に廃部などの危機がなければ 部員の減少は特に問題として感じていないと考えられる
(2) 部活動における各校の現状と課題について 県内水泳部顧問からのアンケートより ソ ) 回答人数内訳 村山 最北 置賜 田川 飽海 合計 12 1 4 4 4 25 5 タ ) 水泳部の有無 チ ) 練習場所 0% 4% 28% 72% ある ない 40% 56% 学校スイミング両方夏のみ学校 ツ ) 水泳部の運営上の課題 ( ) 内は同様の意見の数 部員不足(3) 練習がクラブのため 部員としての連帯感を 登録料 参加費が出ない 持たせるのが難しい (2) 生徒は自己負担 教員は学校負担 練習がクラブのため 先生方に活動が見えにくい 専門の教員がいないため実技指導が難しい 市民プールの使用料金がかかる クラブの指導に依存しているため 学校で 外部練習場所の使用割当レーンが少なく は部活動として認められていない 練習に十分対応できない 次の外部コーチの目処が立っていない(2) スイミングクラブとの連携 テ ) 部活動に関わる課題 ( ) 内は同様の意見の数 < 学校の統廃合やクラス減に関わる問題 > 顧問不足(3) 派遣費削減 部員の自己負担の増加(2) 部活動数の維持が困難(2) 団体種目の部員数減 団体種目の部員数減 小規模の部活動の生き残りが厳しくなっている 教員数に対して部活の数が多い ため 特定の競技人口が減少するのでは <その他 > 部員の募集停止のタイミングをどうするか 実技指導ができる教員が多くない 土日の部活動の対応 文化部を希望する職員が多い タ ) より 県高校総体出場校の28% が水泳部のない学校からの出場であった 高体連主催の大会では当該校の引率を必要とするため 今回出場した高校の28% の学校からは生徒課や担任を中心に引率していただいたということになる シ ) での水泳部の有無を考えずに高校を選択した生徒が32% であったことも少なからず影響しているのではないだろうか 水泳部がない高校でも水泳を続けたいと希望し 大会への出場を学校側でも認めてくださっていることは嬉しいことだが 引率の観点からは自分の部活動の他に引率をしなければならないことは負担にもなってしまうこともある 各校の学校説明会などの機会を活用して部活動の紹介をしていただくなどして 水泳部に所属して頑張りたいという生徒が増えることを期待したい
6 チ ) より 練習はスイミングクラブで行っているという学校が過半数であった 次に多い 両方 は 夏は学校のプールで 冬はスイミングクラブに所属してという学校や 年間を通してスイミングクラブでの練習と学校練習を掛け持ちしている生徒など 内容は様々である 水泳は冬期間にもほぼ毎月大会があり また 夏季シーズンに向けて冬期間に量的に追い込むことが非常に重要であることから 年間を通してしっかりトレーニングを積むことができる環境が望ましい しかし 学校の施設で通年の練習ができる環境はほとんどないため スイミングクラブに所属しての練習に頼らざるを得ないという現状もある さらに ツ ) の結果から 水泳部の運営上の課題にスイミングクラブとの関わりを挙げた先生が目立った 日頃から生徒やコーチの方々との情報交換を行い 共通理解を図るなど 学校とスイミングクラブが両輪となって生徒を育てていくことが必要であると感じた テ ) より 部活動に関わる各校の課題は少子化による学校の統廃合やクラス減に関わるものが多かった また 教員数減による業務量の増加からか 積極的に部活動の指導を行いたいという教員も少なくなっているようだ 水泳は外部での活動が多いため 部活動の統廃合の話題が出たときに候補に挙がりやすい部活動である それを避けるためにも 水泳部のある学校は部員の確保と競技力向上に努めていくことが求められていくのではないだろうか 4 まとめ今回 なんとか部員 ( 競技人口 ) を増やしたいという願望がありこのようなアンケートを取らせていただいた やはり高校から水泳を始めるという生徒はごく少数であり 部員の獲得には小学校や中学校で水泳に取り組んできた生徒をどのように継続させるかが重要だと感じた 本校生徒の半数以上が水泳経験者だったのにも関わらず 今年度の新入部員がゼロだったことは 私たちの努力不足であったことに他ならない 高校生が部活動を選ぶ決め手は体験したときの印象が大きく影響するということだったので 部活動紹介で興味を持たせ 活動場面を見学したり 体験をして先輩と接したりする機会を設けることが必要である 水泳の体験を4 月に学校で行うことは難しいが 実際に活動をしている場面で直接 個々に水泳の魅力を伝えることが大事なのだと思うので 泳ぐことは難しくても 来年度は一緒に何かの活動を行ったり 先輩部員と接したりすることができるようにしていきたい また 部員確保のためには水泳の魅力をアピールすることの他に 水泳部の環境改善についての意見も多くあった これは新入部員のためだけではなく 現在の部員からの要望でもあるように感じられる 施設面や入試に関わることは難しいところもあるが 下位選手の合宿の実施など 実現できそうなものについてはぜひ専門部で検討していきたい 部活動における各校の現状と課題についての調査では 先生方がそれぞれ水泳部の生徒に熱心にご指導くださっていることが感じられた 山形県は水泳専門の先生が多いとは言えないため 日常の練習やスイミングクラブとの連携について苦心されているのではないかと思う なかには数校での合同練習を通常の練習で行っているところもあるので 顧問同士の情報共有や合同練習会の実施 さらには近隣の民間プール 公営プールとの連携など お互いに協力し合いながら指導を行う体制ができれば 部員不足や競技力低下の懸念も軽減されていくのではないかと考えた この研究を進めるにあたり 各校の水泳部員および引率の先生方には お忙しい中アンケートにご協力いただいたことに心から感謝申し上げたい 今回の調査を活用し 山形県の水泳界がさらに盛り上がり 水泳専門部から29 年南東北インターハイや2020 年東京オリンピックで活躍する選手を輩出できるように微力ながら尽力していきたい