2 体細胞にかかる基本概念 (1) 体細胞とは? さて このように総合指数にも組み込まれるほど重要な形質である体細胞ですが そもそも体細胞とはなんでしょうか? 釈迦に説法ですが 復習したいと思います 体細胞とは乳汁中に含まれる白血球と脱落上皮細胞その他の総称したものです 病原微生物が乳房内に侵入して

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検査の重要性 分娩前後は 乳房炎リスクが高まる時期 乾乳軟膏の効果が低下する分娩前後は 乳房炎感染のリスクが高まる時期です この時期をどう乗り越えるかが 乳房炎になるかどうか重要なポイントです 乾乳期に分娩前乳房炎検査を実施して 乳房炎の有無を確認 治療を行い泌乳期に備えます 分娩前後いかに乗り切る

(1) 乳脂肪と乳糖の生成反芻動物である乳牛にとって最も重要なのはしっかりしたルーメンマットを形成することです そのためには 粗飼料 ( 繊維 ) を充分に与えることが重要です また 充分なルーメンマットが形成され微生物が活発に活躍するには 充分な濃厚飼料 ( でんぷん 糖 ) によりエネルギーを微

(2) 牛群として利活用 MUNを利用することで 牛群全体の飼料設計を検討することができます ( 図 2) 上述したようにMUN は 乳蛋白質率と大きな関係があるため 一般に乳蛋白質率とあわせて利用します ただし MUNは地域の粗飼料基盤によって大きく変化します 例えば グラスサイレージとトウモコシ

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地域における継続した総合的酪農支援 中島博美 小松浩 太田俊明 ( 伊那家畜保健衛生所 ) はじめに管内は 大きく諏訪地域と上伊那地域に分けられる 畜産は 両地域とも乳用牛のウエイトが最も大きく県下有数の酪農地帯である ( 表 1) 近年の酪農経営は 急激な円安や安全 安心ニーズの高まりや猛暑などの

通常 繁殖成績はなかなか乳量という生産性と結びつけて考えることが困難なのですが この平均搾乳日数という概念は このように素直に生産性 ( 儲け ) と結びつけて考えることができます 牛群検定だけでなく色々な場面で非常に良く使われている数値になりますので覚えておくと便利です 注 1: 平均搾乳日数平均

現在 乳房炎治療においては 図 3に示す多くの系統の抗菌剤が使用されている 治療では最も適正と思われる薬剤を選択して処方しても 菌種によっては耐性を示したり 一度治癒してもすぐに再発することがある 特に環境性連鎖球菌や黄色ブドウ球菌の場合はその傾向があり 完治しない場合は盲乳処置や牛を廃用にせざるを


非化膿性脳脊髄炎を主徴とする山羊関節炎・脳脊髄炎のウイルス学的分析

とともに 目 標 値 を 設 定 しそれを 達 成 するために 努 力 することが 重 要 であると 思 われます (3) 乳 質 改 善 指 導 の 流 れ 乳 質 改 善 全 体 の 流 れを 下 図 に 示 した 乳 房 炎 の 発 生 に 最 も 影 響 を 及 ぼすことは 搾 乳 手 順

指導者検証用のガイドライン等について(案)

解説 新しい牛群検定成績表について ( その 26) ボディコンディションスコアの判定 電子計算センター次長相原光夫 牛群検定におけるボディコンディションスコア (BCS) は 平成 23 年度から開始した最も新しい検定項目です その活用法は 牛群検定の 4 つの機能 (1 飼養 ( 健康 ) 管理

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

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システムの構築過程は図 1 に示すとおりで 衛生管理方針及び目標を決定後 HAC CP システムの構築から着手し その後マネジメントシステムに関わる内容を整備した 1 HACCP システムの構築本農場の衛生管理方針は 農場 HACC P の推進により 高い安全性と信頼を構築し 従業員と一体となって

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資源を活用したわが国の環境に適した独自の遺伝改良の必要性が増しており 優秀国産種雄牛作出検討委員会 (J-Sireプロジェクト検討委員会 委員長: 菱沼毅 ) は 独立行政法人家畜改良センター (NLBC) の保有する優秀な遺伝子を活用した種雄牛作出にいち早く取り組んできました 同委員会は 2 月

平成 25 年度 全農推奨 CRI 社乳牛凍結精液リスト 平成 25 年 6 月 30 日 略名種雄牛略号種雄牛の父 NTP TPI 生産寿命 (PL: 月 ) 分娩難易度 (SCE:%) フローレス 1HO2509 トイストーリー +2,757 +2, セコイア 1HO261


A 農場の自家育成牛と導入牛の HI 抗体価の と抗体陽性率について 11 年の血清で比較すると 自家育成牛は 13 倍と 25% で 導入牛は 453 倍と % であった ( 図 4) A 農場の個体別に症状と保有している HI 抗体価の と抗体陽性率を 11 年の血清で比較した および流産 加療

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国際評価トピックスと概要 月 平成 22 年 8 月 27 日 ( 独 ) 家畜改良センター情報分析課 今回より CD 掲載範囲の変更に伴い 1 国内外の種雄牛の能力 の表示方法を変更しました Ⅰ. トピックス 1 国内外の種雄牛の能力 ( 乳量 ) 表 年生まれの種雄牛

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3 流動比率 (%) 流動資産流動負債 短期的な債務に対する支払能力を表す指標である 平成 26 年度からは 会計制度の見直しに伴い 流動負債に 1 年以内に償還される企業債や賞与引当金等が計上されることとなったため それ以前と比べ 比率は下がっている 分析にあたっての一般的な考え方 当該指標は 1

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い 乳房炎によって乳量が増加することはないので 確率変数と見た場合の泌乳量の分布は減少局面のみとなるため 酪農生産基盤が ぜいじゃく 脆弱化している近年においてはその効果が 需給に大きな影響を及ぼしうる 乳房炎を経済的側面から分析した研究はいくつかあるが そのほとんどは経営段階や全国のマクロレベルで

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られる 3) 北海道での事例報告から 100 頭を超える搾乳規模での発生が多かった (33 例 82.5%) 冬から春にかけての発生がやや多い傾向 2006 年は 9 例 2007 年は 6 例が発生 全道的にも増加していると推察された 発生規模は 5~20% と一定で 搾乳規模に相関しなかった 発

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2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果



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ふくしまからはじめよう 農業技術情報 ( 第 39 号 ) 平成 25 年 4 月 22 日 カリウム濃度の高い牧草の利用技術 1 牧草のカリウム含量の変化について 2 乳用牛の飼養管理について 3 肉用牛の飼養管理について 福島県農林水産部 牧草の放射性セシウムの吸収抑制対策として 早春および刈取

平成24年度自給飼料利用研究会資料|酪農生産における暑熱の影響とその対応

当初 酪農 畜産を学んでいるとは言え酪農経験のない学生に どのような貢献ができるのか懸念されたが それは杞憂であった なぜなら 現地の酪農は 筆者の主観ではあるが 我が国の 30~50 年前の農村風景 農民気質そして衛生水準を彷彿とさせるものであり 大学で学んだ知識でも 十分に様々な課題を指摘できる

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解 説 一方 乳成分にも違いが見られた 分娩後30日以内 産牛100頭規模の農場としている 損失額の計算は で乳脂肪率が5 を超える場合は栄養不足で体脂肪の ①雄子牛の出生頭数減少 雄子牛の売却減 ②雌子 過剰な動員が起こっていると判断できる この時期に 牛の出生頭数減少 更新牛購入コスト ③出荷乳

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乳牛の生産サイクル 搾乳 機械的搾乳の原理 乳量 初期 最盛期 中期 分娩 50 日 110 日 220 日 後期 305 日 60 日 280 日 分娩 乳頭 外筒 大気圧 ミルクホース 真空ホース くり返す 陰圧 初めの 2~3 搾りは必ず捨てる乳房の洗浄とマッサージでオキシトシンの分泌が高まる

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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

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と 測定を繰り返した時のばらつき の和が 全体のばらつき () に対して どれくらいの割合となるかがわかり 測定システムを評価することができる MSA 第 4 版スタディガイド ジャパン プレクサス (010)p.104 では % GRR の値が10% 未満であれば 一般に受容れられる測定システムと

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Problem P5

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セッション 6 / ホールセッション されてきました しかしながら これらの薬物療法の治療費が比較的高くなっていることから この薬物療法の臨床的有用性の評価 ( 臨床的に有用と評価されています ) とともに医療経済学的評価を受けることが必要ではないかと思いまして この医療経済学的評価を行うことを本研

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B 農場は乳用牛 45 頭 ( 成牛 34 頭 育成牛 7 頭 子牛 4 頭 ) を飼養する酪農家で 飼養形態は対頭 対尻式ストール 例年 BCoV 病ワクチンを接種していたが 発生前年度から接種を中止していた 自家産牛の一部で育成預託を実施しており 農場全体の半数以上の牛で移動歴があった B 農場

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1. 期待収益率 ( 期待リターン ) 収益率 ( リターン ) には次の二つがあります 実際の価格データから計算した 事後的な収益率 将来発生しうると予想する 事前的な収益率 これまでみてきた債券の利回りを求める計算などは 事後的な収益率 の計算でした 事後的な収益率は一つですが 事前に予想できる

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解説 1 新しい牛群検定成績表について ( その 8) 体細胞情報について 1 電子計算センター電算課長相原光夫 牛群検定の機能には 1) 飼養 ( 健康 ) 管理 2) 繁殖管理 3) 乳質 衛生管理 4) 遺伝的改良の 4 つの機能 があることは これまでも述べてきたとおりです そのうち乳質 衛生管理にかかわる部分として体細胞情報の 見方を本号より何回かに分けて取り上げます 1 はじめに 体細胞リニアスコアの育種価が総合指数 (NTP) に組み込まれました遺伝的改良の要である総合指数 (NTP) が平成 22 年 2 月 (2010 Ⅰ) から図 1のとおり変更になり 疾病繁殖成分が加わりました その新しく加わった疾病繁殖成分の主役が体細胞の育種価です このことにより 新しい総合指数には乳房炎の予防および乳質改善等の側面から乳生産性を向上させ 生産寿命を延長さ せる効果 ( 年当たり11.4 日 ) が期待されています このように体細胞情報は 現在 単に乳質 衛生管理面だけに留まらず 生産寿命という乳牛にとって最も根元的な面を担う情報としてその重要度を高めています そこで今回から牛群検定における体細胞情報の見方を 基本に立ち返りながら解説します ( 新しい総合指数についての詳細な解説は LIAJニュース120 号 (http://liaj.lin.gr.jp/japanese/liajnews/liaj12011.pdf) を参照下さい ) 図 1 1 LIAJ News No.122

2 体細胞にかかる基本概念 (1) 体細胞とは? さて このように総合指数にも組み込まれるほど重要な形質である体細胞ですが そもそも体細胞とはなんでしょうか? 釈迦に説法ですが 復習したいと思います 体細胞とは乳汁中に含まれる白血球と脱落上皮細胞その他の総称したものです 病原微生物が乳房内に侵入して増殖し乳管や乳腺を刺激し炎症をおこしたものが乳房炎ということになります 炎症をおこせば 血流量が増え血管浸透性が亢進し 血液中の白血球が遊走し乳汁中に白血球が移行します また炎症により傷んだ上皮細胞は脱落し 同じく乳汁に移行します こうして乳汁に移行した白血球と脱落上皮細胞が体細胞数として計測されるわけです こういったメカニズムであることから 乳汁中の体細胞数の増加を乳房炎感染の指標として用いることが酪農先進諸国で広く用いられています また 最近では体細胞数は乳質の指標となることから 乳価ペナルティーとして用いられるようになりました 体細胞数は 後述しますがねずみ算式に増加することが特徴であるため 体細胞数の高い牛が数頭いるだけで バルクタンクの体細胞数を引き上げてしまいます そのため 体細胞数が高くなってしまった牛は淘汰されることが多いので 今回の NTPの改定において 体細胞数が生産寿命に大きく影響している形質として取り入れられました (2) 体細胞数の最近の推移図 2に示すとおり 牛群検定で体細胞数の成績を本格的にとりまとめるようになった平成 15 年以降北海道 都府県ともに一貫して体細胞数は改善されてますが 平成 20 年ごろから 少々足踏み状態であることがおわかりいただけると思います また 体細胞数は 一般に夏季に高い数値をしめし 冬季に改善するという季節変動を示します これはヒートストレスなど乳牛が暑熱に弱いため 体力の落ちる夏季に乳房炎が発症しやすいことなどが考え 図 2 られます また 初産牛よりも2 産以上といったように加齢的に体細胞数が増加することもよく知られてます 3 体細胞数の改善の目的と方法 (1) 体細胞数の改善の目的そもそも論になってしまいますが体細胞数はなんのために改善しなければ ならないのでしょうか? その考え方を図 3にしめしました 生乳の需要面から考えますと 消費者ニ ズに対応して需要を拡大するためには 更なる生乳の高品質化と低コスト化を図る必要があります 生乳の高品質化を図るには体細胞数の改善がひとつの指標となりますが 高品質化をはかるあまりに 高体細胞数の牛を選択的に淘汰すると 体細胞数は一般的に加齢とともに増加する傾向があるので 酪農経営の中核をなす成熟した収益性の高い牛を失ってしまうという低コスト化と反する問題が発生してしまいます さらには 体細胞数が増加するということは 乳房に炎症があるわけですから 当然 泌乳量は減少し 本来の泌乳能力を発揮できません 乳房炎の治療費もかなりのものですし 淘汰となればその損害は計り知れず おおよそ低コスト化とは縁遠いことになります このように体細胞数の改善とは 単に乳価が有利になるとかいった目先の目的だけではなく 生乳の需要拡大まで含めた大きな経営改善のキーポイントであるわけです 2

図 3 行うことも出来ます 重傷である場合は 淘汰という判断を行わないといけない場合もありますが その判断材料は牛群検定デ タということになります 最後に遺伝的改良になりますが 今回の総合指数で加味されることにもなりましたが 体細胞数の遺伝率は0.082と低いことから 遺伝的な改良だけで体細胞数を改善することは困難が伴います 体細胞数の改善にはやはり 飼養管理の改善がもっとも重要です (2) 体細胞数の改善の方法体細胞数の改善方法を図 4に示しました 乳房炎の目安である体細胞数は 他の周産期病と同様に先ず予防が最も大事です 近年 体細胞数の増加は加齢という要因よりも牛舎の衛生面とあわせ不適切な搾乳 ( 過搾乳等 ) を経年的に行うことがより重大な要因であることが知られるようになりました そこで 搾乳時に的確な搾乳作業が行われているかどうかを把握し 産次が進んでも体細胞数が増加しないよう予防を図ることが極めて重要です 次に 残念ながら体細胞数が増加してしまった牛への対処です 牛群検定を活用すれば いち早く体細胞数の高い牛を把握することができます 体細胞数の高い牛の生乳を廃棄すれば 出荷する生乳の乳質を保つことが可能です また 軽症のうちに治療を図 4 (3) 検定員のみなさんへこのように体細胞数の改善には予防が極めて重要なわけですが 牛群検定成績表は結果論であって予防という観点では有効な検定項目はありません しかし 牛群検定をもっと広く大きく解釈することで ひとつの大きな可能性があります 搾乳という作業に立会する機会が誰よりも多いのは 牛群検定の中核である検定員のみなさんの他あり得ません もし 検定員のみなさんが正しい搾乳手順を 検定農家に指導していただければ これこそが最も効率が良く 的確な指導になると考えられます そこには 牛群検定成績表を越えた大きな意味での牛群検定の利活用になります 是非とも みなさんの地域で取り組んでみてはいかがでしょうか? 4 正しい搾乳手順 上述したとおり 新しい牛群検定のあり方として 牛群検定実施時に搾乳手順をチェックすることには大きな可能性があります そこで 検定成績表の見方とは少々外れますが 正しい搾乳手順について 検定時にどういった点に注目し 指導すれば良いか 記します (1) 搾乳前の準備搾乳の最中に 取りに行ったり 足りなくなったりしないように次のものを事前に準備し 充分量であることを確認します ゴム手袋 殺菌したタオル 拭き取り用タオル ストリップカップ ディッパー 屑かご その他 3 LIAJ News No.122

(2) 前搾り 1ゴム手袋をつけて ストリップカップに前搾りを5 6 回しっかりと行い ブツがないか確認します 絶対に牛床に乳を落としてはいけません 2プレディッピングを行っている農家であれば ここでプレディッピング専用液でディッピングします ( プレディッピングの実施については そのタイミングや薬剤の誤使用など難しいところもありますので 地域の指導にしたがって下さい ) 3 乳頭を殺菌したタオルで清拭します 特に乳頭口をきれいにします タオルの他の牛への使い回しは厳禁です 乳房はよほどひどい汚れの時以外は洗浄しませんが やむ得ない場合は 洗浄汚水が乳頭に流れないよう注意して 充分に乾かします 4 拭き取りタオルまたはペーパータオルで乳頭を拭き取り充分に乾かします 濡れたままのミルカー装着はライナースリップを誘発します タオルはもちろん 他の牛への使い回しは厳禁です (3) ミルカーの装着 1 分あたりの射乳量をグラフ化したものが 図 6です 前搾りによる搾乳刺激を充分に与えると 射乳ホルモンであるオキシトシンが分泌され約 1 分 1 分 30 秒で最高となります このオキシトシンが充分でない状態で搾乳を開始してしまうと 図 5のように 搾乳開始時に一時的に射乳量が減少する現象 ( バイモダリティ ) が発生します この現象は 当団が平成 21 年度まで行った乳質改善モデル事業により明らかになった現象で 結果的に過搾乳と同様に乳器に過 図 5 度な真空圧がかかり 乳房炎の発生原因になります このようなことが発生しないように以下の手順でミルカーを装着します 1 前搾りを行ってから 乳頭が充分に張ってからミルカーを装着する 目安は前搾りから1 分 1 分 30 秒後です ( 図 6) 2ティートカップは 4 本広げるように持ち 余計な空気を吸わせないよう速やかに装着します 3ティートカップをひねったりせず クローが傾かないように注意する (4) 主搾乳期前搾り時の乳頭清拭での乳頭乾燥が不充分な場合など ライナースリップを起こし 空気が混入することになります ライナースリップ現象は 空気の混入により真空圧が逆転することから ミルククローにいったん落ちた乳汁が乳頭へ逆流するというドロップ 図 6 乳頭の張りがポイント! 4

レッツ現象を起こし 乳房炎の発生原因となります ライナースリップが発生したら直ぐに直しますが 発生させないよう乳頭清拭時の乳頭乾燥やミルカーの離脱など充分に注意することが必要です (5) 搾乳終了 1 搾乳はオキシトシンの効力を充分に得られる約 5 分間で終了するようにします 必ず4 本同時にミルカーを離脱します 2 前乳房だけが先に搾乳終了した場合に前乳房のティートカップだけを外してしまう方がいらっしゃいますが これは絶対に行ってはいけません 前乳房を外した際に空気が吸引することになり ドロップレッツ現象を引き起こします また 真空圧は施設全体の搾乳ユニットにつながっていますので 同時に搾乳している他の牛のミルカーの真空圧を減圧させることになり 他の牛のミルカーでライナースリップを誘発することになります 3 搾乳が終了した後 ミルカーを装着したままにしない ( 過搾乳 ) 自動離脱装置をつけている場合でも 正常に作動しているか時々確認して下さい 4マシンストリッピング ( 後搾り ) は絶対に行わない マシンストリッピングで得られる乳量は1kg 未満です マシンストリッピングの負荷による乳房炎の発生を防ぐ方が わずかな乳量を得るより重要です 5 搾乳終了時のディッピングは浸漬により確実に行うこと ミルカー離脱直後の乳頭口が開いているときでなければ 意味はありません また ディッピングの薬剤は毎回取り替えること (6) オキシトシン搾乳にとってオキシトシンというホルモンが大切である旨を上述しました オキシトシンは 幸せホルモンとか癒しのホルモンとも呼ばれ 人間で言えば赤ちゃんをダッコしたりすると分泌されるもので 精神面に大きく左右されるホルモンです 搾乳中に 図 7 5 LIAJ News No.122

牛を驚かしたり 怯えさせたりして 牛を興奮状態にすると アドレナリンというホルモンが出て オキシトシンが分泌されなくなってしまいます オキシトシンが分泌されずに搾乳することは過搾乳を行うことと同一で乳房炎発症の原因となります 牛の気分がよくなるような幸せな信頼関係の下で搾乳を行うことが何にも増して重要です (7) その他体細胞数を増加させない 乳房炎を予防する搾乳手順をしるしました ここに記したこと以外にも 乳房炎の予防のために行うことはたくさんあります 搾乳機器のメンテナンスとりわけ真空圧の調整は定期的に必要なことです もっとも基本的なところでは 牛床をきれいに清掃し乾燥させているか カウトレーナーが正しく取り付けられているかなどです また 良質な粗飼料や適切な濃厚飼料の給与が必要なことは言うまでもなく 夏季の通風の確保など 実施すべきことは無数にあります 体細胞数の改善とは まさに総合的な飼養管理技術を必要とされる形質なのです 5 体細胞リニアスコアと乳量の損失 (1) 検定成績表における体細胞数の考え方体細胞数は乳房炎の指標ですから 体細胞数を上昇させないことがもっとも肝要で 予防こそ力点がおかれるべきです そこで ここまでは体細胞数を上昇させない予防法のひとつとして 正しい搾乳手順を紹介してきました しかし 現実として予防ばかりでなく 乳房炎を罹患してしまった場合の検定成績表の見方やその対処法もあわせて知らなければなりません そこで この項からは本来の検定成績表の見方としての体細胞数の情報をご紹介します (2) 体細胞リニアスコア検定成績表における体細胞数という情報を読み解くのに 先ず最も重要な体細胞リニアスコアをご紹介します 乳房炎の指標として有効な体細胞数ですが 各個体の測定結果を統計処理しますと 従来の乳脂肪率 蛋白質率といった各種乳成分と明らかに異なる性質をみることができ 度数分布が偏った分布となります すなわち 乳房炎罹患牛の体細胞数は著しく高い数字を示します こういった分布では 体細胞数を平均するといった統計処理の意味が半減します 例えが悪いですが 日本人の平均貯蓄額といった統計処理では 資産を持っている人は著しく多額の貯蓄を持っているため日本国平均としての貯蓄額を引き上げてしまい 平均値に意味があまりありません 例 )A 牛 5 万個 / ml 健康 B 牛 2 万個 / ml 健康 C 牛 3 万個 / ml 健康 D 牛 5 万個 / ml 健康 E 牛 400 万個 / ml 乳房炎牛平均 =(5+2+3+5+400)/ 5=83 万個 / ml! この牛群には 1 頭の乳房炎牛がいるだけですが 平均 83 万となると 全頭が乳房炎のように見えてしまいます ( 余談ですが 単位を円に読み変えてみます 貯蓄を 2 万円しか持っていない人にとっては 貯蓄の平均が 83 万円と言われるのは心外なはずです ) そこで こういった分布を処理するために以下のような変換式が考案されております リニアスコア=Log 2 ( 体細胞数 ( 千 )/ 100)+3 測定される体細胞のもとになる白血球は炎症等があれば細胞分裂により 1 2 4 8とねずみ算式に増えますので その性質を利用した変換式になります この変換式を利用すると これまで 偏った分布をしていたものが 他の乳成分と同等の通常の分布 ( 正規分布 ) に変換され 平均値にも意味が出てきます ( 図 8 参照 ) リニアスコアは 通常の乳成分と同様に処理のできる数値ですから いろいろな場面で利用されています (3) 乳量の損失乳房炎を罹患すれば 乳房が炎症をおこしているので乳質が悪化するばかりか 乳量そのものも減量し 6

図 8 ます 本来 発揮すべき能力が発揮できないわけです 乳用牛群検定全国推進会議においては 図 9 のとおり の乳量が損失すると報告されています 本号では 体細胞の予防を中心とした基礎知識を ご紹介しました 次号では 実際の検定成績表での 体細胞情報の活用法を実例を交えて紹介します 図 9 体 リニアス ア 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 体 17 18 35 36 70 71 141 142 282 283 565 566 1131 1132 2262 2263 4525 4526 2 7 LIAJ News No.122