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AHA および ILCOR( 国際蘇生連絡協議会 ) のガイドラインを基に策定された日本版心肺蘇生ガイドラインに沿った心肺蘇生を全ての救急隊員が行うことができる 多くの場合 救急車の乗組員は三名の救急隊員から構成され そのうち一名以上は高度な訓練を受けた救急救命士である 救急救命士が実施することができる手技は 静脈路確保 半自動除細動器の使用および心肺蘇生の現場統括である 1991 年には制度の変更により救急救命士が院外心停止患者に対して声門上気道確保器具 ( ラリンジアルマスクエアウェイ ラリンジアルチューブおよびコンビチューブ ) を医師の指示があれば使用できるようになった 2004 年からは専門的訓練を受けた救急救命士は気管挿管も実施することができるようになった 専門的訓練の内容は 62 時間の研修受講と麻酔科医の監督下に手術患者の気管挿管を 30 例成功させることである 高度気道確保は医師の指示下で行うが 気管挿管と声門上気道確保器具のどちらを用いるかの選択は高度気道確保の訓練を受けた救急救命士の裁量に任されている 高度気道確保は 胸骨圧迫および BVM 換気を行いながら初期調律を確認し適応があれば除細動を行った後に行い 二回試みても成功しなければ高度気道確保はそれ以上実施してはならないこととした 高度気道確保器具による換気の確認には 食道挿管検知器 and/or 呼気終末二酸化炭素モニタ ( 定量式もしくはカロリメトリ式 ) を用いた 病院到着までの心肺蘇生 ( 高度気道確保を含む ) の実施状況については各地域の救急医療協議会において事後検討された データ収集および質の保証 ウツスタイン様式により記録されたデータを前向きに収集した 記録した項目は 性別 年齢 心停止の原因 目撃者の有無 初期調律 目撃者による心肺蘇生実施の有無と実施した場合はその方法 救急隊員によるアドレナリン投与の有無および気道確保の方法である 救急要請入電時刻 救急車の現場到着時刻 患者接触時刻 心肺蘇生開始時刻および病院到着時刻については 救急隊が使用している時計の表示する時刻を記録した 記録した転帰項目は 病院到着前の自己心拍再開 一ヶ月後生存および心停止から一ヶ月後の神経学的所見である 一ヶ月後の追跡データは 各患者を担当した救急隊員が当該病院の救急医療協議会理事に問い合わせて収集した 患者の神経学的所見は担当医が記録し 救急隊員は書面でその報告を受けた 心停止から一ヶ月後に患者が搬送先の病院に収容されていない場合は 救急隊員が追跡調査を行った データ記録用紙には各患者を担当した救急隊員が全項目を記載し そのデータは消防庁データベースサーバ上のウツスタイン登録システム内に取り込んだ 記録用紙の記載内容の整合性は コンピュータシステムによって照合した上で消防庁が確認した 記録用紙に記載漏れがある場合には 消防庁が当該消防署へ記録用紙を返戻しデータを再確認した 評価項目 主要評価項目は 心停止一ヶ月後の神経学的転帰が良好であることとした 事前の取り決めで グラスゴー ピッツバーグ脳機能区分 1( 機能良好 ) もしくは区分 2( 中等度障害 ) を良好な神経学的転帰とした そのほかの区分 (3 の高度脳機能障害 4 の植物状態 5 の死亡 ) は神経学的転帰不良と定めた 副次評価項目は 病院到着前の自己心拍再開および一ヶ月後生存とした 統計解析 成人の病院外心停止症例の転帰について いずれかの高度気道確保を行った群と BVM 換気を行った群とを比較した また 高度気道確保の種類別 ( 気管挿管群と声門上気道確保器具群 ) に BVM 換気群と比較した 全症例で構成されるコホートについて 前項に示した三つの転帰項目のそれぞれを独立変数とする 三通りの条件なしロジスティック回帰モデル ( 未調整モデル 一部の変量についての調整モデル およびすべての共変量について

の調整モデル ) を作成した 医学的な妥当性と これまでに蓄積されてきた知見に基づいて予め交絡因子を設定した 交絡因子として取り上げた項目は 年齢 性別 心停止の原因 初期調律 目撃者の有無 目撃者が実施した心肺蘇生の方法 公共 AED( 自動体外式除細動器 ) の使用 アドレナリン投与 救急要請入電から救急隊員による心肺蘇生開始までの時間 救急要請入電から病院到着までの時間である 以上の交絡因子に加え 心停止発生年 救急救命士出動 医師同乗 救急隊員による除細動 静脈路確保および所在県を共変量とした 本研究では BVM 換気が行われた患者 367837 名および高度気道確保が行われた患者 281522 名のデータを得た BVM 換気群の 3.0% が良好な神経学的転帰を呈すると仮定し 有意水準 5% 未満で両側検定した場合 この標本数であれば主要転帰の群間差をわずか 0.16% であっても 90% の統計的検出力で検出することができる 病院到着前に行う高度気道確保の方法は無作為に割り当てたわけではないため 選択バイアスが生ずる可能性および交絡因子の影響を考慮し傾向スコア法を用いた 評価項目を勘案しない多変量ロジスティック回帰モデルによって 心停止患者が病院到着前に高度気道確保を実施される可能性をあらわす傾向スコアを算出した 具体的には Table 1 に示したすべての変量と 47 都道府県別のダミー変数を組み入れたモデルを 高度気道確保を独立変数として適合させた 傾向スコアによるマッチングの精度を向上させるため 傾向スコア作成用モデルに使用された質的変量 ( 目撃者の有無 目撃者による心肺蘇生 公共 AED の使用 アドレナリン投与 救急隊員による除細動および静脈路確保 ) の欠損データについては欠測指標法によってダミーコード化した (e Table 1) Parsons の考案した傾向スコアに基づくマッチングアルゴリズムを用い 高度気道確保が行われた心停止患者で構成されるサブグループを BVM 換気が行われた心停止患者で構成される対照群とマッチングさせた そして 三つの転帰項目のそれぞれを独立変数とする三通りの条件付きロジスティック回帰モデル ( 未調整 未調整モデル 一部の変量についての調整モデル およびすべての共変量についての調整モデル ) を作成した 統計解析には SAS 統計ソフトバージョン 9.3 を用いた いずれの検定も両側で行った 第一種過誤の確率を 0.05 未満とした ただし 気管挿管群もしくは声門上気道確保器具群について Bonferroni の不等式に基づく多重比較調整を行い検定した場合には有意水準を 0.025 未満とした 結果 院外心停止成人患者 658829 名のデータが提出された 649654 名に心肺蘇生が試みられたが そのうち 295 名については気道確保の詳細が不明であったため除外した (Figure 1) 残りの 649359 名のうち BVM 換気が行われたのは 367837 名 (56.7%; 95% 信頼区間, 56.5%-56.8%) 高度気道確保が行われたのは 281522 名 (43.4%; 95% 信頼区間, 43.2%-43.5%) であった 高度気道確保群の内訳は 気管挿管 41972 名 (6.5%; 95% 信頼区間, 6.4%-6.5%) 声門上気道確保器具 239550 名 (36.9%; 95% 信頼区間, 36.8%-37.0%) であった

Figure 1. Study Participant Selection Table 1 に院外心停止成人患者の背景因子を気道確保の方法別にまとめた 全対象患者の平均年齢は 73 歳で 過半数が男性であった 気道確保法別の生存状況を Table 2 に示した 全対象患者の自己心拍再開率 一ヶ月後生存率および神経学的転帰良好な生存患者の割合はそれぞれ 6.5%(95% 信頼区間, 6.5%-6.6%) 4.7%(95% 信頼区間, 4.7%-4.8%) 2.2%(95% 信頼区間, 2.1%-2.2%) であった 気道確保法別の神経学的転帰良好な生存患者の割合は 気管挿管群が 1.0%(95% 信頼区間, 0.9%-1.1%) 声門上気道確保器具群が 1.1%(95% 信頼区間, 1.1%-1.2%) BVM 換気群が 2.9%(95% 信頼区間, 2.9%-3.0%) であった 全コホートを対象とした未調整モデルでは 高度気道確保法のいずれもが三つの評価項目のすべてを有意に悪化させるという結果が得られた ( いずれも P<0.001)(Table 2) 同様に 特定の変量についての調整モデルおよびすべての変量についての調整モデルを用いた解析でも 高度気道確保法のいずれもが ( 気管内挿管および声門上気道確保器具 ) 三つの評価項目のすべて ( 心停止一ヶ月後の神経学的転帰が良好 病院到着前の自己心拍再開および一ヶ月後生存 ) について独立した悪化予測因子であることが分かった ( いずれも P<0.001; Table 2)

以上の結果がどれだけ堅牢なのかを確かめるため 一連の感度解析を行った (Table 3) まず 転帰追跡調査から脱落した患者についての解析を行った この解析は BVM 換気群の脱落患者全員 (444 名 ) の神経学的転帰が不良で 高度気道確保群の脱落患者全員 (366 名 ) の神経学的転帰が良好であると仮定して行われたが 特定の変量について調整したモデルで高度気道確保法は依然として神経学的転帰悪化の有意な予測因子であった ( 調整オッズ比, 0.43; 95% 信頼区間, 0.42-0.45) 自己心拍再開を変量に加えて調整してみても 気管挿管( 調整オッズ比, 0.51; 95% 信頼区間, 0.45-0.56) および声門上気道確保器具の使用 ( 調整オッズ比, 0.52; 95% 信頼区間, 0.49-0.54) はやはり神経学的転帰悪化につながることが分かった (Table 3) さらに 自己心拍再開 心停止の原因 初期調律および目撃者の有無について層別化して解析したが やはり高度気道確保法は神経学的転帰を悪化させる有意な要因であった (Table 3)

傾向スコアで照合させた患者群における高度気道確保群と BVM 換気群の背景因子には差はなかった (Table 4) 傾向スコアで照合させた患者群における気道確保法別の転帰を Figure 2 および etable 2 に示した 未調整モデルでは 高度気道確保法は気管挿管と声門上気道確保器具のいずれを用いても BVM 換気と比べ三つの評価項目すべて ( 心停止一ヶ月後の神経学的転帰が良好 病院到着前の自己心拍再開および一ヶ月後生存 ) を有意に悪化させるという結果が得られた ( いずれも P<0.001) 一部の変量についての多変量モデルおよびすべての変量についての多変量モデルにおいても 気管挿管と声門上気道確保器具使用はいずれもが BVM 換気と比べすべての評価項目を有意に悪化させることが分かった (Figure 2) 特筆すべきは 神経学的転帰が良好な生存についての調整オッズ比である 特定の変量について調整した場合 BVM 換気群と比べ気管挿管群は 0.45(95% 信頼区間, 0.37-0.55; P<0.001) 声門上気道確保器具群は 0.36(95% 信頼区間, 0.33-0.59; P<0.001) であった

Figure 2. Results of Conditional Logistic Regression Models Using One of the End Points as a Dependent Variable With Propensity-Matched Patients Full models for the primary outcome analysis are included in etable 2. afor all odds ratios, P <.001. bselected variables are a predefined set of potential confounders including age, sex, cause of cardiac arrest, first documented rhythm, bystander witness, type of cardiopulmonary resuscitation (CPR) initiated by a bystander, use of public access automated external defibrillator by bystander, epinephrine administration, time from receipt of call to CPR by emergency medical service, and time from receipt of call to hospital arrival. call variables included all covariates in Table 1 and variables for 47 prefectures in Japan. 考察 本研究では日本国内の全住民コホートを対象とした院外心停止患者の全国調査を行い 心肺蘇生に際し高度気道確保を行うと BVM 換気と比べ神経学的転帰が有意に悪化することが明らかになった 過去に行われた同様の研究はこの臨床的に重大な相関を浮き彫りにするには検出力が不足していたが 我々の研究の標本数は十分に大きく 高度気道確保が心停止後に神経学的転帰が良好な生存例を有意に減らすことを明白に示すことができた さらに 気管挿管も声門上気道確保器具もいずれもが同等に神経学的転帰を悪化させることを明らかにすることができた この相関関係は看過し得ないほど大きく 異なる様々な前提で解析を行っても一貫して認められた

本研究で得られた結果は 外傷患者や小児患者を対象とした研究が示した知見と一致する こうした過去の研究では病院到着前に気管挿管を行うと神経学的転帰が悪化する可能性が指摘されており 気管挿管の有効性を示した報告はごくわずかである また 院外心停止に関する複数の研究で 病院到着前の気管挿管が生存退院症例を減らすことが明らかにされている 気管挿管が転帰を悪化させる機序の解明は 重大な課題として残されている 病院到着前の挿管は心理的負荷が大きく複雑な動作を要求する手技であり 救急隊員が気管挿管の技術を習得したり 現場で適切に実行する能力を維持したりするのには困難が伴うことが分かっている 非熟練者が気管挿管を行うと 食道挿管しても気づかなかったり 当初適切に固定された気管チューブが途中で位置異常に陥ったり 医原性低酸素血症や徐脈を引き起こしたりといった有害事象が起こりやすい さらに 病院到着前に気管挿管を行うと その間 胸骨圧迫が中断されたり有効な胸骨圧迫が行われなかったりして 一次救命処置が妨げられる可能性がある 病院到着までの気道確保における声門上気道確保器具の使用についての研究はその大半が 留置成功率や留置に要する時間など 手技そのものについての評価を目的として行われている その多くが 気管挿管より成功率が高く 素早く留置できるという結果を示している これはつまり 胸骨圧迫の中断が短くて済むことを意味するため 転帰の向上につながるのではなかろうかという期待が持たれよう しかし 我々が行った今回の研究では 気管挿管どころか声門上気道確保器具までもが 神経学的転帰が良好な生存例を減らす独立した要因であることが明らかになった 本研究で得られた結果は 院外心停止患者に声門上気道確保器具を用いても生存率は向上しないことを示した 2012 年の研究 (Out-of-hospital airway management and cardiac arrest outcomes: A propensity score matched analysis. Resuscitation. 2012;83(3):313-319.) とも符合する 我々の研究が十分な標本数を誇るものであることを考えると 高度気道確保法はその方法の如何を問わず転帰を悪化させると考えられる 院外心停止患者の気管挿管例を対象として行われた過去の研究では 不注意による過換気の結果 胸腔内圧が上昇し 冠動脈潅流圧および脳潅流圧が低下することが明らかにされている また 蘇生後の高酸素症は死亡率上昇につながることも分かっている 適切に高度気道確保が行われた場合には効用があるのかもしれないが 実際には以上のような生理学的悪影響を招くことが珍しくなく 本来得られるかもしれない効用を悪影響が上回ってしまうのかもしれない 病院到着前の気道確保法に関する質の高い前向き臨床試験が行われれば 気道確保法と転帰の因果関係を明らかにする一助になると考えられる しかし それは現場の状況を考えるならば実行可能性からも方法論としても困難である そして その手の研究は特定の患者群についての特異的な疑問を解明するために設計されることが多いため 対象患者の特性が院外心停止患者一般の特性とはかけ離れてしまう可能性がある 翻って 我々が行った前向き全国コホート調査は 現実の 患者集団と現行の病院前救護の実態を正確に反映した上で病院到着前の気道確保法が転帰に及ぼす影響を示すことができたので 得られた知見を敷衍することに伴う障壁が少ないと考えられる その上 対象患者 対象疾患そして研究設計などが異なる他の数多くの研究でも 我々の調査と同様の結果が得られている 病院到着前の高度気道確保が転帰を悪化させるという結果をもたらす原因となる機序は色々と指摘されている 病院到着前の気管挿管およびその代替としての声門上気道確保器具の使用がこれまで考えられていたよりも 有効性を欠いているばかりかむしろ有害ですらあるという概念を 我々が得たデータがこれまでより一歩進んで確実なものとしたと言える 現時点においてもっとも精度の高いこの観測研究の結果に基づき 今後は心肺蘇生中の高度気道確保を控えるべきであろうか? 病院前救護にあたる救急隊員の習得すべき技能から高度気道確保法を除外してしまうという方針もあろう しかし 長距離の搬送が必要な場合や 心停止には至らない呼吸不全患者に対応する場合などを考

えると そのような方針転換は高度気道確保法が有効である可能性が推察される状況を閑却してしまうことになりかねない 今後さらに研究を重ね 病院到着前の高度気道確保が有益な患者群が存在するのか否かを突き止める必要がある また 観測研究では無作為化比較対象試験のようには因果関係をはっきりさせることはできないため 院外心停止患者の気道確保法の絶対標準を確立するべく十分な検出力をもつ厳格な臨床試験を今こそ行わなければならない 救急医療を管轄する自治体や国の機関はそのような研究が実施され結果が公表されるのをただ待つのではなく 病院到着までの気道確保法の在り方を再検討すべきであり 同時に 院外心停止患者の転帰を向上させるため救命の連鎖の最初の三段階を今一層充実させるべくより多くの資源を投入しなければならない 本研究には複数の問題点がある 第一に 病院到着前の高度気道確保がその方法の如何を問わず神経学的転帰良好な生存例を減らすという相関が認められたものの 観測研究の結果であるため必ずしも因果関係を示しているわけではないし 我々が把握し得なかった要因に影響された可能性もある 傾向スコア照合解析によって交絡因子の調整を徹底的に行ったが 我々のやり方では調整しきれなかった因子や そもそも最初から収集していなかったりした因子があったとすれば それが結果に影響を及ぼしたかもしれない そのような因子として 院外心停止症例が発生したのが都会なのか田舎なのか 心停止発生状況 ( 場所 ) 目撃者のいない心停止症例における心肺蘇生開始までに要した時間 関わった救急隊員の熟練度 搬送先病院の種別 蘇生後の管理法 ( 低体温療法など ) が挙げられる また 何らかの気道確保を行うのに先立ち心拍再開に至った症例には 高度気道確保ではなく BVM 換気が行われることが多いのではないかと考える向きもあろう このような患者は気道確保前に心拍が再開しなかった患者に比べ神経学的転帰良好な生存に至ることが多く その要因は選択された気道確保法ではなく早期の自己心拍再開である しかし 病院到着前に自己心拍が再開した症例のみに限ったサブグループ解析を行い心肺蘇生開始から自己心拍再開までに要した時間による調整を行っても やはり高度気道確保はいずれの方法も院外心停止患者の転帰を有意に悪化させるという結果が得られた 同様に病院到着までに自己心拍が再開しなかった症例を対象としたサブグループ解析でも 高度気道確保は神経学転帰の悪化につながることが分かった 以上の二通りのサブグループ解析の結果は 気道確保法の選択が院外心肺停止患者の転帰を左右する重要な要因であることを示している 第二の問題点は 気管挿管の実施状況についての情報を得ていないことである 院外気管挿管のうち実に 20% が失敗に終わっているという報告がある しかし 本研究では気管挿管も声門上気道確保器具も成功例だけを高度気道確保群に分類した 高度気道確保を試みたものの失敗した場合は BVM 換気が行われ こうした症例は BVM 換気群に分類したのである つまり 我々の解析手法は高度気道確保が神経学的転帰を悪化させる作用をむしろ過小評価するものなのである 第三の問題点は 本研究は全住民を対象とした全国規模の研究であるというものの 日本だけに限ったものであることである 他の国のデータを用いて同様の研究を行えば 異なる結果が得られるかもしれない 特に 日本の救急隊員が受ける気道確保の訓練が低水準で それが転帰の悪化の原因であるとも考えられよう しかし 日本の救急隊員が気管挿管の資格を得るために修了しなければならない課程は 他の国々よりも厳格である 実際 米国のパラメディック養成課程を修了するには気管挿管成功例が 5 例必要であるにとどまるが 英国では 25 例 日本では 30 例である 報告によれば 救急隊員の挿管技能は気管挿管を 15~20 回成功させた時点で習熟したと言えるレベルに達する ( 気管挿管予測成功率 90%) 以上の知見は 我々の得た結論が日本以外の国にも敷衍しうることを示唆する 最後に第四の問題点を挙げる どんな疫学研究にもつきものの問題であるデータの整合性や正確性および診断バ

イアスが本研究でも影響を及ぼしている可能性がある 我々は心停止症例の記録法に関するガイドラインであるウツスタイン方式に基づいた統一様式によるデータ収集を行い 標本数を大きく設定し 対象を全住民として こういった問題が生ずる可能性を極力小さくするよう努めた 日本の全人口を対象とした大規模コホート研究を行ったところ 成人院外心停止患者に対する心肺蘇生において 病院到着前高度気道確保法 ( 気管挿管もしくは声門上気道確保器具のいずれかを問わない ) の実施は 従来の BVM 換気と比較すると 神経学的転帰を悪化させる独立した因子となることが明らかになった この結果は 気管挿管や声門上気道確保器具の使用といった BVM 換気よりも積極的な気道確保法が転帰を向上させるはずだという憶測とは 正反対である 本研究で得られた知見は 成人院外心停止患者における病院到着前の気道確保法の再考を促すものである