臨床神経学 巻 3 号 Fig. 1 神経症候からみた神経因性膀胱の診方 A 末梢神経 脊髄疾患の排尿障害は しびれの分布が参考になる B 脳疾患では残尿が通常みられず 過活動膀胱が典型的にみられる 脳疾患の排尿障害にともない やすい症候として図のようなものが挙げら

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られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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経支配は副交感神経優位に切り替わる10) 排尿を決意すると, 副交感神経終末からアセチルコリンが放出され, 膀胱はムスカリン (M) 受容体を介した作用により収縮し, 尿が排出される7) 抗コリン薬はこのアセチルコリンのムスカリン (M) 受容体への結合を遮断することで, 膀胱の異常収縮を抑制する

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53:181 1 * 1 1 1 2 3 a 神経因性膀胱, 過活動膀胱, 残尿, 自律神経障害 排尿障害 (urinary dysfunction) は, 自律神経症候の中で非常に頻度が高いものである. このうち過活動膀胱 (overactive bladder [OAB]; 尿意切迫 頻尿 尿失禁 ) は生活の質を悪化させ, 残尿 (post-voiding residual urine) 尿閉(urinary retention) は尿路感染症, 腎後性腎不全をきたし, 生命予後を悪化させる懸念もある. 本稿では, まず, 排尿の神経機構とその見方について, 図を中心に述べる. 次に, 神経因性膀胱 ( 膀胱自律神経障害 ) の主な病態と治療について, 高齢者の白質型多発脳梗塞, 糖尿病性ニューロパチーの 2 疾患を例示しながら述べる. 神経症候からみた神経因性膀胱は,Fig. 1 のようにとらえると良いのではないだろうか 1)2). 末梢神経 脊髄の疾患は, しばしば感覚障害をともなう. いいかえると, 末梢神経 脊髄疾患による神経因性膀胱は, 感覚障害をともないやすい. 感覚障害は, 大きく多発神経炎の分布 ( 末梢神経遠位部が障害される代表的疾患として糖尿病性ニューロパチーがある. 通常, 左右対称性で, 靴下をはく部分に強い. 腱反射は低下 消失し, 深部感覚性運動失調がみられる. 起立性低血圧をともなうこともある.), 根の分布 ( 末梢神経近位部が障害される代表的疾患として腰椎症や仙髄馬尾腫瘍がある. しばしば非対称性で, 自転車のサドルが当たる部分に強い. 一側で反射が低下消失し, 同側で筋力低下もみられる.), レベルのある分布 ( 脊髄が障害される代表的疾患として多発性硬化症や脊髄損傷がある. 病変部位以下の感覚低下, 対麻痺があり, 下肢反射亢進,Babinski 徴候がみられる.) に分けることができる. これを排尿障害からみると, 多発神経炎, 根病変ではしばしば残尿 ( 時に尿閉にいたる ) がみられ, 脊髄病変では過活動膀胱 ( 尿意切迫, 頻尿, 時に尿失禁をともなう ) と残尿の両者が同時にみられることが多い. では, 脳疾患のばあいはどうであろうか. 脳疾患は, 一般に感覚障害がめだたない. 脳疾患による神経因性膀胱にともないやすい症候として, 左右差のない小刻み歩行 動作緩慢 易転倒 誤嚥など ( パーキンソン症候群 ) がある. これより合併頻度は少ないが, ものわすれ 意欲低下など ( 認知症 ) があるように思われる. パーキンソン症候群の責任病巣として, 大脳基底核, 前頭葉内側面とくに補足運動野の病変などが知られている. 認知症の責任病巣として, 側頭葉 頭頂葉を中心とした病変の他に, 前頭葉病変が神経因性膀胱との関連で注目される. *Corresponding author: 東邦大学医療センター佐倉病院内科学講座神経内科学 285-8741 千葉県佐倉市下志津 564-1 1) 東邦大学医療センター佐倉病院内科学講座神経内科学 2) 獨協医科大学排泄機能センター 3) 千葉大学神経内科 ( 受付日 :2012 年 10 月 10 日 )

臨床神経学 53 182 53 巻 3 号 2013 3 Fig. 1 神経症候からみた神経因性膀胱の診方 A 末梢神経 脊髄疾患の排尿障害は しびれの分布が参考になる B 脳疾患では残尿が通常みられず 過活動膀胱が典型的にみられる 脳疾患の排尿障害にともない やすい症候として図のようなものが挙げられる 自律神経系は交感神経 ノルアドレナリン作動性神経 と 排尿のメカニズム 膀胱から末梢神経 脊髄 脳幹まで 3 副交感神経 コリン作動性神経 から成り立っている コリ ン系神経は 副交感神経の他 運動神経 認知機能にもかか 自律神経における排尿系の特徴として 体性神経が大きく わっている 排尿自律神経についてみると Fig. 2A 蓄尿 かかわっていることが挙げられる すなわち 排尿は随意的 期に 膀胱は弛緩し b3-adrenaline 受容体などを介する 下 に 開始および 抑制することが可能である さらに排尿系 腹神経支配 外尿道括約筋 体性神経 随意的に収縮させ の特徴として 中枢の関与が大きいことが挙げられる たと ることが可能 仙髄 S2-3 前角 Onuf 核由来の陰部神経支配 えば 起立性低血圧が延髄以下の病変でみられるのとくらべ と内尿道括約筋 a1a/d-adrenaline 受容体を介する 胸腰髄 神経因性膀胱は 延髄病変のみならず さらに上位の大脳 T12-L2 中間外側核由来の下腹神経支配 は収縮している 基底核の病変でもみられる 排尿期に 膀胱は収縮し M3 muscarine 受容体を介する 仙

神経内科と膀胱 排尿の神経機序と排尿障害の見方 扱い方 53 183 Fig. 2 排尿にかかわる神経系 A 末梢 脊髄 脳幹 基底核 / 前頭葉の経路 B 基底核系と排尿系の関係 膀胱は仙髄中間外側核 副交感神経 の支配 内肛門括約筋は腰髄中間外側核 交感神経 支配 外肛門括約筋は仙髄 オヌフ核 体性神経 支配を受ける 文献 2 より引用 髄 S2-3 中間外側核由来の骨盤神経支配 外尿道括約筋と内 線維連絡があり とくに線条体の腹尾側への投射が大きいと 尿道括約筋は弛緩する される パーキンソン病の機能的脳画像では 視床下核に対 蓄尿 排尿は末梢と中枢の自律神経により調節されてい する深部脳刺激 パーキンソン病難治例に対して保険適応あ る このうち排尿は 脊髄 脳幹 脊髄反射という長経路反 り 中に 膀胱容量の増大と共に 右前頭葉が賦活される 射 排尿反射 によりおこなわれている 動物では 排尿時 これは 大脳基底核が 一部前頭葉を介して 排尿反射を調 の下部尿路からの求心性入力は 仙髄後角を経て 脊髄後索 節していることを示唆するものと思われる 側索を上行し 中脳水道灰白質 PAG にいたる その入力 前頭葉も 排尿反射を上位から抑制している部位の一つで は 中脳水道灰白質から下行性に青斑核近傍の橋排尿中枢 ある Andrew と Nathan らは 1966 年に 5 前頭葉内側面で PMC, Barrington 核 にいたる 橋排尿中枢からの投射線維 帯状回をふくむ部位の血管障害や腫瘍で排尿障害をきたすと は グルタミン酸作動性神経とされ 脊髄側索を主に下行し 報告し この部位は前頭葉排尿中枢として知られている 仙髄中間質外側核の膀胱を支配する節前ニューロンにいた 1960 年に 植木は前頭葉腫瘍で詳細な検討をおこなってい る 臨床的に 中脳水道灰白質や橋排尿中枢が選択的に障害 る 著者らの検討では 脳 MRI/CT 画像上 前頭葉前方およ される疾患は少ないが Wernicke 脳症 血管炎 多発性硬 び内側面 側脳室前角近傍 内包膝部 被核 視床の病変で 化症 脳幹脳炎などによる中脳水道灰白質 橋排尿中枢病変 排尿症状が有意に多くみられた により 排尿筋過活動 排尿筋無収縮が報告されている 近年 機能的脳画像が 膀胱自律神経に応用されている 健常ボランティアによる蓄尿負荷 PET ポジトロン断層撮 排尿のメカニズム 脳幹から基底核 前頭葉まで 4 影 f MRI 機能的磁気共鳴画像 では 前頭葉内側皮質 帯状回前方 前頭葉外側皮質 島回 中脳水道灰白質 橋被 大脳基底核は 排尿反射を上位から抑制している部位の一 蓋 小脳などが比較的恒常的に賦活され 一部の報告で基底 つである 基底核系に病変があるパーキンソン病では 排尿 核が賦活されている Fig. 3 すなわち これらの部位は蓄 筋過活動が 70 と高頻度にみられる パーキンソン病の臨 尿の中枢制御に大きな役割を有していると考えられ これら 床 実験的検討から 基底核のドパミンは 主に線条体レベ の部位の病変で 臨床的に排尿筋過活動がみられることに合 ルでは D1 様受容体 基底核直接路 を介して排尿反射を 致する 近赤外線分光法 NIRS では 座位でのウロダイ 抑制していると思われる その機序として D1 直接路から ナミクス urodynamics 尿流動態検査 尿道カテーテルを 排尿系に対して GABA 作動性神経の側枝を出している可能 通してゆっくり注水し 蓄尿排尿を再現するもの の際に 性もある Fig. 2B 他の機序として 大脳基底核は前頭葉と 自然に近い連続蓄尿排尿に呼応した前頭前野の動的活動を確

53 184 臨床神経学 53 巻 3 号 2013 3 Fig. 3 蓄尿で賦活される健常脳 H215O-PET 健常ボランティアによる蓄尿負荷 PET では 帯状回前方 anterior cingulate 補足運動野 supplementary motor area, SMA 前頭葉外側皮質 prefrontal cortex 島回 insula 中脳水道灰白質 periaqueductal gray, PAG 視床 thalamus 橋 pons 小脳 cerebellum などが比較的恒常的に賦活されている 認できる 一方 過活動膀胱患者では 過活動のない者と比 の原因として脳血管性失禁が注目される 1 較して 前頭前野 / 前頭極の賦活が低下している これらの WMD での排尿症状の頻度として 夜間頻尿は 75 と非常 結果は 前頭前野 / 前頭極の機能低下が 過活動膀胱の一因 に高頻度であり MRI での 4 段階法にしたがうと 夜間頻 となっていることを示唆するものと考えられる 尿 は grade 1 で 60 grade 2 で 58 grade 3 で 93 grade 4 で 91 と grade が上がるほど増加する 同様に 切 過活動膀胱 OAB 多発性脳梗塞など 迫 性 尿 失 禁 は 40 に み ら れ grade 1 で 33 grade 2 で 25 grade 3 で 57 grade 4 で 45 と grade が上がるほ 脳血管障害の原因の多くは 動脈の粥状硬化 アテローム ど増加する これらの OAB の頻度は 歩行障害 認知症よ 硬化 であり その危険因子としては インスリン抵抗性を りも高頻度であった すなわち WMD で OAB が初発症状 ベースとした肥満 糖尿病 高血圧 高脂血症に加えて 喫 になるばあいがあると思われ 注意が必要と考えられる 1 煙 飲酒などが良く知られている 脳卒中症例の約半数に排 これらの患者にウロダイナミクス Fig. 4 をおこなうと 尿障害 とくに OAB がみられることが知られている 一方 排尿筋過活動 detrusor overactivity DO 患者の意志と無 高齢者の大脳白質変化 white matter disease, WMD が 近年 関係に膀胱が勝手に収縮してしまうもの Fig. 5 がみられ 脳ドックの普及などにより広く注目されている 脳 MRI 画 正常では 500 ml 程の膀胱容量が 100 200 ml に減少している 像でグレード 4/9 以上 体積 > 1.5 ml 以上の WMD は 55 歳 WMD で OAB をきたすのはなぜであろうか 排尿には 以上一般人口の約 10 7.6 24 にみとめられる WMD 脳の様々な部位が関与していると考えられるが 脳卒中の症 は高齢者に多く 脳卒中と同様に 動脈硬化の危険因子 喫 例から考えると 前頭葉がとくに深くかかわっていると考え 煙 高血圧 高脂血症 メタボリック症候群 頸動脈プラー られる WMD の病変は MRI 上では広汎であるが 病理学 ク CAVI 脈波による血管硬化度 アンギオテンシン変換 的には前頭葉で高度にみとめられ 2 脳血流も前頭葉で高度 酵素遺伝子多型など を有するものに多い 病理では虚血に に低下している 前頭葉については 古くから排尿との関連 ともなう組織の粗造化がみとめられる WMD の症状として 性が指摘されており Andrew と Nathan らは 1964 年に 前 脳 血管性パーキンソン症候群 vascular parkinsonism 血 頭葉内側面で帯状回をふくむ部位の血管障害 腫瘍で排尿障 管性認知症 vascular dementia と共に 近年 脳血管性失禁 害をきたすと報告した 5 近年の機能的脳画像による検討で vascular incontinence をきたすことが知られるようになって も 前頭葉 帯状回での賦活が報告されている 6 前頭葉病 きた WMD は高齢者に非常に多いことから 高齢者 OAB 変で OAB を呈することが多いことから 総じて 前頭葉は

神経内科と膀胱 排尿の神経機序と排尿障害の見方 扱い方 53 185 Fig. 4 ウロダイナミクス検査 A ウロダイナミクス装置 B 正常のビデオウロダイナミクス所見 正常では 蓄尿中の膀胱は楕円形をしており 徐々に円形に近く膨らんでゆく 排尿筋圧は不変かごくわずか上 昇する その間 外括約筋筋電図に放電がみられる 初発尿意量 最大尿意量の正常値はそれぞれ 100 300 ml, 200 600 ml である 排出時は 外括約筋筋電図が急に消失し その 1 2 秒後に排尿筋圧が上昇し 膀胱頸 部が漏斗状に開大する 尿流が描出されると共に膀胱影が小さくなり 残尿なく膀胱影が消失する この間 外 尿道括約筋部圧は低下していることが多い 排尿筋圧 外尿道括約筋部圧は徐々に排出前の圧に戻り 筋電図が ふたたび出現する 腹圧は排尿開始時 排尿終了時に若干みられるのみである Fig. 5 排尿筋過活動の脳病変による機序 脳幹部以上の病変では 脊髄 脳幹 脊髄反射 排尿反射 が保たれていることから 排尿筋過活動は 脊髄 脳幹 脊髄反射の亢進によるものと考えられる 排尿反射に抑制的に作用していると考えられている 6 正常 底核 前頭葉系 排尿反射に抑制的に働く の低下によるも 圧水頭症 normal pressure hydrocephalus NPH においても のと考えられ 9 深部脳刺激により 前頭葉賦活と共に膀胱 MRI 上の脳室拡大は広汎であるが シャント手術前の排尿 容量が増大する 8 Levodopa の全身投与による膀胱変化に 障害は前頭葉の血流低下と関連し さらに シャント手術後 ついては 視床下部脊髄ドパミン系の関与も想定され 改善 の排尿障害の改善は 前頭葉の血流回復と関連している と増悪の両者が報告され 結論が出ていない 9 小脳 前頭 パーキンソン病では OAB が 70 にみられる パーキンソン 葉系も排尿反射を調節していると考えられ その病変で軽度 病においても 脳機能画像において蓄尿時 DO 時 の前頭 の OAB がみられる 7 葉賦活が低下している これは黒質病変にともなう D1 基 8 OAB に対して 膀胱 ムスカリン M3 type アセチルコリン

53:186 53 巻 3 号 (2013:3) [Ach] 受容体が豊富 ) の異常収縮を抑制し, 膀胱からの求心性入力を低下させる末梢性抗コリン薬 ( プロピベリン, トルテロジン, ソリフェナシン, イミダフェナシンなど ) を投与する 10)11). 抗コリン薬の副作用として便秘 ( 消化管 M2, 3 受容体が関与 ), 口渇 ( 唾液腺 M3 受容体が関与 ) があり, 膀胱抑制が強いと残尿をきたすこともある. 抗コリン薬が, 万一, 血液脳関門 (blood-brain barrier, BBB) を通過して中枢 M1 受容体などに結合したばあい, 認知機能を悪化させる懸念がある 12). 抗コリン薬の中でオキシブチニンは, 脂溶性が高く,BBB を通過しやすいため, 認知症患者には勧められない 12)13). 一方, イミダフェナシンなどの新しい OAB 治療薬は, 比較的 BBB を通過しにくいと考えられる 13). 本邦ではまだ使用できないが,M3 受容体に選択的なダリフェナシンは, 中枢に移行しても, 認知機能に影響しにくいと考えられる. 一人の患者に, 認知症と OAB があるばあいは, どう対処したら良いだろうか? 最近の報告によれば, 認知症と OAB がある 26 名に対して, ドネペジル 5 mg/ 日に, 末梢性抗コリン薬であるプロピベリン 20 mg/ 日を追加したところ, mini-mental state examination(mmse), Alzheimer s Disease Assessment Scale cognitive subscale(adascog) の増悪をともなわず,OAB が改善した 14). 動物実験による検討でも,2 剤の薬理学的相互作用は少ないとされている. 最近発売された, アドレナリン b3 受容体 ( 膀胱弛緩作用があり, 残尿もきたしにくいとされる ) に選択的なミラベグロンも, 認知機能に影響しにくいと考えられる 15). OAB 治療の第 1 選択である末梢性抗コリン薬が, 副作用のため使用できない, または効果が充分でないばあい, 様々な治療の試みがなされている 16) ( 以下, 本邦で認可されていない薬剤もふくまれる ). 末梢性薬物の中で phosphodiesterase (PDE)5 inhibitor は,cGMP を介して一酸化窒素 NO を増加させ, 平滑筋を弛緩させる作用がある.ED 治療薬として開発されたシルデナフィル, タダラフィル, バルデナフィルが, 最近,OAB も改善することが報告された 17). ただし,PDE 5 inhibitor は, 起立性低血圧を増悪させる可能性があるので注意が必要である. 中枢性薬物の中で, 抗うつ薬の副作用として排尿困難 尿閉が以前から知られている. 縫線核セロトニン系は,5-HT1A 受容体を介して下行性に排尿反射を抑制しており 18)19), serotonin norepinephrine reuptake inhibitor(snri) であるミルナシプランは, 抗コリン薬が禁忌である重症筋無力症その他の神経疾患の OAB に対して有用であった 20). 慢性疼痛に使用されているトラマドール / アセトアミノフェン合剤は, mu-type opioid と SNRI の性質を併せ持つ薬剤である. モルヒネなどの opioid 製剤の副作用として, 排尿困難 尿閉が以前から知られている. 中脳水道灰白質 opioid 系は,mu-type, delta1 type を介して下行性に排尿反射を抑制していると考えられており 21), トラマドールは神経障害にともなう OAB 患者に有用と報告されている 22). 抗てんかん薬のガバペンチンは, 欧米では神経因性疼痛, 不安, 睡眠障害などに対しても使われている. ガバペンチンは, 前シナプスでカルシウム の流入を抑制し, 神経伝達物質の遊離をおさえ, また, 脳内 GABA 量を増加させ,GABA 神経機能を維持 増強させる. ガバペンチンは, 神経障害にともなう OAB 患者に有用と報告されている 23). プレガバリンは, ガバペンチンと同様, 中枢神経内でカルシウムの流入を抑制し, 神経伝達物質の遊離をおさえる薬物である. プレガバリンは, 欧米では抗てんかん薬として広くもちいられているが, 本邦では末梢性神経障害性疼痛に対してもちいられる. プレガバリンも,OAB 患者に有用と報告されている 24). 経口薬物抵抗性の OAB 患者に対して, 残尿を同時に有しているばあい ( 脊髄疾患による排尿障害など ), 抗コリン薬の自己導尿カテーテルからの膀胱内注入が有効なばあいがある 25). 難治性 OAB 患者に対して, 自己導尿施行中のばあい, 膀胱拡大術が有効である 26)27). さらに, 欧米では pulse generator( ペースメーカー ) 埋め込み型 S3 根刺激治療 (neuromodulation) が認可され, 難治性 OAB 患者に対しておこなわれている 28). A 型ボツリヌス毒素は,SNAP-25(SNARE 蛋白の一つで, コリン作動性運動神経終末でのアセチルコリンの開口分泌に関与 ) を選択的に阻害し, 骨格筋を麻痺させる神経毒である. A 型ボツリヌス毒素は, 顔面痙攣, 痙性斜頸, 痙縮に対してもちいられている. 欧米では, 多汗症に対してもちいられ, パーキンソン病の流涎に対しても耳下腺内注射が試みられている. これは, 分泌腺を支配するコリン作動性交感神経終末に対する効果である. 同様に, コリン作動性副交感神経終末に対して,A 型ボツリヌス毒素の膀胱平滑筋内注射がおこなわれ, 神経障害にともなう OAB 患者に有効である 29). その他, 下腹部の干渉低周波, 下半身皮膚の電気刺激, 鍼灸, 会陰部の磁気刺激がおこなわれ,OAB 患者にある程度有効とされる 30). 国民成人の約 10% が糖尿病を有しているといわれ, 厳格な血糖コントロールをおこなっても, 糖尿病性ニューロパチーの進行を止めることは困難ともいわれる. 糖尿病性ニューロパチーの成因として, 代謝障害 ( アルドース環元酵素によるポリオール経路の亢進など ) と微小血管障害 ( 基底膜の肥厚, 内皮の膨化など ) が良く知られている. 糖尿病性ニューロパチーでは, 大径線維が障害されると, 四肢の腱反射消失, 遠位部主体の筋力低下, 歩行時ふらつき ( 深部感覚障害による ) がみられ,Ad C 線維などの細径線維が障害されると, 表在感覚低下 しびれ, 排尿障害をふくめた自律神経障害をきたす. 糖尿病における排尿障害の頻度は報告によってかなり差があり,2 ~ 83% と報告されている. 無自覚の糖尿病患者でも, 検査上の異常が 43 ~ 87% にみつかったとの報告もある. その理由の一つとして, 末梢性疾患では, 中枢性疾患とことなり, 求心線維が同時に障害されるため, 患者の自覚症状になりにくいことが考えられる. そのばあい, 残尿があっても患

神経内科と膀胱 ~ 排尿の神経機序と排尿障害の見方 扱い方 ~ 53:187 者にあまり自覚されず, 高度なばあい, 尿閉状態になっても痛みがまったくなく, 高齢女性で下腹部の腫瘤として受診することもある. 排尿症状として, 尿勢の低下 / 排尿時間の延長 (71%) が多いが,OAB(48 ~ 55%) もしばしば同時にみられる 31). これらの患者にウロダイナミクスをおこなうと, 排尿筋低活動 (detrusor underactivity, 排尿企図時に膀胱が充分に収縮しないもの ) が 48% にみられ,30 ml 以上の残尿が 57% にみられた ( 平均残尿量 102.9 ml). 残尿は糖尿病の罹病期間にともなって増加する傾向がある. さらに, 蓄尿期の膀胱知覚低下が 32% にみられた 31). 糖尿病で排尿筋低活動, 膀胱感覚低下をきたすのはなぜであろうか? 排尿筋低活動, 膀胱感覚低下はそれぞれ, 膀胱を支配する運動神経 ( 骨盤神経 ) および感覚神経 ( 骨盤 陰部 下腹神経など ) の障害を示唆する. 病理学的に, 糖尿病患者では膀胱壁内神経 ( 細径線維 ) の軸索膨化 変性がみられ 32), 膀胱壁のコリン性線維が減少している 33). 糖尿病性膀胱障害は, 四肢の痛覚低下 ( 細径有髄 Ad 無髄 C 線維 ), 運動 感覚神経伝導速度低下 低振幅 ( 大径有髄神経 ) 34), 交感神経性皮膚発汗反応低下 ( 細径有髄 Ad 無髄 C 線維 ) と相関する 35). 一方, 膀胱知覚低下が, 過伸展膀胱損傷をひきおこし,2 次的に膀胱運動線維が障害された可能性もある. ストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットでは, 著明な多尿と頻尿が良く知られており, これらのラットでは膀胱の神経線維, 平滑筋, 上皮に形態的 機能的変化が生じる. その機序として, ブドウ糖 ポリオール代謝の変化, 膀胱過伸展, 血管障害による虚血, 酸化ストレス, 膀胱求心線維 後根神経節における神経成長因子の軸索輸送の障害が指摘されている 36). 最近の研究では, 末梢神経障害の一部で, 括約筋弛緩不全もともなうことが明らかになってきた 37). 膀胱感覚が低下しているばあい, 過伸展を防ぐため, 膀胱内に 400 ~ 500 ml 以上溜めないように定時排尿を指導する. 膀胱感覚低下は, 一旦出現してしまうと, 一般に回復は難しい. 塩酸イミダプリルは降圧剤であり, アンギオテンシン転換酵素 / キニナーゼ II 阻害作用を有する. このため, 末梢 / 中枢でのサブスタンス P を増加させ, 気道感覚の亢進による咳がみられるばあいがある. これを利用して, 高齢者の誤嚥を治療する試みが報告されている. 最近, 塩酸イミダプリルが膀胱知覚低下を改善させることが報告された 38). 100 ml 以上の残尿に対して, まず清潔間欠導尿 (clean, intermittent catheterization, CIC) を指導する 39).CIC は残尿 100 ml に対して 1 日 1 回,200 ml に対して 1 日 2 回おこなうよう指導する. 夜間多尿があり頻回の CIC が困難な時は, ナイトバルーン ( 間欠式バルーンカテーテル ) を併用すると良い. 神経疾患にともなう残尿に対しては, なるべくウロダイナミクスを施行し, 排尿障害の機序を明らかにすることが望ましい. ウロダイナミクスが施行できない時, 尿道抵抗を減少させる a 交感神経遮断薬を開始する. 薬剤として, ウラビジル ( 受容体非選択的 ), ナフトピジル, タムスロシン ( 尿道選択的 ) などがある 40). 起立性低血圧のある患者に, 受容体非選択的薬剤を投与すると, 尿道の a1a/d 受容体と末 梢血管の a1b 受容体を同時に遮断してしまい, 起立性低血圧を増悪させるので, 注意が必要である. 逆に, 起立性低血圧に対する ( 受容体非選択的 ) 交感神経刺激薬は, 尿道の a1a/d 受容体と末梢血管の a1b 受容体を同時に刺激するため, 尿閉をきたす可能性がある 41). 排尿筋低活動に対して, コリン作動性薬物である塩化ベタネコール, ジスチグミン, ピリドスチグミンなどをもちいる 42)43). ジスチグミンは末梢性抗コリンエステラーゼ薬であり, 重症筋無力症の治療薬でもある. コリン作動性ニューロンは,a 運動ニューロンとして, 仙髄オヌフ核をふくめた脊髄前角, 脳幹部運動諸核に広く分布しており, その受容体はニコチン性受容体である. 副交感神経の節後線維もコリン作動性であり, その受容体はムスカリン性受容体である. ウブレチドは, 神経平滑筋接合部でのアセチルコリン濃度を高めることにより, 排尿筋低活動を改善させる. 一方, 脊髄中間外側核に分布する自律神経節前ニューロンもコリン作動性であり, 胸腰髄では交感神経節内のアドレナリン作動性ニューロンに結合している ( 受容体は主にニコチン性 ). 急性自律神経ニューロパチーは, 神経性ニコチン性アセチルコリン受容体に対する自己免疫疾患であり, 尿閉と起立性低血圧を同時にきたす. ピリドスチグミンは, 自律神経節前ニューロンを刺激することにより, 尿閉と起立性低血圧を同時に改善するばあいがある 43). 排尿筋低活動に対して, 欧米では pulse generator 埋め込み型 S3 根刺激治療 (neuromodulation) がおこなわれ, 有効と報告されている 28). 脊髄疾患, 多系統萎縮症などでは,OAB と残尿が同時にみられる. ウロダイナミクスでは, 蓄尿期の排尿筋過活動と, 排尿期の膀胱麻痺 ( 排尿筋低活動 ) がしばしば同時にみられる (detrusor hyperactivity with impaired contraction, DHIC) 44). 多系統萎縮症での排尿障害の病態については, 既報告を参照されたい 45)46).DHIC と同様の病態は, 多発性脳梗塞と腰椎症 / 糖尿病性ニューロパチーの組み合わせや, 多発性脳梗塞の OAB に対して抗コリン薬を使用中に効きすぎてしまった時などにもみられる. 脊髄疾患, 多系統萎縮症では, さらに排尿筋括約筋協調不全 ( 括約筋が弛緩しないもの,detrusorsphincter dyssynergia [DSD]) をともなうばあいもある. これらのばあい, 残尿の治療をまずおこない,CIC を指導しながら抗コリン薬を追加投与すると良い 39)45)46). 以上, 排尿の神経機構とその見方, 神経因性膀胱 ( 膀胱自律神経障害 ) の主な病態と治療について述べた. このうち, OAB に対して抗コリン薬, 残尿 尿閉に対して CIC,a 交感神経遮断薬, コリン作動薬を組み合わせながら投与することが勧められる. 排尿障害の治療を積極的におこない, 患者

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53:190 53 巻 3 号 (2013:3) Abstract Neurology and the bladder: how to assess and manage neurogenic bladder dysfunction. With particular references to neural control of micturition Ryuji Sakakibara, M.D., Ph.D. 1), Masahiko Kishi, M.D., Ph.D. 1), Yohei Tsuyusaki, M.D. 1), Fuyuki Tateno, M.D. 1), Tomoyuki Uchiyama, M.D., Ph.D. 2) and Tatsuya Yamamoto, M.D., Ph.D. 3) 1) Neurology, Internal Medicine, Sakura Medical Center, Toho University 2) Continence Center, Dokkyo Medical College 3) Neurology, Chiba University Bladder dysfunctions are one of the most common features seen in the failure of the autonomic nervous system. Among those, overactive bladder (urinary urgency and frequency) worsens quality of life of the patients, and a large amount of post-voiding residual urine or urinary retention causes urinary tract infection, kidney dysfunction, and may bring renal failure. In the present paper we discussed neural control of micturition and how to assess it. Also, we proposed appropriate management of bladder dysfunction in elderly white matter lesions (a common cause of OAB) and diabetic neuropathy (a usual pathology underlying urinary retention). For OAB, anti-cholinergics are the mainstay, whereas for the pathological post-voiding residual urine or urinary retention, alpha-blockers, cholinergic agents and clean, intermittent self-catheterization are the choice. Treatment of bladder dysfunctions is the important target for maximizing patients quality of life. (Clin Neurol 2013;53:181-190) Key words: neurogenic bladder dysfunction, overactive bladder, post-void residual, autonomic dysfunction