発育阻止濃度 (minimum inhibitory concentration: MIC) や最小殺真菌濃度 (minimal fungicidal concentration: MFC) を指標に判断します MIC でみますと 白癬菌に対して MIC が小さい すなわち 抗真菌作用が強いのは ラ

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を身につけることが必要です 図 1,2,3 臨床像から初めに他の疾患で あると考えても 少しでも合致しない 点があれば鏡検を行うようにします 極言すれば 初診時には念のため 全 例鏡検していくくらいの意気込みで ちょうどよいです そして 他の疾患と考えて治療を開 始したが 予想どおりの改善が見られ

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

ルリコナゾールルコナック爪外用液 5% CTD 第 2 部 ( モジュール2): CTDの概要 ( サマリー ) 2.6 非臨床試験の概要文及び概要表 緒言 佐藤製薬株式会社

ルギー性接触皮膚炎症候群と診断されました 欧州医薬品庁は昨年 7 月にケトプロフェン外用薬に関するレヴュー結果を公表し 重篤な光線過敏症の発症は10 0 万人に1 人程度でベネフィットがリスクをうわまること オクトクリレンが含まれる遮光剤が併用されると光線過敏症のリスク高まることより最終的に医師の処


通常の単純化学物質による薬剤の約 2 倍の分子量をもちます. 当初, 移植時の拒絶反応抑制薬として認可され, 後にアトピー性皮膚炎, 重症筋無力症, 関節リウマチ, ループス腎炎へも適用が拡大しました. タクロリムスの効果機序は, 当初,T 細胞のサイトカイン産生を抑制するということで説明されました

よる感染症は これまでは多くの有効な抗菌薬がありましたが ESBL 産生菌による場合はカルバペネム系薬でないと治療困難という状況になっています CLSI 標準法さて このような薬剤耐性菌を患者検体から検出するには 微生物検査という臨床検査が不可欠です 微生物検査は 患者検体から感染症の原因となる起炎

抗ヒスタミン薬の比較では 抗ヒスタミン薬は どれが優れているのでしょう? あるいはどの薬が良く効くのでしょうか? 我が国で市販されている主たる第二世代の抗ヒスタミン薬の臨床治験成績に基づき 慢性蕁麻疹に対する投与 2 週間後の効果を比較検討すると いずれの薬剤も高い効果を示し 中でもエピナスチンなら

1 MRSA が増加する原因としては皮膚 科 小児科 耳鼻科などでの抗生剤の乱用 があげられます 特にセフェム系抗生剤の 使用頻度が高くなると MRSA の発生率が 高くなります 最近ではこれらの科では抗 生剤の乱用が減少してきており MRSA の発生率が低下することが期待できます アトピー性皮膚炎

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染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

日本内科学会雑誌第106巻第4号

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2012 年 2 月 29 日放送 CLSI ブレイクポイント改訂の方向性 東邦大学微生物 感染症学講師石井良和はじめに薬剤感受性試験成績を基に誰でも適切な抗菌薬を選択できるように考案されたのがブレイクポイントです 様々な国の機関がブレイクポイントを提唱しています この中でも 日本化学療法学会やアメ

アトピー性皮膚炎の治療目標 アトピー性皮膚炎の治療では 以下のような状態になることを目指します 1 症状がない状態 あるいはあっても日常生活に支障がなく 薬物療法もあまり必要としない状態 2 軽い症状はあっても 急に悪化することはなく 悪化してもそれが続かない状態 2 3

2006 年 3 月 3 日放送 抗菌薬の適正使用 市立堺病院薬剤科科長 阿南節子 薬剤師は 抗菌薬投与計画の作成のためにパラメータを熟知すべき 最初の抗菌薬であるペニシリンが 実質的に広く使用されるようになったのは第二次世界大戦後のことです それまで致死的な状況であった黄色ブドウ球菌による感染症に

ず一見蕁麻疹様の浮腫性紅斑が初発疹である点です この蕁麻疹様の紅斑は赤みが強く境界が鮮明であることが特徴です このような特異疹の病型で発症するのは 若い女性に多いと考えられています また スギ花粉がアトピー性皮膚炎の増悪因子として働いた時には 蕁麻疹様の紅斑のみではなく全身の多彩な紅斑 丘疹が出現し

161 家族性良性慢性天疱瘡

Ⅱ 水虫薬の基礎知識 るものが多い 軟膏 クリームに比べると 刺激がある 乾燥した患部に アルコールなどの溶媒に有効成分を溶解させたもの アルコールを含むものは 乾きが速く べとつきもない 手を汚さずに使用できるというメリットもある ただし 刺激が強いため ジュクジ 液スプレーパウダースプレー ュク

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

1. 接触皮膚炎とは? 接触皮膚炎は かぶれ と一般によばれています これは外かかゆら皮膚についた化学物質が原因となって 皮膚に痒みや痛みを起 は こさせ 赤くなる 腫れる ぶつぶつがでる ただれるなどの炎 症をおこす病気です かぶれには 刺激性接触皮膚炎とアレルギー性接触皮膚炎があります そして

2015 年 3 月 26 日放送 第 29 回日本乾癬学会 2 乾癬本音トーク乾癬治療とメトトレキサート 名古屋市立大学大学院加齢 環境皮膚科教授森田明理 はじめに乾癬は 鱗屑を伴う紅色局面を特徴とする炎症性角化症です 全身のどこにでも皮疹は生じますが 肘や膝などの力がかかりやすい場所や体幹 腰部

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

アトピー性皮膚炎におけるバリア異常と易湿疹化アトピー性皮膚炎における最近の話題に 角層のバリア障害があります アトピー性皮膚炎の 15-25% くらい あるいはそれ以上の患者で フィラグリンというタンパク質をコードする遺伝子に異常があることが明らかになりました フィラグラインは 角層の天然保湿因子の

ステロイド療法薬物療法としてはステロイド薬の全身療法が基本になります 発症早期すなわち発症後 7 日前後までに開始することが治療効果 副作用抑制の観点から望ましいと考えられす 表皮剥離が全身に及んだ段階でのステロイド薬開始は敗血症等感染症を引き起こす可能性が高まります プレドニゾロンまたはベタメタゾ

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

2011 年 7 月 28 日放送第 47 回日本小児アレルギー学会シンポジウム7 アトピー性皮膚炎を考える から 学校保健における管理指導表の利用と課題 関東中央病院皮膚科部長日野治子はじめに私は市中の一診療病院に勤務しています アトピー性皮膚炎の患者さんも 小児から中年過ぎまで多数来院されます

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

2015 年 7 月 8 日放送 抗 MRS 薬 最近の進歩 昭和大学内科学臨床感染症学部門教授二木芳人はじめに MRSA 感染症は 今日においてももっとも頻繁に遭遇する院内感染症の一つであり また時に患者状態を反映して重症化し そのような症例では予後不良であったり 難治化するなどの可能性を含んだ感

線に及ぶ 4 パッチテスト 光パッチテストで多数の陽性物質が検出されるが それらの抗原によるアレルギー反応は直接原因ではない 5 病理組織学的に湿疹 皮膚炎群の所見を示し 時に真皮内に異型リンパ球の浸潤がみられる などです なお 現在までに本疾患の原因は解明されていません 慢性光線性皮膚炎の臨床像次

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2009年8月17日

娠中の母親に卵や牛乳などを食べないようにする群と制限しない群とで前向きに比較するランダム化比較試験が行われました その結果 食物制限をした群としなかった群では生まれてきた児の食物アレルゲン感作もアトピー性皮膚炎の発症率にも差はないという結果でした 授乳中の母親に食物制限をした場合も同様で 制限しなか

菌種 報告年 株数 MIC(μg/mL) Range MIC50 MIC > ( 幾何平均 ) C.tropicalis >

15,000 例の分析では 蘇生 bundle ならびに全身管理 bundle の順守は, 各々最初の 3 か月と比較し 2 年後には有意に高率となり それに伴い死亡率は 1 年後より有意の減少を認め 2 年通算で 5.4% 減少したことが報告されています このように bundle の merit

デュピクセントを使用される患者さんへ

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TDMを活用した抗菌薬療法

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Fungal diseases 25 真菌 (fungus) は細胞壁をもつ真核微生物の一種であり, 光合成を行わないため何らかの有機体に寄生するか, あるいは胞子のかたちで自然界に存在する. 真菌症は真菌によって皮膚病変を生じるものの総称である. 寄生部でんぷう位が表皮や毛包に限局する浅在性真菌症

日本内科学会雑誌第98巻第12号

日産婦誌58巻9号研修コーナー

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

1. 医薬品リスク管理計画を策定の上 適切に実施すること 2. 国内での治験症例が極めて限られていることから 製造販売後 一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は 全 症例を対象に使用成績調査を実施することにより 本剤使用患者の背景情報を把握するとともに 本剤の安全性及び有効性に関するデータを

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

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後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

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STEP 1 検査値を使いこなすために 臨床検査の基礎知識 検査の目的は大きく 2 つ 基準範囲とは 95% ( 図 1) 図 1 基準範囲の考え方 2

本調査では アトピー性皮膚炎治療における 医師 - 患者間コミュニケーションの改善が治療継続のモチベーションを上げ 治療の満足度向上に寄与することが示唆されています サノフィジェンザイムは アトピー性皮膚炎患者さんの QOL 向上に取り組むため アレルギーに関する情報サイト アレルギー i において

70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

クレナフィン爪外用液 10% ( エフィナコナゾール ) CTD 第 2 部 2.5 臨床に関する概括評価 科研製薬株式会社

美容皮膚科に関するアンケート今回 2つのアンケートを紹介します まず 初めに 皮膚科医による美容皮膚科への取り組み実態 の調査として 2007 年に行われた日本臨床皮膚科医会会員 4,073 名への 美容皮膚科に関するアンケート です このアンケート調査は 回収率は 30.35% と高く 美容皮膚科

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94 章治療学 表.5 副腎皮質ホルモン外用の主な副作用 1. ステロイド ( 副腎皮質ホルモン ) corticosteroid ステロイド外用の主要な目的は抗炎症作用であるが, 血管収 縮作用, 膜透過性抑制作用, 炎症性ケミカルメディエーターの遊離抑制作用, ホスホリパーゼ A 抑制によるアラ

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はじめに 緩和ケア期には四肢や顔面 体幹部に浮腫を発症することがあります また発症していたリンパ浮腫ががんの進行で悪化することもあります がんの進行を抑える抗癌剤の一部には 副作 用で重症の浮腫を来すことがあります 緩和ケア期の浮腫の要因 病態は複雑で 癌性疼痛や神経麻痺 しびれなど 浮腫を治療する

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

ことを意味します 長期間服用できるためには 抗がん剤による有害事象を軽くすること が必要になるのです つまり 皮膚科医による患者のサポートが期待されているわけです 手足症候群のグレード分類手足症候群の症状は 症状の程度によって3つのグレードに分かれ 有害事象共通用語規準に分類が示されています 分類は

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

Ⅰ. 改訂内容 ( 部変更 ) ペルサンチン 錠 12.5 改 訂 後 改 訂 前 (1) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本剤の作用が増強され, 副作用が発現するおそれがあるので, 併用しないこと ( 過量投与 の項参照) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本

耐性菌届出基準

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

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スイッチ OTC 医薬品の候補となる成分についての要望 に対する見解 1. 要望内容に関連する事項 組織名日本消化器病学会 要望番号 H28-11 H28-12 H28-16 成分名 ( 一般名 ) オメプラゾール ランソプラゾール ラベプラゾールオメプラゾール : 胸やけ ( 胃酸の逆流 ) 胃痛

針刺し切創発生時の対応

検査項目情報 6475 ヒト TARC 一次サンプル採取マニュアル 5. 免疫学的検査 >> 5J. サイトカイン >> 5J228. ヒトTARC Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital Ver.6 thymus a

2011 年 9 月 29 日放送第 74 回日本皮膚科学会東京支部学術大会 6 教育講演 4-1( 膠原病 ) 皮膚限局型エリテマトーデスの病型と治療 埼玉医科大学皮膚科教授土田哲也 本日は 皮膚限局性エリテマトーデスの病型と治療 についてお話させていただき ます 言葉の問題と病型分類エリテマトー

57巻S‐A(総会号)/NKRP‐02(会長あいさつ)

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Lenvatinibの副作用管理と薬薬連携

2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

( 別添 ) 御意見 該当箇所 一般用医薬品のリスク区分 ( 案 ) のうち イブプロフェン ( 高用量 )(No.4) について 意見内容 <イブプロフェン ( 高用量 )> 本剤は 低用量製剤 ( 最大 400mg/ 日 ) と比べても製造販売後調査では重篤な副作用の報告等はない 一方で 今まで

第3章 調査のまとめ

臨床研究の概要および研究計画

2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

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CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

2. 犬の表在性膿皮症の臨床症状表在性膿皮症の基礎疾患にはアトピー性皮膚炎などの慢性疾患が存在することがほとんどであるために 前記の3 疾患の中で臨床現場においてもっとも頻繁に遭遇し 重要であるのは表在性膿皮症であるといってよいでしょう 表在性膿皮症は最初 毛包一致性の赤色丘疹 ( 図 2 白円内)

_原著_常深祐一郎

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通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

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も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

2015 年 4 月 16 日放送 第 78 回日本皮膚科学会東部支部学術大会 3 シンポジウム1-1 Netherton 症候群とその類症 旭川医科大学皮膚科教授山本明美 はじめに Netherton 症候群は魚鱗癬 竹節状の毛幹に代表される毛の異常とアトピー症状を3 主徴とする遺伝性疾患ですが

主治医は 2 週間の入院中に寛解導入することを目標として remission が mission を合言葉に集中した外用治療を計画し 看護師と共に毎日の外用加療をおこないます 皮膚科責任者である私が医師受け持ちの金曜日の教育担当です 第 1 週は アトピー性皮膚炎はなぜおきる? として 発症機序の説

スライド 1

Transcription:

2015 年 6 月 11 日放送 第 58 回日本医真菌学会 2 教育講演 1-4 水虫の診断 予防について 効率的な治療 東京女子医科大学皮膚科准教授常深祐一郎はじめに足白癬は世間で水虫といわれ 非常に頻度も高く 知らない人はいない疾患ですが 治らないもしくは治ってもすぐに再発すると思われていることが多いです しかし 足白癬は完治させられるのです そして完治に導くのが皮膚科医の責任です 足白癬を確実に治癒させるためには 正しく診断すること 適切な薬剤を選択すること 十分な患者指導を行うこと この 3 つがポイントとなります 診断には鏡検が必須です 視診のみの診断は経験を積んだ皮膚科医といえども誤診します 本日は時間の関係で 鏡検については触れませんが 鏡検の重要性だけははじめに強調しておきます 適切な薬剤の選択正しい診断ができたとして 最初は適切な薬剤の選択です 足白癬の治療の中心は外用抗真菌薬です 現在 多数の外用抗真菌薬がありますが すべての外用抗真菌薬の効能 効果には白癬と記載されています では どの薬剤を使用しても同様に効果があるのでしょうか? 答えは No です 同様に白癬の適応症をもつ外用抗真菌薬でも 実は白癬菌に対する効果にはかなりの差があります 抗真菌作用は最小

発育阻止濃度 (minimum inhibitory concentration: MIC) や最小殺真菌濃度 (minimal fungicidal concentration: MFC) を指標に判断します MIC でみますと 白癬菌に対して MIC が小さい すなわち 抗真菌作用が強いのは ラノコナゾール ルリコナゾール リラナフタート アモロルフィン ブテナフィン テルビナフィン ネチコナゾールです ( 図 1) 逆に ケトコナゾールやビホナゾールなどは菌株によっては MIC が大きくなる傾向にあります 中でも特に ラノコナゾールとルリコナゾールは白癬菌に対する MIC が極めて小さく また 菌株によるばらつきが少ないため 効果を期待できる薬剤と言うことができます ( 図 2) 薬剤の基剤次に考えるべきことは薬剤の基剤です 経口薬と外用薬の最大のちがいは 外用薬では基剤によって治療効果が大きく影響を受けるということです 病変の状態をよく観察します 足白癬では びらんや亀裂 浸軟を伴っていることは稀ではありませんが ( 図 3) このような場合外用抗真菌薬による刺激性皮膚炎に注意が必要です 例えば これらの病変に液剤を塗布すると 刺激性皮膚炎で悪化します これは直感的に理解できると思います OTC の外用抗真菌薬を塗布して かぶれて来院する患者さんは先生方もよく経験されていることだと思います 液剤よりはましですが クリームも刺激性皮膚炎を起こしやすいです このような場合 軟膏基剤の外用抗真菌薬が重宝します 軟膏は最も皮膚に対する刺激が少ないからです ラノコナゾールやルリコナゾールには軟膏の剤型があります しかし 大きなびらんや亀裂 強い浸軟 接触皮膚炎や二次感染を合併している場合 いかに軟膏基剤の外用抗真菌薬といえども 使用することはできませんので まずはこれらの合併症を治療します ステロイド外用薬や亜鉛華軟膏 経口抗菌薬を使用することになります この時 最初から経口抗真菌薬は使用できますので 併用しておくと 白癬菌に対する量も開始でき 治癒までの期間を短縮できます これは覚えておくとよいコツです 合併症が治癒した後

外用抗真菌薬を開始します 刺激性皮膚炎を回避し 治療を円滑に進めるためには 趾間にガーゼをはさむことや 5 本趾靴下を使用することで 趾と趾が接しないようにすることが大切です 趾が密着した浸軟しやすい患者さんなどでは必須です ちなみに 趾間ガーゼは長細く切ったガーゼを交互に趾間にはさんで両端を留めると簡単ですし 確実に固定できます ( 図 4) 患者さんには外用抗真菌薬を塗っているときにかゆみや赤みが出たら それはかぶれであるから使用をやめるように予め指導しておかなければなりません 多くの患者さんは水虫が悪化したと勘違いしてさらに外用抗真菌薬を塗布してしまいます 逆に 浸軟やびらんもない症例の場合 患者さんの好みに応じて剤型を決めればよいですから べたつきを嫌う患者さんには液剤を使用するなど工夫することでアドヒアランスが上がります よく勘違いされていますが 液剤も足白癬や生毛部白癬用の剤型です 決して爪用ではありません ( エフィナコナゾールの爪白癬用外用抗真菌薬は除きます ) 病変の状態さえ問題なければ クリームや液剤もうまく活用するとよいのです 外用指導次に外用指導です 最初に外用範囲を考えます たとえ趾間の一部に鱗屑があるような症例であっても 白癬菌は全体にいますので 両足の足底全体に塗布する必要があります ( 図 5) さらに白癬菌が分布する足蹠の皮膚 ( 角層が厚く 生毛のない皮膚 ) は足底だけでなく趾間 足縁 アキレス部までありますので これらの部位にも塗布します ( 図 6) では この範囲に外用抗真菌薬を塗布するにはどのくらいの量が必要でしょうか? 外用指導で最近よく用いられる fingertip unit (FTU) の考え方を用いますと 片足の足関節から遠位全体 2FTU ですから 先に述べました範囲はおよそその半分の 1FTU になります 両足では 2FTU です 外用

抗真菌薬は 1 日 1 回外用ですので 1 日 2FTU 1FTU=0.5g で 1 日 1g ということになります 1 ヶ月では 30g で チューブ 3 本に相当します ですから 1 ヶ月でチューブ 3 本を使い切るように指導すると分かりやすいです ( 図 7) たとえば 1 ヶ月で 1 本しか使っていなかったとすると 明らかに少ないですから 一部しか塗っていない かなり薄く延ばしている ちょっとよくなると塗るのをやめている などというように外用アドヒアランスが低いことが予想されますので 再度外用指導をします もう一つ大切なのが 外用期間です 足底は角層が厚いですので 角層の上層にのみ白癬菌がいる場合 白癬菌と生きた表皮細胞が接しませんから あまり炎症反応が強く出ません 結果として 臨床症状は軽度になります 白癬菌が増えて角層の下層に達すると表皮細胞と接するため 免疫反応が起こり 症状が強くなります 角層の薄い部位にできる股部白癬のそう痒が強いのはこれで理解できます ( 図 8) 白癬菌が角層の下層に達している症状の強い足白癬に外用抗真菌薬による治療を開始しますと 白癬菌の増殖は停止しますので 角層のターンオーバーによって白癬菌は押し出されていきます そして 白癬菌と表皮細胞が離れますと症状が治まります しかし まだ角層内に白癬菌がいるわけですし 外用抗真菌薬の作用は主に静菌的ですから ここで塗るのをやめると 再度増殖が始まり臨床的にも再発となります ( 図 9) ですから 症状軽快後も角層のターンオーバーの期間塗り続けなければならないの

です つまり よくなっても 1-2 ヶ月は外用を継続するように指導します 外用指導は 外 用範囲 塗布量 外用期間がポイントです 経口抗真菌薬の活用次に 経口抗真菌薬の積極活用もコツです 経口抗真菌薬は爪白癬専用の治療薬ではありません 合併症の治療の所でも少し触れましたが 経口抗真菌薬をうまく使うと治療期間や治癒率を高めることができます 角化型の足白癬をはじめ重症の足白癬には経口抗真菌薬を併用するとよいです この場合 爪白癬のように治癒まで内服する必要はなく ある程度改善して軽症になれば 外用抗真菌薬のみの治療に移行してもよいです 白癬菌に対しては テルビナフィンがイトラコナゾールよりも効果が高いので テルビナフィンをまず検討し 肝機能や血球減少があって使用しづらいときに イトラコナゾールを考えます イトラコナゾールでは併用禁忌薬が多いので注意します 用量ですが テルビナフィンは 125mg/day の連続投与で爪白癬と同じです イトラコナゾールは 100-200mg/day の連続投与です パルス療法ではありません また 吸収を促進し血中濃度を高めるためには 分割投与せず分 1 で食直後に内服することが重要です 最初は投与開始 1 ヶ月後に その後は 1-2 ヶ月毎に採血を行います 項目は 血算と肝胆道系酵素 ( テルビナフィンの場合 CK も ) です 腎機能障害を来すことはほとんどありません おわりに最後に 白癬では診断的治療が成り立たないことを強調しておきます いかにも足白癬の臨床像の場合 鏡検で菌が見つからなくても 外用抗真菌薬を塗りたくなります しかし これは厳禁です 外用抗真菌薬を塗布して改善しない もしくは 悪化した場合 白癬でなかったからよくならないのか 白癬であったが外用抗真菌薬の刺激性皮膚炎で悪化したのか 区別できないからです しかも そこで鏡検してみても 既に外用抗真菌薬を使用していますと 菌の検出率は極めて低下していますから 菌は見つかりません そうしますと 行き詰まってしまいます このように鏡検が陰性の場合 外用抗真菌薬を使用せず ステロイドを外用するのがよいです ( 図 10) 湿疹などであれば改善しますし 白癬であれば ステロイド外用により白癬菌が増えますので 鏡検で発見しやすくなります ただ 1-2 週間の短期間であれば 臨床的に悪化することはないので 短期間での再診を設定すれば 心配ありません