歴史 きっかけは Cholera pandemic(1829 年 ~) 酸の定義 (acid:acidus=sour taste) 1880 年代 ~ Arrhenius 酸とは水に溶けたときに H + を増加させるもの (HCl が酸 ) Naunyn は イオン自体の性質が酸を定義する (Cl

Similar documents
酸塩基平衡

SpO2と血液ガス

QA JOURNAL RADIOMETER June No. C O N T E N T S 2 6 8

基準範囲の考え方 ph 7.35~ mmHg pco2 mmhg po2 mmhg HCO3 mmol/l BE mmol/l 35~45 85~105 60> 呼吸不全 21~28-2~+3 so2(%) 95~99% 静脈 pco2=45mmhg po2=40mmhg 動脈 pco

症例 A: 30 歳 女性 半年くらい前から徐々に全身倦怠感が増強 診察時の検査で BUN 130 mg/dl ( 正常値 : 9~20) クレアチニン 11.4 mg/dl ( 正常値 : 0.5~1.0) である 症例 B: 38 歳 男性 10 年前から高血圧を指摘され 6 年前から高血圧が悪

Microsoft Word 血液ガス、酸塩基平衡.doc

Microsoft Word - 腎臓ネットマニュアルシリーズ_血液ガス分析.docx

血液ガス分析検査

輸液製剤

<4D F736F F D D8ACC919F956182C982A882AF82E98E5F89968AEE95BD8D7482CC88D98FED>

J Hospitalist Network Journal Club! DKAの輸液は生食と乳酸リンゲル液では どちらがいいのか! Fluid management in diabetic-acidosis! Ringer s lactate versus normal saline:! a ran

Microsoft PowerPoint - PDF用.ppt

スライド 1

スライド 1

Microsoft PowerPoint - PDF用.ppt

本文1-5.indd

スライド 1

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

_ 白髪論文.smd

た 血培と尿倍を採取後に広域抗菌薬が投与されているが症状の改善なく WBC と上昇しているが 感染よりは全身のストレスを反映していると考えられた AG 上昇性の代謝性アシドーシスの鑑別は CAT MUDPILEs のゴロ合わせて覚えられる cyanide,carbon monoxide,

sick contact1l

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

第8章/volume depletion

第 22 部実践トレーニング Step 1 入門編 まずマスターしたい基本ケース 36 Case 1 4 歳男児 頻回嘔吐と頻回下痢 37 Case 2 24 歳男性 全身倦怠感 40 Case 3 5 歳男児 発熱と咳嗽, 全身倦怠感 43 Case 4 14 歳女児 インフルエンザ肺炎での救急搬

スライド 1

表 1 入院時検査所見 11,500L 471 L 17.0 gdl.3 L ph 7.49 PaCO 37.8 mmhg PaO 67.4 mmhg HCO 3.6 meql B E 1. meql 141 meql K 3.9 meql Cl 108 meql Ca 8.4 mgdl P 4.5

ページつき

第1 総 括 的 事 項

木村の理論化学小ネタ 緩衝液 緩衝液とは, 酸や塩基を加えても,pH が変化しにくい性質をもつ溶液のことである A. 共役酸と共役塩基 弱酸 HA の水溶液中での電離平衡と共役酸 共役塩基 弱酸 HA の電離平衡 HA + H 3 A にお

Amino Acid Analysys_v2.pptx

<576F F202D F94BD899E8EAE82CC8DEC82E895FB5F31325F352E6C7770>

スライド 1

2011年度 化学1(物理学科)

Word Pro - matome_7_酸と塩基.lwp

スライド 1

Microsoft Word - 酸塩基

現況解析2 [081027].indd

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F D208AC B836791E DC82C682DF F1939A909492C789C1>

というもので これまで十数年にわたって使用されてきたものになります さらに 敗血症 sepsis に中でも臓器障害を伴うものを重症敗血症 severe sepsis 適切な輸液を行っても血圧低下が持続する重症敗血症 severe sepsis を敗血症性ショック septic shock と定義して

h29c04

ph

ROCKY NOTE 食物アレルギー ( ) 症例目を追加記載 食物アレルギー関連の 2 例をもとに考察 1 例目 30 代男性 アレルギーについて調べてほしいというこ

Microsoft PowerPoint - D.酸塩基(2)

血漿交換療法 (PE/PA/DFPP)

めまい

スライド タイトルなし

<4D F736F F F696E74202D208C8C B E5F89968AEE95BD8D7488D98FED2E E B8CDD8AB B83685D>

障害程度等級表 級別じん臓機能障害 1 級 じん臓の機能の障害により自己の身辺の日常生活活動が極度に制限されるもの 2 級 3 級 じん臓の機能の障害により家庭内での日常生活活動が著しく制限されるもの 4 級 じん臓の機能の障害により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの

< E6F2E D5D96D F18F6F88CB978A94C E786C7378>

i ( 23 ) ) SPP Science Partnership Project ( (1) (2) 2010 SSH

高 1 化学冬期課題試験 1 月 11 日 ( 水 ) 実施 [1] 以下の問題に答えよ 1)200g 溶液中に溶質が20g 溶けている この溶液の質量 % はいくらか ( 整数 ) 2)200g 溶媒中に溶質が20g 溶けている この溶液の質量 % はいくらか ( 有効数字 2 桁 ) 3) 同じ

P001~017 1-1.indd

「血液製剤の使用指針《(改定版)

尿試験紙を用いたアルブミン・クレアチニン検査の有用性

BA_kanen_QA_zenpan_kani_univers.indd

FdData理科3年

平成27年度 前期日程 化学 解答例

透析看護の基本知識項目チェック確認確認終了 腎不全の病態と治療方法腎不全腎臓の構造と働き急性腎不全と慢性腎不全の病態腎不全の原疾患の病態慢性腎不全の病期と治療方法血液透析の特色腹膜透析の特色腎不全の特色 透析療法の仕組み血液透析の原理ダイアライザーの種類 適応 選択透析液供給装置の機能透析液の組成抗

スライド 1

ONS60409_gencyo.indd

2004 年度センター化学 ⅠB p1 第 1 問問 1 a 水素結合 X HLY X,Y= F,O,N ( ) この形をもつ分子は 5 NH 3 である 1 5 b 昇華性の物質 ドライアイス CO 2, ヨウ素 I 2, ナフタレン 2 3 c 総電子数 = ( 原子番号 ) d CH 4 :6

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

< イオン 電離練習問題 > No. 1 次のイオンの名称を書きなさい (1) H + ( ) (2) Na + ( ) (3) K + ( ) (4) Mg 2+ ( ) (5) Cu 2+ ( ) (6) Zn 2+ ( ) (7) NH4 + ( ) (8) Cl - ( ) (9) OH -

PowerPoint プレゼンテーション

補足 中学校では塩基性ではなくアルカリ性という表現を使って学習する アルカリはアラビア語 (al qily) で, アル (al) は定冠詞, カリ (qily) はオカヒジキ属の植物を焼いた灰の意味 植物の灰には Na,K,Ca などの金属元素が含まれており, それに水を加えて溶かすと, NaOH

減量・コース投与期間短縮の基準

重症患者におけるRefeeding症候群

木村の理論化学小ネタ 熱化学方程式と反応熱の分類発熱反応と吸熱反応化学反応は, 反応の前後の物質のエネルギーが異なるため, エネルギーの出入りを伴い, それが, 熱 光 電気などのエネルギーの形で現れる とくに, 化学変化と熱エネルギーの関

PowerPoint プレゼンテーション

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

2 4 診断推論講座 各論 腹痛 1 腹痛の主な原因 表 1 症例 70 2 numeric rating scale NRS mmHg X 2 重篤な血管性疾患 表

TDM研究 Vol.26 No.2

<4D F736F F D2089BB8A778AEE E631358D E5F89BB8AD28CB3>

近畿中国四国農業研究センター研究報告 第7号

2. 水分の摂取と排出 1) 水分摂取量と排出量のバランス 代謝で生じる水も含む! 水分摂取量 ( 約 2500ml) 60% 飲料水から 30% 食物から 10% 代謝から 1500ml 700ml 300ml 尿が最も多い!1 日で 1500ml 水分排泄量 ( 約 2500ml) 60% 尿と

14栄養・食事アセスメント(2)

PowerPoint プレゼンテーション

デベルザ錠20mg 適正使用のお願い

PowerPoint プレゼンテーション

第 11 回化学概論 酸化と還元 P63 酸化還元反応 酸化数 酸化剤 還元剤 金属のイオン化傾向 酸化される = 酸素と化合する = 水素を奪われる = 電子を失う = 酸化数が増加する 還元される = 水素と化合する = 酸素を奪われる = 電子を得る = 酸化数が減少する 銅の酸化酸化銅の還元

<4D F736F F D2089BB8A7797C C B B835888E790AC8C7689E6>

Microsoft Word - 届出基準

使用上の注意 1. 慎重投与 ( 次の患者には慎重に投与すること ) 1 2X X 重要な基本的注意 1TNF 2TNF TNF 3 X - CT X 4TNFB HBsHBcHBs B B B B 5 6TNF 7 8dsDNA d

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

平成 30 年度鹿児島大学医学部医学科 第 2 年次前期学士編入学試験 学力試験 I 平成 29 年 10 月 28 日午前 9 時 午前 10 時 30 分 注意事項 1. 試験開始の合図があるまで この問題を開いてはいけません 2. この問題は全部で 5 ページあります 落丁 乱丁または印刷不鮮

(Microsoft Word - \230a\225\266IChO46-Preparatory_Q36_\211\374\202Q_.doc)

日本内科学会雑誌第104巻第5号

認定看護師教育基準カリキュラム

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

Taro-化学3 酸塩基 最新版

10050 WS2-3 ワークショップ P-129 一般演題ポスター症例 ( 感染症 ) P-050 一般演題ポスター症例 ( 合併症 )9 11 月 28 日 ( 土 ) 18:40~19:10 6 分ポスター会場 2F 桜 P-251 一般演題ポスター療

脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

2009年8月17日

B型平成28年ガイドライン[5].ppt

mg 8 mg X Cr 9.84 mg/ dl K 1.5 meq/l CK 24,570 U/L Mb 79,530 ng/ml Mb 230,000 ng/ ml AKI 2 IHD IHD 4 IHD

094.原発性硬化性胆管炎[診断基準]

<連載講座>アルマイト従事者のためのやさしい化学(XVII)--まとめと問題 (1)

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

1 ムを知ることは, 治療介入時の注意点を知る上で重要である. つまり, 臓器の組織還流を維持するために腎での水と Na 保持作用は重要な代償機構である. 利尿薬投与によって体液量を減少させれば, 浮腫は減少するが, 同時に組織還流も減少するため, その程度によっては臓器障害をきたしうることをよく理

Transcription:

酸塩基平衡 2 つのアプローチ Tradi0onal Approach Stewart Approach 慈恵 ICU 勉強会 2015/01/27 児島千里

歴史 きっかけは Cholera pandemic(1829 年 ~) 酸の定義 (acid:acidus=sour taste) 1880 年代 ~ Arrhenius 酸とは水に溶けたときに H + を増加させるもの (HCl が酸 ) Naunyn は イオン自体の性質が酸を定義する (Cl が酸 ) Van Slyke 電解質が酸塩基平衡で重要な役割を果たす Bronsted と Lowry 酸は陽子を与えるもの 塩基は受け取るもの ( 1910 年 ) HendersonHasselbalch 1909 年 Henderson AcidBase Balance Hasselbalch ph という概念 (HendersonHasselbalch の式 ) Great TransAtlan0c Acid Base Debate(195060 年代 ) Copenhagen Approach(Base Excess Approach) を Astrup と SiggaardAndersen が提唱 Boston Approach(Bicarbonate Approach) を Schwartz と Rehm が提唱 Stewart approach 1970 年代 Stewart H + 濃度を決定する因子は PaCO 2 SID A TOT の 3 つであり H + や HCO 3 はそれらによって決められる従属因子である

Tradi0onal Approach NEJM. 2014; 371: 143445.

酸塩基平衡の異常の鑑別のために 7 つのステップを順にみていく 1 まずは病歴と身体所見から 2 原発性なのか二次性なのか 3 代謝性の中身 (Anion Gap の話 ) 4 代謝性が複数存在するかも? 5 それでも説明がつかないとき 6 呼吸性の中身 7 臨床所見と矛盾がないか

Step1 まずは病歴と身体所見から 数字を読む前に病歴 症状 身体所見などを評価 起こりうる酸塩基平衡障害の鑑別をあげる 糖尿病 心疾患 肺疾患 肝障害 腎障 妊娠 バイタルサイン 神経学的所見 感染兆候 呼吸パターン 消化器症状 薬物投与歴 中毒

Step2 原発性か代償性か u 原則として 代償性変化で ph が完全に正常化することはないため 原発性の判断は容易 u 代償の予測値を計算し 実測値と異なれば 混合性を疑う 予測値の計算式 呼吸性代償は即座に起こる ( 数時間 ) 代謝性 acidosisのとき 呼吸性代償 PaCO 2 = HCO 3 + 15 代謝性 alkalosisのとき 呼吸性代償 PaCO 2 = HCO 3 + 15 ベッドサイドで便利 J Crit Care. 2013; 28: 1103. 低酸素血症では呼吸性代償は計算通りにはいかない 代謝性代償はゆっくり (2~5 日間 ) 急性呼吸性 acidosisのとき PaCO 2 が10 mmhg 上昇する毎に慢性急性呼吸性 alkalosisのとき PaCO 2 が10 mmhg 低下する毎に慢性 HCO 3 は1 mmol/l 上昇 HCO 3 は4~5 mmol/l 上昇 HCO 3 は2 mmol/l 減少 HCO 3 は4~5 mmol/l 減少

1 まずは病歴と身体所見から 2 原発性なのか二次性なのか 3 代謝性の中身 (Anion Gapの話 ) 4 代謝性が複数存在するかも? 5 それでも説明がつかないとき 6 呼吸性の中身 7 臨床所見と矛盾がないか

Step3 代謝性の中身 < 代謝性アシドーシス > anion gap が有用 [Na + ] [K + ] [Ca 2+ ] [Mg 2+ ] [H + ] [unmeasured ca0ons:umc] = [Cl ] [HCO 3 ] [CO 3 2 ] [OH ] albumin phosphate sulfate lactate [unmeasured anions:uma] anion gap(mmol/l) = [UMA] = [Na + ][Cl ][HCO 3 ] AG 正常値は色々ある Clin Chim Acta. 2001; 307: 3336. ここでは AG 10 以上で診断的意義があるとしている 3 タイプ考える 1High AG (2Nega0ve AG) 3Normal AG

1High AG [Na + ][Cl ][HCO 3 ] Lancet. 2008; 372: 892. GOLD MARRK G:glycols(ethylene and propylene) O:5oxoproline(pyroglutamic acid) L :Llactate D:Dlactate(shortbowel syndrome) M:methanol A:aspirin R:renal failure R:rhabdomyolysis K:ketoacidosis (GFR<20ml/min) Use of penicillinderivered an0bio0cs 半分が乳酸アシドーシス 有用なケース 糖尿病性ケトアシドーシスの診断 ケトーシスのフォロー 生食の大量投与による AG 正常のアシドーシスとの鑑別 飲酒歴がある場合アルコール性ケトアシドーシス ( この場合ケトン尿反応は陰性 ) 短腸症候群患者 (Dlactate) では 乳酸値 (Llactate) は正常な High AG アシドーシス ph が正常化しているかもしれない場合も有用嘔吐による代謝性アルカローシスの合併肝障害 妊娠 高熱 Sepsis による呼吸性アルカローシスの合併

Anion Gap 使用に関する注意 1 乳酸アシドーシスで AG の感度は高くない High AG 代謝性アシドーシスの半分は乳酸アシドーシス しかしAGの乳酸値上昇を予測する感度 特異度は80% 程度 1)BMC Emerg Med. 2008; 8: 18. 乳酸値が 3.0~5.0mmol/l であっても 半数は AG 正常範囲! 2) J Emerg Med. 2009; 36: 391394. 2AGはアルブミン濃度で補正する必要がある アルブミンはAG(unmeasured anions) の75% を占める 1)2) 3)Best Pract Res Clin Endocrinol Metab. 2003; 17: 559574. アルブミン濃度が1g/dl 低下する毎に AGの計算値は 2.3~2.5mmol/l 増加させなければならない 1)2) 3) AG 補正値 =AG 計算値 +2.5 [Alb 正常値 (g/dl)alb 測定値 (g/dl)]

(2Nega7ve AG) [Na + ] [Cl ][HCO 3 ] AG が低すぎる ( むしろマイナス ) 場合 = Na 以外の ca0on の増加による Cl 増加 高 Cl 血症 リチウム中毒 モノクローナル IgG 免疫グロブリン血症高 Ca 血症 高 Mg 血症 偽性高 Cl 血症 ブロマイド中毒 ヨード中毒

3Normal AG [Na + ][Cl ] [HCO 3 ] ( と が釣り合う ) 高 Cl 性アシドーシスと呼ばれることも HCO 3 の喪失 ( 下痢尿路変更 type2rta) 腎での酸の排泄増加 (type1rta:sjogren etctype4rta:hypoaldosteronism) 生食輸液 原因はいろいろ 原因が腎か腎以外かを鑑別するために 尿に注目 NH 4+ +Cl =NH 4 Cl( として尿中へ ) 高 Cl 性アシドーシスでは 正常腎では遠位尿細管からのアンモニウム排泄が増加するはず 尿中アンモニウム増加あり= 原因が腎ではない増加なし= 原因が腎 ( 遠位尿細管 ) 一般的には尿中アンモニウムを測定しないため 尿のAG や 尿浸透圧 gap で代用しよう

尿の AG 尿 AG = [Na + ]+[K + ][Cl ] 腎正常は尿 AG が nega0ve( ゼロ以下 ) 腎性は尿 AG が posi0ve そんな時に有用なのは 尿 AG を信頼できないとき : 多尿のとき 尿 ph が 6.5 以上のとき 尿中 NH4 + が Cl 以外 ( ケト酸 アセチルサリチル酸 Dlactate 大量のペニシリン ) と結合しているとき 尿 Na が 20mmol/l 以下のとき 尿浸透圧 gap ( 尿浸透圧の計算値と実測値の gap) (2 [Na + ]+2 [K + ])+UN/2.8+Glu/18 UN と Glu の単位は mg/dl mosm/l 40mmol/l 以下 : 尿へのアンモニウムの排泄障害信用できないとき : 非遊離酸が大量のとき

Step3 代謝性の中身 < 代謝性アルカローシス > 主な原因は 胃液の喪失利尿薬 ( ループ サイアザイド系 ) など 治療方針決定のために 分類は尿中 Cl 濃度に基づいて行う 尿中 Cl 低い 25mmo/l 以下 (Cl 感受性 ) 尿中 Cl 高い 40mmol/l 以上 (Cl 抵抗性 ) 胃液の喪失 Cl の喪失 腎での HCO 3 再吸収 up Hypovolemia RAA 系亢進 Na + HCO 3 Cl の再吸収 up 腎から Cl だだもれ ( 重症低 K Barher Gitelman 重症高 Ca 重症低 Mg が原因 ) 治療 : 生食輸液 (volume と Cl 補充 ) 原疾患の治療 例外 : 利尿薬による場合 尿中 Cl は初期は増加するが 徐々に減少し 最終的には 25 以下となる

Step4 代謝性の異常が複数あるか High AG アシドーシスに他の代謝性の要因がないか AG の増加分と HCO 3 の減少分は相関するはず ΔAG Δ[HCO 3 ] ( デルタデルタ ) ΔAG=(AG 12) Δ HCO 3 =(HCO 3 24) もとの AG 値や HCO 3 値によらず正確といえる ケトアシドーシスと乳酸アシドーシスでは計算が異なるので注意 ケトアシドーシス 乳酸アシドーシス ΔAG:Δ[HCO 3 ] = 1:1 (AG が 1 上昇ごとに [HCO 3 ] が 1 減少する ) ΔAG:Δ[HCO 3 ] = 1:0.6 (AG が 1 上昇ごとに [HCO 3 ] が 0.6 減少する ) ΔAG Δ[HCO 3 ] 0.6 ΔAG Δ[HCO 3 ] 0±5: 混在なし 5 以上 : HCO 3 が ΔAG に比して減少が少ない つまり代謝性アルカローシスが混在 5 以下 : HCO 3 が ΔAG に比して減少が多い つまり normalag 代謝性アシドーシスが混在 痙攣後や運動直後の乳酸アシドーシスの場合は 1:1

Step5 それでも説明がつかないとき それでも説明がつかない高い AG がある場合 昏睡 アルコール ( 毒物 ) 摂取の疑いがある場合 プロピレングリコール ( ロラゼパム ) 中毒の疑いのある場合 血漿浸透圧の予測値と 実測値の gap をみる ( 浸透圧 gap) 浸透圧 =2 [Na + ] + UN/2.8 + Glu/18 Gap が 10 以下 (10 から 10 mosm/l) が正常 ü アルコール中毒などでは上昇する 初期に異常値となるので有用 ちなみに 3.7 をかけるとエタノール摂取量 (mg/dl) になる 感度 特異度は高くない 正常範囲が広い エチレングリコールやメタノールなど少量でも毒性の強いとき過小評価になる 乳酸アシドーシス 糖尿病性ケトアシドーシスでも若干陽性になってしまう

1 まずは病歴と身体所見から 2 原発性なのか二次性なのか 3 代謝性の中身 (Anion Gapの話 ) 4 代謝性が複数存在するかも? 5 それでも説明がつかないとき 6 呼吸性の中身 7 臨床所見と矛盾がないか

Step6 呼吸性の中身 呼吸性の異常がある場合は 以下も check 急性か慢性か Ⅰ 型か Ⅱ 型か AaDO 2 (alveolararterial oxygen difference) =FiO 2 ( 大気圧 水蒸気圧 )PaO 2 (PaCO 2 ガス交換率 ) =FiO 2 (760 47) PaO 2 (PaCO 2 0.8) =FiO 2 713 PaO 2 1.25 PaCO 2 (37 として ) Ø 510mmHg(young) 1520mmHg(elderly) Ø Age/4 + 4 呼吸性アルカローシスの場合は重症基礎疾患がベースにある場合があるので注意

Step7 矛盾する所見はないか 以上のステップと臨床所見を照らし合わせて評価する 段階を踏んで病態を理解するこの方法は有用であるが 診断の助けになるその他の情報も常に check するべきである ( 例 : エチレングリコール中毒での乳酸 gap や 一酸化炭素中毒 / メトヘモグロビン血症 / 青酸カリ中毒での酸素飽和度 gap など )

Stewart Approach NEJM. 2014; 371: 182131.

Stewart が着目したもの Strong ion (fully dissociated) Weak Acid (not fully dissociated) Strong ca0ons: Na + K + Mg 2+ Ca 2+ Strong anions: Cl lactate sulfate ketones etc SID= Na + +K + +Mg 2+ +Ca 2+ Cl Lac Stewart オリジナルでは SID=Na + Cl だったが 血ガス装置で測定できるようになり 現在では K + Mg 2+ Ca 2+ だけでなく Lac も含めている その場合の SID 正常値 :38~44 meq/l( 文献により前後 ) albumin phosphate globulin A TOT = Alb +Pi 一. 全ての水溶液は電気的に中性である二. 全ての水溶液中の物質は保存される三. 電解質は容易に電離する

[HCO 3 ] は結果にすぎない [H + ] や [HCO 3 ] は水の電離状態によって容易に変化する (=dependent variable ) Independent variables 1PaCO 2 2SID 3A TOT 影響 dependent variables 緩衝系 HCO 3 CO 3 2 OH H +

シンプルに図で考えていく! 全ての溶液は電気的に中性である ( 陽イオン = 陰イオン ) 140 100 Mg 2+ Ca 2+ K + UMA HCO 3 Pi Alb Lac SID A TOT Na + Cl

シンプルに図で考えていく! 全ての溶液は電気的に中性である ( 陽イオン = 陰イオン ) SID = [Na + ]+[K + ]+[Mg 2+ ]+[Ca 2+ ] [Cl ][Lac ] Mg 2+ Ca 2+ K + Na + UMA HCO 3 Pi Alb Lac SID A TOT Cl

シンプルに図で考えていく! 全ての溶液は電気的に中性である ( 陽イオン = 陰イオン ) SID = [Na + ]+[K + ]+[Mg 2+ ]+[Ca 2+ ] [Cl ][Lac ] Mg 2+ Ca 2+ K + Na + UMA HCO 3 Pi Alb Lac SID A TOT Cl

SIDa と SIDe の間のわずかな差を strong ion gap(sig) とし これにより測定できない陰イオン (unmeasured anion:uma) の総量が計算される 2) Mg 2+ Ca 2+ K + SIDe UMA HCO 3 Pi Alb Lac SIG SIDa A TOT UMA:unmeasured anion ( 硫酸 ケトン サリチル酸 ) Na + Cl

SIDa と SIDe の間のわずかな差を strong ion gap(sig) とし これにより測定できない陰イオン (unmeasured anion:uma) の総量が計算される SIG = SIDa-SIDe = UMA SIDe は Pi も Alb も定量化されているので (1) 計算が可能 Mg 2+ Ca 2+ K + SIDe UMA HCO 3 Pi Alb Lac SIG SIDa A TOT UMA:unmeasured anion ( 硫酸 ケトン サリチル酸 ) Na + Cl [Pi ](meq/l) = 10/30.97 [P](mg/dl) (0.309 ph0.469) [Alb ](meq/l) = 10 [Alb](g/dl) (0.123 ph 0.631) 1)Figge J, et al. J Lab Clin Med.1991; 117: 45367.

SIDa と SIDe の間のわずかな差を strong ion gap(sig) とし これにより測定できない陰イオン (unmeasured anion:uma) の総量が計算される SIG = SIDa-SIDe = UMA SIDe は Pi も Alb も定量化されているので (1) 計算可能 Mg 2+ Ca 2+ K + SIDe UMA HCO 3 Pi Alb Lac SIG SIDa A TOT UMA:unmeasured anion ( 硫酸 ケトン サリチル酸 ) 最終的にこれらの Strong ion や A TOT の増減の結果 HCO 3 が変化する Na + Cl [Pi ](meq/l) = 10/30.97 [P](mg/dl) (0.309 ph0.469) [Alb ](meq/l) = 10 [Alb](g/dl) (0.123 ph 0.631) 1)Figge J, et al. J Lab Clin Med.1991; 117: 45367.

SID 増加 : アルカローシス SID 減少 : アシドーシス

乳酸増加でアシドーシス 低アルブミン血症でアルカローシス ICU 患者ではアシドーシスがカバーされやすい

Case 1 vomit 31 歳女性 胃腸炎で 2 日前から嘔吐 衰弱している ph 7.54 PaCO 2 48 HCO 3 40 Na + 125 K + 2.6 Cl 72 ICU での胃管からの吸引も同様 呼吸性代償予測 PaCO 2 =HCO 3 +15 40+15=55 実際 48 過換気状態かな? 薬局 2014.vol65(6)

Case 2 saline 22 歳女性 事故による外傷で 6L の生食を輸液された ph 7.28 PaCO 2 39 HCO 3 18 Na + 135 K + 3.8 Cl 115 呼吸性代償 :18+15=33 予測値より代償できていない 実は肋骨骨折もあった! NEJM. 2014; 371: 143445.

SID40 未満の輸液製剤は輸液すればするほど SID は低下しアシドーシスへ Cl の上昇が相対的に問題となる製剤 ( 生食や多くの外液 ) + Na の減少が相対的に問題となる製剤 ( マンニトールなど ) +

メイロン :NaHCO 3 Stewart では HCO 3 を投与 ではなく Na + を投与 する結果 HCO 3 が増加してくれる 生食輸液によるアシドーシスのケースではメイロンが必要か? 輸液の大量負荷がなくなればおのずと改善するはずなので必要ではない アシデミアが強いケースや 依然として輸液負荷が必要な症例では考慮しよう!

Case 3 AKI 急性腎障害 (AKI) の患者に透析を行った 透析前透析後 ph 7.30 7.4 PaCO 2 38 39 HCO 3 18.9 24.8 Na + 139 137 K + 4.7 4.0 Cl 102 99 Lac 3.7 3.2 Alb 2.3 2.3 P(mmol/ L) 2.1 1.4 SID 42.0 42.8 SIG 13.4 8.8 P UMA の増加により代謝性アシドーシスに UMA P の除去が代謝性アシドーシスを改善させる

Case 4 ARDS 75 歳男性 数日前からの呼吸苦で来院 肺炎の診断にて病棟にて管理されていたが 数時間前から呼吸状態の増悪を認め 意識レベルも低下している ICU 入室前の血ガス分析の結果が以下 ph 7.26 PaCO 2 115 HCO 3 44 Na + 139 K + 3.5 Cl 87 Lac 1.1 Alb 2.1 P(mmol/L) 0.8 高二酸化炭素血症を低 Cl と低 Alb で代償している

Case 5 SEPSIS Sep0c shockによるlac 増加 AKIをきたしてリン酸と不揮発酸の排泄低下によるP 増加 UMA 増加 大量の輸液などによるCl 増加 肝臓でのタンパク合成低下 異化亢進 血管透過性亢進によるAlb 低下

まとめ Tradi7onal Approach より臨床的 既往歴や原疾患から鑑別していくことで 原因不明の酸塩基平衡の障害を診断可能 Anion gap はアルブミンと乳酸の問題があり 集中治療領域では適切な補正なしには理解が難しい 例外や注意事項が多い Stewart Approach 複雑な重症患者でも理解可能 定量的に酸塩基平衡を把握することができる それにより適切な治療が行える 詳細な評価のためには多くの計測値が必要 原因不明の酸塩基平衡の障害を診断はできない あくまでも病態を確認するというかたち

私見 Stewart Approach は Tradi0onal Approach を否定するものではなく 同じ現象を違った見方をすることで違った解釈をするということであった しかし従来 Anion gap の考え方では理解に苦しんでいた病態も Stewart Approach を用いることで簡単に理解できることもある 複雑で重症な ICU 患者では Stewart Approach は有用 一生懸命病態を説明しようとする Tradi0onal Approach より Stewart Approach でどう対処すべきか理解できる方が 実はより 臨床的 かもしれない