エコーによる肺病変の診断 慈恵 ICU 勉強会
はじめに 重症患者の肺の評価は, gold standard として胸部 X-P もしくは胸部 CT で行われることが多い しかし放射線被曝, 重症患者のレントゲン室, CT 室への移動に伴う危険性などのリスクも伴っている Chest 2011; 140; 1332-1341 現在 ICU の重症患者における肺病変評価に対して肺エコー施行の機会が増えている
1 肺エコー有用性の case report 肺エコーによる術中発症の気胸の診断 (Anesthesiology, 2011; 115:653-5) 2 肺エコーの使用方法,key findings (Chest 2011; 140; 1332-1341) 3 ARDS 患者管理における肺エコー (Critical care 2011, 15:R185) 4 肺エコー VS 胸部 X-P 4-1 気胸の診断においての比較 (Chest 2011; 140;859-866) 4-2 肺病変の病理学的異常所見においての比較 :Consolidation, 間質性病変, 気胸, 胸水 (Intensive Care Med 2011 37:1488-1493)
1 肺エコー有用性の Case report ( 術中発症の気胸の診断 )
<Case report1> 67 歳男性食道裂孔ヘルニア腹腔下ヘルニア修復術閉創中に SpO2 100% 90% に低下聴診で右肺音低下あり気管チューブ内に喀痰などの上気道閉塞なし肺エコー施行 : 右肺野で lung sliding なし 気胸の診断肺エコー施行時間は 2 分以内であった 肺エコーにて迅速に気胸を診断できた症例 Anesthesiology, 2011; 115:653-5
<Case report2> 58 歳男性統合失調症 ビルの 2 階から飛び降り自殺を図り救急搬送 下行大動脈解離の診断で緊急手術施行 麻酔導入 5 分後 SpO2 80% 台に低下 FiO2 100% にするも酸素化改善せず 聴診にて左肺野音低下認め肺エコー施行 エコー上 Lung sliding なし 気胸の診断 酸素化悪く呼吸状態安定しないため左第 2 肋間中腋窩線上に 14G 針穿刺 SpO2 100% に回復 その後術中エベントなく終了 手術室にて気胸を迅速に診断し治療できた症例 Anesthesiology, 2011; 115:653-5
2 肺エコーの使用方法,key findings
Ultrasonograph scan lines. Koenig S J et al. Chest 2011;140:1332-1341 2011 by American College of Chest Physicians
Alveolar consolidation as ultrasound window to mediastinal structures. Koenig S J et al. Chest 2011;140:1332-1341 consolidation 2011 by American College of Chest Physicians
Normal pleural line. Koenig S J et al. Chest 2011;140:1332-1341 2011 by American College of Chest Physicians 胸膜 Lung sliding(-)= 気胸の診断
Normal aeration pattern with A-lines. Koenig S J et al. Chest 2011;140:1332-1341 2011 by American College of Chest Physicians A-line: 通常の換気肺でみられる多重反射像
B-lines. Koenig S J et al. Chest 2011;140:1332-1341 2011 by American College of Chest Physicians B-line(comet tail artifact) : 間質性病変もしくは肺胞性病変
Alveolar consolidation with pleural effusion. Koenig S J et al. Chest 2011;140:1332-1341 2011 by American College of Chest Physicians Consolidation, 胸水
Lung mass. 2011 by American College of Chest Physicians Koenig S J et al. Chest 2011;140:1332-1341 肺腫瘍 : hypoechoic で換気肺に囲まれている像
Lung abscess. Koenig S J et al. Chest 2011;140:1332-1341 肺膿瘍 : エコー輝度が不均一 2011 by American College of Chest Physicians
Small pleural effusion with atelectasis and comet-tail artifact. Koenig S J et al. Chest 2011;140:1332-1341 2011 by American College of Chest Physicians 胸水, 無気肺
Complex septated pleural effusion. Koenig S J et al. Chest 2011;140:1332-1341 2011 by American College of Chest Physicians 胸水の内部に中隔像 (+): 滲出性胸水
Simple anechoic pleural effusion. Koenig S J et al. Chest 2011;140:1332-1341 2011 by American College of Chest Physicians 内部が均一に anechoic: 漏出性胸水
Large pleural effusion with evidence of diaphragmatic pleural metastasis. 多量の胸水と横隔膜上病変 Koenig S J et al. Chest 2011;140:1332-1341 2011 by American College of Chest Physicians
Frozen image of diaphragm with arrows indicating caudad and cephalad direction. Koenig S J et al. Chest 2011;140:1332-1341 2011 by American College of Chest Physicians 呼吸に伴う横隔膜の動きの確認
3 ARDS 患者管理における肺エコー
デザイン : 前向き観察研究 (@1 st Critical Care Medicine Department, Evaggelismos Hospital, Athens, Greece) 期間 :2009 年 9 月 ~2010 年 4 月 対象 ICU にて 2 日以上人工呼吸管理の ARDS 患者 (N=10) Critical care 2011, 15:R185
放射線科医師がエコーを施行 < 方法 > PEEP5,10,15cmH 2 O と設定を上げていく それぞれ 20 分後に観察し非換気エリアの面積変化と血ガスを測定 人工呼吸器の設定 :A/C tidal Volume6~8/ml/Kg FiO2 0.6~1.0(SpO2 90% 以上キープ ) 右後腋窩中線上の肋間で観察 エコー施行者は PEEP 設定, 血ガス結果は知らされない Critical care 2011, 15:R185
PEEP5cmH 2 O 10cm H 2 O 15cmH 2 O Critical care 2011, 15:R185
< 結果 > PEEP を 5,10,15cmH 2 O とあげることで非換気アリアの面積減少を肺エコーにて定量可能 非換気エリアの減少に伴って PaO2 改善あり ARDS 患者における PEEP-induced lung recruitment の定量化に肺エコーは有用である <Limitations> エコーの結果は施行者の熟練度に関与される 右肺の一部でしか評価しておらず, 肺野全体の評価ではない N が少ないため, 今後さらなる研究が必要 Critical care 2011, 15:R185
3 肺エコー VS 胸部 X-P
4-1 気胸の診断においての比較 デザイン : メタアナリシス 対象 :2010 年 10 月までの英語論文 N=20 条件 1エコー, 胸部 X-Pにて気胸の評価を行っている 2 気胸の診断根拠となる異常所見の表記がある 3 統計の分割表 ( 陽性, 偽陽性, 陰性, 偽陰性 ) Chest 2011; 140;859-866
< 各論文の特徴 > Chest 2011; 140;859-866
< 結果 > 感度 エコー (0.88) 胸部 X-P(0.52) エコーの方が感度が高い Chest 2011; 140;859-866
特異度 エコー (0.99) 胸部 X-P(1.00) 特異度の有意差なし Chest 2011; 140;859-866
< 不均一性の原因について検証 > デザイン ( 前向き研究 vs 後ろ向き研究 ) 疾患の種類 盲検か否か エコーの診断基準の相違 オペレーター この中でオペレーターの差が気胸診断の正診率に関与していた (relative DOR 0.21:95%CI, 0.05-0.96; P=0.0455) Chest 2011; 140;859-866
< 結果のまとめ > ベッドサイドにおける気胸の診断について, エコーの方が胸部 X-P よりも感度が高いが, 特異度に有意差はない エコー施行者の腕によって結果に差が出る <Limitations> 皮下気腫, 胸膜癒着, 胸部手術術後, 石灰化胸膜, 皮膚損傷の患者には肺エコーは適していない COPD 患者も気胸に似たエコーサインを呈することがあり注意が必要 Chest 2011; 140;859-866
4-2 肺病理学的異常所見においての比較 対象 :surgical ICU (@Department of Intensive Care Medicine, University Hospital of Heraklion, Crete, Greece) CT 施行が予定されている人工呼吸器管理患者 N= 42 デザイン : 前向き観察研究 方法 :CT 施行前に胸部 X-P とエコーを施行 陽性 陰性の結果を CT の結果と比較 胸部 X-P は放射線科医が評価エコーは 1 人の ICU 医師が施行それぞれ 4 つの病理学的所見について全肺野で評価 :Consolidation, 間質性病変, 気胸, 胸水 Intensive Care Med 2011 37:1488-1493
< 患者の特徴 > Intensive Care Med 2011 37:1488-1493
< 結果 > 間質性病変, 胸水ではエコーの方が感度, 特異度, 正診率ともに高い Consolidation, 気胸に関しては感度, 正診率は肺エコー高いが, 特異度は胸部 X-P の方が高い ICU のベッドサイドにおける肺病変の診断には胸部 X-P よりも肺エコーが有用 Intensive Care Med 2011 37:1488-1493
< 文献の考察 > 2 3 4 1 4 2 サンプリング方法 - :N が少ない :N が少ない データ収集方法 - データ分析 - 研究のパートナーシップ (IC 有無 ) - 研究の知見 - データ解釈の正当性 - 応用可能性 妥当性と有用性 : 適切, 記載あり : 不適切, 記載なし : 記載あるが十分ではない -: 判定不能
< まとめ > ICU, 手術室における肺エコーは被曝のリスクがないこと, 簡便であること, 移動可能であることから胸部 X-P よりも有用である 肺病変の診断として, 肺エコーは胸部 X-P よりも感度が高く, 特異度は胸部 X-P と同等である 肺エコーは施行者の経験値, 理解度により結果が異なるため注意を要する 診断基準のエコーサインを理解する必要がある N が少ない研究が多く今後の検証が必要である