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救急外来患者で qsofa は院内死亡を予測するか? Sepsis-3 の ED での応用 Journal Club 2017/04/04 聖マリアンナ医科大学病院救急医学 PGY5 福田俊輔

Sepsis Sepsis は 崩壊 や 腐敗 を意味するギリシャ語の septikos を語源とし 古くより多臓器不全や生体異化を想起させる用語である 本邦では 敗血症がこれと同義として用いられてきた Sepsis は 血液中に微生物が検出される 菌血症 の定義に始まり 全身性炎症や臓器障害と関連して 国際的には 3 度の定義と診断基準の変更が行われてきた 日本集中治療学会編 : 日本版敗血症診療ガイドライン 2016

1992 年 Sepsis-1 米国集中治療医学界 米国胸部疾患学会による全身性炎症反応症候群 (systemic inflammaoty response syndrome,sirs) を導く感染症 Crit Care Med 1992;20:864 診断特異度を高める 2003 年 Sepsis-2 感染に起因する全身症状を伴った症候 ( 全 24 項目 ) Crit Care Med 2003;31:1250-6 全身性炎症ではなく臓器障害そのものの進展に着眼 2016 年 Sepsis-3 診断特異度は Sepsis1 と sepsis2 で変化なし Life-threatening organ dysfunction caused by a dysregulated host response to infection 感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態 感染症もしくは感染症の疑い + SOFA スコア合計 2 点以上の上昇 (ICU などの重症管理 ) 敗血症 qsofa2 項目以上 ( 病院前救護 救急外来 一般病棟 ) 敗血症疑い ( スクリーニング ) JAMA 2016;315:801 日本集中治療学会編 : 日本版敗血症診療ガイドライン 2016

Sepsis-1 SIRS 2 項目 + 感染症が疑われる状態 日本集中治療学会編 : 日本版敗血症診療ガイドライン 2016

SIRS の問題点 SIRS 基準は 敗血症における制御不能に陥った致命的状態を示すものではなく 多くの入院患者で陽性となること さらに感染症を併発しない患者や良好な転帰をとる患者が多く含まれている Am J Respir Crit Care Med 2015;192:958 N Engl J Med 2015;372:1629 感染症による臓器不全として管理した集中治療患者において 12.1% はSIRS 基準を満たしていない N Engl J Med 2015;372:1629

Severe sepsis 患者における SIRS の数と死亡率の関係 しかし 12.1% の患者は SIRS の 2 項目を満たしていない 8 人に 1 人の患者の見逃し N Engl J Med 2015;372:1629-38. 47% の一般病棟患者が 入院中一度はSIRS クライテリアを満たす 実際にSIRSを使用するのは非実用的 Am J Respir Crit Care Med 2015; 192:958-964

Sepsis-2 感染症の確定もしくは疑い + 全身症状に伴う項目を満たす 診断精度は Sepsis1 と sepsis2 で変化なし項目が多く使いにくく cut-off 値の根拠が不明いくつ満たせばよいのかは言及なし 日本集中治療学会編 : 日本版敗血症診療ガイドライン 2016

Sepsis-3 日本集中治療学会編 : 日本版敗血症診療ガイドライン 2016

SOFA スコア 日本集中治療学会編 : 日本版敗血症診療ガイドライン 2016

qsofa スコア ICU 以外での評価 日本集中治療学会編 : 日本版敗血症診療ガイドライン 2016

Sepsis と Septic shock の診断の流れ 日本集中治療学会編 : 日本版敗血症診療ガイドライン 2016

そもそもなぜ qsofa SOFA??

Sepsis-3 life-threatening organ dysfunction due to a dysregulated host response to infection JAMA.2016;315(8):762 敗血症診断の gold standard の検査はなく 診断のための基準が必要

目的 : 敗血症の可能性がある感染症が疑われる患者を同定するための基準を評価 対象 :18 歳以上の感染症が疑われる成人患者 (2010 2012 年の 12 病院における 130 万件の電子カルテより 感染症を疑う 148907 例を抽出 ) 評価項目 :SOFA score, SIRS criteria, LODS score, qsofa score アウトカム : 敗血症の予測妥当性として Primary 院内死亡 Secondary 院内死亡または ICU 滞在日数 JAMA.2016;315(8):762

ICU 患者 :SOFA LODS が SIRS qsofa に比べ有意に優れている LODS は SOFA よりも複雑 ICU 外 :qsofa LODS が SOFA SIRS よりも有意に優れている LODS は複雑 qsofa を ICU 外における sepsis を疑う基準として推奨 SOFA を ICU における Sepsis の基準として推奨 JAMA.2016;315(8):762

しかしながら 前向き研究での妥当性の検討や救急外来に特化した検証はされて来なかった ED での外的妥当性が必要 qsofa の検証

今回の論文

JAMA.2017;317:301 救急外来における qsofa の前向き妥当性の検討 Sepsis-3 criteria のパフォーマンスの検討

方法

研究デザイン International multicenter prospective cohort study 場所 :30 病院 ( フランス :27 スイス :1 スペイン :1 ベルギー :1) 対象 :2016 年 5 月 6 月の 1 ヶ月に ED を受診した臨床的に感染症が疑われた患者

ER 担当医が臨床的に感染症を疑う患者 ( 感染巣が同定 or 不確かな主訴 ) All included Follow up Follow up 終了条件死亡 or 退院 各施設の 2 人の専門家が患者記録を評価主訴が感染症に関連するか判断 ( 画像検査 細菌検査 臨床経過により ) 不一致の場合は 2 人で協議 ER 医が qsofa に必要な情報を ER 滞在中の最も悪い値で評価 ( 呼吸数 収縮期血圧 GCS) 敗血症の重症度を評価 以前の定義を用いて ( 乳酸 +SIRS 項目 ) SOFA score を用いて 除外患者 感染症が確認できない 参加拒否 妊婦 受刑者 拘留中の患者 全身症状がなく vital sign が正常な局所感染症の患者 ( 検査が必要ない )

Primary End point 院内死亡 1. お互いに盲検された 2 人の専門家によって判断 2. 不一致の際には 2 人の専門家間で協議 3. 28 日後も入院継続し ICU の外にいる患者は end point には含めなかった

Secondary End point ICU 入室 72 時間以上のICU 滞在時間 累積死亡 72 時間以上のICU 滞在

統計解析 正規分布数する変数は mean(sd) で表現 非正規分布する変数は median(q1-q3 IQR) で表現 カテゴリー変数は数字と割合 (%) で表現 SOFA スコアで得られなかった値は 基準値内であるとした

統計解析 Primary end point を予測するための qsofa の評価のために qsofa2 点以上に対しての感度 特異度 陰性的中率 陽性的中率を計算 ROC カーブ及び AUROC を計算 qsofa と SIRS の院内死亡の HRs は測定された交絡因子で調整されたあとに Cox の比例ハザードモデルで推定され Harrell C coefficient で評価された Inclusion criteria と primary end point が妥当か評価するため これらを判断する 2 人の盲検された専門家の判定者内一致は Cohen k 係数を用いて達成された

サンプルサイズ Sepsis-3 の論文の結果を立証するため qsofa score2 点以上の患者は少なくとも 10% の院内死亡率を持つという仮説を確認することを目的とした この数値は SOFA score が 2 点の感染症患者の全死亡率と一致する このため 死亡率 10% の差を sepsis-3 consensus statement では臨床的に有意とみなした

サンプルサイズ 推定の全死亡率が3% とすると inclusionされた患者の80% はqSOFA scoreが2 点未満であると想定され power set 90% 必要サンプル数は840 と計算された 全ての統計分析は両側検定であり P 値 <0.5を統計学的に有意とした 全ての統計分析はNCSS 1.0を使用した

879 名が最終解析された 260 名の患者で SOFA の構成要素は測定されなかった 76% の患者で感染源は判明した 実際の死亡率 8.4%

結果

年齢の中央値は 67 歳 (IQR, 48-81) 感染巣は呼吸器が最も多い (43%)

qsofa 2 点 :25% SOFA 2 点 :34% SIRS 2 点 :74% Severe sepsis:20% 感染症診断の判定者内一致 :Cohen k 0,87(95%CI, 0.81-0.93)

全死亡率は 8% qsofa<2 点 vs qsofa 2 点 :3%(2-5) VS 24%(18-30) Primary end point に対する判定者内一致は Cohen k 0.99(0.96-1.0)

院内死亡予測に対する AUROC curve qsofa 0.80;0.74-0.85 SOFA 0.77;0.71-0.82 SIRS 0.65;0.59-0.70 Severe sepsis 0.65;0.59-0.70 SIRS と severe sepsis に対する qsofa の Incremental AUROC は 0.15(0.09-0.22) 乳酸 0.70;0.63-0.77 qsofa+ 乳酸で変化なし (0.80;0.75-0.85)

Discussions

本研究は 879 名の感染症を疑う ED 患者を用いた sepsis-3 の定義 ( 特に qsofa) の前向き検討試験である qsofa の院内死亡に対する AUROC は 0.80 であり SIRS や severe sepsis と比べ優れていた この結果は sepsis 3 task force が報告した非 ICU 患者への qsofa の AUROC 0.81 と同様 近年の 2 つの retrospective study も qsofa の死亡と ICU 入室の予測が優れていることを示している

qsofa vs. SIRS SIRS 2 の死亡率は 11% であり 高い感度 93% と低い特異度 27% を示した 約 75% の患者が SIRS 2 であったが 生命を脅かす臓器障害を持ったものはごく僅かだった 過去の研究でも ICU 入室患者の 68-93% が SIRS 2 とされ SIRS 2 は臓器不全の区別には不十分であると思われる

qsofa<2 患者は死亡率が低く 重症患者を見逃すリスクがなく SIRS の代用として重要である さらに SIRS と qsofa では死亡予測や 72 時間以上の ICU 滞在に対する偽陰性率に違いはなかった (7%;4-10%)(9%;7-11%) Sepsis の定義では qsofa は SIRS の代用を意図されていないが sepsis の早期発見に役立つと考えられる SOFA 2 がなくとも ED で感染症があり qsofa 2 の患者は sepsis と見なすことを支持する

qsofa と乳酸 乳酸は sepsis 患者で予後不良と関連していることが知られているが 本研究では qsofa への高乳酸血症の付加価値はなく Sepsis-3 tack force の結果と同様であった ED 患者の sepsis の重症度は乳酸を用い判断されてきたため 本研究結果が今後臨床アプローチを大きく変える可能性がある

Limitation 1 退院時までフォローアップはしておらず 院内死亡 にのみ着目した (Sepsis-3 の primary end point が院内死亡のため ) 退院した患者が再入院したり 28 日以内に死亡した可能性はある 2 qsofa は ED 滞在中の最も悪い数値が用いられたため qsofa は高めに偏ったと考えられる qsofa は短い時間で変化するため 病院到着時の sepsis には応用できない (ex. ナーストリアージ ) ED 到着時に特化した研究が今後必要になる

3 検査結果に関して得られない情報が相当量あったた め SOFA の計算は正しくない可能性がある 同様に SIRS 2 の患者の 3 分の 1 は乳酸測定がされておらず severe sepsis の分類に影響が出ていると思われる 4 DNAR 患者や治療に制限のある患者を除外しておらず 死亡率 に影響している 5 この研究は十分なサンプルパワーがあるが Primary end point を 満たす症例は実質 74 名しかいなかった 6 判定を行った専門家は各種 score に盲検ではなく ED 来院の主訴が感染 症に由来するかの判断に影響しているかもしれない ( 組込みバイアス )

Conclusions 感染症を疑う ED 患者において qsofa の使用することによって SIRS や severe sepsis よりも院内死亡をより正確に予測することができる これらの結果は sepsis-3 criteria を ED において使用することを支持する

総括 非 ICU セッティングでは qsofa の使用が推奨されているが 本研究により ED でも qsofa が有用であることの前向き妥当性が示された 今後 qsofa のさらなる検証のため ED だけでなく 一般病棟を含めた qsofa を用いた前向き研究が待たれる