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3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

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ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

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あった AUCtはで ± ng hr/ml で ± ng hr/ml であった 2. バイオアベイラビリティの比較およびの薬物動態パラメータにおける分散分析の結果を Table 4 に示した また 得られた AUCtおよび Cmaxについてとの対数値

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要旨 平成 30 年 2 月 21 日新潟県福祉保健部 インターフェロンフリー治療に係る診断書を作成する際の注意事項 インターフェロンフリー治療の助成対象は HCV-RNA 陽性の C 型慢性肝炎又は Child-Pugh 分類 A の C 型代償性肝硬変で 肝がんの合併のない患者です 助成対象とな

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ン病 虚血性視神経症など 4. 治療法続発性の APS では 原疾患に対する治療とともに抗凝固療法を行う 原発性の場合には抗凝固療法が主体となる 抗凝固療法は 抗血小板剤 ( 低容量アスピリン 塩酸チクロピジン ジピリダモール シロスタゾール PG 製剤など ) 抗凝固剤( ヘパリン ワルファリンな

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

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背部痛などがあげられる 詳細な問診が大切で 臨床症状を確認し 高い確率で病気を診断できる 一方 全く症状を伴わない無症候性血尿では 無症候性顕微鏡的血尿は 放置しても問題のないことが多いが 無症候性肉眼的血尿では 重大な病気である可能性がある 特に 50 歳以上の方の場合は 膀胱がんの可能性があり

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肝硬変の門脈血栓症の治療 Management of portal vein thrombosis in liver cirrhosis Nat Rev Gastroenterol Hepatol. 2014 ;11:435 46 要旨 門脈血栓症は, 肝硬変によく認められる合併症である. 門脈が血栓によって閉塞すると, 肝硬変患者の予後が悪化する危険性があり, 重大である. 門脈血栓症のない肝硬変患者に抗凝固療法を行うと, 門脈血栓症の発生を防止することができることが, ランダム化比較試験によって示された. 門脈血栓症を起こした肝硬変患者に抗凝固療法を行うと, 門脈を再疎通させることができることも, いくつかの症例研究で示された. 早期に抗凝固療法を開始した患者や, 以前に門脈圧亢進症性の消化管出血を起こしたことがない患者は, 抗凝固療法による門脈の再開通率が高い. しかし, 部分的な門脈血栓症では自然に血栓が消失することもあるため, この場合, 本当に抗凝固療法が必要なのか, 判っていない. 一方で, 完全閉塞した門脈血栓症では, 抗凝固療法による再開通率はかなり低く, 有用性は限られる. 経頸静脈肝内門脈体循環シャント (TIPS) が成功すると, 血栓閉塞部が再開通して, 門脈圧亢進が軽減される. しかし,TIPS は技術的に難しく, 広く行われることはない. 手技のリスクとベネフィットは十分に勘案する必要がある. 肝硬変における門脈血栓症の治療に関する現在のガイドラインは, 質の高いエビデンスがないため, 不十分であることに注意を要する. はじめに 門脈血栓症を認めた肝硬変患者では, 全身性の血栓危険因子が高頻度に観察される. 第 V 因子ライデン変異, プロトロンビン G20210A 突然変異, メチレンレダクターゼ 1

C677T 変異, 線維素溶解の低下, 抗カルジオリピン抗体, ループスアンチコアグラントなど. 門脈血栓による閉塞は肝硬変の重症度の指標になり, 肝移植後の生存率に影響する. 以前に静脈瘤が出血したことがある肝硬変患者は, 門脈血栓症を起こすと予後が悪い. 門脈血栓症の予防 抗凝固療法は肝疾患の進行を遅らせる可能性を持つ. 肝硬変の非代償化と死亡率は, 非抗凝固療法群よりもエノキサパリン群で有意に低かった. 抗凝固療法に関係する出血性合併症は, 多くの試験で起きていない. 門脈血栓症の治療 1. 自然消退肝硬変患者の部分的な門脈血栓の 30 50% は, 自然に消失する可能性がある. 肝移植を待っている間に, 血栓が自然に消失したり, 血流が再開通することがある. また, 日本の単一施設の後ろ向き研究では, 肝硬変患者の門脈血栓の 47.6% で自然消失が観察された. 門脈が自然に再疎通することを予測できる特定の要因は判っていない. 血栓が自然に改善した患者では, 血栓が検出された時の最大の側副血管の直径と血流量がより大きかった. 側副血管が充分大きいかどうかは, 血栓症の治療の必要がない患者を識別することに使えるかもしれない. 上記を踏まえた上で, やはり門脈血栓症は治療することを推奨する. 血栓が上腸間膜静脈まで拡大して, その合併症が起きる可能性を回避することが重要である. 抗凝固療法, 全身および局所的な血栓溶解療法, 経皮的門脈再疎通治療, および TIPS が現在の選択肢である. 2

2. 抗凝固療法抗凝固療法は肝硬変患者の門脈血栓症に対する治療として, 安全かつ有効性であると示す症例研究がいくつかある ( 表 2). 抗凝固療法の合併症発生率は低く, 安全である ( 表 3). ほとんどの研究において, 抗凝固療法に関係した出血や他の重大合併症の報告がないことに注目すべきである. これは, 厳密な基準で患者を選択していることが関係している. 抗凝固療法を開始する前には, 内視鏡的静脈瘤結紮によって高リスクの静脈瘤を制御する必要がある. 抗凝固療法による門脈の再開通率は高く (42 100%), 血栓が拡大する可能性は低い (0 15%)( 図 2). ただし, こうした研究に参加した患者の大部分は, 部分的な門脈血栓症だったことに注意を要する. 完全に閉塞した血栓症や海綿状側副路の発達した患者における抗凝固剤の有効性は限られる可能性がある. 門脈血栓症を診断したら, 早期に抗凝固療法を開始したほうが, 門脈の再開通に有利なことが単変量解析で判明した. 以前に門脈圧亢進症による消化管出血がないことも, 門脈の再開通左右する重要な因子であった. こうした研究で使用された抗凝固剤は主に, 低分子ヘパリンとビタミン K 拮抗薬 ( ワーファリン ) の 2 つである. 未分画ヘパリン ( 通常のヘパリン ) ではなく低分子ヘパリンを使用する理由は, 出血性合併症とヘパリン誘発性血小板減少症の発生率が低いことである. 出血性合併症はすべて, ビタミン K 拮抗薬の単独治療を受けた患者で発生しており, 低分子ヘパリン単独や, 低分子ヘパリンに続いてビタミン K 拮抗薬に移行した患者では観察されなかったことが重要である. ビタミン K 拮抗薬の治療効果を監視する上で,INR は不正確なことに注意する必要がある. 肝硬変では凝固因子と抗凝固因子の両方の要因が減少し, 止血バランスが低いポイントに設定されている. しかし,INR は, 凝固促進因子の減少を反映していない. 3

表 1. 門脈血栓症を認めた肝硬変に治療をしない場合の転帰 ( 自然経過 ) 研究研究タイプ対象患者患者数診断手技経過観察自然再開通 or 改善血栓の進展なし 単施設 肝移植待機の肝硬変 超音波と 全患者 >6ヶ月 前向き 閉塞性の門脈血栓症 CT か MRI 単施設 肝硬変 + 門脈血栓症 超音波 平均 ± 標準偏差 後向き 65.2±39.6ヶ月 単施設 肝硬変, 肝細胞癌なし CT 平均 27 ヶ月 後向き 部分的な門脈血栓症 単施設 肝硬変 + 門脈血栓症 ドップラーと 平均 22.53ヶ月 前向き 閉塞性 4, 部分的 14, 海綿状側副路 3 CT 単施設 肝移植待機の肝硬変 ドップラーと 記載なし 後向き 部分的な門脈血栓症 CT か MRI 単施設 肝硬変 + 門脈血栓症 超音波 記載なし 肝細胞癌なし 表 2. 門脈血栓症を認めた肝硬変に対する抗凝固療法 研究研究タイプ対象患者患者数門脈血栓の特徴静脈瘤と静脈瘤破裂転帰 単施設 肝硬変 + 門脈血栓症 記載なし 記載なし 有効 前向き比較 ( 血栓の縮小 >50%)(n=26) 単施設 肝硬変 + 門脈血栓症 完全閉塞 (n=26), 部分 (n=15) 食道胃静脈瘤出血 完全消失 (n=5), 部分消失 (n=8), 後向き (n=11) 不変 (n=8) 単施設肝硬変 + 門脈血栓症記載なし大きな食道静脈瘤 (n=14) 完全消失 (n=11), 部分消失 (n=12), 後向き肝移植待機静脈瘤出血の既往 (n=0) 不変 (n=5), 血栓増大 (n=0) 単施設 肝硬変 + 門脈血栓症 完全閉塞 (n=7), 部分 (n=24) 静脈瘤の記載なし 完全消失 (n=12), 部分消失 (n=9), 前向き 海綿状側副血行路 (n=2) 静脈瘤出血の既往 (n=8) 不変 (n=7), 血栓増大 (n=5) <6 ヶ月 (n=19),6-12 ヶ月 (n=6), >12 ヶ月 (n=8) 多施設 肝硬変 + 門脈血栓症 完全閉塞 (n=14), 部分 (n=41) 静脈瘤の記載なし 完全消失 (n=25), 部分消失 (n=8), 後向き 海綿状側副血行路 (n=0) 静脈瘤出血の既往 (n=24) 無効 (n=22) 急性 or 亜急性 (n=31) 門脈と分枝 (n=25), 門脈と脾静脈 (n=2), 脾静脈 (n=1) 門脈と脾静脈と腸管膜静脈 (n=12), 腸管膜静脈 (n=2) 単施設 肝硬変 + 門脈血栓症 門脈主幹 (n=3), 門脈分枝 (n=1), 小さい食道静脈瘤 (n=1) 完全消失 (n=5) 前向き 脾静脈 (n=1) 中 / 大の食道静脈瘤 (n=4) RC+ の静脈瘤 (n=5) 静脈瘤出血の既往 (n=5) 単施設 肝硬変 + 慢性門脈血栓症 完全閉塞 (n=18), 部分 (n=10) 静脈瘤の記載なし 完全消失 (n=13), 部分消失 (n=5) 後向き 門脈と分枝 (n=19), 腸管膜静脈 (n=2) 門脈 / 脾静脈 / 腸管膜静脈 (n=7) 単施設 肝硬変 + 門脈血栓症 完全閉塞 (n=5), 部分 (n=23) 静脈瘤の記載なし 完全消失 (n=21), 部分消失 (n=2), 後向き 腸管膜静脈にも波及 (n=15) 静脈瘤出血の既往 (n=9) 不変 (n=3), 血栓増大 (n=1), 脾膜静脈にも波及 (n=5) 海綿状側副血行路の発生 (n=1) 単施設 肝硬変 + 門脈血栓症 完全閉塞 (n=3), 部分 (n=21) 静脈瘤の記載なし 再開通は完全閉塞 (0/3), 部分 (15/21) 前向き 肝移植待ち 再開通なしは完全閉塞 (3/3), 部分 (6/21) 単施設 肝硬変 + 門脈血栓症 完全閉塞 (n=1), 部分 (n=18) 静脈瘤 ;Grade 1(n=5) 完全消失は完全閉塞 (1/1), 部分 (7/18) 後向き 肝移植待機 新規血栓 (n=6) Grade 2(n=8),Grade 3(n=4) 不変 (n=10), 血栓増大 (n=1), 門脈主幹 (n=8) 静脈瘤出血の既往 (n=14) 右門脈 (n=9), 左門脈 (n=1) 4

表 3. 門脈血栓症に対する抗凝固療法の種類, 量と合併症研究抗凝固療法製剤の種類と量抗凝固療法の合併症 ダナパロイドナトリウム ( オルガラン )1250 単位を 2 回 / 日,14 日間. それにアンチトロンビン Ⅲ 製剤を任意に追加 (1500 単位,1-5 日目と 8-12 日目 ) 経口低分子ヘパリン Sulodexide2 錠 / 日 ワーファリン 1mg/ 日で開始 INR 2-3 に調製 adroparin 95 抗 -Xa 単位 /kg を 2 回 / 日 低分子ヘパリンかワーファリンで開始. 低分子ヘパリンはワーファリンに移行.INR 2-3 に調製. 低分子ヘパリン 75IU/Kg/ 日 膣出血 (n=1), 消化管出血はなし 鼻出血 (n=1), 血尿 (n=1), 脳出血 (n=1), ヘパリン誘発性血小板減少 (n=1) 関連する出血性合併症 (n=5) 低分子ヘパリン ( クレキサン ) 治療量を 15 日間. その後, 低分子ヘパリン予防量 (40mg/ 日 ) か Acenocoumarol( ワーファリン類似薬 ) を 6 ヶ月間. 低分子ヘパリン ( クレキサン )200 U/Kg/ 日を 6 ヶ月間. 出血性合併症 (n=0) 血小板の減少 (n=0) 記載なし 低分子ヘパリン (Nadroparin)5,700 IU/ 日で開始し, Acenocoumarol に移行し,INR >2.0 を維持. 抗凝固療法による門脈再開通 (%) 不変か血栓の増大完全ないし部分再開通 図 2 肝硬変患者における門脈血栓症の治療における抗凝固療法の効果 肝硬変の門脈血栓症 門脈圧亢進症の臨床徴候がない 門脈圧亢進症の症状が出現 血栓が門脈の <50% 上腸間膜静脈へ進展なし 血栓が門脈の >50% ± 上腸間膜静脈へ進展 内視鏡治療, 腹水穿刺, 薬物治療で管理可能 内視鏡治療, 腹水穿刺, 薬物治療では管理不可 待機して見守る 改善または安定 悪化 抗凝固療法 ( または治験に参加 ) 悪化 経過観察 TIPS か対症療法 図 4 肝硬変患者における門脈血栓症の治療アルゴリズム 5