神戸大学都市安全研究センター研究報告, 第 1 号, 平成 18 年 3 月 狭小水路における鋼矢板護岸の粗度係数について Study on Coefficient of Roughness of Steel Sheet Pile Wall in Narrow Open Channel 齋藤雅彦 1) Masahiko Saito 中平隆 ) Takashi Nakahira 市成準一 3) Junichi Ichinari 概要 : 本研究では, 小規模な都市河川 水路の護岸として鋼矢板を用いた場合に設定すべき水路の粗度係数を同定するために室内模型実験を実施し, 得られた実験結果から設計条件 ( 水路幅と水深 ) と粗度係数の関係について整理した. これにより, 矢板の凹凸高さに対する水路幅の比が小さくなると粗度係数が大きく評価されること, および水路幅の設計値として, 最も水路幅が小さくなる部分を用いると, 粗度係数のばらつきは小さくなることを明らかにした. また, 鋼矢板護岸の粗度係数の設定方法として, 水路幅の設計値として最も水路幅が小さくなる部分を用いた上で, 水路幅に対する水深の比と粗度係数の関係を用いることを提案した. キーワード : 都市河川, 鋼矢板護岸, 粗度係数, 模型実験 1. はじめに 近年においても, 都市部の中小河川の氾濫が毎年のように各地で頻発しており, 浸水被害防止のため, 早急な改修が必要とされる河川も少なくない. 都市河川 水路の特徴として, 一般に川幅が狭く, 改修用地の確保も困難であることから水路の拡幅は容易ではなく, 多くの護岸は直立型である. 直立型護岸としては, コンクリート壁あるいは鋼矢板護岸が考えられるが, 鋼矢板護岸は凹凸が大きく, これを狭小な水路に用いた場合の水理特性については不明な点が多い. 本研究では, 小規模な都市河川 水路の護岸として鋼矢板を用いた場合に設定すべき水理定数 ( ここでは粗度係数 ) を模型実験により同定するとともに, 設計条件 ( 水路幅および水深 ) との関係について整理することを目的とする.. 実験水路の仕様と実験ケース (1) 実験水路 実験水路の諸元は以下のとおりである. また, 図 -1 に平面図を示す. また, 水路は 重壁となっており, 外壁は固定, 内壁は交換および移動が可能となっている ( 図 - および図 -3). - 85 -
全長 :7.m 水深 :mm(max) 水路勾配 :1/ 材質 : アクリライト製矢板模型 :1H 型,5H 型,Ⅱw 型縮尺 :1/15 1 48 6 1 6 : 水深 流速測定点 流れ方向 18 矢板無し 36 18 矢板有り 図 -1 水路の平面図 矢板無し 図 - 水路幅 =mm の場合 ( 上流端部 ) 図 -3 水路幅 =33mm の場合 ( 上流端部 ) () 実験ケース 実験ケースは, 矢板の形式, 水路幅, および水深 ( 流量 ) を変化させて, 表 -1 に示す Case から Case5-b までの 1 ケースとした. 測定は, 図 -1 に示す 印の断面において, 水深および流速をそれぞれポイントゲ ージと電磁流速計によって測定した. また, 流量は, 最下流部 ( 平滑部 ) の測定断面における水深と流速か ら求めた. Case 凹凸ピッチ (mm) 護岸の形状 凹凸高さ d(mm) 表 -1 実験ケース 水路幅 B(mm) 計画水深 h(mm) 計画流量 Q (l /s) (3.m) (1.5m) 9. 平滑護岸 1-a 6 15.3 (3.m) 133(.m) 18. 1H 型標準 1-b 6 15.3 (3.m) 67(1.m) 7. 1H 型低水期 () 内は実物換算値 -a 6 15.3 333(5.m) 133(.m) 3. 1H 型広幅水路標準 -b 6 15.3 333(5.m) 67(1.m) 15. 1H 型広幅水路低水期 3-a 6 15.3 7(1.m) 133(.m) 6. 1H 型超狭水路標準 3-b 6 15.3 7(1.m) 67(1.m) 3. 1H 型超狭水路低水期 4-a 6 (3.m) 133(.m) 18. 5H 型標準 4-b 6 (3.m) 16(.4m) 3. 5H 型高水期 4-c 6 (3.m) 67(1.m) 7. 5H 型低水期 5-a 8 17.3 (3.m) 133(.m) 18. Ⅱw 型標準 5-b 8 17.3 (3.m) 67(1.m) 7. Ⅱw 型低水期 備考 - 86 -
3. 粗度係数の推定方法 (1) 推定の概要 流量と水位を測定し, 水面形を再現する平滑部分の粗度係数 n m および矢板部分の粗度係数 n ms を逆解析に より同定する. 次に, 相似則により実物に対応する矢板部分の粗度係数 n ps を推定する. () 水面曲線の計算開水路定常流の連続式および運動方程式は, 以下のようになる. Q = Av = 一定 (1) d v τ h z + + = I dx g gr ρ ( f ) () ここに,Q は流量,A は通水断面積,v は平均流速,h は水深,z は河床高,R は径深,τ は潤辺 s に働く平 均せん断応力, I f は摩擦損失勾配,x 軸は水路床に沿った流れ方向である. 常流について, 図 -4 の記号を用いて式 () を差分化すると, 次式となる. Q Q + h 1 + z1 = xi f + + h + z (3) ga1 ga ここで, 上流側の h 1 について解くと, 図 -4 不等流の基礎方程式の差分化 1) Q 1 1 h1 = xi f + + h + z z1 g A A 1 (4) ここに, I f は地点 1 と地点 の I f の平均値であり, 摩擦損失勾配に対してマニングの抵抗則を仮定すると, 以下のようになる. I f n Q 1 1 = + A R A R 4 4 3 3 1 1 (5) 式 (4) の右辺において, 流水断面積 A 1 および摩擦勾配 より h 1 を順次求める. I f は水深 h 1 の関数であり未知なので, 逐次計算法に (3) 等価粗度係数の計算長方形断面の場合, 底面の粗度係数を n 1, および壁面の粗度係数を n とすると, 等価粗度係数 n は Horton ) および Einstein の式を用いて以下のように求められる. - 87 -
N 3 1.5 S 1.5 1.5 3 in i n Bn1 hn = + = (6) i= 1 B + h S ここに,S i は n i の粗度を持つ潤辺,S は全潤辺,n は等価粗度係数,B は水路幅,h は水深である. (4) 相似律縮尺比をλ L として, フルードの相似則を適用すると, 実物における流速, 流量および粗度係数は, 以下のようになる. 1 vp = vmλl 5, Qp = QmλL 1 6, np = nmλl (7) ここに, 添字 m および p はそれぞれ模型および実物をあらわす. (5) 推定の手順 a) アクリル板の粗度係数 n m の推定実験 (=Case) によって流量 Q および水面形を測定する. 測定した Q および最下流部における水深を既知として, 式 (5) により水面形を計算する. ここで測定した水面形を最もうまく再現する n(= n m ) を非線形最小 乗法により求める. b) 模型における矢板壁の粗度係数の推定実験 (=Case1~5) によって流量 Q および水面形を測定する. 先に求めた n m, 測定した Q, および矢板部分最下流部における水深を既知として, 式 (5) により水面形を計算する. ここで水面形を最もうまく再現する式 (6) における n (= n ms ) を非線形最小 乗法により求める. c) 相似則の適用得られた n ms, および縮尺 (λ L =1/15) より, 式 (7) を用いて実物の矢板壁における粗度係数 (n ps ) を求める. 4. 実験結果と考察 (1) Case 図 -6 に水面形の測定結果と水面曲線のフィッティング結果を示す. また, アクリル板の粗度係数として は,n m =.95 が得られた. 既往の研究により求められている合成樹脂の粗度係数は, 最小値 =.8, 標準 値 =.9, 最大値 =.1 となっており, 実験結果はやや大きめの値となっているが, 水路の接続部分の影響 を考慮すると, 概ね妥当な推定結果と考えられる. これより, 以下では水路底面の粗度係数として n m =.95 を用いる. 11 9 8 7 6 計算値計測値 1 3 4 5 6 図 -6 水深の測定結果と水面曲線の計算値 (Case) () Case1~Case5 図 -7(a)~(d) に水面形の測定結果と水面曲線のフィッティング結果を示す. また, 表 - に同定された 粗度係数の一覧を示す. - 88 -
1 1 (a) Case1-a,b (b) Case-a,b 1 1 (c) Case3-a,b (d) Case4-a,b,c 計算値 c 測定値 c 1 図 -7 水深の測定結果と水面曲線の計算値 (Case1~5) 表 - 粗度係数の同定結果 n ms n ps a.176.77 b.156.45 a.163.56 b.163.56 a.54.399 b.56.4 a.166.6 b.16.51 c.16.5 a.178.8 b.18.8 (3) 水路幅 水深と粗度係数の関係図 -8は, 矢板の凹凸高さ d に対する水路幅 B の比 (=B/d) と粗度係数 (n ps ) の関係, また, 図 -9は, 凹凸高さに対する水深 h の比 (=h/d) と粗度係数の関係である. ここで, 水深 h は, 矢板壁下流端から 1.m の水深測定値としている. 図 -8より,B/d が 1 以上の場合は, 水路幅に関わらず粗度係数は.5~.8 の狭い範囲に分布しているのに対して, 超狭水路の では約.4 と極端に大きくなっている. また, 図 -9より, すべてのケースで水深とは無関係にほぼ一定の値が得られている. - 89 -
このように,B/d が小さくなると粗度係数が大きく評価される要因として, 矢板の凸部が見かけの流水断 面の減少をもたらしていることが考えられる..45.45.35.35.5.5.15 5 1 15 5 B/d 図 -8 B/d と粗度係数 (n ps ) の関係.15 4 6 8 1 h/d 図 -9 h/d と粗度係数 (n ps ) の関係 図 -1は, 以下の式 (8) により平滑護岸部分の水深と平均流速の測定値から求めた流量 Q と, 矢板壁部分の水深 h と平均流速 v から矢板壁部分の見かけの水路幅 B を求め,B/d と平均水路幅 B に対する B の比率 (=B /B) の関係を示している. Q B = (8) hv これより, すべてのケースにおいて B /B は 1. を下回っているが, 特に Case3 では.7 程度となっており, 見かけの水路幅が大幅に減少していることがわかる. 1..8.6.4.. 5 1 15 5 B/d 図 -1 h/d と B /B の関係 B Bs=B-d d 図 -11 矢板の凹凸と水路幅 (4) 矢板の凹凸を考慮した場合の粗度係数水路幅として, 図 -11に示す最も水路幅が小さくなる部分 Bs を用いて図 -7と同様に水面形を近似し, 粗度係数 (n ps ) を同定した結果を表 -3に示す. また, 図 -1は, 図 -8と同様に, 矢板の凹凸高さ d に対する水路幅 B の比 (=B/d) と粗度係数 (n ps ) の関係である. 各ケースとも粗度係数は図 -8より小さく評価されているが, 特に Case3 の低下が大きく, ばらつきが小さくなっている. 表 -3 粗度係数の同定結果 ( 凹凸考慮 ) n ms n ps a.145.8 b.116.18 a.141. b.19.3 a.155.43 b.148.33 a.13.4 b.15.196 c.113.178 a.143.4 b.13.193-9 -
.45.5.35..5.15 5 1 15 5 B/d 図 -1 B/d と粗度係数 (n ps ) の関係.15..5 1. 1.5. h / B 図 -13 h/b と粗度係数 (n ps ) の関係 図 -13は, 水路幅 B に対する水深 h の比 (=h/b) と粗度係数 (n ps ) の関係である. これより,h/B が大きくなるほど粗度係数も大きく評価される傾向があることがわかる. ここで, 過小評価を避けるために n ps >. の部分を用いて回帰直線を求めると, 式 (9) および図 -14 のような関係が得られた. h nps =.144 +.16 (9) B..5..5 1 1.5 h / B 図 -13 h/b と粗度係数 (n ps ) の関係 5. おわりに 本研究では, 小規模河川 排水路の護岸として鋼矢板を用いた場合に設定すべき粗度係数を模型実験により同定するとともに, 水路幅, 水深, および矢板の凹凸の影響等について考察した. これにより, 得られた結果を以下にまとめる. 1) 矢板の凹凸高さ d に対する水路幅 B の比 (=B/d) が小さくなると粗度係数が大きく評価された. この要因としては, 矢板の凸部が見かけの流水断面の減少をもたらしているためと思われる. ) 水路幅の設計値として, 最も水路幅が小さくなる部分を用いると, 粗度係数のばらつきは小さくなった. この場合,h/B が大きくなるほど粗度係数も大きく評価される傾向があった. 3) 鋼矢板護岸の粗度係数の設定方法としては, 水路幅の設計値として最も水路幅が小さくなる部分を用いた上で, 水路幅 B に対する水深 h の比 (=h/b) と粗度係数 (n ps ) の関係を提案した. 謝辞 本研究を遂行するにあたり, 鋼管杭協会 ( 鋼矢板技術委員会 ) から多くの御支援を賜りました. ここに記 して感謝の意を表します. 参考文献 1) 水工学研究会編 : 水理学 - 水工学序論 -, 技報堂出版,p.134 ) Ven Te Chow( 石原藤次郎訳 ): Open-Channel Hydraulics( 開水路の水理学 ), 丸善,p.14 著者 :1) 齋藤雅彦, 都市安全研究センター, 助手 ;) 中平隆, 大学院自然科学研究課博士前期過 3) 市成準一, 工学部, 技術専門職員 - 91 -
STUDY ON COEFFICIENT OF ROUGHNESS OF STEEL SHEET PILE WALL IN NARROW OPEN CHANNEL Masahiko Saito Takashi Nakahira Junichi Ichinari Abstract In this study, the laboratory scale experiments were carried out to identify the coefficient of roughness of steel sheet pile wall in narrow open channel, and the relationship between the coefficient of roughness and flow condition were investigated. The results showed that the coefficient of roughness were highly evaluated when the proportion of the width of the channel to the unevenness of the sheet pile was relatively low, and the variance of the coefficient of roughness became small when the minimum value of the channel were used as the width of the channel. In addition, the method to get suitable value for the coefficient of roughness was proposed. - 9 -