講義資料2012

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解糖系でへ 解糖系でへ - リン酸 - リン酸 1,-2 リン酸 ジヒドロキシアセトンリン酸 - リン酸 - リン酸 1,-2 リン酸 ジヒドロキシアセトンリン酸 AT AT リン酸化で細胞外に AT 出られなくなる 異性化して炭素数 AT の分子に分解される AT 2 ホスホエノール AT 2 1

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1. 電子伝達系では膜の内外の何の濃度差を利用してATPを合成するか?

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をミトコンドリアに運ぶ 中鎖 : 炭素 5~12 長鎖 : 炭素 12 個以上 カルニチン 中鎖 アシル oa MFA 補酵素 A MFA oa oa 長鎖 アシル oa LFA 補酵素 A LFA oa oa 補酵素 A oa カルニチン A 主に肝臓と腎臓で生成され そのほとんどが筋肉に送られる

EC No. 解糖系 エタノール発酵系酵素 基質 反応様式 反応 ph 生成物 反応温度 温度安定性 Alcohol dehydrogenase YK エナントアルデヒド ( アルデヒド ) 酸化還元反応 (NADPH) 1ヘプタノール ( アルコール ) ~85 85 で 1 時

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1-1 栄養素の代謝と必要量 : 糖質 炭水化物 1 糖質の消化吸収 デンプンは唾液中のα アミラーゼの作用により加水分解され かなりの部分が消化を受ける ヒト の唾液中に存在するデンプン消化酵素は α アミラーゼがほとんどである 胃では糖質の消化酵素は 分泌されないが 食道から胃内に流入した食塊が

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セリン OH 基は極性をもつ 親水的である トレオニン OH 基は極性をもつ 親水的である チロシン OH 基は極性をもつ 親水的である 解離してマイナスの電荷を帯びる 4 側鎖 アラニン 疎水的である グリシンの次に単純 グリシン もっとも単純な構造のアミノ酸 α 炭素が不斉炭素でないので唯一立体

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第 Ⅳ 部細胞の内部構造 14 エネルキ ー変換 -ミトコント リアと葉緑体 ( 後半 )p 葉緑体 chloroplast と光合成 photosynthesis 4. ミトコント リアと色素体の遺伝子系 5. 電子伝達系 electron-transport chain の進

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(2) 二 糖 類 二 糖 類 は, 単 糖 が2つグリコシド 結 合 したものである たとえば,マルトース( 麦 芽 糖 )は,グル コース+グルコース,スクロース(ショ 糖 )は,グルコース+フルクトース,ラクトース( 乳 糖 )は, グルコース+ガラクトースのグリコシド 結 合 によるものであ

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第 10 章脂質の代謝 10.1 はじめに 長鎖脂肪トリアシルグリセロール 生物化学 中鎖脂肪トリアシルグリセロール 講義資料 膵リパ - ゼ 1,2- ジアシルグリセロール膵リパ - ゼ 管腔内消化 ミセル 2-アシルグリセロール 1-アシルグリセロールイソメラ-ゼ膵リパ-ゼ 小腸上皮 再エステル化 oa アシルoA oa リンパ管 キロミクロン 図 1 脂質の消化と取り込み 10.2 脂肪酸の異化代謝 10.2.1 脂肪酸の分解 (β 酸化 ) 門脈 アシル -oa 脱水素 1 FAD FADH 2 2,3- トランスエノイル -oa 水の付加 2 L-3- ヒドロキシアシル -oa 脱水素 3 NADH + H + 脂肪酸 + oa アシル-oA シンターゼ AMP + PP i アシル -oa カルニチン 加硫分解 4 HS-oA チオラーゼ 3- オキソアシル -oa 炭素数が 2 つ少ないアシル -oa カルニチンミトコンドリアのマトリックスへアシル-カルニチン 図 2 カルニチンを介する脂肪酸の取り込み 13 1~4 の繰り返し 図 3 脂肪酸の分解 (β 酸化 )

β 酸化と TA 回路の反応の類似点 β 酸化の反応 1~3 は TA 回路の 反応 7~9 と類似している 脂肪酸の酸化による 生成 炭素数 16 のパルミチン酸 15 H 31 OOH の場合 : β- 酸化のサイクル数は 16 2-1=7 回 15 H 31 O-oA + 7oA + 7FAD + 7 + 7H 2 O 8H 3 O-oA + 7FADH 2 + 7NADH + 7H + 全部で が発生 最初 パルミチン酸に oa を結合させるのに を 2 分子 ( AMP は 2 モルに相当 ) 使ったのでこれを引くと 1 モルのパルミチン酸から合計 が 生じることになる 10.2.2 ケトン体 脂肪酸の異化代謝 (β 酸化 ) の亢進 の濃度上 昇 ケトン体の生成 ( 肝臓の内 ) インシュリン欠乏による糖尿病飢餓状態 ( グルコースの枯渇 ) 脂肪組織からの脂肪酸の動員 β 酸化 H H H H H FAD FADH 2 切れない H OH H H + H この結合が 2 oa NADH + H + O 活性メチレン H 2 なる 脂肪酸の動員 脳は脂肪酸を利用できない ケトン体 ケトン体が代償エネルギー ケトン体合成 ( 肝臓 ) アセト oa β- ヒドロキシ -β- メチルグルタリル -oa アセト酢酸 β- ヒドロキシ酪酸アセトン 図 4 ケトン体アセトンはエネルギー源ではない ケトン体は水溶性なので, で運ばれ, 全ての組織に取 り込まれる 細胞内で再び に再生され, 合 成に使われる 健康な状態でも β- ヒドロキシ酪酸は大部分の末梢組織 ( 脳 骨 骨格筋 心筋 ) でエネルギー源として利用 とくに 心筋や はグルコースよりもケトン体の利 用が優先 アセチル-oA からステロイドホルモンを合成する臓器 ケトン体の過剰生産 血液中のケトン体濃度上昇 ph 低下 ケトー シス (ketosis) 糖尿病の診断指標 10.3 脂肪酸の生合成 脂肪酸の分解と合成の比較 脂肪酸の生合成は基本的に β 酸化の逆反応 しかし, いくつか重要な違いがある ( 表 1) 表 1 脂肪酸の異化 同化代謝の差異 異化代謝 同化代謝 名称 β 酸化 生合成 場所 マトリックス 細胞質 の効果 抑制 促進 ADP 促進 抑制 クエン酸の効果 - 促進 出発化合物 アシル-oA マロニル-oA 補酵素, FAD NADP + アシル基担体 oa AP* -ヒドロキシアシル化合物 L 型 D 型 *acyl carrier protein というタンパク質 14 アセト酢酸 NADH + H+ β- ヒドロキシ酪酸 図 5 ケトン体の生成 アセトン - 酸化と異なり脂肪酸の生合成は 1. で行われる 2. を直接利用するのではなく, 一旦, -oa がつくられ, を放出してアセチル基が脂肪酸の鎖に転移する 理由は, 加硫分解の平衡 3- オキソアシル -oa + oa アシル -oa + が大きく右に偏り, はエネルギー的に不利 3. 補酵素としてを利用する 4. アシル基は,4'- ホスホパンテテインを補因子として結合したアシルキャリアプロテイン (AP) の SH 基にチオエステル結合する - 酸化の S(L)-3- ヒドロキシアシル -oa に相当するものは, R(D)-3- ヒドロキシアシル -AP である

脂肪酸生合成の開始 脂肪酸の生合成は により促進される クエン酸が TA 回路に使われるか, 脂肪酸の生合成に 使われるかは, イソクエン酸デヒドロゲナーゼの活性 (ADP により活性化, により阻害 ) により調節される また, ミトコンドリアを出たクエン酸は次の経路によって 脂肪酸合成に必要な NADPH 2 + の約 40% を供給する ( 残 りの 60% は経路から供給される ) クエン酸シンターゼリンゴ酸 DH リンゴ酸酵素クエン酸オキサロ酢酸リンゴ酸ピルビン酸 脂肪酸の生合成 動物の場合, 脂肪酸合成はパルミトイル ( 16 )-AP までで終わる パルミトイル -AP は加水分解されてパルミチン酸が生成する AP-SH NADH + H + 1 アセチル -AP アセチル oa カルボキシラーゼ 2 ADP + P i AP-SH oa-sh NADP + マロニル -oa 3 マロニル -AP NADPH + H + クエン酸の蓄積抑制イソクエン酸 デヒドロゲナーゼ TA 回路イソクエン酸オキサロ酢酸活性化 ADP oa-sh オキサロ酢酸 6 サイクル クエン酸 クエン酸 クエン酸リアーゼ 細胞質 アセチル oa カルボキシラーゼ 活性化 図 6 脂肪酸の生合成の開始 パルミトイル-AP AP-SH 長鎖脂肪酸 抑制 ( フィードバック阻害 ) ADP + P i マロニル -oa 4 AP-SH 4~7 の繰り返し パルミチン酸 (16) アセトアセチル-AP NADPH + H + 5 NADP + ブチリル-AP NADP + 7 NADPH + H + 細胞質でつくられた脂肪酸は, さらにミトコンドリアや小胞体で炭素数を増すことができる パルミチン酸 18 20 22 24 これは β- 酸化の逆反応を利用する ただし, FADH 2 ではなく NADPH を使う 6 細菌や葉緑体の脂肪酸合成酵素 反応 2~7 を触媒する大腸菌や葉緑体の酵素は 7 つ の酵素が会合体をつくり, さらに, その二量体で機能する AP に結合した 4 - ホスホパンテテイン基にアシル基やマ ロニル基が結合する 4 - ホスホパンテテイン基は回転し, 次の反応を触媒する酵素にアシル基を提供する このよう な酵素を 哺乳類の脂肪酸合成酵素 D- - ヒドロキシブチリル -AP 図 7 脂肪酸の生合成 (multi enzyme system) という 哺乳動物の脂肪酸シンターゼは巨大なタンパク質で, 全ての触媒作用は同一のタンパ ク質上の異なる領域で遂行されるという多機能酵素 (multifunctional enzyme) である ヒトの 酵素は二量体タンパク質で, 各サブユニットの AP 領域の Ser 残基に 4'- ホスホパンテテイ ン基が共有結合している ホスホパンテテインの SH 基に結合した脂肪酸は活性部位ドメ イン 2~7 を順次巡ることによって, 脂肪酸の鎖長が伸び, パルミチン酸になる 最後に, クロトニル -AP パルミチン酸は foot 領域のチオエステラーゼ (TE) で切り取られて遊離する 図 8 AP の 4 - ホスホパンテテイン基 4 - ホスホパンテテイン基はタンパク質に結合している 4 3 AP 4 - ホスホパンテテイン基 2 5 7 SH 6 5 6 7 SH 図 10 哺乳類の脂肪酸合成酵素のドメイン構造 15 図 9 細菌の脂肪酸合成酵素

不飽和脂肪酸の合成 動物の肝滑面小胞体において,NADH および O 2 の存在下, パルミトイル -oa とステアロイル -oa は不飽和化される しかし, 高等動物は二重結合を 2 つ以上もつリノール酸やリノレン酸などを合成できないので, これらは食物から補給す る必要がある ( ビタミン F) 10.4 グリセリドの生合成 トリアシルグリセロール ( トリグリセリド ) は小腸における吸 収 ( 図 1) の場合に起こるが, 大部分のトリグリセリドは肝 臓の滑面小胞体で合成され, 脂肪組織に貯蔵される DHAP NADH + H + コレステロールとは コレステロールは真核生物の生体膜の構成成分の 1 つとして膜の流動性を調節する役割以外に ステロ イド, ビタミン D, などの生 合成原料として重要な化合物である コレステロール の生合成は, ホルモンや血中のコレステロール濃度 で調節されている コレステロール ビタミン D ステロイドホルモン 胆汁酸 コレステロールは からつくられる コレステロールは からのケトン体合 成の中間体である 3- ヒドロキシ -3- メチルグルタリル -oa グリセロリン酸 ADP グリセロール を出発原料として 多くの反応段階を経て合成される コレステロールは主に肝細胞のや 細胞質でつくられるが 他に 小腸 副腎皮質 皮 oa-sh 膚 大動脈 精巣でも合成される コレステロール合成はヒドロキシメチルグルタリル -oa レダクターゼの活性で調節される この酵素の 活性は高脂肪食で上昇し 飢餓時に減少する リゾホスファチジン酸 oa-sh リン脂質, 糖脂質の合成 アセト ヒドロキシメチルグルタリル -oa レダクターゼ ホスファチジン酸 P i 3- ヒドロキシ -3- メチルグルタリル -oa (5) ジアシルグリセロール oa-sh スクアレン (30) トリアシルグリセロール ( トリグリセリド ) 図 11 トリグリセリドの合成 コレステロール 図 12 コレステロールの合成 16

第 11 章アミノ酸の代謝 11.1 はじめに タンパク質 ( 計 14 kg) タンパク質分解 400 g/ 日 タンパク質合成 400 g/ 日 食物 (80 g/ 日 ) 非必須アミノ酸 (40 g/ 日 ) アミノ酸プール ( 計 600 g) 脂肪, ケトン体 ヌクレオチド, ヘム, クレアチン, アミンの合成 アミノ酸分解 (120 g/ 日 ) 11.2 アミノ酸の分解 11.2.1 アミノ酸の脱アミノ化 (a) アミノ基転移反応 炭素骨格 グルコース ( エネルギー ) 尿素 (30 g/ 日 ) 図 1 タンパク質の代謝 ( 左 ) アミノ酸の炭素はエネルギー源となる ( 右 ) アミノ酸は窒素源としても重要 アミノ酸 アミノトランスフェラーゼ ピリドキサールリン酸 (PLP) アミノ酸 (Vitamin B 6) α- ケト酸 ピリドキサミンリン酸 (PMP) α- ケト酸 ( アミノ基受容体 ) 炭素骨格代謝 図 3 アミノ基転移 - ケトグルタル酸が最重要 他にグリオキシル酸, オキサロ酢酸, ピルビン酸など (PLP) 図 2 アミノ酸代謝の補酵素とビタミン 図 4 アミノトランスフェラーゼの補酵素ピリドキサルリン酸のアルデヒド基は酵素のリシン残基の ε- アミノ基と縮合し シッフ塩基を形成 Asp + -ケトグルタル酸 オキサロ酢酸 + Glu アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ (AST) Ala + -ケトグルタル酸 ピルビン酸 + Glu アラニンアミノトランスフェラーゼ (ALT) Tyr + -ケトグルタル酸 4-ヒドロキシフェニルピルビン酸 + Glu チロシンアミノトランスフェラーゼ Leu + -ケトグルタル酸 -ケトイソカプロン酸 + Glu 分枝鎖アミノ酸アミノトランスフェラーゼ Glu + グリオキシル酸 -ケトグルタル酸 + Gly グルタミン酸アミノトランスフェラーゼ Ala + グリオキシル酸 ピルビン酸 + Gly アラニン-グリオキシル酸アミノトランスフェラーゼ Ser + ピルビン酸 ヒドロキシピルビン酸 + Ala セリン-ピルビン酸アミノトランスフェラーゼ -アミノ酪酸 + -ケトグルタル酸 コハク酸セミアルデヒド + Glu -アミノ酪酸アミノトランスフェラーゼ Orn + -ケトグルタル酸 グルタミン酸セミアルデヒド + Glu オルニチンアミノトランスフェラーゼ 50 種以上の酵素が知られている いくつかの例を次に示す GPT/ALT (Glutamate Pyruvate Transaminase) や GOT/AST (Glutamate Oxaloacetate Transaminase) は肝機能の指標として有名な酵素である 図 5 アミノトランスフェラーゼとその反応 (b) 酸化的脱アミノ反応アミノ酸のアミノ基は, 反応によって, アスパラギン酸 (Asp) とグルタミン酸 (Glu) に変えられ, に送られる (Asp と Glu はミトコンドリア内膜を通れる ) グルタミン酸は, ミトコンドリアにおいて, グルタミン酸デヒドロゲナーゼによって酸化的に脱アミノ化され,α-ケトグルタル酸になる これを (Oxidative deamination) という α-ケトグルタル酸は TA 回路の一員である 遊離した NH 3 は尿素回路によって直ちにに変換される グルタミン酸 平衡移動の法則の応用 グルタミン酸デヒドロゲナーゼ NADH + H + α- ケトグルタル酸 + NH 3 図 6 酸化的脱アミノ反応この反応の平衡は大きく左に傾いている 従って, 反応の進行は生じるアンモニアの消費による 17

11.2.2 アミノ酸の脱アミノ体の分解 脱アミノ化されて生じる α- ケト酸は,(1) 糖の合成や (2) ケトン体や脂肪酸の合成に利用される アミノ酸の代謝には 回路が大きな関与をする 糖原性 (glycogenic) アミノ酸 : 主として糖新生による a) ピルビン酸を経てオキサロ酢酸になるもの : Ala, Gly, Ser, Thr, ys, Trp b) スクシニル -oa になり TA 回路に入るもの : Ile, Met, Val c) オキサロ酢酸になり TA 回路に入るもの : Asp, Asn d) - ケトグルタル酸になり TA 回路に入るもの : Arg,Glu, Gln, His,Pro e) フマル酸になり TA 回路に入るもの : Phe, Tyr ケト原性 (ketogenic) アミノ酸 : 主にアセト を経て, になる a) アセト酢酸や だけになるもの : Leu, Lys や脂肪酸の合成に利用される b) 糖新生にも使われるが もつくるもの : Phe, Tyr, Ile, Trp, Thr グルコース グルコース 6- リン酸 合成に利用される Asp Asn ピルビン酸 オキサロ酢酸 リンゴ酸 フマル酸 Phe Tyr TA 回路 Ala, Gly, Ser Thr, ys, Trp アセト酢酸 Ile スクシニル -oa Tyr, Phe, Lys, Leu, Trp - ケトグルタル酸 Glu, Gln, Arg, His, Pro Ile, Met Val Ala Ser ys Gly Thr Trp ホスホエノールピルビン酸 図 7 アミノ酸骨格の代謝と TA 回路赤は糖原性アミノ酸, 青はケト原性アミノ酸 ピルビン酸 乳酸 アセチル oa アセトアセチル oa アセト酢酸 11.2.3 尿素回路 は Asn Asp Phe Tyr オキサロ酢酸 リンゴ酸 フマル酸 コハク酸 スクシニル oa D- メチルマロニル oa クエン酸 イソクエン酸 2- オキソグルタル酸 図 8 アミノ酸の代謝と糖新生やケトン体合成の関連 アンモニアは生体にとって有毒である このアンモニアを尿素に変えて無毒化する経路が尿素回路 (Urea cycle) また 回路とも呼ばれる代謝経路である Val Met Ile 各組織で生成したアンモニアの窒素はグルタミン (Gln) またはアラニン (Ala) として血流で肝臓に運ばれる ( グルコース アラニン回路 ) 肝臓において, これらのアミノ酸はアミノ基転移でグルタミン酸に変換された後, 酸化的脱アミノでアンモ ニアが遊離する アンモニアは尿素回路で尿素に変えられる Gln Glu Phe Tyr Leu Lys Pro His Arg Asp アンモニア オルニチン 尿素回路 オキサロ酢酸 TA 回路フマル酸 尿素 図 9 グルコース アラニン回路 図 10 尿素回路と TA 回路のかかわり 18

カルバモイルリン酸シンターゼ NH 3 + 1 カルバモイルリン酸 (HO - 3 ) 2 2ADP + P i 2 オルニチン オルニリントランスカルバモイラーゼ 肝臓のミトコンドリアマトリックス内 P i シトルリン オルニチン 尿素 5 アルギナーゼ 細胞質 シトルリン アルギニン アルギニノコハク酸シンターゼ AMP + PP i 3 アスパラギン酸 アスパラギン酸はミトコンドリア内膜を通過できる アルギニノコハク酸リアーゼ フマル酸 * 4 アルギニノコハク酸 アスパラギン酸オキサロ酢酸 TA 回路リンゴ酸 図 11 尿素回路 フマラーゼ細胞質の酵素 リンゴ酸 肝臓の尿素回路の全体の反応 (1~5) は次のようになる アンモニアの処理には実質 リンゴ酸はミトコンドリアに取り込まれる を必要とする 2NH 3 + + 3 + 2 H 2 O NH 2 ONH 2 + 2ADP + 2P i + AMP + PP i 尿素の 2 つの NH 2 基のうち 1 つはアンモニア由来で もう 1 つは 素と酸素はそれぞれ, ( 正しくは HO 3 ) と水 (H 2 O) からきている 由来である カルボニル基の炭 ミトコンドリアでつくられる の 10 数 % が尿素回路で消費される 腎臓は 3~5 の酵素をもつので, 血中のシトルリンを尿素に変 換できる 尿素回路の酵素群の活性は, 高タンパク食摂取時や飢餓時 ( 筋肉タンパク質の分解が起こる ) に, 一斉に上昇する 尿素回路以外のアンモニア除去系 1) 酸アミド生成 全組織 主としてグルタミン (Gln) を生成する NH 3 + Glu Gln + H 2 O ( グルタミナーゼ ) NH 3 + Asp Asn + H 2 O ( アスパラギナーゼ ) 2) ケト酸との反応 肝臓が主 グルタミン酸 (Glu) を生成する NH 3 + - ケトグルタル酸 Glu + H 2 O ( グルタミン酸デヒドロゲナーゼ ) 3) クレアチンの生成 最初は腎臓 次に肝臓 クレアチンはや組織での 貯蔵物とみなせる Arg Orn 尿へ Gly 腎臓 グアニジノ酢酸 S- アデノシルメチオニン 肝臓 クレアチン ここは可逆的! クレアチンリン酸 図 12 クレアチンリン酸の合成と分解 自発的 ADP P i 筋肉, 神経組織 4) 直接排泄 腎臓だけ 脱アミノ後, 尿中に直接排泄する 尿のアンモニアの約 40% を占める クレアチニン 19

11.2.4 アミノ酸の脱炭酸 アミノ酸は脱炭酸により一級アミンを生じる 動物でもこれらの反応は見られるが, 微生物では特に発達している 反応には PLP を必要とする場合が多い 生成するアミンは強い生理活性をもつものが多く, 生理活性アミン (biogenic amine) と呼ばれる アドレナリン, ノルアドレナリン, ドーパミン, -アミノ酪酸 (GABA), セロトニン, ヒスタミンなどはアミノ酸由来のホルモン, 神経伝達物質である 5-OH-Trp His Glu セロトニン ヒスタミン - アミノ酪酸 3,4- ジヒドロキシフェニルアラニン (DOPA) ドーパミンノルアドレナリンアドレナリン 11.3 アミノ酸の生合成 図 13 脱炭酸による生理活性アミンの生成 次の 8 種のアミノ酸はヒト体内で合成できないか, されても必要量だけまかなえないので食物から摂取する必要がある これらをアミノ酸という [ トロリーバス不明 と憶える ] 幼児ではこれに His と Arg が加わる 表 1 必須アミノ酸 Phe, Trp 芳香族アミノ酸 Val, Leu, Ile, Thr 分岐鎖アミノ酸 Met 含硫アミノ酸 Lys 長鎖塩基性アミノ酸 Gly Ser 3-ホスホグリセリン酸 ys ピルビン酸 Asp オキサロ酢酸 Ala Phe Tyr 非必須アミノ酸の生合成 これらのアミノ酸はいずれも生合成過程が長いものが多く, 食物から摂取することができる環境にある高等動物は, それ らの合成からの負担を回避するようになったものであろう ア ミノ酸合成はアミノ酸の分解経路と関連している 動物では, 非必須アミノ酸は 4 つの中間体から合成される 1. オキサロ酢酸 Asp, Asn 2. ピルビン酸 Ala 3. α- ケトグルタル酸 Glu, Gln, Pro, Arg 4. 3- ホスホグリセリン酸 Ser, ys, Gly Asn TA 回路 α- ケトグルタル酸 図 14 アミノ酸の生合成 ピルビン酸群 Pro Glu Arg Gln オキサロ酢酸群 α-ケトグルタル酸群 ( 省略 ) 3-ホスホグリセリン群 ( 省略 ) Tyrの合成 Phe は酸化されて Tyr に変る この酵素の欠損はフェニルケトン尿症を引き起こす アミノ酸からつくられる窒素化合物 (1) Heme は Gly とスクシニル -oa からつくられる (2) 生理活性アミン (3) グルタチオン : H-Glu(ys-Gly-OH)-OH (4) ヌクレオチドとヌクレオチド系補酵素 (5) テトラヒドロ葉酸 (THF) 20