産業組織論 ( 企業経済論 ) 第 9 回 井上智弘 2010/6/9 産業組織論第 9 回 1
注意事項 小テストを行う. 講義の資料は, 授業終了後にホームページにアップしている. http://tomoinoue.web.fc2.com/index.html 2010/6/9 産業組織論第 9 回 2
前回の復習 独占市場には, 他の企業の参入を防ぐ参入障壁が存在する. 1 生産要素の独占 2 規模の経済 3 公的な規制 4 その他» サンク コスト» 企業の参入阻止戦略» ネットワーク外部性 2010/6/9 産業組織論第 9 回 3
前回の復習 企業は利潤最大化のために生産量や価格を決定する.» 完全競争市場でも独占市場でも同じ. 利潤関数は π(q) R(Q) - C(Q) である.» 生産量 Q の関数で表される.» R(Q) P(Q) Q である.» 完全競争では価格を所与としていたが, 独占では, 逆需要関数 P(Q) に沿って生産量とともに価格が変化すると考えて, 生産量を決定する. 2010/6/9 産業組織論第 9 回 4
前回の復習 完全競争市場では, 限界収入 価格となったが, 独占企業が生産量を増やせば価格が低下するため, 限界収入 価格となる. 2010/6/9 産業組織論第 9 回 5
小テストの解説 逆需要関数が P(Q) a - bq, 企業の費用関数が C(Q) cq で表されるとする.» ただし,a,b,c>0 の定数とする. (1) 企業の利潤関数 π(q) は, 次の式で表される. π(q) P(Q)Q - C(Q) (a - bq)q - cq aq - bq 2 - cq 2010/6/9 産業組織論第 9 回 6
小テストの解説 逆需要関数, 限界収入関数, 限界費用関数は次のようになる. 逆需要関数 : P(Q) a - bq 限界収入関数 : R(Q) R'(Q) a - 2bQ 限界費用関数 : C(Q) C'(Q) c 2010/6/9 産業組織論第 9 回 7
需要曲線, 限界収入曲線, 限界費用曲線はこのようになる. P a c C R D O Q 2010/6/9 産業組織論第 9 回 8
小テストの解説 (2) 独占企業の生産量と価格は次のようになる.» 利潤関数 π(q) を Q で微分して 0 として計算する.» π(q) aq - bq 2 - cq より, π'(q) a - 2bQ - c 0 a - 2bQ c R» 独占市場の均衡における生産量 ( 独占企業の利潤を最大にする生産量 ) は,Q (a - c)/2b となる.» 均衡価格 P は, 逆需要関数に Q を代入して求める. P P(Q ) a - bq (a + c)/2 C 2010/6/9 産業組織論第 9 回 9
小テストの解説 (3) 完全競争市場の均衡は次のようになる.» 市場供給曲線が P c, つまり, 市場全体の限界費用が C c であるため, 価格 限界費用より, 均衡数量は次のようになる. P(Q) C(Q) a - bq c Q * (a - c)/b» 均衡価格 P * は, 逆需要関数に Q * を代入して求める. P * P(Q * ) a - bq * c 2010/6/9 産業組織論第 9 回 10
小テストの解説 (4) 完全競争と独占の均衡の違い» 完全競争の均衡価格 P * と独占の均衡価格 P を比べると, 独占の価格の方が高い.» なお, 完全競争の均衡数量 Q * と独占の均衡数量 Q を比べると, 完全競争の数量の方が多い. Q P Q P * * a c 2b a + c 2 c a c b a c 2 a c 2b 2010/6/9 産業組織論第 9 回 11 > 0 < 0
それぞれの市場で決まる生産量と価格を図にするとこのようになる. P a A P P * c C F E C R D O Q Q * Q 2010/6/9 産業組織論第 9 回 12
小テストの解説 (5) 独占市場の均衡における企業の利潤» 生産量 Q (a - c)/2b, 価格 P (a + c)/2 より, 企業の利潤は以下のようになる. π(q ) P Q cq a + c 2 a c 2b c a c 2b (a c) 4b 2» なお, 完全競争市場の均衡における企業の利潤は, π(q * ) P * Q * - cq * (P * - c)q * 0. 2010/6/9 産業組織論第 9 回 13
小テストの解説 (6) 需要の価格弾力性 ε - [P(Q)/Q]/P'(Q)» 逆需要関数が P(Q) a - bq であるため, 需要の価格弾力性を計算すると次のようになる. P(Q)/Q P(Q) ε b bq» 独占市場の均衡では,Q Q (a - c)/2b,p(q ) P (a + c)/2 であるため, これを代入すると, ε (a + c)/2 b(a-c)/2b (a + c)/2 (a-c)/2 a + c a-c 2010/6/9 産業組織論第 9 回 14
小テストの解説 (7) ラーナー指数 α [P(Q) - C(Q)]/P(Q)» この問題では, 生産量に関係なく C(Q) C'(Q) c であり, 独占市場の均衡では,P(Q ) P (a + c)/2 であるため, ラーナー指数を計算すると次のようになる. α P c P (a + c)/2 c (a + c)/2 a a + c c 2010/6/9 産業組織論第 9 回 15
前回の復習 需要の価格弾力性とラーナー指数の関係» 企業の利潤関数を生産量で微分すると次のようになる. π'(q) a 2bQ c a bq bq c P(Q) bq C(Q) P(Q) + P'(Q)Q C(Q) P(Q) 1+ P'(Q) Q P(Q) 1 P(Q) 1 C(Q) ε C(Q) 2010/6/9 産業組織論第 9 回 16
前回の復習 企業は π'(q) 0 となる生産量を選択するため, 1 π'(q) P(Q) 1 C(Q) ε P(Q) C(Q) 1 α P(Q) ε ラーナー指数 (α) は, 需要の価格弾力性 (ε) に反比例する.» 需要の価格弾力性が高くなるほど, 独占企業が設定する価格は, 限界費用に近くなる. 2010/6/9 産業組織論第 9 回 17 0
前回の復習 ε 1 のときには,α 1 となるため, 独占企業は生産を行わない. P(Q) C(Q) P(Q) α 1 P(Q)-C(Q) P(Q) C(Q) 0» C(Q)>0 であるため, この関係は成立しない.» したがって,α<1 となる.» ε の値が増加すると,α は 1 から 0 に近づいていく. 2010/6/9 産業組織論第 9 回 18
独占の非効率性 本日の内容 価格差別 2010/6/9 産業組織論第 9 回 19
独占の非効率性 完全競争と比べて, 独占では企業が独占利潤を得る反面, 消費者は高い価格を支払うことになり, 消費者余剰が減少する. では, 総余剰はどのように変化するのか? 2010/6/9 産業組織論第 9 回 20
独占では, 消費者余剰が AP となり, 生産者余剰が P FC となる. P a A P c C F E C R D O Q Q * Q 2010/6/9 産業組織論第 9 回 21
完全競争と比べて, 独占の非効率性» 生産者余剰は増加する. 完全競争 : 0 独占 : P FC» 消費者余剰は減少する. 完全競争 : AEC 独占 : AP» 総余剰は減少する. 完全競争 : AEC 独占 : 台形 AFC 総余剰の減少分 EF が死荷重である. 2010/6/9 産業組織論第 9 回 22
独占の非効率性 この死荷重の大きさは, 計算によって求めることができる.» Fの長さは,P - c (a + c)/2 - c (a - c)/2» FEの長さは,Q * - Q (a - c)/b - (a - c)/2b (a - c)/2b» EF の面積 a c 2 a c 2b 1 2 (a c) 8b 2 2010/6/9 産業組織論第 9 回 23
独占の非効率性 C が一定のとき, 死荷重の大きさは, 需要の価格弾力性とラーナー指数で近似することもできる. P ΔP P - c,δq Q - Q * とすると, ΔP a P c F EF の面積 (-ΔQ) (ΔP) (1/2). E C R D O Q Q * Q ΔQ 2010/6/9 24
独占の非効率性 このとき, 点 での需要の価格弾力性 ε は, ε ΔQ Q ΔP P で表され, ラーナー指数 α は, で表される. P C P c ΔP α P P P 2010/6/9 産業組織論第 9 回 25
独占の非効率性 死荷重 ( EF の面積 ) を計算すると, 2010/6/9 産業組織論第 9 回 26 ε α 2 Q P P ΔP Q ΔQ P ΔP 2 Q P Q ΔQ P ΔP 2 Q P (1/2) (ΔP) ΔQ) ( EF 2 2
独占の非効率性 独占企業が利潤を最大にする生産量を選択しているとき, α1 εとなるため, 死荷重の大きさは, EF となる. P Q 2 α 2 ε P Q 2 1 ε 2 ε P Q 2ε 独占による余剰の損失は, 消費額 (P Q ) が大きく, 代替財が少ない (ε が小さい ) 場合に大きくなる. 2010/6/9 産業組織論第 9 回 27
独占の非効率性 独占市場において死荷重が生じる理由は, 独占企業が価格を高く維持するために生産を抑制するからである.» 生産量が Q のときに, 消費者がその財を追加的に1 単位購入するのに払ってもいいと考えている価格 P は生産の限界費用 c を上回っている.» 社会的には生産を増やすことが望ましいが, 自社の利潤最大化を目標とする独占企業は, そこまで生産しようとはしない. 2010/6/9 産業組織論第 9 回 28
独占の非効率性 その他の非効率性 1: X 非効率性» 利潤最大化を目指す企業は完全競争市場においても独占市場においても最小の費用で生産すべきだが, 独占企業の方が費用最小化を実現することはより難しいことが多い. このことを X 非効率性と呼ぶ.» X 非効率性は純粋な社会的無駄である. 2010/6/9 産業組織論第 9 回 29
X 非効率性の原因 : 独占の非効率性» 競争の激しい市場では非効率な企業は生き残れないが, 独占企業ではその心配は小さく, このために, 何らかの理由で内部組織が効率的に機能しない状態に陥っても是正のメカニズムが働きにくい.» 同業他社が存在しないため, 切磋琢磨しあう相手がいない. また, 同業他社は企業の経営努力を測る基準となり, 株主や金融機関はそれによって企業の経営努力をより正確に評価することができるが, そのような効果が存在しない. 2010/6/9 産業組織論第 9 回 30
独占の非効率性 その他の非効率性 2: レント シーキング» 独占企業は, その利潤を守るために様々な活動をし, その結果, 資源を浪費する可能性がある.» このような活動をレント シーキングと呼ぶ. たとえば, 政府が企業に対して独占権を与えられる場合には, 企業は独占権を得るために, ロビー活動を行うことがある. 企業努力や資源を本来の財の生産に向ける代わりにこのような活動に使うのは資源の無駄遣いである.» レント シーキングが激しくなれば, 独占利潤のすべてをレント シーキングに費やすことになり, その結果, 生産者余剰すべてが損失となってしまう. 2010/6/9 産業組織論第 9 回 31
ここまでのまとめ 独占市場では, 価格が限界費用を上回るため, 完全競争に比べて総余剰は減少する.» 死荷重の大きさは, 消費額が大きく需要の価格弾力性が小さい場合に大きくなる傾向がある. 企業が市場支配力をもつという理由以外で, 独占市場が非効率的になる理由としては,X 非効率性やレント シーキングがある. 2010/6/9 産業組織論第 9 回 32