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こうきとべ
5 years ago
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1 九州山口地区海岸工学者の集い (2011 年 8 月日 ) 諫早湾開門調査に対する私見九州大学大学院総合理工学研究院松永信博

2 開門調査費試算約 1000 億円調査の目的は? 得られる成果は? 調査の前に他に試みることはないのか?

3 Ⅰ. 諫早湾干拓事業と漁業問題の歴史 2000 年 12 月に有明海奥部で発生した大規模な海苔の色落ち問題を契機に, 有明海の環境悪化が社会問題としてクローズアップされ, 諫早湾干拓事業と関係が問われた年 7 月 : 1997 年 4 月 14 日 : 1999 年 3 月 : 2000 年 12 月 : 2001 年 2 月 : 2001 年 12 月 : 2002 年 4 月 24 日 : 2002 年 11 月 26 日 : 2003 年 3 月 27 日 : 2003 年 3 月 28 日 : 潮受け堤防試験堤工事着工. 潮受け堤防により湾奥部締め切り. 潮受け堤防完成. 有明海全域で海苔の大凶作発生. 農水省が有明海ノリ不作等対策関係調査検討委員会 ( 第三者委員会 ) 設置. 第三者委員会が潮受け堤防排水門の開門調査を提言. 農水省が短期開門調査を実施 (5 月 20 日まで ). 漁業者が佐賀地裁に工事差し止めの仮処分申請. 第三者委員会解散. 中長期開門調査検討会議の設置.

4 2003 年 12 月 25 日 : 2004 年 8 月 26 日 : 2005 年 1 月 26 日 : 2005 年 5 月 16 日 : 2005 年 5 月 20 日 : 2005 年 9 月 30 日 : 2006 年 11 月 15 日 : 2007 年 11 月 20 日 : 2008 年 4 月 30 日 : 2008 年 6 月 27 日 : 2008 年 7 月 10 日 : 2010 年 3 月 3 日 : 中長期開門調査検討会議最終報告 ( 中長期開門調査の実施の困難性を示唆 ). 佐賀地裁が工事差し止め仮処分を決定. 佐賀地裁判決に対し, 国が福岡高裁に抗告. 福岡高裁は, 佐賀地裁の判決を取り消す. 漁業者は最高裁へ控訴. 最高裁は福岡高裁の判決を支持. 漁業者は訴訟の内容を干拓工事差し止めから潮受け堤防撤去に変更. 佐賀地裁に提訴. 諫早湾干拓工事完工. 小長井, 大浦の漁業者が開門と損害賠償を求めて長崎地裁に提訴 ( 第 1 次訴訟 ). 佐賀地裁判決 (3 年以内に5 年間の排水門の開放を国に命じる判決 ). 国が判決を不服として福岡高裁に控訴. 農水省内に諫早湾干拓事業検討委員会設置.

5 2010 年 3 月 11 日 : 2010 年 4 月 14 日 : 2010 年 12 月 6 日 : 2010 年 12 月 15 日 : 2010 年 12 月 21 日 : 2011 年 3 月 29 日 : 2011 年 4 月 19 日 : 2011 年 6 月 27 日 : 2011 年 7 月 8 日 : 小長井, 国見, 瑞穂漁協の漁業者が排水門の開門. を求めて長崎地裁に提訴 ( 第 2 次訴訟 ). 諫早湾干拓事業検討委員会は, 赤松農水大臣に環境評価を行ったうえで開門調査を行うことが望ましいと答申. 福岡高裁控訴審において佐賀地裁の判決が認められる. 菅首相が上告を断念. 福岡高裁控訴審判決が確定. 開門調査の実施が決定. 小長井, 瑞穂漁協の漁業者が, 排水門の即時開門を求めて長崎地裁に提訴. 長崎県農業振興公社などが開門差し止めを求めて長崎地裁に提訴. 長崎地裁第 1 次 ( 小長井大浦 ) 訴訟判決 ( 開門認めず, 一部損害賠償を認める ). 国も原告漁業者も長崎地裁第 1 次訴訟の判決を不服として福岡高裁に控訴.

6 Ⅱ. 海苔漁場と生産量の推移 Saga 33º N Isahaya Bay shut down wall Ariake Sea º E Fukuoka N Kumamoto 2000 年 12 月 Nagasaki 32º N 30km Pillar type Float type

7 Ⅲ. 研究成果のレビュー 2000 年 12 月に有明海奥部で発生した大規模な海苔の色落ち問題を契機に, 諫早湾干拓事業と有明海の環境変化との因果関係を明らかにするための調査研究が精力的に行われ始めた. 多くの研究者たちは, 仮説有明海奥部では, 諫早湾干拓事業によって潮汐振幅が減少し, 潮流速が弱まり, 海水交換が低下したのではないか. また, 底泥からの巻き上げによる浮泥の濃度が減少し, 透明度が増したため一次生産が活性化したのではないか. そして, それが有機汚濁を促進し, 貧酸素水塊の大規模化を引き起こしているのではないか? に基づいて, 研究調査を開始した.

8 沿岸の開発異常気象汚染負荷の増大干拓埋め立て河川事業ダム河口堰河川改修採砂有明海の体質低下透明度の上昇歴史的赤潮の大発生とノリの大凶作赤潮発生の基本場形成ノリ生産の地域的衰退, 品質低下, 労働強化底魚とクルマエビ資源の衰退外海の潮汐減少諫早湾干拓事業堤防閉め切り干拓埋め立て閉鎖的淡水湖浚渫. 採砂各種工事作業潮汐潮流の減少流出河川水の輸送経路変化調整池の汚濁化渡り鳥の中継越冬地の消失表層の密度成層強化巨大な汚濁負荷生成システム底層の貧酸素化底質の泥化細粒化タイラギ資源の衰退汚濁に強い底生生物の異常繁殖有明海異変システム ( 宇野木佐々木, 海の研究 (2007 年 ) から )

9 潮汐振幅が変わらないとした場合の潮受け堤防建設による入退潮量の減少率 ( 小松ら,2006)

10 諫早湾干拓事業によって有明海奥部の潮汐振幅は減少したのか? 有明海奥部の大浦における M2 潮の振幅は, 潮受け堤防建設前後において 3cm 以上減少している.{ 安田 :2006) 灘岡花田 ( 海講 :2002) 有明海の潮汐振幅減少の要因を調べ, 有明海内の海水面積の減少は 40-50% の寄与, 平均水位の上昇は非常に小さい, 外洋潮汐振幅の減少は 50-60% の寄与であることを示した. 宇野木 ( 海の研究 :2003) 有明海の潮汐振幅減少の要因を調べ, 有明海内の海水面積の減少は 50% の寄与, 平均水位の上昇は 10% の寄与, 外洋潮汐振幅の減少は 40% の寄与であることを示した. 田井 ( 九大学位論文 :2010) 有明海の潮汐振幅減少の要因を調べ, 大部分は外洋潮汐振幅の減少で説明される. 潮汐振幅の減少が有明海奥部の環境異変を引き起こしたとするならば, その主要因は外洋潮汐振幅の減少によるものと判断される.

11 SS(mg/l) 透明度 (m) 諫早湾干拓事業によって有明海奥部の透明度は上がったのか? 1997 年透明度は経年的に単調増加傾向にあり,SSは経年的に単調減少の傾向にある. 透明度の推移しかしながら ( 有明海平均, その傾向は ) 細線 :,1997 実測, 太線年以前から : 移動平均認められており熊本県水産研究センター研究報告, 諫早湾干拓事業との因果関 ( 山形ら,2008) 係は小さい年佐賀 SS の推移 : 点 : 実測データ, 細線 : 近似線第 9 回有明海八代海総合調査評価委員会報告, 資料 6-1

12 諫早湾干拓事業により有明海奥部の赤潮の発生頻度と規模は増加したのか? 佐賀県の傾向 1997 年水産庁九州漁業調整事務所による九州海域の赤潮から佐賀県では赤潮の発生件数が 1997 年付近から増加しているとみなせるが... 福岡県は少し異なる傾向にある.

13 諫早湾干拓事業により貧酸素水塊の発生頻度と規模は増加したのか? 熊本県立大学環境共生学部環境資源学科海洋生態学研究室ホームページ ( 海の研究 ( 堤ら,2007)) 有明海奥部では貧酸素化が進行している.

14 潮汐振幅の減少が有明海奥部の環境異変を引き起こしたとするならば, その主要因は外洋潮汐振幅の減少によるものと判断される. 透明度は経年的に単調増加傾向にあり,SS は経年的に単調減少の傾向にある. しかしながら, その傾向は,1997 年以前から認められており, 諫早湾干拓事業との因果関係は小さい. 佐賀県では赤潮の発生件数が 1997 年付近から増加しているとみなせそう. 有明海奥部では貧酸素化が進行している. Ⅳ. 研究成果有明海奥部の環境悪化は認められるが, 干拓事業によって潮流が弱化し, 透明度が上昇したというシナリオは破綻しているのではないか?

15 開門調査の目的は? 開門調査を行うに当たっての仮説は? 諫早湾の開門調査を進めるにあたって, 科学者は何が明らかになるかを社会に対して明示する責任がある. 仮説を立てて調査研究を行わなければ有明海の環境異変の原因は解明できない. 開門調査では有明海の環境異変の原因解明という本質的目標を見失っている.

16 有明海環境異変に関するシナリオは他にないのか? 1000 億円を使う前に確かめることはないのか?

17 佐賀大学名誉教授林重徳先生の仮説酸処理剤の使用が有明海の底生生物を死滅させ, 有明海の水質浄化能力を低下させた. これにより, 赤潮の発生頻度と規模が増加し, 貧酸素水塊の発生頻度も増加した.

18 有明海異変と海苔生産量および貝類漁獲量の推移海苔生産量貝類漁獲量 ( 千トン ) 酸処理剤の普及水産庁通達に基づく酸処理開始 ( 福岡県熊本県 ) 海苔の生産量諫早干拓試験工事の着工諫早干拓本工事の着工酸処理開始 ( 佐賀県 ) 潮受け堤防締切り海苔大凶作 20 貝類の漁獲量 S50 S55 S60 H1 H5 H10 H15 図 1 有明海における貝類漁獲量並びに海苔生産量の推移 ( : 林作成 ) 九州及び東シナ海地域における漁業動向 ( 九州農政局統計情報部 ) に基づき作図昭和 59 年以降の海苔生産量は養殖年統計他は暦年統計による

19 < 干潟底質 (10cm) における AVS の経年変化 (H14 H18) と酸処理剤 ( 海苔活性剤 ) におけるリン含有率の推移 >( 林重徳教授のスライドより ) 深度 10cm における AVS 値平成 14 年平成 15 年平成 16 年平成 17 年平成 18 年平成 13 年度リン含有率 :10% 14% 年間使用酸処理剤の総量 :2,800 2,900t リンの全投棄量 ( 年間 ): t 経時 ( 月 ) 海苔業関係者による自主規制平成 14 年度平成 15 年度平成 16 年度 17 年度リン含有率 5% リン含有率 4% リン含有率 3% t t 82 84t 平成 18 年度 12 月頃より新酸処理剤登場

20 再生研究の総括有明海再生のために何を為すべきか? ( 林重徳教授のスライドより ) 1 干潟再生底質改善事業の拡大促進 2 多様な二枚貝の増養殖事業の拡大促進 3 酸処理剤等の適正管理 { リン含有率の抑制乳酸硝酸塩の禁止中立的審査機関の設立 ) 4 海苔の適正養殖量 ( 規模面積と最適区域等 ) の検討 5 海苔生産の量から質への転換 6 諫早干拓事業調整池等の影響調査と改善策の検討 7 航路や澪筋等の底泥浚渫 8 上流域針葉樹林の間伐促進と広葉樹林への転換 9 流域の総合水管理とダム河口堰の効果的放流管理潮受け堤を長期開門しても有明海の再生はない!

21 2011 年 8 月 8 日朝日新聞朝刊より

22 Ⅴ. 結論我々の目標は, 有明海の環境再生である. 有明海環境異変の主要因として, 酸処理剤の使用が考えられるとするならば, 開門調査の前に, その可能性についてまず確認すべきではないか. この調査研究や対策事業にかかる費用は明らかに 1000 億円以下である. もしこのシナリオが正しかった場合, 有明海の環境を悪化させた加害者は海苔養殖業者となり, この問題は, 漁業者間で解決しなければならない環境問題となる. 一般に, 環境は急激で大きな物理変動よりも人類による少量の化学物質の使用によって引き起こされる ( 松永の経験 ). 有明海の生態系は, これまで数億年の厳しい環境変化に耐え抜いてきたものであり, 物理的環境変動に対し強い適応能力を持つ. しかしながら, 化学反応は分子レベルの速い反応であり, 物質循環に乗らない化学物質は生態系に大きな負荷を与える.

Microsoft Word - 資料2-2

Microsoft Word - 資料2-2 ) 底質中の有機物の増加主要な要因を中心とした連関図における現状の確認結果を表.. に示すその結果をまとめて図.. に示す表及び図中の表記は ) 底質の泥化と同様である表.. 底質中の有機物の増加についての現状の確認結果 ( 案 ) ノリの生産活動底質中の有機物の増加検討中である栄養塩の流入有機物の流入底質中の有機物の増加ベントスの減少底質中の有機物の増加堆積物食者である底生生物が減少することで底質中の有機物が多くなると考えられる