Microsoft PowerPoint - 【資料6】高齢者の腎機能低下時の薬物投与と薬物相互作用の考え方(大野)3

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Ⅰ. 改訂内容 ( 部変更 ) ペルサンチン 錠 12.5 改 訂 後 改 訂 前 (1) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本剤の作用が増強され, 副作用が発現するおそれがあるので, 併用しないこと ( 過量投与 の項参照) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本

学術委員会学術第 1 小委員会 慢性腎臓病(CKD) 患者への適正な薬物療法に関する調査 研究 ~ 腎機能低下患者への投与に関係する添付文書記載の問題点の調査 ~ 委員長東京薬科大学薬学部医療実務薬学教室竹内裕紀 Hironori TAKEUCHI 委員白鷺病院薬剤科和泉智 Satoshi IZUM

添付文書の薬物動態情報 ~基本となる3つの薬物動態パラメータを理解する~

本書の読み方 使い方 ~ 各項目の基本構成 ~ * 本書は主に外来の日常診療で頻用される治療薬を取り上げています ❶ 特徴 01 HMG-CoA 代表的薬剤ピタバスタチン同種同効薬アトルバスタチン, ロスバスタチン HMG-CoA 還元酵素阻害薬は主に高 LDL コレステロール血症の治療目的で使 用

相互作用DB

2. 改訂内容および改訂理由 2.1. その他の注意 [ 厚生労働省医薬食品局安全対策課事務連絡に基づく改訂 ] 改訂後 ( 下線部 : 改訂部分 ) 10. その他の注意 (1)~(3) 省略 (4) 主に 50 歳以上を対象に実施された海外の疫学調査において 選択的セロトニン再取り込み阻害剤及び

オクノベル錠 150 mg オクノベル錠 300 mg オクノベル内用懸濁液 6% 2.1 第 2 部目次 ノーベルファーマ株式会社

別紙様式 (Ⅱ)-1 添付ファイル用 商品名 : イチョウ葉脳内 α( アルファ ) 安全性評価シート 食経験の評価 1 喫食実績による食経験の評価 ( 喫食実績が あり の場合 : 実績に基づく安全性の評価を記載 ) 弊社では当該製品 イチョウ葉脳内 α( アルファ ) と同一処方の製品を 200

Microsoft Word - オーソ_201302_Final.docx

(2) 健康成人の血漿中濃度 ( 反復経口投与 ) 9) 健康成人男子にスイニー 200mgを1 日 2 回 ( 朝夕食直前 ) 7 日間反復経口投与したとき 血漿中アナグリプチン濃度は投与 2 日目には定常状態に達した 投与 7 日目における C max 及びAUC 0-72hの累積係数はそれぞれ

総論 2 腎不全患者に特徴的な薬物動態の変化 薬効 薬物名 商品名 尿中排泄率 (%) 副作用 リバビリン レベトール 50 骨髄抑制, 意識障害 禁忌 アマンタジン シンメトレル 90 不穏, せん妄, 幻視 禁忌 抗ウイルス薬 オセルタミビル タミフル 70( 活性代謝物 99 悪心, 嘔吐,

添付文書がちゃんと読める 薬物動態学 著 山村重雄竹平理恵子城西国際大学薬学部臨床統計学

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

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1)~ 2) 3) 近位筋脱力 CK(CPK) 高値 炎症を伴わない筋線維の壊死 抗 HMG-CoA 還元酵素 (HMGCR) 抗体陽性等を特徴とする免疫性壊死性ミオパチーがあらわれ 投与中止後も持続する例が報告されているので 患者の状態を十分に観察すること なお 免疫抑制剤投与により改善がみられた

葉酸とビタミンQ&A_201607改訂_ indd

添付文書情報 の検索方法 1. 検索条件を設定の上 検索実行 ボタンをクリックすると検索します 検索結果として 右フレームに該当する医療用医薬品の販売名の一覧が 販売名の昇順で表示されます 2. 右のフレームで参照したい販売名をクリックすると 新しいタブで該当する医療用医薬品の添付文書情報が表示され

院外処方箋の検査値活用法につ??

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

者における XO 阻害薬の効果に影響すると予測される 以上の議論を背景として 本研究では CKD にともなう FX および尿酸の薬物体内動態 ( PK ) 変化と高尿酸血症病態への影響を統合的に解析できる PK- 薬力学 (PD) モデルを構築し その妥当性を腎機能正常者および CKD 患者で報告さ

BSA(m 2 )= 体重 (kg) 身長 (cm) =1.27m 2 となり 173.6mL/min/1.73m 2 を 1.27m 2 である患者個人の腎機能に換算 ( で補正を外すと ) すると 127.4mL/min になりますが これでも実測 CCr

使用上の注意 1. 慎重投与 ( 次の患者には慎重に投与すること ) 1 2X X 重要な基本的注意 1TNF 2TNF TNF 3 X - CT X 4TNFB HBsHBcHBs B B B B 5 6TNF 7 8dsDNA d

TDMを活用した抗菌薬療法

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抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

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SC-85X2取説


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ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

タペンタ 錠 25mg タペンタ 錠 50mg タペンタ 錠 100mg に係る 販売名 タペンタ 錠 25mg タペンタ 錠 50mg 医薬品リスク管理計画書 (RMP) の概要 有効成分 タペンタ 錠 100mg 製造販売業者 ヤンセンファーマ株式会社 薬効分類 821 提出年月 平成 30 年

薬物動態開発の経緯 特性製品概要臨床成績副作用 mgを空腹時に単回経口投与副作用また 日本人及び白人健康成人男性において アピキサバン 薬物動態薬物動態非臨床試験に関する事項非臨床試験に関する事項1. 血中濃度 (1) 単回投与 (CV185013) 11) 日本人健康成人男性

用法・用量DB

腎薬ニュース第 5 号 (2007 年 6 月 ;2012 年 1 月加筆修正 ) 熊本大学薬学部臨床薬理学分野平田純生 添付文書どおり腎機能に基づいた投与量にしても起こるアシクロビル中毒の原因は? 1. アシクロビル中毒の症状は? 慢性腎臓病 (CKD) 患者に頻発するアシクロビル バラシクロビル

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

減量・コース投与期間短縮の基準

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薬物動態開発の経緯 特性製品情報(3) 薬物動態に対する食事の影響 ( 外国人データ )(B66119)12) 品情報臨床成績臨床成績薬物動態薬物動態薬効薬理薬効薬理一般薬理 毒性一般薬理 毒性(2) 反復投与 (CV18546) 11) 日本人健康成人男性 6 例に アピキサバン 1 回 2.5

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Epilepsy2015

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あった AUCtはで ± ng hr/ml で ± ng hr/ml であった 2. バイオアベイラビリティの比較およびの薬物動態パラメータにおける分散分析の結果を Table 4 に示した また 得られた AUCtおよび Cmaxについてとの対数値

医薬品の添付文書等を調べる場合 最後に 検索 をクリック ( 下部の 検索 ボタンでも可 ) 特定の文書 ( 添付文書以外の文書 ) の記載内容から調べる場合 検索 をクリック ( 下部の 検索 ボタンでも可 ) 最後に 調べたい医薬品の名称を入力 ( 名称の一部のみの入力でも検索可能

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これわかWord2010_第1部_ indd

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腎機能を有効かつ安全な薬物療法に活かす

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DRAFT#9 2011

リバーロキサバンの場合では? (2012年承認、国際共同治験では無い)

Cpk=36.5 μg/ml =0.99 meq/l Cav=27.9 μg/ml =0.75 meq/l Ctr=20.7 μg/ml = 0.56 meq/l 4) 躁病治療の有効血中濃度は 0.3~1.2mEq/L であるが この投与量で治療効果が得られるか? Li は 2 分子含まれているの

平成18年版 男女共同参画白書

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( 別添 ) 御意見 該当箇所 一般用医薬品のリスク区分 ( 案 ) のうち イブプロフェン ( 高用量 )(No.4) について 意見内容 <イブプロフェン ( 高用量 )> 本剤は 低用量製剤 ( 最大 400mg/ 日 ) と比べても製造販売後調査では重篤な副作用の報告等はない 一方で 今まで

日本医薬品安全性学会 COI 開示 筆頭発表者 : 加藤祐太 演題発表に関連し 開示すべき COI 関連の企業などはありません

用法 用量 発作性夜間ヘモグロビン尿症における溶血抑制 mg mg mg mg kg 30kg 40kg 20kg 30kg 10kg 20kg 5kg 10kg 1900mg mg mg mg

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

プレバイミス錠240mg

プラザキサ服用上の注意 1. プラザキサは 1 日 2 回内服を守る 自分の判断で服用を中止し ないこと 2. 飲み忘れた場合は 同日中に出来るだけ早く1 回量を服用する 次の服用までに 6 時間以上あけること 3. 服用し忘れた場合でも 2 回量を一度に服用しないこと 4. 鼻血 歯肉出血 皮下出

緒言

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第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

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使用上の注意改訂のお知らせ スピーゲル

を用いる必要があります Du Bois の式を用いて体表面積を計算すると 3) BSA(m 2 )= 体重 (kg) 身長 (cm) =1.27m 2 となり 173.6mL/min/1.73m 2 を 1.27m 2 である患者個人の腎機能に換算 ( で補正

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2006 年 3 月 3 日放送 抗菌薬の適正使用 市立堺病院薬剤科科長 阿南節子 薬剤師は 抗菌薬投与計画の作成のためにパラメータを熟知すべき 最初の抗菌薬であるペニシリンが 実質的に広く使用されるようになったのは第二次世界大戦後のことです それまで致死的な状況であった黄色ブドウ球菌による感染症に

モビコール 配合内用剤に係る 医薬品リスク管理計画書 (RMP) の概要 販売名 モビコール 配合内用剤 有効成分 マクロゴール4000 塩化ナトリウム 炭酸水素ナトリウム 塩化カリウム 製造販売業者 EA ファーマ株式会社 薬効分類 提出年月 平成 30 年 10 月 1.1. 安全

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egfr(ml/min/1.73 m2 ) が標準体形に補正してある意義は何か? 小柄な体格の方は体格なりの小さな GFR で十分なのに 体表面積未補正値を用いると腎機能を過小評価して分類されてしまうことを防ぐためです かつては日本人の体表面積は 1.49m 2 が用いられていましたが 国際的に 1

活用ガイド (ソフトウェア編)


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デベルザ錠20mg 適正使用のお願い

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注意欠陥 / 多動性障害治療剤 ( 選択的ノルアドレナリン再取り込み阻害剤 ) アトモキセチン塩酸塩カプセル 22100AMX AMX AMX AMX

福岡大学薬学部薬学疾患管理学教授

2017 年 9 月 画像診断部 中央放射線科 造影剤投与マニュアル ver 2.0 本マニュアルは ESUR 造影剤ガイドライン version 9.0(ESUR: 欧州泌尿生殖器放射線学会 ) などを参照し 前マニュアルを改訂して作成した ( 前マニュアル作成 2014 年 3 月 今回の改訂

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未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

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資料 6 高齢者の腎機能低下時の薬物投与と薬物相互作用の考え方 東京大学医学部附属病院薬剤部 大野能之 1 高齢者における薬物動態変化 吸収 分布 加齢に伴う生理学的変化 消化管運動機能低下消化管血流量低下胃内 ph 上昇 体脂肪率増大 体内水分量減少 血漿中アルブミン濃度低下 一般的な薬物動態の変化 最高血中濃度到達時間延長 ( 薬剤によっては血中濃度上昇あるいは低下 ) 脂溶性薬物の分布容積増大 水溶性薬物の分布容積減少 酸性薬物の蛋白結合率低下 代謝 肝重量減少肝血流量低下 肝クリアランス低下 相互作用の影響も重要 薬物代謝酵素活性低下 腎血流量低下 排泄 糸球体濾過量低下尿細管分泌低下 腎クリアランス低下 特に影響大特に重要 2

薬物のクリアランスは主に肝クリアランスと腎クリアランスである薬物の血中曝露量 (AUC) は投与量とクリアランスに依存する薬物の効果や副作用の多くは AUC に依存する 薬物投与量 全身クリアランス CL tot (L/h)= Dose(mg) AUC(h mg/l) 腎機能低下や薬物相互作用によるクリアランス変化の程度の評価が重要 血中濃度曲線下面積 ( 血中曝露量 ) 3 全身クリアランス (CL tot ) の変化 CL tot の残存率 = 1 - ( その経路の寄与率 低下率 ) 腎排泄寄与率 (RR) 肝代謝寄与率 CYP3A4 寄与率 (CR) 1. AUC を変化前後で一定にするなら 投与量 (D) を CL tot 残存率 倍に減らすか投与間隔 (τ) を 1/(CL tot 残存率 ) 倍に延長する 2. 変化前後で投与量を変更しなかったら AUC は 1/(CL tot 残存率 ) 倍に上昇する 腎機能低下率 CYP3A4 阻害率 (IR) 4

プラザキサカプセル ( ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩製剤 ; 抗凝固剤 ) の禁忌 5 発売 5 ヵ月後 6

ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩製剤の重篤な出血例 139 例中 76 例は腎障害を有していた 表. 重篤な出血例における腎障害の程度 禁忌の腎機能が 22 例もあり 死亡例が最も多い 表. CCr30mL/min 未満のかつ egfr が 30mL/min/1.73m 2 以上であった症例一覧 高齢で低体重の患者は CCr と egfr の乖離が大きい 市販直後調査最終報告 7 egfr(ml/ 分 /1.73 m 2 ) =194 Cr -1.094 Age -0.287 ( 女性はこれに 0.739) GFR 推算式は 1.73m 2 あたりの GFR の推測値薬物投与の判断の際には体表面積補正を外した e-gfr を用いる必要がある (/body の投与量の場合 ) eccr(ml/ 分 )CG(Cockcroft&Gault) 式 =(140 - 年齢 ) 体重 /(72 Cr) ( 女性はこれに 0.85) /body の CCr の推測値添付文書やガイドライン等で記載されている腎機能の多くが Cockcroft&Gault 式に基づく CCr なお 血清クレアチニン (Cr) は筋肉量の影響を受ける 痩せた患者などでは Cr が低くなり Cr により計算される egfr や eccr は過大評価されやすい シスタチン C(Cys-C) による egfr(egfrcys) は筋肉量の影響を受けないため 筋肉量の低下した患者で有用である 8

薬物の腎排泄寄与率 (RR) の評価 RR CL CL r total f F e CL r : 薬物の腎クリアランス CL total : 薬物の静脈内投与時の全身クリアランス f e : 投与量に対する薬物の未変化体 ( あるいは薬理活性体 ) としての尿中排泄率 F : 薬物のバイオアベイラビリティ ( 投与量に対する全身循環血に移行した割合 ) 9 添付文書の慎重投与と薬物動態の記載例 薬剤名トリアゾラム錠 ( ハルシオン ) アテノロール錠 ( テノーミン ) 慎重投与 腎障害のある患者 重篤な腎障害のある患者 [ 薬物の排泄が影響をうける可能性があるため クレアチニン クリアランス値が35mL/ 分 糸球体ろ過値が35mL/ 分以下の場合は投与間隔をのばすなど 慎重に投与すること ] 薬物動態 外国人データでは 経口投与時の吸収率は少なくとも85% である 代謝物は主として α- hydroxytriazolam と 4- hydroxytriazolamである 前者は未変化体より弱い活性を有するが血漿中濃度は低く 後者は活性がない 排泄パターンは尿中排泄型であり 総排泄率は尿中 82% 糞便中 8% である 尿中への排泄は速やかで 投与後 10 時間及び24 時間までの排泄率は尿中総排泄率の各々 73% 及び94% である 放射能としての値であり 代謝物を含む 主な活性は未変化体 未変化体としての尿中排泄はほとんどない 吸収 : 約 50% が消化管から吸収された ( 英国での成績 ) 肝臓で初回通過効果を受けずに体循環に入る 代謝 : アテノロールは肝臓でほとんど代謝を受けないが 健康男子にアテノロールを経口投与した場合 グルクロン酸抱合体 アミド側鎖の水酸化体等をわずかに生成する ( 英国での成績 ) 排泄 : 健康男子にアテノロールを経口投与した場合 尿中 糞中から投与量のそれぞれ約 50% が回収されたが その約 90% は未変化体であった ( 英国での成績 ) 吸収された 50% のうちの 50% 主な活性は未変化体 未変化体としての尿中排泄は 90% 10

腎排泄寄与率 (RR) を評価する際の注意点 代謝物を含む放射活性による値ではなく 未変化体の尿中排泄率を使う バイオアベイラビリティのデータを確認する 腎臓から排泄される代謝物に薬効や毒性がある場合は別途考慮する 生体内からの排泄が終了するまでの時間を十分にとって観察したデータを使う 11 補正定数 G=0.25 で通常 1 日 2 回投与の薬剤の場合 ( 例 : 腎排泄寄与率が 100% で腎機能が 1/4 に低下している患者 ) 血中薬物濃度 (ng/ml) 35 30 25 20 15 10 1 回量を 1/4 に減量 腎機能正常者 (1) 投与量調整 定常状態での平均血中薬物濃度 5 0 0 24 48 72 96 120 時間 (hr) 1 回投与量の減量 血中曝露量 (AUC) 及び平均濃度は同じになるが 速やかに治療域濃度に達しない ピーク濃度は低く トラフ濃度は高くなる 12

補正定数 G=0.25 で通常 1 日 2 回投与の薬剤の場合 ( 例 : 腎排泄寄与率が 100% で腎機能が 1/4 に低下している患者 ) 血中薬物濃度 (ng/ml) 35 30 25 20 15 10 投与間隔を 4 倍に延長 腎機能正常者 (2) 投与間隔調整 定常状態での平均血中薬物濃度 5 0 0 24 48 72 96 120 時間 (hr) 投与間隔の延長 血中曝露量 (AUC) 及び平均濃度 ピーク濃度 トラフ濃度は同様になるが 服薬コンプライアンスや投薬指示間違いのリスクへの影響を考慮 13 複数の薬剤を処方されている患者の 60% に相互作用の可能性がある Egger SS, et al. Eur J Clin Pharmacol 58, 773-8 (2003) 医薬品有害事象は入院原因の 6.5% であり そのうちの 17% は相互作用が原因 Pirmohamed M, et al. BMJ 329, 15-9 (2004) 14

薬物間相互作用の実態の分類 (CYP) (Pharma Tribune Vol.1 No.3 より掲載 ) (A) 相互作用 (n=256) を機構別に分類した結果. (B) 代謝部位における相互作用 (n=100) を代謝酵素別に分類した結果. (C) チトクロム P450(CYP) を介した相互作用 (n=96) を機構別に分類した結果. 千葉寛, ファルマシア, 1995. 31(992-6) 15 ボリコナゾール ( ブイフェンド ) の添付文書における相互作用の記載 併用禁忌 ( 併用しないこと ) 薬剤名等臨床症状 措置方法機序 危険因子 トリアゾラム 併用注意 ( 併用に注意すること ) 薬剤名等臨床症状 措置方法機序 危険因子 HMG-CoA 還元酵素阻害薬 本剤との併用により トリアゾラムの血中濃度が増加し 作用の増強や作用時間延長を引き起こすおそれがある 本剤との併用により これらの薬剤の血中濃度が増加するおそれがある 相互作用の程度は本剤はトリアゾラムの代? 他の睡眠薬との相互作用は謝酵素 ( CYP3A4 ) を阻? HMG-CoA 害する 還元酵素阻害薬はすべて同程度の注意? ( 一部抜粋 ) In Vitro 試験において 本剤はこれらの薬剤の代謝酵素 (CYP3A4) を阻害した 16 ( 一部抜粋 )

理論 CR CYP3A4 : 基質薬の経口クリアランスに CYP3A4 が寄与する割合 (Contribution ratio) IR CYP3A4 : 阻害剤の時間平均としての CYP3A4 の見かけの阻害率 (Inhibition ratio) 相互作用による血中濃度 AUC の増加が下式で得られる AUC ratio = 1 1-CR CYP3A4 IR CYP3A4 CR と IR の値から AUC 上昇率が計算可能 AUC 上昇率の値から CR と IR の計算が可能 Ohno et al, Clin Pharmacokinet, 2007: 46: 681-696 17 CYP3A4 の基質薬の CR CYP3A4 と阻害薬の IR CYP3A4 CYP3A4 のクリアランスへの寄与率 (CR CYP3A4 ) CYP3A4 の阻害率 (IR CYP3A4 ) 基質薬 シンバスタチン ロバスタチン ブスピロン ニソルジピン トリアゾラム ミダゾラム フェロジピン シクロスポリン ニフェジピン アルプラゾラム アトルバスタチン テリスロマイシン ゾルピデム セリバスタチン 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 阻害薬 ケトコナゾール (200-400mg) ボリコナゾール (400mg) イトラコナゾール (100-200mg) テリスロマイシン (800mg) クラリスロマイシン (500-1000mg) サキナビル (3600mg) ネファゾドン (400mg) エリスロマイシン (1000-2000mg) ジルチアゼム (90-270mg) フルコナゾール (200mg) ベラパミル (240mg-480mg) シメチジン (800-1200mg) ラニチジン (300-600mg) ロキシスロマイシン (300mg) フルボキサミン (100mg-200mg) アジスロマイシン (250-500mg) ガチフロキサシン (400mg) フルオキセチン (20-60mg) 0 0.2 0.4 0.6 0.8 1.0 Ohno et al, Clin Pharmacokinet, 2007: 46: 681-696 18

代謝酵素の寄与率 (CR) と阻害率 (IR) による CYP3A4 を介する薬物間相互作用の網羅的予測 CYP3A4 の典型的基質 / 阻害薬の in vivo の相互作用の AUC 変化から 他の多くの薬物間相互作用を予測 25 :CR3A4 あるいは IR3A4 の算出に用いた相互作用 : 予測精度の検証に用いた相互作用 2/3 の組み合わせは相互作用試験が行われていない 予測して評価するしかない 5 AUC 上昇比の予測値 ( 倍 ) 1 Ohno et al, Clin Pharmacokinet, 2007: 46: 681-696 19 添付文書だけでは完全に網羅した注意喚起に限界がある CYP3A4 の基質薬と阻害薬を併用したときの AUC 上昇度と添付文書の注意喚起 ClinPharmacokinet2009;48:653-66. より一部改変引用 添付文書の区分は 研究当時のもの 20

AUC 変化の予測の区分に基づく相互作用の注意喚起の提案 (PISCS:Pharmacokinetic Drug Interaction Significance Classification System) 基質 CR 阻害薬 IR 0.9< 0.8-0.89 0.7-0.79 0.5-0.69 0.3-0.49 0.1-0.29 very selective (VS) selective (S) slightly selective (SS) moderate (M) weak (W) very weak (VW) 区分 I II スタチン Ca 拮抗薬 禁忌 ベンゾジアゼピン 禁忌 0.9< 0.8-0.89 very strong (VS) strong (S) 13.9 5.4 3.5 2.4 1.6 1.2 5.4 3.7 2.8 2.1 1.5 1.2 III IV V 注意 注意 0.7-0.79 slightly strong (SS) 0.5-0.69 moderate (M) 3.5 2.8 2.3 1.8 1.4 1.2 2.4 2.1 1.8 1.6 1.3 1.1 VI VII VIII なし なし 0.3-0.49 weak (W) 1.6 1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 IX 0.1-0.29 very weak (VW) 1.2 1.2 1.2 1.1 1.1 1.0 表中の数値は 各分画内の AUC 上昇比の予測平均値 を示す d c b a 1 1 変数 a, b は CR の境界の値 c, d は IR の境界の値 S は a, b, c, d による分画の面積 CR dcr IR dir / S Hisaka et al, Clin Pharmacokinet, 48: 653-66, 2009 21 CYP3A4 の阻害による相互作用の PISCS による注意喚起の区分例 ( スタチン ) シンバスタチン CRCYP3A4:1.00 アトルバスタチン CRCYP3A4:0.68 プラバスタチン CRCYP3A4:0.35 ボリコナゾール IRCYP3A4:0.98 基質薬の寄与率基質薬の寄与率 CR CR イトラコナゾール IRCYP3A4:0.95 エリスロマイシン IRCYP3A4:0.82 アジスロマイシン IRCYP3A4:0.11 害薬の阻害阻率0.5~0.69 2.4 2.1 1.8 1.6 1.3 1.1 0.9< 14 5.4 3.5 2.4 1.6 1.2 >0.9 0.9< 0.89~0.8 0.8~0.89 0.79~0.7 0.7~0.79 0.69~0.5 0.5~0.69 0.49~0.3 0.3~0.49 0.1~0.29 0.8~0.89 5.4 禁忌に相当 3.7 2.8 2.1 1.5 1.2 0.7~0.79 3.5 2.8 2.3 注意に相当 1.8 1.4 1.2 IR 注意なしに相当 0.3~0.49 1.6 1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 0.3~0.49 1.6 1.5 1.4 1.3 1.2 1.1 0.1~0.29 1.2 1.2 1.2 1.1 1.1 1.0 各セルの中の数値は基質薬のAUCの上昇比の予測値 鈴木洋史監修 ; これからの薬物相互作用マネジメント ( じほう ) 22

PISCS の活用例 薬剤師の回答 : ブロチゾラムとの相互作用の報告は無く 添付文書上でも注意喚起されていませんが ブロチゾラムも CYP3A4 の寄与が高い薬剤であり 6 倍程度の血中濃度 AUC の上昇が予測され 併用は避けるべきと考えられます 超短時間型のゾルピデムであれば 1.5 倍程度の上昇ですので 少量から注意しながら使用することは可能であると考えられます 睡眠導入剤 アゾール系抗真菌薬 ボリコナゾール ( ブイフェンド ) IR CYP3A4 :0.98 IR CYP2C9 :0.51 トリアゾラム ( ハルシオン ) CR CYP3A4 :0.93 添付文書 AUC 上昇率 ゾルピデム ( マイスリー ) CR CYP3A4 :0.40 CR CYP2C9 :0.61 添付文書 AUC 上昇率 ゾピクロン ( アモバン ) ブロチゾラム ( レンドルミン ) リルマザホン ( リスミー ) ロルメタゼパム ( ロラメット ) CR CYP3A4 :0.44 CR CYP3A4 :0.85 CR CYP3A4 : 非常に低い CR CYP3A4 : ほとんどない 添付文書 AUC 上昇率 添付文書 AUC 上昇率 添付文書 AUC 上昇率 添付文書 AUC 上昇率 禁忌 (11.3 倍 ) ( 注意 ) 1.5 倍注意 (1.8 倍 ) (6.0 倍 ) (1.4 倍 ) (1.0 倍 ) は添付文書に記載なし ( ) の添付文書の記載は阻害薬の添付文書のみの記載 ( ) の AUC 上昇率は予測値枠内の色は予測される AUC 上昇率から評価される注意喚起の程度を示す : 禁忌に相当 (AUC 4 倍以上 ) : 注意に相当 (AUC 1.5~4 倍 ) : 記載なしに相当 (AUC 1.5 倍未満 ) 23 相互作用回避のために代替薬を検討する際の注意点 臨床効果の相違 ( 代替薬への変更により同等の臨床効果が得られるか?) 副作用の相違 ( 代替薬への変更による副作用の発現の可能性はないか?) 適応症の相違 ( 代替薬は同じ適応症を有しているか?) 使用上の注意点の相違 ( 代替薬への変更により使用上の注意点に違いはないか?) 薬物動態上の相違 ( 例えば代替薬が腎排泄の場合 腎障害患者ではないか?) 他のメカニズムによる相互作用の可能性 ( 代替薬が他の併用薬と相互作用を起こす可能性は?) 24

臨床ガイドラインは複数疾患併存患者への考慮を多くの疾病ガイドラインで薬物療法を推奨しているが 他疾患を併存する場合を想定した薬物 - 疾病相互作用 ( 特に腎障害時の薬物療法 ) あるいは薬物 - 薬物相互作用についての体系的なアプローチを考慮すべきである 多くの潜在的に深刻な相互作用は 情報に基づいた薬物選択を行うためのガイドラインの作成と普及のために インタラクティブなアプローチを必要とする BMJ 2015;350:h949 25