というもので これまで十数年にわたって使用されてきたものになります さらに 敗血症 sepsis に中でも臓器障害を伴うものを重症敗血症 severe sepsis 適切な輸液を行っても血圧低下が持続する重症敗血症 severe sepsis を敗血症性ショック septic shock と定義して

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2016 年 8 月 10 日放送 新しい敗血症の定義 慶應義塾大学救急医学教授佐々木淳一はじめに敗血症 英語では sepsis の定義が 2001 年以来 15 年ぶりに大きく改定されました 2016 年 2 月 22 日 第 45 回米国集中治療医学会 (SCCM) において 敗血症および敗血症性ショックの国際コンセンサス定義第 3 版 (Sepsis-3) が発表され 敗血症は 感染症に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害 と定義され この内容は JAMA 誌にも同時掲載されました 敗血症の定義の変遷 Sepsis の語源は 崩壊 腐敗 を意味するギリシャ語の septikos と言われ その概念は古くはヒポクラテスの時代から存在していました 現代では 1914 年に Schottmuller らが 敗血症は 微生物が局所から血流に侵入し 病気の原因となっている状態 という概念のもとに septicemia を定義しました この古い敗血症の概念は 現在 細菌 真菌などの病原微生物が血液中に侵入して生じるもの として定義されている菌血症 bacteremia 真菌血症 fungemia であり 現在の概念とは異なるものでした ここで敗血症の定義に関するこれまでの変遷について 少しお話し致しましょう 感染症 外傷 熱傷などの侵襲が生体に加わると炎症が生じます 本来 炎症反応は生体にとっては有益なはずでありますが それが過剰になると全身の臓器障害が惹起されます この過剰になった生体反応により惹起された状態を systemic inflammatory response syndrome(sirs) とする新しい概念と診断基準が 1991 年に示されました SIRS は日本語で 全身性炎症反応症候群 と訳されています これに先立ち 1989 年に Bone らは sepsis syndrome という概念を提唱しておりましたので この SIRS という新しい概念と診断基準をもとに 米国集中治療医学会と米国胸部医学会 (ACCP) が合同で発表した敗血症 sepsis の定義が 感染に伴って SIRS 診断基準を満たした状態

というもので これまで十数年にわたって使用されてきたものになります さらに 敗血症 sepsis に中でも臓器障害を伴うものを重症敗血症 severe sepsis 適切な輸液を行っても血圧低下が持続する重症敗血症 severe sepsis を敗血症性ショック septic shock と定義しています この定義には 全身性の炎症反応に焦点を当て バイタルサインを中心とした簡便な基準で幅広く敗血症を拾い上げるという利点があり この 感染症 +SIRS という組み合わせが敗血症の診断基準として広く用いられることとなりました ( 表 1)( 図 1) しかし 近年になり敗血症の病態生理の研究が進み 敗血症を単なる炎症だけではないという概念が広がってきました 現在では 敗血症には SIRS という炎症過剰 (pro-inflammatory) だけでなく CARS という免疫抑制 (antiinflammatory) の両方の活性化が関与しており さらに循環系 代謝系 神経系 凝固系など非免疫学的機序も影響を及ぼした複雑な病態であると考えられるようになりました また この 感染症 +SIRS という組み合わせによる敗血症の定義が 軽度の侵襲下の患者でも拾い上げてしまうこと 診断基準の特異度も高くないことが SIRS の問題として指摘されていました 簡単な例でお話しすると 運動をする 風邪を引くといった状態でも SIRS の診断基準を満たしてしまうということになります 2001 年の定義 2001 年になり 欧米の専門家による International Sepsis Definitions Conference が開催され 敗血症の定義が改定されました この定義では SIRS のみを診断基準として使用することをやめ 敗血症を 感染に起因する全身症状を伴った症候 と定義し

診断基準に SIRS の構成要素以外にも多数の項目が採用されました 国際的な敗血症診療ガイドラインである Surviving Sepsis Campaign Guidelines の第 3 版 (SSCG 2012) においても この 2001 年の定義が記載されています すなわち sepsis は感染による全身症状を伴った感染症による症候であり severe sepsis は sepsis に加えて sepsis に起因した臓器機能障害または組織低灌流と定義されています しかし 1991 年の定義と比べて診断基準の項目数が多く 診断基準をいくつ満たせばよいのかに関する明確な記載やカットオフ値の科学的根拠もなく 敗血症の診断に対する感度 特異度も 1991 年の定義と大きく変わらなかったため より簡便かつ客観的な 1991 年の定義が臨床現場や臨床研究で活用されていました さらに 臨床現場や学術論文などにおいて severe sepsis をいわゆる敗血症 sepsis として扱う混乱が多く見受けられた上に 敗血症の中でもより専門的なマネジメントを要する重症敗血症を定義の対象とすべきであり 敗血症は臓器障害のあることを前提にすべきである という指摘も出て 敗血症の定義を再度見直すことになりました ( 表 2)

このような敗血症に関連した変遷や経緯があり 敗血症の定義が 2001 年以来 15 年ぶりに大きく改定され 新定義 診断基準が 敗血症および敗血症性ショックの国際コンセンサス定義第 3 版 (Sepsis-3) として発表されました 敗血症は 感染症に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害 と定義され これまでの内容から大幅に変更されたものになりました 新定義 診断基準のポイントは 以下の 4 つにまとめられます 第 1 に 重症敗血症 severe sepsis という用語が消滅したこと 第 2 に 敗血症の診断基準に SOFA スコアを採用したこと 第 3 に ICU 以外では quick SOFA スコアを採用したこと 第 4 に 敗血症性ショックの定義に低血圧のほか細胞 代謝の異常を追加し 診断基準を明確にしたこと の 4 つのポイントについて もう少し詳しく解説したいと思います ( 表 3) 新定義 診断基準のポイントまず第 1 の重症敗血症 severe sepsis という用語の消滅についてです いわゆる旧定義の 感染に起因する全身症状を伴った症候 とした 臓器障害のない敗血症 は 新しい Sepsis-3 では取り扱われなくなり 新定義の敗血症は 感染症に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害 とされました 簡単に言うと 臓器障害を伴う病態のみを 敗血症 とし 新定義では重症敗血症 severe sepsis という用語を使用しなくなりました これにより 敗血症 sepsis と敗血症性ショック septic shock の二段階にのみ分類することになり シンプルになったと言えます 次に第 2 の敗血症診断基準への SOFA スコアの採用についてです SOFA スコアとは 臓器障害を簡便にスコア化し記述することを目的に作成されたスコアリングシステムで Sequential Organ Failure Assessment の略称になり 呼吸 凝固 肝機能 心血管 中枢神経 腎機能の 6 項目について それぞれ 0 から 4 点でスコアリングを行い その点数を合計します 今日の ICU では 主に研究目的として 臓器障害のスコアリングシステムとして世界的に広く普及しているもので 新診断基準ではこの SOFA スコアが採用されました 新診断基準作成においては 生命を脅かす臓器障害 という定義を反映したいという意図があり 院内死亡率の高さと関連する臓器障害の項目に注目して 大規模症例登録データベースを利用して検証研究が行われました その結果 死亡

リスクを評価するための臓器障害評価には SOFA が最適であるという結論になりました また SOFA スコアの 2 点以上の増加で院内死亡率が約 10% 増加することを根拠として 敗血症の診断基準は SOFA スコアのベースラインから 2 点以上の増加で 感染症が疑われるもの と決められました ( 図 2) 続いて第 3 の ICU 以外での quick SOFA スコアの採用についてです SOFA スコアは 臓器障害を簡便にスコアリングし記述できるツールとして ICU 内の患者を対象に作成されたものでした このため ICU 以外でこの診断基準を用いることが妥当であるか否かは不明で さらに SOFA スコアを正確に測定するには 動脈血液ガス分析を含めた血液検査が必要となり SOFA スコアを使用することは ICU 以外で迅速に敗血症を認知することには適していないと考えられました そこで SOFA スコアをつけることが困難と想定される場所 例えば救急外来 一般病棟などで敗血症を疑うためのより簡便なツールとして考案されたのが quick SOFA(qSOFA) スコアです qsofa スコアは意識 循環 呼吸に対応しながらも ベッドサイドで簡便に素早くスコアリングすることを目的にしており 多変量ロジスティック回帰解析により検出された独立因子である呼吸数 22 / 分以上 GCS(Glasgow Coma Scale)15 未満 すなわち意識レベルの変化あり 収縮期血圧 100mmHg 以下の 3 項目より構成されており この組み合わせは 救急外来 一般病棟などの患者に対して SOFA スコアより優れた予測死亡率を示していました これらのうち 2 項目以上を満たしている すなわち qsofa スコアが 2 点以上であれば 積極的に敗血症を疑い 臓器障害の評価を行うことが推奨されていますが 現時点では敗血症のスクリーニングに有用であるか否かは不明です ( 表 4)

最後に第 4 の敗血症性ショックの定義に低血圧のほか細胞 代謝の異常を追加し 診断基準を明確にしたことについてです 旧定義で 十分な輸液負荷にもかかわらず持続する低血圧を伴う敗血症 と定義されていた敗血症性ショック septic shock について 十分な輸液負荷 低血圧 が何を意味するのかが不明確であり 血圧のみで定義することが細胞 代謝の異常を伴う敗血症性ショックの病態を正確に反映していないと考えられるようになりました 十分な輸液負荷にもかかわらず平均動脈圧 65mmHg 未満 乳酸値の上昇 (>2mmol/L) 血管作動薬の使用の 3 項目が大規模症例登録データベースを利用しての検証研究で院内死亡率の有意な上昇と相関していたため これら 3 項目を満たす病態を敗血症性ショック septic shock と定義することになりました すなわち 十分な輸液負荷にもかかわらず平均血圧 65mmHg 以上の維持に血管作動薬が必要 かつ血清乳酸値 2mmol/L 以上を満たすということになります ( 表 3) おわりにこれまでお話しをして参りました新しい敗血症の定義 診断基準である Sepsis-3 は 今後臨床現場において広く普及していくことが予想されます 重要な点は 感染症を疑わなければ先に進まないということです まず ベッドサイドで呼吸数 意識レベル 血圧というバイタルサインのみから算出可能な qsofa スコアは生命を脅かす感染症を素早く認知し 敗血症が疑われる場合には SOFA スコアにより詳細な評価を継続するということになります ( 図 3) 今回の放送が 今後の感染症診療のお役に立ててれば幸いです