www.pwc.com/jp/tax Transfer Pricing News OECD 移転価格文書化と国別報告に関する公開草案を公表 March 2014 本ニュースレターでは 2014 年 1 月 30 日に経済協力開発機構 (OECD) より公表されました 公開草案 についてご紹介いたします 要約 経済協力開発機構 (OECD) は 激しい議論を経て作成された公開草案を 2014 年 1 月 30 日に公表しました 公開草案によれば 多国籍企業は 所得 納税額及び事業活動に係る詳細な情報を関係各国の税務当局に報告する義務を新たに負うことになります さらに 移転価格文書の報告に係る現行の要件も大幅に変更することも提案しています 公開草案で示された指針は 1995 年に採用された OECD の 多国籍企業と税務当局のための移転価格算定に関する指針 (OECD ガイドライン ) 第 5 章に記載されている移転価格文書化の指針に取って代わるものです 現行の第 5 章と異なり 公開草案では 税務当局に提出する一連の移転価格文書に一定の文書を含めることを要請しています OECD では 税源浸食と利益移転に関する行動計画 (BEPS 行動計画 ) に関連する他の情報も含めるべきかどうかを 今後さらに検討する予定です 公開草案は http://www.oecd.org/ctp/transferpricing/discussion-draft-transfer-pricingdocumentation.pdf で参照することができます また この公開草案に対するパブリックコメントも OECD のウェブサイトで閲覧することができます
検討 公開草案は 2013 年 7 月 19 日に公表された BEPS 行動計画に基づき作成されたものです BEPS 行動計画 13 は 税務当局に対する透明性を高めるための 移転価格の文書化に関するルールの策定 を OECD に指示しています さらに BEPS 行動計画は この透明性の要請に基づいて OECD に 多国籍企業が全ての関連する政府に対して 国ごとの所得 経済活動 納税額のグローバルな配分に関して必要とされる情報を共通の様式で提供すること を求めるよう指示しています ( いわゆる 国別報告 ) 移転価格文書化の二層構造アプローチ 公開草案では 移転価格文書について二層構造アプローチを採用しています 1 つは 多国籍企業グループを構成する全ての企業について標準化された情報を記載する マスターファイル で OECD は英語で作成するよう勧告しています もう 1 つは 各国の納税者が行う取引に係る具体的な情報を記載する ローカルファイル で OECD は現地の言語で作成するよう勧告しています マスターファイルは 多国籍企業の事業の全体像を記述するものとしています マスターファイルの情報は グローバルな組織体制 事業概要 無形資産 無形資産開発活動及び無形資産の譲渡 グループ内金融活動 及び 財務状態及び納税状況に関する詳細 ( 所得及び納税額の配分を含む ) の 5 つのカテゴリーに分類されています 要求されている情報の一部は 移転価格文書 ( 例えば 機能分析や産業分析 ) に通常記載されるものですが 公開草案では新たな事項の記載も求めています 例えば 事業分野ごとの高額報酬従業員上位 25 名の職位 ( ただし個人名は不要 ) 主要事業所の所在する国名 重要な製品及び役務提供のサプライチェーンを示す図 並びに 関連する事前確認 (APA) 税務ルーリング及び租税条約に基づく相互協議 (MAP) における未解決の移転価格上の論点リストなどが要求されています 見解 : 文書化に関する現行の義務が国ごとに異なるにもかかわらず マスターファイル用の文書を作成しなければならないことを考えると マスターファイルとローカルファイルの二層構造アプローチの下で 文書化に関する OECD の作業で目標としている統一性と簡便性が達成できるのか明らかではありません さらに要求されている項目の一部をみると APA や税務ルーリングに関する情報など 移転価格の文書化の範囲を超えたレベルにまで税務に関する報告を拡大しているように思われます また 企業の税務担当ディレクターが通常入手できる情報以外のものも含まれています ( 例えば 高額報酬従業員上位 25 名に関するデータ ) さらに ローカルファイルの作成や必要に応じたマスターファイル ( の一部 ) の翻訳など 使用言語に関する要請もかなり厳しくなるようです 第 5 章の別添 3 によると マスターファイルの一部として 国別報告様式 の作成が義務付けられています この様式は 多国籍企業グループを構成する各国の 事業会社 の前年度の所得 及び納税額に関する詳細な情報を収集することを目的としています この情報には 当該事業会社の総収入金額及び利益 法人税額及び納付済源泉徴収税額 資本金及び利益剰余金が含まれます 国別報告様式は 経済活動を行う拠点の 特定の指標 ( 有形資産額 従業員数及び従業員給与総額 ) に関する情報を収集することも目的としています また 関連会社間のロイヤルティ 利子及び役務提供の対価の支払額又は受取額に関する情報の報告も要求されています 見解 : 税務当局に対して行われる上記の情報開示の範囲は 他の機関が提案している国別の報告要件 ( 例えば European Commission が提案している CRD IV) をはるかに超えるものです これは 対象となる項目と事業会社別の明細の範囲の両方について言えます さらに ロイヤルティ 利子及び役務提供の対価を報告するということは 非関連者にとって正当な事業上の費用であっても関連会社間取引においては税源浸食の可能性があるため ロイヤルティ 利子及び役務提供の対価の支払いが詳細に調査されることを意味しています OECD が提案するマスターファイルを移転価格の文書として導入するためには マスターファイルの情報が各国にとって共通のものでなければなりません そのため OECD は マスターファイルの内容は多国籍企業グループの親会社の指示の下で作成し 当該マスターファイルを世界中の子会社と共有することを勧告しています これが実現すると各国の税務当局は 現地の関連会社からマスターファイルを収集するか 又は これに代えて 租税条約の情報交換制度に基づいて他国にマスターファイルを要請することが可能になります PwC 2
見解 : OECD は不用意な情報漏洩を回避するため 税務当局が納税者の機密情報を取り扱う際は注意を払う必要があることを強調していますが マスターファイルの導入によって かえって納税者の機密情報が漏洩するリスクが増えるように思われます 特に 将来の税務調査において税務当局と共用できるようにマスターファイルを全ての関連会社と共有すべきであるとする OECD の勧告は 納税者を機密情報の漏洩リスクに晒すことになるように思われます また 事業上の理由から この種の情報を全ての関連者とは共有すべきでない場合もあり得ます 租税条約に基づく情報交換の方が 機密情報の共有にとってより適切かつ安全な方法かもしれません 一方 ローカルファイルはマスターファイルを補完し 多国籍企業が関係各国の移転価格税制を遵守するための役割を担っています ローカルファイルは 対象事業年度に現地企業と他国の関連企業との間で行われた取引の移転価格に焦点を当てたものです 第 5 章の別添 2 によると 現地企業に関する情報と共に 対象取引に関する詳細な事実と財務情報が要求されます 例えば ローカルファイルには 対象となる事業会社の経営ストラクチャーに係る説明 組織図 経営報告の相手先となる者に係る説明の他に 事業再編や無形資産譲渡があれば それに係る説明を記載しなければなりません 見解 : ローカルファイルで求められている情報の一部は 適切に作成された機能分析に既に含まれている可能性があります それ以外に求められている詳細な情報 ( 例えば 直接的又は間接的に報告する関係にある人物 ) は 税務当局にとっては限られた価値しかない可能性があるにもかかわらず 現地の納税者にとってはコンプライアンスの負担が増大するものと言えます 文書の作成 申告時期 OECD は 移転価格の文書化が移転価格の設定時点において合理的に入手可能な情報に基づくべきことを強調しています また OECD は 移転価格文書の提出期限が国ごとに異なるため グローバルな文書化義務を優先し かつ税務当局に関連情報をタイムリーに提供することが納税者にとって困難であろうことを認識しています そのため公開草案は 事業年度に係る移転価格文書の作成と税務申告書の提出を同時に行うことが最善の実務慣行であると指摘しています また公開草案は 提供すべき国別データの 1 つである確定決算に基づく法定財務諸表が 一部の国の税務申告書の提出期限までに入手できない可能性があることも指摘しています そこで 公開草案は 国別報告様式の作成期限を多国籍企業グループの親会社の事業年度終了日から 1 年まで延期することとしています 重要性 見解 : 国別情報を作成するタイミングまでに納税額に関する情報が入手できない場合もありますので 国別情報の報告期日が延期されても十分とは言えない可能性があります 公開草案は 合理的な期間を超えて文書を保存する義務を納税者に負わせるべきではないこと また 税務当局が過年度の文書を要求することを制限すべきことを認識しています OECD は 税務当局にとっての情報の必要性と 納税者に課されるコンプライアンスの負担とのバランスを考慮すべきことを認識しています そのため公開草案は 取引規模や対象国の経済の特性を考慮に入れた具体的な重要性の基準を各国が採用すべきと勧告しています しかしながら公開草案では 重要性の低い取引とは何かについて指針が提供されておらず より具体的な指針を提供することが可能かどうかについてパブリックコメントが求められています 公開草案では 中小企業は大企業と同等の文書の作成を要請されるべきではないとの考え方に基づき 中小企業の移転価格文書化義務を制限する簡便的措置を採ることが勧告されています それにもかかわらず公開草案では 中小企業は重要な国外取引に関する情報と資料を提供する義務を負うべきであるという考え方が示されています 見解 : 中小企業は 移転価格文書化のコンプライアンスの一部を免除されるように思われますが 依然として国別報告様式 ( すなわち 別添 3) を作成することを求められています その結果 便益と負担のバランスを考慮することが提案されているにもかかわらず 大企業に課されているコンプライアンス義務の多くについて 中小企業がこれを免除されることは実務上ないようです PwC 3
比較対象取引 公開草案は 移転価格の文書を毎年更新することを勧告していますが 事業概要 機能分析及び比較対象取引は毎年著しく変わらないことも認識しています その結果 OECD は そのような状況においては ローカルファイルの比較対象取引の選定を 3 年毎に更新することを提案しています ただし 比較対象取引に係る財務データは 独立企業間価格を算定するために毎年更新しなければなりません 見解 : 公開草案では 事業を取り巻く状況が毎年著しく変わる可能性がないことを認識しているようですが 比較対象取引に係る財務データについては柔軟な取扱いを採用していません また公開草案は 比較対象取引について 最も信頼できる情報を使用するとの一般的な要件に基づいて 原則として現地国の比較対象取引がその周辺国を含む地域全体の比較対象取引に優先すべきであると指摘しています 罰則 OECD は罰則を課すこと また 罰則を免除することが 移転価格文書化のコンプライアンスを遵守する強力なインセンティブになりうると指摘しています それにもかかわらず 公開草案は 対象取引が独立企業原則に則っていることを文書化を通じて立証するために合理的で誠実な努力を払っている納税者に対して 文書化に関連した過大な罰則を課すことは 不公平 であると述べています さらに 入手できない情報を提出しなかったという理由で 納税者に罰則を適用すべきでないことも指摘されています まとめ 移転価格文書を効果的で焦点を絞ったものにするという OECD の目的は支持されるべきものです 当初検討されたアプローチは 税務当局と納税者の双方に利点をもたらすように ( 税務当局にとっては質の高い情報の入手 納税者にとっては効率的な手続の提供 ) 情報提供義務の効率化と合理化を目指していました しかしながら 今回公表された公開草案を見る限り 当初の目的が達成されたか否かが明らかではなく 全体としてみると 企業側にとって利点がほとんどない一方的な提案のように思われます 公開草案は 総体的に重要な変更を数多く提案していますが そうした変更がなされた場合 企業としては 国別情報などの増大した報告義務に極めて短期間に対処せざるを得なくなります 有形資産 従業員数及び給与の報告が 実務上 一定のフォーミュラによる配分に基づくような移転価格調整につながり それに伴い争訟が増加し二重課税が発生する可能性がないのかを OECD は慎重に検討する必要があります 意見公募の結果に基づき できる限り柔軟性のあるプロセスを検討していくことが重要になります また 情報の機密保持の確保も優先的に議論される必要があります 最後に公開草案では 税務行政及び BEPS 行動計画の他の ( 移転価格以外の ) 側面に関連する情報も共通の報告様式に含まれるべきか否かについてさらに検討すると述べていますが それは 移転価格文書化義務が移転価格のリスク評価という目的を超えて大幅に拡大されることを意味しています なお OECD ガイドライン第 5 章の改訂作業は 2014 年 5 月までに完了する予定です PwC 4
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