グラディエントエコーと定常状態 1. はじめにグラディエントエコーにつきものの定常状態,Bloch 方程式, 信号強度式 とっつきにくいのですが 視覚的に磁化ベクトルを理解すれば分かりやすく 数学も高校生の数学でかなりの部分を理解することができます 今回は adient Echo の代表的な FLSH(GE では SPGR ですね ) と FIEST を主に取り上げて解説したいと思います 1. グラディエントエコーの種類グラディエントエコー型パルスシーケンスには多くの種類がありますが 今回はその性質により Fig.1 に示す 3 種類に分けて考えてみたいと思います 1.1 FLSH Fig.1-a が FLSH です 後の次の励起時に横磁化を残さず縦磁化だけで定常状態を作るタイプです 横磁化を消す方法として FLSH ではスポイラーグラディエントにより行われます FLSH はスポイラーグラディエントによる横磁化のスポイルが不完全だと 画像中央に明るい高信号領域,FLSH バンドが出現します GE では の送信位相を毎回一定量増やす スポイリングを行う SPGR が製品となっています シーケンスとしては GRE 型に スポイリングを付加した形です 縦磁化だけで定常状態が作られるので T1 強調画像が得られます 1.2 GRE Fig.1-b が GRE です GE では過去には GRSS と呼んでいました 特徴としてはフェーズエンコード軸にリワインダーを付加してあるので フェーズエンコード勾配磁場によるスピンの位相分散を巻き戻すため 次の励起時に横磁化も一部回復します そのため T2* 強調画像が得られます 1.3 FIEST Fig.1-c が FIEST です 全ての軸の勾配磁場による位相分散を巻き戻すため 次の励起時に横磁化も強く残ります 1 つの による FID 信号と 2 つ以上の によるスピンエコー信号が同時に観測されるため 強い T2 強調画像に近い画像が得られます このシーケンスはグラディエントエコーでありながら強い信号強度が得られますが 静磁場不均一や局所磁場不均一に弱く バンディグアーチファクトと呼ばれる低信号領域が出現しやすいため その影響を最小限にするため通常 5ms 程度以下の短い でスキャンされます Fig.1-a FLSH Fig.1-b GRE(GRSS) Fig.1-c FIEST(FISP) 1 /
2. FLSH の定常状態ここでは磁化の定常状態がどのように作られるのか感覚的につかめるように説明していきます 2.1 磁化ベクトルによる FLSH の定常状態の考察 Fig.3 の磁化ベクトルモデルを使って説明します 1) 縦磁化が定常状態を作っています 大きさを とします 2) 時刻 t=0 に を 軸方向に加えると共鳴した磁化は 軸回りに倒れます 3) 励起により生じた横磁化により FID が観測されます をフリップ角とすると強度は sin となります 4) 次の励起 時刻 t= までに縦磁化 はスピンの T1 値による T1 緩和で回復していきます 一方横磁化 My はスポイルされて消されてしまいます 5) 時刻 t= の時点で縦磁化 がちょうど に回復し戻れば まさに定常状態となり 1) のステップから繰り返すことができます このようにして FLSH の定常状態は作られます 2.2 FLSH の定常状態に至るまで磁化の定常状態はすぐに出来上がるわけではありません 静磁場に置かれた磁化は平衡状態 M0 を保っています による励起で定常状態 に移行するのですが そこに至るまでには複数回の励起が必要です Fig.2 の横軸は励起回数 縦軸は磁化の平衡状態 M0 を 1 として規格化した励起直前の縦磁化の定常状態と励起直後の横磁化 (FID) の強度です T1/T2=580/50,Flip=20,=10ms の条件下のシミュレーション結果です 完全に定常状態に至るまでには数十回のアイドリングが必要となります 2.3 FLSH の信号強度式一般にそれぞれのパルスシーケンスの信号強度式は Bloch 方程式を解くことにより求められます 磁場が無い場合の回転座標系での Bloch 方程式は 一階の微分方程式となっていて比較的容易に解くことができます Fig.3 の磁化ベクトルモデルに沿って FLSH の信号強度式を求めます 軸に関する Bloch 方程式は (1) 式で表されます d / dt = ( M0)/T1 (1) ここに M0: 平衡状態の磁化, T1:T1 値, : 縦磁化です (1) 式の一般解は (2) 式となります = M0 + exp{ t/t1}cz (2) Fig.2 FLSH の定常状態に至るまで 励起直後の状態を考えます 時刻 t=0 のとき = cos より 積分定数 Cz が求まります Cz = cos M0 --- (3) ここに はフリップ角です (3) を (2) に代入して (4) 式を得ます = M0 + (cos M0)exp{-t/T1} --- (4) 定常状態を作る条件を入れます 時刻 t = のとき は定常状態の となるから (5) 式が得られます = M0(1 exp{-/t1} ) / (1 exp{-/t1}cos ) --- (5) FID の強度 my は sin であるから FLSH の信号強度式 (6) 式を得ることができます my = M0sin(1 E1) / (1 E1cos) --- (6) ここに E1 = exp{-/t1} --- (7) 良く知られているようにグラディエントエコーでは信号最大にするフリップ角, エルンスト角は90 以下となります エルンスト角は例えばFLSHの場合 簡便な解法として合信号強度式 (6) 式をフリップ角 に関し偏微分を行い それが 0 となる ( 極値 ) 条件 (8) 式から求めることができます 2 / cos = E1 --- (8)
Fig.3 FLSH の Steady State Bloch 方程式 d / dt = -( M0)/T1 1) 定常状態 2) 励起 = cos My= sin 3) FID 観測 T1 緩和 横磁化スポイル My= 0 t = 4) 緩和定常状態 1) へ
3. FIEST の定常状態さて次に FIEST(FISP) について考えてみます FLSH では縦磁化だけの定常状態だけを考えればよかったですが 今度は横磁化の定常状態も考慮に入れます 3.1 磁化ベクトルによる FIEST の定常状態の考察 Fig.5 を使って説明します 1) 磁化が定常状態を作っています 縦磁化横磁化それぞれ mz,my とします mz,my を合成した磁化を で表しています 2) 時刻 t=0 に を 軸方向に加えると共鳴した磁化は 軸回りに倒れます 3) 励起により生じた横磁化により MR 信号が観測されます それぞれの縦, 横磁化成分 mz,my から縦, 横磁化成分,My が生じます 4) 次の励起 時刻 t= までに縦磁化 はスピンの T1 値による T1 緩和で回復していきます 横磁化 My はスピンの T2* 値により減衰していきます 5) 時刻 t= の時点で縦磁化がちょうど mz に回復し, 横磁化が my となれば 次の の送信位相を反転すれば定常状態を作ることができます FIEST では を励起ごとに加える方向を反転 (0-180-0-180- ) します このようにして FIEST の定常状態は作られます Fig.4 FIEST の定常状態に至るまで 3.2 FIEST の定常状態に至るまで Fig.4 も横軸は励起回数 縦軸は励起直前の縦磁化の定常状態と励起直後の横磁化の強度です 条件は T1/T2=580/50,Flip=50,=10ms です 特徴的なのは励起開始直後信号強度が大きく振動することです これは FIEST ではフリップ角が比較的大きいのと 励起開始直後の磁化の振る舞いは言わば励起ごとに縦磁化と横磁化が入れ替わっているように見えるからです この振動は序所にフリップ角を深くしていったり 浅くしていったりする手法で抑制することができます また強い信号強度及び別コントラストを得るため完全な定常状態に移行する前の遷移状態でデータ収集することも可能です それが GE の COSMIC です 2.3 FIEST の信号強度式 FIEST も FLSH 同様のアプローチで信号強度式を求めることができます 横磁化の定常状態も求めるため,My に関する Bloch 方程式を解くことになります d / dt = -( M0)/T1, dmy / dt = -My / T2 --- (9) 若干の計算の後 良く知られた FIEST の信号強度式 (10) 式を得ます my は励起直前の定常状態となった横磁化の強度です この信号強度式には の間に磁場不均一等でスピンが受ける位相シフトの項は含まれていません 言わば理想系での信号強度式になります 位相シフトを考慮した信号強度式は mx,my,mz の 3 つの変数について Bloch 方程式を解けば得られます ただ計算も結果も複雑なので 今回は触れません グラディエントエコーが世に出て約 30 年 理論としては 20 年も前に確立していた FIEST が装置の性能が追いつき実用的になったのは最近のことです 3D ボリュームスキャンがあたりまえになってきた現在 グラディエントエコーは今や MR の検査時間を短縮する方法として MR に必要不可欠です 単なる T1,T2* 画像から 従来のコントラストとは別のコントラストが得られる MERGE, COSMIC, SWN また MR や部位に特化した LV, VIBRNT, さらには形態画像だけではなく T2* 測定の MFGRE, 水脂画像の LV-Flex 等機能, 定量画像も得られるようになり進化し続けています 今後も目が離せないパルスシーケンスです MR 技術部 MR パルスシーケンスグループマネージャー池崎吉和 my = M0(1 E1)E2sin / ( 1 E1E2 cos(e1 E2) ) --- (10) ここに E2 = exp{-/t2} --- (11) 4 /
mz my Fig.5 FIEST の Steady State mz cos mz sin my sin 1) 定常状態 1 2) 励起 () my cos Bloch 方程式 d / dt = -( M0)/T1 dmy / dt = -My / T2 4) 緩和 My = -mz sin + my cos = mz cos + my sin T1 緩和 = mz 3) 信号観測 My = -my T2 緩和 5) 定常状態 2 (-) t = 5 /