肺がん はじめに 肺がんは悪性腫瘍による死亡原因の第 1 位であり わが国においては年間 7 万人以上の患者さんがこの病気でお亡くなりになっています 肺がんの治療成績向上には早期発見が最も重要でありますが 手術不能の進行した状態で発見される患者さんが多くいらっしゃるのが現状です 特に異常がなくても定

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094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

肺癌の放射線治療

頭頚部がん1部[ ].indd

「             」  説明および同意書

1)表紙14年v0

がん登録実務について

6 月 25 日胸腺腫 胸腺がん患者の情報交換会 & 勉強会質疑 応答 奥村教授にお聞きしたいこと 奥村教授の話 1 特徴 (1) 胸腺腫 胸腺がん カルチノイドの違いについて 胸腺腫はがんの種類か 病理学的には胸腺腫はがんではなくて正常と区別つかず機能を残したまま腫瘍化したもの 一部 転移するもの

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

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Microsoft Word - 肺癌【編集用】

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33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

がんの治療

cm 以上の腫瘍では悪性化していることも考慮する必要があります ただし 良性腫瘍でも長期間放置すれば大きくなりますので サイズが大きいからと言って悪性とは限りません 成長速度: 悪性度の高い腫瘍では 大きくなるスピードが速くなります 腫瘍がいつからあったか 最近はどのくらいのスピードで大きくなってき

を優先する場合もあります レントゲン検査や細胞診は 麻酔をかけずに実施でき 検査結果も当日わかりますので 初診時に実施しますが 組織生検は麻酔が必要なことと 検査結果が出るまで数日を要すること 骨腫瘍の場合には正確性に欠けることなどから 治療方針の決定に必要がない場合には省略されることも多い検査です

2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や


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限局性前立腺がんとは がんが前立腺内にのみ存在するものをいい 周辺組織やリンパ節への局所進展あるいは骨や肺などに遠隔転移があるものは当てはまりません がんの治療において 放射線療法は治療選択肢の1つですが 従来から行われてきた放射線外部照射では周辺臓器への障害を考えると がんを根治する ( 手術と同

骨軟部腫瘍 はじめに 九州大学病院では 整形外科が中心となり骨や軟部組織に発生した腫瘍 ( 骨軟部腫瘍 ) の治療を行っており 血液腫瘍内科 放射線科 外科 小児科 小児外科 皮膚科などの協力を得て集学的治療による悪性骨軟部腫瘍患者さんの生命予後の改善と 整容性と機能性に優れた患肢温存治療の実践に大

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表面から腫れがわかりにくいため 診断がつくまでに大きくなっていたり 麻痺が出るまで気付かれなかったりすることも少なくありません したがって 痛みがずっと続く場合には要注意です 2. 診断診断にはレントゲン撮影がもっとも役立ちます 骨肉腫では 膝や肩の関節に近い部分の骨が虫に食べられたように壊されてい

1. 来院経路別件数 非紹介 30 他疾患経過 10 自主受診観察 紹介 20 他施設紹介 合計 患者数 割合 12.1% 15.7% 72.2% 100.0% 27.8% 72.2% 100.0% 来院経路別がん登録患者数 がん患者がどのような経路によって自施設を受診し

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

130724放射線治療説明書.pptx

はじめに 近年 がんに対する治療の進歩によって 多くの患者さんが がん を克服することができるようになっています しかし がん治療の内容によっては 造精機能 ( 精子をつくる機能のことです ) が低下し 妊娠しにくくなったり 妊娠できなくなることがあります また 手術の内容によっては術後に性交障害を

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

Microsoft PowerPoint - 印刷用 DR.松浦寛 K-net配布資料.ppt [互換モード]

32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

1 肺がんの分類とその診断および治療 1-1. 肺がんの分類 ( 図 6) 原発性肺がんは 組織学的に 小細胞がん 扁平上皮がん 腺がん 大細胞がん の四つに分類されます このうち小細胞がんは 早期にリンパ節や血行性転移をすること また抗がん剤や放射線治療といった内科的治療が良く効くことから 手術の

膵臓癌について

スライド 1

密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

院内がん登録集計報告

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H26大腸がん

がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れがみえると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください がんの疑い 体調がおかしいな と思ったまま 放っておかないでください な

2. どんなリンパ腫があるのですか? 犬では 多中心型 ( 体中のリンパ節が同時に腫れるタイプ ) 皮膚型( 皮膚に潰瘍やかゆみを伴う病変ができるタイプ ) 消化器型( 腸に腫瘤ができるタイプ ) 前縦隔型 ( 胸の中に塊ができるタイプ ) などが多くみられます 猫では 消化器型と鼻腔型 ( 鼻の中

がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れがみえると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください がんの疑い 体調がおかしいな と思ったまま 放っておかないでください な

Microsoft PowerPoint - 【資料3】届出マニュアル改訂について

ことから過剰診断が問題視され 2003 年には厚生労働省の決 定で休止となりました 2. 診断 (1) 臨床症状 : 早期に腫瘤を触知することはまれです ただし 1 歳までの赤ちゃんにみられる病期 4S という腫瘍では 皮下への転移 肝腫大による腹部膨満や呼吸障害がみられます 幼児では転移のある進行

1 BNCT の内容 特長 Q1-1 BNCT とは? A1-1 原子炉や加速器から発生する中性子と反応しやすいホウ素薬剤をがん細胞に取り込ませ 中性子とホウ素薬剤との反応を利用して 正常細胞にあまり損傷を与えず がん細胞を選択的に破壊する治療法です この治療法は がん細胞と正常細胞が混在している悪

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乳癌かな?!と思ったら

目次 甲状腺とは 3 甲状腺ホルモンとは 4 甲状腺ホルモン量の調節 6 甲状腺がんとは 8 甲状腺がんの種類 9 甲状腺とは 甲状腺は のどぼとけのすぐ下にある重さ 10 ~ 20g 程度の小さな臓器で 甲状腺ホルモン というホルモンをつくっています ちょうど 蝶が羽を広げたような形をしていますが

虎ノ門医学セミナー

CJLSG1202 説明文書 間質性肺炎を合併している化学療法未治療非小細胞肺癌非扁平上皮癌に 対するペメトレキセド + カルボプラチン併用療法の臨床 II 相試験 1. はじめに当院では最新の治療を患者さんに提供するとともに 病気の原因や診断方法 治療方法および予防方法の改善に努力しています この

付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

リンパ球は 体内に侵入してきた異物を除去する (= 免疫 ) 役割を担う細胞です リンパ球は 骨の中にある 骨髄 という組織でつくられます 骨髄中には すべての血液細胞の基になる 造血幹細胞 があります 造血幹細胞から分化 成熟したリンパ球は免疫力を獲得し からだを異物から守ります 骨髄 リンパ球の

記入方法

1 BNCT の内容 特長 QA Q1-1 BNCT とは? A1-1 原子炉や加速器から発生する中性子と反応しやすいホウ素薬剤をがん細胞に取り込ませ 中性子とホウ素薬剤との反応を利用して 正常細胞にあまり損傷を与えず がん細胞を選択的に破壊する治療法です この治療法は がん細胞と正常細胞が混在して

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1. 部位別登録数年次推移 表は 部位別に登録数の推移を示しました 2015 年の登録数は 1294 件であり 2014 年と比較して 96 件増加しました 部位別の登録数は 多い順に大腸 前立腺 胃 膀胱 肺となりました また 増加件数が多い順に 皮膚で 24 件の増加 次いで膀胱 23 件の増加

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 の相対生存率は 1998 年以降やや向上した 日本で

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するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

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付表 登録数 : 施設 部位別 総数 1 総数 口腔咽頭 食道 胃 結腸 直腸 ( 大腸 ) 肝臓 胆嚢胆管 膵臓 喉頭 肺 骨軟部 皮膚 乳房 全体

付表 登録数 : 施設 部位別 総数 1 総数 口腔咽頭 食道 胃 結腸 直腸 ( 大腸 ) 肝臓 胆嚢胆管 膵臓 喉頭 肺 骨軟部 皮膚 乳房

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第71巻5・6号(12月号)/投稿規定・目次・表2・奥付・背

1. はじめに ステージティーエスワンこの文書は Stage Ⅲ 治癒切除胃癌症例における TS-1 術後補助化学療法の予後 予測因子および副作用発現の危険因子についての探索的研究 (JACCRO GC-07AR) という臨床研究について説明したものです この文書と私の説明のな かで わかりにくいと

遠隔転移 M0: 領域リンパ節以外の転移を認めない M1: 領域リンパ節以外の転移を認める 病期 (Stage) 胃がんの治療について胃がんの治療は 病期によって異なります 胃癌治療ガイドラインによる日常診療で推奨される治療選択アルゴリズム (2014 年日本胃癌学会編 : 胃癌治療ガイドライン第

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表 1. 罹患数, 罹患割合 (%), 粗罹患率, 年齢調整罹患率および累積罹患率 ; 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く ; 部位別, 性別 B. 上皮内がんを含む 表 2. 年齢階級別罹患数, 罹患割合 (%); 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く B. 上皮内がんを含む 表 3. 年齢

非小細胞肺癌の治療戦略

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性黒色腫は本邦に比べてかなり高く たとえばオーストラリアでは悪性黒色腫の発生率は日本の 100 倍といわれており 親戚に一人は悪性黒色腫がいるくらい身近な癌といわれています このあと皮膚癌の中でも比較的発生頻度の高い基底細胞癌 有棘細胞癌 ボーエン病 悪性黒色腫について本邦の統計データを詳しく紹介し

< 高知県立幡多けんみん病院 年院内がん登録 ( 詳細 )> 性 ~9 ~9 ~9 ~9 ~9 ~9 ~9 9~ 総計件数比率 口腔 咽頭食道胃結腸直腸肝臓胆嚢 胆管膵臓喉頭肺骨 軟部皮膚乳房子宮頸部子宮体部卵巣前立腺膀胱腎 他の尿路 女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男

非小細胞肺癌の治療戦略

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5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専


非小細胞肺癌の治療戦略

第 1 章 がん治療に関わるすべての薬剤師が知っておきたいこと 1 がん治療の基本 Key Points がんの診断には確定診断と病期診断がある がんの病期ごとに治療法を選択する 治療の目的を認識し, 治療の適応を見極める 薬物療法を行う前に説明と同意を得, 標準治療を行う 高齢者, 臓器障害合併,

院内がん登録について 院内がん登録とは がん ( 悪性腫瘍 ) の診断 治療 予後に関する情報を収集 整理 蓄積し 集計 解析をすることです 登録により収集された情報は 以下の目的に使用されます 診療支援 研修のための資料 がんに関する統計資料 予後調査 生存率の計測このほかにも 島根県地域がん登録

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

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博士学位申請論文内容の要旨

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乳がん はじめに 乳がんは 乳腺に発生する悪性腫瘍で 日本人女性の最も患う可能性 ( 罹患率 ) の高いがんです 20 年ごとに2 倍に増加し 現在 1 年間に9 万人以上の女性が乳がんにかかり 1.5 万人以上が乳がんで亡くなっています しかも 罹患率 死亡率ともに増加し続けています 日本人女性の

放射線併用全身化学療法 (GC+RT 療法 ) 様の予定表 No.1 月日 経過 達成目標 治療 ( 点滴 内服 ) 検査 処置 活動 安静度 リハビリ 食事 栄養指導 清潔 排泄 / 入院当日 ~ 治療前日 化学療法について理解でき 精神的に安定した状態で治療が

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この PDF では 大腸がんの治療方針を考えるお手伝いをします 大腸がんの治療法には 主に内視鏡的治療 外科療法 放射線療法 化学療法があります が 可能となる治療選択肢は がんの状態やあなた自身の状態によって変わります あなたのご自身の状態を知ることは大切です 不明なことは医師に相談しましょう 2

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CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

4 月 20 日 2 胃癌の内視鏡診断と治療 GIO: 胃癌の内視鏡診断と内視鏡治療について理解する SBO: 1. 胃癌の肉眼的分類を列記できる 2. 胃癌の内視鏡的診断を説明できる 3. 内視鏡治療の適応基準とその根拠を理解する 4. 内視鏡治療の方法 合併症を理解する 4 月 27 日 1 胃

福島県のがん死亡の年次推移 福島県におけるがん死亡数は 女とも増加傾向にある ( 表 12) 一方 は 女とも減少傾向にあり 全国とほとんど同じ傾向にある 2012 年の全のを全国と比較すると 性では高く 女性では低くなっている 別にみると 性では膵臓 女性では大腸 膵臓 子宮でわずかな増加がみられ

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Transcription:

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肺がん はじめに 肺がんは悪性腫瘍による死亡原因の第 1 位であり わが国においては年間 7 万人以上の患者さんがこの病気でお亡くなりになっています 肺がんの治療成績向上には早期発見が最も重要でありますが 手術不能の進行した状態で発見される患者さんが多くいらっしゃるのが現状です 特に異常がなくても定期的に胸部レントゲン写真を含む健康診断を受けることも大事です 胸部レントゲンで心配な所見があれば 胸部 CT 検査などの精密検査を受けていただくことになります 肺がんは病理診断や細胞診断により 小細胞肺がんと非小細胞肺がんに分類されます 非小細胞肺がんは肺がんの85% 程度を占めており さらに腺がん 扁平上皮がん 大細胞がんに分類されます ( 下図 ) 肺がんの治療方針は上記の肺がんの種類及び体の中で病気がどのように広がっているかによって決まります 比較的早期であれば手術や放射線治療 進行している場合は抗がん剤などの薬物治療が選択されます 症状が強く全身状態があまりよくない時は症状の緩和を行う治療を行います 一口に手術 放射線治療 薬物治療と言っても内容は複雑で どのように肺を切除するか 放射線はどれくらいの量をどのように照射するのか 薬剤は何を使うかなど患者さんの状態によって変わってきます 最近では肺がんの細胞のもっている遺伝子の異常 (EGFR 遺伝子変異 ALK 遺伝子転座 ROS1 遺伝子転座 ) によって効果の高い分子標的治療薬が使われるようになり これらの遺伝子異常をお持ちの肺がん患者さんの薬物療法による治療成績は改善しています また2015 年 12 月に免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブ 2016 年 12 月にはペムブロリズマブが進行非小細胞肺がんに適応となり 新たな治療選択肢として注目されています 現在の肺がん治療の成績 特に進行期の肺がんの治療成績は決して満足できるものではありませんが 新しい治療法や薬剤の開発は進められています これら新しい治療法の効果は臨床試験や治験という形で科学的に評価が必要です 九州大学病院ではより良い 2

Lung Cancer 治療法を開発するために多くの臨床試験 治験を実施しています 臨床試験 治験への参加には条件があり全ての方が参加できるわけではありません もし条件に合致する場合は 試験についての説明をよく聞いて参加するかどうかを決めてください 肺がんの治療は ご自身の病気のことをよくご理解し十分に納得した上で治療を受けることが大事です 診断 肺がんに特徴的な症状はありませんが 頑固な咳や ( 血 ) 痰 息切れ 声のかすれ 胸痛などをきっかけに発見されることが多いです 症状がなくても検診などで発見されることもあります 特に喫煙歴のある方は注意が必要です 胸部 X 線検査やCTで肺に異常を認めた場合 肺癌を疑う必要がありますが 結核や肺炎でも似たような所見を呈することがあります そのため 腫瘍マーカーなどの血液検査 痰の細胞検査 経時的変化も考慮して判断しなければならないことも多々あります それでも診断がつかない場合は 気管支鏡検査や経皮的に針を刺して細胞を 調べることになります がんの診断がつくと 次にがんの広がり ( 病期 ) を調べることになります 造影剤を使ったCTやMRI 超音波検査 FDG-PET といった画像診断法を用います また肺がんの中でも非小細胞肺がんと診断された場合には 治療方針を決定するためにEGFRといった特定の遺伝子異常や PD-L1というタンパク質の発現ががん細胞中に認められるか調べることがあります 外科的治療 肺がんに対する標準的な手術は がんが存在する肺葉 ( 右肺は上葉 中葉 下葉 左肺は上葉 下葉 ) のいずれかの切除 および周囲のリンパ節を取り除くことです これを 肺葉切除およびリンパ節郭清 と呼びます これは 一部の早期がんを除き 肺がんはリンパ節に飛び火しやすい性質があるからです ( リンパ節転移と呼びます ) がんの進展により肺葉切除だけでは取り切れない場合は 片方の肺を全部取り除く手術 ( 片肺全摘術 ) が必要となることもあります さらに がんが胸壁など周囲へ直接進展している場合は そこもがんと一緒に取り除く ( 合 3

肺がん 併切除 ) ことがあります 一方 患者さんの状況によっては ( 心 臓や肺の機能が良くない場合やがんが多発している場合など ) 取り除く肺を少なくする縮小手術 ( 部分切除あるいは区域切除 ) を行います また 近年 CT 検査をする機会が増え 通常の胸部レントゲン撮影では見えないようなごく早期の肺がんが多く見つかる様になりました このような早期の肺がん患者さんには 上記の肺葉切除を行わず 縮小手術を行う場合もあります 標準手術は全身麻酔で行います 小さながんで 明らかなリンパ節が腫れていない場合は 胸腔鏡というビデオカメラを使って 小さな切開 ( 最大の傷が4cmほど その他に2cmほどの傷が2 3カ所 ) のみで行う場合があります ( 完全胸腔鏡下手術 ) または 腋の下を8 10cmほど切って胸腔鏡を補助に使う手術 ( 胸腔鏡補助下手術 ) で行います 大きながんの場合やリンパ節が腫れている場合などは従来の開胸手術 (12 20cmほどの傷 ) で行われます 九州大学病院では 上記の標準手術を行った場合の手術後の入院期間 ( 自宅退院まで ) の平均は約 7 10 日となっています 退院後 手術で切除した肺がんの病理組織検査 ( 顕微鏡検査 ) の結果をみて 最終的な病期 ( がんの進行具合 ) を診断します この結果で 手術だけでは不十分と思われる場合 ( 進行度が 2 期以上の場合など ) は 手術後に再発予防を目的とした化学療法 ( 抗がん剤治療 ) を行います これを 術後補助化学療法 と呼び 手術後 1 2ヶ月を目途に開始します 現在 どのような種類の化学療法 ( 抗がん剤の種類や組み合わせなど ) が最適か はっきりと分かっていませんので より良い 4

Lung Cancer 治療法を確立するための臨床試験を行っています 内科的治療 肺癌の内科的治療は主に抗癌剤などの薬物を用いた化学療法です これは抗がん剤を静脈注射 点滴静脈注射 または内服することにより がん細胞を死滅させる治療法です 抗がん剤は通常 血液の流れに乗って全身をめぐるため 肺の外に広がったがん細胞にも効果が期待できます 従って 手術や放射線治療が局所的な治療法であるのに対して化学療法は全身に拡がったがん細胞の分裂と増殖を抑えることで効果を発揮する全身治療です ただし がんを切り取ったあとや放射線治療を行ったとしても 目に見えない小さながん細胞が残っていることや肺の外に転移している場合がありますので 手術や放射線と組み合わせて化学療法が行われることもあります 最近は化学療法の治療成績が向上し 延命効果やQOL( 生活の質 ) の改善が得られるようになりました 肺がんに対する初回化学療法は通常 プラチナ製剤と言われているもの ( シスプラチンやカルボプラチン ) を含む2 種類の抗が ん剤を組み合わせて行います 年齢や状態によっては1 種類のこともあります 多くの場合 抗がん剤を何日か投与したあと 薬を休む期間 ( 休薬期間 ) をはさんだ2 4 週間のスケジュールを繰り返して行います 抗がん剤はがん細胞に作用を発揮しますが 同時に正常な細胞にも作用してしまうために副作用が生じます 一般的に分裂と増殖の盛んな細胞 ( 骨髄細胞 消化管粘膜 毛根など ) が影響を強く受けますが 使用する抗がん剤によって出現の仕方や程度が異なります また患者さんの体質や体調などにもより個人差があります 軽い副作用については自然に回復する場合がほとんどですが 症状が強い場合には例えば吐き気や嘔吐に対しては吐き気止めを使用しながら治療を行います また 患者さん自身ではなかなか気がつかない骨髄抑制 ( 白血球や血小板などが下がる ) や腎機能障害 肝機能障害などは血液検査で確認を行います 副作用が強く出た場合は 抗がん剤の量を減らすことや 治療を中止することがあります 分子標的治療薬は がん細胞の増殖に関わる特定の分子のみを標的とし その働きを抑えます そのため従来の 5

肺がん 化学療法とは効果や副作用の出方が異なります 現在 一部の非小細胞肺がんに対して使用されており EGFR 遺伝子やALK 遺伝子に異常が起こると従来の抗がん剤よりも効果が高いことがわかっています そのため 現在では肺癌の診断時に同時にこれらの遺伝子検査を行って治療方針を決めるようにしています 免疫チェックポイント阻害剤であるニボルマブ ペンブロリズマブは リンパ球の表面に存在する PD-1を阻害することでリンパ球を活性化する薬剤であり 一部の非小細胞肺癌では 従来の抗がん剤よりも有効であることが報告されています 現在のところ PD-1と結合するPD-L1が がん細胞の表面上にどの程度発現しているかが これらの薬剤の効果を予測する手段として利用されていますが 完全なものではなく 今後の検討が必要です 分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤は 従来の化学療法に比べ 吐き気や嘔吐 骨髄抑制といった副作用は少ないですが 重篤な副作用が起こることが報告されており この治療を行うかどうかは従来の化学療法と同様に慎重に判断する必要があります 肺がんの治療に用いられる主な薬剤 プラチナ製剤 プラチナ製剤以外の抗がん剤 ( 注射剤 ) 経口抗がん剤 分子標的治療薬 免疫チェックポイント阻害剤 放射線治療 シスプラチン カルボプラチン ネダプラチンエトポシド イリノテカン パクリタキセル ドセタキセル ビノレルビン ゲムシタビン アムルビシン ノギテカン ペメトレキセド ナブパクリタキセル ( アルブミン懸濁型 ) テガフール ウラシル テガフール ギメラシル オテラシルカリウムゲフィチニブ エルロチニブ アファチニブ オシメルチニブ ベバシズマブ クリゾチニブ アレクチニブ セリチニブニボルマブ ペンブロリズマブ 肺癌に対する治療方針は 非小細胞肺がんと小細胞肺がんで異なりますが いずれにおいても放射線治療の役割は非常に大きいと考えられています 放射線治療は リニアックという治療装置を用いて 体の外からX 線を照射する 外部照射法 という方法を用いるのが一般的です どのように照射するか ( 範囲や方向など ) どの程度照射するか (1 回の量や回数など ) は 治療計画用のCTを撮影後 放射線治療医が 専用の治療計画コンピュー 6

Lung Cancer ターを用いて 治療の目的や腫瘍制御に必要な放射線の量 正常臓器への副作用のリスク等を総合的に勘案して決定します 以下 非小細胞肺がんと小細胞肺がんに分けて概略を述べます 非小細胞肺がん I-Ⅱ 期で手術を希望されない方 高齢 心臓や肺の障害や他の合併疾患で手術が困難な方 Ⅲ 期で手術困難な方に対しては がんを治すための 根治的治療 を行います I 期では 放射線治療単独で治療を行います 近年 I 期には 病巣を多方向からねらい打ちする 体幹部定位放射線治療 ( いわゆるピンポイント照射 ) という方法が非常に有効です 短期間で手術相当の良好な成績が得られています ( 図 1) 当院では 1 回 12 13.5グレイ 総線量 48 54グレイ /4 回 (4-8 日間 ) で治療を行っています 但し 腫瘍の大きさなどにより 1 回に照射する量や回数を変更することもあります I 期がんでも 腫瘍が大きな気管支 大きな血管 脊髄などの重要な臓器と近い場合には これらの副作用を考慮し 1 回に照射する量を1 回 2-3グレイ程度に下げて60-70グレイ /20-35 回 (4-7 週間 ) の治療を行っています II-III 期では 抗がん剤との同時併用で放射線治療を行います 但し 高齢の方や合併症をお持ちのために抗がん剤の併用が困難な方では放射線治療のみで治療を行います 通常は 1 日 1 回 2グレイで 60-70グレイ /30-35 回 (6-7 週 ) の照射を行います その際も 照射野を照射すべき範囲の形に一致させて多方向から放射線を照射する3 次元原体照射という方法を用いて 正常組織に照射される範囲や線量を下げて副作用を可能な限り減らすように努めています ( 図 2) 図 1 図 2 小細胞肺がん遠隔転移のない限局型の小細胞肺が 7

肺がん んには 抗がん剤との併用で放射線治療を行うのが一般的です 照射範囲が比較的小さくて済む場合には 1 回 1. 5グレイ 1 日 2 回 総線量 45グレイ / 3 週間の照射が推奨されています 照射範囲が広い場合には まず 抗がん剤治療で腫瘍を縮小させた後に放射線治療を行います 上記治療で腫瘍が消失または著しく縮小した患者さんには 脳転移を予防するための予防的な全脳照射 (1 日 1 回 2.5グレイ 総線量 25グレイ /2 週間 ) が推奨されています 緩和的治療非小細胞肺がん 小細胞肺がんのいずれにおいても 遠隔転移をもつⅣ 期の患者さんには 骨転移や脳転移などによる症状を和らげるために放射線治療を行う場合があります 少数個の転移であれば 症状を取るためだけではなく 転移病巣を制御するための治療として行うこともあります 院内がん登録情報 登録症例の病期 ( ステージ ) 別内訳はⅠA 期が最も多く 次いでⅣ 期 Ⅰ B 期の順です Ⅰ 期で50% 以上を占め ており 検診や画像診断技術の進歩により早期に発見される症例が増加しているものと思われます この臨床病期は2009 年まではUICC 第 6 版に基づく分類であり 2010 年 1 月 1 日からは UICC 第 7 版が新たな基準として用いられていますのでご注意ください 肺がんの治療法として早期は手術もしくは放射線治療 局所進行期は放射線治療もしくは化学放射線療法 遠隔転移を伴う進行期は化学療法と大まかに分かれています 早期のものほど 他疾患の経過観察中 に発見される割合が高い傾向にあります 進行期になるほど その他 不明 の割合が高くなりますが 多くは呼吸器症状または転移に伴う症状を契機に発見されているものと考えられます ⅠA 期 ⅠB 期は手術のよい適応で 全体の半数以上の患者さんが手術を受けられています 一方で 高齢や低肺機能などで手術の適応とならず 放射線治療を受けられる患者さんも増えてきています ⅡA 期 ⅡB 期は全体の数が少ないですが 手術や放射線治療の局所療法を受けられる患者さんが半数以上を占めています Ⅰ 期に比べると 手術や放射線療法に薬物療法を加 8

Lung Cancer えた集学的治療を受ける方が多くなってきます ⅢA 期 ⅢB 期は患者さんの全身状態やがんの進展状況によって治療方針は変わるため 手術や放射線治療の局所療法 薬物療法 集学的治療とさまざまな治療が行われていますが 半数以上で放射線治療を中心とした治療が行われています Ⅳ 期における放射線治療の多くは症状緩和目的で行われています Ⅲ 期 Ⅳ 期で手術 放射線治療の適応がない場合は薬物療法が基本となります しかし 病期別の化学療法割合をみると早期症例にも一部化学療法が実施されています これは手術後の再発予防目的で行われる術後補助化学療法や放射線治療の効果を高めるために行われる化学放射線療法が含まれているからです そのため 早期から進行期のどの段階にあっても化学療法を受ける機会が増えています 当院で治療を受けられた患者さんの 5 年生存率はⅠA 期が最も良好で 病期が進むにつれて低くなる傾向が見られます 9

肺がん 肺 2007-2015 年症例のうち悪性リンパ腫以外治療前 UICCステージ UICCについて集計を行った 2012 年よりUICC 第 7 版へ改訂があったが 大きな変更はなかったため通年でデータを集計した 症例 2: 自施設で診断され 自施設で初回治療を開始 ( 経過観察も含む ) 症例 3: 他施設で診断され 自施設で初回治療を開始 ( 経過観察も含む ) 図 4の生存曲線は全生存率として集計 ( がん以外の死因も含む ) ステージ ⅠA ⅠB ⅡA ⅡB ⅢA ⅢB Ⅳ 合計 症例数 931 206 53 64 168 156 544 2,122 割合 44% 10% 2% 3% 8% 7% 26% 100% 図 2 ステージ別発見経緯 ( 症例 2 3) 図 1 ステージ別症例数 ( 症例 2 3) 10

Lung Cancer 図 3 ステージ別治療法 ( 症例 2 3) 図 4 Kaplan-Meier 生存曲線 ( 肺 ) 11

縦隔腫瘍 はじめに 縦隔とは聞き慣れない言葉かと思いますが 左右の肺にはさまれた領域を指し 心臓や大血管 気管 食道など重要な臓器が位置しています 縦隔は解剖学的にさらに上縦隔 前縦隔 中縦隔 後縦隔に分けられ それぞれの場所に応じてできやすい腫瘍があります 上縦隔には甲状腺腫 前縦隔には胸腺腫 胸腺がん 奇形腫 胚細胞性腫瘍 中縦隔には気管支原性のう胞 食道のう胞 悪性リンパ腫 後縦隔には神経原性腫瘍ができやすいとされています サイズが小さいと無症状のことが多く またレントゲン写真では心臓や大血管に重なってわかりにくいため CT 検査を受けて偶然見つかることも多いようです 治療は腫瘍の種類と病気の拡がりによって決まりますが 良性 悪性にかかわらず手術が可能であれば切除するのが基本です 切除できない場合は 放射線治療や抗がん剤治療を合わせた集学的治療が行われます 抗がん剤や放射線治療の効果は腫瘍によって異なります それぞれの腫瘍の治療方針については主治医の先生とよく相談して決めてください 診断 縦隔腫瘍に特徴的な症状はありません 胸の痛みや圧迫感 咳 息切れなどの症状が比較的多いですが はっきりした症状がなく検診などで偶然発見されることも多いです 縦隔腫瘍は 発生する部位によって 上縦隔 前縦隔 中縦隔 後縦隔に分けられそれぞれに発生しやすい腫瘍が知られています ( 表 1) 表 1 縦隔腫瘍の発生部位と好発腫瘍 発生部位好発腫瘍 上縦隔 前縦隔 中縦隔 後縦隔 縦隔内甲状腺腫 診断には まず胸部 X 線 CT MRI による画像検査を行います 胸腔鏡 縦隔鏡やCTなどを用いた腫瘍細胞の性質を調べる検査 ( 組織学的検査 ) が必要な場合もあります また 血液検査での腫瘍マーカーの測定が診断に役立つこともあります 外科的治療 胸腺腫 胚細胞性腫瘍気管 ( 支 ) 原性腫瘍 食道腫瘍 悪性リンパ腫神経原性腫瘍 縦隔にはいろいろな種類の腫瘍がで 12

Mediastinal Tumor きますが 縦隔は体の中でも 検査で診断をつけることが難しい場所です 従って 良性腫瘍か悪性腫瘍かの判断を含めて 手術で切除するまでは はっきりとした診断が得られないことが多いのが現状です 通常の縦隔腫瘍 ( 胚細胞腫瘍 リンパ性腫瘍を除く ) は 手術で取り除くことが勧められます たとえ良性腫瘍であっても 次第に大きくなり 胸の中の重要な臓器 ( 心臓 食道 気管など ) を圧迫すると 重篤な症状がでることがあります 2013 年の日本胸部外科学会の全国集計によりますと 外科治療の対象となった縦隔腫瘍は1 胸腺腫 (40%) 2 先天性嚢種 (20%) 3 神経原性腫瘍 (11%) 4 胚細胞性腫瘍 (5%) 5リンパ性腫瘍 (4%) 6その他 (9%) でした 以下 上位 4 種の縦隔腫瘍について個別に説明します ものを除き 手術で取り除くことが勧められます また 胸腺腫と一緒に 重症筋無力症 という 筋肉に力が入りにくくなる病気などが起こる場合があります 腫瘍が小さい場合は 腫瘍だけを取り除くこともありますが 腫瘍が大きい場合や重症筋無力症がある場合は 胸腺を全部取り除く必要があります ( 下の写真は切除した胸線腫および周囲の胸腺組織 ) 小さな傷で行う胸腔鏡手術と 胸の前を切って手術を行う方法 ( 胸骨正中切開法 ) があります 1. 胸腺腫 胸腺腫 は 胸腺 という胸の臓器にできる腫瘍の一種です 一般的に大きくなるスピードは遅いですが 周囲の臓器に広がる性質があり 進行すると肺などに転移を起こすこともあります そのため 胸腺腫はごく小さな 2. 先天性嚢腫先天性嚢腫 ( 嚢胞 ) はいくつか種類 13

縦隔腫瘍 がありますが 気管支の成分からできている 気管支嚢腫 ( 嚢胞 ) と 心臓を包んでいる膜の成分からできている 心膜嚢腫( 嚢胞 ) が 多くを占めます いずれも ほとんどの場合は良性腫瘍ですので CT 検査やMRI 検査でこれらの嚢胞の可能性が高ければ 経過観察を行うことがあります 手術が行われるのは 次第に大きくなる場合 悪性の疑いがある場合 すでに大きくて周囲の臓器を圧迫する場合などです 手術方法は 胸腔鏡手術または開胸手術で嚢腫 ( 嚢胞 ) をきれいに取り除きます ただし 周囲の臓器等にべったりとくっついてはずれない場合には 嚢腫の壁を部分的に切除し内容液を排除するだけにとどめる場合もあります 3. 神経原性腫瘍いくつかの種類があり 多くの場合は良性腫瘍ですが 約 5% で悪性のことがあります たとえ良性であっても 次第に大きくなって脊椎の中に入って行き 脊髄神経を圧迫する場合もありますので 見つかればなるべく手術で取り除くことが勧められます 手術は 胸腔鏡手術または開胸手術で腫瘍を完全に取り除きます ただし 胸椎の近くに発生し椎間孔 ( 重要な神経の通り道 ) 内へ進展している場合には 整形外科との共同での手術が必要となります 4. 胚細胞性腫瘍いくつかの種類がありますが 良性のものと悪性のものがあります 成熟奇形腫 と呼ばれる腫瘍は 良性腫瘍ですが 大きくなってまわりの臓器を圧迫したり 炎症を起こして体に悪影響を与えたりすることがあるので 手術で取り除くことを第一に考えます 悪性腫瘍である セミノーマ や 卵黄嚢がん 絨毛がん 胎児性がん には まず化学療法や放射線療法が行われ CT 検査等で腫瘍が残っているときに手術が行われます 内科的治療 胸腺腫 胸腺癌手術や放射線治療などの局所治療の適応がない場合や 局所治療後に再発した場合は 化学療法が検討されます 具体的な化学療法の内容については まだ研究段階にあり 標準的治療が確立されていないのが現状です 一般的 14

Mediastinal Tumor にはシスプラチン ドキソルビシン ビンクリスチン サイクロフォスファミドの4 剤を組み合わせたADOC 療法が汎用されていますが この他にカルボプラチンとパクリタキセルを組み合わせた治療法の報告があります 縦隔胚細胞性腫瘍縦隔原発の胚細胞性腫瘍は 奇形腫 セミノーマ 非セミノーマに大別されますが いずれも稀な疾患であるため 各治療法を十分に検討した大規模臨床試験はなく 標準的な化学療法は確立されていません 1) 奇形腫外科的切除が一般的には容易とされていますが 周囲の臓器に進展して完全切除できない例もあります 不完全切除の場合はシスプラチンを中心とした化学療法を行うこともありますが 明らかな有効性を示す治療法は今のところないのが現状です 2) セミノーマ放射線 化学療法いずれにも感受性が高く 効果が期待できますが シスプラチンを使用した化学療法を先行させるのが一般的です シスプラチン+ エトポシド (EP 療法 ) やこれにブレオマイシンを加えた (BEP) 療法が広く 行われています 3) 非セミノーマシスプラチンを中心とした上記 EP 療法やBEP 療法が試みられていますが その効果はセミノーマほど高くはありません 化学療法後に手術を組み合わせたりすることもあります 放射線治療 縦隔腫瘍のうち, 悪性リンパ腫 胸腺腫 胸腺癌 胚細胞腫瘍 甲状腺腫瘍などが放射線治療の対象になります 組織型によって治療法や予後が異なります この中で放射線治療の適応となることが多いものは 胸腺腫 胸腺癌 悪性リンパ腫 胚細胞性腫瘍などです ここでは 縦隔腫瘍に対する放射線治療の方法を述べるとともに 上記のような代表的疾患に対する放射線治療について簡単に紹介します 縦隔腫瘍に対して行われる放射線治療は 体の外から放射線を照射する 外部照射法 という方法を用います 一般には リニアックという治療装置を使ってエネルギーの高いエックス線 ( 高エネルギー X 線 ) を患部へ照射します 手術をまず行った場合で 腫瘍を摘出した後に肉眼的または顕微鏡的残存病変が疑われる場合には術後照射を 15

縦隔腫瘍 行います 手術を行わない場合には 放射線治療単独または化学療法と併用して放射線治療で治療します どのように照射するか ( 範囲や方向など ) どの程度照射するか (1 回量や回数など ) は 治療計画専用のCTを撮影後 専用の3 次元放射線治療計画コンピューターを用いて計画します 最終的には 治療の目的や腫瘍の制御 正常臓器への副作用のリスク ( 肺臓炎 食道炎 心外膜炎 脊髄炎など ) などを総合的に勘案して決定します 胸腺腫非浸潤型 ( 腫瘍が完全に胸腺の被膜の内側にとどまっている ) の場合には 手術で完全に摘出してしまえば 放射線治療を行う必要はありません 一方 浸潤型 ( 腫瘍が胸腺の被膜を越えてまわりの組織に浸み出ている ) の場合には 肉眼的に腫瘍を摘出するだけでは治癒が見込めませんので 術後に放射線治療 ( 術後照射 ) を行います 術後照射の場合には もともと腫瘍があった部分 ( 腫瘍床と呼びます ) とその周囲に 1 日 1 回 1.8-2.0グレイ 総線量で40-50グレイ (20-25 回 ) 程度を照射します 肉眼的に腫瘍が残っている部分があれば その部分に範囲を縮 小して10-20グレイ ( 5 回 ) を追加して照射します 胸腺がんに対しても基本的には同様な考え方で治療を行います 腫瘍が原発巣と離れて胸腔の中に播種していたり 周囲の臓器に広く浸潤していて手術ができない場合には 通常 化学療法を先に行って 腫瘍を小さくしてから放射線治療を行うことになります 放射線治療は 1 日 1 回 1.8-2.0グレイで 50-60グレイ (25-30 回 ) 程度を行います 悪性リンパ腫通常は 先に化学療法を3-6クール程度した後に行います リンパ腫は放射線がよく効くタイプの腫瘍ですので 化学療法後で腫瘍がほぼ消失していれば 30グレイ (15-20 回 ) 程度の照射でコントロールできます もし 腫瘍が明らかに残っている場合には 40-50グレイ (20-25 回 ) 程度の照射が必要となります 胚細胞性腫瘍セミノーマとそれ以外のものに大きく分けて治療方針を考える必要があります セミノーマに関しては リンパ腫と同様に放射線治療がよく効くタイプの腫瘍ですので 放射線治療単独の 16

Mediastinal Tumor 場合で30-40グレイ (15-20 回 ) 程度 化学療法が先に行われている場合には 20-30グレイ (10-15 回 ) 程度の治療を行います セミノーマ以外の腫瘍では 先に化学療法をしっかり行っても 50グレイ (25 回 ) 以上の照射が必要です 以上のように 縦隔腫瘍といってもさまざまな性質の異なる腫瘍が含まれていますので 腫瘍のタイプに応じて治療法を選択して行っています 17

MEMO 九州大学病院がんセンター 18

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