係が 無収入が高いポイントをとる J カーブ型であることも指摘される ( 瀬地山 1998) 若年層における専業主婦志向が一時取りざたされ 以前は高卒までの女性が支持していた 専業主婦 を近年では大卒女性が支持するまでとなっている ( 片桐 2014) これは世帯収入の減少や共働きの需要が高まる中で

Similar documents
母親の就業が子どもに与える影響―その意識を規定する要因の分析―

<4D F736F F D DE97C78CA78F418BC B28DB895F18D908F DC58F49817A2E646F63>

参考 1 男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査 について 1. 調査の目的これから結婚 子育てといったライフ イベントを経験する層及び現在経験している層として 若年 ~ 中年層を対象に それまでの就業状況や就業経験などが能力発揮やライフプランに関する意識に与える影響を把握するとともに


続・女性のライフコースの理想と現実-人気の「両立コース」の実現には本人の資質より周囲の影響が大

参考 男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査 について 1. 調査の目的これから結婚 子育てといったライフ イベントを経験する層及び現在経験している層として 若年 ~ 中年層を対象に それまでの就業状況や就業経験などが能力発揮やライフプランに関する意識に与える影響を把握するとともに 家

平成24年度 団塊の世代の意識に関する調査 経済状況に関する事項

Powered by TCPDF (

平成24年度 団塊の世代の意識に関する調査 日常生活に関する事項

3 調査項目一覧 分類問調査項目 属性 1 男女平等意識 F 基本属性 ( 性別 年齢 雇用形態 未既婚 配偶者の雇用形態 家族構成 居住地 ) 12 年調査 比較分析 17 年調査 22 年調査 (1) 男女の平等感 (2) 男女平等になるために重要なこと (3) 男女の役割分担意

25~44歳の子育てと仕事の両立

man2

介護休業制度の利用拡大に向けて

ふくい経済トピックス ( 就業編 ) 共働き率日本一の福井県 平成 2 2 年 1 0 月の国勢調査結果によると 福井県の共働き率は % と全国の % を 1 1 ポイント上回り 今回も福井県が 共働き率日本一 となりました しかし 2 0 年前の平成 2 年の共働き率は

平成26年度「結婚・家族形成に関する意識調査」報告書(全体版)

<4D F736F F D DE97C78CA78F418BC B28DB895F18D908F A DC58F49817A2E646F63>

若年者の就業状況 キャリア 職業能力開発の現状 - 平成 19 年版 就業構造基本調査 特別集計より - 独立行政法人労働政策研究 研修機構 The Japan Institute for Labour Policy and Training

PowerPoint プレゼンテーション

調査研究方法論レポート

Microsoft Word - huuhu3.doc

親の教育意識が家計の教育費負担に及ぼす影響-JGSS-2006データによる分析-

 

目次 Ⅰ 調査概要 1 1. 調査目的 1 2. 調査項目 1 3. 調査設計 1 4. 回収結果 1 5. 報告書の見方 1 Ⅱ 調査結果 2 1. 回答者の属性 2 (1) 性別 2 (2) 年代 2 (3) 結婚の状況 2 (4) 働き方 3 (5) 世帯構成 3 (6) 乳幼児 高齢者との同

第 16 表被調査者数 性 年齢階級 学歴 就業状況別 124 第 17 表独身者数 性 年齢階級 就業状況 家庭観別 142 第 18 表有配偶者数 性 年齢階級 就業状況 家庭観別 148 第 19 表仕事あり者数 性 年齢階級 配偶者の有無 親との同居の有無 職業別 154 第 20 表仕事あ

平成26年度「結婚・家族形成に関する意識調査」報告書(全体版)

,,.,,.,..,.,,,.,, Aldous,.,,.,,.,,, NPO,,.,,,,,,.,,,,.,,,,..,,,,.,

高齢期における幸福感規定要因の男女差について―JGSS-2000/2001統合データに基づく検討―

第 1 章調査の実施概要 1. 調査の目的 子ども 子育て支援事業計画策定に向けて 仕事と家庭の両立支援 に関し 民間事業者に対する意識啓発を含め 具体的施策の検討に資することを目的に 市内の事業所を対象とするアンケート調査を実施しました 2. 調査の方法 千歳商工会議所の協力を得て 4 月 21

調査レポート

第 1 子出産前後の女性の継続就業率 及び出産 育児と女性の就業状況について 平成 30 年 11 月 内閣府男女共同参画局

労働力調査(詳細集計)平成24年平均(速報)結果の要約

98家計研_本文p02_99.indd

第 3 章各調査の結果 35

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

(2) 月額の手取り収入と扶養控除について 図 2: 月額の手取り収入について ( 既婚女性 n=968 未婚女性 n=156) 図 3:( 上 ) 扶養控除や健康保険免除について ( 月収 10 万円未満 n=802 月収 10 万円以上 n=166) ( 下 ) 働く際に扶養控除などを気にしてい

資料2(コラム)

日本医師会男女共同参画についての男性医師の意識調査 クロス集計

結婚しない理由は 結婚したいが相手がいない 経済的に十分な生活ができるか不安なため 未婚のに結婚しない理由について聞いたところ 結婚したいが相手がいない (39.7%) で最も高く 経済的に十分な生活ができるか不安なため (2.4%) 自分ひとりの時間が取れなくなるため (22.%) うまく付き合え

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

( 別刷 ) 中年期女性のジェネラティヴィティと達成動機 相良順子伊藤裕子 生涯学習研究 聖徳大学生涯学習研究所紀要 第 16 号別冊 2018 年 3 月

2. 女性の労働力率の上昇要因 М 字カーブがほぼ解消しつつあるものの 3 歳代の女性の労働力率が上昇した主な要因は非正規雇用の増加である 217 年の女性の年齢階級別の労働力率の内訳をみると の労働力率 ( 年齢階級別の人口に占めるの割合 ) は25~29 歳をピークに低下しており 4 歳代以降は

2. 調査結果 1. 回答者属性について ( 全体 )(n=690) (1) 回答者の性別 (n=690) 回答数 713 のうち 調査に協力すると回答した回答者数は 690 名 これを性別にみると となった 回答者の性別比率 (2) 回答者の年齢層 (n=6

中小企業のための「育休復帰支援プラン」策定マニュアル

Microsoft Word - 坂本様本文確定

Microsoft Word - notes①1210(的場).docx

第2回「離婚したくなる亭主の仕事」調査

第1回「離婚したくなる亭主の仕事」調査

Microsoft Word - 池田様本文確定

第三章:保育士の就業・就職行動と意識

男女共同参画に関する意識調査

第5回 「離婚したくなる亭主の仕事」調査

Microsoft Word - Notes1104(的場).doc

労働力調査(詳細集計)平成29年(2017年)平均(速報)結果の概要

全国就業実態パネル調査2016〔データ集〕

<4D F736F F D F18D908F B B8F9C82AD816A2E646F63>

18歳人口の分布図(推計)

「多様な正社員」と非正規雇用

<4D F736F F D20819D819D F F9193C18F FEA816A8DC58F4994C52E646F6378>

Microsoft Word 結果の概要(1世帯)

スライド 1

日韓比較(10):非正規雇用-その4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか?―賃金水準や社会保険の適用率に差があるのが主な原因―

男女共同参画に関する意識調査

中国帰国者以外 フィリピン アジア諸国 中米南米諸国 欧米系諸国 全体 就業の状態 (1) 現在の職業表 -2.5 は 国籍グループ別に有業者の現在の職業をみたものである

1 はじめに

Ⅲ 働く女性に関する対策の概況(平成15年1月~12月)

の場合 グループ間の格差はいくぶん縮小するが この傾向は変わらなかった 生きがいに関しては 者の方がよりも生きがいを持っている割合が高かった 公務員女性では生きがいとして 仕事 自分自身の内面の充実 という回答割合が会社員に比べて高かった 定年や退職に関しては 現職退職後の仕事について男性は 3 つ

クレジットカードの利用に関する一考察―JGSS-2005の分析から―

スライド 1

02世帯

16211 インターネットバンキングの利用 ( 第 13 回 ) 性年代 性年代 男性 10 代男性 20 代男性 30 代男性 40 代男性 50 代以上女性 10 代女性 20 代女性 30 代女性 40 代女性 50 代以上合計 列 %

(1,000 人 ) 図 2 第 3 号被保険者数 ( 男性 )

電通総研、「女性×働く」調査を実施

リスモン調べ 第4回 離婚したくなる亭主の仕事

出産・育児調査2018~妊娠・出産・育児の各期において、女性の満足度に影響する意識や行動は異なる。多くは子どもの人数によっても違い、各期で周囲がとるべき行動は変わっていく~

PowerPoint プレゼンテーション

平成 30 年度 名古屋市子ども 若者 子育て家庭 意識 生活実態調査報告書 ( 概要 ) 平成 31 年 3 月 名古屋市 1 調査目的平成 31 年度に策定予定のなごや子ども条例第 20 条の規定による 子どもに関する総合計画 及び子ども 子育て支援法第 61 条の規定による 市町村子ども 子育

親と同居の壮年未婚者 2014 年

夫婦間でスケジューラーを利用した男性は 家事 育児に取り組む意識 家事 育児を分担する意識 などに対し 利用前から変化が起こることがわかりました 夫婦間でスケジューラーを利用すると 夫婦間のコミュニケーション が改善され 幸福度も向上する 夫婦間でスケジューラーを利用している男女は 非利用と比較して

離職経験は圧倒的に女性に多く 男性 5% に対して女性の 14% が離職経験ありと回答している 離職の理由 ( 複数回答 ) の第一位は男女ともに キャリアアップ ( 約 50%) であるが 2 番目に多い項目で男女で差があり 男性は 職務の内容 ( 研究テーマを含む ) (40%) であるのに対し

Microsoft PowerPoint

Microsoft Word - 4AFBAE70.doc

教育費負担に影響を及ぼす諸要因―JGSS-2002データによる分析―

第 表性別 年齢階層別にみた就業形態別推計実数 H6 H11 H15 H19 男性 女性 合計 男性 女性 合計 男性 女性 合計 男性 女性 合計 正社員契約社員嘱託社員出向社員 常用雇用型派遣労働者 登録型派遣労働者 臨時的雇用者 パートタイム労働者 歳 83,790 0

第2章 基本的諸概念と用語

<4D F736F F D208F9790AB82AA979D917A82C682B782E B835882CC8C588CFC82C982C282A282C42E646F6378>

 

最近の就業者の労働時間と労働時間帯の関連に関する実証分析

 第1節 国における子育て環境の現状と今後の課題         

全国就業実態パネル調査2019設計資料

電通総研、「若者×働く」調査を実施

第 1 章アンケートの概要 1-1 調査の目的 1-2 対象者 1-3 調査方法 1-4 実施期間 1-5 調査結果サンプル数 第 2 章アンケート調査結果 2-1 回答者自身について (1) 問 2: 年齢 (2) 問 5: 同居している家族 2-2 結婚について (1) 問

究 ( 田中 1998 小島 1995 など ) が多く 後者は比較的若い世代を対象にした研究が多い ( 仙田 2002 永瀬 1999 新谷 1998 など ) 夫の収入については 多くの研究で高い夫の収入は妻の就業を抑制する効果が認められる ( 小島 1995 永瀬 1999 新谷 1998 な

2 継続雇用 の状況 (1) 定年制 の採用状況 定年制を採用している と回答している企業は 95.9% である 主要事業内容別では 飲食店 宿泊業 (75.8%) で 正社員数別では 29 人以下 (86.0%) 高年齢者比率別では 71% 以上 ( 85.6%) で定年制の採用率がやや低い また

<8EF78C60907D816989BC816A2E786C7378>

関西圏女性の仕事と子育てに関する意識調査 ( 有業者 ) 1 集計結果 : 従事者の特徴 車井浩子横山由紀子 1. 調査の概要 2 調査地域 関西圏 ( 滋賀県 京都府 大阪府 兵庫県 奈良県 和歌山県 ) 調査対象者 小学生以下の子どもを持つ 歳の働いている女性 調査方法 調査会社の提

ブック 1.indb

厚生労働省発表

図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

3. 民泊の利用経験 SQ1: あなたは 民泊 を利用したことがありますか ( いくつでも ) 回答者属性 不在民不在民利用し不在民不在民利用し H 民泊 - H 民泊 - H 民泊 - H 民泊 - 泊 - 国泊 - 海たこと泊 - 国泊 - 海たこと国内海外国内海外内外はない内外はない 100.

Transcription:

専業主婦であることは生活満足度を高めるか * 1 黒田麻耶 ( 京都大学 ) 論文要旨 女性の社会進出が推進される一方で 日本では未だ専業主婦を選択する女性は多数存在し 女性の労働力率が男性の労働力率と比較して低い水準を維持し続けている その原因として 育児休暇からの復帰の困難さや託児施設の不十分さ 男性の長時間労働といった構造的要因が多く議論されている 本稿では分析には 社会階層と社会移動全国調査 (SSM 調査 ) を用い 専業主婦であることが 他の就業形態と比較してどのような効果を持つかを検討する 20 歳から 60 歳までの既婚女性の回答者を対象とする (N=1501) 従属変数は生活満足度とし 独立変数は従業上の地位( 経営者 正規雇用者 非正規雇用者 自営業者 求職者 専業主婦 ) とする 専業主婦であることに比較して 非正規であること 求職中であることは本人年収や配偶者年収等を統制してもなお 生活満足度に負の効果を持っている また 子どもの有無は生活満足度に効果があるとはいえない 分析の結果として有意ではないが 正規雇用者であることが生活満足度に負の効果を持っている これは仕事と家事の両立が困難であるがゆえに 満足度を低下させていると考えられる キーワード : 専業主婦 ジェンダー 生活満足度 1. 問題の所在近年専業主婦における多層化が指摘され始めている 末子年齢 18 歳以下の世帯への調査では 専業主婦世帯の平均年収は 妻がパート アルバイト より 65 万円高い一方で 貧困率は 12.4% にのぼる 夫だけの収入で十分に家族を養える 比較的裕福な専業主婦世帯が存在する一方で 貧困層でありながらも何らかの事情で妻が働けないという状況にある専業主婦世帯も大勢存在する ( 労働政策研究 研修機構 2012) 貧困層の専業主婦世帯において母親が働いていない主な理由として 半数以上が 子どもの保育の手だてがない ことを挙げる 実際に女性の出産 育児期の離職率は非常に高く 15.4% が出産前にすでに無職となり 39.1% が出産退職 ( 産後 1 年以内に退職 ) していることが日本の女性就労の現状だ 母親は子どもの年齢段階に応じてフルタイムに移行することを理想とするが 実際には年齢段階に応じた労働形態の変化はあまり無く 労働市場から追い出されたままとなるという ( 労働政策研究 研修機構 2012) 一方で 豊かな専業主婦イメージ は未だに残っており 女性の収入と学歴や夫年収の関 1 本研究は JSPS 科研費 JP25000001 の助成を受けたものです 59

係が 無収入が高いポイントをとる J カーブ型であることも指摘される ( 瀬地山 1998) 若年層における専業主婦志向が一時取りざたされ 以前は高卒までの女性が支持していた 専業主婦 を近年では大卒女性が支持するまでとなっている ( 片桐 2014) これは世帯収入の減少や共働きの需要が高まる中で 専業主婦 でいられることの希少性が推測される そこで本稿では 専業主婦であることが女性にとってどのような意味があるのかを検討する 2. 主婦と階層 2.1 女性と階層階層研究において女性をどのように位置づけするか これまで多くの議論がなされてきた 男性は本人収入の効果が強く見られるが 女性の雇用が流動的であることから 男女を同じ分析で語ることは難しい 従来の階層研究では (1) 階層体系の単位は家族 ( 世帯 ) であり (2) 家族の階層体系上の社会的位置は男性世帯主の地位により代表され (3) 家族成員の階層的地位は 家族のそれに等しいということが暗黙の仮定であると整理される ( 盛山 1994) 女性の場合は未婚の時は父親に 結婚した後は家庭への経済的寄与度の低さなどから夫の地位に代表されることが確認されている ( 白波瀬 2004) しかし女性をめぐる状況は変化を続けており こうした代用には疑問が持たれている 中でも無職の既婚女性 すなわち 専業主婦 と呼ばれる女性は 属する階層が本人の収入や職業的地位にとらわれないため階層研究において検討が必要となるところだ 2.2 専業主婦と階層専業主婦は階層研究において 専業主婦であることは非正規労働 自営業 求職中であることに比べて 本人や出身世帯の階層的属性をコントロールしても 階層帰属意識を高めることが指摘されている ( 大和 2008) しかし夫の階層的地位をコントロールすると 求職中の場合を除き その効果は無くなるという つまり夫の階層的地位が同じ場合 妻の雇用状況は求職中でなければ階層帰属意識は変わらないという 専業主婦であることは高い階層のライフスタイルではなくなっており ステータスとして機能していないという しかしこれは専業主婦自身の評価であり 社会全体からみた評価でないところには注意が必要である 3. データと変数本稿では 2015 年社会階層と社会移動調査 (SSM2015) のデータを用いる 分析対象は調査時点で 20 歳から 60 歳の既婚女性 (N=1893) とし 夫と別居している場合は含むが 離死別である場合は含まない 従属変数は まず階層帰属意識に関する質問 かりに社会全体を上から順に 1 から 10 の層に分けるとすれば このどれに入ると思いますか について 点数が高いほど帰属する階層 60

が高くなるように 1 から 10 を設定している 次に生活満足度に関する質問 あなたは生活全般について満足していますか それとも不満ですか について 点数が高いほど生活満足度が高くなるように 1 から 10 を設定している 独立変数は妻の従業上の地位について 大和 (2008) に倣い 経営者 役員 を 経営者 常時雇用されている一般従業者 を 正規雇用 臨時雇用 パート アルバイト 派遣 契約 嘱託 内職 を 非正規雇用 自営業主 自由業 家族従業者 を 自営 無職だが仕事を探している を 求職中 無職で仕事を探していない を 専業主婦 の 6 つに分類した 専業主婦 を基準としたダミー変数として用いる 統制変数として本人の出身階層 ( 学歴 本人年収 ) 配偶者や世帯の階層( 配偶者収入 持ち家の有無 ) を投入した また 子どもをもつこと が必須ではなく選択できるものだという考えが広まり始める中 階層帰属意識や生活満足度に影響をもつかの確認を試みるため 試験的に投入する 年齢は 20 歳代を基準として 30 歳代 40 歳代 50 歳代と設定する ここでは 60 歳を 50 歳代に含むこととする 学歴は教育年数とし 卒業した学校までの年数をいれる 年収は大和 (2008) に倣い なし (0) 25 万円未満 (12.5) 25~50 万円未満 (37.5) 以下 25 万円 (25) 間隔で 125~150 万円未満 (137.5) まで設定する 150~200 万円未満 (175) からは 50 万円 (50) 間隔で 400~450 万円未満 (425) まで操作を行い 450~550 万円未満 (500) 以降は 100 万円 (100) 間隔で 2050 万円以上 (2050) まで設定する 持ち家の有無はマンションを含む持ち家を ある (1) ない(0) とし こどもは人数に関わらず同居別居の区別なく いる (1) いない(0) とする 4. 分析 4.1 データの概観まず 女性の従業上の地位はどのようになっているかを概観する 既婚女性と未婚女性を比較すると 未婚女性に比べて既婚女性は正規職に就いていない傾向にあり 多くが無職 ( 専業主婦 ) 非正規であることが本データでも確認される( 表 1) 表 1 女性の従業上の地位 20 代 30 代 40 代 50 代 既婚 未婚 既婚 未婚 既婚 未婚 既婚 未婚 無職 37(33.6) 5(2.2) 146(31.0) 9(5.6) 122(19.4) 13(7.8) 178(26.3) 19(14.2) 経営 0(0) 0(0) 3(0.6) 1(0.6) 12(1.9) 1(0.6) 23(3.4) 4(3.0) 正規 32(29.1) 129(56.8) 130(27.6) 77(47.8) 171(27.1) 86(51.8) 126(18.6) 51(38.1) 非正規 27(24.5) 75(33.0) 151(32.1) 46(28.6) 249(39.5) 52(31.3) 275(40.6) 47(35.1) 自営 5(4.5) 7(3.1) 19(4.0) 13(8.1) 43(6.8) 9(5.4) 64(9.5) 7(5.2) 求職中 9(8.2) 11(4.8) 22(4.7) 15(9.3) 33(5.2) 5(3.0) 11(1.6) 6(4.5) 61

次に既婚女性だけのデータより 年齢階層別の従業上の地位を検討する ( 図 1) 20 代と 30 代へ移行すると非正規は増加しており 40 代へ移行すると増加の幅はさらに大きく また専業主婦の割合も大きく減少する 結婚 出産期に当たる年代に労働力率が低下し 育児が一段落就くとすると再上昇し M 字型カーブがみられる ここで着目したいところは非正規が大きく伸びているところと 正規職の変動が少ないところである 専業主婦が減少した分は非正規に移行していると考えられ 既婚女性は再就労しても経済的に従属的な立場であることは変化しない 図 1 年齢階層別従業上の地位 ではどういった人が専業主婦になるのだろうか 配偶者年収 世帯年収別にみた妻の従業上の地位を図 2 に示す 配偶者年収別でみると やはり高所得層において専業主婦が圧倒的に多い また経営者である妻も配偶者年収の高いところで多く 高学歴同士の婚姻に代表される同類婚が推測される 世帯年収だけでみると やはり世帯年収が増加するにつれて正規で働く妻が大幅に増加する 世帯年収で考えると専業主婦の妻がいる世帯は決して高階層にいるとはいえず 共働き家庭 中でも妻が正規雇用である方が豊かであるといえる 62

図 2 配偶者年収 世帯年収別従業上の地位 4.2 被説明変数 ( 階層帰属意識 生活満足度 ) と説明変数との関連つぎに被説明変数である階層帰属意識および生活満足度と 妻の従業上の地位についての関連を 一元配置の分散分析からみる ( 表 2) これより階層帰属意識 生活満足度ともに妻の従業上の地位によって有意に異なる結果であることが分かる 経営者 役人である妻が最も階層帰属意識が高く 次いで自営 正規 専業主婦 非正規 最も低いものが求職中である 生活満足度についても経営者 役人である妻が最も生活満足度が高く 次いで正規 専業主婦 自営 非正規 最も低いものが求職中となる 表 2 一元配置の分散分析 階層帰属意識 生活満足度 平均値 標準偏差 n 平均値 標準偏差 n 経営 6.3421 1.341164 38 7.6842 1.612540 38 正規 5.8378 1.371974 459 7.2045 1.714006 459 非正規 5.4496 1.471095 702 6.9809 1.872105 702 自営 5.8984 1.586557 131 7.1860 1.991260 131 求職中 5.3378 1.445608 75 6.7067 1.858315 75 専業主婦 5.7406 1.519843 483 7.1975 1.808159 483 計 5.6593 1.481548 1888 7.1111 1.827342 1888 F 7.514*** 2.676* ***p<.001 *p<.1 4.3 階層帰属意識に関する重回帰分析 まず model1 では既婚女性の従業上の地位を投入した ここでは経営者であることは専業主 婦であることよりも階層帰属意識を高める一方 非正規雇用であることは専業主婦であるこ 63

とよりも階層帰属意識を低める傾向にある しかし model2 において年齢をコントロール変数として投入すると 経営者であることによる階層帰属意識への影響はあるといえなくなる またこの年齢の効果も model3 model4 で教育年数や本人年収 持ち家の有無や配偶者年収を統制することで有意ではなくなる年齢や教育年数 本人年収や持ち家の有無 配偶者年収を統制しても 非正規であることは専業主婦であることに比べて 階層帰属意識を低くする効果があるといえる 全く同じように統制しているのではないため単純に比較することはできないが 2005 年データで指摘された 夫年収を統制すると非正規雇用であることの負の相関があるとはいえなくなる ということ また 求職中であることが階層帰属意識を下げる ということはみられなかった 表 3 階層帰属意識に関する回帰分析 4.4 生活満足度に関する重回帰分析 次に生活満足度について検討する ここでも同様に model1 で従業上の地位を投入すると 非正規雇用に負の相関がみられる つまり専業主婦であることに比べ 非正規雇用であるこ 64

とは生活満足度を下げる傾向にあるといえる しかし年齢や学歴 本人年収や配偶者年収で統制することにより これは有意ではなくなる 一方で求職中であることは本人年収や夫年収等を統制してもなお生活満足度に負の効果を持っており 専業主婦であることに比べ 求職中であることは生活満足度を下げる傾向にあるといえる 年齢に注目すると 50 歳代で生活満足度に負の効果がみられる 年金問題や健康等 加齢に伴う満足度低下が考えられるが 本稿では扱わない また有意ではないが 専業主婦であることに比べ 正規雇用者であることが生活満足度に負の効果を持つ傾向がみられる 試験的に投入した 子どもの有無 は今回の分析では生活満足度に効果があるとはいえなかった 表 4 生活満足度に関する回帰分析 5. 議論 本稿で明らかとなったことは以下のとおりである まず階層帰属意識に関しては 専業主 65

婦であることに比べて経営者であることは 階層帰属意識を高める傾向にあるが 出身階層や配偶者階層等を統制することによって有意ではなくなる 一方で非正規であることは専業主婦であることに比較して 他の変数を統制してもなお階層帰属意識を低くする傾向にあるといえる 収入よりもむしろ非正規雇用という不安定さが 階層を下げているといえる 出産休暇や育児休暇の取得が以前よりは推進され 女性も結婚してからも仕事を継続したり 育児が落ち着いた後に正規雇用として復職するケースが少しずつながら増加したりすることにより 非正規雇用の階層意識は徐々により押し下げられる可能性がある これは女性のみの話ではなく 男女ともに 非正規であること がもつ経済面以外の意味についても今後検討が必要であると言える 生活満足度に関しては 求職中であることは他の変数を統制してもなお 専業主婦 であることに比べて生活満足度を下げる傾向にあるといえる 求職中の女性に関して大和 (2008) は 働くことに対して積極的であり それは実際のライフコースにも表れている女性だという 本稿では階層帰属意識に効果があるとはいえなかったが 希望のライフコースを辿れないコンフリクトから生活満足度を下げるという効果は支持された 既婚女性を従業上の地位で分類するとき 無職を全て 専業主婦 として扱うことは多い しかし実際には無職の中でも 働きたいが働けていない 働く予定がない という就労意志の違いが存在しており これは決して見落としてはいけない差異であるといえる 女性のキャリア継続がわずかながらも進められはじめたことで これからの主婦研究において必要な観点だと考えられる また今回有意であるとはいえなかったが 正規雇用の女性が専業主婦であることに比べ生活満足度を低くする効果がみられている 経済面や社会的地位を考慮してもなお 既婚女性にとって常に課題であり続ける 家庭と仕事の両立 の負担が生活満足度に影響を及ぼしていると解釈できる 少なくとも既婚女性にとってはこの両立可能性という点は働くにあたり非常に重要な問題であり 正規や非正規といった従業上の地位や収入といった従来の指標だけでは明らかにされないという課題がある さらに今回試験的に投入した 子どもの有無 であるが 階層帰属意識や生活満足度に効果が見られなかった 階層帰属意識においては有意ではないが負の効果が見られており これは世帯人数が増えることによる等価可処分所得で説明が可能だろう 一方生活満足度には効果があるとはいえず 子どもを持つこと 持たないことの選択という概念が広まり始めた現在でどのような意味があるのか 今後さらなる検討が必要だろう [ 文献 ] 片桐新自.2014. 不透明社会の中の若者たち: 大学生調査 25 年から見る過去 現在 未来 関西大学出版部. 盛山和夫.1994. 階層研究における 女性問題 理論と方法 9(2): 111-126. 66

瀬地山角.1998. 主婦の階層的位置: 東アジアにおける日本の位置づけと社会政策的含意. 園田茂人編 東アジアの階層比較 1995 年 SSM 調査シリーズ 19: 133-147. 大和礼子.2008. 専業主婦であること は女性の階層帰属意識を高めるか? 専業主婦の妻を持つこと は男性の階層帰属意識を高めるか? 轟亮編 階層意識の現在 2005 年 SSM 調査シリーズ 8: 87-102. 白波瀬佐和子.2004. 社会階層と世帯 個人: 個人化 論の検証 社会学評論 54(4): 370-385. 労働政策研究 研修機構.2012. 子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査 JILPT 調査シリーズ No.95. 67

Does it improve life satisfaction to be Housewives? * Maya Kuroda (Kyoto University) Abstract There are many women who choose to be full-time housewives in Japan, and the movement of women into society and labor force participation rate of females has remained at lower levels than males. The reasons for this can be found in structural factors, difficulty in returning from parental leave, shortage of daycare centers for children, and long working hours of fathers. In this paper, I examine whether it has an effect and what kind of effect it has compared to other operation forms to be a full-time housewife using the National Survey of Social Stratification and Social Mobility (SSM). I set a target of analysis for research respondents of married women from 20 to 60 years old. The dependent variable is life satisfaction, and the independent variables are type of employment, manager, regular employee, non-regular employee, self-employed, job-hunter, and housewife. Non-regular employees and job-hunters were typically less satisfied than housewives when there were other objective index. Keywords: housewives, gender, life satisfaction * The study was supported by JSPS KAKENHI Grant Number JP25000001. 68