ここが知りたい かかりつけ医のための心不全の診かた

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為化比較試験の結果が出ています ただ この Disease management というのは その国の医療事情にかなり依存したプログラム構成をしなくてはいけないということから わが国でも独自の Disease management プログラムの開発が必要ではないかということで 今回開発を試みました

認定看護師教育基準カリキュラム

パスを活用した臨床指標による慢性心不全診療イノベーション よしだ ひろゆき 福井赤十字病院クリニカルパス部会長循環器科吉田博之 緒言本邦における心不全患者数の正確なデータは存在しないが 100 万人以上と推定されている 心不全はあらゆる心疾患の終末像であり 治療の進步に伴い患者は高齢化し 高齢化社会

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第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

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機能分類や左室駆出率, 脳性ナトリウム利尿ペプチド (Brain Natriuretic peptide, BNP) などの心不全重症度とは独立した死亡や入院の予測因子であることが多くの研究で示されているものの, このような関連が示されなかったものもある. これらは, 抑うつと心不全重症度との密接な

患者さんの食のストレス解消がQOL 向上につながる 5 質疑応答 Q) 食事を摂れない人の食事指導について A) 普段は食べてはいけないと言われているものをわざと出してみる 少量なら問題ないので少しでも食べられるところを何かきっかけにする 3. 末期重症心不全患者への補助人工心臓医療 看護の現状と課

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第1章 1 重症心不全症例のファーストタッチ 1 臨床症状から 臨床症状から ①症状 病歴聴取時に心不全の重症度を正確に評価するためのポ イントは ②病歴 臨床症状をどのように心不全管理に活かすか ③患者の受けとめ方や社会背景は心不全診療に関係するか 臨床症状 病歴聴取は心不全患者を診療するときに最

心疾患患による死亡亡数等 平成 28 年において 全国国で約 20 万人が心疾疾患を原因として死亡しており 死死亡数全体の 15.2% を占占め 死亡順順位の第 2 位であります このうち本県の死亡死亡数は 1,324 人となっています 本県県の死亡率 ( 人口 10 万対 ) は 概概ね全国より高

医療法人高幡会大西病院 日本慢性期医療協会統計 2016 年度

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

50% であり (iii) 明らかな心臓弁膜症や収縮性心膜炎を認めない (ESC 2012 ガイドライン ) とする HFrEF は (i)framingham 診断基準を満たす心不全症状や検査所見があり (ii) は EF<50% とした 対象は亀田総合病院に 年までに初回発症

わが国における糖尿病と合併症発症の病態と実態糖尿病では 高血糖状態が慢性的に継続するため 細小血管が障害され 腎臓 網膜 神経などの臓器に障害が起こります 糖尿病性の腎症 網膜症 神経障害の3つを 糖尿病の三大合併症といいます 糖尿病腎症は進行すると腎不全に至り 透析を余儀なくされますが 糖尿病腎症

2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

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面的 包括的なリハビリテーションが多職種 ( 医師 看護師 薬剤師 栄養士 理学療法士等 ) のチームにより実施されます 喪失した心機能の回復だけではなく 再発予防 リスク管理などの多要素の改善に焦点が当てられ 患者教育 運動療法 危険因子の管理等を含む 疾病管理プログラムとして実施されます 急性期

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(1) 医療保険 医療特約の加入率民保加入世帯 ( かんぽ生命を除く ) における医療保険 医療特約の世帯加入率は88.5%( 前回 91.7%) となっている 世帯員別にみると 世帯主は82.5%( 前回 85.1%) 配偶者は68.2%( 前回 69.6%) となっている 前回と比較すると 世帯

CCU で扱っている疾患としては 心筋梗塞を含む冠動脈疾患 重症心不全 致死性不整脈 大動脈疾患 肺血栓塞栓症 劇症型心筋炎など あらゆる循環器救急疾患に 24 時間対応できる体制を整えており 内訳としては ( 図 2) に示すように心筋梗塞を含む冠動脈疾患 急性大動脈解離を含む血管疾患 心不全など

2. 延命措置への対応 1) 終末期と判断した後の対応医療チームは患者および患者の意思を良く理解している家族や関係者 ( 以下 家族らという ) に対して 患者が上記 1)~4) に該当する状態で病状が絶対的に予後不良であり 治療を続けても救命の見込みが全くなく これ以上の措置は患者にとって最善の治

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脳卒中に関する留意事項 以下は 脳卒中等の脳血管疾患に罹患した労働者に対して治療と職業生活の両立支援を行うにあ たって ガイドラインの内容に加えて 特に留意すべき事項をまとめたものである 1. 脳卒中に関する基礎情報 (1) 脳卒中の発症状況と回復状況脳卒中とは脳の血管に障害がおきることで生じる疾患

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通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

また リハビリテーションの種類別では 理学療法はいずれの医療圏でも 60% 以上が実施したが 作業療法 言語療法は実施状況に医療圏による差があった 病型別では 脳梗塞の合計(59.9%) 脳内出血 (51.7%) が3 日以内にリハビリテーションを開始した (6) 発症時の合併症や生活習慣 高血圧を

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

4 月 17 日 4 医療制度 2( 医療計画 ) GIO: 医療計画 地域連携 へき地医療について理解する SBO: 1. 医療計画について説明できる 2. 医療圏と基準病床数について説明できる 3. 在宅医療と地域連携について説明できる 4. 救急医療体制について説明できる 5. へき地医療につ

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体制強化加算の施設基準にて 社会福祉士については 退院調整に関する 3 年以上の経験を有する者 であること とあるが この経験は 一般病棟等での退院調整の経験でもよいのか ( 疑義解釈その 1 問 49: 平成 26 年 3 月 31 日 ) ( 答 ) よい 体制強化加算の施設基準にて 当該病棟に

ケア困難患者や家族への直接ケア 医療スタッフへのコンサルテーション 退院や倫理的問題を調整する調整 ケアの質を改善 向上させるための教育と研究を実践し CNS が関わることで患者の病状や日常生活機能と社会的機能が改善して 患者と家族の QOL が高まり 再入院が減少することが明らかとなってきておりま

心房細動の機序と疫学を知が, そもそもなぜ心房細動が出るようになるかの機序はさらに知見が不足している. 心房細動の発症頻度は明らかに年齢依存性を呈している上, 多くの研究で心房線維化との関連が示唆されている 2,3). 高率に心房細動を自然発症する実験モデル, 特に人間の lone AF に相当する

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平成 30 年度診療報酬改定に向けた検討について H29/1/16WG 厚労省提出資料 平成 30 年度診療報酬改定に向けた検討の方向性 平成 30 年度診療報酬改定に向けて 以下の遠隔医療形態モデルも参考に 委員からご指摘のあった初診に関する取扱いも含め 対面診療に比べて患者に対する医療サービスの

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Part 1 症状が強すぎて所見が取れないめまいをどうするか? 頭部 CT は中枢性めまいの検査に役立つか? 1 めまい診療が難しい理由は? MRI 感度は 50% 未満, さらには診断学が使えないから 3

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

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3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

リハビリテーションを受けること 以下 リハビリ 理想 病院でも自宅でも 自分が納得できる 期間や時間のリハビリを受けたい 現実: 現実: リ ビリが受けられる期間や時間は制度で リハビリが受けられる期間や時間は制度で 決 決められています いつ どこで どのように いつ どこで どのように リハビリ

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保障内容 1. スマイルセブン Super( 無配当 7 大疾病保険 ( 返戻金なし型 )S) (1) 仕組図 名称支払事由支払限度支払金額 7 大疾病一時金 7 大疾病保険 ( 返戻金なし型 )S 下記疾病により 所定の状態に該当したとき がん 悪性新生物 上皮内新生物 下記疾病により 所定の状態

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

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(目的)

高齢化率が上昇する中 認定看護師は患者への直接的な看護だけでなく看護職への指導 看護体制づくりなどのさまざまな場面におけるキーパーソンとして 今後もさらなる活躍が期待されます 高齢者の生活を支える主な分野と所属状況は 以下の通りです 脳卒中リハビリテーション看護認定看護師 脳卒中発症直後から 患者の

基本料金明細 金額 基本利用料 ( 利用者負担金 ) 訪問看護基本療養費 (Ⅰ) 週 3 日まで (1 日 1 回につき ) 週 4 日目以降緩和 褥瘡ケアの専門看護師 ( 同一日に共同の訪問看護 ) 1 割負担 2 割負担 3 割負担 5, ,110 1,665 6,

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7 対 1 10 対 1 入院基本料の対応について 2(ⅲ) 7 対 1 10 対 1 入院基本料の課題 将来の入院医療ニーズは 人口構造の変化に伴う疾病構成の変化等により より高い医療資源の投入が必要となる医療ニーズは横ばいから減少 中程度の医療資源の投入が必要となる医療ニーズは増加から横ばいにな

平成 26 年 ₇ 月 15 日発行広島市医師会だより ( 第 579 号付録 ) 2.NT-proBNP の臨床的意義 1 心不全 ( 収縮及び拡張機能障害 ) で早期より測定値が上昇するため 疾患の診断や病状の経過観察さらには予後予測等に活用できます 2NT-proBNP の測定値は疾患の重症度

2. 平成 9 年遠隔診療通知の 別表 に掲げられている遠隔診療の対象及び内 容は 平成 9 年遠隔診療通知の 2 留意事項 (3) イ に示しているとお り 例示であること 3. 平成 9 年遠隔診療通知の 1 基本的考え方 において 診療は 医師又は歯科医師と患者が直接対面して行われることが基本

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

要望番号 ;Ⅱ-286 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 33 位 ( 全 33 要望

(2) 傷病分類別ア入院患者入院患者を傷病分類別にみると 多い順に Ⅴ 精神及び行動の障害 千人 Ⅸ 循環器系の疾患 千人 Ⅱ 新生物 千人となっている 病院では Ⅴ 精神及び行動の障害 千人 Ⅸ 循環器系の疾患 千人 Ⅱ 新生物 147.

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

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< 糖尿病療養指導体制の整備状況 > 療養指導士のいる医療機関の割合は増加しつつある 図 1 療養指導士のいる医療機関の割合の変化 平成 20 年度 8.9% 平成 28 年度 11.1% 本糖尿病療養指導士を配置しているところは 33 医療機関 (11.1%) で 平成 20 年に実施した同調査

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指標 45 急性心不全におけるリスク調整院内死亡率 (DPC 指標 厚労省提出指標 ) 分子の定義 Ⅰ. 分母のうち 退院時転帰が 6. 最も医療資源を投入した傷病による死亡 あるいは 7. 最も医療資源を投入した傷 病以外による死亡 である症例数 リスク調整因子の定義 性別年齢入院時年齢 :18-

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研究協力施設における検討例 病理解剖症例 80 代男性 東京逓信病院症例 1 検討の概要ルギローシスとして矛盾しない ( 図 1) 臨床診断 慢性壊死性肺アスペルギルス症 臨床経過概要 30 年前より糖尿病で当院通院 12 年前に狭心症で CABG 施行 2 年前にも肺炎で入院したが 1 年前に慢性

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透析看護の基本知識項目チェック確認確認終了 腎不全の病態と治療方法腎不全腎臓の構造と働き急性腎不全と慢性腎不全の病態腎不全の原疾患の病態慢性腎不全の病期と治療方法血液透析の特色腹膜透析の特色腎不全の特色 透析療法の仕組み血液透析の原理ダイアライザーの種類 適応 選択透析液供給装置の機能透析液の組成抗

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慢性心不全患者が再入院に至った生活行動における問題点 高齢者世帯の患者の自己管理に関する語りを通して 古市麻由子, 子安藍, 八木美穂, 池澤緒利恵 2), 飯田智恵 3) 長岡赤十字病院 6B 棟 2) 元長岡赤十字病院 3) 新潟県立看護大学 Keyword: 慢性心不全, 再入院, 高齢者世帯

第1 総 括 的 事 項

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10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

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特定B型肝炎ウイルス感染者給付金等の支給に関する特別措置法の一部を改正する法律の公布について(厚生労働省健康局長:H )

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Section 1 心不全パンデミックに向けた, かかりつけ実地医家の役割と診療のコツ ここがポイント 1. 日本では高齢者の増加に伴い, 高齢心不全患者さんが顕著に増加する 心不全パンデミック により, かかりつけ実地医家が心不全診療の中心的役割を担う時代を迎えています. 2. かかりつけ実地医家が高齢心不全患者さんを診察するとき,1 心不全患者の病状がどのように進展するかを理解すること,2 心不全の特徴的病態であるうっ血と末梢循環不全を外来診療で簡便に評価する方法を習得すること, そして,3 心不全の重症度ステージに沿った薬物療法の治療方針を知ることが, 日々の外来診療に役立つポイントです. はじめに日本では高齢者の増加に伴い, 心不全パンデミック といわれるように高齢心不全患者さんが顕著に増加することが予想されます. 基幹病院の循環器専門外来ですべての心不全患者の診療を継続することは困難になるため, 基幹病院における治療は急性非代償性心不全が主体となり, 慢性期診療は地域において診療所が担うという役割分担が明確な時代を迎えようとしています. そのため, 心不全発症の危険因子である高血圧症や糖尿病などの基礎疾患を外来で診察している実地医家は, 心不全徴候が顕在化してからも, かかりつけ医として高齢心不全患者さんの診療を継続して担う機会が多くなると思います. 実地医家がかかりつけ医として高齢心不全患者さんの外来診療を担当するときには, 心不全再入院を少しでも減らすこと, そして心不全により患者さんの QOL ができるだけ損なわれないように努めることが診療の目標になります. 本章では, かかりつけ実地医家が高齢心不全患者の診療に携 1

わるときに役立つ,3 つのポイントについて説明します. 心不全患者の病状がどのように進展するかを理解する 高齢心不全患者さんの病状がこれからどのように変化するのか, 病状の進展に伴い入院する危険性がどのように増えていくのかを理解することは, 患者さんや介護者である家族に対して, 併存症や生活環境の問題など心不全を総合的に管理するための治療方針を説明することに役立ちます. また, 地域では病院との医療連携において, 再入院の必要性について相談することに役立ちます. そこで, かかりつけ実地医家の外来診療に役立つ第 1 のポイントとして,Goodlin らが 2009 年に発表した心不全患者における経年的な身体機能の変化と, 最終的に終末期に至る経過をまと 1, めた概念図 2) をもとにして, 心不全患者の病状進行について説明します ( 図 1-1 ). はじめに高齢心不全患者さんの病状がどのように変化していくか病みの軌跡を, 図 1-1 に沿って考えてみます. 先天性心疾患や若年発症の拡張型心筋症など特定の疾患を除くと, 多くの患者さんは成人になりさまざまな病因や誘因により心不全症状が顕在化したときに, 初めて心不全に罹患したことを認識します ( 図 1-1 1: 心不全治療開始時期 ). 心不全の最大の特徴であり, 癌などの疾患と大きく異なる点は, 初回発症の心不全で入院した患者さんの 9 割以上は, 退院時には心不全症状は改善し, 自覚症状はほとんど消失することです. そのため, 退院すると 心不全は治った と考える患者さんに出会うことがあります. しかし実際には, 入院加療により退院時には心不全徴候は軽快していますが, 退院後に心不全症状は進行性に悪化することが多いため, 入退院を繰り返し, 断続的に重症化します ( 図 1-1 2: 断続的な悪化時期 ). 例えば図 1-2 に示すように, 循環器専門病院に急性非代償性心不全で入院した患者を対象にして, 初回入院症例と再入院症例とで退院後の予後を比較検討すると, 再入院症例は初回入院症例に較べて, 退院してから 1 2 年以内に再入院や死亡する割合が有意に高いことから, 一度顕在性の心不全徴候が出現し入院治療が 2

必要になった患者さんは, 心不全入院歴のない患者さんに較べて再入院する頻度が高いことは明らかです. そして, 多くの場合, 入退院を繰り返し断続的に病態が悪化し, やがては終末期 ( 図 1-1 3: ステージ D 以降の終末期 ) から死に向かいます. このような典型的経過を辿らず, 退院後に再入院しないことや, 初回入院の退院直後に突然死を生じることもありますが, 多くの高齢心不全患者さんは図 1-1 のような経過を辿ります. Section 1 最適 1 心不全治療開始 2 断続的な悪化 体活入院 在宅身動死亡 繰り返す心不全入院 3 ステージ D 以降の終末期 時間経過図 1-1 (Goodlin SJ. J Am Coll Cardiol. 2009; 54: 386 96 1) 改変 ) event free rate 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 初回急性心不全例 心不全再入院例 0.0 0 500 1,000 duration of follow ー up(days) 1,500 図 1-2 再入院例 生命予後 非常 悪.( 横山広行. 日本循環器学会学術集会 2012 年. 福岡 ) 3

それでは, かかりつけ実地医家は, 高齢心不全患者さんの病状進展に合わせてどのような対応をすべきかを考えてみます. 初めて心不全徴候が顕在化し, 心不全治療を開始するとき ( 図 1-1 1), 診察医が第 1 に行うべきことは入院治療が必要か, それとも外来で治療できる状態であるかを判断することです. 一般的に緊急入院の必要性はバイタルサインと自覚症状の強さにより判断します. 緊急入院が必要ではないと判断した場合でも, 初回心不全であれば症状が顕在化した原因を究明するために, 一度は循環器専門医の診察が必要です. また, 心不全の原因が急性心筋梗塞や重症不整脈による場合には, 心不全徴候が急激に出現するために, かかりつけ医の外来を受診することなく, 直接基幹病院へ搬送され入院することが多いと思います. 入院治療により呼吸困難に対する酸素療法と水分バランスの適正化が図られ, 原因が除かれることにより心臓への負荷が軽減すると, 多くの症例では心不全症状が消失し, 退院後には外来診療を行うことになります. このような場合に, かかりつけ実地医家は入院担当医から, 心不全の増悪した原因と入院中の治療内容について診療情報を提供していただき情報共有することにより, その後の外来診療に反映することが大切です. また, 高齢心不全患者で入院中にフレイルが進展することにより, 退院後に通常の外来通院が困難であると判断される場合には, かかりつけ実地医家による在宅診療が必要になることがあります. それでは, 初回心不全により入院した患者さんが退院するときには, かかりつけ医は外来診療でどのようなことに注意すべきなのでしょうか. 心不全で入院した患者さんに対して, 退院後 1 週間以内の患家宅訪問や, 直接電話での病状確認を包括的診療管理 ( 第 8 章で詳述 ) として実施することにより, 心不全による再入院が抑制される可能性が 1990 年代に報告されました 3). しかし, 近年施行された大規模無作為化比較試験 (RCT: randomized control trial) では, 退院後に画一的な包括的心不全管理を導入しても, 定期的に循環器科外来に通院する患者と比べて, 心不全再入院率, 死亡率は抑制されませんでした 4-6). この RCT の結果から, 心不全に対する包括的診療管理は無効である と結論するのではなく, 退院時に画一的な心不全管理をするのではなく, 個々の患者さんの病状に合わせ 4

た治療を選択することが必要であると理解すべきです. また, 初回入院の場合には, 日常生活や食事について的確な自己管理 ( セルフケアマネージメント ) ができるように患者 患者家族に指導することが必要です. 症状が消失し退院するときに, 心不全は治った と勘違いしないように, 服薬遵守することの重要性を十分に説明することも大切です. 一方, 断続的に心不全病状が悪化し, 入退院を繰り返す時期 ( 図 1-1 2) には, 患者さんの重症度やフレイルの程度に合わせて, 包括的診療管理として必要に応じた在宅診療を取り入れ積極的にかかわることにより, 細やかに生活環境を管理し, 心不全再入院を抑制することが重要になります. Section 1 さらに病状が進行し, 終末期心不全になると ( 図 1-1 3), 積極的な治療と同時に緩和医療の導入を検討する時期になります. 多くの高齢心不全患者さんでは, フレイルによる低栄養状態や認識機能障害, うつ症状が臨床的問題として前面に出てくるため, かかりつけ医は心不全の終末期医療に対する対策として, 心不全の症状緩和と QOL の向上, そして終末期をどのように迎えるかを患者 患者家族と検討することが必要になってきます. 心不全の特徴的病態であるうっ血と末梢循環不全を簡便に評価する方法 かかりつけ実地医家が高齢心不全患者の外来診療を担当するとき, 心不全の典型的病態であるうっ血所見と, 重症心不全で認める組織低灌流所見を評価することは大変重要です. そこで第 2 のポイントとして, 身体的所見に基づいた簡便な血行動態評価方法として, 外来診察で実施することができる Nohria-Stevenson の臨床分類 7) について説明します. 慢性心不全患者さんの状態が悪化し非代償性心不全に陥り入院治療が必要になる場合, その 6 ~ 8 割くらいの症例は水分過剰のためにうっ血を生じ呼吸困難を訴えることが報告されていました. さらに最近では, 急性 慢性心不全の診断と治療に関する欧州心臓病学会 (ESC: European Society of Cardiology) の 2016 ESC Guidelines( 以下 2016 ESC Guidelines) 8) 5