教育セミナーテーマ : 転移 再発乳癌 ( 治療 ) 要望テーマ :Hortobagyi のアルゴリズムの改変 川崎医科大学乳腺甲状腺外科 山本裕 第 14 回日本乳癌学会中国四国地方会教育セミナー平成 29 年 9 月 17 日 ( 日 )
はじめに 転移 再発乳癌の治療法を選択する際に 様々な考え方があり 正解 というものは導き出せない 時間的にすべての subtype を網羅できないため 今回の症例は ER 陽性 HER2 陰性の乳癌に絞って検討する
総論 ( 薬物療法 転移 再発乳癌の治療 ) (1) 治療の目的 (2) 治療選択を行うにあたって (3) 治療の原則 (4) 単剤療法と併用療法 (5) 化学療法が奏効している場合に治療を継続すべきか
転移 再発乳癌の予後 (16.6%) (3.1%) 転移 再発乳癌で 5 年以上 CR を継続できるのはわずか 3% Greenberg PA et al J Clin Oncol. 1996;14(8):2197 205.
転移 再発乳癌の予後は改善さ れるのか? OS 時とともに転移 再発乳癌の予後は改善されてきた Giordano SH, et al Cancer. 2004;100(1):44 52.
FDA 承認新規薬剤 転移 再発乳癌の予後改善に 新規薬剤の開発が要因の一つとして考えられる Giordano SH, et al Cancer. 2004;100(1):44 52.
治療の目的 延命 生活の質 (QOL) の改善
総論 ( 薬物療法 転移 再発乳癌の治療 ) (1) 治療の目的 (2) 治療選択を行うにあたって (3) 治療の原則 (4) 単剤療法と併用療法 (5) 化学療法が奏効している場合に治療を継続すべきか
治療選択を行うにあたって考え るべき事柄 患者の個別性 : 腫瘍の生物学的特性 (ER PgR HER2 など ) 転移巣の場所 ( 臓器 ) とその広がり 再発までの期間 術後薬物療法としてどの薬剤を使用したか 現時点での症状の有無など これまで構築されたエビデンス 患者の希望
治療選択を行うにあたって考え るべき事柄 転移 再発乳癌の治療の際には, 患者の個別性を把握し, 標準治療を理解し, 患者の希望を踏まえつつ最善の治療を選択することが求められる 治癒は困難であるものの, 治療の手立てがない病態では決してないことを十分に説明して, 希望を損なわない配慮が必要である
総論 ( 薬物療法 転移 再発乳癌の治療 ) (1) 治療の目的 (2) 治療選択を行うにあたって (3) 治療の原則 (4) 単剤療法と併用療法 (5) 化学療法が奏効している場合に治療を継続すべきか
治療の原則 1 転移 再発乳癌には全身治療すなわち薬物療法が原則として必要である 可能であれば転移病巣から組織を採取し subtype を評価することが望ましい 遠隔再発巣であることが断定的であると思われる病変であっても, 原発巣の ER,PgR,HER2 が不明, あるいは検査の信頼性が低い場合 や, 治療方針が変わる可能性がある場合は, 再発巣の生検を行う ことが勧められる 推奨グレード B Hortobagyi のアルゴリズムに沿って治療を行う
Hortobagyi のアルゴリズム Hortobagyi GN. N Engl J Med. 1998;339(14):974 84. 改変
治療の原則 2 ホルモン感受性があり, かつ軟部組織や骨転移, あるいは内臓転移であっても, 差し迫った生命の危険 ( 例えば, 広範な肝転移や肺転移, 癌性リンパ管症など ) がない場合, 再発までの期間が長い症例などは, 内分泌療法から開始する 一次内分泌療法が奏効した場合は, 無効になるまで治療を継続する 同様に二次, 三次内分泌療法を行う
治療の原則 3 内分泌療法がまったく奏効しなかった場合, あるいは内分泌療法が効かなくなった場合は化学療法に移行する ホルモン感受性がない場合, あるいは感受性があっても, 差し迫った生命の危機がある内臓転移の場合, 再発までの期間が短い場合などは化学療法を一次治療から順に行う
総論 ( 薬物療法 転移 再発乳癌の治療 ) (1) 治療の目的 (2) 治療選択を行うにあたって (3) 治療の原則 (4) 単剤療法と併用療法 (5) 化学療法が奏効している場合に治療を継続すべきか
単剤療法と併用療法 化学療法の同時併用は単剤投与よりも奏効率は高いものの毒性が増加するため 原則単剤順次投与が勧められる しかし, 急速に進行し生命に危険を及ぼす内臓転移例では, 奏効率の高い同時併用を選択する余地はある 内分泌療法と化学療法を同時併用することは勧められず, 順次投与が望ましい
総論 ( 薬物療法 転移 再発乳癌の治療 ) (1) 治療の目的 (2) 治療選択を行うにあたって (3) 治療の原則 (4) 単剤療法と併用療法 (5) 化学療法が奏効している場合に治療を継続すべきか
化学療法が奏効している場合に 治療を継続すべきか 有害事象が軽度の場合は治療の継続が勧められる 有害事象が強い場合や患者の希望がある場合はいったん治療を休止し, 無治療で観察し増悪傾向を認めた場合に再度同じ化学療法を実施する方法も妥当である 有害事象の少ない他の治療の適応がある場合は, その治療への変更を考慮してもよい 臨床医は患者の有害事象の訴えと QOL を考慮して治療の継続の可否を判断することが必要である
Case 1 35 歳 右乳癌 T1N1M1 StageⅣ 肺門 縦隔リンパ節転移 CNB:ER>50%, PR>50%, HER2 :FISH 陰性, MIB-1:21-50% 症状なし 本人の希望 : できるだけ長生きしたい 治療は何を選択しますか? 1 2 3 4 5 6 LH-RH TAM LH-RH+TAM EC/AC/FEC/FAC Taxane (DTX/PTX) その他
閉経前ホルモン受容体陽性転移 再発 乳癌に対する内分泌療法 ( 一次治療 )
PFS LHRH-A 6.3M TAM 5.6M LHRH-A+TAM 9.7M P=0.0318 HR LHRH-A vs combined 1.65 TAM vs combined 1.50 OS LHRH-A 2.5Y TAM 2.9Y LHRH-A+TAM 3.7Y P=0.0114 HR LHRH-A vs combined 1.95 TAM vs combined 1.63 併用群が各単独群に比べ有意に優れていた Klijn JG, et al J Natl Cancer Inst. 2000;92(11):903 11.
閉経前ホルモン受容体陽性転移 再発 乳癌に対する内分泌療法 ( 一次治療 ) CQ17-a 推奨グレード A LH-RH アゴニストとタモキシフェンの併用が強く勧められる
Case 2 69 歳 ( 手術時 59 歳 ) 左乳癌で Bq+SLNB ALND 病理組織学的診断 : 浸潤径 2.5cm, 硬癌, ly1, v0, margin-, ER80%, PR80%, HER2 score0, GradeⅢ, pn+ 3/13 T2N1M0 StageⅡB EC 6 サイクル ANA 術後 10 年骨 多発肺転移 症状なし 本人の希望 : 先生にお任せします 治療は何を選択しますか? 1 2 3 4 5 6 AI SERD(FUL) SERMs (TAM TOR) EC/AC/FEC/FAC Taxane (DTX/PTX) その他
ホルモン感受性 Piccart M. Advanced Breast Cancer 2nd consensus conference 2013, 一部改変
内分泌療法進行 再発治療治療ラインの定義 再発 進行例の治療 5 年 1 年 >1 年 一次治療 二次治療 再発例 晩期再発 術後治療終了後 >1 年に再発 術後 HT 再発 1 次 早期再発 術後治療終了後 1 年に再発 術後治療中に再発 術後 HT 術後再発 HT 再発 2 次 2 次 進行がん 進行例 1 次 日本乳癌学会編 : 乳癌診療ガイドライン治療編 (2015 年版 ) を参考に作図
閉経後ホルモン受容体陽性転移 再発 乳癌に対する内分泌療法 ( 一次治療 )
Bonneterre J, et al Cancer. 2001;92(9):2247 58.
R. Paridaens et al Annals of Oncology 14: 1391 1398, 2003
HR 0.72, P<.0001 LET 9.4M TAM 6.0M Mouridsen, H., et al. J. Clin. Oncol.,21(11), 2101-2109, 2003
Postmenopausal ER positive locally advanced/mbc phase II randomized open-label multicenter trial 1 st line primary endpoint:os Ellis MJ, et al J Clin Oncol 2015 Nov 10;33(32):3781-7.
Ellis MJ, et al J Clin Oncol 2015 Nov 10;33(32):3781-7. FIRST Study OS HR 0.70 ((95% CI, 0.50-0.98), P=0.04 FUL 54.1M ANA 48.4M
閉経後ホルモン受容体陽性転移 再発 乳癌に対する内分泌療法 ( 一次治療 ) CQ18-a 推奨グレード A アロマターゼ阻害薬が強く勧められる
Postmenopausal ER positive locally advanced/mbc phase Ⅲ randomised double-blind international trial 1 st line primary endpoint:pfs John F R Robertson et al Lancet 2016 Dec 17;388(10063):2997-3005.
FALCON Trial PFS HR 0.797 ((95% CI, 0.637-0.999), P=0.0486 FUL 16.6M ANA 13.8M John F R Robertson et al Lancet 2016 Dec 17;388(10063):2997-3005.
閉経後ホルモン受容体陽性転移 再発 乳癌に対する内分泌療法 ( 一次治療 ) CQ18-a 推奨グレード A アロマターゼ阻害薬が強く勧められる 次回のガイドラインでは ここに FUL が掲載される可能性があるだろう
Case 3 59 歳 ( 手術時 53 歳 ) 左乳癌で Bq+SLNB ALND 病理組織学的診断 :2.5cm, 硬癌, ly1, v0 GradeⅢ pn+ 1/11 ER60%, PgR 20%, HER2(score2+, FISH-) T2N1M0 StageⅡB EC 4 サイクル PTX 4 サイクル ANA LET TAM( 有害事象のため ) 術後 6 年多発肝転移 治療は何を選択しますか? 1 2 3 4 5 SERD(FUL) AI DTX PTX + BEV その他
HER2 陰性転移 再発乳癌に対す る化学療法 ( 一次治療 )
OS 一次化学療法として, アンスラサイクリンまたはタキサンを使用し, 増悪後にもう一方を使用した場合, どちらを先に使用してもOSに差を認めなかった Paridaens R, et al J Clin Oncol. 2000;18(4):724-33.
OS HR=0.93 95% CI 0.86 1.00 P=0.05 TTP HR=0.92 95% CI 0.85 0.99 P=0.02 Ghersi D, et al Br J Cancer. 2005 Aug 8;93(3):293-301.
HER2 陰性転移 再発乳癌に対す る化学療法 ( 一次治療 ) CQ19-a 推奨グレード B アンスラサイクリン, タキサン,S 1 のいずれかの使用が勧められる
Case 4 56 歳 右乳癌 T4b N1 M1 StageⅣ 骨 胸膜転移 CNB: malignant, invasive carcinoma, 核異型 : 中等 ~ 軽度 ER95%, PR60%, HER2 score0, Ki- 67 陽性率 24.0% 症状 : 背部痛 + 呼吸困難 - 本人の希望 : できるだけ長く元気でいたい 治療は何を選択しますか? 1 2 3 4 5 6 SERD(FUL) AI EC/AC/FEC/FAC DTX PTX (+ BEV) その他
PFS:HR= 0.70; 95% CI, 0.57 0.86 OS:HR= 0.95; 95% CI, 0.85 1.06 Rossari JR, et al J Oncol. 2012;2012:417673.
BEV による癌性胸水に関する報告 肺癌において 胸腔内の腫瘍細胞から産生される VEGF によって血管透過性が亢進し 癌性胸水の形成を促進するが 抗 VEGF 抗体である BEV がそれを抑制した Yanagawa H, et al Cancer Immunol Immunother. 1999 48:396-400 癌性胸水を伴った乳癌に対して BEV+PTX を投与したところ 癌性胸水の減少に伴って胸水中の VEGF 濃度が低下した 米田央后ら乳癌の臨床 31(4) 349-354, 2016
Case 4 経過 しびれが気になります RT PTX BEV 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0
MBC N=46 BEV PTX N=19 N=12 PTX intolerable toxicity PD Yoshinami T, et al Breast Cancer (2017) 24:147 151
BEV+PTX re-induction therapy TTF:174 days 6 か月弱 OS: 777 days 約 2 年 ORR:25 % (3/12) CBR:58 % (7/12) Yoshinami T, et al Breast Cancer (2017) 24:147 151
Case 4 経過 RT PTX BEV 3500 腫瘍マーカーは上昇していたが 身体所見 画像上は増悪を認めていない 3000 2500 2000 1500 1000 500 0
今後の治療は? 腫瘍マーカーは上昇していたが 身体所見 画像上は増悪を認めていないので この時点で BEV+PTX は完全に failure していないと判断した BEV+PTX 継続も可能と考えるが どこかでホルモン感受性を確認する必要がある 一旦ホルモン療法に変更して 後に BEV+PTX の再投与も可能な状況を残しておきたい この考えの根拠は?
ASCO guideline (Tumor Marker) MBC 患者をモニタリングする際に CEA または CA15-3 は 画像診断 病歴および身体検査と併せて使用することができる 現在のデータでは 治療効果をモニターするために CEA または CA 15-3 単独の使用を推奨するには不十分である しかし測定可能病変が存在しない場合 CEA または CA15-3 の増加が治療耐性獲得を示すために使用され得る Harris L, et al J Clin Oncol. 2007 Nov 20;25(33):5287-312.
ABC 1 Endocrine treatment after CT (maintenance ET) to maintain benefit is a reasonable option. 化学療法後のホルモン療法は理にかなった治療法である Yes が 88% Cardoso F, et al Breast. 2012 Jun;21(3):242-52.
Case 4 経過 RT PTX BEV 3500 FUL 3000 2500 2000 1500 1000 500 0
Hortobagyi のアルゴリズムの改変 MBC の治療に Hortobagyi のアルゴリズムを用いるのが大原則であることに変わりはない しかし症例によっては 化学療法を休薬したり 化学療法からホルモン療法などの有害事象の少ない他の治療への変更を考慮してもよい ただしその場合 治療法を選択した根拠をはっきりさせ 患者の理解を得て 治療を行うことが重要である