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税が課税される所得を生み出す事業活動に使われているか否かを基準に損金算入規制を設けていると考えられます 株式などの出資の取得のために資金を使った場合, 株式から生じる配当やキャピタルゲインは資本参加免税により非課税となります このケースでは, オランダでの課税所得を生じないことが想定されるため, 出

海運関係事項

はじめに 会社の経営には 様々な判断が必要です そのなかには 税金に関連することも多いでしょう 間違った判断をしてしまった結果 受けられるはずの特例が受けられなかった 本来より多額の税金を支払うことになってしまった という事態になり 場合によっては 会社の経営に大きな影響を及ぼすこともあります また

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PE 帰属所得計算の実務と課題 平成 28 年 7 月 4 日公開草案事例を検討する 平成 29 年 7 月 11 日 ユナイテッド パートナーズ会計事務所代表取締役西村善朗 1. 平成 28 年 4 月 1 日以後開始事業年度に 報告対象となるもの (3 月決算法人である内国法人については 平成

平成 29 年度税制改正解説国際課税 ~ 外国子会社合算税制の改正 2 4. 外国子会社合算税制の適用フローチャート 改正前 合算課税の適用対象となる内国法人等の判定 用語解説 丸数字は左のフローチャートと対応 合算対象法人における判定 1 外国法人の株式を 10% 以上保有しているか? 合算所得な

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外国税額控除 この取り扱いは 平成 21 年度税制改正の 海外子会社の配当の益金不算入制度 ( 法法 23 条の 2) により廃止されました 原則として 平成 21 年 4 月 1 日以降に開始する親会社の事業年度から適用されます ( 附則 6) ただし 租税負担率 25% 以下の軽課税国に所在する

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参考 平成 27 年 11 月 政府税制調査会 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理 において示された個人所得課税についての考え方 4 平成 28 年 11 月 14 日 政府税制調査会から 経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する中間報告 が公表され 前記 1 の 配偶

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(2) 源泉分離課税制度源泉分離課税制度とは 他の所得と全く分離して 所得を支払う者 ( 銀行 証券会社等 ) がその所得の支払の際に 一定の税率で所得税を源泉徴収し それだけで所得税の納税が完結するものです 1 対象となる所得代表的なものとして 預金等の利子所得 定期積金の給付補てん金等があります

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1 1. 課税の非対称性 問題 1 年をまたぐ同一の金融商品 ( 区分 ) 内の譲渡損益を通算できない問題 問題 2 同一商品で 異なる所得区分から損失を控除できない問題 問題 3 異なる金融商品間 および他の所得間で損失を控除できない問題

2. 減損損失の計上過程 [1] 資産のグルーピング 減損会計は 企業が投資をした固定資産 ( 有形固定資産のほか のれん等の無形固定資産なども含む ) を適用対象としますが 通常 固定資産は他の固定資産と相互に関連して収益やキャッシュ フロー ( 以下 CF) を生み出すものと考えられます こうし

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本誌に関するお問い合わせはみずほ総合研究所株式会社調査本部電話 (03) まで 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり 商品の勧誘を目的としたものではありません 本資料は 当社が信頼できると判断した各種データに基づき作成されておりますが その正確性 確実性を保証

[2] 株式の場合 (1) 発行会社以外に譲渡した場合株式の譲渡による譲渡所得は 上記の 不動産の場合 と同様に 譲渡収入から取得費および譲渡費用を控除した金額とされます (2) 発行会社に譲渡した場合株式を発行会社に譲渡した場合は 一定の場合を除いて 売却価格を 資本金等の払戻し と 留保利益の分

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1 各調整方式の比較 前提 : 法人実効税率 % 金融所得の税率 20% ( 配当軽課の場合の配当分の法人税率は 30%) 比較のポイント 適用税率 法人税率か所得税率か 金融所得課税一元化にマッチするか( 税率 損益通算 ) 簡素な制度か 特定口座への対応はか 法人の税負担は軽減されるか


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日本基準でいう 法人税等 に相当するものです 繰延税金負債 将来加算一時差異に関連して将来の期に課される税額をいいます 繰延税金資産 将来減算一時差異 税務上の欠損金の繰越し 税額控除の繰越し に関連して将来の期に 回収されることとなる税額をいいます 一時差異 ある資産または負債の財政状態計算書上の

図 4-1 総額 と 純計 の違い ( 平成 30 年度当初予算 ) 総額ベース で見た場合 純計ベース で見た場合 国の財政 兆円兆 国の財政 兆円兆 A 特会 A 特会 一般会計 B 特会 X 勘定 Y 勘定 一般会計 B 特会 X 勘定 Y 勘定

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の中に法人税率をOECD 諸国の平均である25 % 程度の水準まで引き下げる提案が含まれている 米国は多大な財政赤字を抱えているため, 米国議会のPAYGOと呼ばれる原則方針により抜本的な税制改正は財政のバランスが取れていなければならず, 提案書には税率引下げに必要な財源確保の提案や見積が含まれてい

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1. のれんを資産として認識し その後の期間にわたり償却するという要求事項を設けるべきであることに同意するか 同意する場合 次のどの理由で償却を支持するのか (a) 取得日時点で存在しているのれんは 時の経過に応じて消費され 自己創設のれんに置き換わる したがって のれんは 企業を取得するコストの一

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新しい非居住者債券所得非課税制度の概要 < 平成 22 年度税制改正前の制度の概要 > 非居住者等が受ける振替国債及び振替地方債のについては 一定の手続要件を満たせば非課税とされていました しかし 非居住者等が受ける振替社債等のについては 原則 15% の税率により源泉徴収課税がなされていました 非

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3. 研究の概要等 1 章では 第 1 節で相続税法の歴史的経緯について 特に贈与の位置づけの変遷を中心に概観し 明治 38 年に創設された相続税法での贈与に対する扱いはどうであったのか また 昭和 22 年のシャベル勧告により贈与税が導入され 昭和 25 年のシャウプ勧告で廃止 その後 昭和 28

スポンサー企業 増減資により 再生会社をスポンサー企業の子会社としたうえで 継続事業を新設分割により切り分ける 100% 新株発行 承継会社 ( 新設会社 ) 整理予定の事業 (A 事業 ) 継続事業 会社分割 移転事業 以下 分社型分割により事業再生を行う場合の具体的な仕組みを解説する の株主 整

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2. 改正の趣旨 背景税制面では 配偶者のパート収入が103 万円を超えても世帯の手取りが逆転しないよう控除額を段階的に減少させる 配偶者特別控除 の導入により 103 万円の壁 は解消されている 他方 企業の配偶者手当の支給基準の援用や心理的な壁として 103 万円の壁 が作用し パート収入を10

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( 億円 ) ( 億円 ) 営業利益 経常利益 当期純利益 2, 15, 1. 金 16, 額 12, 12, 9, 営業利益率 経常利益率 当期純利益率 , 6, 4. 4, 3, 2.. 2IFRS 適用企業 1 社 ( 単位 : 億円 ) 215 年度 216 年度前年度差前年度

タイトル

6 課税上の取扱い日本の居住者又は日本法人である投資主及び投資法人に関する課税上の一般的な取扱いは 下記のとおりです なお 税法等の改正 税務当局等による解釈 運用の変更により 以下の内容は変更されることがあります また 個々の投資主の固有の事情によっては異なる取扱いが行われることがあります (1)

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リリース

障財源化分とする経過措置を講ずる (4) その他所要の措置を講ずる 2 消費税率の引上げ時期の変更に伴う措置 ( 国税 ) (1) 消費税の軽減税率制度の導入時期を平成 31 年 10 月 1 日とする (2) 適格請求書等保存方式が導入されるまでの間の措置について 次の措置を講ずる 1 売上げを税

Transcription:

法人税改革の日米比較 ~ 国境を超える法人所得にいかに課税するか ~ 平成 28 年度第 1 回東京都税制調査会平成 28 年 5 月 13 日 ( 金 ) 午前 10 時 ~ 正午都庁第二本庁舎 31 階 ( 南側 ) 特別会議室 21 諸富徹 ( 京都大学経済学研究科 )

問題の所在 1 経済のグローバル化が 多国籍企業課税を最重要テーマに 2 日米比較研究の意義 (1) 世界経済への影響力 国と地方を合わせた実効法人税率の高さ (2015 年現在 OECD 諸国で第 1 位 [ アメリカ :39.0%] 第 3 位 [ 日本 :32.1%] (2) 対処法に関する共通性と相違 税収中立的な法人税改革 共通性 ~ 両国とも法人税率の引き下げを中心とする税制改革を打ち出す 差異 ~ 日本では法人税制改革が進行中だが アメリカでは停滞 多国籍企業課税ルールのあり方 共通性 ~ 多国籍企業の外国子会社利潤を 本国還流させるための税制優遇導入アメリカ :1 回限りの外国子会社からの 配当課税免除制度 (2004 年 ) 日本 : 恒久的な 外国子会社益金配当不算入制度 (2009 年 ) 差異日本 : 全世界所得課税 (worldwide taxation) から 領土内所得課税 (territorial taxation) への移行アメリカ : 依然として全世界所得課税を維持 1

本論文の課題 1990 年代以降の日本とアメリカの法人 税改革 ( 論争 ) の共通性と相違 両国の法人税改革 ( 論争 ) で 共通点と 相違点が生じている理由 法人税改革と多国籍企業課税のリンク グローバル経済下における法人税改革とは何か 2

グローバル化 租税競争 多国籍 企業課税 3

グローバル化と法人税制の何が問題か グローバルな租税競争 多国籍企業の租税回避 攻撃的タックスプランニング 利潤はタックスヘイブン / 低税率国へ 費用は高税率国へ移転 世界規模で税負担を最小化 インバージョン 本社そのものをタックスヘイブン / 低税率国へ移転することで本国税制の適用を免れる 4

図 1 主要 OECD 諸国における法人 税率の歴史的推移 [ 出所 ]OECD Tax Database. 5

日米両国における法人税改革戦略としての 税率引き下げ & 課税ベース 拡大 アプローチ 6

図 2 法人税における課税ベースの 縮小 (2012 年度 ) 7

表 1 日本の法人税改革 [ 出所 ] 政府税調資料 8

図 3 法人税率は ドイツ並み水準へ 9

図 4 課税ベース拡大と税収中立性 10

アメリカにおける法人税改革の停滞とその原因 オバマ政権の法人税改革案 (2012): 法人税率の 35% から 28% への引き下げと その財源を租税支出の廃止 縮小によって賄う税収中立的な改革案 なぜ実現しないのか? 租税支出の廃止 縮小だけでは 十分な減税財源が捻出できない 非法人のパススルー事業体への影響 税収中立的な法人税改革がもたらす利害得失のため 政治的に実行困難 11

図 5 アメリカにおける税収中立的な法 人税改革が各産業に及ぼす純効果 70.0% 60.0% 50.0% Net Overall Tax Effect (%) of a Revenue-Neutral Corporate Tax Reform in the U.S. 48.1% 69.7% 40.0% 30.0% 20.0% 10.0% 0.0% -10.0% -20.0% -10.2% -10.1% -7.9% -6.9% -4.1% -0.9% -5.8% -12.3% -11.9% -10.1% 0.3% 1.2% 2.5% 5.5% 6.8% 6.8% 7.3% 7.3% 9.3% 10.2%16.8% 17.5% 33.0% Source:Based on Calculation of Sullivan (2011) 12

アメリカにおける法人税と多国籍 企業課税 13

米国多国籍企業の課税ルール 全世界所得課税 の原則 居住地原則 ~ 資本輸出中立的 しかし現実には 海外で多国籍企業が生み出した収益は すぐには課税されない 例外としての 課税繰延 (deferral) 課税繰延とは 多国籍企業の外国子会社 (controlled foreign corporation: CFC) 収益に即時課税せず 本国への還流時まで課税を繰り延べる規定 14

全世界所得課税 + 課税繰延 で引き起こされる問題 米国の多国籍企業課税ルールの問題 1 配当還流税 (repatriation tax) 回避のため 収益をそのまま海外に留め置くインセンティブが多国籍企業に働く 2 米国の多国籍企業の競争条件悪化 相異なる 2 つの提案 1 課税繰延 を廃止し 多国籍企業の子会社が生み出した所得に即時に課税する 2 全世界所得課税 を放棄し 領土内所得課税 に移行 しかし 領土内所得課税 への単純な移行は 問題の解決にならない 税率格差がある限り 海外に所得を移転するインセンティブは消えない 領土内所得課税 への単純な移行は 減収を生み出す 15

キャンプ プラン (2014) デイブ キャンプ下院歳入委員長 ( 共和党 ミシガン州選出 ) による法人税改革提案 1 法人税率を 25% に引き下げ 2 全世界所得課税 から 領土内所得課税 への移行 & CFC からの配当所得のうち 95% を課税免除 3 1986 年から 2015 年までに海外で蓄積された利潤で 過去に サブパート F ( アメリカのタックスヘイブン対策税制 ) の対象とならなかった利益に対して 3.5~8.75% で課税 4 外国子会社の将来収益に対し毎年 12.5~15% で課税 5 領土内所得課税 への移行にともなう課税ベース侵食への対抗策の提示 16

オバマ大統領の予算教書提案 (2015) キャンプ提案を受け オバマ大統領も 2016 年度予算教書で新たな法人税改革案を提示 1 法人税率を 35% から 28% に引き下げ 2 アメリカ多国籍企業の外国子会社 (CFC) において 過去に蓄積された海外収益への一回限りの 14% 税率での移行期課税を導入 3 CFC の将来収益に 19% の 最小限税率 で課税 もし CFC が 19% 以上の源泉課税国に立地しているのであれば 配当還流にあたっての追加課税はなし 19% を下回る源泉地課税国の場合 アメリカが最小限税率 19% との差額分に相当する課税を追加的に行う 17

米国における改革合意の可能性 妥協の産物 としての大統領提案 領土内所得課税 とは一線を画す つまり 外国子会社の過去の収益へは 14% 将来収益には 19% での課税を提案 他方 この提案は 全世界所得課税 から乖離 上記の税率での課税後 配当還流の際にもはや課税されないため 配当還流税 (repatriation tax) の廃止 ただし 課税繰延 が CFC 収益課税の事実上の無期限延期を許していることを踏まえれば 現状より課税強化となる 以上よりこの提案は 両者を組み合わせた ハイブリッド 型の税制改革提案となっている アヴィ ヨナ教授は キャンプ プランと大統領提案の相違は 基本的に税率のみだとして 共和党と民主党がこれらの提案をベースとして妥協に至ることは可能だと評価 18

領土内所得課税 への移行がもたらす経済効果の日米比較 19

領土内所得課税 への移行は 問題の解決となるか アメリカの多国籍企業をめぐる議論の焦点は 全世界所得課税 の維持から 領土内所得課税 への移行へ 移行論の根拠 1 多国籍企業の税負担を軽減し その国際競争力を強化できる 2 配当還流で国内への投資と雇用を促進できる 政策実験 1 日本の 領土内所得課税 への移行 (2009 年 ) 2 アメリカの一時的なタックスホリデー ( 外国子会社配当所得免除制度 ) 導入 (2004 年 ) これらは 上記 2 の論拠が妥当性を持つかどうかを検証する材料を提供してくれる 20

2004 年の アメリカ雇用創出法 2004 年のアメリカ雇用創出法 (the American Jobs Creation Act) の概要 1 CFC からの配当還流に対し その利益のうち 85% を課税ベースから控除できると規定 2 35% の法人税率に直面している企業にとって この規定の下での実効税率は 1 年間に限って わずか 35% 0.15=5.25% に 3 この規定の適用を受けるには 企業が財務諸表とともに 還流収益に関する国内再投資計画 (Domestic Reinvestment Plan: DRP) を作成し 提出する必要がある 4 法で認められる投資形態は 新規雇用 従業員の教育訓練 被用者 ( 役員を除く ) の給与 手当の増額 研究開発投資 アメリカ国内のインフラ投資 無形資産 その他の資本投資等 5 法で認められない投資としては 執行役員への支払い 企業間取引 株主配当 自社株買い 証券ポートフォリオ投資などが挙げられる 商務省経済分析局 (Bureau of Economic Analysis) によれば この税制改革により 2004 年に 816 億ドルだった還流配当額が 翌 2005 年には 2,987 億ドルと 3.7 倍に大きく増加 21

その経済効果 2004 年タックスホリデーの経済効果に関する諸研究の結果をまとめると 下記のようになる 1 雇用は 増加するよりも減少した 2 研究開発が促進された証拠は見当たらない 3 資金還流後 自社株買いが増加 4 資金還流後 役員報酬が増大 5 多国籍企業のうち 限られた範囲のセクターのみがメリットを享受 6 たいていの還流資金はタックスヘイブンからであった 7 海外に留め置かれる資金は 2004 年の資金還流の後 むしろ増加した 8 2011 年段階で 約 2 兆ドルもの資金がアメリカの多国籍企業によって海外に留め置かれている 米国上院常設調査委員会はこうした結果を踏まえ タックスホリデー後の 10 年間で約 33 億ドルの税収ロスにもかかわらず それに相応しい経済効果を生み出せなかった 失敗した租税政策 と結論づけ 第 2 のタックスホリデー導入に反対の立場を表明 2004 年タックスホリデーは 海外に留め置かれていた資金を一時的に還流させることに成功したが それは立法者が期待した永続的な経済効果をもたらさなかった 22

日本の 2009 年 領土内所得課税 へ の移行とその経済的効果 ~ 日米比較 23

日本の 外国子会社配当益金 不算入制度 外国子会社の利益を配当として日本に還流する場合 その 95% が課税免除 内国法人の外国法人に対する持株比率が 25% 以上 内国法人がその株式を 6 か月以上保有している会社であることが条件 経済産業省が設けた 国際租税小委員会 による報告書 (2008 年 ) の公表が契機 日本企業の海外生産比率が上昇 CFC の利益も 2001 年と比較して 4 倍超に増加していると強調 海外に拠点をもつ企業が 海外利益の多くを国内に還流せず 毎年 2~ 3 兆円強を外国子会社に新たに留保 2006 年度には約 17 兆円強もの利益が 外国子会社に蓄積されていると指摘 配当還流の障害となっているのが 日本の 配当還流税 だと指摘 還流配当所得に対する 95% の課税免除を提案 ただし 還流配当の使途は 法律で定めず 24

日本の還流配当課税免除制度が もたらした経済効果 田近 布袋 柴田 (2014) と長谷川 清田 (2015) による実証研究結果 2009 年における日本の 領土内所得課税 への移行は 少なくとも制度導入直後に関する限り 外国子会社からの配当還流を増やすことに成功した [1] 田近栄治 布袋正樹 柴田啓子 (2014), 税制と外国子会社の利益送金 本社資金需要からみた 2009 年度改正 の分析 経済分析 第 188 号,pp.68-92. [2] 長谷川誠 清田耕造 (2015), 国外所得免除方式の導入が海外現地法人の配当送金に与えた影響 :2009-2011 年の政策効果の分析 RIETI ディスカッション ペーパー シリーズ :15-J-008. 25

図 6 アメリカの直接投資収益の推移 (1996 年 -2014 年 ) とその内訳 アメリカの直接投資収益の推移 (1996 年 -2014 年 ) とその内訳 500,000 単位 : 百万ドル 478,051 477,415 466,330 447,773 476,617 423,365 400,000 受取配当額 (B) 380,844 370,301 300,000 再投資収益 ( 内部留保 ) 等 (A) (B) 直接投資収益 (A) 255,405 301,184 2,472 333,235 248,011 250,917 241,740 315,157 326,293 301,447 364,820 336,567 200,000 100,000 0 190,704 231,549 158,182 150,395 173,850 119,876 136,502 134,437 105,906 108,388 298,712 105,319 131,245 164,883 64,680 73,966 172,448 81,202 95,794 151,122 51,646 60,283 132,833 128,561 132,616 141,484 45,62355,196 56,74262,536 52,86353,235 59,459 81,555 111,797 101,686 54,601 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 直接投資収益 (A) 26

表 2 アメリカの直接投資収益の推移 (1996 年 -2014 年 ) とその内訳 アメリカの直接投資収益の推移 (1996 年 -2014 年 ) とその内訳 ( 単位 : 百万ドル ) 年度 直接投資収益 (A) 受取配当額 (B) 再投資収益比率 ( 受取配当金 / ( 内部留保 ) 等 (A) (B) 直接投資収益 %) 1996 105,906 45,623 60,283 43.1% 1997 119,876 55,196 64,680 46.0% 1998 108,388 56,742 51,646 52.4% 1999 136,502 62,536 73,966 45.8% 2000 158,182 52,863 105,319 33.4% 2001 134,437 53,235 81,202 39.6% 2002 150,395 54,601 95,794 36.3% 2003 190,704 59,459 131,245 31.2% 2004 255,405 81,555 173,850 31.9% 2005 301,184 298,712 2,472 99.2% 2006 333,235 101,686 231,549 30.5% 2007 380,844 132,833 248,011 34.9% 2008 423,365 172,448 250,917 40.7% 2009 370,301 128,561 241,740 34.7% 2010 447,773 132,616 315,157 29.6% 2011 477,415 151,122 326,293 31.7% 2012 466,330 164,883 301,447 35.4% 2013 478,051 141,484 336,567 29.6% 2014 476,617 111,797 364,820 23.5% 27

図 7 日本の直接投資収益の推移 (1996 年 -2014 年 ) とその内訳 100,000 90,000 80,000 70,000 日本の直接投資収益の推移 (1996 年 -2014 年 ) とその内訳 受取配当額 (B) 単位 : 億円 91,584 34,270 60,000 50,000 40,000 30,000 20,000 10,000 0-10,000 再投資収益 ( 内部留保 ) 等 (A) (B) 直接投資収益 (A) -82 55,525 50,529 48,779 41,788 20,615 14,113 37,545 25,980 38,542 17,611 34,947 24,094 6,990 20,865 5,471 16,926 57,314 22,972 22,812 19,220 17,896 17,315 15,752 29,545 31,552 6,392 7,896 13,987 11,678 11,989 9,011 8,941 20,619 29,476 31,168 5,192 1,959 6,258 5,912 26,435 10,92311,324 8,795 9,719 10,823 9,494 13,961 20,923 5,994 8,955 56,213 51,518 35,598 37,405 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 直接投資収益 (A) 28

表 3 日本の直接投資収益の推移 (1996 年 -2014 年 ) とその内訳 日本の直接投資収益の推移 (1996 年 -2014 年 ) とその内訳 ( 単位 : 億円 ) 年度 直接投資収益 (A) 受取配当額 (B) 再投資収益比率 ( 受取配当金 / ( 内部留保 ) 等 (A) (B) 直接投資収益 %) 1996 17,315 10,923 6,392 63.1% 1997 19,220 11,324 7,896 58.9% 1998 13,987 8,795 5,192 62.9% 1999 5,912 5,994-82 101.4% 2000 11,678 9,719 1,959 83.2% 2001 22,812 10,823 11,989 47.4% 2002 17,896 8,955 8,941 50.0% 2003 15,752 9,494 6,258 60.3% 2004 22,972 13,961 9,011 60.8% 2005 37,545 20,619 16,926 54.9% 2006 41,788 20,923 20,865 50.1% 2007 55,525 29,545 25,980 53.2% 2008 50,529 26,435 24,094 52.3% 2009 38,542 31,552 6,990 81.9% 2010 34,947 29,476 5,471 84.3% 2011 48,779 31,168 17,611 63.9% 2012 56,213 35,598 20,615 63.3% 2013 51,518 37,405 14,113 72.6% 2014 91,584 57,314 34,270 62.6% 29

配当還流に及ぼした効果 日米両国とも 還流配当への課税免除制度の導入によって その直後の時期に関しては大幅に配当還流を増やすことに成功 しかし アメリカについては その効果は永続的なものではなかった 日本の場合も 2009 年 2010 年のような高水準の配当還流は長続きしなかった もっとも日本の場合 2011 年 ~2014 年の (B)/(A) 比は平均で 65.6% となっており 2001 年 ~2008 年の (B)/ (A) 比の平均値 53.6% を 10% ポイント以上 上回っている これが持続的な効果といえるかどうかは 別途 定量的な統計分析を必要とする 30

図 8 日本企業の当期純利益 配当金および内部留保 ( フロー ) の推移 (1980~2013 年度 ) (Trillion Yen) 40 Change of Current Net Income, Dividend Paid and Increase (or Decrease) of Retained Earnings (1980-2013) 35 30 25 20 15 10 5 0-5 -10 Directors Bonuses Dividend Paid Increase (or Decrease) of Retained Earnings 23 Current Net Income 12 9 11 10 8 7 7 12 13 12 9 5 8 3 13 16 14 2 3 2 3 3 3 3 3 4 4 4 5 4 4 4 4 5 4 4 4 5 4 7 7 9 12 12 10 12 14 14 6 4 4 4 6 5 5 3 3 3 3 1 1 0 0 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 1 2 0-1 -0-6 -3-1 -6-5 -3 1980 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007 2010 2013 (Fiscal Year) Source: Ministry of Finance, Financial Statements Statistics of Corporations by Industry notes: Retained Earnings = [before 2006] Retained Earnings =Current Net Income-Directors Bonuses-Dividend Paid / [after 2007] Retained Earnings=Current Net Income-Dividend Paid 31

図 9 企業内部留保の推移 (1980 年度 ~2013 年度 ) (Trillion Yen) 350 300 250 Change of Retained Earnings (1980-2013) Retained Earnings 269 280 269 252 294 282 304 328 200 150 100 50 45 50 54 59 66 74 82 90 134 140141 138142 145 157 143 131 103 116127 194 168 189 185 204202 0 1980 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007 2010 2013 (Fiscal Year) notes: Retained Earnings = [before 1994] Retained Earnings =Current Net Income-Directors Bonuses-Dividend Paid / [after 1995] Retained Earnings=Current Net Income-Dividend Paid Source: Ministry of Finance, Financial Statements Statistics of Corporations by Industry 32

内部留保の増大傾向 図 8 は 日本企業は伝統的に配当支払性向が低かったが 近年は配当支払が絶対的にも 相対的にも 非常に大きな比重を占めるようになっていることを示す 2008 年の世界金融危機後の回復過程で配当支払の水準が一定のまま 内部留保が毎年 非常な勢いで伸びている点に大きな特徴 しかし 有望な投資先を見出すことができず 図 9 に示されているように 内部留保の蓄積 ( ストック ) が増え続けている 33

図 10 設備投資と減価償却 キャッ シュフローの推移 (1980 年 ~2013 年 ) ( 兆円 ) 70 設備投資と減価償却 キャッシュフローの推移 (1980 年 -2013 年 ) 60 設備投資 50 40 30 キャッシュフロー 20 10 減価償却費 設備投資 キャッシュフロー 減価償却費 0 1980 1983 1986 1989 1992 1995 1998 2001 2004 2007 2010 2013 出典 : 財務総合政策研究所法人企業統計年報 ( 注 1) 設備投資 = 調査対象年度中の有形固定資産増減額 +ソフトウェア増減額 (2001 年度以降 )+ 減価償却費 ( 特別減価償却費含む ) ( 注 2) キャッシュフロー = 内部留保 + 減価償却費 ( 特別減価償却費含む ) 内部留保 =[2006 年度調査以前 ] 内部留保 = 当期純利益 - 役員賞与 - 配当金 [2007 度調査以降 ] 内部留保 = 当期純利益 - 配当金 34

投資は増えたか 2009 年の還流配当への課税免除は 企業の手元資金を増やしたが それは内部留保の増加につながり 設備投資を増やすことにはつながっていない 図 10 の設備投資水準は 企業のキャッシュフローや減価償却の水準を下回っていることから 設備投資は設備更新を理由とするものがほとんどだと推測される こうした環境下では 外国子会社からの配当還流額を増やしても 国内投資を増やすのは難しい 35

還流配当への課税免除は正当化 できるか 以上から日米両国で 配当還流への課税免除が 投資と雇用に積極的な効果をもたらした証拠は見いだせなかった したがってそれは 多国籍企業の税負担軽減を通じて私的利益の増進にはつながっても 国内経済への積極的な寄与という点では正当化しえない 仮に 競争力上の論拠に基づいて 領土内所得課税 への移行が正当化されるとしても それが引き起こしうる租税回避に対策を施す必要がある 日本はこの点で 領土内所得課税 への移行が引き起こしうる租税回避を未然に防止すべく 2010 年に 外国子会社合算税制 の改革に踏み切った 36

日本の 外国子会社合算税制 改革と課税ベース浸食の防止 37

原則に基づいた配当免除制度 とは何か OECD の BEPS プロジェクトにおける最重要課題としての 二重非課税 の排除 ( single tax principle ) 二重非課税 排除のための適切な方策がとられた 領土内所得課税 のことを フレミング ペローニ そしてシェイ (2012) は 原則に基づいた配当免除制度 (principled dividend exemption system) と呼んでいる 彼らが制度設計上の原則とし もっとも重視しているのは 被課税対象要件 (subject-to-tax requirement) である これは 配当所得を免除するためには その所得が 源泉地国で適切な課税を受けていることを要件とするもの 逆に言えば もし源泉地国でその所得が適切な課税を受けていなければ アメリカはその所得に対して課税免除を適用すべきではない ということになる [1]Fleming, J.C. Jr., Peroni, R.J. and S.E. Shay (2012), Designing a U.S. Exemption System for Foreign Income When the Treasury is Empty, Florida Tax Review, 13(8), pp 397-460 を参照 38

その運用方法 CFC の能動的所得に対して 基準税率 (benchmark) を設け それ未満の源泉地国に立地する外国子会社の場合 その留保所得は 不適格所得 (disqualified income) と認定され 課税免除の対象とすべきではない 逆に 基準税率以上の源泉地国に立地する外国子会社であれば その留保所得は 適格所得 (qualified income) とみなされ その本国への還流の際に 課税免除の対象とする こうした制度を運用するためには 領土内所得課税 への移行後も タックスヘイブン対策税制 ( アメリカでは サブパート F 日本では 外国子会社合算税制 ) を維持し 不適格所得 をタックスヘイブン税制の対象所得として取り込み 課税する必要がある CFC が受け取る受動的所得 および 本社が CFC から受け取る配当以外の所得 例えば特許使用料 利子 サービス料 キャピタルゲインなどの所得については フレミング ペローニ そしてシェイ (2012) は 一切 免除の対象とすべきではないと結論づける 39

日本の 外国子会社合算税制 領土内所得課税 への移行にともなって生じうる租税回避を防止する上で 決定的に重要になるのがタックスヘイブン対策税制 ( 外国子会社合算税制 ) 日本は 1978 年に 外国子会社合算税制 ( 以下 合算税制 と略す ) を導入し 低課税国やタックスヘイブンに設立した外国子会社を通じた 多国籍企業による租税回避の規制を行っている この制度が適用される条件は 以下の通り 1 その外国子会社 (CFC) が 日本の居住者もしくは法人によって 直接的もしくは間接的に 50% 超保有されている 2 CFC が 法人税が 20% 未満の国 地域に立地している 合算税制の納税者となるのは 以上の条件を満たす CFC の株式を 10% 以上保有している株主 この条件を満たす納税者の場合 CFC の留保所得を その納税者の所得に持ち株比率に応じて合算し 課税することになる ただし CFC が 4 つの適用除外基準すべてを満たす場合には それが独立企業としての実体を備え かつ その国 地域での操業に十分な合理性があると判断されるため 合算制度の適用を除外される 40

資産性所得 ( 受動的所得 ) 概念の創設 2009 年の配当免除制度の導入で 低課税国やタックスヘイブンに立地する外国子会社に所得を集中させ そこから日本に非課税で配当還流することで租税を回避するインセティブが多国籍企業に働くことになった 当時の日本の合算税制は欠陥をもっており それを防ぐには十分ではなかった なぜなら 日本の合算税制は 法人アプローチ をとっているために その外国子会社が適用基準を満たすか否かで 合算税制適用の可否が決まっていたため その外国子会社が適用条件をすべて満たしていれば 仮に租税回避を目的とした受動所得であっても課税できなかった そこで 合算税制に新たに 資産性所得 ( 受動的所得 ) のカテゴリーを設け 税率 20% 未満の低課税国に立地する外国子会社がそれを受け取った場合には 合算税制の対象所得に取り込むことになった 41

原則に基づいた配当免除制度 と日本のタックスヘイブン対策税制 こうした日本の制度設計は フレミング ペローニ そしてシェイ (2012) の 原則に基づいた配当免除制度 にほぼ合致 1 日本の 領土内所得課税 への移行は 外国子会社の能動的な事業所得から得られた配当所得への課税免除に限られている 2 CFC が受け取る受動的所得については 合算税制改革によって新たに課税対象所得に含められ 抜け穴が封じられた 3 合算税制適用の 基準税率 は 20% 未満に設定され それを下回る法人税率を適用している国 地域に立地する外国子会社が獲得する収益は 非適格所得 に分類され 課税対象となる 唯一の問題点は 全世界所得課税 から 領土内所得課税 への移行時に 移行課税 を実施しなかったこと 42

結論 単純な 領土内所得課税 への移行は 国際課税制度に大きなループホールを創り出し 租税回避を活発化させる可能性 法人国際課税制度を 単一課税原則 のもとに 原則に基づいた配当免除制度 へと移行させる必要があり そのためには 領土内所得課税 への移行後も タックスヘイブン対策税制を保持し 機能させる必要 日本の場合は 領土内所得課税 への移行とほぼ同時に外国子会社が受け取る受動所得に課税する仕組みを整え ループホールを封じた 長谷川 清田 (2015) が指摘するように 日本企業による 低課税国を経由した租税回避の兆候がみられないことから判断すれば 2010 年の合算税制改革は成功し 有効に機能している可能性がある 43