(6) 災害原因荒廃渓流の源頭部にある0 次谷の崩壊は 尾根付近から発生している 尾根部は山腹斜面に比べ傾斜が緩やかであるが 記録的な集中豪雨 (24 時間雨量 312.5mm( 平成 30 年 7 月 6 日 6 時 ~ 平成 30 年 7 月 7 日 6 時まで ) 累積雨量 519.5mm(

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目 次 はじめに 第 1 平成 30 年 7 月豪雨による被災状況及び課題 被災状況

2.2 既存文献調査に基づく流木災害の特性 調査方法流木災害の被災地に関する現地調査報告や 流木災害の発生事象に関する研究成果を収集し 発生源の自然条件 ( 地質 地況 林況等 ) 崩壊面積等を整理するとともに それらと流木災害の被害状況との関係を分析した 事例数 :1965 年 ~20

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表 を基本として 渓床勾配の区分に応じて 流木災害対策を中心とする配置計画の目安を示したものが図 である 治山事業においては 発生区域から堆積区域に至るまで 多様な渓流生態系の保全に留意しながら 森林整備と治山施設整備を可能な限り一体として実施していくよう留意する 図 6.1

溶結凝灰岩を含む火砕流堆積物からなっている 特にカルデラ内壁の西側では 地震による強い震動により 大規模な斜面崩壊 ( 阿蘇大橋地区 ) や中 ~ 小規模の斜面崩壊 ( 南阿蘇村立野地区 阿蘇市三久保地区など ) が多数発生している これらの崩壊土砂は崩壊地内および下部に堆積しており 一部は地震時に

目 次 はじめに 第 1 被災状況及び課題 被災状況

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平成31年度予算概算決定額 森林整備事業 治山事業 林野公共事業 (平成30年度1次補正予算額5,199百万円 182, ,049 百万円 平成30年度第2次補正予算額 32,528百万円) 臨時 特別の措置 として31年度概算決定額44,128百万円を別途措置 対策のポイント 林業の成

土石流 流木対策の事例 ( 佐賀県楠地区 ) 保安林種 : 水源涵養保安林 土砂流出防備保安林 山地災害危険地区 : 山腹崩壊危険地区 2 箇所 崩壊土砂流出危険地区 6 箇所 保全対象 : 人家 83 戸 消防署 1 箇所 鉄道 500m 国県道 :700m 田畑 :10.4ha 一級河川厳木川

図 6 地質と崩壊発生地点との重ね合わせ図 地質区分集計上の分類非アルカリ珪長質火山岩類後期白亜紀 火山岩 珪長質火山岩 ( 非アルカリ貫入岩 ) 後期白亜紀 花崗岩 後期白亜紀 深成岩 ( 花崗岩類 ) 花崗閃緑岩 後期白亜紀 チャートブロック ( 付加コンプレックス ) 石炭紀 - 後期三畳紀

第 7 章砂防 第 1 節 砂防の概要 秋田県は 北に白神山地の二ツ森や藤里駒ヶ岳 東に奥羽山脈の八幡平や秋田駒ヶ岳 南に鳥海山など 1,000~2,000m 級の山々に三方を囲まれています これらを水源とする米代川 雄物川 子吉川などの上流域は 荒廃地が多く 土砂の発生源となっています また 本県

国土技術政策総合研究所 研究資料

【論文】

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西日本豪雨 市民への緊急メッセージ 記者発表会 防災学術連携体幹事会 趣旨 防災に関わる56の学会ネットワークである防災学術連携体は 平成 30 年 7 月豪雨による西日本を中心とした豪雨災害に関して緊急集会を行い 地球環境の変化は自然災害として身近に迫っており 今後 夏後半から秋にかけては大雨が降

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平成 29 年 12 月 1 日水管理 国土保全局 全国の中小河川の緊急点検の結果を踏まえ 中小河川緊急治水対策プロジェクト をとりまとめました ~ 全国の中小河川で透過型砂防堰堤の整備 河道の掘削 水位計の設置を進めます ~ 全国の中小河川の緊急点検により抽出した箇所において 林野庁とも連携し 中

目次 1. はじめに. 十勝川流域の特徴 -1 十勝川流域の気象 河川の特徴 1 流域の気象の特徴 十勝川の特徴 - 地形的な特徴 - 地質的な特徴. 平成 年 月出水の概要 -1 豪雨の概要 - 被害の概要 1 出水による被害状況 砂防設備の被害状況 - 砂防設備の

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図-2 土砂移動発生箇所 国土地理院の判読結果 4による 図-3 傾斜区分と土砂移動発生箇所 国土地理院の判読結果 4に よる の関係 根谷川 AMeDAS三入観測点 太田川 可部東地区 広島市安佐北区 八木地区 緑井地区 広島市安佐南区 地質区分 産業技術総合研究所シームレス地質図より関 図-4

新潟県連続災害の検証と復興への視点

 


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土砂災害防止法よくある質問と回答 土砂災害防止法 ( 正式名称 : 土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関 する法律 ) について よくいただく質問をまとめたものです Ⅰ. 土砂災害防止法について Q1. 土砂災害は年間どれくらい発生しているのですか? A. 全国では 年間約 1,00

目 次 1 はじめに 1 2 山地災害対策を巡る現状及び課題 2 (1) 短時間強雨など極端現象の頻発や森林の高齢級化に伴う山地災害の発生形態の変化 (2) 山地災害の激甚化に伴う人的 物的被害の拡大 (3) 国土保全の拠点となる農山漁村における生活基盤の脆弱化 (4) 山地災害危険地区の把握精度の

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平成 29 年 7 月九州北部豪雨における流木被害 137 今回の九州北部における豪雨は 線状降水帯 と呼ばれる積乱雲の集合体が長時間にわたって狭い範囲に停滞したことによるものである この線状降水帯による記録的な大雨によって 図 1 に示す筑後川の支流河川の山間部の各所で斜面崩壊や土石流が発生し 大

第 7 章砂防第 1 節砂防の概要 秋田県は 北に白神山地の二ツ森や藤里駒ケ岳 東に奥羽山脈の八幡平や秋田駒ヶ岳 南に鳥海山など 1,000~2,000m 級の山々に三方を囲まれています これらを水源とする米代川 雄物川 子吉川などの上流域は 荒廃地が多く 土砂の発生源となっています また 本県の地

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の設置に加え 崩壊斜面の周辺に伸縮計 地盤傾斜計等を設置し計測データによる監視を行うとともに 定点カメラによる視覚的監視を行っている なお 地震動や雨量 各観測計器に基準値を設け 基準値超過時の作業中止基準を定め運用している 2.2, 崩壊地内の無人化機械による施工崩壊斜面上部に残る不安定土砂の崩壊

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災害調査報告

平成 24 年度期中の評価実施地区一覧表 中部森林管理局 整理番号 都道府県 事業実施主体 事業名 事業実施地区名 総便益 B ( 千円 ) 総費用 C ( 千円 ) 分析結果 B/C 実施方針 1 富山富山森林管理署民有林直轄治山事業常願寺川じょうがんじがわ 41,617,999 11,895,0

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2 6.29災害と8.20災害 空中写真による災害規模の比較 5 土石流流出位置 災害時の空中写真 3 3 平成26年8月豪雨による広島土砂災害 三入の雨量グラフ 災害時の空中写真 可部地区 山本地区 八木 緑井地区 三 入 では雨量 強度 8

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避難勧告等の 判断 伝達マニュアル ( 土砂災害編 ) ひと 緑がかがやく田園と交流のまち 安全に安心して暮らせるまちの実現に向けて ( 概要版 ) 平成 26 年 9 月 1 日 北海道長沼町

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(4) 横断面形調査要領では メッシュの中心点と 中心点を通る等高線が内接円に交わる 2 点を結んだ 2 直線の山麓側の角度 ( メッシュの中心点を通る等高線がない場合は 中心点に最も近接している等高線から類推する角度 ) を計測し 10 度括約で求める とされている 横断面形の概念図を図 4.4

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ダムの運用改善の対応状況 資料 5-1 近畿地方整備局 平成 24 年度の取り組み 風屋ダム 池原ダム 電源開発 ( 株 ) は 学識者及び河川管理者からなる ダム操作に関する技術検討会 を設置し ダム運用の改善策を検討 平成 9 年に設定した目安水位 ( 自主運用 ) の低下を図り ダムの空き容量

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1.3 風化 侵食状況

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土砂災害防止法ホームページの改造について

横書き 2組

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この台風による和歌山県全域での被害をみると, 人的被害は, 死者 56 人 ( うち災害関連死 6 人 ), 行方不明者 5 人, 負傷者 9 人, 物的被害は, 全壊 371 棟, 半壊 1,842 棟, 一部破損 171 棟, 床上浸水 2,680 棟, 床下浸水 3,147 棟, 浸水被害 1

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付属資料

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資料調査結果 ( 栗野岳地区 ) 64

2. 急流河川の現状と課題 2.1 急流河川の特徴 急流河川では 洪水時の流れが速く 転石や土砂を多く含んだ洪水流の強大なエネルギー により 平均年最大流量程度の中小洪水でも 河岸侵食や護岸の被災が生じる また 澪筋 の変化が激しく流路が固定していないため どの地点においても被災を受ける恐れがある

新都市社会技術融合創造研究会研究プロジェクト 事前道路通行規制区間の解除のあり方に関する研究

地すべり学会関西支部大豊地すべり調査 調査報告 メンバー高知大学笹原克夫, 日浦啓全 ( 名誉教授 ) 徳島大学西山賢一京都大学松浦純生, 末峯章, 土井一生国土防災技術 ( 宮本卓也, 井上太郎 相愛山崎尚晃, 松田誠司 四国トライ松尾俊明, 吉村典宏長崎テクノ 讃岐利夫木本工業株西森興司町田博一

7 制御不能な二次災害を発生させない 7-1) 市街地での大規模火災の発生 7-2) 海上 臨海部の広域複合災害の発生 7-3) 沿線 沿道の建物倒壊による直接的な被害及び交通麻痺 7-4) ため池 ダム 防災施設 天然ダム等の損壊 機能不全による二次災害の発生 7-5) 有害物質の大規模拡散 流出

iric を用いた土石流解析 エンジニアリング本部防災 環境解析部水圏解析グループ田中春樹 1. はじめに降雨による斜面崩壊には 大きく分けて深層崩壊と表層崩壊の二種類ある 深層崩壊とは長期間の降雨により土壌中に雨水が蓄積し 基盤上までの土層が崩壊する現象である 一方 表層崩壊とは降雨強度が大きい場

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1.2 主な地形 地質の変化 - 5 -

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土砂災害対策の強化に向けて 提言 平成 26 年 7 月 土砂災害対策の強化に向けた検討会

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水防法改正の概要 (H 公布 H 一部施行 ) 国土交通省 HP 1

平成 29 年 7 月 20 日滝川タイムライン検討会気象台資料 気象庁札幌管区気象台 Sapporo Regional Headquarters Japan Meteorological Agency 大雨警報 ( 浸水害 ) 洪水警報の基準改正 表面雨量指数の活用による大雨警報 ( 浸水害 )

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[T15446]砂防学会誌65‐4/P50‐61 災害報告 久保田ほか

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2009年7月防府市・山口市豪雨災害において花崗岩斜面に発生した土石流と斜面崩壊の特徴; Characteristics of Debris Flow and Slope Failure on Granite Slopes Caused by Heavy Rainfall on July 2009

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3.1 治山事業の具体的な適応策 2. 気候変動への適応策の検討 整理 では 気候変動の主たる影響を類型化して それぞれに必要となる適応策を表 のように整理した ここでは それぞれの適応策の具体的内容について例示し 既存の知見や効果の試算についてとりまとめる また ソフト対策や土地利用規

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整理番号 10 便益集計表 ( 森林整備事業 ) 事業名 : 森林居住環境整備事業 都道府県名 : 奈良県 地域 ( 地区 ) 名 : 上北山村地区 ( 単位 : 千円 ) 大区分 中区分 評価額 備考 木材生産等便益 森林整備経費縮減等便益 災害等軽減便益 木材生産等経費縮減便益木材利用増進便益木

地質ニュース

自然災害に見舞われやすい日本の国土 IPCC 第 5 次評価報告書 において 地球温暖化により極端な降水がより強く 頻繁となる可能性が非常に高いこと等が指摘されており 山地災害の発生リスクが高まることが懸念されています 日本では 1 時間降水量 80mm 以上となる集中豪雨が増加傾向にあるほか 72

学識経験者による評価の反映客観性を確保するために 学識経験者から学術的な観点からの評価をいただき これを反映する 評価は 中立性を確保するために日本学術会議に依頼した 詳細は別紙 -2 のとおり : 現時点の検証の進め方であり 検証作業が進む中で変更することがあり得る - 2 -

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平成 30 年 8 月 6 日 平成 30 年 7 月豪雨に伴い広島県及び愛媛県で発生した山地災害の 学識経験者による現地調査結果 調査日: 平成 30 年 7 月 26 日 ( 木 )~29 日 ( 日 ) 調査者: 阿部和時 ( 日本大学教授 )27 日石川芳治 ( 東京農工大学名誉教授 )26 日 ~29 日岡田康彦 ( 森林総研山地災害研究室長 )26 日 ~29 日笹原克夫 ( 高知大学教授 )26 日 28 日 ~29 日地頭薗隆 ( 鹿児島大学教授 )26 日 ~28 日林野庁 (26 日 ~29 日 ) 近畿中国森林管理局(26 日 ~27 日 ) 四国森林管理局(28 日 ~29 日 ) 広島県(26 日 ~27 日 ) 愛媛県(28~29 日 ) Ⅰ. 広島県における調査結果概要 1. 広島県広島市安芸区矢野東 (1) 災害概要 うめごう 広島市安芸区矢野東の梅河団地において 東側の斜面の3つの渓流から土砂 土石が 団地に流入したことにより 複数の人家が損壊 住民 5 名が死亡した 渓流の一つには平成 30 年 2 月に完成した治山ダムが設置され 計画した土砂量は捕捉したと見込まれる しかし それを上回る量の土砂 土石が発生 流下して団地に流入し 被害が発生した 谷出口から荒廃渓流源頭部までは 最大長さ ( 水平距離 ) 約 600m 比高差約 250m 崩壊深度 ( 源頭部 ) は約 2m 荒廃渓流幅は最大約 20m である (3) 地形 地質災害箇所周辺の地質は 白亜紀後期の広島花崗岩で 地表部が風化によりマサ土となっている 標高最大約 400mの尾根が南北に伸び 災害発生箇所の西向き斜面には 渓岸 渓床侵食が発達した複数の渓流がある 流出土砂は主にマサ土で構成され 大きさ約 2~3m 程度の未風化の花崗岩の巨石 ( コ アストーン ) が渓流内や 流出土砂が堆積している団地に散在していた 災害箇所周辺の植生は コナラ シイ - カシ類が占めている 推定根系深さは 荒廃渓 流地縁の根系調査から 最大 2m 程度と推定される - 1 -

(6) 災害原因荒廃渓流の源頭部にある0 次谷の崩壊は 尾根付近から発生している 尾根部は山腹斜面に比べ傾斜が緩やかであるが 記録的な集中豪雨 (24 時間雨量 312.5mm( 平成 30 年 7 月 6 日 6 時 ~ 平成 30 年 7 月 7 日 6 時まで ) 累積雨量 519.5mm( 平成 30 年 6 月 28 日 0 時 ~7 月 8 日 24 時 ) アメダス広島観測所) により地下水位が上昇し 土層が著しく飽和して崩壊発生源となったと推定される このため 流下距離が長く かつ 渓岸 渓床侵食が進み 多量の土砂 土石が流下したことにより より被害が大きくなったと推定される なお 災害箇所に影響を与えた流出土砂 土石の多くは 記録的豪雨の異常な降水集中により根系の影響する範囲を超えた深さにまで及んだ崩壊や 根系深さを超えた渓岸 渓床侵食に伴うものと想定され 森林の山地災害防止機能に効果を及ぼす根系深さなどの影響が問われるものではないと考えられる また 渓流内及びその周辺には大きさ約 2~3mの巨石が散在しており その流下によって破壊力が増して被害の拡大につながったと考えられる なお 平成 30 年 2 月に設置された治山ダムについては目立った損壊はなく 計画した土砂量を捕捉することにより 下流の団地への被害を一定程度軽減したものと推定される 2. 広島県呉市安浦町市原 (1) 災害概要呉市安浦町市原地区において 複数の渓流 ( 少なくとも5 渓流 ) から 土砂 土石が集落に流入したことにより 複数の人家が損壊 住民 2 名が死亡した 調査した渓流には治山ダム2 基が整備されており 想定した渓床勾配の緩和や 土石流の流下能力の減衰 規模拡大の抑制といった効果は発揮していたと考えられる しかし 多量の土砂 土石が発生 流下して集落に流入し 被害が発生したものと推定される 市原地区の被害箇所から荒廃渓流源頭部まで 最大長さ ( 水平距離 ) 約 800m 比高 差約 250m 荒廃渓流幅は約 20m 前後であると推定される (3) 地形 地質災害箇所周辺の地質は 基岩は非アルカリ珪長質火山岩類 ( 流紋岩類 ) で 表層が風化している 市原地区は 標高 500mの前平山の南側斜面で 斜面には渓岸 渓床侵食が発達した複数の渓流がある 大きさ約 2~3m 程度の未風化の流紋岩の巨石が 渓流内や流出土砂の堆積地内に散 在している - 2 -

災害箇所周辺の植生は シイ - カシ類が占めている (6) 災害原因荒廃渓流の源頭部にある0 次谷の崩壊は 尾根頂上付近から発生している 尾根部は山腹斜面に比べ傾斜が緩やかであるが 記録的な集中豪雨 (24 時間雨量 309.0mm( 平成 30 年 7 月 6 日 6 時 ~ 平成 30 年 7 月 7 日 6 時まで ) 累積雨量 518.5mm( 平成 30 年 6 月 28 日 0 時 ~7 月 8 日 24 時 ) アメダス呉観測所 ) により地下水位が上昇し土層が著しく飽和して崩壊発生源となったと推定される このため 流下距離が長く かつ 渓岸 渓床侵食が進み 周辺斜面からの降水を伴って多量の土砂 土石が流下したことにより 被害が大きくなったと推定される なお 渓流内には既設治山ダム2 基が整備されており 袖部の損壊が認められたが 想定した渓床勾配の緩和や 土石流の流下能力の減衰 規模拡大の抑制といった効果は発揮していたものと考えられる しかし 多量の土砂 土石が発生 流下して 集落に流入し 被害が発生したものと推定される 3. 広島県東広島市黒瀬 (1) 災害概要東広島市黒瀬の広島国際大学東広島キャンパス周辺地域において 南側の斜面の少なくとも3つの渓流から土砂 土石が大学キャンパス 県道 34 号線をはじめ 複数の人家に流入した 調査した渓流には 治山ダム 6 基が整備され 想定した渓床勾配の緩和や 土石流の流下能力の減衰 規模拡大の抑制といった効果は発揮していたと考えられる しかし 多量の土砂 土石が発生 流下して集落に流入し 被害が発生し うち 2 基の堤体が損壊 4 基の袖部が損壊し 被害が発生したと推定される 県道 34 号線の被害箇所から荒廃渓流源頭部まで 最大長さ ( 水平距離 ) 約 800m 比 高差約 280m 荒廃渓流幅は約 20m 以上と推定される (3) 地形 地質災害箇所周辺の地質は 基岩は非アルカリ珪長質火山岩類 ( 流紋岩類 ) で 表層が風化している 黒瀬地区は 標高 500mの前平山の北側の斜面で 斜面には渓岸 渓床侵食が発達した複数の渓流がある 大きさ約 2~3m 程度の未風化の流紋岩の巨石が 渓流内等に散在している 災害箇所周辺の植生は 斜面下部はシイ - カシ類 上部はスギ人工林が占めている 推 定根系深さは 荒廃渓流地縁の根系調査から 約 1.5~2m 程度と推定される - 3 -

(6) 災害原因荒廃渓流の源頭部にある0 次谷の崩壊は 尾根頂上付近から発生している 尾根部は山腹斜面よりは傾斜が緩やかであるが 記録的な集中豪雨 (24 時間雨量 299.0mm( 平成 30 年 7 月 6 日 6 時 ~ 平成 30 年 7 月 7 日 6 時まで ) 累積雨量 474.0mm( 平成 30 年 6 月 28 日 0 時 ~7 月 8 日 24 時 ) アメダス東広島観測所) により地下水位が上昇し土層が著しく飽和して崩壊発生源となったと推定される このため 流下距離が長く かつ 渓岸 渓床侵食が進み 周辺斜面からの降水を伴って多量の土砂 土石が流下したことにより 被害が大きくなったと推定される なお 災害箇所に影響を与えた流出土砂 土石の多くは 記録的豪雨の異常な降水集中による根系深さを超えた渓岸 渓床侵食に伴うものと想定され 森林の山地災害防止機能に効果を及ぼす根系深さなどの影響が問われるものではないと考えられる また 既設治山ダム6 基のうち 2 基の堤体 4 基の袖部が損壊していることが確認されているが 想定した渓床勾配の緩和や 土石流の流下能力の減衰 規模拡大の抑制といった効果は発揮していたものと考えられる しかし 多量の土砂 土石が発生 流下して 大学キャンパスや県道等に流入し 被害が発生したと推定される (7) 伐採跡地等と崩壊との関係大学キャンパスに隣接した乃美尾地区 ( 黒瀬町乃美尾 ) の皆伐後 植栽間もないアカマツ造林地の斜面で崩壊箇所が確認されたが 当該地域にこれ以外の伐採跡地 植林地はなく 伐採等と崩壊との関係を評価することはできなかった ただし 当該地を踏査した限りにおいては 崩壊原因は崩壊斜面下部に存在する湧水痕の状況から他の崩壊箇所と同様に記録的な集中豪雨により地下水位が上昇し土層が著しく飽和して崩壊したと推定される 4. 広島県視察地等における今後の対策等 1 平成 26 年 8 月豪雨時の災害と比較した場合 今回の災害は より広範囲で より総降水量の多い豪雨災害であったことを踏まえ 今後 気象 地形 地質 植生等と崩壊箇所に関する被災地域の基礎データを分析し 災害発生メカニズムや対策等を検討していくことが必要である 2 不安定土砂 巨石が渓流内 周辺林地に堆積しており 下流保全対象への影響が及ぶおそれのある箇所の把握が重要である そのためには 踏査による現地調査のほか 航空機によるレーザプロファイラ調査 UAV 調査等の活用が効果的である 3 渓流内 周辺林地に堆積している不安定土砂 巨石の対策として 保全対象に近接している箇所においては 応急対策として 渓流内の土砂 土石を除去 ( 除石 ) する また 恒久対策として 斜面上の巨石はロープネット工等により斜面内で固定することや筋工等により斜面を安定させることも有効である 4 既設治山ダムは 今回の土砂 土石の流出に対して 計画した土砂を捕捉したほか 渓床勾配の緩和 土石流の流下能力の減衰 堆積土砂の流出防止の効果を発揮したものと考えられる しかし 一部治山ダムでは袖部 堤体等が損壊するなどの被害が見られた 今後 豪雨に伴い巨石が流出するおそれのある地質条件下で保全対象に近接した箇 - 4 -

所においては 巨石の流下による衝撃力も考慮した治山ダムの増厚 袖部の強化等の検討が必要である 5 尾根付近の0 次谷が発生源となる流下距離の長い土石流によって渓岸 渓床侵食が発生している その復旧に当たっては 特に斜面中腹の流下区域において 施工条件も踏まえつつ階段状治山ダムを設置することにより 渓床勾配を緩和して流体力 衝撃力を低減することも効果的である 6 崩壊斜面源頭部の復旧は 基岩が花崗岩であるため自然復旧が困難であると考えられ 早急に緑化することが必要であるが 被害が広範囲であり かつ 資材搬入の制約が予想されることから 航空緑化工法等の活用により 当面の土砂流出抑制対策を進めることが必要である 7 今回の災害における流木による被害は 被災地域の植生がコナラ シイーカシ類を主体としているため スギ ヒノキ人工林を主体とする被災地域であった九州北部豪雨災害と比較した場合では 材積の面から限定的であったと考えられるが 今後 基礎データの分析を通じて比較 検証を進め 植生の違いによる流木災害の特徴を解明していくことが重要である 8 警戒避難体制の整備として 地域住民への避難に資する情報の提供や 土石流検知センサー等の設置の検討が必要である Ⅱ. 愛媛県の調査概要報告 あかんま 1. 愛媛県西予市宇和町明間 (1) 災害概要 西予市宇和町明間地区において 斜面が崩壊し 市道 人家に土砂が流出し 人家 3 戸が損壊した 崩壊直前に住民が異常な出水を確認し 避難したことにより人的被害に は至らなかった 明間地区の被害箇所から崩壊斜面源頭部まで 最大長さ ( 水平距離 ) 約 350m 最大幅約 50m 比高差約 180mである 崩壊源頭部における崩壊規模は 幅約 25m 長さ約 30m 最大深さ約 10mと推定される (3) 地形 地質 災害箇所周辺の地質は チャート 砂岩 崖錐堆積物により構成される 崩壊部は主に強風化したチャートを含む砂岩で構成され その表層部は 細粒分を多 く含む赤色の砂質土である 災害箇所周辺の植生は 斜面下部は シイ - カシ類 斜面上部はヒノキ人工林により構 - 5 -

成されている ヒノキ人工林の推定根系深さは 崩壊斜面縁の根系調査から 最大約 2 m と推定される (6) 災害原因 記録的な集中豪雨 (24 時間雨量 346.5mm( 平成 30 年 7 月 6 日 8 時 ~ 平成 30 年 7 月 7 日 8 時まで ) 累積雨量 610mm( 平成 30 年 6 月 28 日 0 時 ~7 月 8 日 24 時 ) アメダス 宇和観測所 ) に加えて 比較的深部まで風化して形成された斜面上部の表土層において 地下水位が上昇し土層が著しく飽和して崩壊が発生 崩壊土砂が立木を巻き込みながら 斜面を流下し 被害が発生したと推定される おんじ 2. 宇和島市三間町音地 (1) 災害概要 宇和島市三間町音地地区において土石流が発生し 人家 市道等に土砂が流出した なお 多量の流木が流下しており 渓流下流部に堆積していた 多量の流木が堆積し た場所は渓床勾配が緩く 直下流が狭窄部であったことから 流木の堆積が促進された と推察される 音地地区の被害箇所から土石流発生源頭部までは 最大長さ ( 水平距離 ) 約 1,400m 最大幅約 80m 比高差約 300m である (3) 地形 地質 災害箇所周辺の地質は 砂岩優勢砂岩泥岩互層となっている 流出土砂は 主に砂岩及び泥岩が風化したもので構成される 災害箇所周辺は主にスギ ヒノキ人工林により構成される (6) 災害原因記録的な集中豪雨 (24 時間雨量 197.0mm( 平成 30 年 7 月 6 日 11 時 ~ 平成 30 年 7 月 7 日 11 時まで ) 累積雨量 500.0mm( 平成 30 年 6 月 28 日 0 時 ~7 月 8 日 24 時 ) アメダス宇和島観測所 ) により地下水位が上昇し土層が著しく飽和して崩壊し 周辺斜面から降水のほか 渓岸 渓床侵食を伴い多量の土砂 土石 流木が流下したことにより被害が大きくなったと推定される 3. 愛媛県視察等における今後の対策等 1 不安定土砂が山腹斜面 渓流内に堆積しており 取り急ぎ下流保全対象への影響が及 ぶおそれのある箇所を把握することが必要である また 崩壊斜面の拡大崩壊のおそれ - 6 -

を把握するため 斜面上部の亀裂の有無を確認する必要がある そのためには 踏査による現地調査のほか 航空機によるレーザプロファイラ調査 UAV 調査等の活用が効果的である 2 流送区間の長い荒廃渓流の復旧に当たっては 施工条件を踏まえつつ 階段状に治山ダムを整備することが有効である また 渓流内に堆積している流木の対策として 危険木の除去や 流木捕捉式治山ダムの設置が有効である 3 警戒避難体制の整備として 地域住民への避難に資する情報の提供や 人家裏山の亀裂発生箇所等における検知センサーの設置等の検討が必要である 4 斜面崩壊からの避難のために 異常出水や地下水の流出等の崩壊の前兆現象を 役立てることも有効である ( 以上 ) - 7 -