Microsoft Word - ○201701Report(的場)校正会議再修正版.docx

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調査の概要 少子高齢化が進む中 わが国経済の持続的発展のために今 国をあげて女性の活躍推進の取組が行なわれています このまま女性正社員の継続就業が進むと 今後 男性同様 女性も長年勤めた会社で定年を迎える人が増えることが見込まれます 現状では 60 代前半の離職者のうち 定年 を理由として離職する男

Microsoft Word - Report201705(的場)校正会議後修正版(seki修正).docx

「学び直し」のための教育訓練給付制度の活用状況|第一生命経済研究所|的場康子

Microsoft Word - rp1410a(的場).docx

Microsoft Word - notes①1210(的場).docx

調査実施の背景 わが国では今 女性活躍を推進し 誰もが仕事に対する意欲と能力を高めつつワークライフバランスのとれた働き方を実現するため 長時間労働を是正し 労働時間の上限規制や年次有給休暇の取得促進策など労働時間制度の改革が行なわれています 年次有給休暇の取得率 ( 付与日数に占める取得日数の割合

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長く働き続けるための「学び直し」の実態と意識

Microsoft Word - Notes1104(的場).doc

参考 1 男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査 について 1. 調査の目的これから結婚 子育てといったライフ イベントを経験する層及び現在経験している層として 若年 ~ 中年層を対象に それまでの就業状況や就業経験などが能力発揮やライフプランに関する意識に与える影響を把握するとともに

第第第ライフスタイルに対する国民の意識と求められるすがた50 また 働いていないが 今後働きたい と回答した人の割合は 男性では 7.4% であるのに対し て 女性は19.1% である さらに 女性の中では 30 代の割合が高く ( 図表 2-1-2) その中でも 特に三大都市圏で高い割合となってい

中小企業のための「育休復帰支援プラン」策定マニュアル

日韓比較(10):非正規雇用-その4 なぜ雇用形態により人件費は異なるのか?―賃金水準や社会保険の適用率に差があるのが主な原因―

第 1 子出産前後の女性の継続就業率 及び出産 育児と女性の就業状況について 平成 30 年 11 月 内閣府男女共同参画局

調査実施の背景 2015 年 4 月から子ども 子育て支援新制度 以下 新制度 が施行され 保育事業の拡大が図られます そのため保育人材の確保が重要な課題となっており 保育士確保のための取組が強化されています しかし保育士のみでは必要量を満たせないことから 子育て分野で働くことに関心のある地域住民に

Microsoft Word - rp1504b(宮木).docx

男女共同参画に関する意識調査

Microsoft Word - Focus12月(的場).doc

労働力調査(詳細集計)平成29年(2017年)平均(速報)結果の概要

2 継続雇用 の状況 (1) 定年制 の採用状況 定年制を採用している と回答している企業は 95.9% である 主要事業内容別では 飲食店 宿泊業 (75.8%) で 正社員数別では 29 人以下 (86.0%) 高年齢者比率別では 71% 以上 ( 85.6%) で定年制の採用率がやや低い また

長く働き続けるための「学び直し」の実態と意識|第一生命経済研究所|的場康子

三世代で暮らしている人の地域 親子関係 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部研究開発室的場康子 < 減り続ける > 戦後 高度経済成長を迎えた我が国においては 産業構造の変化により都市化 工業化が進む中で 多くの人が地方から都市に移動し核家族化が進んだ 低成長経済に移行した後

<4D F736F F D DE97C78CA78F418BC B28DB895F18D908F DC58F49817A2E646F63>

調査実施の背景 わが国は今 人口構造の変化に伴う労働力の減少を補うため 女性の活躍を推進し経済成長を目指しています しかし 出産後も働き続ける女性は未だ多くないばかりでなく 職場において指導的な立場に就く女性も少ない状況が続いています 女性の活躍を促進させるためには 継続就業のための両立支援策ととも

このジニ係数は 所得等の格差を示すときに用いられる指標であり 所得等が完全に平等に分配されている場合に比べて どれだけ分配が偏っているかを数値で示す ジニ係数は 0~1の値をとり 0 に近づくほど格差が小さく 1に近づくほど格差が大きいことを表す したがって 年間収入のジニ係数が上昇しているというこ

図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

参考 男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査 について 1. 調査の目的これから結婚 子育てといったライフ イベントを経験する層及び現在経験している層として 若年 ~ 中年層を対象に それまでの就業状況や就業経験などが能力発揮やライフプランに関する意識に与える影響を把握するとともに 家

Microsoft PowerPoint

3 調査項目一覧 分類問調査項目 属性 1 男女平等意識 F 基本属性 ( 性別 年齢 雇用形態 未既婚 配偶者の雇用形態 家族構成 居住地 ) 12 年調査 比較分析 17 年調査 22 年調査 (1) 男女の平等感 (2) 男女平等になるために重要なこと (3) 男女の役割分担意

自動的に反映させないのは133 社 ( 支払原資を社内で準備している189 社の70.4%) で そのうち算定基礎は賃金改定とは連動しないのが123 社 (133 社の92.5%) となっている 製造業では 改定結果を算定基礎に自動的に反映させるのは26 社 ( 支払原資を社内で準備している103

<4D F736F F D205B52528F4390B35D8F9790AB82CC93AD82AB95FB82C98AD682B782E992B28DB85F F834F C789C18DCF2E646F6378>

転職者の動向・意識調査 2011年1月~3月期

調査レポート

Microsoft Word - Report (北村)最終版2.docx

1. 職場愛着度 現在働いている勤務先にどの程度愛着を感じているかについて とても愛着がある を 10 点 どちらでもない を 5 点 まったく愛着がない を 0 点とすると 何点くらいになるか尋ねた 回答の分布は 5 点 ( どちらでもない ) と回答した人が 26.9% で最も多かった 次いで

調査結果 1. 働き方改革 と聞いてイメージすること 男女とも 有休取得 残業減 が 2 トップに 次いで 育児と仕事の両立 女性活躍 生産性向上 が上位に 働き方改革 と聞いてイメージすることを聞いたところ 全体では 有給休暇が取りやすくなる (37.6%) が最も多く 次いで 残業が減る (36

- 調査結果の概要 - 1. 改正高年齢者雇用安定法への対応について a. 定年を迎えた人材の雇用確保措置として 再雇用制度 導入企業は9 割超 定年を迎えた人材の雇用確保措置としては 再雇用制度 と回答した企業が90.3% となっています それに対し 勤務延長制度 と回答した企業は2.0% となっ

調査の背景 わが国は今 女性の活躍推進を掲げ 結婚や出産をしても働き続けることを後押しする社会を目指しています しかしながら 出産後も働き続ける女性は未だ半数にとどまっているばかりでなく 職場において指導的な立場に就く女性も多くありません こうした中 北海道においても地域や職場 家庭などのさまざまな

2. 女性の労働力率の上昇要因 М 字カーブがほぼ解消しつつあるものの 3 歳代の女性の労働力率が上昇した主な要因は非正規雇用の増加である 217 年の女性の年齢階級別の労働力率の内訳をみると の労働力率 ( 年齢階級別の人口に占めるの割合 ) は25~29 歳をピークに低下しており 4 歳代以降は

関東地方の者が約半数を占める (45.3%) 続いて近畿地方 (17.4%) 中部地方 (15.0%) となっている 図表 2-5 地域構成 北海道 東北関東中部近畿中国四国九州 沖縄総数 (%) 100.0% 8.9% 45.3%

Microsoft Word - H29 結果概要

Microsoft PowerPoint - 【セット版】140804保育キャンペーン資料

調査の背景 埼玉県では平成 29 年度から不妊に関する総合的な支援施策として ウェルカムベイビープロジェクト を開始しました 当プロジェクトの一環として 若い世代からの妊娠 出産 不妊に関する正しい知識の普及啓発のため 願うときに こうのとり は来ますか? を作成し 県内高校 2 年生 3 年生全員

Microsoft Word - wt1608(北村).docx

2018年度の雇用動向に関する道内企業の意識調査

Microsoft Word - ○Report白書1804修正3(北村).docx

厚生労働省発表

資料2(コラム)

電通総研、「女性×働く」調査を実施

25~34歳の結婚についての意識と実態

Microsoft Word - wt1607(的場).docx

人生100年時代の生活に関する意識と実態

第 1 章調査の実施概要 1. 調査の目的 子ども 子育て支援事業計画策定に向けて 仕事と家庭の両立支援 に関し 民間事業者に対する意識啓発を含め 具体的施策の検討に資することを目的に 市内の事業所を対象とするアンケート調査を実施しました 2. 調査の方法 千歳商工会議所の協力を得て 4 月 21

Microsoft Word - rp1507b(北村).docx

スライド 1

人生100年時代の結婚に関する意識と実態

Microsoft Word - 修正rp1110_的場_.doc

労働力調査(詳細集計)平成24年平均(速報)結果の要約

Microsoft PowerPoint - 【資料3-2】高年齢者の雇用・就業の現状と課題Ⅱ .pptx

少子高齢化班後期総括

男女共同参画に関する意識調査

スライド 1

第5回 「離婚したくなる亭主の仕事」調査

第 Ⅰ 部本調査研究の背景と目的 第 1 節雇用確保措置の義務化と定着 1. 雇用確保措置の義務化 1990 年代後半になると 少子高齢化などを背景として 希望者全員が その意欲 能力に応じて65 歳まで働くことができる制度を普及することが 政策目標として掲げられた 高年齢者雇用安定法もこの動きを受

調査実施の背景 少子高齢化が進む中 わが国は今 労働力を確保するため女性の活躍推進を目指しています 日本再興戦略 -JAPAN is BACK- ( 2013 年 6 月 14 日閣議決定 ) では 2020 年までに 25~44 歳までの女性就業率 73% という目標が掲げられました 総務省 労働

Microsoft Word 年1月(リリース).doc

平成 年 2 月 日総務省統計局 労働力調査 ( 詳細集計 ) 平成 24 年 10~12 月期平均 ( 速報 ) 結果の概要 1 Ⅰ 雇用者 ( 役員を除く ) 1 1 雇用形態 2 非正規の職員 従業員の内訳 Ⅱ 完全失業者 3 1 仕事につけない理由 2 失業期間 3 主な求職方法 4 前職の

01 公的年金の受給状況

調査実施の背景 近年 ライフスタイルの多様化が著しく進んでいます 生涯未婚率が上昇し 単身世帯 一人親世帯も増加するなど 世帯構成が大きく変化しました また 25 歳から 39 歳の就業率が上昇し 共働き世帯も増加しました においては 管理職の積極的な登用が推進される一方で非正規社員の占める割合は高

スライド 1

質問 1 企業 団体にお勤めの方への質問 あなたの職場では定年は何歳ですか?( 回答者数 :3,741 名 ) 定年は 60 歳 と回答した方が 63.9% と最も多かった 従業員数の少ない職場ほど 定年は 65 歳 70 歳 と回答した方の割合が多く シニア活用 が進んでいる 定年の年齢 < 従業

2015年 「働き方や仕事と育児の両立」に関する意識(働き方と企業福祉に関する

1 / 5 発表日 :2019 年 6 月 18 日 ( 火 ) テーマ : 貯蓄額から見たシニアの平均生活可能年数 ~ 平均値や中央値で見れば 今のシニアは人生 100 年時代に十分な貯蓄を保有 ~ 第一生命経済研究所調査研究本部経済調査部首席エコノミスト永濱利廣 ( : )

調査の実施背景 介護保険制度が 2000 年に創設されてから 10 年余りが過ぎました 同制度は 家族介護をあてにせずに在宅介護ができる支援体制を整えることを目的として発足されたものですが 実際には 介護の担い手としての家族の負担 ( 経済的 身体的 精神的負担 ) は小さくありません 今後 ますま

<本調査研究の要旨>

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 調査結果速報_

従業員に占める女性の割合 7 割弱の企業が 40% 未満 と回答 一方 60% 以上 と回答した企業も 1 割以上 ある 66.8% 19.1% 14.1% 40% 未満 40~60% 未満 60% 以上 女性管理職比率 7 割の企業が 5% 未満 と回答 一方 30% 以上 と回答した企業も 1

Microsoft Word - 4AFBAE70.doc

最初に あなたの働く目的は何ですか? という質問をしたところ 20~50 代のすべての年代において 生活 家族のため と答えた人が最も多かった その割合は 20 代が 63.6% 30 代が 74.0% 40 代が 83.8% 50 代が 82.5% だった また 全年代共通で 第 2 位が 自由に

第 3 章 就労促進に向けた労働市場の需給面及び質面の課題 くなり いきがい 社会参加 や 頼まれた といった社会とのつながりによる理由が高くなっており 長期的にも上昇傾向にある 一方 女性については いずれの年齢層も 経済上の理由 が最も高くなっているが 男性よりその割合は小さく いきがい 社会参

電通総研、「シニア×働く」調査を実施

25~44歳の子育てと仕事の両立

アンケート調査の実施概要 1. 調査地域と対象全国に居住する 30~60 代の既婚男女 2. サンプル数 800 名 3. サンプル抽出方法第一生命経済研究所生活調査モニター 4. 調査方法質問紙郵送調査法 5. 実施時期 2006 年 1 月 6. 有効回収数 ( 率 ) 769 名 (96.1%

< 調査の概要 > 1. 調査対象 : 全国の 50~69 歳の男女のうち 下記 5. に該当する方 2. 調査方法 : インターネット調査 ( 株式会社マクロミルの登録モニター対象 ) 3. 調査時期 : 2018 年 2 月 9 日 ~2 月 14 日 4. 回収数 : 6,250 人 5. 回

Ⅰ 調査目的 総合研究所では 新規開業企業の実態を把握するために 1991 年から毎年 新規開業実態調査 を実施し 開業時の年齢や開業費用など時系列で比較可能なデータを蓄積すると同時に 様々なテーマで分析を行ってきた 今年度は 高齢化が進展するなか開業の担い手として注目を集めているシニア起業家 (

求人サイト利用についての自主調査 雇用形態や制度の変化が急激に進む中 求人産業が大きく成長し 求人サイトの利用が高まっています 正社員 派遣 アルバイトといった雇用形態によって 求人サイトの利用状況や サイトに期待される機能は異なっているのでしょうか また 求職者はモバイルサイトと PC サイトをど

平成25年度 高齢期に向けた「備え」に関する意識調査結果(概要版)2

PowerPoint プレゼンテーション

若年者雇用実態調査

18歳人口の分布図(推計)

Microsoft Word - huuhu3.doc

Microsoft Word - リリース doc

平成26年度「結婚・家族形成に関する意識調査」報告書(全体版)

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スライド 1

(3) お住まいはどちらですか?( 単身赴任の場合は家族の居住地 ) 住まいは 名古屋市内 が 40.8% 名古屋市外 が 59.2% である 図 36 住まい 名古屋市外 59.2 n=191 名古屋市内 40.8 (4) ご家族 家族は 核家族 ( 二世代 子どもと親のみ ) が 49.7% と

1. 交際や結婚について 4 人に3 人は 恋人がいる または 恋人はいないが 欲しいと思っている と回答している 図表 1 恋人が欲しいと思わない理由は 自分の趣味に力を入れたい 恋愛が面倒 勉強や就職活動に力を入れたい の順に多い 図表 2 結婚について肯定的な考え方 ( 結婚はするべきだ 結婚

ふくい経済トピックス ( 就業編 ) 共働き率日本一の福井県 平成 2 2 年 1 0 月の国勢調査結果によると 福井県の共働き率は % と全国の % を 1 1 ポイント上回り 今回も福井県が 共働き率日本一 となりました しかし 2 0 年前の平成 2 年の共働き率は

Microsoft PowerPoint - ★グラフで見るH30年度版(完成版).

Transcription:

女性の定年退職前後の働き方と意識 定年に関するアンケート調査から 上席主任研究員的場康子目次 1. はじめに 2 2. 定年退職前後の就労状況 3 3. 定年退職前後の働き方に関する意識 7 4. 女性の定年退職者のニーズに合わせた雇用の受け皿の必要性 10 要旨 1 少子高齢化が進む中 わが国経済の持続的発展のために今 国をあげて女性の活躍推進の取組が行なわれている このまま女性正社員の継続就業が進むと 今後 男性同様 女性も長年勤めた会社で定年を迎える人が増えることが見込まれる そこで当研究所では 女性正社員の定年前後の就労実態と意識を明らかにするため 50 代後半の正社員 ( 勤続 15 年以上 ) 並びに60 歳まで正社員として働いていた60 代の男女 1,000 人を対象にしてアンケート調査を実施した 260 歳時点では正社員であった60 代の人々の現在の就労状況を性別にみると 男性は約半数が定年退職を経験しているが 女性は定年退職を経験せず同じ会社で働き続けている人が多い これは そもそも出産などのため就業中断を経験し 定年制度のない小規模企業に転職した女性が多いことの他 定年で退職をせずにパートなどに雇用変更するなどして勤務延長する女性も多いためであると推察される 3また 60 代の人々の会社を退職した理由は 男女ともに もう十分に働いたという達成感を感じているから ( 男性 25.0% 女性 31.5%) が最も多く 次いで 自分の好きなことをして生活をしたいから ( 男性 11.6% 女性 24.7%) などが続いている 4 今後 多くの女性正社員が継続就業し 定年退職を経験するようになれば 継続雇用のみならず 定年を機に再就職の道を選択するなど 女性の定年前後の就労パターンも多様化すると思われる そうした場合 賃金や雇用の安定性の他 勤務地の近さなど働きやすさを重視して働く女性も多くなる こうしたことを考慮し 公的年金の先行きに不透明感の増す中で できる限り働き続けることができる社会の構築のため 60 歳以降の雇用のあり方をどうするか 働き方改革の一つの視点として検討する必要がある キーワード : 女性活躍推進 定年退職 働き方改革 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部 Life Design Report WINTER 2017.1 1

1. はじめに (1) 女性の活躍推進の先にある女性の定年退職少子高齢化が進む中 わが国経済の持続的発展のために今 国をあげて女性の活躍推進の取組が行なわれている このまま女性正社員の継続就業が進むと 今後 男性同様 女性も長年勤めた会社で定年を迎える人が増えることが見込まれる 現状では 60 代前半の離職者のうち 定年 を理由として離職する男性は2015 年で38.7% 女性は24.0% である ( 図表 1) 過去 5 年間の推移をみても 同じような傾向にある この年代の離職理由で最も多いものは 男性では 定年 であるが 女性の場合は 定年 ではなく その他の個人的理由 である このように女性の 定年 が男性に比べて少ないのは そもそも女性は結婚 出産などのため就業中断や転職を繰り返し 定年退職が適用されない雇用形態で働いている人が多いためと思われる 今後 継続就業する女性正社員が増えれば この傾向が変わり 女性も定年退職する人が増えることが見込まれる こうした背景から 当研究所では女性正社員の定年退職前後の就労実態と意識を明らかにするため 50 代後半の正社員 ( 勤続 15 年以上 ) 並びに60 歳まで正社員として働いていた60 代の男女 1,000 人を対象にしてアンケート調査を実施した この結果から本稿では 女性正社員は定年退職に至るまでどのような働き 定年前後でどのように働き方を変えるのか 女性の定年前後の就労実態や意識を分析し 今後増えるであろう女性正社員の定年前後の働き方の変化を明らかにする 男性 女性 図表 1 60~64 歳男女の離職理由別離職者数の割合 定年 介護 看護 出向 出向元への復帰 経営上の都合 契約期間満了 その他の個人的理由 本人の責による 死亡 傷病 2010 年 41.0 0.1 0.9 6.8 22.2 24.6 1.5 3.0 2013 年 39.7 0.5 2.4 4.2 21.8 27.2 0.6 3.6 2015 年 38.7 0.9 3.1 2.8 21.9 30.7 0.2 1.8 2010 年 23.9 1.9 0.3 7.6 21.5 41.7 0.4 2.8 2013 年 19.8 2.6 0.4 5.2 21.1 46.9 0.2 3.7 2015 年 24.0 1.7 1.9 2.9 19.7 45.4 0.7 3.7 資料 : 厚生労働省 雇用動向調査 各年版より筆者作成 (2) アンケート調査の概要アンケート調査の概要は図表 2の通りである 定年退職前後の意識をたずねる調査であるため対象年齢を55 歳から69 歳までとした なお55~59 歳 ( 以下 50 代後半 ) については この年齢階級の平均勤続年数が男性 22.7 年 女性 15.8 年である ( 厚生労働省 平成 27 年賃金構造基本統計調査の概況 2016 年 2 月 ) ことから 男女とも勤続 15 2 Life Design Report WINTER 2017.1 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部

年以上の正社員を抽出した また60~69 歳 ( 以下 60 代 ) については 現状では60 歳を定年としている企業が多い ( 厚生労働省 平成 27 年就業条件総合調査結果の概況 2015 年 10 月 ) ことから 60 歳まで正社員として働いていた人 ( 本調査時点での就労状況は問わない ) を抽出した 図表 2 アンケート調査の概要 調査名 定年に関するアンケート調査 サンプル全国の 55~69 歳の男女 1,000 人 ( 男性 500 人 女性 500 人 ) 調査方法インターネット調査 ( 株式会社クロス マーケティングのモニター ) 調査時期 2016 年 10 月 回答者の属性として 婚姻状況を性 年代別にみたものが図表 3である 男性では既婚 ( 配偶者あり ) が85.8% を占めるが 女性では既婚 ( 配偶者あり ) が 51.4% 未婚が22.6% 離死別( 離別と死別の合計 ) が26.0% となっている 総務省 平成 27 年国勢調査 によると この年代の女性の既婚 ( 配偶者あり ) は7 割以上 未婚と離死別の合計は3 割以下である これに比べ 本調査の未婚と離死別の割合が高いのは 先述の通り サンプル抽出にあたって正社員を多く抽出したことによると思われる 正社員として働く人の中に未婚や離死別の女性が多く含まれていることが考えられる 図表 3 回答者の婚姻状況 ( 性 年代別 ) 人数 ( 人 ) 既婚 ( 配偶者あり ) 未婚 離別 死別 全体 1,000 68.6 14.5 13.2 3.7 男性 500 85.8 6.4 6.6 1.2 55~59 歳 200 85.0 7.5 7.0 0.5 60~69 歳 300 86.3 5.7 6.3 1.7 女性 500 51.4 22.6 19.8 6.2 55~59 歳 200 53.5 29.5 15.0 2.0 60~69 歳 300 5 18.0 23.0 9.0 2. 定年退職前後の就労状況 (1) 現在の雇用形態回答者の現在の雇用形態を性 年代別にみたものが図表 4である 本調査の対象は 50 代後半については全て正社員として働いている人である 男性は 一般社員 が45.5% であり 管理職 が 42.5% 経営者 役員 が12.0% となっており 管理職以上が半数以上を占めているのに対して 女性は 一般社員 (83.0%) がほとんどである こうした管理職割合に男女差がみられるのは 本調査の対象者が 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部 Life Design Report WINTER 2017.1 3

男女雇用機会均等法の制定前から働いており 総合職と一般職など男女間で職掌が異なっていたことが一つの要因と考えられる 性別に過去の転職経験をみると 男性よりも女性のほうが 転職なし ( 学校を卒業後 最初に勤務した会社で正社員として働き続けている ) の回答者が少なく 転職あり が多い 女性は出産などのために就業中断をしている人が多いためと思われる 60 代については 先述の通り 60 歳時点で正社員であった人々を対象としている 本調査時点で 無職 と回答した人は男女ともに約 1 割であり ほとんどの人が働いている 男性は 契約 嘱託社員 (22.7%) のほうが 一般社員 (19.0%) を上回り 自営業 (15.7%) が続いている 女性は 一般社員 (28.0%) と パート アルバイト (26.3%) とで半数以上を占めている 60 歳時点では正社員であったが 定年退職などを経て 雇用形態が変化した人が多いことがわかる 次に このように雇用形態が変わる背景の一つと思われる定年退職経験等の実態をみる 男性 女性 人数 ( 人 ) 図表 4 雇用形態 ( 性 年代別 過去の転職経験別 ) 一般社員 正社員 管理職 経営者 役員 パート アルバイト 契約 嘱託社員 派遣労働者 自営業その他 無職 50 代後半 200 45.5 42.5 12.0 転職なし 120 43.3 50.8 5.8 転職あり 80 48.8 3 21.3 60 代 300 19.0 10.7 7.7 8.7 22.7 1.0 15.7 3.3 11.3 50 代後半 200 83.0 8.5 8.5 転職なし 76 81.6 14.5 3.9 転職あり 124 83.9 4.8 11.3 60 代 300 28.0 5.0 4.3 26.3 11.3 2.7 11.0 3.0 8.3 注 : 転職あり は 学校を卒業後 最初に勤務した会社から別の会社に転職したが 就業を中断することなくパートや正社員としての就業を経た後 現在の会社に正社員として 15 年以上続けている と 学校を卒業後 最初に勤務した会社を退職し 一時仕事から離れた後 再就職し 途中 パートや正社員としての就業を経た後 現在の会社に正社員として 15 年以上続けている の合計である (2) 定年退職を経験しているか 1)60 代の定年経験 60 歳時点では正社員であった人々が 60 歳を境にどのように働き方が変わったのか 本調査では 図表 5のように 60 代の就労状況を その他 を除き1~7の7パターンに分類した 1~3は定年退職を経験した場合である 現状では 60 歳を定年としている企業が多いことから 60 代の多くは定年退職を経験していると想定した 1は定年で一旦退職し勤務先の再雇用制度などを利用して働いている人である 定年前に退職をした人が4と5であるが 5は一旦退職した後に再就職をした人である 6は必ずしも全ての企業が 60 歳定年ではないことから定年年齢が 60 歳以上の企業に勤めている人を また7は定年がなく働いている人々を想定した この7については 定 4 Life Design Report WINTER 2017.1 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部

年制度が無い企業に勤務している人や定年退職しないで引き続き勤務延長制度を利用して働き続けている人なども含まれていると考えられる 8の その他 には フリーランスや役員などの記述がみられた ちなみに 図表は省略するが勤続年数との関連をみると 男女ともに167の回答者は勤続年数が 30 年以上など長い人が多く 25の回答者は5 年未満など短い人が多い傾向がある なお 婚姻状況によって回答傾向に大きな違いはみられなかった 図表 5 現在の就労状況 ( 性 企業規模別 ) 定年を経験定年前退職てに定さも定の職定て定働定織定い達年 後 れ同年会し年年い年で年るしはてじを社たを現をて前働再前てあい会経にが経在経いにい就にいる る社験再験働験な退て職退なが でし就そしいしい職いし職い 継職のてしるしたま 続そし一い引別めだ後 雇のた旦な退現のそ働定用後別退いし在組のい年 働定い年てはいなるく 同じ会社で その他 1 2 3 4 5 6 7 8 男性 60 代 (n=300) 25.7 16.3 8.0 3.3 9.7 4.7 22.3 1 9 人以下 (n=62) 3.2 14.5 19.4 1.6 61.3 10~99 人 (n=56) 28.6 23.2 7.1 3.6 37.5 100~999 人 (n=60) 43.3 31.7 8.3 6.7 1 1,000 人以上 (n=56) 58.9 12.5 12.5 12.5 3.6 女性 60 代 (n=300) 15.7 6.3 6.0 2.3 9.7 11.7 39.3 9.0 9 人以下 (n=85) 5.9 1.2 11.8 2.4 78.8 10~99 人 (n=81) 21.0 8.6 18.5 16.0 35.8 100~999 人 (n=43) 23.3 16.3 4.7 20.9 34.9 1,000 人以上 (n=36) 41.7 2.8 5.6 30.6 19.4 60 代の人々の現在の就労状況を性別にみると 男性は 1 定年を経験し その後も同じ会社で継続雇用されている (25.7%) 2 定年を経験し 一旦退職したが その後 別の会社に再就職した (16.3%) 3 定年を経験し 引退して 現在働いていない (8.0%) を合わせると半数が 定年退職を経験している 女性は この1~3の定年退職を経験したことを示す項目の合計割合は 28.0% である 最も多い回答は 7 定年はなく 同じ会社で働いている (39.3%) であり約 4 割を占めている このように女性で7の回答者が多い背景の一つには 勤務先の企業規模が関連していると思われる 厚生労働省 平成 27 年就業条件総合調査 によれば そもそも企業規模が小さいほど定年制度がない企業が多い 実際 現在の勤務先の企業規模別に就労状況をみると 小規模企業に勤務している人ほど 7 定年はなく同じ会社で働いている と回答している人の割合が男女ともに高い しかも女性の方が小規模企業に勤めている割合が男性よりも高いことを考え合わせると 小規模企業に勤 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部 Life Design Report WINTER 2017.1 5

めている女性を中心に 7 定年はなく同じ会社で働いている と回答した可能性がある こうしたことから 現在 60 代の女性が男性よりも定年退職が少ないのは そもそも出産などのため就業中断を経験し 定年制度のない小規模企業に転職した女性がいることの他 定年で退職をせずに勤務延長する女性も多いためであると推察される 2) 就労状況別にみた雇用形態こうした 60 代男女の現在の就労状況と雇用形態との関連をみたものが図表 6である これをみると 男女ともに就労状況によって雇用形態が異なっていることがわかる は 男女ともに正社員は約 2 割に留まっており 男性は契約 嘱託社員 女性はパート アルバイトの割合の方が高い 再就職をした場合には 男女ともに雇用形態が正社員から非正規社員に変わる人が多いようだ 定年退職後 継続雇用で働いている人は 男女ともに そのまま正社員として働いている人が 5 割前後 契約 嘱託社員 に雇用変更した人が約 4 割となっている このように 定年退職の経験の他 その前後の再就職など 60 代には様々な就労パターンがあるが 女性の場合 60 代でも定年を経ないで働いている人が多く その多くは正社員のまま 一部はパートなどに雇用変更して働き続けている人が多いことがわかる 以上が 60 代男女の就労実態である 次に 定年退職前後の働き方に関する意識をみる 図表 6 現在の雇用形態 ( 性 就労状況別 ) 男性 60 代 (n=236) (n=78) 定年を経ないで働いている人 (n=81) 定年退職後 継続雇用で働いている人 (n=77) 女性 60 代 (n=248) (n=48) 定年を経ないで働いている人 (n=153) 定年退職後 継続雇用で働いている人 (n=47) 正社員 一般社員 管理職 経営者 役員 パート アルバイト 契約 嘱託社員 派遣労働者 自営業 その他 45.3 24.2 13.1 8.1 9.7 27.5 1.3 12.7 3.4 21.8 12.8 7.7 1.3 19.2 37.2-12.8 9.0 60.5 24.7 17.3 18.5 6.2 4.9 3.7 24.7-53.2 35.1 14.3 3.9 3.9 41.6 - - 1.3 44.4 33.9 6.0 4.4 29.4 13.3 2.8 8.5 1.6 20.8 16.7 2.1 2.1 52.1 10.4 10.4 4.2 2.1 51.0 35.3 9.2 6.5 26.8 6.5 1.3 12.4 2.0 46.8 46.8 - - 14.9 38.3 - - - 注 : は図表 5 における 2 と 5 定年を経ないで働いている人 は同じく 6 と 7 定年退職後 継続雇用で働いている人 は同じく 1 の回答者を示している 6 Life Design Report WINTER 2017.1 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部

3. 定年退職前後の働き方に関する意識 (1) 会社を退職した理由まず 定年退職をした人 ( 図表 5における2と3の回答者 ) 及び定年前に退職した経験のある人 ( 同じく4と5の回答者 ) は なぜ退職したのか 退職理由をたずねた結果を性 退職状況別に示したものが図表 7である 男性全体では もう十分に働いたという達成感を感じているから ( 以下 もう十分働いた ) が最も高く25.0% を占めている 女性全体でも もう十分働いた の回答割合が最も高く31.5% を占めているが この他の項目をみると 自分の好きなことをして生活をしたいから ( 以下 自分の好きなこと ) や 仕事を続けていくことに疲れたから ( 以下 疲れた ) 職場の人間関係が良くないから ( 以下 職場の人間関係 ) は男性の回答割合を2 倍以上うわまわっている この背景には 定年前に退職した人の退職理由は男女で大きな違いはみられないが 定年退職をした人の理由が男女で大きく異なっていることが関連していると考えられる 定年退職した人に注目し 性別比較をすると 勤務先に再雇用制度や勤務延長制度がなかったから の回答割合は男女とも同程度であるが 自分の好きなこと や 疲れた 職場の人間関係 の回答割合は男性よりも女性の方が圧倒的に高い 反対に 会社の経営上の都合のため は女性よりも男性の方が高い 女性の場合 達成感や体力的な理由も多いが 自己の選択で定年退職の道を選ぶ人が多いという特徴がみられる 図表 7 会社を退職した理由 ( 上位 7 項目 )( 性 退職状況別 )< 複数回答 > もう十分に働いたという達成感を感じているから 自分の好きなことをして生活をしたいから 仕事を続け希望退職 ていくことに早期退職疲れたから制度を利用したから 会社の経営上の都合のため 勤務先に再雇用制度や勤務延長制度がなかったから 職場の人間関係が良くないから 男性 60 代 (n=112) 25.0 11.6 5.4 6.3 10.7 10.7 5.4 定年退職した人 (n=73) 24.7 8.2 1.4-11.0 15.1 2.7 定年前に退職した人 (n=39) 25.6 17.9 12.8 17.9 10.3 2.6 10.3 女性 60 代 (n=73) 31.5 24.7 17.8 4.1 8.2 8.2 15.1 定年退職した人 (n=37) 40.5 29.7 24.3-5.4 13.5 16.2 定年前に退職した人 (n=36) 22.2 19.4 11.1 8.3 11.1 2.8 13.9 注 : 定年退職した人 は図表 5 における 2 と 3 の回答者 定年前に退職した人 は同じく 4 と 5 の回答者 退職状況別についてはサンプル数が少ないので参考値とする (2)60 歳以降も働いている理由一方 60 代で働いている人の働いている理由について 性 就労状況別にみたもの 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部 Life Design Report WINTER 2017.1 7

が図表 8である 男性全体では 現在の生活を維持するため ( 以下 生活維持 ) が最も多く45.3% である これに 将来の生活の安定のため (16.7%) と 現在の生活水準を上げるため (4.3%) を合わせた経済的理由で働いている人の割合は66.3% となっている 女性全体も 生活維持 が46.1% と最も多く 上記のように経済的理由を合わせた割合は59.5% である 男性のみでなく女性も約 6 割の人が経済的理由のために働いている 次に就労状況別にみると 働く理由がそれぞれ異なっていることがわかる 男女ともには上記のような経済的理由が5 割前後であり 残りの約半数が 社会とのつながりをもつため や 人の役に立ちたいため 生きがい 健康のため といった非経済的理由で占められている の中には 定年退職や早期退職して退職金が支給されている人もいることから 経済的理由で働いている人が相対的に少ないと推察される 他方 定年を経ないで働いている人や定年退職後 継続雇用で働いている人をみると 生活維持 をはじめとした経済的理由の回答割合が男性では7 割前後 女性では約 6 割と高い 図表 8 60 歳以降も働いている理由 ( 性 就労状況別 ) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 男性 60 代 (n=236) 45.3 16.7 4.3 13.7 3.4 16.7 (n=78) 32.9 15.8 6.6 22.4 5.3 17.1 定年を経ないで働いている人 (n=81) 定年退職後 継続雇用で働いている人 (n=77) 46.9 55.8 17.3 3.7 16.9 6.2 3.7 13.0 2.6 22.2 10.4 1.3 女性 60 代 (n=248) (n=48) 定年を経ないで働いている人 (n=153) 定年退職後 継続雇用で働いている人 (n=47) 31.1 46.1 44.7 51.0 13.3 2.2 12.2 1.2 16.3 4.1 22.2 4.4 10.5 1.3 13.1 4.6 17.0 21.3 16.7 24.4 15.0 2.1 14.9 3.3 2.2 4.6 現在の生活を維持するため 将来の生活の安定のため 現在の生活水準を上げるため 社会とのつながりをもつため 人の役に立ちたいため 生きがい 健康のため その他 注 : は図表 5 における 2 と 5 定年を経ないで働いている人 は同じく 6 と 7 定年退職後 継続雇用で働いている人 は同じく 1 の回答者を示している 8 Life Design Report WINTER 2017.1 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部

このように 60 代で働いている人は男女差というよりも就労状況によって働く理由が異なるが 特に女性の場合 は 経済的な必要性が高くない人も含まれていることもあり これまでの働き方を変えて無理をせずに自分の心身の健康を考慮して働いているようだ (3)60 歳以降も働く上で重視すること 60 歳以降も働き続けるにあたり 60 代の人々はどのようなことを重視しているか 性 就労状況別にみたものが図表 9である 男性は 仕事内容が自分に合っていること ( 以下 仕事内容 ) が最も多く 職場の人間関係が良いこと ( 以下 人間関係 ) 賃金が望む金額であること ( 以下 賃金 ) が続いている 就労状況別では は他よりも 勤務時間を柔軟に決められること ( 以下 勤務時間の柔軟性 ) や 勤務時間が少ないこと の回答割合が高い 他方 定年退職後 継続雇用で働いている人は他よりも 賃金 や 雇用が安定していること ( 以下 雇用の安定 ) などの回答割合が高い 女性は 仕事内容 に続いて 勤務地 ( 自宅から近いこと ) ( 以下 勤務地 ) が上位である 就労状況別では は特に 勤務地 や 勤務時間が少ないこと の回答割合が高く 定年退職後 継続雇用で働いている人は 賃金 や 雇用の安定 などの回答割合が他の就労状況に比べて高い こうした傾向は男性とほぼ同様である 図表 9 60 歳以降も働く上で重視すること ( 上位 8 項目 )( 性 就労状況別 )< 複数回答 > 仕事内容が自分に合っていること 勤務地 ( 自宅から近いこと ) 職場の人間関係が良いこと 賃金が望む金額であること 雇用が安定仕事と家庭していることとの両立がしやすいこと 勤務時間を柔軟に決められること 勤務時間が少ないこと (*) 男性 60 代 (n=236) 65.7 35.6 37.3 36.9 36.0 26.3 21.2 17.4 (n=78) 70.5 37.2 32.1 34.6 30.8 28.2 24.4 21.8 定年を経ないで働いている人 (n=81) 49.4 32.1 30.9 25.9 27.2 29.6 22.2 17.3 定年退職後 継続雇用で働いている人 (n=77) 77.9 37.7 49.4 50.6 50.6 20.8 16.9 13.0 女性 60 代 (n=248) 67.3 5 44.0 28.2 32.3 29.8 21.8 24.2 (n=48) 81.3 60.4 47.9 27.1 27.1 33.3 22.9 41.7 定年を経ないで働いている人 (n=153) 63.4 49.7 41.2 26.8 29.4 30.7 22.9 20.9 定年退職後 継続雇用で働いている人 (n=47) 66.0 40.4 48.9 34.0 46.8 23.4 17.0 17.0 注 1: 図表中の * 印は 1 日あたりの勤務時間が短い 週当たりの勤務日が少ない 注 2: は図表 5 における 2 と 5 定年を経ないで働いている人 は同じく 6 と 7 定年退職後 継続雇用で働いている人 は同じく 1 の回答者を示している 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部 Life Design Report WINTER 2017.1 9

60 歳以降も働き続けるにあたっては 男女差というよりも就労状況によって重視する内容が異なっている それは先に述べた働く理由と関連しているものと思われる 女性の場合も 再就職をしている人は経済的理由から働く人が相対的に少ないために勤務地の近さや勤務時間の柔軟性などの働きやすさを 継続雇用で働いている人は経済的理由から働く人が多かったため 賃金や雇用の安定性など経済面も重視して働いていると推察される 4. 女性の定年退職者のニーズに合わせた雇用の受け皿の必要性 以上 60 歳前後の人々の就労実態並びに意識をみてきた 今回 男性は転職をしないで50 代を迎える人が多かったが 女性は多くの人が転職を経験している ( 図表 4) また60 歳時点では正社員であった人の60 歳以降の就労パターンをみると 男女ともに無職者は約 1 割程度であり 大多数は就労している 男性は定年退職後 継続雇用で働いている人 ( 図表 5の1) ( 同 2と5) 定年を経ないで働いている人( 同 6と7) がそれぞれ約 4 分の1ずつである 女性は定年退職後 継続雇用で働いている人とが15% ずつであり 定年を経ないで働いている人が約半数を占めている 現在の60 代女性の場合 そもそも出産などのため就業中断を経験し定年制度のない小規模企業に転職したり 定年で退職せず勤務延長により正社員のまま もしくはパート等に雇用変更して働き続けている人が多いようだ 現状 60 歳時点で正社員であった女性は 定年を経ないで今も働いている人が多いが 今後 多くの女性が正社員として継続就業し 定年退職を経験するようになれば 継続雇用のみならず 定年を機に再就職の道を選択するなど 女性の定年前後の就労パターンも多様化すると思われる そうした場合 賃金や雇用の安定性を求める人のみならず 勤務地の近さや勤務時間の短さを重視して働く女性も多くなることが見込まれる 現在 わが国では長時間労働の是正などのために働き方改革が進められているが 上記のことを考慮し 公的年金の先行きに不透明感の増す中で できる限り働き続けることができる社会の構築のため 60 歳以降の雇用のあり方をどうするか 働き方改革のもう一つの視点として検討する必要がある 本稿では 今後増えるであろう女性正社員の定年退職を見込んで まずは現状整理として60 歳前後の就労パターンの実態と意識を分析した これを踏まえ次稿では 女性の定年後の再就職にあたっての問題点や退職後の生活変化を明らかにして 女性活躍推進の先にある女性特有の定年問題を浮き彫りにしたい ( 研究開発室まとばやすこ ) 10 Life Design Report WINTER 2017.1 第一生命経済研究所ライフデザイン研究本部