参考資料 3 教育再生実行会議有識者勉強会 日本語能力が十分でない子どもたちをめぐる 教育上の課題と将来への展望 2016 年 3 月 14 日 ( 月 ) @ 文部科学省静岡文化芸術大学文化政策学部国際文化学科教授池上重弘 http://wwwt.suac.ac.jp/~ikegami/ HP 池上重弘研究室 1
1. はじめに - 私の立脚点 - 2
静岡文化芸術大学 Shizuoka University of Art and Culture (SUAC) 静岡県が浜松市中心部に設置 公設民営で 2000 年開学 10 年に県立の大学に 2 つの学部 (1 学年 300 名定員の小規模大学 ) 文化政策学部 国際文化学科 文化政策学科 芸術文化学科 デザイン学部 デザイン学科 学科の同僚に日系ブラジル人の教員も 現在約十数名の定住ブラジル人学生が在籍 3
静岡文化芸術大学の南米系第 2 世代の学生たち 入学年度 文化政策学部 2006 1 2007 デザイン学部 2008 2 高校 大学進学も確実に増加 日本人と同じ入試枠で入学 地域活動の担い手としても台頭 2009 2010 2011 2 2012 4 2013 4 2014 4 2015 2 はままつグローバルフェア (2013 年 2 月 10 日 ) 4
研究 大規模な外国人調査 ( 企業調査や日本人調査も ) 静岡県 2007 静岡県 2009 浜松市 2006 浜松市 2009( メンタルヘルス調査 ) 磐田市 2014 磐田市 2015 学生たちとの実践的研究 外国人中学生学習支援 外国人との交流イベント ブラジルのよさこいソーランチームとの交流 Festa Julina na SUAC 2014 ( ブラジルの祭りを大学で行い 子どもたちを招く ) 5
国や広域 文科省 内閣官房 総務省 外務省 外国人集住都市会議アドバイザー 県レベル 静岡県 愛知県 市レベル 政策面での関わり 静岡県 : 浜松市 磐田市 掛川市 湖西市 愛知県 : 田原市 岐阜県 : 美濃加茂市 三重県 : 四日市市 6
2. 日本語が十分でない 子どもたちの教育の現状 7
在留外国人数の推移 ( 各年末現在 ) 2,500,000 約 20 年で倍増 100 万 200 万 2008 年秋の金融危機 2011 年 3.11 以降 減少 2,000,000 1,500,000 最近は再び増加傾向 1,000,000 500,000 - 出典 : 法務省資料 8
国籍別在留外国人数の推移 ( 各年末現在 ) 800,000 700,000 600,000 500,000 2008 年秋リーマンショック 2011 年 3 月東日本大震災 中国 ( 台湾を含む ) 韓国 朝鮮 中国が最多 韓国 朝鮮は漸減傾向 ブラジルは 2008 以降 急減 400,000 300,000 200,000 フィリピンブラジルベトナム米国ペルータイネパールその他 フィリピンが全国で増加 ここ2,3 年はベトナム及びネパールが急増 100,000 0 在留外国人のアジア化が進行 出典 : 法務省資料 9
在留資格の永住 / 非永住に注目して 2000 2005 2010 の各年末で比較 2000 年末 2005 年末 2010 年末 外国人登録総数 1,686,444 2,011,555 2,134,151 永住 657,605 801,713 964,195 % 39.0% 39.9 45.2% 一般永住者 145,336 349,804 565,089 % 8.6% 17.4% 26.5% 特別永住者 512,269 451,909 399,106 % 30.4% 22.5 18.7 2000~2010 年の 10 年間で 永住資格は約 30 万人 とくに 一般永住者の急増が顕著 非永住者 1,028,839 1,209,842 1,169,956 % 61.0% 60.1% 54.8% 出典 : 法務省資料 10
在留資格別人口 (2015 年 12 月末 ) その他 13% 家族滞在 6% 特別永住者 16% 技能実習 9% 留学 11% 永住者 31% 永住資格 47% 永住者の配偶者等 1% 日本人の配偶者等 6% 定住者 7% 永住 ( 特別 & 一般 )+ 定住者 + 日配 + 永配 = 実質的な 移民 [15.6% + 31.4%]+ 7.2% +6.3%+1.3% = 61.8% 11 11
文部科学省平成 26 年度調査より ( 日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査 ( 平成 26 年度 ) ) http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/27/04/ icsfiles/afieldfile/2015/06/26/1357044_01_1.pdf 公立学校に在籍する外国人児童生徒のうち 日本語指導が必要な者は約 2 万 9 千人 小学校 中学校 高校 いずれも増加 公立学校の外国人児童生徒数 73,289 人の約 40% に相当 2012( 平成 24) 年度調査から 1,744 人増加 言語別ではポルトガル語 (29%) 中国語 (22%) フィリピノ語 (18%) スペイン語 (12%) の上位 4 言語で 80% 日本国籍の児童生徒で 日本語指導が必要な者は 7,897 人 帰国児童生徒 重国籍 国際結婚 12
浜松市教育委員会のデータ (2015 年 ) から 日本生まれ 日本育ちが増加 2014 年 4 月入学の小 1は日本生まれが59% ブラジル ペルー ベトナムで日本生まれが多い フィリピン人の増加 ここ 10 年ほどで急増 ブラジル53% に次いで フィリピンが13% 高校進学率は8 割代 しかし定時制が多い 2014 年度末の高校進学率は 81.3% 公立全日制 35% 公立定時制 30% 私立 14% ( 参考 )2015 年度の学校基本調査では全日制 98% 定時制 2% 13
外国人集住都市会議のデータ (2012 年 ) から 外国人集住都市会議東京 2012 長野 岐阜 愛知ブロック資料 高校進学者の日本語能力 (N=828) 通常授業理解可能 55% 日常会話不可 2% 学習用語 表現不可 17% 読み書き課題 26% 全体の 45% は日本語の理解に課題 全日制進学者 (N=532) でも 34% に課題 定時制進学者 (N=220) では 66% に課題 調査期間 :2012 年 5 月 1 日 ~6 月 12 日 対象 : 外国人集住都市会議参加都市 (29 市町 ) で公立中学校を2012 年 3 月に卒業した外国人生徒 ( ただし特別永住者を除き 家庭内で日本語以外の言語を使用 または 日本語のネイティブスピーカーではない ことを学校が把握している生徒 二重国籍や中国からの帰国生徒等 日本国籍を有する生徒も要件にあてはまれば対象とした ) 回答者 :2011 年度に外国人生徒を担当した教諭 14 有効回答数 :1010
3. 教育をめぐる課題と 解決に向けた取り組み 15
3-1. 課題の構図 16
日本語の不十分な子どもの教育をめぐる課題 学校への適応 日本語の習得 学力保障 進路保障 アイデンティティ 形成支援 17
学校への適応 移動する子どもたち 国境を越えた移動 異なる文化 生活環境 将来の不確実さ 不安 保護者との関係 仕事に忙しく子どもと向き合う時間が不足 日本の教育制度についての理解不足 言葉の壁 母語でのサポートやカウンセリング一人ひとりの状況把握居場所作り 心のケア 翻訳資料 面談 家庭訪問きめ細かな情報提供 18
日本語習得と学力保障 言葉の壁 生活言語 / 学習言語 ダブルリミテッド 日本語指導と教科指導の一体化体系的取り組みが必要地域との連携も有効 定住化 高校進学希望増加 しかし実態は 学力面の支援必要 教材の工夫 ( リライト教材 ) 市民団体等との連携 19
進路保障 進路開拓に向けて 情報不足 理解不足 日本の学校文化をめぐる 暗黙知 の欠落 ロールモデルの不在 高校進学をめぐる課題 外国人枠 受け入れ側 ( 高校 ) の対応未整備 就職でも課題 早期の親子への情報提供職業観の育成 20
アイデンティティ形成支援 二分法を越えて 日本人 / 外国人でなく 多面的 多角的理解 母語の大切さ 母語を活用した効果的支援が有効な場合も 親子のコミュニケーションツールとしての母語 アイデンティティの核としての母語 異質性への配慮と学校ルールのバランス レインボーアイデンティティ 母語支援員等の活用当事者コミュニティとの連携 21
ブラジル人第二世代の格差拡大のモデル 大学に進学し 語学力や異文化適応能力を生かして 大企業の総合職として活躍するグローバル人材 日本語がある程度できて 日本の高校や専門学校を卒業し 比較的安定した職場で働く労働者 日本語が中途半端で 親世代のデカセギスタイルから抜け出せない間接雇用の工場労働者 第一世代 第二世代 日本語はおろかポルトガル語も中途半端な一方 日本での生活に慣れ 親世代が従事していた重労働には耐えられずバイトでつなぐ底辺層 22
3-2. 第二世代の台頭と活躍 23
バイリンガル絵本プロジェクトブラジル人学生による家庭訪問ヒアリング 静岡文化芸術大学のブラジル人学生がバイリンガル絵本でつながったブラジル人小学生の家庭を訪問 質問紙を用いたポルトガル語でのヒアリング調査を通して 子どもの進学をめぐる保護者の考えを探る 実践研究としての 3 つの目的 目的 1 保護者にとってブラジル人の子どもの日本での教育達成の具体例を知る 目的 2 小学生にとってロールモデルとの出会いが学びの動機を高めるロールモデルのデリバリー 目的 3 大学生にとって自分の持つバックグランドの社会的意義を実感しエンパワーメント 24 NHK 静岡放送局 たっぷり静岡 24
3-3. 地域との連携 静岡県磐田市の事例 25
静岡県西部地域と周辺図 外国人集住エリア 26
磐田市多文化共生プラン基礎調査 (2015 年実施 ) 市内在住の 16 歳以上の外国人市民 1,500 名 国籍別上位の 3 ヶ国につき ブラジル人 820 名 フィリピン人 410 名 中国人 270 名 調査票を郵送し 返送を依頼する 郵送法 対象者の母国語版とやさしい日本語版を両方送付 どちらかで回答し返送してもらう 1,500 配布し 不達は 35(2.3%) 回収数 465 で有効数 1,465 に占める回収率は 31.7% 回答のあった調査票のうち日本語率は 22% と高い 27
在留資格 (%) 永住者定住者日本人の配偶者等永住者の配偶者等技能実習家族滞在留学その他不詳 2.4 1.1 0.2 1.3 0.9 9.5 8.6 24.8 51.2 定住型の在留資格 0 10 20 30 40 50 60 永住者が5 割強で過半数を占める 次いで定住者が約 25% 定住型の在留資格が87.9% とほぼ9 割 技能実習も約 9% 28
今後の日本での滞在予定 (%) 永住するつもり 41.4 今後 10 年以上 今後 3 年以上 10 年未満 今後 1 年以上 3 年未満 7.9 9 6.4 今後 1 年未満 2.2 わからない 32.5 不詳 0.7 0 10 20 30 40 50 明確な永住希望は41.4% でほぼ5 人に2 人 不安定な就労状況を反映しているためか あとどれくらい日本で生活するかわからない が約 3 分の1 29
子どもの学歴への希望 (%) 日本の中学校を卒業外国人学校の中学校段階を卒業日本の高等学校を卒業外国人学校の高等学校段階を卒業日本の短大 専門学校を卒業母国か他の国で短大 専門学校を卒業日本の大学 大学院を卒業母国か他の国で大学 大学院を卒業母国の通信教育で大学を卒業わからない 2.6 0.9 1.7 2.4 1.3 2.8 7.3 6.7 9.7 20.4 0 5 10 15 20 25 日本の大学 大学院卒業を望む親が 20.4% で最多日本での高卒以上の学歴を希望する者が 37.4% 30
子どもの進学に関する問題 (%) 複数回答 日本の進学情報にアクセスできない 4.3 翻訳された進学情報が不足 7.5 進学の相談ができる人がいない 2.8 家計への負担が大きい 19.6 子どもの学力が不安 7.5 その他 3.4 0 5 10 15 20 25 進学については 家計への負担の心配が大きい (19.6%) 31
子どもの将来 ( 日本での生活 ) への希望 (%) 希望する 78.4 希望しない 3.4 わからない 18.1 0 20 40 60 80 100 子どもが将来日本で生活することを希望する人は約 8 割一方 わからない の回答も約 2 割 32
子どもが将来日本で就いてほしい仕事 (%) 回答者の現状 ( 赤 :337 人 ) 子どもへの希望 ( 青 :171 人 ) 生産工程 一般作業販売 サービス事務的職業専門職 管理職介護福祉士 ヘルパー業その他不詳 0.3 7 3.5 1.2 5.3 1.8 3 5.9 7 12.3 10.5 82.5 回答者の現状 59.6 子どもへの希望 0 20 40 60 80 100 子どもに専門職 管理職を望む親が 6 割 現状で 8 割の回答者が就いている生産工程 一般作業を子どもに望む者は 1 割弱 33
磐田市の取り組み 行政 地域 学校の連携で支援が展開 2004 年度 子育て支援センター 開設 県営住宅集会場を利用 2006 年度 多文化交流センター 開設 団地の隣接地に新設 交流や支援活動の拠点となる 学習支援が本格化 34
静岡文化芸術大学も 2011 年度から支援に参加 多文化交流センター 行政 自治会 センターの学習支援で学んだブラジル人学生が 2014 年度 はじめて大学に進学 本学の国際文化学科に入学 大学 地域住民 今度は 教える側 としてセンターへ 35
共に育てる = ナナメの関係 校長先生になろう! (BP Online book) 藤原和博 ( 著 ) より 親や先生 地域の大人たち 友人知人 子ども 学校や家庭だけでなく 地域ぐるみで子どもたちを育てるという視点 36
共に育てる = ナナメの関係 多文化共生版 親や先生 地域の大人たちお手本となる外国人の青年 友人知人 子ども 学校や家庭だけでなく 外国人コミュニティも含めた地域ぐるみで子どもたちを育てるという視点 37
ナナメの関係 の連鎖を! 親や先生 子ども 地域の大人たちお手本となる外国人の青年 友人知人 子ども 地域で育った外国人の子どもが 次の世代にとってのロールモデル ( お手本 ) となるように 38
4. 提案 39
専門の知識と技能を持った教員の養成 地域の人材を支援員等として安定雇用できる枠組みづくり 研修等を通じた教員の意識醸成 ( とくに管理職 ) 学校内外のリソースが連携した 地域をあげての子育て 産業界への意識浸透 グローバル人材 の原石は足元にあり! 40