ビジネスホテルにおける従業員定着率向上に関する考察 ~2020 年訪日外国人旅行者数 4000 万人超実現に向けて ~ 奥田和子 はじめに政府は 2020 年訪日外国人旅行者数 4000 万人超という目標に向けて 明日の日本を支える観光ビジョン を策定し訪日外国人旅行者の受入環境の整備に関する事業をすすめている それに伴い近年のインバウンドの増加で宿泊施設の不足が問題となり 宿泊業の環境整備が急務となっている その一方で 離職率上位の産業に宿泊業があげられる 宿泊業従事者の定着率の向上 人財育成について考察を試みたい 第 1 章宿泊業に従事する人々の現状 (1) 離職率 厚生労働省新規学卒の離職状況 ( 平成 25 年 3 月卒業の状況 ) によると 離職率の高い上位産業の 1 位は宿泊 飲食サービス業 ( 大学卒 :50.5% 高校卒 :66.1%) 2 位は生活関連サービス業 娯楽業 ( 大学卒 :47.9% 高校卒 :60.5%) 3 位は教育 学習支援業 ( 大学卒 :47.3% 高校卒 :59.4%) で 大学卒 高卒共に宿泊 飲食サービス業が 1 位である 1) また 平成 25 年雇用動向調査の概要 ( 厚生労働省 ) で 常用労働者の移動状況をみると 平成 25 年の宿泊 飲食サービス業の離職率は 30.4% 平成 24 年は 27% と離職率が高いことがわかる 1) (2) 従事者数 日本の宿泊業は 約 8 万施設 (2014 年 3 月時点で 7 万 9,519 施設 ) 従業員数は約 57 万人を数え 2.84 兆円の市場規模となっている 2) (3) 雇用形態 正規雇用 非正規雇用等の割合をみてみると 正規雇用は 4 割に過ぎず 非正規雇用や臨時 2) 雇用が 6 割を占めている 非正規雇用労働者は正規雇用労働者に比べ賃金が低く また正 社員以外に教育訓練を実施している事業所は 計画的な OJT OFF-JT のいずれも 正社 3) 員の約半数等の課題があげられる 第 2 章ヒアリング調査による離職率の問題点 課題 離職率が高い要因を考察するためヒアリング調査を実施した 表 -1 にその結果を示す ビジネスホテルの職場の現状と課題 会社に望むこと 転職を考えたことはあるか 1
職業能力向上 の 4 項目について 2017 年 1 月 20 日 21 日に大阪のビジネスホテルに従事している者 していた者 4 名にヒアリングを実施した 表 -1 従事している していたビジネスホテルについて 人物 職場の現状と課 会社に望むこ 転職を考えた 職業能力向上 題 と ことはあるか 等 A さん 待遇改善 ( 給 ある 語学研修の ( 男性 20 代 業務量が多い 与 拘束時間 ) 理由 : 給与が安 実 入社 2 年目 ) い 施 同業者との 交 流 B さん 保守的 良い人材の確 研修の実施 ( 男性 30 代 保 理由 : 今の技能を ( 従業員のサー 中途入社 4 年 情報の共有が いい人材が流 活かしたい 年齢 ビス能力の一 目 ) 出し定着し 的にリスクが高 定化 ) い C さん 仕事量が多い 特になし ( 女性 20 代 幅広い業務が 理由 : 仕事は大 ( 語学 マナー 入社 2 年目 ) あり それを 変だが接客が コミュニケ こなすのは大 好きなのであ ションスキル 変 まり辞めたい 等 ) と思わ D さん パワハラ改善 ある ( 女性 30 代 人間関係 保守的すぎる 理由 : 人間関係 中途入社 退 シフト変更が 給与を上げて が嫌だった 給 社 ) 多い 欲しい 与が安い 体育会系 (1) 職場の現状と課題 表 -1 に示すように職場の現状と課題に関して最も多かったのは給与が安い 仕事量が多いとの回答であった 日本の宿泊業の労働者 1 人当たり付加価値額 ( 労働生産性 ) は他の産業と比較して顕著に低いことから 仕事量が給与に反映されていことがわかる 2
(2) 会社に望むこと 表 -1 に示すように 給与 拘束時間などの待遇面と人間関係についての回答があった (3) 転職について 転職を考えたことがある人と無い人はそれぞれ 50% と分かれた この理由として現在の職場環境が関係していると考えられる (4) 職業能力向上 全員が職業能力を向上したいと回答した これは 成長 学習などを通じて働きがい いきがいを創造しているものと考えられる (5) 問題点 課題今回のヒアリング調査から主要な結論として 次のようなことがわかった 給与と仕事量が見合っていこと そのため転職を考えることもある 社内の人間関係 保守的な社内環境 職業能力向上等の研修実施の機会が少 第 3 章今後に向けての提案 (1) 給与と仕事量表 -2 に示すように宿泊業は労働者 1 人当たり付加価値額 ( 労働生産性 ) が 2.56 と他の産業と比べ顕著に低いことがわかる 4) 対策として生産性向上のため IT 化 機械化 作業改善等を行い生産性を上げることが必要であると考えられる 表 -2 3
(2) 人間関係と社内環境整備人財育成と社内環境整備を従業員と経営者の立場で同時に進めることが不可欠であると考えられる それにはまず目標の共有が必要である 会社の理念 人事制度の整備 従業員としてどう行動すればいいのかなどを含め社内環境の改善と効率化についての目標を相互に共有する そのことが働きがいや働きやすさの改善につながり人財保持ができると考えられる 具体策としては 新入社員一人に対して入社 2~3 年目の社員をペアにし ライン等ですぐに相談やアドバイスを行い働きやすい環境をつくる キャリアコンサルタントによるキャリアデザインやライフプラン等の面談を定期的に実施するなど人的サポートにより社内環境整備を整えていくことがあげられる (3) 職業能力向上等の研修の充実サービス産業の源泉は人財である 従業員は研修を通じて成長し スキルアップにより会社の利益に貢献することができる 日本のサービス産業における従業員一人あたりの研修費用は 2011 年時点でアメリカと比較すると約 1/3 である 5) 中小企業主又は中小企業主団体 若しくは職業能力開発促進法第 13 条に規定する職業訓練法人等の場合 認定訓練助成事業費補助金を申請することにより研修費用の補助を受けることができる この制度を利用することで経営者の負担は減り 従業員は自己のスキルアップをはかることができる それが働きやすさ 働きがいにつながり人財が成長する職場となると同時に会社の利益向上になると考えられる 第 4 章 サポートアドバイザー企業 の起業今後に向けて キャリアコンサルタントによるキャリアデザインやライフプラン等の面談を定期的に実施 や 認定訓練助成事業費補助金申請 を提案した しかし 経営者がこれらを導入する場合 キャリアコンサルタントへの依頼 認定訓練助成事業費補助申請書類作成手続など煩雑な事務処理を行うには時間や労力を要すると思われる そこで それらを経営者に代わって行う サポートアドバイザー企業 の起業を提案したい 私は キャリアコンサルタント ( 国家資格 ) の資格を持っており またホテル業界での従事経験もある そして現在 企業研修講師もしている サポートアドバイザー企業 を起業することにより 私が従業員に対してキャリアコンサルタントを行う一方 経営者に代わり都道府県への申請書類を作成し 併せて研修講師も務める これにより迅速な対応ができ なおかつ経営者の負担を削減することができると考えられる 4
おわりに今回 ビジネスホテル従事者複数人に対してヒアリングを行い その結果から宿泊業が抱えている問題がいくつか浮上し それぞれの問題について提案をした 2020 年東京オリンピック開催に向け今後宿泊施設の需要は高まる 一方で 従業員の離職率は高く 宿泊客に品質のよいサービスを提供することは難しい 宿泊客の満足度を高めるには 従業員の定着率向上であり 働く従業員の人財をどのように成長 保持していくかが重要である 参考文献 1) 厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000140526.html 2) 観光庁 平成 28 年版観光白書 http://www.mlit.go.jp/common/001149497.pdf 3) 厚生労働省 http://www.mhlw.go.jp/file/06-seisakujouhou-11650000- Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu/0000120286.pdf 4) 厚生労働省平成 25 年雇用動向調査結果の概況 : 結果概要表 -2 http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/doukou/15-2/dl/gaikyou.pdf 5) サービス産業の高付加価値化 生産性向上について 2014 年 1 月 20 日経済産業省商務情報政策局 http://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoujo/service_koufukakachi/pdf/001_04_0 0.pdf 5