No. 1 愛知学院大学 Ⅰ. 緒言 咀嚼行為による自律神経系への活動は 1 咀嚼筋が活動する時の交感神 経の興奮 2 唾液分泌や消化管刺激を生ずる副交感神経の活動 3 味覚や 匂いによる唾液分泌の条件反射があり その複雑性のために咀嚼行為が自 律神経のどの方向に働くかについては 異なった報告がある

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No. 1 愛知学院大学 Ⅰ. 緒言 咀嚼行為による自律神経系への活動は 1 咀嚼筋が活動する時の交感神 経の興奮 2 唾液分泌や消化管刺激を生ずる副交感神経の活動 3 味覚や 匂いによる唾液分泌の条件反射があり その複雑性のために咀嚼行為が自 律神経のどの方向に働くかについては 異なった報告がある 交感神経活 動優位の報告には 心拍数増加や血圧上昇に示される心臓の自律神経性の 変化は 主にガム咀嚼による全身循環の向上によるものであるといった報 告などがあり 一方で副交感神経活動優位の報告では 嚥下と咀嚼による 食物摂取グループと胃チューブによる食物摂取グループを心拍変動の周波 数解析で比較し 嚥下 咀嚼グループが胃チューブグループよりも HF パワ ーが有意に高く 咀嚼と嚥下は 胃での消化に寄与する副交感神経活動に 関係する重要な要因であると報告している また自律神経活動を推測する ための心拍変動の計測には 先行研究の多くは心電図を用いたものが多く 心拍変動性は 1 日のうちでも環境 時間 条件などによって大きく影響さ れるため できるだけ外部要因が少ないことが望ましい そこで本研究で は 心臓の電気信号ではなく実際の心臓収縮と拡張を捉えて心拍間隔のト レンドを短時間で測定し 測定とほぼ同時に速やかに周波数解析された心 拍変動性のデータが得られる加速度脈波システムを採用し 咀嚼行為によ る自律神経調節効果を検討し咀嚼行為の意義の一端を明確にすることを目 的とした

No. 2 愛知学院大学 1. 被験者 Ⅱ. 方法 被験者は歯の欠損 ( 第 3 大臼歯を除く ) や治療を必要とする歯周疾患のな い若年健常女性 20 名である 被験者の年齢 身長 体重 BMI 体脂肪率 ( 以下 PBF) 除脂肪体重 ( 以下 LBM) 測定日前の 1 週間の運動時間 測定 前日の睡眠時間を測定し それらの平均値と標準偏差を算出した 本研究 は 被験者に研究の意義 危険性のないこと およびいつでも参加を中止 できることの説明を行い 書面への署名にて研究参加の同意を得た ( 名古 屋文理大学倫理委員会承認番号第 32 番 ) 2. 実験方法 被験者には 自律神経測定は外的な聴覚刺激や視覚刺激をできる限り遮 断した状態で 食後 3 時間以上経過し かつ心拍変動の周波数解析におけ る低周波領域のパワー割合 ( 以下 LF%)/ 高周波領域のパワー割合 ( 以下 HF%) =LF/HF 3 の安静状態を確認した 3 種類の負荷試験を 1 週間のウォッシュ アウト期間を設けて実施した 1) ガム咀嚼負荷 ( 以下 G 負荷 ) G 負荷は硬性ガム (DAY UP ライオン歯科材株式会社製 ) を使用した ガ ム咀嚼時間は 60 ストローク / 分 10 分間とした ガム咀嚼の G 負荷前 G 負荷直後 G 負荷後 15 分 において心拍変動を加速度脈波計で記録 し 周波数解析により交感神経と副交感神経活動を解析して 自律神経バ

No. 3 愛知学院大学 ランスの変化を観察した 同時に心拍数 ( 以下 HR) と収縮期血圧 拡張期 血圧 ( 以下 SBP DBP) も記録した 2) 運動負荷 ( 以下 E 負荷 ) 身体活動による興奮状態を惹起するため エルゴメーター ( コンビエア ロバイク 75XLⅡ コンビウェルネス株式会社製 ) を用いて 60 回転 / 分のペ ースで 100W 3 分間の運動負荷を実施した 運動の E 負荷前 E 負荷直 後 E 負荷後 15 分 において 心拍変動を加速度脈波計で記録し 同時 に HR と SBP DBP の変化を記録した ただし 運動直後の測定は 激しい 呼吸が落ち着いた安静時の呼吸数 12±2 回 / 分を確認して実施した 3) 興奮時ガム咀嚼負荷 ( 運動 + ガム咀嚼負荷 )( 以下 EG 負荷 ) 上記と同様の条件で運動負荷を実施して興奮状態を導き 激しい呼吸が 落ち着いてからガム咀嚼を 10 分間実施した 運動前の EG 負荷前 運動 してからガム咀嚼の直後の EG 負荷直後 ガム咀嚼終了から 15 分の EG 負荷後 15 分 において 心拍変動を加速度脈波計で記録し 同時に HR と SBP DBP も記録した 3. 加速度脈波システムについて 心拍変動性の測定は 加速度脈波システム ( APG:Acceleration plethysmogram 以下 APG)( ARTETT U-medica 社製 ) を採用し 右手第 1 指 で 100 拍の脈波を記録し 周波数解析を実施した 4. 心拍変動性と自律神経評価

No. 4 愛知学院大学 心拍変動からの周波数解析方法として 短いデータからもスペクトルの 推定が可能でかつ分離能がきわめて安定したスペクトルを得ることができ るとされる最大エントロピー法を用いた 低周波領域は 0.05~0.14Hz 高 周波領域は 0.15~0.50Hz と定義し 自律神経評価のために LF%(LF のパ ワー値 )/( 総パワー値 ) HF%(HF のパワー値 )/( 総パワー値 ) LF/HF を 指標として採用した 5. 統計解析 1) 繰り返しのある 2 元配置分散分析 各指標に関して 条件と時間推移 ( 負荷前 負荷直後 負荷後 15 分の 3 水準 ) を要因とした繰り返しのある 2 元配置分散分析 ( Two-way Repeated-Measures 以下 ANOVA 解析 ) を用いて検討した 負荷条件と時間 推移について交互作用又は主効果を認めた場合は Bonferroni 法による多 重比較を行った 2) 重回帰分析 G 負荷直後の自律神経バランスの変動に影響を与える要因について検討 するため 従属変数に G 負荷前後の LF/HF の差 独立変数に G 負荷前の LF/HF G 負荷前後の SBP の差 G 負荷前後の DBP の差 G 負荷前後の HR の差 LBM 1 週間の運動時間 前日睡眠時間を採用し 重回帰分析 ( ステップワイズ法 ) を実施した 同様に E 負荷 EG 負荷後の変動についても実施した 分析には統計ソフト SPSS23.0J (IBM) を用い 有意水準は 5% 未満とした

No. 5 愛知学院大学 Ⅲ. 結果 1.3 種類の負荷における自律神経指標と血圧及び心拍数の時間推移 各指標のうち LF/HF LF% HF% HR SBP には時間推移による有意な変化 が見られたが DBP には有意な変化はなかった HR と DBP は 負荷条件に よって時間軸における各値が有意に異なった LF/HF HR DBP は各負荷条 件と時間推移の間に有意な交互作用を示し 負荷条件により時間推移のパ ターンが異なることが示された 1) G 負荷時の自律神経指標 LF/HF の変化 G 負荷時の LF/HF の変化は G 負荷直後に上昇傾向 G 負荷後 15 分に復 元傾向であった (p=0.077) LF% と HF% では G 負荷直後で LF% は上昇を示し HF% は逆に低下を示した この変動により LF/HF の G 負荷直後の上昇傾向が 導かれたものであるが 統計的な有意性はなかった 2) E 負荷時の自律神経指標 LF/HF の変化 E 負荷時の LF/HF の変化は E 負荷直後から上昇が継続し E 負荷前に比 べ E 負荷後 15 分には有意な上昇を示した LF% と HF% では LF% は E 負荷前 と E 負荷後 15 分で有意に上昇し HF% で変化はほとんど見られなかった E 負荷による LF/HF の上昇は LF% の上昇によるところが大きいと示された 3) EG 負荷時の自律神経指標 LF/HF の変化 EG 負荷時の LF/HF の変化は EG 負荷直後に大きく上昇したが EG 負荷 後 15 分には EG 負荷直後より有意な低下を示した LF% と HF% では LF% は

No. 6 愛知学院大学 EG 負荷前と比べて EG 負荷直後には一過性に有意に上昇し EG 負荷後 15 分 は復元傾向となった しかし HF% は EG 負荷直後に EG 負荷前と比べて有意 に下降し EG 負荷後 15 分では逆に負荷直後より有意に上昇していた つま り EG 負荷後 15 分の LF/HF の低下は主に HF% の上昇によることが示された 4) 3 種類の負荷による血圧と心拍数の変化 SBP は G 負荷 E 負荷において負荷前と負荷後 15 分で有意な変動はなく EG 負荷で EG 負荷前に比べ EG 負荷後 15 分に有意な低下を示した また DBP は E 負荷直後には有意性はないが低下を示したのに対し EG 負荷で変動 はほとんどみられなくなった すなわち 興奮時にガムを噛むと SBP は時 間経過に従って低下する一方で DBP の直後の一過性低下を防いだ結果とな った HR は G 負荷でほとんど変動はなく E 負荷 EG 負荷では負荷直後か ら負荷後 15 分まで有意な上昇を示した 2.G 負荷後の交感神経興奮に関連する要因 重回帰分析の結果 ガム咀嚼により生じた LF/HF 変動に影響する関連要 因は G 負荷前後の HR の差 1 週間の運動時間が抽出された E 負荷 EG 負荷は 有意な変数は抽出されなかった Ⅳ. 考察 1.G 負荷による交感神経刺激作用 咀嚼行為は咀嚼筋の活動 唾液腺の分泌 舌の複雑な運動によって行わ れ 残存歯数や咬合状態など口腔内環境によっても自律神経活動は影響を

No. 7 愛知学院大学 受けるので 咀嚼行為による自律神経刺激についてはこれまでいくつかの 異なった報告がある 本研究においては 自律神経バランスの指標である LF/HF は 各負荷条件下で異なった時間変動パターンを見せた G 負荷で は ガム咀嚼行為によって負荷直後から負荷後 15 分まで LF/HF は 統計 的有意差が得られるほどの変化ではなかったが 上昇する傾向を示した (p<0.1) それにより負荷後 15 分までは 迷走神経刺激よりも 咀嚼筋収 縮による交感神経刺激作用が優勢に働く可能性があると考えられた 2.EG 負荷による交感神経抑制作用 一方で EG 負荷の場合は LF/HF は負荷直後上昇し 負荷後 15 分後には 負荷直後と比べて有意に低下しており 咀嚼活動が交感神経抑制の方向に 働いたと考えられた 3.EG 負荷による血圧への影響 血圧に関して SBP では E 負荷で変化しない一方 EG 負荷で負荷後 15 分 には負荷前よりも有意に低下し ガム咀嚼刺激が影響したものと考えられ た DBP では E 負荷で負荷前の平均 66mmHg から負荷直後に平均 60mmHg と低 下し 負荷後 15 分には平均 64mmHg に復する一方 EG 負荷では 負荷前の 平均 67mmHg 負荷直後の平均 66mmHg 負荷 15 分後の平均 64mmHg とほとん ど変化がみらなかった 運動興奮時にガム咀嚼することによって SBP は時 間経過に従って低下するのがやや早く DBP については直後の一過性低下が 抑制されたと考えられた

No. 8 愛知学院大学 4.G 負荷直後の交感神経興奮に関連する要因 重回帰分析結果では G 負荷前後の LF/HF の変動要因として 1 週間の運 動時間と G 負荷前後の HR の差が選択された 先行研究において 咀嚼行為 に影響を及ぼす咬合力は LBM や運動歴と関連することが報告されており ガム咀嚼による交感神経刺激にも運動習慣が影響を及ぼしていることが推 察された 一方 HR の差が少ないことが要因となった理由については明ら かではないため 例数を増やしての検討課題としたい E 負荷 EG 負荷は 有意な変数は抽出されず 身体要件や運動歴は関与しないと考えられた Ⅴ. 結論 安静時の咀嚼行為は交感神経刺激作用をもつ可能性があり 一方で興奮 時に咀嚼行為が加わると副交感神経を刺激し 逆に交感神経興奮を抑制す る方向に働くことが示唆され ガム咀嚼行為は自律神経調節効果を持つと 結論づけた