1 現状 1.1 高学歴女性にも広がる育児期の職業中断 育児期の職業中断は 低学歴層女性だけでなく高学歴層女性にも広がっている ( 図 1) 日本は 他国では見られない独特な 新規学卒一括採用慣行 が強いため 育児期における職業の中断は 労働条件の良い 第 - 次労働市場 からの離脱および賃金の大幅

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参考 1 男女の能力発揮とライフプランに対する意識に関する調査 について 1. 調査の目的これから結婚 子育てといったライフ イベントを経験する層及び現在経験している層として 若年 ~ 中年層を対象に それまでの就業状況や就業経験などが能力発揮やライフプランに関する意識に与える影響を把握するとともに

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第 1 章調査の概要 1 調査の目的 県民の結婚や子どもを持つこと 子育てに関する意識や現状を把握し 奈良県において子どもを 生み育てやすい環境づくりを進める取組を検討するための基礎資料を得ることを目的に実施した 2 調査の実施概要 (1) 調査対象 夫婦調査 : 平成 30 年 9 月 1 日現在

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第第第ライフスタイルに対する国民の意識と求められるすがた50 また 働いていないが 今後働きたい と回答した人の割合は 男性では 7.4% であるのに対し て 女性は19.1% である さらに 女性の中では 30 代の割合が高く ( 図表 2-1-2) その中でも 特に三大都市圏で高い割合となってい

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調査の概要 少子高齢化が進む中 わが国経済の持続的発展のために今 国をあげて女性の活躍推進の取組が行なわれています このまま女性正社員の継続就業が進むと 今後 男性同様 女性も長年勤めた会社で定年を迎える人が増えることが見込まれます 現状では 60 代前半の離職者のうち 定年 を理由として離職する男

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図表 1 人口と高齢化率の推移と見通し ( 億人 ) 歳以上人口 推計 高齢化率 ( 右目盛 ) ~64 歳人口 ~14 歳人口 212 年推計 217 年推計

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短時間労働者への厚生年金 国民年金の適用について 1 日又は 1 週間の所定労働時間 1 カ月の所定労働日数がそれぞれ当該事業所 において同種の業務に従事する通常の就労者のおおむね 4 分の 3 以上であるか 4 分の 3 以上である 4 分の 3 未満である 被用者年金制度の被保険者の 配偶者であ

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離職経験は圧倒的に女性に多く 男性 5% に対して女性の 14% が離職経験ありと回答している 離職の理由 ( 複数回答 ) の第一位は男女ともに キャリアアップ ( 約 50%) であるが 2 番目に多い項目で男女で差があり 男性は 職務の内容 ( 研究テーマを含む ) (40%) であるのに対し

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2. 調査結果 1. 回答者属性について ( 全体 )(n=690) (1) 回答者の性別 (n=690) 回答数 713 のうち 調査に協力すると回答した回答者数は 690 名 これを性別にみると となった 回答者の性別比率 (2) 回答者の年齢層 (n=6

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第 16 表被調査者数 性 年齢階級 学歴 就業状況別 124 第 17 表独身者数 性 年齢階級 就業状況 家庭観別 142 第 18 表有配偶者数 性 年齢階級 就業状況 家庭観別 148 第 19 表仕事あり者数 性 年齢階級 配偶者の有無 親との同居の有無 職業別 154 第 20 表仕事あ

第1回「離婚したくなる亭主の仕事」調査

職場環境 回答者数 654 人員構成タイプ % タイプ % タイプ % タイプ % タイプ % % 質問 1_ 採用 回答 /654 中途採用 % 新卒採用 % タ

正社員はピンク色で示されています 未婚や既婚で子どもがいないときは ある程度正社員の割合は高いのですが 子どもが 3 歳以下のときからぐっと減りまして その後子どもの年齢が上がっていっても正社員の割合は上がってきません 子どもが大きくなると 働いている割合は徐々に上がっていきますが パート アルバイ

2 継続雇用 の状況 (1) 定年制 の採用状況 定年制を採用している と回答している企業は 95.9% である 主要事業内容別では 飲食店 宿泊業 (75.8%) で 正社員数別では 29 人以下 (86.0%) 高年齢者比率別では 71% 以上 ( 85.6%) で定年制の採用率がやや低い また

目次 Ⅰ 調査概要 1 1. 調査目的 1 2. 調査項目 1 3. 調査設計 1 4. 回収結果 1 5. 報告書の見方 1 Ⅱ 調査結果 2 1. 回答者の属性 2 (1) 性別 2 (2) 年代 2 (3) 結婚の状況 2 (4) 働き方 3 (5) 世帯構成 3 (6) 乳幼児 高齢者との同

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夫婦間でスケジューラーを利用した男性は 家事 育児に取り組む意識 家事 育児を分担する意識 などに対し 利用前から変化が起こることがわかりました 夫婦間でスケジューラーを利用すると 夫婦間のコミュニケーション が改善され 幸福度も向上する 夫婦間でスケジューラーを利用している男女は 非利用と比較して

調査結果 ~~ 中の働き方 ~~ 中の 日の労働時間 約 8 時間 が最多 9 時間以上 は 割半 正社員 正職員では 9 時間以上 が 4 人に 人以上 9 時間以上 働くことが多かった早産した人では 4 人に 人 流産してしまった人では 5 人に 人の割合に 中の働き方 立ったままの仕事が多かっ

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出産退職の経済損失 1.2 兆円 問題意識待機児童数は 2017 年 10 月時点で 5.5 万人とされる ( 厚生労働省調べ ) この人数は 年度初でとると 2.6 万人だったのが 年度途中の申し込みを含めると大きく変動する また 潜在的な待機児童数はもっと多いという見方もある そこで 本稿では範

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Microsoft Word 結果の概要(1世帯)

関西圏女性の仕事と子育てに関する意識調査 ( 有業者 ) 1 集計結果 : 従事者の特徴 車井浩子横山由紀子 1. 調査の概要 2 調査地域 関西圏 ( 滋賀県 京都府 大阪府 兵庫県 奈良県 和歌山県 ) 調査対象者 小学生以下の子どもを持つ 歳の働いている女性 調査方法 調査会社の提

関東地方の者が約半数を占める (45.3%) 続いて近畿地方 (17.4%) 中部地方 (15.0%) となっている 図表 2-5 地域構成 北海道 東北関東中部近畿中国四国九州 沖縄総数 (%) 100.0% 8.9% 45.3%

女性の活躍促進や仕事と子育て等の両立支援に取り組む企業に対するインセンティブ付与等 役員 管理職等への女性の登用促進 М 字カーブ問題の解消には企業の取組が不可欠 このため 企業の自主的な取組について 経済的に支援する 経営上のメリットにつなぐ 外部から見えるようにし当該取組の市場評価を高めるよう政

Transcription:

報告 1 育児期女性の職業中断 -JILPT 子育て世帯全国調査 2012 の結果報告 - ( 独 ) 労働政策研究 研修機構 (JILPT) シュウ エンビ 周燕飛 (Zhou, Yanfei) 1

1 現状 1.1 高学歴女性にも広がる育児期の職業中断 育児期の職業中断は 低学歴層女性だけでなく高学歴層女性にも広がっている ( 図 1) 日本は 他国では見られない独特な 新規学卒一括採用慣行 が強いため 育児期における職業の中断は 労働条件の良い 第 - 次労働市場 からの離脱および賃金の大幅な低下をもたらしている 図 1 学歴別子育て女性の職業キャリアコース ( 予定を含む ) 出所 :JILPT 子育て世帯全国調査 2012 を用いた筆者の再集計 ひとり親世帯のオーバーサンプリングを補正後の数値である 注 : 継続型 : 学校卒業後 おおむね働き続けてきた ( 回答者の自己認識 )& 現在就業中 中断型 : 出産や育児等で職業中断していたが 現在再就職しているまたは今後働きたいと考えている 引退型 : キャリアコースが 完全退職型 その他 と自己認識しており 現在無職 今後も働きたいと思わない / 働けない 2

1.2 職業中断がもたらす雇用格差 育児期に職業中断した女性 ( 中断型 ) と中断しなかった女性 ( 継続型 ) との間に 著しい雇用格差が生じている ( 表 1) 外部労働市場 ( 中途採用市場 ) が未発達のため 継続型 女性に比べて 中断型 女性は 正社員 ( とくに大企業の正社員 ) になる機会が 非常に限られている その結果 育児期の職業中断が巨大な雇用格差をもたらしている もっとも 条件の良い企業 ( 大企業 日中勤務のみ 通勤時間短い ) に勤めていた女性が 継続型 になりやすいというセレクションも考えられる 中断型 女性の多くは 就業継続が難しい職場環境に置かれていた可能性がある 表 1 就業条件の比較 : 継続型 vs 中断型 ( 集計対象 : 有業子育て女性 ) 継続型 N=512) 中断型 (N=654) ( 継続型 - 中断型 ) 平均年収 ( 税込み 万円 ) 280.9 151.3 129.6 うち 正社員平均年収 394.0 281.0 113.0 正社員 56.0% 20.1% 35.9ポイント 大企業勤務 34.7% 20.3% 14.4ポイント 大企業の正社員 27.3% 4.9% 22.3ポイント ふだん日中 (8 時 ~18 時 ) 勤務のみ 76.6% 81.9% -5.3% 平均通勤時間 ( 片道 分 ) 24.6 18.3 6.3 うち 正社員平均通勤時間 29.7 24.0 5.7 出所 :JILPT 子育て世帯全国調査 2012 を用いた筆者の再集計 ひとり親世帯のオーバーサンプリングを補正後の数値である 注 : ここでの 大企業 とは 従業員 300 人以上の企業または官公庁を指している 3

1.3 職業中断の理由 - 本人の回答 中断型 女性の 8 割弱 (75.9%) の初職は 正社員だった しかし 初職が正社員だった 中断型 女性 (910 人 ) のうち ( 図 2) 3 人に 1 人は いわゆる社内慣行に従い 結婚 妊娠 出産を機に退職 やむをえない理由 ( 両立困難 体調不良 リストラ ) での退職者は 全体の 4 分の 1 程度 両立困難 退職者 (99 人 ) のうち 30.4% の人は職場支援の不足 ( 育休制度がなかったまたは利用できなかった 両立支援の雰囲気がなかった ) 22.6% の人は保育の手立てがなかったことを具体的理由とした 図 2 中断型 女性が正社員の初職をやめた理由 (%) 3 つまでの複数回答 出所 :JILPT 子育て世帯全国調査 2012 を用いた筆者の再集計 ひとり親世帯のオーバーサンプリングを補正後の数値である 注 :(1) 集計対象は 初職が正社員だった 中断型 女性 (N=910) (2) 該当率 5% 以上の理由を中心に示している 該当率 5% 未満の理由 ( 除くリストラ理由 ) に関する結果が省略されている 4

2 仕事も家庭も : 理想と現実の格差 約 6 割の子育て女性は 仕事も家庭も ( 女性は子どもを出産後も仕事を続ける ) というワーク ライフスタイルに 賛成 または まあ賛成 しかし そのようなワーク ライフスタイルを実現したのは 3 人に 1 人程度 ある程度のキャリアに限定すると 仕事も家庭も を実現した者は全体の 1 割程度に過ぎない 図 3 仕事も家庭も が理想とする割合と実現した割合 (%) 集計対象 :30 歳以上子育て女性 出所 :JILPT 子育て世帯全国調査 2012 を用いた筆者の再集計 ひとり親世帯のオーバーサンプリングを補正後の数値である 注 : 学校卒業後の経過年数が短い 20 代のワーク ライフスタイルは流動的であるため 集計対象から除外した 5

3 仕事も家庭も持ち続けることが なぜ困難なのか 3.1 男女役割分業 に関する強い慣習 夫は外で働き 妻は家庭を守るべきである という考え方に対して 依然として約 4 割の日本人が賛成 ( 内閣府 男女共同参画社会に関する世論調査 2009 ) 女性が就業してもその家庭的責務があまり軽減されない ( 図 4) 日本女性が 女性的職業 ( 接客 販売等 ) に従事する傾向が強い 企業は 女性社員の早期離職を見据え 女性を一般事務 接客など専門性の低い職種にセグメントする一方 専門的 管理的 基幹的業務に男性を多く起用する その結果 日本の男女職業分離度が非常に高い ( 表 2) 図 4 夫の家事 育児の分担割合表 2 職業分離度の国別比較 (2010 年 ) 出所 :JILPT 子育て世帯全国調査 2012 を用いた筆者の再集計 注 : ふたり親世帯の妻による回答結果 フルタイム就業 とは 週 40 時間以上を働くことを指している 日本 中国 米国 職業分離指数 44.1 22.0 39.5 女性的職業の女性比率 (%) (E) 保健 医療サービス職業 93.8 60.6 87.1 (F) 接客 給仕職業 68.4 55.8 77.3 (G) 商品販売 62.6 53.5 49.8 (H) 一般事務 58.9 41.4 72.8 専門的職業の女性比率 (%) (I) 管理的職業 14.4 25.1 39.1 (J) 経済 金融 経営専門職業 12.1 65.3 54.9 (K) 研究者 技術者 9.0 38.5 25.9 (L) 法務従事者 15.3 33.5 50.8 出所 : 周 (2013) 6

3.2 ファミリー アンフレンドリーな日本的雇用慣行 日本的雇用慣行は 専業主婦の妻を持つ男性をモデルに作られている 企業は終身雇用と年功賃金を提供する見返りに 男性労働者は 企業に対し 長時間労働 突然の残業 休日出勤 出張 転勤といった企業の都合に応じた柔軟な働き方を提供する それによって 企業は限られた数の正社員を有効に活用し 採用と解雇を最小限に抑えることができる こうした雇用慣行は 男性よりも多くの家庭的責務を背負う女性にとって きわめて不利である 子育て女性にとって 仕事も家庭も 持ち続けるための鍵は 就業時間 である 就業を考えている子育て女性の 7 割は 柔軟な就業時間 を就職先選びの最重視項目としている ( 図 5) 実際に有業子育て女性の 7 8 割は深夜 早朝勤務なし 平均通勤時間が 30 分以内 ( 片道 ) である ( 表 1) 図 5 就業を考えている子育て女性が仕事につく場合に重視する条件 ( 3 つまでの複数回答 ) 出所 :JILPT 子育て世帯全国調査 2012 を用いた筆者の再集計 ひとり親世帯のオーバーサンプリングを補正後の数値である 7

4 育休の普及が育児期の職業中断を食い止められない理由 育児期女性の就業を支える代表的な制度が 育児休業制度 である 1992 年に育児休業法 ( 現在の育児 介護休業法 ) が施行されて以来 女性の育児休業取得者は年々増え 子育て女性の就業継続率を高める効果が報告されている 2011 年の育児休業の取得率が 87.8%( 厚生労働省 雇用均等基本調査 2011 ) しかし これは 出産前に退職する女性労働者は分母にも分子にも含まれない場合の数値 子育て期の女性就業者の 3 人に 2 人は非正規雇用者で そのほとんどは 出産前に退職 育休取得の経験を持つのは 子育て女性全体 ( 無職者を含む ) の 21.5% に過ぎない ファミリー アンフレンドリーな雇用慣行のもとでは 育休取得後も職業中断する女性が後を絶たない 実際 育休経験者の 25.8% が 中断型 キャリアコースに分類される 復帰後の働き方は 就業継続できるかどうかの鍵となる 8

5 女性が 仕事も家庭も 持ち続けるための条件 男性よりも重い家庭的責任を前提とした職業 職種の選択 女性的職種 に拘らず 学校教育段階から専門性 職業技能の高い専攻を選ぶ 職業技能の陳腐化が相対的緩やかな職業を選ぶ 労働時間の融通が比較的利く職業を選ぶ 職業中断とその影響を最小限にすること 可能であれば 3 年育休 よりも 1 年以内の育休 を選択 ( 国 ) 保育待機児童問題の解消 育休期間の所得補償率の逓減制度 ( 例 :0~3 ヶ月目 90%; 4~6 ヶ月目 75%; 7~12 ヶ月目 50%) 一旦職業中断した場合 早期段階での再就職を図る ( 国 ) 復職支援プログラムの充実 ジェンダー大収斂 (Grand Gender Convergence) 時代に備えて 育児期女性の労働参加は 少子高齢化時代の要請であり 流れである 共働きモデル (Two parent worker Model) を前提とした人生設計が今後スタンダードとなる ( 国 ) 第 3 号被保険者制度 専業主婦優遇税制の見直し 保育サービスの充実 Claudia Goldin 米国経済学会会長講演 (2014/1/4)A Grand Gender Convergence: Its Last Chapter: The Gender gap in pay would be considerably reduced and might vanish altogether if firms did not have an incentive to disproportionately reward individuals who labored long hours and worked particular hours. 9

( 資料 )JILPT 子育て世帯全国調査 2012 の概要 調査名 : 子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査 ( 略称 : 子育て世帯全国調査 ) 標本設計母集団 : 末子が 18 歳未満の子育て世帯 ( 核家族世帯に限らず 祖父母等親族との同居世帯を含む ) 調査対象地域 : 全国調査地点数 :175 標本数 : ふたり親世帯 2,000 ひとり親世帯 2,000 出現率の低いひとり親世帯がオーバーサンプリング標本抽出方法 : 住民基本台帳から層化二段無作為抽出 調査方法訪問留置回収法 調査期間 2012 年 11 月 ~12 月 ( 原則として 11 月 1 日時点の状況を調査 ) 回収状況有効回収数 2,201 票 ( 有効回収率 55.0%) ふたり親世帯 1,508 票 ( うち 52 票は父親回答 ) 母子世帯 621 票 父子世帯他 72 票 関連の研究成果周燕飛 (2012) 専業主婦世帯の収入ニ極化と貧困問題 (JILPT ディスカッションペーパー No.12 08 ) 周燕飛 (2013) 育児期女性の活用 - 現状と課題 ビジネス レーバー トレンド 2013 年 11 月号 4 10 JILPT(2012) 子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査 (JILPT 調査シリーズ No.95) JILPT(2013a) 子どものいる世帯の生活状況および保護者の就業に関する調査 2012( 第 2 回子育て世帯全国調査 ) (JILPT 調査シリーズ No.109) JILPT(2013b) 子育てと仕事の狭間にいる女性たち JILPT 子育て世帯全国調査 2011 の再分析 (JILPT 労働政策研究報告書 No.159 ) ( 以上 ) 10