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偏光 横浜国立大学名誉教授栗田進 光のもつ諸性質の一つである, 偏光 あるいは 光の偏り ( かたより ) はその他の光の性質 ( 波長, 速度 屈折率 吸収 反射など ) に比べて 日常生活の会話ではあまり使われない, 馴染みの薄い性質ではないだろうか もし, 皆さんがプラスチック製のサングラスを持っておられたら, 携帯電話の画面をそのサングラスを通して見て下さい 画面をゆっくり廻してみて下さい 途中で画面が消えて見えなくなるでしょう プラスチック製のサングラスの多くは偏光板で出来ており, また 液晶表示は偏光の性質無くしては成り立ちません この例でも分かるように, 偏光は物理学, 化学, 生物, 機械, 電気のどの分野でも, 又, 我々の日常生活の中でも広く利用されている性質です 偏光とその応用について紹介していきます 以下では数式が沢山あるように見えますが 高校卒程度の数学で式がたどれるように式の展開を詳しくしたためです また式の展開に必要な公式などは付録にまとめてありますので参考にしてください 目次第 回. 偏光とは 3. 光の反射 屈折 散乱と偏光 7. 反射と屈折 7. 透過光.3 散乱光の偏光 第 回 3. 偏光の数学表示 4 3. 光波を数式で表す 3. 偏光状態 4 3.. 直線偏光 5 3.. 円偏光 6 3..3 楕円偏光 7 3.3 偏光の測定と表示 3 3.3. 偏光とストークス パラメータ 3 3.3. ポアンカレ球とストークス パラメータ 8 3.3.3 偏光とジョーンズ ベクトル 9 付録 A. 三角関数 36. 電磁波の複素数表示 38 C. ベクトル 4 D. 行列と行列式 44 第 3 回 4. 屈折率 5 4. 光と物質の相互作用 5 4. 電気分極と誘電率 53 4.3 物質内の電場 54 4.4 ローレンツ場 ( 局所場 ) 55 4.5 屈折率と原子分極 58 4.6 屈折率の分散 ( ローレンツ模型 ) 59

第 4 回 5. 結晶光学と複屈折 64 5. 屈折率の異方性 64 5. 異方性媒体中の平面電磁波 67 5.3 屈折率楕円体 73 5.4 位相速度と群速度 75 5.5 一軸性結晶の光学 77 第 5 回 6. 偏光に関する光学素子 8 6. 晶結光学素子 8 6.. 直線偏光子 83 6.. 補償板 (/4./ 波長板等 ) 87 6. 結晶を用いない直線偏光子 93 第 6 回 7. 偏光素子作用の数学表示 ; ジョーンズ行列とミュラー行列 97 7. ジョーンズ ベクトルとジョーンズ行列 97 7. ジョーンズ行列の応用例 0 7.. バンドパス フィルター 03 7.. ひずみ計 06 7..3 エリプソメーター 09 7.3 ストークス ベクトルとミュラー行列 第 7 回 8. 外場による偏光効果 8 8. 応力による効果 8 8. 電場による効果 ( 電気光学効果 ) 4 8.. カー効果 5 8.. ポッケルス効果 8 8.3 磁場による効果 ( 磁気光学効果 ) 34 8.3. ファラデー効果 37 8.3. フォイクト効果 4 第 8 回 9. 光学活性 ( 旋光性 ) 44 9. 旋光性とは 44 9. 等方性媒質中での旋光性 47 9.3 旋光性の波長依存性 50 9.4 結晶の旋光性 5 9.5 水晶の旋光性 57 9.5. 光学軸に平行に伝搬する光 58 9.5. 光学軸に斜めに伝搬する光 59 付録 E. 発散と回転 63 F.Maxwell 方程式と平面電磁波 64 G. 光学定数の定義 67

第 回. 偏光とは光の持つ諸性質の一つである 偏光 あるいは 光の偏り ( かたより ) はそのほかの光の性質 ( 強度 波長 速さ 振動数 ) に比べて 日常生活の会話ではあまり使わない なじみの薄い性質ではなかろうか もし, プラスチック製のサングラスを持っておられたら, 携帯電話の画面をそのサングラスを通して見て下さい 画面をゆっくり廻してみると 途中で画面が消えて見えなくなるでしょう プラスチック製のサングラスの多くは偏光板で出来ており, また 液晶表示は偏光の性質無くしては成り立ちません この章では波 ( 光 ) の諸性質について概観します 光はテレビやラジオの電波と同じで, 空間を伝わる電磁波です そこでまず 波の概念を理解するために ばねの振動の伝播を例にとって波の性質を説明します ばねの一端を上下に振らすと図.(a) のように波が出来て その波は右方向に進んでいきます ばねは波の進行方向に対して垂直に振動しています このような波を横波といいます 一方, ばねを前後に振らすと図.(b) のように ばねの振動方向は波の進行方向と同じになります このような波を縦波といいます 縦波の例としては空中を伝播する音波があります また 地球の内部を伝わる地震波には縦波と横波があり 波の伝わる速さはそれぞれ秒速約 5km と 3km です したがって, 地震が発生すると, まず縦波が到着し, 次に横波が到着します 初期振動と少し遅れて 度目の振動を感じることがよくありますが, これは地殻では縦波と横波の両方が伝搬できるためです 光は横波であることが知られています ですから 図.(a) のように振動しながら伝播します 光の場合, 振動するのは電場 ( 電界ともいう ) と磁場 ( 磁界 ) です 電場と磁場の振動の向きは互いに直角になっています 物質の光吸収や光放出 ( 発光 ) に関係するのは光の電場成分なので, これから以後は電場の振動に注目図. 横波と縦波します ( 図.) 波の性質についてもう少し説明します 波は図. のように単純電場ではなく 海岸に打ち寄せる波でも分かるように一般には非常に複雑な形をしています しかし そのような複雑な波も磁場図.3 のような余弦 (cos) 波で表される単純な波の集まりからなっていることを示すことができるのです ですから 図.3 のような余弦波の性質が分かれば一般の図. 電磁波の伝わり方波の性質もその集まりとして理解できる電場の向きから磁場の向きに右ねじを回すとのです き ねじが進む向きに電磁波は進む 3

図.3 で ばねの場合はばねそのものの変位が図示されていますが 光の場合は各位置での電場の大きさと向きが図示されていることになります 波を表す基本的量が図.3 に書いてあります 隣り合う山と山 ( または谷と谷 ) の距離を波長 (λ ギリシャ文字のラムダで表します ) 山の高さ( または谷の深さ ) を振幅図.3 波の振幅と波長といいます 回振動するのに要する時間を周期 (T ) といい 秒間あたりの振動の回数を振動数 ( f ) といい 単位はヘルツ (Hz) です 図. のばねの振動からも分かるように 回振動すると波は波長 だけ進みますから 秒間では f だけ進みます ですから 波の伝わる速さを v とすると v f ( 波の速さ ) (.) v f ( 振動数 ) (.) T の関係があります 波の振幅 ( A ) は波のエネルギーに関係する量です 光の強度 ( I ) は振幅の 乗に比例します I A (.3) 光 ( 横波 ) の電場の振動方向について考えてみましょう 横波では振動の方向は, 波の進行方向に対して垂直であればよいので, いろいろな方向が取れます 振動方向がある特定の向きだけの横波のことを偏光した波といい この振動している方向を偏光方向といいます 偏光 ( 後で示すように正確には直線偏光 ) を図示したのが図.4 です Z 軸を波の進行方向に取り Z 軸上のある点で観測すると電場は Z 軸に垂直ですから XY 平面で振動することになります 電場の振動する方向を直線で表します X 軸に平行な偏光を X( 水平 ) 偏光 Y 軸に平行な偏光を Y( 垂直 ) 偏光と呼ぶことにします 任意の偏光方向を持った光は X 軸と成す角 αで記述できま図.4 いろいろな直線偏光す さて ある特定の偏光方向の光だけを通す性質を持った光学素子があります これを偏光子 ( 高分子板でできた偏光子は偏光板ともいう ) といいます ( 図.5) 後で詳細に述べるよう 4

に, 偏光板は, 分子を特定方向に配列したもので, ある決まった向き ( 偏光方向 ) に振動している光は通しますが, そうでない向きの偏光は通しません 偏光の通る方向を偏光軸といいます 光 ( 自然光 ) は一般にあらゆる方向の偏光を含んでいますが この偏光板を通った光は偏光軸の方向に偏光した光だけになります 枚の偏光板を偏光軸が直角になるように置くと光は通らなくなります ( 図.6) 図.5 偏光板の働きここで以下のような実験をやってみましょう 偏光板を 3 枚用意します 実験. 枚の偏光板を偏光軸が角度 ( 例えば 30 o ) で交差するように置く これら 枚の偏光板を通った光の偏光はどうなるでしょうか 実験. 枚の偏光板を偏光軸が直角になるよう置くと光は通らなくなります この 枚の偏光板の間に別の偏光板を 例えば 偏光軸が 枚目の偏光軸に対して 30 o の角度になるように挿入した図.6 枚の偏光板と光の偏りら 3 枚の偏光板を通った後の光はどうなるでしょうか 偏光した光の電場は偏光板の偏光軸方向の電場とそれに垂直な電場に分解できます これは力と同じように電場がベクトルの性質を持っていることによります 力の場合を例にとってベクトルを説明します 重さWの買い物籠を親子で持つ場合 二人の力の配分は図.7(a) のようになるでしょう また 同じ物を背丈の同じ大人が持つ場合は図.7(b) のようになると予想されます 矢印の方向が力のかかる向きで 矢印の長さが力の大きさを表します 図のいずれの場合も 二人の力を合成した力が重さwと釣り合っている 逆に言えば 重さwと釣り合う力は (a) のようにも (b) のようにも分解できるのです これを光の電場について応用すると ( 実験 ) 最初の偏光板を通った光の電 場 ( 図.8 のE 0 ) を第 の偏光板の偏光軸に平行な成分 E 0 cos θとそれに垂直な成分 E 0 s θに分け ることができます 平行成分だけが第 の偏光板を通ることができ 第 の偏光板を通った後の電場の大きさは E cos となります ( 図.8) 光の強 0 度は電場の大きさの自乗に比例するから だけ傾けた偏光板を通った後の光の強度 I は図.7 重さwの物体を 人で E0 cos となります 最初の偏光板を通った後持つ場合の力の分配 5

の光強度を I 0 とすると I I 0 cos (.4) 実験 では 間に差し入れた偏光板は 実験 の第 の偏光板と同じ役目を果たすので 差し入れた偏光板を通過した後の光の強度は I 0 cos で その偏光軸は 方向です この軸と第 3の偏光板の 0 偏光軸とは ( 90 ) 傾いていることになるので 第 3の偏光板を通って出てくる光の強度 I は I = I cos (90 θ) = I 0 cos θ s 図.8 電場は つの成 θ (.5) となります ここでcos (90 θ) = s θの関係を使いました ( 三角分に分解できる 関数の性質については付録 A 参照 ) 垂直におかれた 枚の偏光板では光は完全に遮断されるが その間に偏光板を入れると光が通るようになる 光の電場がベクトルであるためにこの様な現象が起こるのです また このような現象は横波特有の性質で 縦波ではこのような現象は起こりません この現象は光が横波である証拠になっています これまで電場がある一定軸方向に振動する直線偏光について述べてきましたが 電場の 変化が軸上だけとは限りません 電場ベクトルの先端が円を描く円偏光や 楕円を描く楕円 偏光があります なお 直線偏光は楕円偏光の楕円の短径がゼロになったものとみなすこと ができます 同様に円偏光は楕円の長径と短径が等しい 楕円偏光の特別な場合とみなすこ ともできます Y Y 長径 E X 短径 E X 円偏光楕円偏光図.9 円偏光と楕円偏光 Z 軸上のある点で観測したとき電場ベクトルの先端が円 あるいは楕円を描く ( 図 3. 参照 ) 6

. 光の反射 屈折 散乱と偏光 自然界で我々が目にする偏光現象を見てみましょう 私たちは車を運転するときや 夏の 海水浴場などの日差しの強い所ではサングラスをかけ あるいは冬のスキー場ではゴーグ ルをかけて 眩しさを防ぎます このサングラスやゴーグルには多くの場合偏光板が使われ ています これは路面や水面 あるいは砂浜 雪面からの光の反射光が偏光していることを 利用して それを遮ることによって眩しさを軽減しているのです 物質表面での光の反射と屈折について述べ ます つの媒質が平面を境に接し 媒質 から媒質 へ光が入射する場合を考えます なお ここで考える媒質は表. で代表され るような 等方でかつ均一であるとします 異方性のある媒質については 5 章で述べま す 媒質 の屈折率を 媒質 の屈折率を とします なお 屈折率 は 媒質中を光が伝播するとき 光の速さ v が真空中の光速 c の 分の v c であるとして定義され ます また すぐ後で出てくる入射角と屈折角の関係を与える量としても定義できます 幾 つかの物質の屈折率を表. に示します 屈折率 が大きい媒質ほどその物質内での光の 速さは遅くなります ダイヤモンドの中では光は空中の 4 割程度の速さで進むことがわか ります 屈折率は物質ばかりでなく光の波長によっても値が違います 例えば 水の屈折率 は赤 ( 波長 650m) で.33 紫 ( 波長 405m) で.343 です ですから ある物質の屈折率を 言うときには波長も指定しなければなりません 単に屈折率というときにはナトリュウム 媒質 の D 線の波長 ( 黄色 波長 589.3m) での値を使うことになっています 屈折率 ダイヤモンド.495 酸化マグネシュウム.7373 溶融石英.4585 光学ガラス K7.568 岩塩.5443 ポリスチレン.59 水.3330 空気 (0 気圧 ).0009 表. 物質の屈折率 (a 589.3m). 反射と屈折 物質の平らな表面に光を照射した場合 光の 一部は物質の中に入り 残りは表面で反射しま す ( 図. 参照 ) 入射光と反射光が作る面を入 射面といいます 図. の場合は紙面が入射面 となります また 入射面内にあり 境界面に 垂直な直線に対して入射光や反射光がなす角 をそれぞれ入射角 反射角 ( 図中の r ) とい います 物質の面に対して入射角 で入射した 光は入射角と同じ角度で反射します これを反 図. 光の反射と屈折 7

射の法則といいます すなわち 反射の法則 : 入射角と反射角は等しい ( = r ) 光が第 の媒質に進むとき ( この光を透過光といいます ) 光の進行方向が変わります 透 過光の進む方向の角度を屈折角といいます 入射角 と屈折角 との間には屈折の法則が 成り立ちます 屈折の法則 : s s (.) 屈折の法則を Sell の法則ともいいます 等方性媒質では屈折光も入射面内にあります さて, 物質の表面での光の反 射は入射角と偏光によって大きく変わります 図. で入射光の偏光 ( 電場ベクトル ) が矢印で示されています は媒質境界面 ( 反射面 ) に平行 ( 入射面に垂直 ) に偏光した光になっています 自然光は様々な偏光を含んでいますが それらの偏光はすべて入射面に平行な成分と垂直な成分に分けられるので このつの偏光について議論すれば十分なのです 0.6 R p (=.568) 0.5 R s (=.568) 0.4 R p (=.333) R s (=.333) 0.3 0. 0. 0.0 0 0 0 30 40 50 60 70 80 90 角度 ( ) 図. 反射率の入射角度依存性 反射率 R は反射光強度 I を入射光強度 I で割った I R R I で定義され 次式で与えられま す ) 後のために 入射光電場と反射光電場の比が反射係数 r で 光強度は電場の自乗に比 例するので 反射率は R r となります 反射率は偏光に依存し 振動電場が入射面内に ある場合 ( これを P 偏光という 図. で E が矢印で示されている偏光 ) と 振動電場が入 射面に垂直振動する場 (S 偏光 図. で E が で示されている ) に分けられる ただし とおきました E // 入射面 (P 偏光 ) r p cos cos s s a a, R p r p (.) E 入射面 (S 偏光 ) 8

r s cos cos s s s s, R s r s (.3) はじめの式は入射角だけで反射率が計算できるので便利です 第 式は 表示は簡単です が 屈折角 を屈折の法則 (.) 式から求めなければなりません 入射する光の偏光方向が入射面に垂直に偏光した光 ( で表した S 偏光 ) と それに垂直に 偏光した光 (P 偏光 ) について 反射率が入射角に対してどの様に変わるかを空中から水 ( 屈 折率.333) および光学ガラス K7( 屈折率.568) に入射した場合について 上式に従って 計算した結果を図. に示しました 入射角にかかわらず S 偏光の反射率が P 偏光の反射 率を上回っているので s 偏光の光がより強く反射することがわかります 垂直入射の場合 ( ( 0) には 電気ベクトルは境界面に平行で偏光状態に区別はありま せんから どちらの偏光も反射率は等しくなり 透明な物質では RP RS ただし (.4) となります 空中から境界面に垂直に入射した場合. 5のガラスでは 反射率は 0.04 すなわち 4% がガラスの表面で反射します 窓ガラスの場合にはガラスの裏面でも同じ比 率で反射するので 結局 ガラス 枚で反射する光の量は 7.84% ガラスを透過する光の 量は 9.6% となります 以上述べたことは 空中から物質へ光が入射した場合など すなわち を想定し ていました しかし の場合 たとえば 光源が水中にあり 光が水中から空中に 出て行くような場合です この場合も屈折の法則 (.) 式 反射率の (.) (.3) 式はそのま ま成り立つのですが s s ただし となるので 入射角よりも屈折角の方が大 きくなります ( 図.3) このため 屈折角 が 90 になる入射角より大きな入射角を持 つ光は外に出られなくなり 境界面で完全 反射することになります が 90 になる 入射角を C とすると 図.3 完全反射は の境界面 9

s C (.5) C より大きな角で入射する光は境界面で完全反射さてしまいます 水中に光源があり 光 が水中から空中へ屈折光として出てくる場合は 水の屈折率.333 の値から C 48. 6 となる この角度より大きな入射角を持つ光は空中には出られず 境界面で反射して水中に 留まることになる 光ファイバーは上記の完全反射を利用しています フィバーは中心が石英ガラスで その 外側を石英ガラスより屈折率の小さなガラスで包んである細い棒状のものです この先端 から入った光はフィバーの壁面に対して十分大きな入射角になっていますから ファイバ ーの外には出られず そのままファイバーの末端まで届くことになります の場合に戻ります 図. から入射角 をだんだん大きくしていくと入射面に垂 直 ( 反射面に平行 ) な S 偏光の成分が P 偏光を持つ光の反射率より大きくなり 反射光は反 射面に平行な偏光を多く持った光となります このように光が空中から物質表面に入射す るときはいつでも S 偏光の反射光が強くなることが分かります すなわち 物質表面で反 射した光は程度の差はあるがいつも部分的に偏光した状態になっています 路面や雪面な どは平面ではなく 微視的に見れば反射面はあらゆる方向を向いていますがある路面から 目に入る反射光は平均としてはやはり S 偏光成分が強くなります 偏光サングラスは 道 路で反射されたぎらぎら光る 水 平方向に偏光した反射光を取り除 くように すなわち サングラスの 偏光軸方向が縦方向の光成分を通 すようにセットされています 外が明るいとき, ショウウィン ドーや水中のものを見ると, ガラ スや水面からの強い反射光のた め 中の様子が見えにくいことが あります 偏光フィルター, あるい は偏光板で強く反射する S 偏光の 光を遮断して見れば, 表面の反射 光は少なくなり, 中の物がよく見 えることになります ( 図.4) 物質の屈折率は より大きいので 空中から光が物体に照射された場合 P 偏光では反 射率がゼロになる入射角があります その角度は反射の (.) 式で右辺の分母が無限大にな る角 ( とする ) ですから 反射ゼロは 図.4 ウィンドウの中の人形 右は偏光板で S 偏光を遮断して写した写真 で起こります このときの透過角を 0

T と置くと s T s( ) cos 度 は次の式で与えられます a (.6) になるので屈折の法則 (.) 式から その角 反射率がゼロになる角 をブリュースター (rewser) 角といいます ( 図.5) 図で 90 T なので 透過光と反射光のなす角も 90 になります 光が空中から水に入射する場合 水の屈折率は.333 ですから 53. 光学ガラス K7 では 図.5 ブリュースター各と偏光 =.57 ですから56.6 となります この角度で入射した光の反射光は P 偏光を含まない S 偏光のみの光となります 赤外線の偏光を得るために 昔はブリュースター角を利用した 偏光子が使われました ( 第 6 章参照 ) また ブリュースター角で入射した P 偏光の光は反射 せず そのままの強度で第 の媒質に入っていきますので 表面での反射ロスがありませ ん この性質はレーザ光発振器の端面に応用されています. 透過光図. で 表面で反射せず第 の媒質に入射する光の強度は透過率として入射光強度との比で表されます 反射の場合とは違って 媒質 と媒質 で誘電率 が異なるので 透過率では光のエネルギー密度や光速の違いを考慮しなければなりません 媒質 における光のエネルギー 密度は E 媒質 では E とな ります このエネルギー密度を持っ た光束がそれぞれの光速 c で伝搬 するから 0 ( 付録 F 参照 ) を 考慮すると光強度は E に比例する ことになります そのうえ 境界面 で光束は曲がるので入射光と透過光 図.6 透過率の入射角度依存性

S の断面積の比 cos も考慮しなければなりません 透明媒質の場合 各偏光 S cos に対する透過係数 と透過率 T は次のように表せます ただし E // 入射面 (P 偏光 ) p E p (.7) E p cos cos cos cos 4 cos s s s Tp p (.8) cos E 入射面 (S 偏光 ) cos s cos s s cos (.9) cos cos 4cos s s s T s (.0) cos s s 今の場合は 光はどこにも吸収されないので透過率は から反射率を引いたものとなっていることも確かめられます 光学ガラスと水について透過率の入射角依存性を図.6 に示します 一般に S 偏光と P 偏光では反射率 あるいは透過率 が違いますから 偏りのない自然光が入射したとき 物質で反射した光の S 偏光成分と P 偏光成分の強度が違うので 反射光は部分偏光した光になります 同じことは透過光についても言えます 反射光が部分偏光していることを利用して偏光板の偏光軸を簡単に決めることが出来ます なるべく平らなテーブルや床に対して 30~40 度に目線を置き 偏光板を通して平面を見ます 偏光板を回すと 平面からの反射光が明るくなったり 暗くなったりするでしょう もっとも明るくなった時 偏光板の偏光軸は平面と平行になっています.3 散乱光の偏光分子に光が照射されると 分子は光の電場によって分子内の正負の電荷がそれぞれ反対方向に力を受け このため 分子内に電荷の偏りが生じる すなわち 正負の電荷の分離によって分子に分極 ( 電気双極子 ) が生じる その分極が光の電場の振動に従って振動するのでこの分極の振動によって 分子から 次波として光が放出される ( 分子による光散乱 ) ) もし 結晶のように分子が規則正しく並んでいる場合には各分子から放出される 次波も互いに干渉し合い その結果として位相の揃った屈折波ができるのです 3 ) 一方 分子が不規則にばらばらに存在するときには放射される光もばらばらになり いわゆる 散乱光が生じます 図.7 のように分子に Sを光源として 中央にある分子に偏光した光が入射する

と 分子の分極は光の電場と同じ方向に振動するので 次波である散乱波の電場も同じ方向に振動する 例えば 図.7(a) のように 光源 S からY 方向に伝搬するZ 方向に偏光した光が中心にある分子にあたると 分子は Z 方向の電気双極子を誘起する この電気双極子の振動によって電気双極子から放出される電磁波は電場がZ 方向に振動する光である それゆえ 光は横波であるからZ 方向に伝搬する散乱光は存在しない また 図.7(b) のようにX 方向に偏光した光が分子によって散乱されるとY Z 方向には散乱されるが X 方向に散乱される光はない それ故 Y 方向に伝搬するランダムに偏光した光が中心の分子で散乱されるとX 方向には Z 方向に偏光した散乱光だけが伝搬することになる すなわち 散乱光に偏光現象が起こるのである この現象は自然界で容易にみられる 太陽と空の一部分と観測者をつないだ角度が 90 となるような空の部分を 偏光板を通してみると偏光板の角度によって明るさに濃淡が現れることがみられるだろう これは図.7 で 太陽を S 中心分子が注目している空の部分 X 点が観測者である 図から散乱光は 3 点が作る平面に垂直方向に偏光し他散乱光が観測される ( 図.7(a)) 一方 平面に平行図.7 散乱光の偏光に偏光した散乱光はないことがわかる このことから 偏光方向が太陽 空と観測者の3 点でできる平面に垂直のとき最も明るくなることが確かめられるであろう 一般には このように散乱光は偏光しているが 偏光の度合いは空中にある分子の大小 分子の異方性 複数回散乱による偏光解消などに依存している ) ここで述べた反射率 透過率の数式の導出は標準的な教科書にありますのでそれらを参照してください 例えば 光学 石黒浩三著 ( 裳華房 ) 光学の原理 マックス ボルン, エミル ウォルフ著草川徹 横田英嗣訳 ( 東海大学出版会 ) ) 電気双極子からの光の放出については 例えば 電磁気学 砂川重信著 ( 岩波書店 ) 第 7 章参照 3) 電磁波の伝播に関する理論は 光の原理.4 節で詳しく述べられている 3