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講義の内容 (2) 第 8 回薬物の生体内分布 ( 小テスト ) 第 9 回薬物の体液中での存在形態と分布容積 ( 小テスト ) 第 10 回薬物代謝と薬効 ( 小テスト ) 第 11 回薬物の排泄 ( 小テスト ) 第 12 回薬物の相互作用 ( 小テスト ) 第 13 回演習 4

第 9 回薬物の体液中での存在形態と 分布容積 薬物の体液中での存在形態 ( 血漿タンパク結合など ) を 組織への移行と関連づけて説明できる また 薬物分布の変動要因 ( 血流量 タンパク結合性 分布容積など ) について説明できる さらに 分布容積が著しく大きな代表的な薬物を列挙できる 薬剤師国家試験医 2A-c 分布医 2A-g 疾患時における薬物動態 5

経口 非経口尿物投与部位皮膚 眼 毛髪など薬糞便吸収 分布 代謝 排泄 (ADME) 血液 リンパ薬物作用部位脳 腎臓 肝臓 骨 吸収肝臓腎臓薬物の生体内運命 6

薬物の血漿中での存在形態 (1) 7

薬物の血漿中での存在形態 (2) 循環血液中 薬物作用部位 肝臓 肝臓 糞便中排泄腎臓 尿中排泄 8 薬 6-Ⅰ

薬物の血漿中での存在形態 (3) 多くの薬物は 血漿 ( 血清 ) タンパク質と結合する 薬物と血漿タンパク質との結合には 水素結合 疎水性相互作用 静電的相互作用のほか ファン デル ワールス力が関与する 薬物と血漿タンパク質の結合は 一般に可逆的であり 結合平衡は瞬時に成立する 9

薬物の血漿中での存在形態 (4) 非結合形 結合形 血漿 ( 血清 ) タンパク質と結合した薬物を血漿 ( 血清 ) タンパク結合形 結合していない薬物を血漿 ( 血清 ) タンパク非結合形という 非結合形薬物のみが 細胞膜を透過後 臓器 組織へ移行し 代謝や排泄の過程を経るとされている 薬 6-Ⅰ 10

薬物の血漿中での存在形態 (5) 血漿 ( 血清 ) タンパク非結合形薬物は 循環血液中から薬物作用部位中に移行するため 血漿中非結合形薬物濃度と薬物作用部位中薬物濃度は平衡関係にあると考えられている 血漿中総薬物濃度は 血漿 ( 血清 ) タンパク結合形濃度と血漿 ( 血清 ) タンパク非結合形濃度が合計されたものである 11

薬物と血漿タンパク質との結合 (1) アルブミンは 血漿中で最も多く存在するタンパク質であり 血漿タンパク質の50~ 60% を占め その濃度は約 4.5%(45g/L) である 薬物はアルブミンと結合し 特に酸性薬物がよく結合する 12

薬物と血漿タンパク質との結合 (2) α1- 酸性糖タンパク質 (α1-agp) は 血漿中には 0.2~0.4%(2g~4g/L) しか存在しないタンパク質であるが 急性炎症時に血漿中濃度は 5~50 倍に上昇する プロプラノロールなどの塩基性薬物に結合する α1- 酸性糖タンパク質 (α1-acid glycoprotein) の血漿中濃度は 炎症性疾患や外傷で増大する 薬物は α1- 酸性糖タンパク質 (α1-agp) と結合し 特に塩基性薬物 ( リドカイン プロプラノロール イミプラミン等 ) がよく結合する 13

薬物と血漿タンパク質との結合 (3) グロブリンは 血漿中に約 3.5% 存在する グロブリンには コレステロール 脂溶性ビタミン 副腎皮質ホルモン等が結合する 14

薬物と血漿タンパク質との結合 (4) 非結合形分率 1.0 は 血漿タンパク質と結合しない薬物 薬物は 循環血液中で血漿 ( 血清 ) タンパク質と結合するもの 15 ( 大部分の薬物 ) と しないもの ( リチウムなど ) がある

薬物と血漿アルブミンとの結合 薬物がヒト血漿( 血清 ) アルブミンに結合する部位は 3 種類ある Site I( ワルファリンサイト ) Site II( ジアゼパムサイト ) Site III( ジギトキシンサイト ) 16

薬物の血漿 ( 血清 ) タンパク結合理論 (1) 薬物の血漿 ( 血清 ) タンパク結合は 質量作用の法則に従う可逆反応である 薬 6-Ⅰ 17

薬物の血漿 ( 血清 ) タンパク結合理論 (2) Cf: 非結合形薬物濃度 Cb: 結合形薬物濃度 タンパク 1 分子上には n 個の薬物結合部位があるタンパク質の濃度を Pt とすると 総結合部位濃度は n(pt) となる 薬 6-Ⅰ 18

薬物の血漿 ( 血清 ) タンパク結合理論 (3) Pf + Cf K Cb Pf=n(Pt)-Cb (1) K= Cb Pf Cf (2) Pt: タンパク質の濃度 ( アルブミン濃度など ) n: タンパク質 1 分子当たりの結合部位数 n(pt): タンパク分子上で薬物と結合する部位の総濃度 Pf: タンパク分子上の薬物と結合していない部位の濃度 Cf: 非結合形薬物濃度 Cb: 結合形薬物濃度 K: 結合定数 19

薬物の血漿 ( 血清 ) タンパク結合理論 (4) r= Cb Pt (3) (1) (2) (3) 式より r= n K Cf 1 + K Cf (4) Langmuir 式 r : タンパク質 1 分子に結合している薬物分子数 n : タンパク質 1 分子当たりの結合部位数 Cb: 結合形薬物濃度 Cf: 非結合形薬物濃度 Pt: タンパク質の濃度 ( アルブミン濃度など ) 20 K: 結合定数

薬物の血漿 ( 血清 ) タンパク結合理論 (5) r= n K Cf 1 + K Cf (4) n : タンパク質 1 分子当たりの結合部位数 r : タンパク質 1 分子に結合している薬物分子数 Langmuir プロット K Cf=1 高い薬物濃度 (1 K Cf) r は n に近づき飽和 低い薬物濃度 (1 K Cf) r は Cf に比例 r = n/2 の時 K Cf =1 Cf = 1/K 21 薬タ結

薬物の血漿 ( 血清 ) タンパク結合理論 (6) r= n K Cf 1 + K Cf (4) Langmuir 式を変形 r Cf =nk-kr (5) Scatchard 式 r: タンパク質 1 分子に結合している薬物分子数 n : タンパク質 1 分子当たりの結合部位数 Cf: 非結合形薬物濃度 K: 結合定数 22

薬物の血漿 ( 血清 ) タンパク結合理論 (7) r =nk-kr Cf (5) Scatchard プロット Scatchard プロットは 結合定数やタンパク質 1 分子当たりの薬物結合部位数を求める際に用いられるプロットの一つである 23

薬物の血漿 ( 血清 ) タンパク結合理論 (8) r= n K Cf 1 + K Cf (4) Langmuir 式を変形 1 r 1 1 1 = + nk Cf n (6) Klotz 式 r: タンパク質 1 分子に結合している薬物分子数 n : タンパク質 1 分子当たりの結合部位数 Cf: 非結合形薬物濃度 K: 結合定数 24

薬物の血漿 ( 血清 ) タンパク結合理論 (9) 1 r 1 1 1 = + nk Cf n (6) Klotz プロット 25

薬物の血漿タンパク結合の測定 薬物の血漿タンパク結合の測定 ( 結合定数 Kやタンパク質 1 分子当たりの結合部位数 nの算出 ) は 透析膜を用いた平衡透析法 限外ろ過法 ゲルろ過法 超遠心法により行われる 平衡透析法は 血漿タンパク質に結合していない非結合形薬物のみが半透膜を通過できることを利用した測定法で 半透膜でできた袋の内液中薬物濃度 ( 結合形濃度 Cbと非結合形濃度 Cf の総和 ) と外液中薬物濃度 ( 非結合形濃度 Cf) を測定する 26

半透膜 演習問題 : ある薬物のアルブミンに対する結合定数を平衡透析法により測定した 袋の内液中のアルブミン濃度を 2.4mmol/L 外液中の薬物初濃度を 1.0mmol/L とし 平衡状態に達したときの外液中の薬物濃度を測定したところ 0.3mmol/L であった 薬物の結合定数 K (L/mmol) として最も近い値はどれか ただし アルブミン 1 分子当たりの薬物の結合部位数を 1 とする また 内液及び外液の容積は同じで 薬物もアルブミンも容器や膜に吸着しないものとする (2005 年 3 月国試 ) 0.05 0.1 0.3 0.5 0.7 外液 ( 水溶液 ) 薬物の初濃度 1.0mmol/L 内液 ( アルブミン溶液 ) アルブミン濃度 2.4mmol/L 平衡状態の濃度 0.3mmol/L 27

演習問題解答 : ある薬物のアルブミンに対する結合定数を平衡透析法により測定した 袋の内液中のアルブミン濃度を 2.4mmol/L 外液中の薬物初濃度を1.0mmol/Lとし 平衡状態に達したときの外液中の薬物濃度を測定したところ 0.3mmol/Lであった 薬物の結合定数 K(L/mmol) として最も近い値はどれか ただし アルブミン1 分子当たりの薬物の結合部位数を1とする また 内液及び外液の容積は同じで 薬物もアルブミンも容器や膜に吸着しないものとする (2005 年 3 月国試 ) K=Cb/(Pf Cf) (2) Pf=n(Pt)-Cb (1) Cf=0.3mmol/L Cb=1.0mmol/L-(0.3mmol/L 2)=0.4mmol/L n(pt)=1 2.4mmol/L=2.4mmol/L Pf= 2.4mmol/L- 0.4mmol/L=2mmol/L K=0.4mmol/L (2mmol/L 0.3mmol/L)=0.7L/mmol 外液 ( 水溶液 ) 平衡状態の濃度 0.3mmol/L (Cf に等しい ) 半透膜内液 ( アルブミン溶液 ) アルブミン濃度 2.4mmol/L 0.4mmol/L(Cb) 0.3mmol/L(Cf) 28

薬物と血漿タンパク質との結合の置換 ワルファリンのヒト血漿アルブミンへの結合は フェニルブタゾンにより競合的阻害を受け 結合定数は小さくなるものの結合部位数には変化がない 薬物 A の血漿タンパク結合が薬物 B によって競合的に阻害される場合 薬物 A の結合定数は薬物 B が存在しない場合に比べて小さくなるが タンパク質 1 分子当たりの結合部位数は変化しない 薬物と血漿タンパク質との結合の置換が起きると 血液中あるいは組織中での薬物の非結合形分率を増加させることとなり 薬物の組織分布に影響を与え 薬理作用にも影響を及ぼす場合がある 29

分布容積 (1) 循環血液中の薬物は 血流により運ばれて種々の組織に分布する この分布の程度を評価する薬物動態パラメータを分布容積 (L もしくはL/kg) という 分布容積は 投与量 ( F 値 バイオアベイラビリティ係数 ) を血漿中濃度で割ることにより算出される 分布容積は 薬物の組織 臓器への移行性の指標であり 薬物が見かけ上 血漿中濃度と等しい濃度で一部もしくは全ての組織 臓器中に均一に分布するとみなしたときの体液体積をあらわす 薬物の分布容積は 薬物 投与量 併用薬物 体重 病態 加齢などで変動する 薬 6-Ⅰ 30

分布容積 (2) コントロール ( 基準 ) 血漿中のタンパク非結合形分率が増加すると 分布容積は大きくなり 血漿中薬物濃度は低下する 血漿中のタンパク非結合形分率が低下すると 分布容積は小さくなり 血漿中薬物濃度は増加する 31

分布容積 (3) 分布容積 3L: 薬物は血漿中に分布 分布容積 15L: 薬物は 細胞外液中に分布 分布容積 42L: 薬物は全体液中に分布 分布容積 >42L: 薬物は細胞内液 外液だけでなく特定の組織中に蓄積 薬動 32

全体液体積 42 細胞外液体積血液体積 血漿体積 15 0.8 0.25 分布容積 (4) 分布容積が小さいとは ほぼ細胞外液量 ( 血漿体積 3L+ 細胞間隙液体積 12Lを合計した15L) あるいは それ以下の値を示す薬物をいい ヒトで 0.25L/kg 以下をいう 分布容積が大きいとは ヒトで約 0.8L/kg 以上をいう 臨薬ガ薬相ガ 33

分布容積 (5) 薬物の体内分布の程度 ( 大小 ) を評価するため 分布容積 (L もしくはL/kg) という薬物動態パラメータが仮想されており 薬物によって約 5000 倍も異なる 分布容積 (L)= 投与量 (mg) 血漿中薬物濃度 (mg/l) 分布容積 (L/kg)= 投与量 (mg/kg) 血漿中薬物濃度 (mg/l) 患者体重 :70kg 薬物の投与量 : 経口 350mg(5mg/kg) バイオアベイラビリティ係数 :1 血漿中薬物濃度 :50μg/mL(50mg/L) 分布容積 (L/kg) は (5mg/kg 1) 50mg/L=0.1L/kg 34

分布容積 (6) アミオダロンは脂溶性薬物のため 分布容積が3960Lと大きい ジゴキシンは生体膜に存在する酵素(Na + /K + -ATPase) に特異的に結合するため この酵素の発現量の多い心筋や骨格筋に分布し 分布容積が510L 35 と大きい薬 6-Ⅰ

分布容積 (7) 静脈内投与した薬物は 分布容積が大きいほど初期の血中濃度は低くなる 血中薬物濃度 (mg/l) = 投与量 (mg/kg) 分布容積 (L/kg) = 投与量 (mg) 分布容積 (L) 分布容積は 薬物の投与量の算出 薬物の組織分布の平衡に到達する時間の予測 及び薬効発現時間の予測などに有用である 新薬 36

分布容積 (8) 分布容積 (L)= 投与量 (mg) 血漿中薬物濃度 (mg/l) 分布容積 (L/kg)= 投与量 (mg/kg) 血漿中薬物濃度 (mg/l) =( 投与量 (mg) 血漿中薬物濃度 (mg/l)) 体重 (kg) V=Abody/Cp (1) V=Vp+ (CT,i/Cp) VT,i (2) Abody: 体内総薬物量 ( 注射薬は投与量に等しい ) V: 分布容積 Vp : 血漿体積 VT,i: 組織 (i) 体積 Cp: 血漿中薬物濃度 CT,i: 組織 (i) 中薬物濃度 CT,i/Cp : 組織中 (i) 濃度対血漿中濃度の比 濃度比 組織体積により 血漿中濃度と組織中濃度が同一となる理論値としての組織体積が算出される 37

分布容積 (9) 血漿中 血漿中濃度 : 1μg/mL 血漿体積 : 3L 血漿中濃度 : 1μg/mL 血漿体積 : 3L 組織中 組織中濃度 : 3μg/mL 組織体積 : 1L 組織中濃度 / 血漿中濃度の比 : 3μg/mL 1μg/mL=3 この比を用いて 組織中薬物濃度が見かけ上 血漿中薬物濃度と等しくなるときの組織体積を算出する 組織中濃度 : 1μg/mL( 血漿中濃度と等しい ) 組織体積 : 1L 3( 比 )=3L 分布容積 = 血漿体積 +( 組織中濃度 / 血漿中濃度の比 ) 組織体積 =3L+(3 1L)=6L 38 薬 6-Ⅰ

分布容積 (10) 臨薬ガ薬相ガ CT/Cp=(CT,f+CT,b)/(Cp,f+Cp,b)(3) CT=CT,f/fT 及び Cp=Cp,f/fp より CT/Cp=(CT,f/fT)/(Cp,f/fp) (4) =(CT,f/Cp,f) (fp/ft) (5) Cp: 血漿中総薬物濃度 Cp.f: 血漿中非結合形薬物濃度 Cp,b: 血漿中結合形薬物濃度 fp: 血漿中非結合形分率 CT: 組織中総薬物濃度 CT,f: 組織中非結合形薬物濃度 CT,b: 組織中結合形薬物濃度 ft: 組織中非結合形分率 39

分布容積 (11) 臨薬ガ薬相ガ CT/Cp=(CT,f/Cp,f) (fp/ft) (5) CT,f/Cp,f は 薬物の組織細胞膜透過機構により異なる CT,f/Cp,f>1 能動輸送で細胞内に取り込まれる薬物 CT,f/Cp,f<1 脂溶性が低くて 細胞膜透過速度が非常に小さい薬物 もしくは能動的に細胞からくみ出される薬物 CT,f/Cp,f=1 促進輸送 ( 促進拡散 ) もしくは受動拡散で細胞内に取り込まれる薬物 Cp: 血漿中総薬物濃度 Cp.f: 血漿中非結合形薬物濃度 Cp,b: 血漿中結合形薬物濃度 fp: 血漿中非結合形分率 CT: 組織中総薬物濃度 CT,f: 組織中非結合形薬物濃度 40 CT,b: 組織中結合形薬物濃度 ft: 組織中非結合形分率

分布容積 (12) V=Vp+ (CT,f,i/Cp,f) (fp/ft,i) VT,i (6) V: 分布容積 Vp : 血漿体積 (3L) VT,i: 組織 (i) 体積 Cp.f: 血漿中非結合形薬物濃度 CT,f,i: 組織 (i) 中非結合形薬物濃度 fp: 血漿中非結合形分率 ft,i: 組織 (i) 中非結合形分率 分布容積は 血液成分との結合性 (fp) 組織成分との結合性 (ft,i) 細胞膜透過(CT,f,i Cp.f) 及び組織体積 (VT,i) によって決まる 41

分布容積 (13) V=Vp+ (CT,f,i/Cp,f) (fp/ft,i) VT,i (6) V: 分布容積 Vp : 血漿体積 (3L) VT,i: 組織 (i) 体積 Cp.f: 血漿中非結合形薬物濃度 CT,f,i: 組織 (i) 中非結合形薬物濃度 fp: 血漿中非結合形分率 ft,i: 組織 (i) 中非結合形分率 ペニシリン セファロスポリンなどβ-ラクタム系抗生物質は 組織細胞膜を透過できないため組織体積 (VT,i) が小さく 分布容積は0.3L/kgである 42

分布容積 (14) V=Vp+ (CT,f,i/Cp,f) (fp/ft,i) VT,i (6) V: 分布容積 Vp : 血漿体積 (3L) VT,i: 組織 (i) 体積 Cp.f: 血漿中非結合形薬物濃度 CT,f,i: 組織 (i) 中非結合形薬物濃度 fp: 血漿中非結合形分率 ft,i: 組織 (i) 中非結合形分率 血漿中非結合形分率 (fp) が増加すると 分布容積は増加する プロプラノロールは 血漿タンパク非結合率 (fp) が増加すると分布容積も増加する 43

分布容積 (15) V=Vp+ (CT,f,i/Cp,f) (fp/ft,i) VT,i (6) V: 分布容積 Vp : 血漿体積 (3L) VT,i: 組織 (i) 体積 Cp.f: 血漿中非結合形薬物濃度 CT,f,i: 組織 (i) 中非結合形薬物濃度 fp: 血漿中非結合形分率 ft,i: 組織 (i) 中非結合形分率 組織中非結合形分率 (ft,i ) が小さいと 分布容積は大きくなる ( 薬物の組織結合が大きいほど 分布容積は大きくなる ) 44

分布容積 (16) V=Vp+ (CT,f,i/Cp,f) (fp/ft,i) VT,i (6) V: 分布容積 Vp : 血漿体積 (3L) VT,i: 組織 (i) 体積 Cp.f: 血漿中非結合形薬物濃度 CT,f,i: 組織 (i) 中非結合形薬物濃度 fp: 血漿中非結合形分率 ft,i: 組織 (i) 中非結合形分率 組織細胞膜で担体輸送される薬物は 輸送担体が飽和されたり阻害されると (CT,f,i の低下 ) 分布容積は減少する 45

塩酸プロカインアミド ( アミサリン注 ) の体内分布と分布容積 分布容積の正常値は 2L/kg 体重 70kg では 140L 46 薬動

薬物分布の変動要因 (1) 薬物の生体内分布は 分布容積 血漿タンパク結合 血流量の 3 つが主たる変動要因と考えられてきたが これに加えて 血液脳関門 肝臓や腎臓などへの臓器に対する移行性に輸送担体が重要な役割を演じていることが明らかになった また これらの変動要因は 病態や生理変化による影響を受けるため 薬物の生体内分布も変化する 薬 6-Ⅰ 47

薬物分布の変動要因 (2) 分布容積 3L: 薬物は血漿中に分布 分布容積 15L: 薬物は 細胞外液中に分布 分布容積 42L: 薬物は全体液中に分布 分布容積 >42L: 薬物は細胞内 外液だけでなく特定の組織中に蓄積 薬物の分布容積は 薬物 投与量 併用薬物 体重 病態 加齢などで変動する 薬動 48

薬物分布の変動要因 (3) 心不全では 心拍出量の低下や交感神経の亢進により 組織血流量 各組織への血流配分の変化 組織内血流分布の変化が生じるため 薬物の分布容積の低下や分布特性の変化を引き起こすことがある ( 浮腫などがあると分布容積は増加する ) 心筋梗塞後に α1- 酸性糖タンパク質の血漿中濃度が増加すると ジソピラミドのクリアランスが低下する 心筋梗塞では 血漿 α1- 酸性糖タンパク質量の増加により 血漿中塩基性薬物の非結合形の割合が低下する 49 薬 6-Ⅰ

薬物分布の変動要因 (4) 腎障害では 大部分の薬物の分布容積は大きく変動しないが 血漿タンパク結合の強い薬物では 腎不全によりタンパク結合が阻害され 血漿中非結合形分率が上昇し 分布容積が増加することがある ネフローゼ症候群では 血清アルブミンの減少に伴いフロセミドの分布容積が増加する 腹水や浮腫では 細胞外液体積が増加するため 細胞外液に分布する水溶性薬物 アミノ配糖体 β- ラクタム系抗生物質 抗ウイルス薬の投与設計では注意する必要がある 非代償性肝硬変では 血漿アルブミン量の低下により 血漿中薬物の非結合形の割合が増加する 50 薬 6-Ⅰ

薬物分布の変動要因 (5) 新生児 乳児 小児の薬物分布は 成人と異なる 高齢者では 体内水分量や細胞外液量が減少するが 体脂肪は増加しやすいため 水溶性薬物の分布容積は低下しやすく 逆に脂溶性薬物の分布容積は増加する 高齢者では細胞外液量が減少しているため 分布容積が低下し 薬物血中濃度が高くなる 妊娠中は血清アルブミン量の減少により サリチル酸のタンパク結合率が減少することがある 51 薬 6-Ⅰ

第 9 回講義の結論 (1) 多くの薬物は 血漿 ( 血清 ) タンパク質と結合する 薬物と血漿タンパク質の結合は 一般に可逆的であり 結合平衡は瞬時に成立する 血漿 ( 血清 ) タンパク質と結合した薬物を血漿 ( 血清 ) タンパク結合形 結合していない薬物を血漿 ( 血清 ) タンパク非結合形という 血漿中総薬物濃度は 血漿 ( 血清 ) タンパク結合形濃度と血漿 ( 血清 ) タンパク非結合形濃度が合計されたものである 非結合形薬物のみが 細胞膜を透過後 臓器 組織へ移行し 代謝や排泄の過程を経るとされている 血漿 ( 血清 ) タンパク非結合形薬物は 循環血液中から薬物作用部位中に移行するため 血漿中非結合形薬物濃度と薬物作用部位中薬物濃度は平衡関係にあると考えられている 52

第 9 回講義の結論 (2) アルブミンは 血漿中で最も多く存在するタンパク質であり 血漿タンパク質の50~60% を占め その濃度は約 4.5%(45g/L) である 薬物はアルブミンと結合し 特に酸性薬物がよく結合する α1- 酸性糖タンパク質 (α1-agp) は 血漿中には0.2~0.4%(2g~4g/L) しか存在しないタンパク質であるが 急性炎症時に血漿中濃度は5~50 倍に上昇する 薬物はα1- 酸性糖タンパク質 (α1-agp) と結合し 特に塩基性薬物 ( リドカイン プロプラノロール イミプラミン等 ) がよく結合する 53

第 9 回講義の結論 (3) 薬物の血漿 ( 血清 ) タンパク結合特性は Langmuir 式 Scatchard 式 Klotz 式により解析され 結合定数 (K) 及びタンパク質 1 分子当たりの結合部位数 (n) が算出される 薬物 A の血漿タンパク結合が薬物 B によって競合的に阻害される場合 薬物 A の結合定数は薬物 B が存在しない場合に比べて小さくなるが タンパク質 1 分子当たりの結合部位数は変化しない 薬物と血漿タンパク質との結合の置換が起きると 血液中あるいは組織中での薬物の非結合形分率を増加させることとなり 薬物の組織分布に影響を与え 薬理作用にも影響を及ぼす場合がある 54

第 9 回講義の結論 (4) 循環血液中の薬物は 血流により運ばれて種々の組織に分布する この分布の程度を評価する薬物動態パラメータを分布容積 (L もしくはL/kg) という 薬物の体内分布の程度 ( 大小 ) を評価するため 分布容積 (L もしくはL/kg) という薬物動態パラメータが仮想されており 薬物によって約 5000 倍も異なる 分布容積は 投与量 ( F 値 バイオアベイラビリティ係数 ) を血漿中濃度で割ることにより算出される 分布容積は 薬物の組織 臓器への移行性の指標であり 薬物が見かけ上 血漿中濃度と等しい濃度で一部もしくは全ての組織 臓器中に均一に分布するとみなしたときの体液体積をあらわす 分布容積は 薬物の投与量の算出 薬物の組織分布の平衡に到達する時間の予測 及び薬効発現時間の予測などに有用である薬 6-Ⅰ 55

第 9 回講義の結論 (5) 分布容積 3L: 薬物は血漿中に分布 分布容積 15L: 薬物は 細胞外液中に分布 分布容積 42L: 薬物は全体液中に分布 分布容積 >42L: 薬物は細胞内 外液だけでなく特定の組織中に蓄積 薬物の分布容積は 薬物 投与量 併用薬物 体重 病態 加齢などで変動する 分布容積は 血液成分との結合性 (fp) 組織成分との結合性 (ft,i) 細胞膜透過(CT,f,i Cp.f) 及び組織体積 (VT,i) によって決まる 56

第 9 回講義の結論 (6) 分布容積が小さいとは ほぼ細胞外液量 ( 血漿体積 3L+ 細胞間隙液体積 12L を合計した 15L) あるいは それ以下の値を示す薬物をいい ヒトで 0.25L/kg 以下をいう 分布容積が大きいとは ヒトで約 0.8L/kg 以上をいう アミオダロンは脂溶性薬物のため 分布容積が 3960L と大きい ジゴキシンは生体膜に存在する酵素 (Na + /K + -ATPase) に特異的に結合するため この酵素の発現量の多い心筋や骨格筋に分布し 分布容積が 510L と大きい 臨薬ガ薬相ガ薬 6-Ⅰ 57

第 9 回講義の結論 (7) 血漿中非結合形分率 (fp) が増加すると 分布容積は増加する 薬物の組織結合が大きいほど 分布容積は大きくなる 組織細胞膜で担体輸送される薬物は 輸送担体が飽和されたり阻害されると 分布容積は減少する 58

第 9 回講義の結論 (8) 薬物の生体内分布は 分布容積 血漿タンパク結合 血流量の 3 つが主たる変動要因と考えられてきたが これに加えて 血液脳関門 肝臓や腎臓などへの臓器に対する移行性に輸送担体が重要な役割を演じていることが明らかになった 心不全では 心拍出量の低下や交感神経の亢進により 組織血流量 各組織への血流配分の変化 組織内血流分布の変化が生じるため 薬物の分布容積の低下や分布特性の変化を引き起こすことがある ( 浮腫などがあると分布容積は増加する ) 腎障害では 大部分の薬物の分布容積は大きく変動しないが 血漿タンパク結合の強い薬物では 腎不全によりタンパク結合が阻害され 血漿中非結合形分率が上昇し 分布容積が増加することがある 薬 6-Ⅰ 59