日本医科大学医学会雑誌第11巻第4号

Similar documents
小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

白血病

スライド 1

虎ノ門医学セミナー

白血病治療の最前線

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

平成 30 年 2 月 5 日 若年性骨髄単球性白血病の新たな発症メカニズムとその治療法を発見! 今後の新規治療法開発への期待 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 門松健治 ) 小児科学の高橋義行 ( たかはしよしゆき ) 教授 村松秀城 ( むらまつひでき ) 助教 村上典寛 ( むらかみ

がん登録実務について

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

白血病(2)急性白血病

<4D F736F F D A88CF91F58BC696B190AC89CA95F18D BC696B18D8096DA816A8F6F8CFB97B290B690E690B6>

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

頭頚部がん1部[ ].indd

診療科 血液内科 ( 専門医取得コース ) 到達目標 血液悪性腫瘍 出血性疾患 凝固異常症の診断から治療管理を含めた血液疾患一般臨床を豊富に経験し 血液専門医取得を目指す 研修日数 週 4 日 6 ヶ月 ~12 ヶ月 期間定員対象評価実技診療知識 1 年若干名専門医取得前の医師業務内容やサマリの確認

JPLSG ALL AML Overall survival for children diagnosed with hematological malignancies in Japan (n=5287). 日本小児血液学会疾患登録事業集計結果 日本小

外来在宅化学療法の実際

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

5. 死亡 (1) 死因順位の推移 ( 人口 10 万対 ) 順位年次 佐世保市長崎県全国 死因率死因率死因率 24 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 悪性新生物 位 26 悪性新生物 350

白血病とは 異常な血液細胞がふえ 正常な血液細胞の産生を妨げる病気です 血液のがん 白血病は 血液細胞のもとになる細胞が異常をきたして白血病細胞となり 無秩 序にふえてしまう病気で 血液のがん ともいわれています 白血病細胞が血液をつくる場所である骨髄の中でふえて 正常な血液細胞の産 生を抑えてしま

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

医療関係者 Version 2.0 多発性内分泌腫瘍症 2 型と RET 遺伝子 Ⅰ. 臨床病変 エムイーエヌ 多発性内分泌腫瘍症 2 型 (multiple endocrine neoplasia type 2 : MEN2) は甲状腺髄様癌 褐色細胞腫 副甲状腺機能亢進症を発生する常染色体優性遺

094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

「             」  説明および同意書

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

心房細動1章[ ].indd

70 頭頸部放射線療法 放射線化学療法

リンパ腫グループ:リンパ腫治療開発マップ

ALL/MRD2014

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

BLF57E002C_ボシュリフ服薬日記_ indd

レジメン名抗がん剤 ( 一般名 ) 抗がん剤 ( 商品名 ) 用量用法 1 クール適応 シタラビン (AraC) キロサイド注 75mg/ m2 静脈内注射 day 36, 1013, 17 20, メルカプトプリン (6MP) ロイケリン散 60mg/

審査結果 平成 23 年 4 月 11 日 [ 販 売 名 ] ミオ MIBG-I123 注射液 [ 一 般 名 ] 3-ヨードベンジルグアニジン ( 123 I) 注射液 [ 申請者名 ] 富士フイルム RI ファーマ株式会社 [ 申請年月日 ] 平成 22 年 11 月 11 日 [ 審査結果

抗ヒスタミン薬の比較では 抗ヒスタミン薬は どれが優れているのでしょう? あるいはどの薬が良く効くのでしょうか? 我が国で市販されている主たる第二世代の抗ヒスタミン薬の臨床治験成績に基づき 慢性蕁麻疹に対する投与 2 週間後の効果を比較検討すると いずれの薬剤も高い効果を示し 中でもエピナスチンなら

性黒色腫は本邦に比べてかなり高く たとえばオーストラリアでは悪性黒色腫の発生率は日本の 100 倍といわれており 親戚に一人は悪性黒色腫がいるくらい身近な癌といわれています このあと皮膚癌の中でも比較的発生頻度の高い基底細胞癌 有棘細胞癌 ボーエン病 悪性黒色腫について本邦の統計データを詳しく紹介し

1.若年性骨髄単球性白血病の新規原因遺伝子を発見 2.骨髄異形症候群の白血病化の原因遺伝子異常を発見

表紙69-5,6_v10.eps

査を実施し 必要に応じ適切な措置を講ずること (2) 本品の警告 効能 効果 性能 用法 用量及び使用方法は以下のとお りであるので 特段の留意をお願いすること なお その他の使用上の注意については 添付文書を参照されたいこと 警告 1 本品投与後に重篤な有害事象の発現が認められていること 及び本品

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

膵臓癌について

学会名 : 日本免疫不全症研究会 アンケート 1 1. アンケート 2 に回答する疾患名 (1) X 連鎖無 γ グロブリン血症 (2) 慢性肉芽腫症 2. 移行期医療に取り組むしくみあり :1 年に1 回の幹事会で 毎年 discussion している また 地区ごとの地方会で 内科の先生方にいか

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

16_研修医講義.ppt

がん化学(放射線)療法レジメン申請書

はじめに この 成人 T 細胞白血病リンパ腫 (ATLL) の治療日記 は を服用される患者さんが 服用状況 体調の変化 検査結果の経過などを記録するための冊子です は 催奇形性があり サリドマイドの同類薬です は 胎児 ( お腹の赤ちゃん ) に障害を起こす可能性があります 生まれてくる赤ちゃんに

要望番号 ;Ⅱ 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 1) 1. 要望内容に関連する事項 要望 者 ( 該当するものにチェックする ) 優先順位 学会 ( 学会名 ; 日本ペインクリニック学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 2 位 ( 全 4 要望中 )


Microsoft Word - ③中牟田誠先生.docx

するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

95_財団ニュース.indd

9章 その他のまれな腫瘍

094.原発性硬化性胆管炎[診断基準]


背部痛などがあげられる 詳細な問診が大切で 臨床症状を確認し 高い確率で病気を診断できる 一方 全く症状を伴わない無症候性血尿では 無症候性顕微鏡的血尿は 放置しても問題のないことが多いが 無症候性肉眼的血尿では 重大な病気である可能性がある 特に 50 歳以上の方の場合は 膀胱がんの可能性があり

1 8 ぜ 表2 入院時検査成績 2 諺齢 APTT ALP 1471U I Fib 274 LDH 2971U 1 AT3 FDP alb 4 2 BUN 16 Cr K4 O Cl g dl O DLST 許 皇磯 二 図1 入院時胸骨骨髄像 低形成で 異常細胞は認め

<4D F736F F D2089BB8A7797C C B B835888E790AC8C7689E6>

限局性前立腺がんとは がんが前立腺内にのみ存在するものをいい 周辺組織やリンパ節への局所進展あるいは骨や肺などに遠隔転移があるものは当てはまりません がんの治療において 放射線療法は治療選択肢の1つですが 従来から行われてきた放射線外部照射では周辺臓器への障害を考えると がんを根治する ( 手術と同

<4D F736F F D20322E CA48B8690AC89CA5B90B688E38CA E525D>

中医協総 再生医療等製品の医療保険上の取扱いについて 再生医療等製品の保険適用に係る取扱いについては 平成 26 年 11 月 5 日の中医協総会において 以下のとおり了承されたところ < 平成 26 年 11 月 5 日中医協総 -2-1( 抜粋 )> 1. 保険適

PowerPoint プレゼンテーション

1508目次.indd

Transcription:

日医大医会誌 2015; 11(4) 181 特集 血液内科診療の展望 小児白血病治療の現状と展望 植田 高弘 日本医科大学小児科学 Current Status and Perspectives of Acute Leukemia in Children Takahiro Ueda Department of Pediatrics, Nippon Medical School. はじめに. 小児がんとは 小児の白血病はかつて不治の病のひとつであった. しかし治療成績はこの 30 年で飛躍的に進歩し, 今日では小児急性リンパ性白血病 (ALL) の長期生存率は約 80%, 一部の病型では 90% を超えている. 急性骨髄性白血病 (AML) においても, 化学療法および造血幹細胞移植により 70% の長期生存率が得られている. このような治療成績向上の要因は, 予後因子に基づいた適切な層別化, 感染症対策などの支持療法の進歩, また既存薬剤の組み合わせを最適化する治療戦略の進化と, 多施設共同臨床試験の積み重ねと考えられる. 現在日本を含む先進諸外国では, 小児白血病の大多数の症例が多施設共同臨床試験で治療されている. 本邦では, 日本小児白血病リンパ腫研究グループ (JPLSG) による全国統一プロトコールにて, 全国どこでも同じ治療が行われている. また治癒率の向上とともに, 晩期合併症回避など生活の質 (QOL) を考慮した治療法の確立と, 小児がん経験者に対する長期フォローアップの必要性が求められている. 今回は1 小児がんについて 2 小児白血病の現状と展望について 3 AYA 世代 (15 歳 ~29 歳 ) の急性リンパ性白血病治療の現状と展望について 4 小児がん医療体制の変革についての 4 つのパートに分けて概説していきたい. 小児がんとは 15 歳以下の小児に発症する悪性新生物を指す. 表 に示すようにいずれの年代でも小児の死亡原因の上位にランクされている. 頻度は年間 2,000 ~2,500 人で 90% は肉腫 (= 非上皮性悪性新生物 ) であり, 成人癌に比べて未分化な腫瘍や急速に進行する腫瘍が多い一方で, 化学療法 放射線療法の感受性が高く治癒率は全体で 70% 程度である. 小児がんと言っても鑑別すべき疾患は多岐にわたり, しかも一つ一つの疾患数が必ずしも多くないため, 時に診断は困難を極めることもあり, 現在では自施設診断以外に小児悪性腫瘍専門の病理医の診断などをうける中央診断体制をとっている. 正しい診断をつけて適切な治療を行うことが何より重要である 1. その他白血病治療にも言えることであるが, 小児がん特有の問題点として 1. 治ったあとの晩期合併症対策 2. 治療中 / 後の就学について 3. 感染対策 ( 治療中 治療後 ) 4. 家族や兄弟の問題など小児患者特有の問題があり長期フォローが必要である.. 小児白血病について 小児がんのなかで最も多く, 年間約 850 人が発症する. 急性白血病が約 95% を占め, そのうち急性リンパ Correspondence to Takahiro Ueda, Department of Pediatrics, Nippon Medical School, 1 1 5 Sendagi, Bunkyo-ku, Tokyo 113 8603, Japan E-mail: yuri878t@nms.ac.jp Journal Website(http://www.nms.ac.jp/jmanms/)

182 日医大医会誌 2015; 11(4) 表 1 小児の死亡原因 年齢 1 位 2 位 3 位 0 歳 先天奇形, 変形および染色体異常 周産期に特異的な呼吸障害など 乳幼児突然死症候群 1~4 歳 先天奇形, 変形および染色体異常 不慮の事故 悪性新生物 5~9 歳 不慮の事故 悪性新生物 先天奇形, 変形および染色体異常 10~14 歳 悪性新生物 不慮の事故 自殺 15~19 歳 自殺 不慮の事故 悪性新生物 人口動態統計 (2012 年 ) 表 2 白血病細胞を調べるために行われる検査 性白血病 (ALL) が 70% と最も多く, 次いで急性骨髄性白血病 (AML) が 25% である. このほかに慢性骨髄性白血病 (CML) や骨髄異形性症候群 (MDS) などがある. さらに ALL のうち B 前駆細胞型が 75%,T 細胞型が 15% を占めている. 初発症状は白血病細胞による正常造血の障害が原因の感染症状 貧血症状 出血傾向と, 臓器浸潤により生じる肝脾腫, 骨浸潤からくる骨痛, 中枢神経浸潤が原因の頭痛や顔面神経麻痺が代表的である. 縦隔腫瘤は T 細胞型 ALL に多く, 腫瘤形成は AML や CML など骨髄性白血病に多い. 診断は骨髄を顕微鏡で見て白血病細胞があるか, また白血病の細胞表面に出ている分子を調べることにより ( 細胞表面マーカー )ALL(B 前駆細胞型か,T 細胞型か ) か AML かなど白血病のタイプを同定し, さらに白血病細胞の染色体 遺伝子検査を施行することにより予後を予測し治療内容を決定していく ( 表 ). 1 急性リンパ性白血病表 に示すように小児急性リンパ性白血病の治療成績はここ 30 年あまりで劇的に改善している 2. 治療の 基本は化学療法で, 寛解導入療法, 強化療法, 維持療法の 3 段階で 2 年ほどかけて行う. 骨髄に正常細胞が現れ白血病細胞が 5% 未満になる完全寛解は,98% の患児で得られている. その後強化療法とともに中枢神経にたいする白血病細胞浸潤予防 ( 髄液移行性を考慮した抗がん剤の大量療法や髄注, 時に頭蓋放射線療法 ) が大切な柱になっている. そして再発や特殊な病型に対しては造血幹細胞移植を用いた治療を行っている. 現在の白血病治療に使われている薬剤はほとんど 30 年以上前に開発されたものばかりであり, 治療向上に大きく寄与したのは, 下記に示す予後因子の同定と, それに基づく適切な治療法の導入および既存薬剤の組み合わせを最適化する治療戦略の進化である. それらは, 無作為割り付け試験を含む多施設共同臨床試験によりもたらされた. 1 歳以上の ALL の予後因子 年齢 白血球数 免疫学的分類 中枢神経浸潤の有無

日医大医会誌 2015; 11(4) 183 表 3 ALL の治療成績 文献 2 より引用 表 4 小児 ALL における遺伝子異常と頻度 文献 4 より引用 初期治療反応性( 初期ステロイド反応 ) 寛解の有無 分子遺伝学的特徴 寛解後微少残存病変の有無 (MRD:Minimal residual Disease) 予後良好群においては治療強度を減弱することで治療成績を保ちながら, 治療の短期 長期合併症を減らすことが目標とされている. 現在新たな評価法による予後予測として, 治療反応性をみる微小残存病変 (MRD) が注目されている. 光学顕微鏡では認識でき ないレベルの白血病細胞の残存を,PCR(Ig/TCR) やフローサイトメトリーにより 10-3 ~10-5 の腫瘍細胞を検出できるようになった. そして, 治療開始後一定の時期での MRD の残存が強力に予後と相関することが分かってきた 3. また, 最近の biology の進歩から小児の ALL は事実上すべての症例で何らかの遺伝子異常を有することが明らかになり ( 表 ), その中には予後との関連で重要なものもあり, 予後不良群には, 現行の投与薬剤を単純に増量することは難しいため, 異常分子標的治療を含め新たな治療戦略が期待されてい

184 日医大医会誌 2015; 11(4) 表 5 15 ~ 20 歳における ALL 治療比較 文献 6 より引用 改変 る 4. 2 急性骨髄性白血病 AML の治療も化学療法が基本だが,ALL とは異なり寛解導入療法後強化療法を 3~5 回繰り返してほぼ 6 ~8 カ月で終了する.ALL と同じく層別化治療が行われており下に示すような染色体 遺伝子分析結果および初期治療反応性を用いた予後因子によって, 標準リスクと高リスクに分けて治療施行されている. 予後因子 : 分子遺伝学的異常 初期治療反応性 予後良好 t(8;21)(q22;q22),aml1(runx1)-mtg8 (ETO,RUNX1T1) inv(16)(p13;q22),t(16;16)(p13;q22), CBFB-MYH11 初期治療終了後 28 日内に行う骨髄検査で骨髄芽球 <5% かつ骨外浸潤なし 予後不良 -7 5q- FLT3-ITD 陽性 t(16;21)(p11;q22),fus-erg Ph1 染色体陽性 MLL-AF6 NUP98-NSD1 初期治療終了後 28 日内に行う骨髄検査で骨髄芽球 5% または髄外侵潤残存全体の治療期間は ALL より短いが, 高リスク群に おいては造血幹細胞移植による治療が行われている. 日本における 5 年生存率は全体で 75% と世界でもトップレベルの治療成績が得られている. 最後に, 小児白血病が治癒してから成人へとなった小児がん経験者が増加してきており, それに伴い晩期障害が注目されてきている. 成長期に強力な化学療法による治療を受けた影響で, 発がんリスクの増加や下記にあるような種々の問題点があることが明らかになってきており, 治療後も長期にわたるフォローアップが必要である. 治療後の晩期障害 低身長放射線治療や抗がん剤による成長ホルモン分泌障害 白質脳症放射線療法, メトトレキサートの髄注 心機能障害アントラサイクリン系薬剤の心毒性による 輸血後肝炎 HCV など 社会適応学校, 就職, 結婚 不妊 以前治療した患者への告知の問題 心的外傷後ストレス障害(PTSD) 2 次がん化学療法の影響で数年から 10 年前後でほかのがんになる 発がんリスクそのものの上昇

日医大医会誌 2015; 11(4) 185. 世代 ( ~ 歳 ) 急性リンパ性白血病の 治療と展望小児がんの治療成績は向上し生存率は 70% を超えているが, 小児と成人のはざまにある思春期 若年成人 (adolescent and young adult, 以下 AYA 世代 ) のがんについては, あまり注目されてこなかった. 米国のデーターから AYA 世代のがん患者の 5 年生存率の改善が, 小児や成人に比べて劣っていることが明らかとなった 5. わが国では AYA 世代のがんに関する疫学データーはほとんど示されていないが,ALL では, 精度の高い大阪府の統計によると,5 年生存率は 15~19 歳 52.5%,20~19 歳 44.9% vs 0~14 歳 82.3% となっており,AYA 世代の生存率が有意に低く欧米と同様の傾向を示した. 白血病は,AYA 世代のがんの 10% 前後を占め, 年齢とともに ALL が減り AML の割合が増えてくる.AYA 世代の ALL の特徴は, 小児期に比べ予後良好とされている染色体の異常や分子遺伝学異常が少なくなり, 予後不良とされる因子が増加してくる 5.AYA 世代の ALL については小児レジメンの有効性が示されており ( 表 ), その主な要因はビンクリスチン (VCR),L- アスパラギナーゼ (ASP), ステロイド剤の投与量と, メトトレキサート (MTX) の髄腔内注射の回数が成人プロトコールに比べて多い点, 治療層別化による治療強化, および治療スケジュールの遵守である 6. 一方小児プロトコールによる治療では, 年齢が上昇するにつれて, 血栓症などの治療関連合併症が増加するといった報告もあり 7, 支持療法含めて慎重に対応する必要がある. 今後 AYA 世代においても臨床試験をもちいた多施設共同研究が望まれる. そして小児より多く認める治療関連合併症に慎重に対応しながら, 今後小児科と血液内科のさらなる連携による治療開発が期待される.. 小児がん医療体制の変革について小児血液悪性疾患の臨床研究は,JPLSG が中心になって行ってきた.JPLSG は 2003 年に設立され,2012 年に NPO 法人となり日本小児血液悪性治療の治療研究を一手に担っており, 全国どこでも同じ診断 治療が受けられる体制を構築してきた. 国際治療研究にも積極的に参加するようになり, 世界における日本の役割を確固たるものにしてきている.2015 年 6 月には固形腫瘍の治療研究グループと統合する形で, 日本小児がん研究グループ (JCCG) という大きな枠組みが設立 された. さらに,2012 年に閣議決定された新しい がん対策推進基本計画 において, 重点的にとりくむ課題に 小児へのがん対策の充実 が追加された. これを受けて小児がん診療の集約化と均てん化を目指し, 地域で小児がん診療の中心的役割を担う 小児がん拠点病院 として, 全国 7 ブロックから 15 施設が選定された. これは日本における小児がん医療の大きな変革であり, 小児がん患者とその家族が, 安心して適切な医療や支援を受けられるような環境を整備するとともに, 再発 難治性疾患に対する新たな治療開発も積極的に施行していくことも求められている.. おわりに もはや小児白血病は治る時代に入ってきている. より質の高い医療を提供するとともに患者目線の医療体制を確立するため, 1 小児がん拠点病院を中心に緩やかな集約化をすすめる. 2 臨床研究グループの一本化により, 欧米に対抗できる効率的な臨床研究を実施する. 3 新薬や未承認薬, 適応外使用などの臨床治験をスムーズに行いドラッグラグを解消する. 4 AYA 世代の難治がんに対する治療開発と患者の立場に立った円滑な診療体制を整備する. 5 次世代シークエンサーなどを用いた網羅的遺伝子解析などを用いてあらたな階層化治療法を開発する. 6 長期フォローアップ体制を確立し, 小児がん経験者たちのフォローを確実にする. などが今後の展望として挙げられている. 将来的には白血病細胞の特性を, 基礎研究をもとに様々な方法で解析し, それらの結果に基づいて一人ひとりの白血病患者の特性に応じたテーラーメイド医療の提供ができる体制が期待される. 文 1. 東京都小児がん診療連携協議会編 : 小児がんハンドブック,2015, 東京都. 2. Inaba H, Greaves M, Mullighan CG: Acute lymphoblastic leukaemia. Lancet 2013; 381: 1943 1955. 3. Pui CH, Carroll WL, Meshinchi S, et al.: Biology, risk stratification, and therapy of pediatric acute leukemias: an update. J Clin Oncol 2011; 29: 551 565. 4. Mullighan CG. The molecular genetic makeup of acute lymphoblastic leukemia ASH Education Book 2012; 389 396. 5. 中田佳代, 井岡亜希子, 井上雅美ほか :AYA (adolescent and young adult) 世代のがんの疫学と医療, 特に白血病の治療方針について. 日本小児血液が 献

186 日医大医会誌 2015; 11(4) ん学会雑誌 2014; 51: 120 126. 6. Stock W, La M, Sanford B, et al.: What determines the outcomes for adolescents and young adults with acute lymphoblastic leukemia treated on cooperative group protocols? A comparison of Children s Cancer Group and Cancer and Leukemia Group B studies. Blood 2008; 112: 1646 1654. 7. Barry E, DeAngelo DJ, Neuberg D, et al.: Favorable outcome for adolescents with acute lymphoblastic leukemia treated on Dana-Farber Cancer Institute Acute Lymphoblastic Leukemia Consortium Protocols. J Clin Oncol 2007; 25: 813 819. ( 受付 :2015 年 8 月 8 日 ) ( 受理 :2015 年 10 月 14 日 )