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ふくしまからはじめよう 農業技術情報 ( 第 39 号 ) 平成 25 年 4 月 22 日 カリウム濃度の高い牧草の利用技術 1 牧草のカリウム含量の変化について 2 乳用牛の飼養管理について 3 肉用牛の飼養管理について 福島県農林水産部 牧草の放射性セシウムの吸収抑制対策として 早春および刈取

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乳牛の繁殖技術と生産性向上

A 農場の自家育成牛と導入牛の HI 抗体価の と抗体陽性率について 11 年の血清で比較すると 自家育成牛は 13 倍と 25% で 導入牛は 453 倍と % であった ( 図 4) A 農場の個体別に症状と保有している HI 抗体価の と抗体陽性率を 11 年の血清で比較した および流産 加療

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現在 本事業で分析ができるものは 1 妊娠期間 2 未経産初回授精日齢 3 初産分娩時日齢 / 未経産妊娠時日齢 4 分娩後初回授精日 5 空胎日数 6 初回授精受胎率 7 受胎に要した授精回数 8 分娩間隔 9 供用年数 / 生涯産次 10 各分娩時月齢といった肉用牛繁殖農家にとっては 極めて重要

発育が良 ジを受け弱ってしまうので ウイルスなどに感染しやすくなります 風邪は鼻や気管粘膜に付着した細菌やウイルスにより感染し 発病に至ります とくに子牛は床に近いところで呼吸するので ほこりやアンモニアの刺激を受けやすいと言えます これら刺激から守るためには 換気を心がけましょう 舎内が凍らない程

25 岡山農総セ畜研報 4: 25 ~ 29 (2014) イネ WCS を主体とした乾乳期飼料の給与が分娩前後の乳牛に与える影響 水上智秋 長尾伸一郎 Effects of feeding rice whole crop silage during the dry period which exp

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2) 飼養管理放牧は 5 月から 11 月の期間中に実施した 超音波検査において受胎が確認された供試牛は 適宜退牧させた 放牧開始時および放牧中 3 週間毎に マダニ駆除剤 ( フルメトリン 1 mg/kg) を塗布した 放牧には 混播永年草地 2 区画 ( 約 2 ha 約 1 ha) を使用し


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B 農場は乳用牛 45 頭 ( 成牛 34 頭 育成牛 7 頭 子牛 4 頭 ) を飼養する酪農家で 飼養形態は対頭 対尻式ストール 例年 BCoV 病ワクチンを接種していたが 発生前年度から接種を中止していた 自家産牛の一部で育成預託を実施しており 農場全体の半数以上の牛で移動歴があった B 農場

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褐毛和種(熊本系)の遺伝的能力の推移について

はじめに 現在 国内酪農を取り巻く情勢は 飼料価格の上昇 後継者不足および飼養頭数の減少などの大きな変化によって 生産基盤の弱体化が懸念されており 一方で 消費者の需要の多様化や国際環境の変化等により 今後の酪農経営の発展に向けた好機となっています 近年 人口減少等により国内需要の減少が見込まれる中

焼酎粕飼料を製造できることを過去の研究で明らかにしている ( 日本醸造協会誌 106 巻 (2011)11 号 p785 ~ 790) 一方 近年の研究で 食品開発センターが県内焼酎もろみから分離した乳酸菌は 肝機能改善効果があるとされる機能性成分オルニチンを生成することが分かった 本研究では 従来

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部屋に収容した (40 羽 /3.3 平方メートル ) 表 1 試験区分 区 ( 性別 ) 羽数 飼 料 対照区 ( ) 52 通常 ( 市販飼料 ) 対照区 ( ) 52 通常 ( 市販飼料 ) 試験区 ( ) 52 高 CP(4~6w 魚粉 4% 添加 ) 試験区 ( ) 52 高 CP(4~6

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れた。

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2. 栄養管理計画のすすめ方 給食施設における栄養管理計画は, 提供する食事を中心とした計画と, 対象者を中心とした計画があります 計画を進める際は, それぞれの施設の種類や目的に応じて,PDCA サイクルに基づき行うことが重要です 1. 食事を提供する対象者の特性の把握 ( 個人のアセスメントと栄

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血糖値 (mg/dl) 血中インスリン濃度 (μu/ml) パラチノースガイドブック Ver.4. また 2 型糖尿病のボランティア 1 名を対象として 健康なボランティアの場合と同様の試験が行われています その結果 図 5 に示すように 摂取後 6 分までの血糖値および摂取後 9 分までのインスリ


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(2) 牛群として利活用 MUNを利用することで 牛群全体の飼料設計を検討することができます ( 図 2) 上述したようにMUN は 乳蛋白質率と大きな関係があるため 一般に乳蛋白質率とあわせて利用します ただし MUNは地域の粗飼料基盤によって大きく変化します 例えば グラスサイレージとトウモコシ

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1. はじめに肉用牛の飼養管理は, 頭数増加や飼育技術の進歩により変化する. たとえば, 農家当たりの飼養頭数増加は, 作業者数や 1 人当たりの作業時間に変化がなければ,1 頭当たりの作業時間を短縮させる. こうした状況は, 作業者数の増加や, 機械化による省力化を進めることで, 補うことが行われ

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毎回紙と電卓で計算するより パソコンの表計算ソフトを利用して計算されることをすすめます パソコンは計算と記録が同時にできますから 経営だけでなく飼養管理や繁殖の記録にも利用できます 2) 飼料設計項目ア.DMI TDN CP NFC a.dmi( 乾物摂取量 ) 水分を除いた飼料摂取量のことです 飼


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2006 PKDFCJ

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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( 図 2-A-2-1) ( 図 2-A-2-2) 18

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ポイント 2 風よけのカーテン ࢥɈ ᆅ 赤外線ヒーター 壹岐畜産では生後 3 ヵ月齢 ほ乳瓶入れで省力化 で離乳 3 ヵ月齢からは群飼 で飼養している 特に生後 3 4 ヵ月齢の子牛の管理は この時期に 大切とのこと 体調を崩した子牛は肥育して からも良い牛にはならない と奥さんの千穂さん そのた

Q8. 犬の飼育管理を何人で行っていますか? ( 人数を記入 ) ( ) 人 2. 飼育施設について Q9. 犬舎は主にどこにありますか? ( はあてはまるものすべて ) 1. 人が住む建物の中にある 2. 人が住む家とは別の建物の中にある Q10. 犬舎には 外の光が入るような窓などがありますか?

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2) エネルギー 栄養素の各食事からの摂取割合 (%) 学年 性別ごとに 平日 休日の各食事からのエネルギー 栄養素の摂取割合を記述した 休日は 平日よりも昼食からのエネルギー摂取割合が下がり (28~31% 程度 ) 朝食 夕食 間食からのエネルギー摂取割合が上昇した 特に間食からのエネルギー摂取

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通常 繁殖成績はなかなか乳量という生産性と結びつけて考えることが困難なのですが この平均搾乳日数という概念は このように素直に生産性 ( 儲け ) と結びつけて考えることができます 牛群検定だけでなく色々な場面で非常に良く使われている数値になりますので覚えておくと便利です 注 1: 平均搾乳日数平均

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胎児計測と胎児発育曲線について : 妊娠中の超音波検査には大きく分けて 5 種類の検査があります 1. 妊娠初期の超音波検査 : 妊娠初期に ( 異所性妊娠や流産ではない ) 正常な妊娠であることを診断し 分娩予定日を決定するための検査です 2. 胎児計測 : 妊娠中期から後期に胎児の発育が正常であ

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自然哺育におけるにおける黒毛和種子牛黒毛和種子牛の早期離乳試験 上村圭一 谷原礼諭 山下洋治 高橋和裕 Early weaning examination of the black-haired Japanese cow calf in Natural nursing Keiichi UEMURA, Ayatsugu TANIHARA, Youji YAMASHITA, Kazuhiro TAKAHASHI 要約自然哺育の黒毛和種子牛を生後 3 ヶ月と 2 ヶ月で離乳し 発育等への影響を調査したところ以下の結果を得た 1. 人工乳の摂取量は 2 ヶ月離乳の方が約 2kg 多く摂取した 2.14 週齢での血中 β-ヒドロキシ酪酸濃度は 2 か月離乳の方が高く 成牛並みの値であった 3.14 週齢までの血中グルコースは どちらも発育停滞が起きるほどの減少はみられなかった 4. 牛の場合 どちらとも家畜改良増殖目標 ( 平成 17 年 3 月 3 日現在 ) における肥育開始時 (8 ヶ月 ) の体重 (24kg) を達成した 5.8 ヶ月齢の測定値では 牛 牛ともに 3 ヶ月離乳は平均的な発育であったが 2 ヶ月離乳の方はさらに発育が良く 斉一性も良かった このことから どちらも子牛育成期間の短縮が可能であったが 2 ヶ月離乳の方が発育が良かった 緒言黒毛和種子牛は哺乳方法により 自然哺乳と超早期母子分離による人工哺乳に分かれている 最近では 肉牛一貫経営や酪農経営など集約経営の場合 分娩後 1 週間以内に母子を別居させ 人がミルクを数ヶ月与えた後に離乳する超早期母子分離による人工哺乳が増加してきているが 主流となっているのは自然哺乳である 自然哺乳は 母牛の乳量が子牛の発育に影響し 2 ヶ月齢までの増体量と相関が高いことが報告されている 1,2,3) しかし 母牛の泌乳能力は個体差が大きいため 能力の低い母牛の子牛は哺乳期の発育が遅れることもあり その後の育成期における発育に悪影響を及ぼすことが指摘されている 4) また 母乳から得る栄養は個体差にもよるが 1 ヶ月齢以降の子牛の栄養としては不足してくる 5) このため育成期の発育を向上させるには 哺乳期の発育が大事である そのことから母乳の栄養を十分に吸収ができ 尚且つ母牛の泌乳能力に影響されない時期に離乳させる早期離乳が必要となってくる さらに 子牛には離乳によるストレス ( 栄養性ストレス ) を与えないよう十分に固形飼料 ( 人工乳 ) を食べさせる必要がある また 家畜改良増殖目標 ( 平成 17 年 3 月 3 日現在 ) では 黒毛和種牛の肥育期間を 3 ヶ月から 24~26 ヶ月への短縮を目標としている そして 肥育開始時を現在の 9.5 ヶ月から 8 ヶ月に早めている しかし 肥育期間の短縮が進んでいないのが現状で この目標達成には 子牛育成期間を短縮し効率的に肥育を開始する必要がある 以上のことから子牛育成期間の短縮には早期離乳が必須になると考えた 香川畜試報告 47(212) 1 8-1 -

そこで 本研究では 哺乳で子牛を十分に育て 尚且つ離乳によるストレスを与えないよう固形飼料 ( 人工乳 ) を十分に食べさせることを注意し これまで自然哺乳の早期離乳とされている 3 ヶ月 (9 日 ) と更に1ヶ月早めた 2 ヶ月 (6 日 ) に離乳する早期離乳試験を実施し 子牛の発育および斉一性について調査した 材料及び方法 1. 供試牛当試験場で生産された黒毛和種子牛 24 頭 ( 牛 12 頭 牛 12 頭 ) を供した 2. 試験区分 試験区は 3 ヶ月離乳群の牛 (6 頭 ) 牛 (6 頭 ) 2 ヶ月離乳群の牛 (6 頭 ) 牛 (6 頭 ) の 4 区を設定した 3. 給餌飼料及び飼養管理方法 1) 母牛配合飼料 ( ロイヤルステップ : 西日本飼料株式会社 ) は分娩予定日の 2 週間前から 1.5Kg/ 日給与した 分娩後 3.Kg/ 日に増飼した 子牛に発育停滞が起きないよう離乳予定日の 3 週間前から 2.Kg/ 日 1.Kg/ 日.5Kg/ 日と1 週間ごとに母牛の濃厚飼料を徐々に減らすことで乳量を減らした 2) 子牛乾草 ( オーツヘイ ) は 3 日齢までの遊び食いから 6 日齢にかけて徐々に増加し それ以降は不断給餌とし 人工乳 ( カーフビルダー S: 西日本飼料株式会社 ) は 生後 5 日目から与え 最大 2kg の不断給餌とした 人工乳から育成飼料への変更は 3 週間かけて徐々に行い 給餌量は 牛 DG.9Kg DG.8K 6,7) gに設定し両区とも同量給餌した なお 飼料計算を行う時の粗飼料の給餌量は 既報を基に推定値で行った 4. 調査検査の項目及び方法 1) 人工乳の摂取量の測定人工乳の摂取量は 毎日 給餌量から残量を差し引いて 1 日分の摂取量を測量した 2) 血中 β-ヒドロキシ酪酸濃度の測定第一胃の発達の指標となる血中 β-ヒドロキシ酪酸濃度は生後 4 週齢から 14 週齢まで 2 週間毎に採血し 血液を遠心分離した後 血清をケトフィルム ( 三和科学研究所 ) に添加しケトメーター N( 三和科学研究所 ) で測定した 3) 血中グルコース濃度の測定発育停滞の指標となる血中グルコース濃度は 生後 4 週齢から 14 週齢まで 2 週間毎に採血し 血液を遠心分離した後 血清を富士ドライケムスライド GLU-PⅢ( 富士フィルム ) に添加し富士ドライケム 35V( 富士フィルム ) で測定した 4) 発育調査発育調査は 生後から 8 ヶ月齢まで 1 ヶ月ごとに実地した 体重はツルーテスト EC-2-8 ( 富士平工業 ) で 体高は牛体測定器ホル協式 ( 富士平工業 ) で 胸囲および腹囲は体重推定尺和牛用 A( 富士平工業 ) で測定した 香川畜試報告 47(212) 1 8-2 -

5. 試験期間 試験期間は平成 21 年 4 月 ~ 平成 23 年 1 月とした 6. 統計処理 体高 体重 胸囲などの測定値の平均値における差を t 検定にて統計処理し 5% 水準の危険率で 有意差を示した 成績 1) 人工乳の摂取量 人工乳の摂取量は 離乳とともに増加し最終的には 3 ヶ月離乳群のが 75.4Kg が 75.8Kg に対し 2 ヶ月離乳群のが 95.9Kg が 95.3Kg とそれぞれ約 2Kg 多く摂取していた ( 表 1) 表 1 人工乳の摂取量 ( 累計 ) 試験区 3ヶ月 2ヶ月 3 ヶ月 2 ヶ月 ~3 日 1.5 1.4 1.5 1.5 ~6 日 9. 14.8 8.9 13.3 ~9 日 35.8 59.5 44.1 56.7 ~119 日 75.4 95.9 75.8 95.3 単位 : Kg 2) 血中 β-ヒドロキシ酪酸濃度左が 右がで 黄色が 2 か月離乳群 赤色が 3 ヶ月離乳群を示している ともにβ-ヒドロキシ酪酸は経時的に上昇し 特に離乳後から急上昇した 14 週齢では の 3 ヶ月離乳群の 335μmol/L に対し 2 ヶ月離乳群が 46μmol/L と成牛並みの値であった も同様に 3 ヶ月離乳群の 274μmol/L に対し 2 ヶ月離乳群が 418μmol/L と成牛並みの値であった ( 図 1) 香川畜試報告 47(212) 1 8-3 -

μmol/l 45 45 4 4 35 35 3 3 25 25 2 2 15 2ヶ月 15 3ヶ月 5 5 4 6 8 1 12 14 4 6 8 1 12 14 週 週 図 1 β- ヒドロキシ酪酸濃度 3) 血中グルコース濃度 ともに血中グルコース濃度は経時的に減少し 特に離乳後から急減少した しかし 発 育停滞が多く起きるとされる 3mg/dl 以上の減少は見られなかった ( 図 2) mg/dl 14 14 12 12 8 8 6 6 4 2 2ヶ月 4 3ヶ月 2 4 6 8 1 12 14 4 6 8 1 12 14 週週 図 2 血中グルコース濃度 4) 発育調査 1 体重測定 体重は ともに 2 ヶ月頃から差が出始め 経時的に差は広がり 8 ヶ月齢まで差がついていた ( 図 3) 香川畜試報告 47(212) 1 8-4 -

Kg 3 25 3 25 2 2 15 15 5 2 ヶ月 3 ヶ月上限値 下限値 ( 全和 ) 5 1 2 3 4 5 6 7 8 1 2 3 4 5 6 7 8 月月 図 3 体重 2 体高測定 体高は ともに 2 ヶ月頃から差が出始め 経時的に差は広がり 8 ヶ月齢まで差がついて いた ( 図 4) cm 115 11 15 95 9 85 8 75 2 ヶ月 3 ヶ月上限値 下限値 ( 全和 ) 1 2 3 4 5 6 7 8 月 115 11 15 95 9 85 8 75 7 図 4 体高 1 2 3 4 5 6 7 8 月 3 胸囲測定 胸囲は ともに 2 ヶ月頃から差が出始め 経時的に差は広がり 8 ヶ月齢まで差がついて いた ( 図 5) 香川畜試報告 47(212) 1 8-5 -

cm 16 15 14 13 12 11 9 8 7 2 ヶ月 3 ヶ月上限値 下限値 ( 全和 ) 1 2 3 4 5 6 7 8 月 15 14 13 12 11 9 8 7 6 図 5 胸囲 1 2 3 4 5 6 7 8 月 4 牛の 8 ヶ月齢の測定値 3 ヶ月離乳群の体重 体高 胸囲は 正常発育曲線 のほぼ平均値で 2 ヶ月離乳群は上限値近くの値であった また DG 腹囲も 2 ヶ月離乳群の方が大きい値であった 胸腹差は第一胃の発達の指標となり 8 ヶ月齢で 3cm 以上が目安とされ 両群とも達成し さらに 2 ヶ月離乳群の方が上回っていた また 各項目の標準偏差は 2 ヶ月離乳群の方が小さく 斉一性が高い傾向であった ( 表 2) 表 2 8 ヶ月齢の測定値 ( ) 試験区体重 (Kg) DG(Kg/day) 体高 (cm) 胸囲 (cm) 腹囲 (cm) 胸腹差 (cm) 3ヶ月 25 ± 25.7.91 ±.99 11 ± 4.2 147 ± 5.1 176 ± 8.5 3 ± 4.4 2ヶ月 273 ± 13.1 1. ±.54 113 ± 2.5 152 ± 3.8 185 ± 4.3 34 ± 1.4 有意差 : *(P<.5) 平均 ± 標準偏差 5 の 8 ヶ月齢の測定値 3 ヶ月離乳群の体重 体高 胸囲はほぼ平均値で 2 ヶ月離乳群は上限値近くの値であった また DG 腹囲も 2 ヶ月離乳群の方が大きい値で 体重 胸囲 胸腹差の 4 項目において有意差が認められた 香川畜試報告 47(212) 1 8-6 -

胸腹差も 2 ヶ月離乳群の方が 3cm を上回った また 各項目の標準偏差は 2 ヶ月離乳群の方が小さく 斉一性が高い傾向であった ( 表 3) 表 3 8 ヶ月齢の測定値 ( ) 試験区体重 (Kg) * DG(Kg/day) * 体高 (cm) 胸囲 (cm) * 腹囲 (cm) 胸腹差 (cm) * 3ヶ月 223 ± 15.4.81 ±.7 15 ± 2.9 141 ± 3.9 169± 6.3 29 ± 3.4 2ヶ月 249 ± 14.7.91 ±.64 18 ± 1.4 145 ± 3.3 178 ± 5.2 34 ± 2.2 有意差 : *(P<.5) 平均 ± 標準偏差 考察 自然哺育による早期離乳は 一般に 3 ヶ月とされていたが 今回の結果から 2 ヶ月でも離乳は可能であり どちらも子牛育成期間の短縮が可能であったが 2 ヶ月離乳の方が発育が良いことが示唆された さらに 2 ヶ月離乳群の方がβ-ヒドロキシ酪酸濃度や胸腹差から 第一胃がより発達し 8 ヶ月齢の測定値から発育および斉一性が良いことが示唆された また 子牛は 離乳ストレス や 餌の切替時のストレス などが引き金となり 下痢や肺炎を起こしやすいが 今回の試験では 離乳や餌の切り替えを 3 週間かけてストレスを軽減するなどのストレス対策を実施したことで 早期母子分離方式で見られる栄養不良による発育遅延 消化不良性下痢 肺炎等の疾病などは見られなかった 家畜改良増殖目標 ( 平成 17 年 3 月 3 日現在 ) における牛の肥育開始時 (8 ヶ月 ) の体重は 24Kg とされており 平均値では 2 ヶ月離乳群は 273kg 3 ヶ月離乳群は 25kg と達成した しかし 今回の成績には示してはいないが 2 ヶ月離乳群は 6 頭全てが改良増殖目標を達成したのに対し 3 ヶ月離乳群は 2 頭が 24Kg に達していなかった 今回の離乳時の人工乳採食量と体重の関係は 成績では示していないが次のとおりであった 3 ヶ月離乳の場合 牛は人工乳を 1.8kg 以上 3 日以上連続摂取し 体重が約 kg 以上 は人工乳を 1.8kg 以上 3 日以上連続摂取し 体重が約 9kg 以上であった 2 ヶ月離乳の場合 牛 ともに 人工乳を.7kg 以上 3 日以上連続摂取し 体重が約 8kg 以上であった このことから 家畜改良増殖目標 ( 平成 17 年 3 月 3 日現在 ) における牛の肥育開始時の条件を満たすには 2 ヶ月離乳の場合 人工乳を.7kg 以上 3 日以上連続摂取し 体重が約 8kg 以上と考えられる の場合も良い成績であることから 同条件での離乳が可能と思われた また 最近の報告によると 人工哺育 ( 超早期母子分離 ) における離乳の条件は 体重が 8kg 8) や香川畜試報告 47(212) 1 8-7 -

人工乳の採食量が 3 日連続して.7~1.kg/ 日とされており 9) これらは 今回の 2 ヶ月離乳と同じであり 人工哺育ではなく自然哺育でも達成できることを証明できた 今回の試験から 自然哺育における 2 ヶ月での早期離乳は 黒毛和種の子牛育成期間の短縮が可能であることを確認した 引用文献 1)Shimada K. et al.journal of Animal Science.1:47-53.(1988) 2) 島田和宏ら. 黒毛和種繁殖牛の産乳 哺育に関する研究. 中国農業試験場研究報告.12:57-123. (1993) 3) 野田昌伸ら. 但馬牛における母牛の乳量が子牛の初期発育に及ぼす影響. 兵庫県立農林水産技術総合センター研究報告 ( 畜産 ).35:9-12.(1999) 4) 北村千寿ら. 隠岐島における黒毛和種繁殖牛の泌乳能力改良の可能性. 島根県畜産試験場研究報告.35:9-12.(22) 5) 北海道酪農畜産協会.2 章肥育素牛の管理 (2. ほ育期の管理 ). 新黒毛和種肥育の手引き.21-23. (26) 6) 笹尾浩史ら. 岡山和牛子牛に適した人工哺乳体系の確立. 岡山県総合畜産センター研究報告. 18:35-45.(27) 7) 森本一隆ら. 配合飼料と粗飼料の給与水準の異なる子牛育成技術試験. 鳥取県畜産試験場研究報告.35:2-23.(27) 8) 西織美智子ら. 島根県産の黒毛和種に適した人工哺育体系の検討. 島根県畜産技術センター研究報告 41:6-1.(21) 9) 新名正勝ら. 第 4 章離乳字の生理と管理 ( 第 4 節離乳の方法 ). 子牛の科学. チクサン出版社.194-198. (29) 香川畜試報告 47(212) 1 8-8 -