2018-71 金利上昇局面における債券投資の考え方 ( 期待を活用した債券投資アプローチ ) 2018 年 8 月 9 日 団体年金事業部 に端を発した超低金利 量的緩和政策からの脱却 金利の緩やかな上昇がグローバルで進行する中 債券投資への判断が問われています 本レポートでは 2 回シリーズで 過去の金利上昇局面における債券投資に関わる収益の源泉を分析するとともに 債券投資についての基本的な考え方をご紹介いたします 1 回目の本レポートでは債券投資についての基本的なアプローチ 2 回目のレポートでは日本からの為替ヘッジ外債投資について触れます 1. 債券投資における収益の源泉現地通貨ベース ( 為替リスクを伴わない ) での債券投資における収益の源泉は 次の 3 つの収益要因から構成されます 1 収益 ( 債券のクーポン収入 ) 2 効果 (= 時間の経過とともに債券の利回りが低下し債券価格が上昇する効果 ) 3 キャピタル損益 ( 金利上昇 / 低下に伴う債券価格の変動による損益 ) 例えば 金利上昇によってキャピタル損益 3がマイナスになったとしても 収益 1と効果 2による収益を上回る損失とならなければ 債券投資の収益はプラスとなります 本レポートでは 収益に効果を加味した期待収益を期待と呼ぶこととします 仮に金利上昇となり債券価格下落によるキャピタル損失が発生しても この期待が大きければ損失を緩和する効果が期待できます すなわち 金利上昇 下落に関する見通しが明確でない状況では 安定収益源である期待が相対的に大きい債券に投資することが有効と考えられます 2 債券の効果 1 イールドカーブと効果の概要イールドカーブ ( 利回り曲線 ) は 債券の残存年限を横軸 利回りを縦軸にして 残存年限と利回りの関係を図示したものです ( 図表 1) 通常 将来になるほど不確実性が高まるため 投資家はその分高いリスクプレミアム(=リターンの上乗せ ) を求めます 従って 残存年限が短い債券ほど利回りは低くなり 長いほど高くなるのが一般的です 残存年限と利回りの関係をプロットしていくと右肩上がりの曲線を描くことができ この状態を順イールドと言います イールドカーブの形状に変化がない前提では 図表 1 のとおり残存年限 7 年の債券は 1 年が経過すると残存年限 6 年の債券になります そして イールドカーブの傾きに沿って利回りが低下し 低下した利回り分だけ債券価格が上昇します これを効果と言い この効果によりキャピタルゲインを得ることができます 1
( 図表 1) イールドカーブ ( 順イールドの場合 ) と効果の概念図 利回り 1.4% 効果 1 年 2 年 3 年 4 年 5 年 6 年 7 年 8 年 9 年 10 年 残存年限 7 年の債券は 1 年経過後には残存年限 6 年に その分利回り低下 債券価格は上昇 キャピタルゲイン獲得 残存年限 この効果は イールドカーブがスティープ ( 傾斜がきつい ) であるほど大きくなります 因みに 稀なケース ではありますが イールドカーブが右肩下がりとなることもあります ( 逆イールド ) この場合 効果は得られず 時間の経過とともに債券価格が下落し キャピタル ロスが発生します 3 欧米金利動向ここからは 時価総額の大きい債と国債を例にとり 収益や効果 キャピタル損益といった収益の源泉を踏まえて 実際の債券投資収益の変遷をたどります まず 1999 年 (=ユーロ発足) 以降の米仏 10 年国債金利との政策金利の推移 ( 図表 2) を6つの局面 (1~6) に分けて簡単にコメントすると以下のようになります 7 6 5 ( 図表 2)1999 年度以降の米仏 10 年国債金利と政策金利推移債仏国債政策金利 4 3 2 1 1 2 3 4 5 6 0 1999/3 2001/3 2003/3 2005/3 2007/3 2009/3 2011/3 2013/3 2015/3 2017/3 1 ITバブルによる世界的な株高に伴う好景気を受けた金利上昇 2 同時多発テロ (2001/9) 会計疑惑 その後の景気後退懸念による金利低下 3 減税効果による雇用所得環境の改善 世界的な景気回復により金利上昇 4 サブプライムローン リーマンショックに伴う世界的な金融不安から金利大幅低下 は量的金融緩和へ 5 債格下げ懸念とギリシャ危機に伴う欧州債務問題により量的緩和の拡大 6 景気回復に伴う量的緩和の解除との利上げ再開 2
4 債 国債の債券収益率の要因分解 ( 現地通貨ベース ) 日本から外国債券投資を行う際は為替ヘッジの有無が収益率に大きな影響を与えますが ここではシンプルに債券投資における収益の源泉を分析するために 現地通貨 ( 米ドル ユーロ ) での過去の収益率の実績を要因分解します なお 前述した収益 効果は以下の前提に従い 債券インデックスの収益率から概算しました ( 前提 ) 債券インデックスのリターン( 現地通貨 ) 債券の属性( 利回り デュレーション等 ) はベンチマーク (FTSE-WGBI) の数値を使用 債券の収益は前月末の複利利回りから 1 ヶ月分を月単位で算出 効果は各国( 米仏 ) の 5 年債と 10 年債の利回り差を均等按分したものとインデックスの修正デュレーションから算出 キャピタル損益 = 月次リターン-( 収益 +効果 ) から算出 図表 3は債 国債のインデックスリターン (= 折れ線グラフ ) ですが 月次ベースの収益率であることから金利変化の影響を受ける形で 上下に振れています 一方 債券投資の根幹である収益と効果の推移は安定しておりますが これらは時間の経過とともに徐々にプラス収益として発生するためです 直近 の収益は 低水準にありますが 概ね超低金利状況が継続していることに起因します の収益は 利上げ局面入りにより国債金利が上昇傾向にあることから 水準を切り上げる展開となっています また 効果が相対的にの方が大きいのは イールドカーブの傾きがより大きい ( スティープ ) ためです ( 図表 3)1999 年度以降の 国債インデックスの投資収益率 ( 月次ベース ) % 3.0% % 3.0% % % -% -% - 1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015 2017-1999 2001 2003 2005 2007 2009 2011 2013 2015 2017 上記グラフの期間の債券投資の収益率を で要因分解した平均値 標準偏差が以下となります 月次 リターン キャピタル 平均 0.36% 0.25% 6% 5% 標準偏差 1.24% 0.14% 4% 1.22% 年率換算 リターン キャピタル 平均 4.29% 3.00% 0.71% 0.58% 標準偏差 4.30% 0.48% 0.13% 4.24% 月次 リターン キャピタル 平均 0.38% 0.23% 8% 8% 標準偏差 1.18% 0.13% 4% 1.17% 年率換算 リターン キャピタル 平均 4.55% 2.70% 0.92% 0.93% 標準偏差 4.10% 0.44% 0.15% 4.06% 3
この表からわかるとおり 両国とも 債券投資の収益率の大半が収益と 効果から得られています キャピタル部分は金利の上下で標準偏差は大きいものの 長期的な視点から見るとリ ターンへの寄与は限定されることとなります 5 金利上昇時の債券投資パフォーマンスについて前のページでこの約 20 年間の債券収益率の概要をまとめましたが 一般的に債券投資の収益率は金利低下局面ではプラス 金利上昇局面ではマイナスとなります この 20 年間で政策金利動向から金利局面を判断すると 図表 2 の過去の金利推移で見たとおり 金利上昇局面は 2003~2006 年度 2015 年度以降という形になります ただし 2008 年 9 月のリーマンショックを受けて の量的金融緩和政策 ( 政策金利 =0%) が導入され 2013 年 5 月にこの量的緩和政策の解除 (=バーナンキ ショック) が示唆されたため 2013 年度以降金利は上昇基調に転じています この 2 つの金利上昇局面に焦点をあてて 債券収益率の傾向をまとめました ( 図表 4)2003 年度 ~2006 年度の米仏イールドカーブの変化 6.0 5.0 5.0 4.0 4.0 3.0 3.0 2003/3 2005/3 2007/3 2003/3 2005/3 2007/3 2003~2006 年度の金利上昇局面では は断続的な利上げに伴い イールドカーブは徐々にフラット化し 2007 年 3 末時点では逆イールド状態となりました 一方 については と異なり当初はフラット化していたイールドカーブが 2005 年 3 末にかけて短期ゾーンが大幅に低下してスティープ化しましたが 2007 年 3 月末にかけては 長期ゾーンが上昇し イールドカーブスティープ化が強まりました したがって 債券投資の観点から見ると 2003~2006 年度は以下のとおりとなります 収益 効果 キャピタル損益 全体的な金利水準の上昇により 金利差縮小により 緩やかながらも金利上昇したこと 増加 効果は徐々に減少しゼロへ から マイナス基調 長期の金利水準は大きく変化し イールドカーブのスティープ化 金利低下から小幅プラスだった ていないため 小幅低下 により効果が維持 が 金利上昇からマイナスへ 次の図表は上記をグラフ および数値化したものです 4
( 図表 5)2003 年度 ~2006 年度の 国債インデックスの投資収益率 ( 月次ベース ) - 2003/3 2004/3 2005/3 2006/3 2007/3-2003/3 2004/3 2005/3 2006/3 2007/3 リターンキャピタルリターンキャピタル 2003 年度 4.37% 3.20% 1.23% -7% 2003 年度 5.11% 3.44% 3% 0.65% 2004 年度 5% 3.71% 0.83% -4.49% 2004 年度 5.69% 3.33% 1% 1.34% 2005 年度 1.99% 4.33% 0.16% -2.50% 2005 年度 2.12% 2.99% 0.70% -1.57% 2006 年度 5.85% 4.92% 5% 0.88% 2006 年度 1.66% 3.77% 0.18% -2.29% この局面では とも 表のとおり年度ベースで債券収益率がマイナスとなった年度はありません 金利の上 昇する局面がとで異なったため キャピタル損益がは 2003~2005 年度のマイナス は 2005~ 2006 年度がマイナスとなりましたが と効果で相殺した形となりました ( 図表 6)2013 年度 ~2016 年度の米仏のイールドカーブの変化 3.0 2.5 1.5 2013/3 2015/3 2.5 1.5 0.5 2013/3 2015/3 2017/3 0.5 2017/3-0.5-2013~2016 年度の金利上昇局面では は景気回復による利上げ期待から短期ゾーンは上昇したものの 長期ゾーンの上昇は限定的でイールドカーブは小幅フラット化しました 一方 は インフレの低迷からECBの利上げ再開観測は無く 2015 年 3 末にかけて長期ゾーンが大幅に低下してフラット化しましたが 2017 年 3 月末にかけては 長期ゾーンが上昇し イールドカーブが再度スティープ化しました したがって 債券投資の観点から見ると 2013~2017 年度は以下のとおりとなります 収益 効果 キャピタル損益 金利水準が小幅上昇したことに イールドカーブフラット化により 緩やかながらも金利上昇したこと より収益はやや改善 効果は減少 から マイナス傾向 低金利水準が継続しており イ イールドカーブスティープ化は 金利水準が低いことから 小幅 ンカム収益は改善せず 継続し 効果継続 の金利上昇でもマイナス 次の表は上記をグラフ および数値化したものです 5
( 図表 7)2013 年度 ~2017 年度の 国債インデックスの投資収益率 ( 月次ベース ) - 2013/3 2014/3 2015/3 2016/3 2017/3 2018/3-2013/3 2014/3 2015/3 2016/3 2017/3 2018/3 リターンキャピタルリターンキャピタル 2013 年度 -1.22% 1.16% 1.26% -3.63% 2013 年度 2.57% 1.45% 1.29% -0.17% 2014 年度 5.25% 1.33% 0.74% 3.17% 2014 年度 13.21% 0.84% 4% 11.33% 2015 年度 2.35% 1.42% 0.64% 0.29% 2015 年度 0.61% 0.49% 0.93% -0.81% 2016 年度 -1.41% 1.47% 0.55% -3.43% 2016 年度 -2.69% 0.18% 0.77% -3.63% 2017 年度 0.43% 4% 0.44% -4% 2017 年度 3.62% 0.37% 1.19% 7% 次に 2013 年度以降の金利上昇局面を見てみると 長期金利の絶対水準が低く収益も低くなるため債 券リターンがは 2013 2016 年度 は 2016 年度にマイナスとなりました 前回の金利上昇局面と の違いは長期金利の絶対水準が低いため 収益ではなく効果が大きいが 金利上 昇に強かったという結果になりました 6 まとめ今回のレポートでは とにスポットをあてて 債券投資を期待という観点を中心に分析しました 債券投資の収益率の大半は期待からなりますが その要因 ( 収益 効果 ) の相対的な大きさは金利水準によって異なる傾向が伺えます 長期金利の水準が高い局面では収益が大きく効果が小さくなりますが 長期金利の水準が低い局面では収益が小さく効果の影響が大きくなるということが示されました の利上げが今後も継続するか またユーロ圏も同様に量的緩和解除後に利上げに踏み切るかは予断を許しません ただし 債券投資の期待は収益と効果からなることを考慮すると 今後の金利上昇は将来的な期待 ( 収益 +効果 ) の上昇 すなわち 債券投資のポテンシャル向上につながると考えています 今回は現地通貨ベースでの債券投資をレポートしましたが 次回は日本からの為替ヘッジ外債投資についてレ ポートする予定です 以上 6