[ 「日本人の乳がん検診に 超音波は有用か」 Sensitivity and specifisity of mammography and adjunctive ultrasonography to screen for breast ancer in the Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial (J-START): a randomised controlled trial

Similar documents
PowerPoint プレゼンテーション

JHN Journal club 2014年9月3週目 飯塚担当分 急性腰痛.pptx

対策型乳がん検診における 高濃度乳房 問題の対応に関する報告書 平成 29 年 3 月 21 日 デンスブレスト対応ワーキンググループ (1) 経緯近年 マンモグラフィによる乳がん検診の普及に伴い デンスブレスト ( 高濃度乳房 ) の問題が指摘されてきた この課題に対して 2016 年 6 月 1

CASE 高血圧 糖尿病 脂質異常症のある 69 歳女性 3 年前に心筋梗塞の既往あり EF<30% で ICD 植え込み後 心不全の症状はここ 1 年落ち着いているが NYHAⅢ の症状があ る メインテート ラシックス リピトール レニベース を内服 中である 本日も著変なく 2 ヶ月に一度の定

JHN Journal Club 手稲渓仁会病院

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション

データの取り扱いについて (原則)

PowerPoint プレゼンテーション

Jhospitalist.key

症例 )68 歳男性 主訴 ) 自宅で意識がない状態で倒れていた ( 救急搬送 ) 現病歴 ) アルコール性肝硬変があり 肝性脳症で入退院を繰り返している患者独居であるが 2~3 日毎に知人が様子を確認するため自宅を訪れる 2 日前からやや体調が悪化しているようであった当日も訪問すると自室の居間で意


10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

ナノメディシン

2

PowerPoint プレゼンテーション

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 の相対生存率は 1998 年以降やや向上した 日本で

スライド 1

J Hospitalist Network Journal Club! DKAの輸液は生食と乳酸リンゲル液では どちらがいいのか! Fluid management in diabetic-acidosis! Ringer s lactate versus normal saline:! a ran

H26_大和証券_研究業績_C本文_p indd

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F D20288E518D6C8E9197BF AA82F18C9F90668F64935F8EF390668AA98FA791CE8FDB8ED282CC90DD92E882C982C282A282C AD8F6F94C5817A2E646F6378>

Microsoft Word - HP用 同意書・説明書 130121

jphc_outcome_d_009.indd

対策型乳がん検診における 高濃度乳房 通知に関する意見 西神戸医療センター奥野敏隆 平成 28 年 12 月 27 日がん対策推進懇話会

Microsoft PowerPoint - ★総合判定基準JABTS 25ver2ppt.ppt

健康だより Vol.71(夏号)

PDF

検診マンモグラフィ CAD の費用効果分析 ( 二重読影と一人読影 +CAD の比較 ) 放射線医学総合研究所名誉研究員飯沼武 ( 医学物理士 ) ご質問やコメントは にメール下さい 要旨 日本のマンモグラフィ併用乳癌検診の普及には二重

4 月 17 日 4 医療制度 2( 医療計画 ) GIO: 医療計画 地域連携 へき地医療について理解する SBO: 1. 医療計画について説明できる 2. 医療圏と基準病床数について説明できる 3. 在宅医療と地域連携について説明できる 4. 救急医療体制について説明できる 5. へき地医療につ

<4D F736F F D204E AB38ED2976C90E096BE A8C9F8DB88A B7982D1928D88D38E968D >

診療のガイドライン産科編2014(A4)/fujgs2014‐114(大扉)

がん検診ガイドライン総論 Ⅰ. はじめにがんはわが国の死因の 3 分の 1 を占める疾患であり 進行した段階では治療自体困難であることも多く 早期発見 早期治療が重要であるとされてきました 一般に 早期のがん とは 神経や血管などに到達していないものであり 痛みや出血などの症状はありません したがっ

子宮頸部細胞診陰性症例における高度子宮頸部病変のリスクの層別化に関するHPV16/18型判定の有用性に関する研究 [全文の要約]

PowerPoint プレゼンテーション

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

Case 患者 :66 歳女性 主訴 : 呼吸困難 現病歴 : 来院 3 日前から発熱 咳嗽 膿性痰が出現し 徐々に増悪傾向となった 来院当日トイレで動けなくなったため 家族が救急要請し 当院を受診した 既往歴 :COPD(GOLD grade4) 統合失調症 不眠症 逆流性食道炎 アレルギー :

要望番号 ;Ⅱ-24 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 8 位 ( 全 33 要望中

スライド 1

事業評価のためのチェックリスト ( 単位 : %) (2) 平成 27 年度の原発がんに対する早期がん割合を把握しましたか 肺がんでは臨床病期 Ⅰ 期がん割合 乳がんでは臨床病期 Ⅰ 期までのがん割合を指す (2-1)

要望番号 ;Ⅱ-286 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 33 位 ( 全 33 要望

子宮頸がん死亡数 国立がん研究センターがん対策情報センターHPより

C 型慢性肝炎に対するテラプレビルを含む 3 剤併用療法 の有効性 安全性等について 肝炎治療戦略会議報告書平成 23 年 11 月 28 日

H1

Microsoft PowerPoint - 薬物療法専門薬剤師制度_症例サマリー例_HP掲載用.pptx

要望番号 ;Ⅱ-183 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者学会 ( 該当する ( 学会名 ; 日本感染症学会 ) ものにチェックする ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 1 位 ( 全 8 要望中 ) 要望する医薬品

<4D F736F F D208C9F8DF58C8B89CA82CC90E096BE2E646F6378>

PowerPoint プレゼンテーション

痛風の治療に プレドニゾロンはNSAIDsと同等か?

EBM

<4D F736F F F696E74202D2088F38DFC B2D6E FA8ECB90FC8EA197C C93E0292E B8CDD8AB B83685D>

心房細動1章[ ].indd

PowerPoint プレゼンテーション

1)表紙14年v0

第 3 節心筋梗塞等の心血管疾患 , % % % %

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

_133_座談会.indd

和歌山県地域がん登録事業報告書

Journal Club

14栄養・食事アセスメント(2)

<955C8E862E657073>

EBM&CQ.ppt

血液浄化療法の早期導入は予後を変えるか

<4D F736F F D20819B947882AA82F190568B8C91CE8FC6955C2E646F63>

Minds_3章.indd

記録ノート(A4単ページ ) indd

テーマ 混合診療は是か非か

別紙様式第1

研修・関連施設のWEB申請・


hyoushi

論文内容の要旨

「長寿のためのコレステロール ガイドライン2010 年版」に対する声明

婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

症例 83 歳女性アルツハイマー型認知症 前医より抗認知症薬 ( 塩酸ドネペジル5mg/day) を処方されていた 初診時 MMSE 25/30 物取られ妄想 易刺激性 興奮性が増悪したため 抑肝散 2P2X( 服薬コンプライアンスを考慮 ) を追加したが効果を認めなかった 塩酸ドネペジル内服を中止

診療科 血液内科 ( 専門医取得コース ) 到達目標 血液悪性腫瘍 出血性疾患 凝固異常症の診断から治療管理を含めた血液疾患一般臨床を豊富に経験し 血液専門医取得を目指す 研修日数 週 4 日 6 ヶ月 ~12 ヶ月 期間定員対象評価実技診療知識 1 年若干名専門医取得前の医師業務内容やサマリの確認

PowerPoint プレゼンテーション

Journal Club 重症心不全患者に対するスピロノラクトン 投与は死亡率を減少させるか? The effect of spironolactone on morbidity and mortality in pa5ents with severe heart failure Randomize

がん登録実務について

PowerPoint プレゼンテーション

<4D F736F F F696E74202D2088A295948D DC58F4994C E956C8FBC814091E F193FB82AA82F18E7396AF8CF68A4A8D758DC0>

H29_第40集_大和証券_研究業績_C本文_p indd

助成研究演題 - 平成 27 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 改良型 STOPP を用いた戦略的ポリファーマシー解消法 木村丈司神戸大学医学部附属病院薬剤部主任 スライド 1 スライド 2 スライド1, 2 ポリファーマシーは 言葉の意味だけを捉えると 薬の数が多いというところで注目されがちで

PowerPoint プレゼンテーション

乳癌かな?!と思ったら

PowerPoint プレゼンテーション

‐Minds事業のあゆみと診療GL作成の最新情報- 医学文献評価選定部会

セッション 6 / ホールセッション されてきました しかしながら これらの薬物療法の治療費が比較的高くなっていることから この薬物療法の臨床的有用性の評価 ( 臨床的に有用と評価されています ) とともに医療経済学的評価を受けることが必要ではないかと思いまして この医療経済学的評価を行うことを本研

EBM の背景 医療費の増加 より効果的な診療を行う必要性 診療に役立つ情報収集の必要性 文献の検索と取捨選択を効率よく行うことが重要 患者の権利 に対する意識変化 知る権利 自分の体 病状 病気 可能な選択肢 治療方法を選択する権利 情報量の増加と通信技術の進歩 情報収集の迅速化 情報が増えたため

2

人間ドック受診者アンケート報告書 ( 平成 29 年 06 月 27 日 ~ 平成 29 年 07 月 18 日実施 ) 共立蒲原総合病院健康診断センター

群馬大学人を対象とする医学系研究倫理審査委員会 _ 情報公開 通知文書 人を対象とする医学系研究についての 情報公開文書 研究課題名 : がんサバイバーの出産の実際調査 はじめに近年 がん治療の進歩によりがん治療後に長期間生存できる いわゆる若年のがんサバイバーが増加しています これらのがんサバイバ

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

ICU入室と慢性疾患治療薬の中止

豊川市民病院 バースセンターのご案内 バースセンターとは 豊川市民病院にあるバースセンターとは 医療設備のある病院内でのお産と 助産所のような自然なお産という 両方の良さを兼ね備えたお産のシステムです 部屋は バストイレ付きの畳敷きの部屋で 産後はご家族で過ごすことができます 正常経過の妊婦さんを対

[ 原著論文 ] メタボリックシンドローム該当者の年齢別要因比較 5 年間の健康診断結果より A cross primary factors comparative study of metabolic syndrome among the age. from health checkup resu

課題名

医療関係者 Version 2.0 RET 遺伝学的検査の実施について Ⅰ.RET 遺伝学的検査の対象 甲状腺髄様癌に対する RET 遺伝学的検査 平成 28 年 4 月より甲状腺髄様癌に対する RET 遺伝学的検査が保険収載された 診療報酬点数表によると 保険適用による RET 遺伝学的検査は 遺

Transcription:

JHOSPITALIST network 日本人の乳がん検診に超音波追加は有用か Sensitivity and specifisity of mammography and adjunctive ultrasonography to screen for breast ancer in the Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial (J-START): a randomised controlled trial http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/piis0140-6736(15)00774-6/abstract 国立病院機構東京医療センター 2017 年 3 月 6 日 総合内科レジデント中島マリア美知子 監修山田康博

症例 :40 代女性 主訴 検診で脂質異常指摘 既往歴 なし 嗜好 喫煙なし 家族歴 癌の家族歴なし 晩酌ビール 350ml/ 日 現病歴 受診 2 ヶ月前に会社で行った健康診断で初めて脂質異常を指摘され当科初診外来を受診した 診療経過 食事運動療法を行い体重適正化を達成し脂質異常症は改善して来ていた

ある日の外来で 患者 この前 初めて乳がん検診でマンモグラフィを受けました 結果は陰性でした これさえすれば安心ですよね? 超音波検査はいりませんよね?

臨床的疑問 乳がん検診ではマンモグラフィに加えて超音波検査もした方が いいのだろうか

EBM の実践 5 steps Step1 疑問の定式化 (PICO) Step2 論文の検索 Step3 論文の批判的吟味 Step4 症例への適用 Step5 Step1-4の見直し

Step1: 疑問の定式化 P: 日本人で 40 代の乳がん家族歴や特記既往がない女性 I: マンモグラフィに加えて乳腺超音波検査を行う C: マンモグラフィのみ行う O: 早期乳がんの検出率は上がる

EBM の実践 5 steps Step1 疑問の定式化 (PICO) Step2 論文の検索 Step3 論文の批判的吟味 Step4 症例への適用 Step5 Step1-4の見直し

Step2: 論文検索

Lancet 2016; 387: 341-48 PMID: 26547101

論文の背景 乳癌発症率は世界的に増加している 米国と欧州では依然最も高く推移しているが この30年間では日本とアジア諸国にて特に増加傾向にある Youlden DR, et al, Cancer Biol Med 2014: 11; 101-15 先進国におけるRCTsを元にしたマンモグラフィでのスクリーニングプログラムが 多くの国で取り入れられている マンモグラフィは 乳癌の死亡率を減らすエビデンスがある唯一の方法であるが 高濃度乳房を持つ若年女性では正確さは減少してしまう Nelson HD, et al, Ann Intern Med 2009: 151; 727-37, W237-42 アジア人女性は他人種と比較しより高濃度な乳房を持つ Bae JM, et al, Epidemiol Health 2014; 36: e2014027 アジア人女性においてスクリーニングの正確性を高く保つことはマンモグラフィのみでは難しい 乳癌罹患率ピークはアジア人40-49歳 西欧人60-70歳である Leong SP, et al, World J Surg 2010: 34; 2308-24 アジア諸国は40-49歳女性における乳癌スクリーニングの適切な指標を設けるべきである

論文の背景 分かっていること いくつかの臨床試験ではマンモグラフィに超音波検査を付けること は 濃度の濃い乳腺を持つ女性において スクリーニングの感度と 検出率を上昇させ 中間期癌の頻度を下げることが分かっている しかしマンモグラフィに超音波検査を付けることは偽陽性の数を増 加させる Scheel JR, et al, Am J Obstet Gynecol 2015; 212: 9-17 分かっていないこと 超音波検査を含む乳がんのスクリーニングは 特定の群あるいは集 団検診ではでRCTsにて評価されてきていない したがって中間期癌 の特定への影響についてはすでに発表された研究からは評価されな い 中間期癌 検診時に異常なく次回検診までに発見される癌

論文の PICO P:40 49 歳の日本人女性 I: マンモグラフィに加えて乳腺超音波検査を 2 年間で 2 回行う C: マンモグラフィのみを 2 年間で 2 回行う O: 乳がんスクリーニングの感度と早期の検出率が上がる

論文の方法 研究デザイン ランダム化比較試験(RCT) 期間 対象 2007年7月 2011年3月 40 49歳 無症状の日本人女性 Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial(J-START)に 参加した23都道府県での42施設

論文の方法 Inclusion criteria 過去5年間に癌(上皮内癌含め)の既往がない 余命5年以上見込まれる Exclusion criteria 乳癌がある 過去5年以内に乳癌以外の癌の既往がある 途中で不参加となる マンモグラフィを受けていない

倫理的配慮 書面によるInformed consentを得ている 倫理委員会の承認を得ている

研究の概要 1 回目のスクリーニング検診の 1 年後に 2 回目の検診を同内容で実施 1 回目スクリーニング検診 約 2 年後に 2 回目の検診案内状と調査用紙を送付 参加者からの調査用紙の返送にて乳癌発生状況を把握 1 回目と同じスクリーニング検診を実施 2 年間の追跡調査

Intervension/Comparison Intervension マンモグラフィ 超音波検査 (乳腺診察の有無は問わない) Comparison マンモグラフィ (乳腺診察の有無は問わない) マンモグラフィ 認定医2人で読影 超音波検査 2日間の研修に参加した技師が読影した後に 放射線科医/乳腺外科医が読影 乳腺診察 内科医が実施

Outcome Primary 1回目スクリーニングにおける 感度 特異度 乳癌検出率 検出された乳癌の病期分類 Secondary 1回目スクリーニング後における進行乳がん検出率 (本論文中での結果記載はない)

Statistical analysis ITT 解析を実施 40-49 歳女性の乳癌有病率 0.003% とし 検出力 80% α エラー 0.05 で設定スクリーニングが 15% の感度上昇 (71% 86%) を有意とすると各群で 42500 人の参加 (130 人の乳癌患者 ) が必要であった しかし実際は介入群とControl 群の合計で76196 人参加 検出力 75% αエラー 0.05 となっている

研究の概要 76196 人が登録され そのうち 72998 人がランダム化を受けた 介入群 :36859 人がマンモグラフィと超音波検査を受け 実際に対象となったのは 36752 人 Control 群 :36139 人がマンモグラフィのみを受け 実際に対象となったのは 35965 人

Baseline Characteristics 初経年齢 年齢 閉経状況 最終の乳癌検診時期 妊娠回数 最終の乳癌検診の方法 出産回数

Baseline Characteristics 平均年齢 44歳 初回出産年齢 一親等の乳がん女性が1人 3344人(4.6%) 授乳経験の有無 一親等の乳癌女性人数 乳腺手術既往 良性乳腺指摘歴 乳腺炎既往 良性乳腺腫瘤指摘 917人(1.3%) 2群間に有意差はなかった

Primary Outcome 感度 特異度 感度 介入群 Control群 p=0.0004 91.1%(95% CI 87.2-95.0) 77.0%(95% CI 70.3-83.7) 特異度 介入群 Control群 p<0.0001 87.7%(95% CI 87.3-88.0) 91.4%(95% CI 91.1-91.7) 検出率 介入群 Control群 p=0.0003 184(0.50%) 117(0.32%)

中間期癌発見に貢献 中間期癌 スクリーニングの1回目 と2回目の間に罹患する癌のこと 超音波検査によって0.05%の中間期 癌が減少する 中間期癌罹患率 介入群 18人 0.05%(95% CI 0.03-0.07) Control群 35人 0.10%(95% CI 0.07-0.13) 中間期癌罹患率

病理結果 1回目検診で検出された癌 における浸潤癌割合 介入群 70% Control群 74% 中間期癌での浸潤癌割合 介入群 16人(89%) Control群 27人(77%)

検出された乳癌の病期分類 最も検出頻度が高い病期 Stage0-I 介入群 144(71.3%) Control群 79(52.0%) p=0.0194 早期の乳癌検出率が介入 群では有意に多い

生検 介入群4647症例はControl群3153症例に比較して追加精査が必要であった 介入群の方が生検した症例数は多かった

論文結果のまとめ 日本人40-49歳の乳癌スクリーニングでは マンモグラフィに超音波検査を加えると 感度及び早期の乳癌検出率を上昇させる 1回目スクリーニングにおいて 感度 介入群で優位に高かった 特異度 Control群で優位に高かった 検出率 介入群で優位に高かった 検出癌の病期 早期癌(stage0-I)が優位に多かった

EBM の実践 5 steps Step1 疑問の定式化 (PICO) Step2 論文の検索 Step3 論文の批判的吟味 Step4 症例への適用 Step5 Step1-4の見直し

結果は妥当か 患者はランダム割付されていたか ランダム化割付は隠蔽化(concealment)されていたか Base lineは同等か 全ての患者の転帰がOutcomeに反映されているか ITT解析か 結果に影響を及ぼすほどの脱落があるか 追跡率 マスキング(盲検化)されているか 症例数は十分か

結果は妥当か1 患者はランダム割付されていたか ランダム化割付は隠蔽化(concealment)されていたか Base lineは同等か

結果は妥当か2 全ての患者の転帰がOutcomeに反映されているか ITT解析か 結果に影響を及ぼすほどの脱落があるか ない 追跡率 介入群99.7% Control群99.5% マスキング(盲検化)されているか 症例数は十分か 実際の検出率は75%に留まった しかし日本での乳癌発症率は継 続的に増加しているため元の算出よりも高い発症率が期待された した がって本研究はprimary endpointを評価するのに十分な検出率があると考え られ 2回目のスクリーニング後にデータモニタリング委員会によって確認 された

NNP(Number Needed to Prevention) 検出率浸潤癌 ( 生検結果 ) 介入群 184 (0.50%) 128 (0.35%) Control 群 117 (0.32%) 86 (0.24%) NNP=100/(0.35-0.24)=909 909 人にマンモグラフィ + 乳腺超音波検査を行うと 1 人浸潤癌を検出できる

EBM の実践 5 steps Step1 疑問の定式化 (PICO) Step2 論文の検索 Step3 論文の批判的吟味 Step4 症例への適用 Step5 Step1-4の見直し

患者への適応 自分の患者は論文の患者と似ているか PECOの骨子は一致している 患者にとって重要なアウトカムは考慮されたか 乳癌の早期検出率について検討されている 見込まれる検査の利益は考えられる害やコストに見合うか 見合う 超音波検査はコストが低く 短時間 放射線被曝なし

症例の経過 患者 この前 初めて乳がん検診でマンモグラフィを受けました 結果は陰性でした これさえすれば安心ですよね 超音波検査はい りませんよね 論文では 超音波検査追加は 乳癌検出の感度を上げ 早期の乳癌 検出率が上がるという結果 ただし特異度は低いために検査の偽陽 性が増え 必要のない生検を行うことになるかもしれない NNP=909 患者の乳腺サイズは大きいことが予測された 患者は乳癌の家族歴がなく初回の検診 これまでの外来経過では何 かと検査を希望する傾向にあった 自宅は病院に近く通院継続は問題なかった

症例の経過 本患者の言葉にある 不安 安心とは について傾聴し共有した 乳腺超音波検査を追加すると早期乳がんの検出率は上昇する ただ し100%確実に乳癌ではない/にならないことを保証するわけではな いことを説明した 超音波検査を追加で実施することで偽陽性が出て本来必要のない生 検を行う可能性があることを伝えた 乳腺の生検についてリスクを説明した 現状でガイドラインで言われている 一般的な検診 40歳以上 12年に1回のマンモグラフィ は基本であると伝えた 患者の背景 心理状況 希望を踏まえ 乳腺超音波検査を追加した

EBM の実践 5 steps Step1 疑問の定式化 (PICO) Step2 論文の検索 Step3 論文の批判的吟味 Step4 症例への適用 Step5 Step1-4の見直し

Step1-4の見直し Step1 PECOは問題なかった Step2 Pubmedのand検索で速やかに調べられた Step3 ITT解析されており妥当な内容と考える Step4 患者にとっての利益と不利益について考え医学的見解 を伝えながら 患者の心理面にも配慮した上で 検査の実施を 決定した

まとめ 論文では 40歳代の日本人女性について マンモグラフィに乳 腺超音波検査を追加することは 乳癌検出の感度を上げ 早期 の乳癌検出率が上がる結果となった ただし 特異度はマンモグラフィのみと比べて低く偽陽性が増 え 不必要な生検は増えることになる 患者の不安や安心について共有するプロセスを踏み 生検その もののリスクと乳腺濃度について検討した上で 論文結果を吟 味し意思決定する必要がある