第3章 長寿命化改修と併せて検討したいこと

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Ⅲ 診断判定モデル住宅事例 建物概要 2 階建て木造住宅延べ床面積 53 m2 1 昭和 56 年 6 月以降 2 地盤は普通か良い 3 鉄筋コンクリート基礎 4 屋根は軽い 5 健全である 6 壁量多い 7 筋かいあり 8 壁のバランスが良い 9 建物形状はほぼ整形 10 金物あり 老朽度 診断結

第2部 先進的な取組事例(4)

青文字は、長谷川が修正したものです

設 機能の見直しハード面の効率化財源確保1-3. 再配置パターン ( 手法 ) の考え方 再配置計画の検討に向けて 公共施設の再配置を う場合の基本的なパターン ( 手法 ) について整理し それらの効果についても確認していきます 施設の再配置にあたっては 厳しい財政状況の中 人口が減少傾向にあるこ

橋 梁 長 寿 命 化 修 繕 計 画

Ⅰ. 概要 団地型マンションの修繕に対する資金 ( 会計 ) は棟別に会計するのが理想とされるが 実際に棟別会計が必要か? 団地型マンションで 現在一般的に取られている会計手法を整理し 棟別会計の利点を確認 実際にはどのように棟ごとに修繕費の格差が生じているかを検証 団地型マンションにおける修繕費の

1 調整区域の解消 対策案 1-(1) 案谷八木地区の調整区域を解消し 大久保南小学校の通学区域に変更 1-(2) 案谷八木地区の調整区域を解消し 本来の谷八木小学校の通学区域とする 139 名 139 名 保護者 地域住民等の理解 通学路 通学距離の検証 対応 校区の自治会等加入世帯が多く 地域活

3-1 2 修繕工事の実態 ( ヒアリング ) 計画修繕は 定期点検等で明らかになった建物の劣化の補修のため 調査 診断 修繕計画の作成 工事の実施へと 区分所有者の合意を形成しつつ 進められる 当勉強会で実施したヒアリングより 管理会社による点検 定期点検は 1 回 / 年の頻度で行っている 目視

資料 2 第 3 回旭市公立保育所在り方検討委員会資料 ~ 旭市における教育 保育の現状について ~ ( 旭市立 13 保育所 ) 平成 28 年 7 月 22 日開催

資料 5 公共施設更新コスト試算 1 試算ケース ケース1: 旧耐震基準のうち 築 60 年以上は建替え それ以外は大規模改修 新耐震基準は老朽箇所修繕 耐用年数を 60 年と想定した場合 旧耐震基準の施設のうち 築 60 年以上の施設は 築 60 年が経過した施設から建替える 建替え対象以外の旧耐

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H28秋_24地方税財源

美里町学校施設長寿命化計画 ( 案 ) 検討資料編 平成 30 年 月 美里町教育委員会

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スライド 1

図 維持管理の流れと診断の位置付け 1) 22 22

第 3 回検討会でご意見を頂いた内容に対する対応方針 ( 案 ) 中長期保全計画の策定において 更新 修繕 といった言葉の使い分けは明確にすべき その際 部位による使い分けや ライフサイクルコストの視点を踏まえた 更新 修繕 のレベル設定にも留意すること 建物を 使える 状態に維持するという観点から

耐震等級 ( 構造躯体の倒壊等防止 ) について 改正の方向性を検討する 現在の評価方法基準では 1 仕様規定 2 構造計算 3 耐震診断のいずれの基準にも適合することを要件としていること また現況や図書による仕様確認が難しいことから 評価が難しい場合が多い なお 評価方法基準には上記のほか 耐震等

校舎 1 S32.3 R 3 1,232 旧耐震 改修済 逸見小学校 校舎 2 S33.2 R 3 1,353 旧耐震改修済 校舎 3 S46.3 R 旧耐震改修済 体育館 S49.3 S 旧耐震 改修済 0.73

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第 7 章鹿児島県と連携した耐震改修促進法による指導及び助言等 国の基本方針では 所管行政庁はすべての特定建築物の所有者に対して法に基づく指導 助言を実施するよう努めるとともに 指導に従わない者に対しては必要な指示を行い その指示に従わなかったときは 公表すべきであるとしている なお 指示 公表や建


2/9 学校 ( 幼稚園 ) 名久保小学校長江小学校土堂小学校 棟用途 棟面積第一次診断第二次診断改修改修後建築年月構造階数区分番号枝番 ( m2 ) 年度 Is 値年度 Is 値年度 普通 特別 管理教室棟 1 1 S8.1 R 3 2,950 旧基準 H H 屋内運動


マンション棟数密度 ( 東京 23 区比較 ) 千代田区中央区港区新宿区文京区台東区墨田区江東区品川区目黒区大田区世田谷区渋谷区中野区杉並区豊島区北区荒川区板橋区練馬区足立区葛飾区江戸川区

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栗橋西小学校管理昭和 61 年 8 月 RC 3 3,335 新耐震性あり 栗橋南小学校 ( 北校舎 ) 管理 ( 南校舎 ) ( 南校舎 ) 平成 25 年 7 月 RC 2 2,132 新 改築済 ( 耐震性あり ) 平成 9 年 3 月 RC 2 1,437 新 耐震性あり 平成 9 年 3

橋梁長寿命化修繕計画 ( 案 ) 平成 25 年 3 月 那覇市役所 建設管理部道路管理課

11 高須小学校 1 浜田小学校 13 野里小学校 14 大姶良小学校 15 南小学校 16 西俣小学校 17 高隈小学校 18 大黒小学校 19 西原台小学校 1 市成小学校 高尾小学校 3 百引小学校 4 平南小学校 5 串良小学校 6 細山田小学校 特別 11 S 旧 H1 0.5

構造 用途 鉄筋コンクリート造鉄骨 鉄筋コンクリート造 高品質の場合 普通の品質の場合 高品質の場合 重量鉄骨 鉄骨造 普通の品質の場合 軽量鉄骨 ブロック造れんが造 木造 学校庁舎 Y 100 以上 Y 60 以上 Y 100 以上 Y 60 以上 Y 40 以上 Y 60 以上 Y 60 以上

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目次構成

< 小学校 > 学校名川越第一小川越小中央小仙波小武蔵野小新宿小大塚小泉小月越小今成小芳野小古谷小南古谷小牛子小高階小 施設の名称 ( 呼称 ) 構造 面積 建築年度 最低 Is 最低 CTU SD 教室棟 R3 2,156m2昭和 教室棟 R3 1,170m2昭和 39 管理 特別教室

イ使用年数基準で更新する施設 ( ア ) 使用年数基準の設定使用年数基準で更新する施設については 将来の更新需要を把握するためにも 更新するまでの使用年数を定める必要がありますが 現時点では 施設の寿命に関する技術的な知見がないことから 独自に設定する必要があります このため あらかじめ施設を 耐久

横浜市のマンション 耐震化補助制度について

H30:HP小中学校施設の耐震化の状況・学校別一覧表

(3) 中規模改修工事費 建設年代別にm2単価を設定する 大規模改修後及び改築後は 水準別にm2単価を設定し 冷房設備ありの場合は別途m2単価を設定して加算する 表 中規模改修工事費 大規模改修前 大規模改修後 改築後 中規模改修建設年代改築後改築後大規模改修後円 / m2従来改築一般施

111 その他 ( 廃校舎 ) (1) 施設概要 施設名称元湯川小学校所属課総務課 大分類その他中分類廃校舎 所在地湯川垣内硲 校舎 木造昭和 37 年 3 月 31 日旧 (3) 等 適切な管理ができておらず 施設に崩落の危険性があるため 除却を行う 除却等を行

P5 26 行目 なお 農村部は 地理的状況や通学時 間等の関係から なお 農村部は 地理的状況や通学時 間等から P5 27 行目 複式学級は 小規模化による学習面 生活面のデメリットがより顕著となる 複式学級は 教育上の課題が大きいことから ことが懸念されるなど 教育上の課題が大きいことから P

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表紙

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事務事業調書平成 27 年度 事業 No 647 課 総務課 係 施設係 起案者 石原久仁夫 決裁者早川雅己 事務事業名 小学校施設耐震補強事業 事業種別 施設整備 1 事業概要 総合計画体系 根拠法令 法定受託事務 公約 議会答弁 陳情 市民要望実施方法実施期間 求める成果 ( 目的 ) 4 個性

施設名 棟数 延べ床面積 ( m2 ) 建築年 経過年 池上小学校 8 5,410 昭和 55 年 36 年 南池田中学校 15 8,105 昭和 58 年 33 年 光明台北小学校 12 6,364 昭和 60 年 31 年 いぶき野小学校 15 7,683 平成 4 年 24 年 北池田中学校

物 件 調 書


スライド 1

枚方市マンション管理組合運営に関するアンケート平成 22 年 9 月実施発送管理組合数 261 組合 ( うち戻り 7 組合 ) 回答数 46 組合 18 % 管理形態について 管理会社を使わない自力管理 10% 基幹業務と設備点検のほか修繕も管理会社に委託 43% 一部の基幹業務だけ管理会社に委託

第 4 章保全に係る基準の設定 保全に係る基準の設定フロー 前章の老朽化状況の把握からの保全に係る基準の設定フローを以下に示します 老朽化状況の把握 1 躯体の健全性調査 2 躯体以外の劣化状況調査 残存耐用年数 躯体の健全性調査による残存耐用年数 構造別の目標耐用年数の設定 ( 長寿命化 ) 長寿

[ 図表 35: 見直しのイメージ ] 質の高い施設 安心安全で コストの最適化 施設を安心安全に利用するため 点検 診断を実施し その結果に基づき 必要な対策を適切な時期に着実かつ効率的 効果的に実施します また これらの取組を通じて得られた施設の状態や対策履歴等の情報を記録し 次の点検 診断等に

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豊中市千里地区歩路橋長寿命化修繕計画 平成 29 年 8 月 豊中市

TOPICS TOPICS TOPICS TOPICS TOPICS TOPICS TOPICS TOPICS 2 TOPICS TOPICS TOPICS TOPICS TOPICS TOPICS TOPICS TOPICS

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平成 29 年度 過去 20 年 24 年 熊本市分譲マンション実態調査報告書 平成 29 年 11 月熊本市建築政策課 2

215 参考資料


2 学校プールを開放するためのコスト 学校プールを維持及び開放するために必要となるコストを把握する (1) 学校プールにかかる維持管理及び更新コスト 学校プールの開放に関わらず必要となる費用 1 水道料金 1 校当たり 年間で50~100 万円程度 2 改修費用定期的にシート張替えや設備の改修などで


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目 次 第 1 審査概要 本書の位置づけ 審査方式 審査体制... 1 第 2 優先交渉権者決定の手順 参加資格審査 基礎審査 加点審査 優先交渉権者の決定... 6 別紙 1 提案内容の審査項目及び評

(3) 容積率 1-の改修 + 増設 1-2 現図書館の位置に建替 3ラピオ内改修 容積率 200% 400% 400% 建築可能延床面積 9,846m2以下 15,212m2以下 ( 延床面積 ) (4,923 m2 200%) (3,803 m2 400%) 容積率とは 敷地面積に対する建築物の

特別養護老人ホーム外川園

PowerPoint プレゼンテーション

施工技術者認定制度

§1 業務概要

設計壁リフォーム標準施工法外壁リフォームモエンサイディング重ね張り工法モエンサイディングモエンサイディングセンターサイディング屋根リフォームセンタールーフアルマ8-1 適用条件 8 屋根リフォームの設計 1) 適合対象建築物昭和 56 年の建築基準法新耐震基準に適合する木造建築物 昭和 56 年 5

当面の事業概要 < 平成 25 年度 > 実施設計業務委託 < 平成 26 年度 > 市道 1504 号線電線共同溝整備工事 道路改築工事 < 平成 27 年度 > 市道 1504 号線電線共同溝整備工事 市道 1504,1505,1507 号線道路改築工事 < 平成 28 年度 > 市道 1504

設計162 外壁リフォーム事前調査の方法標準施工法外壁リフォームモエンサイディング重ね張り工法モエンサイディング張り替え工法モエンサイディング張り替え工法 外張り断熱センターサイディング重ね張り工法設計屋根リフォームセンタールーフ重ね葺き工法アルマ重ね葺き工法参考資8-1 適用条件 8-2 屋根リフ

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参考資料1 地方公共団体における長寿命化改修の取組事例

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第1章 長寿命化改修の基本的事項(1)

仙台市立小 中学校の 過大規模校化への対応方針

税務調査      業種別・狙われるポイント

基本方針

名前 第 1 日目 建築基準法 2 用途規制 1. 建築物の敷地が工業地域と工業専用地域にわたる場合において 当該敷地の過半が工業地域内であると きは 共同住宅を建築することができる 2. 第一種低層住居専用地域内においては 高等学校を建築することができるが 高等専門学校を建築する ことはできない

第 4 章公共施設の老朽化状況の把握 建築物の老朽化状況については 1 躯体の健全性把握調査と 2 躯体以外の劣化状況把握 調査の 2 つの調査を実施し 実態を把握の上 評価しました 1 公共施設の保有状況公共施設の保有状況 築年別用途別規模別築年別用途別規模別 躯体の健全性の把握 3

1. 財政目標の設定 国立市の過去 5 年間の普通建設事業費は 平均で 18.5 億円となっています そのうち公共施設分は 8.1 億円です 実効性の高い保全計画とするためには財政的な裏付けが欠かせません 各年度に実施する修繕 改修は予算編成の中で決定することとなりますが 保全計画における財政目標と

富士市が所有する市営住宅の耐震性能に係るリスト 目 次 頁 1. 公表の趣旨 1 2. 要旨 1 3. 各別の耐震性能と富士市の耐震性能判定基準 2 4. 用語の説明 3 5. 市営住宅の耐震性能に係るリスト 4 ~ 8 6. 一般公共建築物の耐震性能に係るリスト 別掲載

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目次 ( )

耐震化整備計画の策定について

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表紙

病院等における耐震診断 耐震整備の補助事業 (1) 医療施設運営費等 ( 医療施設耐震化促進事業平成 30 年度予算 13,067 千円 ) 医療施設耐震化促進事業 ( 平成 18 年度 ~) 医療施設の耐震化を促進するため 救命救急センター 病院群輪番制病院 小児救急医療拠点病院等の救急医療等を担

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0 事前準備 公共施設等の更新費用比較分析表作成フォーマット の作成に当たっては 地方公共団体の財政分析等に関する調査研究会報告書 公共施設及びインフラ資産の更新に係る費用を簡便に推計する方法に関する調査研究 における更新費用試算ソフト ( 以下 試算ソフト という ) を用います 試算ソフトは今回

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Transcription:

80

81 目次 Q35 予防保全とはどのような考え方ですか? Q36 減築にはどのような効果がありますか? また, どのような点に留意すればよいですか? Q37 改修工事中の教育環境の確保にはどのような方法がありますか?

82 Q35: 予防保全とはどのような考え方ですか? A: 予防保全 とは, 計画的に施設設備の点検 修繕等を行い, 不具合を未然に防止すること です 学校施設は老朽化による被害のリスクが大きいため, 不具合があった場合に保全を行う 事後保全 ではなく, 予防保全を行うことが大切です 解説 保全とは保全は,1 対象の状況把握と,2 異常を把握した場合の適切な処置の2つの要素からなります 効率よく保全するため, 対象ごとに点検基準や異常発見時の対応方法を決めておくことが必要です しかし, 学校施設については特にこれらが明確でなく, 担当者が十分な情報がないまま, やむを得ず対応の要否を判断することも少なくありません 事後保全と予防保全保全には, 大きく分けて 事後保全 と 予防保全 があります 事後保全 は従来のような, 施設設備に不具合があった場合に保全を行う, いわば場当たり的な保全です 一方, 予防保全 は異常が生じる前にメンテナンスを施し, 異常が発生しないようにすることです 異常が発生しそうな兆候を日常的に検知して対処する場合と, 異常の兆候の有無に関わらず時期を決め, 補修や交換を行う場合などがあり, 図 1のようなメリットがあります 一般的にリスク ( 参考 1) が大きい場合は, 被害を小さくするために予防保全が望ましく, リスクが小さい場合は点検などに要する保全費用を節約する意味で事後保全でも十分と考えられます 31 まず, 対象と保全方法を明確にしておくことが, 基本的かつ重要なことです 学校施設の老朽化対策に限ると, 被害のリスクが大きいため, 予防保全を行うことが重要です 31 事後保全を行う場合も, 事前に対象を定め, 意図的に保全を行う 計画的事後保全 とすることが重要です リスクを予想せず, 場当たり的に対応する 場当たり的事後保全 では, 異常が発生した場合, 被害が甚大になる可能性があります 突発的な事故が減る 突発的な多額の費用が発生しにくくなる 事故から復旧までの時間が短い 維持管理 更新の費用が平準化する 設備の長寿命化が図れる 図 1 予防保全のメリット 参考 1 リスクの考え方 リスク リスクが高いもの めったに起こらないが, 被害が甚大なもの 時々起きてそれなりの被害が生じるもの 例 照明が一基しかない地下室 ( その照明が故障すると何もできなくなる ) リスクが低いもの 頻繁に起きるが被害がほとんど生じないもの たまに起きるが被害が小さいもの 例 複数の照明器具がある地下室 ( 一基故障しても大きな支障が生じない ) 長期修繕計画 = 異常事象の 発生確率 異常事象が引き起こす被害 分譲集合住宅, いわゆるマンションでは長期修 繕計画を立てて定期的に大規模修繕を行うことが最近では当たり前になってきています これはマンションの資産価値を下げないことが第一の目的ですが, このおかげで建物が良好に保たれて居住者が安心して長く住めています 長期修繕計画を立てると, 将来必要となる費用の予測ができます 修繕積立金は長期修繕計画から将来必要となるはずの費用を求め, それを毎月に分割して少しずつ積み立てていくものです こ

83 うした資金的な裏付けがないと, 計画した大規模修繕も実行不能になってしまいます こうした仕組みはマンション以外の公共施設でも有効であると考えられます また公共施設のように多くの施設がある場合には, 将来の修繕工事を計画的に分散させることにより出費の集中を抑えて, 費用負担の平準化を図ることも可能です ライフサイクルコスト修繕や改修工事の内容を決定する際には, ライフサイクルコスト (LCC: 参考 2) の考え方を導入することが有効です これは工事に直接かかる費用のみならず, 将来発生する維持管理の費用も含めて設計案を選択しようとするものです このような時間的な視点を含めて判断すると, 設計案の選択も変わってきます 参考 2 ライフサイクルコストの考え方の導入例例えば, 以下の2 案で手すりの交換を予定しているとしましょう A 案 ) 従来と同じ鋼製のもの 3 年に一回程度のペンキの塗り替えが必要 最初の工事費( イニシャルコスト ) は 100 万円 B 案 ) ステンレス鋼製 将来のメンテナンスはほぼ不要 最初の工事費( イニシャルコスト ) は 200 万円 通常ならば工事費が安い A 案が採用となるところですが,20 年間の LCC で比較すると以下のように A 案は 220 万円,B 案は 200 万円となり, 最終的には B 案の方が安くなることになります A 案の 20 年間の LCC) 220 万円 =(3 年に一度の塗装費用 20 万円 / 回 ) 6 回 +イニシャルコスト 100 万円 B 案の 20 年間の LCC) 200 万円 =( メンテナンス 0 円 ) +イニシャルコスト 200 万円この結果から B 案を採用するのが LCC の適用例です もし使用予定が 20 年ではなく 10 年であるとすれば,A 案の LCC は 160 万円となり B 案の 200 万円より優れていると判断されます A 案の 10 年間の LCC) 160 万円 =(3 年に一度の塗装費用 20 万円 / 回 ) 3 回 +イニシャルコスト 100 万円 B 案の 10 年間の LCC) 200 万円 =( メンテナンス 0 円 ) +イニシャルコスト 200 万円

84 Q36: 減築にはどのような効果がありますか? また, どのような点に留意すればよいですか? A: 減築とは, 建物全体から一部分を削って面積を減らすことです 建物の規模の適正化を図ることで維持修繕のための費用を抑えたり, 建物の軽量化によって耐震性能を向上させたり, 空間をコントロールしたりすることができます 実施前に, 他の用途に使用できないかを十分検討することや, 減築の際にはバランスよく減築計画を立てることが重要です 解説 減築の目的は,1 建物規模の適正化を図ること, 2 建物を軽量化して耐震性能を向上させること,3 不要となった部分を減築することにより空間をコントロールすることの3つがあります 建物規模の適正化余裕教室等の空きスペースについて, 他用途への転用が見込めない場合に減築を行うことで, 建物規模の適正化が図られ, 施設を保有しているだけでも発生する維持修繕のための費用を抑えることができます 建物の軽量化による耐震性能の向上同じ形状の建物であれば, 地震発生時, 重量が大きい方が被害も大きくなり, 逆に, 建物を軽量化することにより地震の影響を低減することが可能です 学校建築のうち,3 4 階建てのものの多くは鉄筋コンクリート造です 鉄筋コンクリート造の建物は鉄骨造と比較しても非常に重量があります 耐震性が低い建物を耐震補強する際, 軽量化することにより補強箇所を減らしたり, 補強が不要となったりする可能性があります 減築を実施する前の留意事項余裕教室や廃校施設の多くは, 地方公共団体や地域住民の創意工夫により様々な施設へ転用され活用されています 今後も, 目先の需要と供給に流されることなく, 他の施設も含めた利用計画や人口の変動見込み等を踏まえ, 校区や校区を越えた地域単位で, 長期的な視点で施設の他用途への活用方法について十分検討することが重要です 減築実施時の留意事項減築の際に耐力壁を除去したり, 建物のバランスを崩したりすると, かえって耐震性が低くなることがあります 効果的に耐震性能を向上するため, バランスよく減築部分を設定することが重要です 例えば, 重心 32 と剛心 33を合わせることにより建物の揺れを低減することができます 空間のコントロール長寿命化改修では, 大規模な計画の変更も可能です 減築と合わせて長寿命化改修を行う場合, 近年の教育活動の実態を踏まえた, 使いやすい教室配置への変更も実現できます 32 建物平面形状の中心 ( 建物全体の重さの中心 ) 33 水平力に対抗する力の中心 ( 建物全体の固さ ( 剛性 ) の中心 )

85 減築の実施例ここでは, 学校施設の老朽化対策について~ 学校施設における長寿命化の推進 ~ ( 平成 25 年 3 月 ) に紹介されている取組の一部を紹介します 事例 1 滋賀県大津市 (2 階部分の撤去による減築 ) 大津市立膳所小学校の児童数は, ピーク時の 1,800 人超が 700 人程度まで減少し, 空き教室が目立っていました また, 児童数の今後の大幅な増加も見込めないと推計されていたため, 耐震補強工事に合わせて減築を実施することとしました 具体的には,2 階建て校舎の2 階部分を解体撤去し, 解体前に屋上に設置されていた太陽光パネルの移設, 屋上防水工事を行いました ( 図 1,2) また, 階段を撤去して多目的スペースに転用する工事等も実施しました 1 階建てとしたことで, 建物が軽量化され耐震性能が上がり, 補強箇所が少なくなりました 長期的には, 建物の維持管理費の抑制と将来の解体費の抑制が見込まれます 事例 2 和歌山県有田市 ( 使用頻度が低い棟の減築 ) 有田市立初島小学校の児童数は 10 年間で半減しており, また, 耐震診断で Is 値 0.3 未満と診断された校舎の一部を応急の措置として使用停止にしていましたが, 教育活動に必要な教室数を確保することができていました 今後の児童数の増加が見込まれないことから, 耐震補強と大規模改修の工事に合わせて減築を実施することとしました 具体的には, 構造上 3 棟ある校舎のうちの1 棟を取り壊し ( 図 3,4), あわせて, 余裕教室の減少や耐震補強により普通教室として使用するために必要な開口部が確保できない空間が発生したことから, 配置計画を大幅に見直しました 短期的には, 本来耐震補強の必要があった棟を減築したことで耐震補強や建物内外の改修にかかる費用が不要となり, 長期的には, 建物の維持管理費の抑制が見込まれます また, 教職員と綿密に連携して配置計画の見直しを行ったことで, 近年の教育活動の実態に沿った教室配置とすることができました 図 1 改修前の 2 階建て校舎 図 3 改修前の校舎 図 2 減築後の 1 階建て校舎 図 4 減築後の校舎

86 Q37: 改修工事中の教育環境の確保にはどのような方法がありますか? A: 長寿命化改修工事の際には, その学校に通う子供たちに少しでも快適な教育環境を提供す ることが重要です 仮設校舎の建設も一策ですが, 限られた予算で効率的 効果的な施設整備を行うため, 仮設校舎の建設費用を削減する取組も行われています 解説 長寿命化改修の工事は, 原則として建物全体の全面的な改修工事となるため, 夏休みなどの長期休みだけで工事を実施することが困難な場合も多くなります 授業期間中に工事を実施する際には, その学校に通う子供たちに, 少しでも快適な教育環境を確保することが重要です 敷地や予算に余裕がある場合は仮設校舎を建設することも一策ですが, 仮設校舎の建設費用を削減するための取組も行われています ら5 割削減できました また, 仮設校舎の用地の確保が不要になるほか, 工事量の減少に伴い工事期間も短縮できました 仮設校舎の確保に係る経費を削減した事例限られた予算の中で効率的な整備を行うため, 仮設校舎の設置がやむを得ない場合を除き, 仮設校舎の設置の経費を抑える工夫をすることも考えられます ここでは, 学校施設の老朽化対策について~ 学校施設における長寿命化の推進 ~ ( 平成 25 年 3 月 ) に紹介されている取組の一部を紹介します 写真 1 ピロティを普通教室等として活用 ( 富山県砺波市 ) 事例 1 富山県砺波市 ( ピロティや体育館の活用 ) 砺波市には, 雨天時や積雪時の屋外運動スペースとして, 体育館の下にピロティを設けている学校があります その体育館ピロティ部分に外壁と間仕切り壁を設置し, 仮設校舎として利用しました ( 写真 1) また, 体育館の内部に間仕切り壁を設置し, 仮設校舎として利用したこともあります ( 写真 2) この間の体育の授業は, 隣接する社会体育施設を利用して行いました 仮設校舎に係る基礎工事や柱はり等の躯体工事, 屋根工事等が不要になることで, 工事費を2 割か 写真 2 体育館を普通教室として活用 ( 富山県砺波市 )

87 事例 2 宮崎県五ヶ瀬町 ( 近隣の学校との合同授業の実施 ) 五ヶ瀬町には小学校が4 校あり, 小規模校の特色を活かして, 合同の学習を日常的に行っています 耐震補強工事を行う期間中に, 工事の必要のない学校へ借り上げバスで登下校することで合同授業を行いました ( 図 1) 仮設校舎の建設費の削減に加えて, 工事中の校舎に児童等がいなくなるため, 安全対策や騒音対策が不要になり, 工事期間が短縮できました また,1 教室の担任教員が増えたことで, ティーム ティーチングによる授業や少人数指導等, 授業展開の工夫も図られました ( 写真 3) 図 1 合同授業の概略図 ( 宮崎県五ヶ瀬町 ) 事例 3 東京都江東区 ( 廃校の活用 ) 江東区では, 仮設校舎を設置すると校庭が長期間使用できなくなることや, 工事期間中の学習環境の確保のために, 廃校となった小学校に適切な教育環境を整備し, 仮校舎として使用してきました 仮校舎から離れた地域にも対応するため, スクールバスを運行しています ( 写真 4) 仮設校舎を建設した場合と比較すると経費削減の点で有利であり, 効率的に工事を行うことも可能です さらに, 工事期間中の学習環境の面で大きなメリットがあります 写真 3 1 クラスに 2 名の教員がいる授業風景 ( 宮崎県五ヶ瀬町 ) 写真 4 スクールバスによる通学風景 ( 東京都江東区 )