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Transcription:

Bulletin of the Graduate School of Education and Human Development, Nagoya University (Psychology and Human Development Sciences) 2008, Vol. 55, 71-76. アタッチメントは対人行動にどのように反映されるのか パーソナルスペースによる検討 1) 2) 島義弘 問題と目的アタッチメント理論は元来, 動物行動学的な視座から個体の適応性を説明するという側面を有している すなわち, 個体は危機に直面した際に, あるいは潜在的な危機に備えて, 他個体に接近し, その近接を維持することで自身の適応性を高めるという行動制御システムを備えているのである (Bowlby, 1969) このようなシステムによって導かれた行動はアタッチメント行動と呼ばれ, アタッチメント行動の特質とその組織化のされ方の個人差が乳幼児を対象とした研究で広く調べられてきた 成人アタッチメント研究アタッチメント理論はHazan & Shaver(1987) によって成人期の親密な対人関係に適用され, 成人アタッチメント研究が創始された 成人アタッチメント研究は基本的に Bowlby(1969) のアタッチメント理論を受け継いでいる 中でも, アタッチメント対象との具体的な相互作用経験が一般化 抽象化されることで形成される内的作業モデル (Internal Working Models) という概念は成人アタッチメント研究の中心に据えられている 成人アタッチメント研究は内的作業モデル概念を中心に, 複数の変数間の関連を主に質問紙調査によって調べる形で展開してきた (e.g., 金政 大坊,2003) その一方で, 成人は乳幼児と比べてアタッチメント行動を表出するこ 1 ) 本研究の実施に当たり, サンビレッジ国際医療福祉専門学校 篠田良則先生, 佛教大学保健医療技術学部教授 望月晃二先生にご助力をいただきました 記して感謝いたします 2 ) 名古屋大学大学院教育発達科学研究科大学院研究生 ( 指導教官 : 氏家達夫教授 ) ₃ ) 成人期にアタッチメント行動が観察されないのは乳幼児期のそれと同じ表現型を想定していることに起因するとし, 機能的に相同な, 成人期に固有のアタッチメント行動を定義する試みも行われている ( 中尾 加藤,2001,2005,2006a,2006b) とは稀であるため, 乳幼児期には主要な指標であった行動的側面は軽視されてきた 3) 成人のアタッチメント行動を調べた研究としては, 実験室におけるカップルの相互作用を観察したSimpson, Rholes, & Nelligan(1992) や若尾 (2004), 空港での離別場面の自然観察を行った Fraley & Shaver(1998) などがある 成人アタッチメント行動研究の先駆けとなった Simpson et al.(1992) は, 安定傾向が高い人は不安を喚起されるとパートナーにサポートを求め, 回避傾向が高い人は不安が高まるほどサポートを求めなくなることを示した また, 離別を控えているカップルは身体的な接触を多く行うが, 回避傾向の高い人はパートナーとの接触を避け, パートナーに対してサポートを提供しないことが見出された (Fraley & Shaver, 1998) これらの結果は, アタッチメント行動は成人においても日常的に生起し, アタッチメントの個人差が行動に反映されることを示唆している さらに, アタッチメント行動の個人差は状況に含まれる脅威があいまいであるほど顕著に見られることが指摘されている (Collins & Feeney, 2004) 成人期の内的作業モデル Hazan & Shaver (1987) は成人期のアタッチメントスタイルとして安定型, 回避型, 不安 / アンビバレント型を設定した これらは乳幼児期のアタッチメントスタイルに対応したものである その後, 内的作業モデルは 自分はアタッチメント対象から愛されるに値する存在であるか という自己についてのモデルと アタッチメント対象は自分が求めたときに保護を提供してくれるか という他者についてのモデルという 2 つのモデルからなるとするBowlby (1973) の記述に基づいた2 次元 4 類型モデルが提唱されるようになった (Bartholomew & Horowitz, 1991) 2 次元は 自己についてのモデル と 他者についてのモデル であり,4 類型は 自己モデル 他者モデル ともにポジティブな 安定型 (Secure), 自己モデル がポジティブで 他者モデル がネガティブな アタッチメント軽視型 (Dismissing Avoindant), 自己モデル がネガティブで 他者モデ 71

アタッチメントは対人行動にどのように反映されるのか ル がポジティブな とらわれ型 (Preoccupied), 自己モデル 他者モデル ともにネガティブな 恐れ型 (Fearful Avoidant) である 近年では, 自己についてのモデル は関係に対する 不安 (Anxiety) を表し, 他者についてのモデル は関係からの 回避 (Avoidance) を表すものとして再概念化されている (Brennan, Clark, & Shaver, 1998) 成人アタッチメント研究には内的作業モデルを 3 次元 (3 類型 ) で捉えたもの (e.g., Simpson et al., 1992) と 2 次元 (4 類型 ) で捉えたもの (e.g., Collins & Feeney, 2000) が混在しているが,Brennan et al.(1998) による 2 次元モデルは現在の成人アタッチメント研究では広く受け入れられているため, 本研究もこのモデルに従う 本研究の目的 Simpson et al.(1992) や Fraley & Shaver (1998) の研究はサポートの授受という文脈に限定されているが, Feeney & Cassidy (2003) やCampbell, Simpson, Boldry, & Kashy (2005) は日常的な事象に対する記憶にもアタッチメントの影響が認められることを示している このことから, 本研究ではアタッチメント行動が日常的な対人行動にも反映されるものと考え, アタッチメントとパーソナルスペースの関連を検討することを目的とする パーソナルスペースは Sommer (1959) によって提唱された概念であり, 人が他者と相互作用をする中で相互に調整される対人距離の集合であると定義されている Fraley & Shaver (1998) がサポートを要求 提供するカップルは身体的接触を行うことを示していることから, 相手にサポートを要求, あるいは提供するときにパーソナルスペースは縮小すると考えることができる 本研究では以下の仮説を設定した 仮説 1:2 次元モデルに基づいて研究を行った Collins & Feeney (2000) は,3 次元モデルに基づいた Simpson et al.(1992) と同様に, 回避 が高い人はパートナーにサポートを要求しないという結果を示している このことから, 回避 が高い人は他者への接近を行わず, パーソナルスペースが大きくなると予測される 仮説 2: 回避 が高いほど, ストレス状況においてサポートを提供しないという知見から (Fraley & Shaver, 1998), 回避 が高い人は他者からの接近を拒絶し, パーソナルスペースが大きくなると予測される この他, 不安 とサポート要求行動, サポート提供行動との関連については,Collins & Feeney (2000) は 不安 の高い人のサポート提供が効果的ではないことを, 中尾 加藤 (2006a) は 不安 の高い人は間接的なサポート要求を示すことを指摘している しかし, これらがどのような形でパーソナルスペースに反映されるのかを推 測するのは困難であることから, 本研究では 不安 の高さとパーソナルスペースの大きさの関連については探索的な検討を行う 方法実験参加者岐阜県内の医療系専門学校 1 校の学生が対象であった アタッチメントを測定する質問紙には 39 名が回答し, パーソナルスペースを測定する実験には 31 名が参加した このうち, 両測定結果の揃っている 26 名を分析の対象とした 4) 26 名の内訳は男性 15 名, 女性 11 名, 平均年齢は18.5 歳 (SD =1.2) であった アタッチメントの測定 Brennan et al.(1998) が作成し, 中尾 加藤 (2004) が邦訳したthe Experiences in Close Relationships (ECR) のうち,29 項目を使用して実験参加者のアタッチメントを測定した 5) 先行研究に基づいて見捨てられ不安(17 項目,M =70.4, SD =12.8, Med =70) と親密性の回避 (12 項目,M =45.3, SD =9.5, Med =46) の2 因子に分け, 尺度得点を求めた その後, 見捨てられ不安得点と親密性の回避得点のそれぞれを中央値で折半し, 高群 低群の2 群に振り分けた 6) パーソナルスペースの測定パーソナルスペースの測定は友人同士をペアとして行った 7) 測定は次の 16 条件で行った 1 接近者 : 自分が友人に近づいていく条件と友人が自分に近づいてくる条件を設定した 2 接近速度 : ゆっくり接近する条件と走って接近する条件を設けた 3 接近の方向 : 前後左右の 4 方向からの接近のそれぞれについて測定を行った 実験参加者は友人との距離が気詰まりに感じる地点で自分もしくは相手の接近を止め, そのときの相手との距離を計測した ₄ ) 利用可能なデータは, 自分から は25 名, 相手から は24 名であった 5 ) 中尾 加藤 (2004) が翻訳したECRには30 項目あるが, 著者が行った複数の研究 (Shima,2007) で一貫して1 項目 ( 私は誰かとつき合っていないと, 何となく不安な気持ちになる ) が 2 つの因子に寄与していたため, 本研究では当該項目を削除して実施した 6 )ECR の 3 項目において, 合計 4 名のデータに欠損があった 実験参加者数が少ない点を考慮し, データ処理による参加者の脱落を避けるために, 欠損値を平均値で置換した 7 ) 友人は同性とした 親密度の評定や統制は行っていない 72

原 著 手続き接近者 ( 自分から, 相手から ), 方向 ( 前後左右 ), 接近速度 ( ゆっくり, 走って ) の全 16 条件について, ペアごとに測定を行った 16 条件の実施順序はランダム化した アタッチメントの測定はパーソナルスペースの測定に先立って, 別時日に実施した 結果と考察前後左右の 4 方向で測定されたパーソナルスペースについて, 実験参加者ごとに平均値を算出し, 従属変数とした はじめに, 接近速度によるパーソナルスペースの大きさの違いを検討するために, 自分から接近する条件と相手から接近される条件のそれぞれにおいて, 接近速度を独立変数とした 1 要因分散分析を行った その結果, いずれの条件でも 走って 接近する / される条件でのパーソナルスペースが有意に大きかった ( 自分から :F(1, 24)=20.32, p <.01; 相手から :F (1, 23)=29.87, p <.01) 他者との距離が急激に縮まることがパーソナルスペースへの侵入と評価され, 早い段階で接近を止めるという行動につながったのだろう これに対して, ゆっくり接近する / される状況は明確な脅威ではなく, ここに調節された対人距離としてのパーソナルスペースの個人差が生じる余地がある アタッチメントの個人差は状況があいまいであるほど顕著になることから (Collins & Feeney, 2004), 走って 接近する / される条件にはパーソナルスペースにアタッチメントの個人差が寄与する余地はなく, ゆっくり 接近する / される条件がより適切であることが示唆される 続いて, 見捨てられ不安, 親密性の回避を独立変数として, 接近者 ( 自分から, 相手から ) と接近速度 ( ゆっくり, 走って ) の 4 測定条件のそれぞれについて 2 要因分散分析を行った その結果,Table 1 に示したように, 相手から ゆっくり 接近してくる場合においてのみ, 親密性の回避の主効果が有意であった (F (1, 20)=4.38, p <.05) 自分から接近する条件において親密性の回避の主効果が得られなかったことから, 仮説 1 は支持されなかった 回避 の高い人は脅威を感知したときにパートナーにサポートを要求しない (Collins & Feeney, 2000; Simpson et al., 1992) ことからパーソナルスペースが大きくなると予測したが, これは自ら進んで他者に接近することはしないということであり, 本研究のように接近を求められた場合には, 少なくとも物理的には, 接近可能であることが示唆される 一方, 相手から接近される条件においては, ゆっくり接近された場合に親密性の回避の主効果が有意であった しかし, 仮説 2 では 回避 が高いほどパーソナルスペースも大きいと予測したが, 結果は逆に 回避 が高いほどパーソナルスペースが小さくなるというものであった 先行研究では回避型 ( もしくは回避傾向の高い人 ) は他者からのサポートを求めない (Collins & Feeney, 2000;Simpson et al., 1992), 身体接触を避ける (Fraley & Shaver, 1998) など心理的にも物理的にも他者との近接を避ける傾向があることが報告されているが, 本研究の結果はこれらとは正反対のものとなった 佐藤 (1998) やShaver & Mikulincer (2007) はアタッチメントスタイルと情報処理様式の特徴についての論考を提出している これによると, 回避型 ( 回避 傾向の高い人 ) は不活性化方略を取り, 潜在的危機を脅威と評価しないことで内的作業モデルの活性化を抑制し, 心の安定を保つことを試みる 他者からの接近をパーソナルスペースに対する侵入, すなわち脅威であると仮定した本研究においては, 回避 の高い人は接近事態を脅威と評価しないことで他者からの接近を許容したと解釈することができる ただし, 本研究の結果は先行研究とは矛盾するものである したがって, 佐藤 (1998) や Shaver & Mikulincer (2007) による情報処理論的な解釈 Table 1 パーソナルスペースの大きさについての分散分析の結果 ( 単位は cm) 不安 L 不安 H 回避 L 回避 H 回避 L 回避 H F 値 自分から N = 8 N = 5 N = 6 N = 6 不安 回避 不安 回避 ゆっくり 70 (27) 47 (36) 94 (50) 76 (50) 2.29 1.29 0.02 走って 93 (40) 121 (80) 172 (94) 129 (69) 2.28 0.08 1.54 相手から N = 9 N = 4 N = 5 N = 6 ゆっくり 96 (66) 83 (71) 182 (80) 68 (74) 1.34 *4.38* 2.70 走って 200 (125) 171 (133) 227 (80) 163 (66) 0.04 1.07 0.16 * p <.05 ( ) 内は標準偏差 不安 は見捨てられ不安, 回避 は親密性の回避を表す 73

アタッチメントは対人行動にどのように反映されるのか が本研究で得られた知見を説明し得るか否かを判断するには 回避 の高い人が内的作業モデルの活性化を抑制していることを確認する必要がある 次に, 不安 とパーソナルスペースの大きさの関連について検討を行ったところ, 不安 はパーソナルスペースの大きさに影響を与えていないことが示された (Table 1) 不安 とサポートの要求 提供行動との関連については一定の知見が得られていないのが現状である 具体的には, サポート提供行動に関しては 不安 の高い人はサポートを提供しないのではなく効果的ではないことが示されており (Collins & Feeney, 2000), サポート要求行動に関しては 不安 の高い人は直接的ではなく間接的な方法でサポートを求めることを示しているのみである ( 中尾 加藤 2006a) 本研究の結果は接近する条件においても接近される条件においても 不安 とパーソナルスペースの大きさには関連がないというものであったが, 知見の少なさを鑑みると, 結論を導くには更なる知見の蓄積が必要であろう 課題と展望本研究の限界として, 次の 2 点を指摘することができる 第 1 に, 本研究の実験参加者の ECR 得点を著者が行った他の研究 (Shima, 2007) と比較すると, 見捨てられ不安得点が若干高いという特徴が見られた 実験参加者が少なく, 対象に偏りがあることも鑑みると, より多くの, 多様な参加者を対象とした実験により, 本実験の結果を補強する必要がある 第 2 に, 本実験の手続きでは他者からの接近に対してどのように反応するかを調べることでサポート提供行動のモデルを示すことはできたが, サポート要求行動のモデルとしては実験参加者に友人への接近を要求したため, 回避 の高い人は脅威事態に対して他者との距離をとるように行動するという可能性まで検討することができなかった この点は接近するか回避するかの決定まで実験参加者に委ねるように方法を改善することで検討する必要がある 以上の点を踏まえると, 本研究の結果から明確な結論を導くには尚早であると言わざるを得ない それでも, パーソナルスペースを指標とした簡便な実験によって 2 次元の内的作業モデルの個人差が対人相互作用の個人差とどのように関連しているのかを検討することができることを示した点は意義深い 成人期のアタッチメントが他の心理的概念とどのように関連するのかを検討するのみでなく, 行動としてどのように表現されるのかの検討を進めていくことが求められる 引用文献 Bartholomew, K., & Horowitz, L. M.(1991). Attachment styles among young adults: A test of a fourcategory model. Journal of Personality and Social Psychology, 61, 226-244. Bowlby, J.(1969). Attachment and loss: Vol. 1, Attachment. New York: Basic Books. Bowlby, J.(1973). Attachment and loss: Vol. 2, Separation. New York: Basic Books. Brennan, K. A., Clark, C. L., & Shaver, P. R.(1998). Selfreport measurement of adult attachment: An integrative overview. In J. A. Simpson, & W. S. Rholes (Eds.), Attachment theory and close relationships. New York: Guilford Press, pp. 46-76. Campbell, L., Simpson, J. A., Boldry, J., & Kashy, D. A.(2005). Perceptions of conflict and support in romantic relationships: The role of attachment anxiety. Journal of Personality and Social Psychology, 88, 510-531. Collins, N. L., & Feeney, B. C.(2000). A safe haven: An attachment theory perspective on support seeking and caregiving in intimate relationships. Journal of Personality and Social Psychology, 78, 1053-1073. Collins, N. L., & Feeney, B. C.(2004). Working models of attachment shape perceptions of social support: Evidence from experimental and observational studies. Journal of Personality and Social Psychology, 87, 363-383. Feeney, B. C., & Cassidy, J.(2003). Reconstructive memory related to adolescent-parent conflict interactions: The influence of attachment-related representations on immediate perceptions and changes in perceptions over time. Journal of Personality and Social Psychology, 85, 945-955. Fraley, R. C., & Shaver, P. R.(1998). Airport separation: A naturalistic study of adult attachment dynamics in separating couples. Journal of Personality and Social Psychology, 75, 1198-1212. Hazan, C., & Shaver, P. R.(1987). Romantic love conceptualized as an attachment process. Journal of Personality and Social Psychology, 52, 511-524. 金政祐司 大坊郁夫 (2003). 青年期の愛着スタイルと社会的適応性心理学研究,74,466-473. 中尾達馬 加藤和生 (2001). 成人の愛着行動とはどのよう 74

原 著 なものか? 女子大学生の自由記述の内容分析を通して 九州大学心理学研究,2,99-106. 中尾達馬 加藤和生 (2004). 一般他者 を想定した愛着スタイル尺度の信頼性と妥当性の検討九州大学心理学研究,5,19-27. 中尾達馬 加藤和生 (2005). 成人における愛着スタイルと愛着行動の状況間一貫性九州大学心理学研究,6, 9-20. 中尾達馬 加藤和生 (2006a). 成人愛着スタイルは成人の愛着行動パターンの違いを本当に反映しているのか? パーソナリティ研究,14,281-292. 中尾達馬 加藤和生 (2006b).4つの成人愛着スタイルにおける愛着対象 手段 方略間での愛着行動の一貫性と安全欲求の検討九州大学心理学研究,7,9-19. 佐藤徳 (1998). 内的作業モデルと防衛的情報処理心理学評論,41,30-56. Shaver, P. R., & Mikulincer, M.(2007). Adult attachment strategies and the regulation of emotion. In J. J. Gross (Ed.), Handbook of emotion regulation. New York: Guilford Press, pp. 446-465. Shima, Y.(2007). Adolescents' secure-base behavior from the perspective of information processing. Psychological Reports, 101, 419-429. Simpson, J. A., Rholes, W. S., & Nelligan, J. S.(1992). Support seeking and support giving within couples in an anxiety-provoking situation: The role of attachment styles. Journal of Personality and Social Psychology, 62, 434-446. Sommer, R.(1959). Studies in personal space. Sociometry, 22, 247-260. 若尾良徳 (2004). 青年のアタッチメントスタイルと不安喚起場面における行動との関連パーソナリティ研究,12, 47-58. (2008 年 11 月 5 日受稿 ) ABSTRACT Adolescents attachment working models and interpersonal behavior: From the perspective of personal space. Yoshihiro SHIMA Adult attachment researches were started in late 1980s. The key concept of the adult attachment theory is the internal working models of attachment, which is a generalized and abstracted representation of the experiences in attachment relationships. The internal working models of attachment consists of two dimensions, Anxiety and Avoidance. Although there are few studies on adult attachment behaviors, some studies were conducted in laboratory settings and/or naturalistic observations. These studies have revealed that people who were high on Avoidance avoid intimate physical contact when they were under stressful conditions. In this study, the personal space was measured as an index of adult attachment behaviors. Participants were 26 vocational school students. The personal space was measured in 16 conditions: 2 (approaching person; from participants or from their partners) 2 (approaching speed; fast or slowly) 4 (approaching direction; from front, back, left, or right). According to previous studies, highly avoidant people do not give and seek support to their partners, it was hypothesized that highly avoidant participants would show large personal spaces. That is, highly avoidant participants would (1) stop their approach to their partners soon, and (2) stop their partners approach 75

アタッチメントは対人行動にどのように反映されるのか before they come close to. Results of ANOVA indicated that (1) Avoidance did not affect the size of the personal space when participants approached their partners, and (2) highly avoidant participants showed smaller size of the personal space when they were approached by their partners. The former result did not support hypothesis 1 and the latter one was contrary to the hypothesis 2. Even though this study contains a few deficits and further studies are needed, it is meaningful for this study to examine the adult attachment behaviors with a simple experimental method. Key words: adult attachment, attachment behaviors, personal space, anxiety, avoidance 76