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焼酎粕飼料を製造できることを過去の研究で明らかにしている ( 日本醸造協会誌 106 巻 (2011)11 号 p785 ~ 790) 一方 近年の研究で 食品開発センターが県内焼酎もろみから分離した乳酸菌は 肝機能改善効果があるとされる機能性成分オルニチンを生成することが分かった 本研究では 従来

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ふくしまからはじめよう 農業技術情報 ( 第 39 号 ) 平成 25 年 4 月 22 日 カリウム濃度の高い牧草の利用技術 1 牧草のカリウム含量の変化について 2 乳用牛の飼養管理について 3 肉用牛の飼養管理について 福島県農林水産部 牧草の放射性セシウムの吸収抑制対策として 早春および刈取

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乳牛の繁殖技術と生産性向上

( 図 7-A-1) ( 図 7-A-2) 116

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研究の中間報告

澤香代子 坂本洋一 岡﨑尚之 山本裕美 長谷川清寿 : 経腟採卵と過剰排卵処理の併用による和牛胚の生産効率化に関する検討 ( 第 3 報 ) 実験 1 材料および方法 当センター繋養の黒毛和種経産牛 20 頭を供試し 各供試牛に対して3つの胚生産手法を産次ごとに任 1 3) 意の順序ですべて適用した

11 ウシガラス化保存時のストロー内希釈液の種類と胚の生存性

毎回紙と電卓で計算するより パソコンの表計算ソフトを利用して計算されることをすすめます パソコンは計算と記録が同時にできますから 経営だけでなく飼養管理や繁殖の記録にも利用できます 2) 飼料設計項目ア.DMI TDN CP NFC a.dmi( 乾物摂取量 ) 水分を除いた飼料摂取量のことです 飼

参考1中酪(H23.11)

通常 繁殖成績はなかなか乳量という生産性と結びつけて考えることが困難なのですが この平均搾乳日数という概念は このように素直に生産性 ( 儲け ) と結びつけて考えることができます 牛群検定だけでなく色々な場面で非常に良く使われている数値になりますので覚えておくと便利です 注 1: 平均搾乳日数平均

ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

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( 図 2-A-2-1) ( 図 2-A-2-2) 18

和歌山県農林水産試験研究機関研究報告第 1 号 20AU を皮下に 1 回投与するワンショット区と生理食塩水に溶解した合計 20AU の FSH を 3 日間にわたり減量投与する減量投与区の 2 区を設定し, 当場で飼養している分娩後 日後の黒毛和種経産牛 3 頭を用いて, 各処理を 3

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BUN(mg/dl) 分娩後日数 生産性の良い牛群の血液データを回収 ( 上図は血中尿素窒素の例 ) 各プロットが個々の牛のデータ BUN(mg/dl) BUN(mg/dl)

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平成18年度「普及に移す技術」策定に当たって

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ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

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25 岡山農総セ畜研報 4: 25 ~ 29 (2014) イネ WCS を主体とした乾乳期飼料の給与が分娩前後の乳牛に与える影響 水上智秋 長尾伸一郎 Effects of feeding rice whole crop silage during the dry period which exp

H25.18

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徳島県畜試研報 No.14(2015) 乾乳後期における硫酸マグネシウム添加による飼料 DCAD 調整が血液性状と乳生産に及ぼす影響 田渕雅彦 竹縄徹也 西村公寿 北田寛治 森川繁樹 笠井裕明 要 約 乳牛の分娩前後の管理は産後の生産性に影響を及ぼすとされるが, 疾病が多発しやすい時期である この時

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婦人科63巻6号/FUJ07‐01(報告)       M

Taro-④H24成績書『(イ)肉用牛への給与技術の確立 ①繁殖雌牛・子牛への給与技術の確立』【校正済み】

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

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報告書

たまみつしげ 2 黒毛和種 琴照重 及び褐毛和種 球光重 ETI が優秀な成績を収めて 種雄牛として選抜される 鳥取牧場で作出した黒毛和種の種雄牛 琴照重 が 産子の肥育成績を調べる現場後代検定により選抜され 精液の供給が始まりました 琴照重 は 同時期に検定を実施した種雄牛 23 頭中 脂肪交雑

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

現在 本事業で分析ができるものは 1 妊娠期間 2 未経産初回授精日齢 3 初産分娩時日齢 / 未経産妊娠時日齢 4 分娩後初回授精日 5 空胎日数 6 初回授精受胎率 7 受胎に要した授精回数 8 分娩間隔 9 供用年数 / 生涯産次 10 各分娩時月齢といった肉用牛繁殖農家にとっては 極めて重要

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部屋に収容した (40 羽 /3.3 平方メートル ) 表 1 試験区分 区 ( 性別 ) 羽数 飼 料 対照区 ( ) 52 通常 ( 市販飼料 ) 対照区 ( ) 52 通常 ( 市販飼料 ) 試験区 ( ) 52 高 CP(4~6w 魚粉 4% 添加 ) 試験区 ( ) 52 高 CP(4~6

平成24年度農研機構シンポジウム資料|牛肉における放射性セシウムの飼料からの移行について

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シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

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あった AUCtはで ± ng hr/ml で ± ng hr/ml であった 2. バイオアベイラビリティの比較およびの薬物動態パラメータにおける分散分析の結果を Table 4 に示した また 得られた AUCtおよび Cmaxについてとの対数値

「牛歩(R)SaaS」ご紹介

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ⅱ カフェイン カテキン混合溶液投与実験方法 1 マウスを茶抽出液 2g 3g 4g 相当分の3つの実験群と対照群にわける 各群のマウスは 6 匹ずつとし 合計 24 匹を使用 2 実験前 8 時間絶食させる 3 各マウスの血糖値の初期値を計測する 4 それぞれ茶抽出液 2g 3g 4g 分のカフェ

報告書

保健機能食品制度 特定保健用食品 には その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をすることができる 栄養機能食品 には 栄養成分の機能の表示をすることができる 食品 医薬品 健康食品 栄養機能食品 栄養成分の機能の表示ができる ( 例 ) カルシウムは骨や歯の形成に 特別用途食品 特定保健用

東京都農林総合研究センター研究報告第 13 号 (2018 年 ) る ( 松本,2006) ことが明らかになっており, さらに, 牛では灸処置により子宮動脈血流量が増加したという報告もある ( 石川ら,2001) 秋葉ら(2006) の研究では, 分娩後 30 日および 50 日に 2 回施灸した

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規


の獲得と実用化のための研究に乗り出すこととなった まず 1988 年に Johnson の指導のもとに日本で初めて本技術の導入を行い メーカーのエンジニアと綿密な打ち合わせを繰り返し 当団にとって初代のフローサイトメーターとなる EPICS-753 を導入した ( 図 3の1) この機種の精子選別速

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(2) 牛群として利活用 MUNを利用することで 牛群全体の飼料設計を検討することができます ( 図 2) 上述したようにMUN は 乳蛋白質率と大きな関係があるため 一般に乳蛋白質率とあわせて利用します ただし MUNは地域の粗飼料基盤によって大きく変化します 例えば グラスサイレージとトウモコシ

2. 栄養管理計画のすすめ方 給食施設における栄養管理計画は, 提供する食事を中心とした計画と, 対象者を中心とした計画があります 計画を進める際は, それぞれの施設の種類や目的に応じて,PDCA サイクルに基づき行うことが重要です 1. 食事を提供する対象者の特性の把握 ( 個人のアセスメントと栄

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地域における継続した総合的酪農支援 中島博美 小松浩 太田俊明 ( 伊那家畜保健衛生所 ) はじめに管内は 大きく諏訪地域と上伊那地域に分けられる 畜産は 両地域とも乳用牛のウエイトが最も大きく県下有数の酪農地帯である ( 表 1) 近年の酪農経営は 急激な円安や安全 安心ニーズの高まりや猛暑などの

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Taro-40-11[15号p86-84]気候変動

Ⅱ 材料および方法 1. 供胚牛福井県内の酪農家 19 戸で飼養されているホルスタイン種経産牛の中から 4 産以上分娩し かつ産乳能力が高い上位 3 頭 ( 平均産歴 4.7 産 ) を選抜した 供胚牛 3 頭を 3 反復し ( 延べ 9 回 ) SOV 方法が異なる 3 区 ( 対照区 試験区 1

子牛育成の参考書 ~ 子牛育成プロジェクトの調査結果から ~ 平成 26 年 3 月 東松浦農業改良普及センター唐津農業協同組合上場営農センター北部家畜保健衛生所

乳牛の繁殖性低下の現状と子宮環境 ており 産歴にかかわらず黒毛和種の精液を授精した方がホルスタイン種の精液より受胎率が若干高くなる傾向が認められている [5] しかし 人工授精用精液の調整法の違いや雑種強勢の影響を考慮する必要があるため この成績だけで黒毛和種の雄がホルスタイン種の雄より受精能が高い

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牛における胚移植および核移植に関する臨床繁殖学的研究

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安全な畜産物の生産と生産性の向上適正な飼養管理家畜の健康の維持 家畜のアニマルウェルフェア (Animal Welfare) とは 国際獣疫事務局 (OIE) のアニマルウェルフェアに関する勧告の序論では アニマルウェルフェアとは 動物が生活及び死亡する環境と関連する動物の身体的及び心理的状態をいう

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報告書

(10) 氏名 ( 本 ( 国 ) 籍 ) 三浦亮太朗 ( 静岡県 ) 主指導教員氏名 帯広畜産大学准教授松井基純 学位の種類 博士 ( 獣医学 ) 学位記番号 獣医博甲第 440 号 学位授与年月日 平成 27 年 3 月 13 日 学位授与の要件 学位規則第 3 条第 2 項該当 研究科及び専攻

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Taro-④経膣採卵による一卵性多子生産技術の種雄牛造成への応用可能性(最終稿)

Transcription:

暑熱期におけるアスタキサンチン飼料用製剤の黒毛和種 繁殖雌牛への給与が栄養状態及び採胚成績に与える影響 東山雅人 要 約 暑熱期における牛の繁殖成績の向上においては, 暑熱ストレスの影響を受けにくい新鮮体内胚の移植の需要は高まり, 高品質体内胚の安定供給が求められている 暑熱ストレスの影響は黒毛和種において採食量やホルモン分泌の低下等, 多岐に及ぶことが知られており, 近年の報告からこれら暑熱ストレスの一因を酸化ストレスと捉え, 温湿度指数 (THI) が76 以上の期間に強い抗酸化力を持つアスタキサンチンを高濃度に含む飼料用製剤 (ASX 製剤 ) を発情 (d0) から21 日間 (d21), 日量 100g, 黒毛和種繁殖雌牛へ給与し, 栄養状態及び採胚成績に与える影響について比較検討した d0,sov 開始及びd21に体重, 総コレステロール (T-cho) 及び血中尿素態窒素 (BUN) を測定した結果, 体重はほぼ一定で推移し,T-cho 及びBUNはほぼ指標値内で推移した 暑熱期供試牛とH21~25 暑熱期又は非暑熱期供試牛 (ASX 製剤給与無 ) の採胚成績を比較した結果,A 及びA',B,C 胚数に有意差は認めなかった これらのことから,THI 76 以上の暑熱期において, 黒毛和種繁殖雌牛の発情から21 日間におけるアスタキサンチン含有飼料用製剤の日量 100gの給与は栄養状態や採胚成績に影響しないことが示唆された 目的本県では毎年暑熱期 (7~9 月 ) に最高気温 35 以上の猛暑日と30 以上の真夏日が観測されており, 乳用牛, 肉用牛ともに人工授精後 (AI) の受胎率が低下することが知られている 暑熱期のAIの受胎率低下は秋には回復し, この時期にAIが集中することにより翌年の分娩が暑熱期に重なるため, 分娩管理の煩雑さや周産期疾病への影響が指摘されており 1), 暑熱期の繁殖成績の向上が経営の安定化に必要不可欠となっている 暑熱期における牛の繁殖成績の向上には, 発生 分化の進んだ胚が暑熱ストレスに比較的強く 2), 新鮮胚の受胎率は凍結胚より高いことから 3), より効率的な子牛生産の手法として新鮮体内胚移植への需要が高まり, 高品質体内胚の安定供給が求められている 一方, 暑熱期に牛は呼吸数の増加や発汗の促進に伴い代謝が活発となり, 還元成分である血中の SH 基やビタミンC 濃度が低下するため 4)5), 暑熱ストレスの一因が酸化ストレスであることが報告されおり 5), 酸化ストレスは初期胚の発生に悪影響を与える 2) また, 暑熱期には第一胃運動が抑制され, 乾物摂取量の低下で栄養摂取が不足するとともに 6), ホルモン分泌の低下が示唆されており 1), これらの複合的な影響がホルスタイン種より耐暑性にまさる黒毛和種繁殖雌牛 7) においても採胚成績の低下の要因になり得ると考えられる そこで, 暑熱期に黒毛和種繁殖雌牛に強い抗酸化力をもつアスタキサンチンを高濃度に含む飼料用製剤 (ASX 製剤 ) を給与し, その効果を検討した 材料および方法暑熱期における黒毛和種繁殖雌牛へのASX 製剤の給与が栄養状態と採胚成績に与える影響を明らかにするために, 牛舎内及び放牧場の温湿度指数 (THI) により暑熱期と非暑熱期を区分し, 暑熱 - 9 -

期間中に体重及び血液生化学値を測定するとともに, 暑熱期と非暑熱期の採胚成績の比較検討した (1) 暑熱期, 非暑熱期の区分平成 27 年 7 月 1 日 14:00より当課牛舎内のヒートストレスメーターでTHIの測定を開始し, 平成 27 年 9 月 18 日までの79 日間, 毎日同時刻の牛舎内 THI を測定した 放牧場 THIは気象庁の徳島における気象データの最高気温及び平均湿度から算出し, 牛舎内 THIの実測値と放牧場 THIとの相関係数により平成 27 年 7 月 1 日 ~9 月 18 日以外の牛舎内及び放牧場 THIを算出した 発情日を起点とし (d0), 採胚日までの平均 THIが76 以上を暑熱ストレスがある暑熱期,76 未満を暑熱ストレスがない非暑熱期として区分した (2) 供試牛牛舎内 THIが76 以上を初めて観測した平成 27 年 7 月 12 日以降に自然発情または誘起発情が見られた黒毛和種繁殖雌牛 6 頭 (A,B,C,D,E,F) を供試牛とした (3)ASXの給与 d0から21 日間 (d21),asx 製剤を日量 100gを経口投与した 6 頭の平均 TDN 及びCPはそれぞれ139. 1%,116.4% であった (4) 過剰排卵処理 (SOV) 供試牛の過剰排卵処理 (SOV) はd9~d14に開始し,3 日間 FSH(20AU) の漸減投与を行い,d0から 7 日目に採胚した (5) 体重, 血液生化学測定項目 d0,sov 開始日及びd21に供試牛の体重, 血中総コレステロール (T-cho) 及び血中尿素窒素 (BUN) を測定した (6) 採胚成績採胚成績は総回収卵数及び胚の品質分類について比較し, 胚の品質分類は倒立光学顕微鏡下により, 正常な発育ステージでほとんど変性部位を認 めないか, 僅かに変性を認めるものをA 及びA' とし, 正常な発育ステージ様の形態を示すが, 変性が多いものをB, 発育が不良なものをCとした 採胚成績はH21~H25の暑熱期 22 頭, 供試牛 6 頭及び非暑熱期供試牛 4 頭 (A~D) で比較した (7) 統計解析 H21~H25 暑熱期, 供試牛及び非暑熱期供試牛の採胚成績のうち,A 及びA',B,Cランク胚数について, それぞれカイ二乗検定を行った 結果 (1) 暑熱ストレスの有無供試牛の発情及びASX 製剤給与開始日から採胚日までの牛舎内及び放牧場 THIを表 1に示した 供試牛の発情は7 月 20 日から8 月 28 日までに認め, 採胚は8 月 11 日から9 月 18 日の間に実施した 7 月 20 日から9 月 18 日までが供試期間であり, これら期間内の牛舎内 THIは76.3±2.6で放牧場 THIが83.9 ±3.1でTHI76 以上を示す暑熱期であった 放牧場 THIと牛舎内 THIの相関係数は0.909で正の相関があった (2) 暑熱期におけるASX 製剤給与が栄養状態に与える影響供試牛 6 頭の平均体重の推移を図 1,T-choの推移を図 2,BUNの推移を図 3に示した 供試期間中, 体重はほぼ一定で推移した T-cho 及びBUNは, 多頭飼育における黒毛和種繁殖雌牛生産性向上のための代謝プロファイルテストを用いた飼養管理マニュアル ( 独立行政法人家畜改良センター鳥取牧場 ) の乾乳期のほぼ指標値内 (T-cho 89±18mg/d l,bun 11±2mg/dl) で推移した - 10 -

供試牛 発情及び給与開始日 採胚日 牛舎内 THI 平均値 (d0~ 採胚日 ) 放牧場 THI 平均値 (d0~ 採胚日 ) 供試期間中牛舎内 THI 供試期間中放牧場 THI A 7/20 8/11 78.7 86.5 B 7/21 8/11 78.8 86.6 C 8/2 8/26 77.2 85.0 D 8/6 8/27 76.6 84.5 76.3±2.6 83.9±3.1 E 8/10 9/2 75.1 83.2 F 8/28 9/18 71.1 77.5 表 1. 供試牛の ASX 製剤給与開始日から採胚日までの牛舎内及び放牧場 THI 図 1. 体重の推移 ( ) 図 3.BUN の推移 ( ) 図 2.T-choの推移 ( ) (3) 暑熱期におけるASX 製剤給与が採胚成績に与える影響 H21~H25 暑熱期, 供試牛及び非暑熱期供試牛の採胚成績を表 2に示した H21~25の7 月 28 日から9 月 29 日までの間に22 頭から採胚し, 採胚までの21 日間の牛舎内及び放牧場 THIはそれぞれ76.9±2. 2,84.6±2.4を示す暑熱期であった H21~25 暑熱期採胚成績はA 及びA' 胚が41.1%,B 胚が7.4%,C 胚が6.3% であった 供試牛の採胚成績はA 及びA' 胚が46.2%,B 胚が26.9%,C 胚が11.5% であり,H2 1~25 暑熱期採胚成績と比較してA 及びA' とC 胚に差はなく,B 胚が有意に増加した (p<0.05) 供試牛 (A~D) は,d0から採胚までの牛舎内及び放牧 - 11 -

場 THIがそれぞれ59.4±8.6,65.4±9.5の非暑熱期に採胚しており, 採胚成績はA 及びA' 胚が33.3%, B 胚が15.6%,C 胚が17.8% であった ASX 製剤の供試牛の暑熱期採胚成績でB 胚が有意に増加したこ とから,ASX 製剤や暑熱ストレスによる影響かどうかを検討するため, 供試牛と非暑熱期供試牛の採胚成績を比較した結果,A 及びA',B,C 胚に有意差はなかった 考 H21~25 暑熱期 175 供試牛 78 非暑熱期供試牛 (ASX 製剤給与無し ) 察 総回収卵数 A 及び A' 胚数 B 胚数 C 胚数 45 72 (41.1) 36 (46.2) 15 (33.3) 13 a (7.4) 21 b (26.9) 7 (15.6) 11 (6.3) 9 (11.5) 牛舎内 THI 表 2.H21~25 暑熱期, 供試牛及び非暑熱期供試牛の採胚成績と THI ホルスタイン種泌乳牛では THI, 膣内温度, 血 中の過酸化脂質 (TBARS) の測定結果から暑熱期の 酸化ストレスの増加と THI 上昇との関連が明らか にされている 8)9) 暑熱期における黒毛和種繁殖 雌牛の酸化ストレスと THI との関連は明らかにさ れていないが, 暑熱期のホルスタイン種泌乳牛に 見られる膣内温度と TBARS の上昇が黒毛和種繁殖 雌牛にも認められることから 10), 暑熱期におけ る黒毛和種繁殖雌牛の暑熱期の酸化ストレス指標 として THI の活用が可能であると考え, 酸化スト レスが増加する THI76 以上の暑熱期に黒毛和種繁 殖雌牛へ ASX 製剤を給与し, 栄養状態と採胚成績 について比較検討した 暑熱による牛体外胚の発生阻害はアスタキサン チンで緩和されており 11), アスタキサンチンに よる胚品質の向上が期待されるが, 錫木らは d0 か ら 21 日間におけるアスタキサンチン混合飼料の日 量 50g を黒毛和種繁殖雌牛へ給与した結果, アス タキサンチンの給与の有無で胚品質に有意差はな かったと報告していることから 12), 今回の試験 では ASX 製剤の給与量を日量 100g とした 今回,THI が 76 以上の暑熱期における ASX 製剤給 放牧場 THI 76.9±2.2 84.6±2.4 76.3±2.6 83.9±3.1 8 59.4±8.6 65.4±9.5 (17.8) 同列異符号間で有意差有り (p<0.05) () は総回収卵数に占める各ランク胚数の割合を示す 与が栄養状態に与える影響を検討した結果, 供試 牛で体重の減少が見受けられず,T-cho 及び BUN が ほぼ指標値内で推移したことから,ASX 製剤日量 1 00g の d0 から d21 までの経口投与は黒毛和種繁殖雌 牛の採食量や栄養状態に影響しないことが示唆さ れた また,THI が 76 以上の暑熱期における ASX 製剤給 与が採胚成績に与える影響を検討した結果, 供試 牛採胚成績と H21~25 暑熱期採胚成績との比較で A 及び A' と C 胚に有意差はなく,B 胚が有意に増加し た (p<0.05) 一方, 供試牛と非暑熱期供試牛の 採胚成績を比較した結果,A 及び A',B,C 胚に有 意差はなかったことから,H21~25 暑熱採胚成績 との比較で見られた供試牛の B 胚の増加は,ASX 製 剤や暑熱ストレスによる影響ではないことが示唆 された 今回の試験結果から,THI76 以上の暑熱期にお いて, 黒毛和種繁殖雌牛の発情から 21 日間におけ るアスタキサンチン含有飼料用製剤の日量 100g 経 口投与は, 栄養状態や視覚的評価による採胚成績 に影響しないことが示唆され, 暑熱期の採胚成績 向上への課題が残されたが,THI が 71 を超えると 繁殖機能に影響が出始め 8), 暑熱ストレスを受け た卵母細胞の回復に 2~3 周期が必要とされている - 12 -

ことから 13), 暑熱期を迎える前の ASX 製剤の予防 的給与による採胚成績の向上効果について検討し ていきたい 122. 737-744 文献 1) 高橋昌志. 北海道畜産草地学会報 1. 47-54. 2013 2)Sakatani, M., S. Kobayashi and M. Takahash i. Mol. Reprod. Dev.,67. 77-82. 2004 3)Drost, M., J. D. Ambrose, M. J.Thatcher, C. K. Cantrell, K. E. Wolfsdorf, J. F. Hasl er and W. W. Thatcher. Theriogenology, 52. 1 161-1167. 1999 4)Bernabucci, U., B. Ronchi, N. Lacetera a nd A. Nardone. J. Dairy Sci., 85. 2173-2179. 2002 5)Tanaka, M., Y. Kamiya, T. Suzuki, M. Kam iya and Y. Nakai. Anim. Sci. J., 79. 481-48 6. 2008 6)Christopherson, RJ. Stress Physiology in Livestock, Vol 1, Basic Principles. 163-18 0. 1985 7) 橋爪徳三. 畜試研報 11. 39-47. 1966 8)Nabenishi. J. Reprod. Dev., 57. 450-456. 2011 9) 三角亮太 Dairy Japan. 5. 31-33. 2014 10)Sakatani, M., Balboula. AZ, Yamanaka. K, Takahashi. M. Anim. Sci. J., 83. 394-402. 2012 11)Namekawa, T., Ikeda. S, Sugimoto. M, K ume. S. Reprod. Domest. Anim., 45. 387-391. 2010 12) 錫木淳. 鳥取県畜産試験場研究報告第 39 号. 1-5. 2015 13)Roth, Z., Arav. A, Bor. A, Zeron. Y, B raw-tal. R and Wolfenson. D. Reproduction., - 13 -