特別寄稿 1 特別寄稿 認知症とともに進行する失語 ~ その臨床症状, 病態, 治療の可能性 ~ 福井 俊哉 * 要旨 : 認知症に伴う進行性失語を呈した6 症例を提示して, 失語型, 原因疾患, 治療について論じた 症例 1 ~ 3 は DLB に logopenic/phonological(l

Similar documents
幻覚が特徴的であるが 統合失調症と異なる点として 年齢 幻覚がある程度理解可能 幻覚に対して淡々としている等の点が挙げられる 幻視について 自ら話さないこともある ときにパーキンソン様の症状を認めるが tremor がはっきりせず 手首 肘などの固縮が目立つこともある 抑うつ症状を 3~4 割くらい

認知症治療薬の考え方,使い方

102 川崎医学会誌 表 1 PPA の診断基準 (Mesulam ら 5),2009) PPA 下位分類 根本的診断 PPA-agrammatic ( 失文法型 ) PPA-semantic ( 意味障害型 ) PPA-logopenic ( 発語遅滞型 ) PPA-mixed ( 混合型 ) 記

臨床神経学雑誌第48巻第1号

PSPとCBD

2) 各質問項目における留意点 導入質問 留意点 A B もの忘れが多いと感じますか 1 年前と比べてもの忘れが増えたと感じますか 導入の質問家族や介護者から見て, 対象者の もの忘れ が現在多いと感じるかどうか ( 目立つかどうか ), その程度を確認する. 対象者本人の回答で評価する. 導入の質

007 大脳皮質基底核変性症

36(298) 35 3 a) Lund & Manchester Group の分類 (1994) 前頭側頭葉変性症 (FTLD) 1 前頭側頭型認知症 (FTD) 2 進行性非流暢性失語 (PNFA) 3 意味認知症 (SD) b) 臨床分類 (Karageorgiou & Miller 201

私に肩のことを頼まないでくれと思ったのだが ふつう CBD は手先の話になるのであって彼の場合は肩から指先まで CBD の影響が出ためずらしい症例だったので診断に時間がかかった 患者にとって不幸であるが 右上肢拘縮 構語障害 記憶低下の三病態が すっきり 1 疾患で説明でき CT の萎縮部位も左優位

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

Ⅰ診断 症候 鑑別診断 認知機能に関する訴え 正常ではなく認知症でもない 認知機能の低下あり 日常生活機能は正常 Amnestic n-amnestic 認知障害は記憶障害のみ 認知障害は1領域に限られる Amnestic Single 図1 表1 記憶障害 Amnestic Multiple n

Vol.21 No AD Japanese-ADNI J-ADNI 2015 AMED AD NA-ADNI 400 AD AD 2. NA-ADNI 研究の主な成果 NA-ADNI 2004 NA-ADNI ADNI, ADNI-GO ADNI-2 phase

PD_PET_Resume

Vol.19 No FTD 3 Pick 2 3 frontal lobe degeneration: FLDPick Pick FLD MND FLD 図 1 3) Frontotemporal lobar degeneration(ftld) 概念の台頭と定着 FTD progre

Ø Ø Ø

untitled

函館市認知症ケアパス

日本のプリオン病の現状 サーベイランス調査から 図2 図3 MM2視床型の特徴 拡散強調MRIで高信号は出現せず SPECTで視床の血流低下を認める 現在認められている遺伝性プリオン病の原因遺伝 子変異 図4 ヨーロッパと日本の遺伝性プリオン病の原因遺伝 子変異よりみたタイプの違い 典型よりも進行は

久保:2011高次脳機能障害研修会:HP掲載用.pptx

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

CareNet Continuing Medical Education

表紙.indd

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

Diagnosis of Dementia: Update

みんなで学ぼう! 認知症

スライド 1

症例_佐藤先生.indd

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文


ドパミン動揺 アセチルコリン欠乏病 しまいます このような思い込みのあとで ところでこの患者にピック 症状はないだろうか と立ち止まって考えることがあるでしょうかつま り 医師が医療機器に振り回されているのです 筆者が提唱している レビー ピック複合 という概念は 1 人の 患者に様々な疾病の可能性

Microsoft PowerPoint ppt

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

Microsoft Word - C-03.doc

PowerPoint プレゼンテーション

スライド タイトルなし

13章 回帰分析

Microsoft Word - 01_2_【資料1】ICD最近の動向(脳卒中、認知症)170626(反映)

がん登録実務について

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

<8BCA89AA2E626F6F6B>

Microsoft Word - ①【修正】B型肝炎 ワクチンにおける副反応の報告基準について

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

当院人工透析室における看護必要度調査 佐藤幸子 木村房子 大館市立総合病院人工透析室 The Evaluation of the Grade of Nursing Requirement in Hemodialysis Patients in Odate Municipal Hospital < 諸

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

Microsoft Word - 博士論文概要.docx


2009年8月17日

saisyuu2-1

虎ノ門医学セミナー

フレイルのみかた

11総法不審第120号

95_財団ニュース.indd

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

スライド 1

認知症診療ガイドライン2017_800_第8章.indd

平成23年度全国学力・学習状況調査問題を活用した結果の分析   資料


Transcription:

1 認知症とともに進行する失語 ~ その臨床症状, 病態, 治療の可能性 ~ 福井 俊哉 * 要旨 : 認知症に伴う進行性失語を呈した6 症例を提示して, 失語型, 原因疾患, 治療について論じた 症例 1 ~ 3 は DLB に logopenic/phonological(lp) 型失語が合併したと考えられるが,MIBG 心筋シンチ所見が典型的ではなく, うち 2 例の脳脊髄液 (CSF)A β 42および p tau の所見はAD 病理の合併を示唆した 症例 4 は身体症状を欠くがDLB の可能性が高く, 他症状に遅れて非流暢型失語を合併した 症例 5 は AD による典型的なLP 型失語を呈した 症例 6 では臨床症状とSPECT 所見からFTLD を考えたが, 発症時より健忘が明確であり, MIBG 心筋シンチとCSF バイオマーカーの結果からAD と DLB が合併した可能性が考えられた 認知症に伴う進行性失語に対して AD 病変が関与する可能性があり, この場合, 失語に対して抗 AD 薬の効果が期待できる DLB が失語を呈することも示唆されるが, 結論に至るためには症例蓄積が必要である Key Words:dementia, aphasia, Alzheimerʼs disease, dementia with Lewy bodies, cerebrospinal fluid biomarkers はじめに原発性進行性失語 (primary progressive aphasia:ppa) のように発症初期から失語が単独で出現するのでもなく, また, 認知症進行期に発話意欲低下や意味記憶障害により生じる失語でもなく, 発症初期から認知症に伴って進行する失語を呈する症例がある この失語型に対する注目度は低く, その病態については解明されていない 本稿では当該症例における失語型と原因疾患が PPA に準じて解釈可能であるか, またはPPA とは異なる病態生理を有するのかを論ずる また, 原因疾患がアルツハイマー病 (AD) であった場合には抗 AD 薬が失語に対して有効であるかについて考察する 最後に, レビー小体型認知症 (DLB) が失語を呈するかどうかの問題点にも触れる 1.PPAの歴史と臨床型 PPA はMesulam(1982) の論文 Slowly progressive aphasia without generalized dementia に端を発する 当初は, 健忘失語を主体とする失語が緩徐に進行すること, 少なくとも数年間は全般的な知能低下を伴わないこと, 左シルビウス裂周囲の限局性萎縮を呈すること, および脳生検上, 既存の認知症疾患の病理像を示さないことが特徴とされた 最近のPPA の定義は, 発症後少なくとも2 年程度は主症状が進行性失語であり, 他の認知症状を伴っている場合でも失語が最も顕著な症状であり,ADL 障害の主因であるもの, とされる 失語症状と脳の形態的 機能的変化から臨床型が規定されており, 統語と流暢性が障害されるnon fluent/agrammatic 型 PPA( 以下 NA 型 ), 意味記憶障害を背景に語理解障害を主体とするsemantic PPA 型 ( Sem 型 ), 遅い発話, 喚語困難, 長い句 Progressive aphasia concomitant with dementia: clinical types, pathophysiology and possible therapeutic strategy * 昭和大学横浜市北部病院内科神経 ( 現花咲会かわさき記念病院 ) Toshiya Fukui:Neurology, Showa University Yokohama Northern Hospital(Currently with Kawasaki Memorial Hospital)

2 認知リハビリテーション Vol.19, No.1, 2014 文の理解 復唱障害, 音韻性錯語を特徴とし, 文法, 統語, 構音が保たれるlogopenic/ phonological PPA 型 ( LP 型 ) の 3 型がある (Gorno Tempiniら, 2008) であった点は, 原因疾患としてFTLD だけではなくADの可能性も少なくないことを示している 3. 症例提示 2.PPA の病理 PPA の臨床型と病理にはある程度の対応がある PPA 18 症例の病理検討によると,progressive anarthria 5 例では全例がFTLD tau( 前頭側頭葉変性症タウ型 ),NA 型 6 例の全例がFTLD TDP (transactive response DNA binding protein), LP 型 1 例と進行性 jargon 型 2 例がすべてAD, 典型的 Sem 型 2 例がFTLD TDP, 非典型 Sem 型 2 例のうち 1 例が嗜銀顆粒性認知症, 他方が大脳皮質基底核変性症 (CBD) であった (Deramecourt ら, 2010) 一方,Grossman(2010) によると,NA 型では FTLD tau 52%,AD 25%,FTLD TDP 19%, DLB 2.4% であり,Sem 型ではFTLD TDP 69%, AD 25%,FTLD tau 5%, また LP 型ではAD 50%, FTLD TDP 38%,FTLD tau 12.5% であったという また,Mesulamら( 2008) の PPA 連続剖検 23 例の検討によると,NA 型ではFTLD tau 83%, FTLD U(ubiquitin)17%,Sem 型は1 例のみであり AD,LP 型では AD 64%,FTLD U 27%,FTLD tau 9% であった 混合型失語 ( 失文法 聴理解障害を同程度に合併したもの, 発話量が少なく失語型が決定できないもの ) の場合は,AD 80%, FTLD U 10%,FTLD tau 10% であった 以上のように報告により若干の差異はあるが, 大体の傾向としてNA 型ではFTLD tau 優位, Sem 型ではFTLD TDP 優位,LP 型ではAD 優位である しかし,LP 以外の失語型における AD の関与が決して少なくないことも明らかであり, このことはPittsburgh compound B(PiB) を用いた検討でも示されている (Leyton ら, 2011) PPA 30 例中,PiB 陽性率はLP 型にて12/15(80%) と高率でありこれは剖検所見に呼応する 一方,NA 型の 2/8(25% ), Sem 型の1/9(11%) が PiB 陽性 症例 1 83 歳, 右利き, 男性, 学歴 11 年 現病歴 : 初診 1 年前から計算, 施錠, 調理のしかたがわからなくなり, その頃から会話中に言葉に詰まることが増えた 一方, 時に日本語にはないような単語を使い, 他人の言葉を理解しないことに気が付かれた さらに, テレビの出演者が自分に話しかけてくる ( 妄想?) や, そのテレビ出演者が自宅に来ている気配がする ( 実体的意識性? 幻の同居人?) など実際にはあり得ないことを頻回に言うようになった 初診半年前から小歩症が出現して歩行状態が悪化したために施設に入所 初診 2 ヵ月前から, 一過性意識障害 が月に数回出現するようになった 具体的には, 何らかの活動中, 急に不機嫌な表情を呈してそのまま表情と姿勢が固まり, 開眼はしているが呼名には反応しなくなるが,30 分 ~ 2 時間で自然軽快することを時々繰り返すというものである 初診時所見 :Apathetic でありボーっとしている 高度の自発性低下のために強い促しがない限り自ら発話しようとせず, 介助歩行であるが勧めても椅子に座ろうとしない このようにapathy と自発性低下が非常に高度であり言語を介する診察はほとんど不可能であったが, 誘導できた発話内には明らかな文法障害, 構音障害, 発語失行 ( 言語音形成に必要な脳内プログラミング障害 ) は認めなかった 質問や指示がやや複雑になると聴理解障害を呈する 改訂長谷川式簡易知能評価スケール (HDSR) では年齢のみが回答可能であり, 他は設問に対しては聴理解障害や無反応がみられた ( 合計点 1 点 ) 血圧は140/60mmHg であり起立性低血圧は認めなかった 眼球運動には制限なく, 急速眼球運動も正常 顔面の表情変化はほとんどなく hypomimia を呈する 舌, 四肢に振戦はない 両上肢に左優位に筋強剛と手首固化徴候を認める

3 図 1 症例 1 の脳画像 Barré 徴候は上下肢で陰性 腱反射異常, 病的反射, 感覚障害はない 歩行はすり足小歩歩行であり動作緩慢と無動が目立ち,retropulsion は強陽性であり後方に棒のように倒れそうになる このように初診時には, 定型化不能の失語 (Mesulam ら (2008) のいうmixed aphasia), 認知症, パーキンソン症候群を認めたが, 確定診断が困難なため経過観察することとした 検査所見 ( 図 1): 脳 MRI はびまん性の皮質萎縮と側脳室下角の拡大 ( 海馬萎縮 ) を呈した SPECT では左優位に両側前頭葉外側面と側頭頭頂葉に血流低下を認めたが, 楔前部と後部帯状回の血流低下はごく軽度であった MIBG 心筋シンチでは, 早期心臓縦隔比 (H/M)1.88, 後期 H/M 2.21, 洗い出し率 (WR)19.3% であり特異的変化は認めなかった 脳脊髄液 (CFS) 中のベータアミロイド42(A β 42) は 220.8 pg/ml と低下 (AD の cutoff 500 以下 ), リン酸化タウ181(p tau) は 135.4 pg/mlと上昇しており (ADのcutoff 35 以上 ), AD 病理の存在が示唆された 経過 : 初診後も上記症状は持続 初診 5 ヵ月後, 夜間に窓から外に出ようとする異常行動 ( 後に REM 睡眠行動異常症と診断 ) が出現したためにアリピプラゾールを開始した その後, 異常行動は消失し, 若干発話量も増加したが, 易怒性が出現した しかしその程度は日により大きく異なる ことが施設から報告された 初診 9 ヵ月後に無動と歩行障害が悪化したために L DOPA 開始し, ある程度の効果が得られた しかし, 歩行や摂食に全介助を要する時がある一方で, その直後, 急に動けるようになりすべての身の回り動作が自立するなど症状の変動が激しかった この時点でDLB を疑いアリピプラゾールを中止してドネペジルを開始 その3ヵ月後, apathyが減じて表情が生き生きとし, 感情が豊かとなり, 視線を合わせ, 会話に反応するようになる 初診時の主訴であった 一過性意識障害 は消失し, 介助時間を要する時間が短縮された ドネペジルにより反応性が改善されたため言語評価を施行した 発話量が少なく喚語困難がある点, 音韻性錯語が多く一部 jargon 的発話になる点, stuttering と palilalia がみられる点が言語的印象の特徴であった 具体例として, 具合いはいかがですか? との問いに対して, ちょっと, かきき いやーあまり, きーうー, しららんかな, 困っていることは何ですか? に対して, そんあおは そんなのわ, なななかありません との反応がみられた 呼称では, とけい は無反応, はさみ は なららけ, 復唱において ねこ は正解したが, いぬ は いく, さんま は さんまま, 今日は晴れています は きょうはほわ などの音韻性錯語 ~ jargon がみられた 言

4 認知リハビリテーション Vol.19, No.1, 2014 語評価結果をまとめると, 表出は単語レベルで障害されており, 低 / 高頻度語の差はなく, 語頭音ヒントは無効 顕著なjargon 様発話を認めるが, 構音障害, 発語失行はない 限られた自発話の中には文法障害は抽出できなかった 復唱は単語レベルで可能であったが, 短文で障害されており jargon 化する 聴理解もかな文字は良好であるが, 単語レベルでは障害されていた 音読はかな 漢字単語が一部可能 書字では文字形態を成さなかった 診断 : 臨床診断としてDLB を考えたが, 失語を呈した点が非典型的であった DLB の診断基準 ( McKeithら, 2005) のうち, 必須症状として実行機能障害と高度なapathy を伴う進行性の認知障害, および中核症状として著明な認知機能変動と非薬物誘発性のパーキンソン症候群を認めた さらに, 幻視との区別は困難であったが, 経過中に実体的意識性と妄想も出現した さらに, 支持症状として反復する一過性意識障害を頻回に生じたことから, 本例はprobable DLB の診断基準を満たした 一方,MIBG 心筋シンチ結果はDLB に合致するとは言えず,CSF バイオマーカーはAD 病理を支持した 失語のタイプ診断としてはLP 型が考えられた 診断基準 (Gorno Tempini ら, 2008) に照らし合わせると, 語想起障害と文 句の復唱障害の中核症状を両者有し, 自発話 呼称における音韻性誤り, 正常な単語理解, 正常な表出 ( 文法 発語 ) の 3 項目を満たし, さらに左シルビウス裂後方から頭頂葉の血流低下を認めたことからLP 型失語と診断可能である さらに,jargon 失語がLP 型失語の終末像である (Caffarra ら, 2013) ことを考えると, 本例はLP 型失語からjargon 失語に移行しつつある段階に位置していると考えられた 症例 2 75 歳, 右利き, 男性, 学歴 16 年 初診 6ヵ月前から複数の仕事を効率よく同時に処理することが困難となり, またこの頃よりすり足歩行の傾向が出現した 初診 4 ヵ月前から会話時に言葉が出にくいことを自覚した 家族によると, 患者の発話量が減り, 言葉を思い出しにくく, また時々日本語にはないような単語を用いるよう になったとのことである 初診時所見 : 意識は清明であり協力的 語想起障害があり発話量が低下している 聴理解障害, 復唱障害, 音韻性錯語を認めるが, 発語失行, 構音障害, 文法障害はない 身体所見として両側に手首固化徴候を認め, 歩容は軽度のすり足小歩である 軽度の動作緩慢はあるが無動や振戦は認めない 言語評価として標準失語症検査 (SLTA) を行った ( 図 2 a) 聴理解は単語 かな文字 短文については良好であるが, 複雑な内容の文では理解障害を呈した 表出面では使用頻度や親密性に関係なく喚語困難が顕著であった 物品の用途やカテゴリーは理解しているが喚語に至らず, 例えば, ちょうちん に対して 電池じゃなくて傘じゃなくて, 持つんだよ ( 正しいジェスチャーを伴う ) との反応がみられた 一般的に語頭音ヒントも有効ではなく,2 音提示すると正答することが多いが音韻性錯語が出現しやすかった ( 例 ふすま 2 音ヒントにて フスミ フスカク ) 復唱では, 単語レベルでは良好であるが短文では音韻性錯語が顕著であった 検査所見 ( 図 3): 脳 MRI では左側頭葉 ~ 頭頂葉皮質萎縮, 軽度白質高信号域, 両側側脳室下角の軽度拡大を認めた SPECT 上, 左側頭葉上後部から頭頂葉にかけて限局性血流低下を認めた MIBG 心筋シンチでは早期 H/M 1.75, 後期 H/M 1.85と軽度低下し,WRは31.2% と軽度亢進 一方, CSF Aβ42 204.1 pg/ml と低下,p tau 80.5 pg/ml と増加していることから, 症例 1 と同様 AD 病理の存在が示唆された 経過 : ガランタミンを開始したところ, 発話量が増加し喚語障害が軽減した印象を家族と主治医が共有している 臨床診断 : 約半年の経過で進行性の実行機能障害 ( 複数課題の施行困難 ) と失語, および軽度パーキンソン症候群を呈した これらの臨床症状と脳 MRI/SPECT 所見からCBD と DLB が鑑別診断に挙がる しかし,CBD で特徴的な左右差のある筋強剛と運動拙劣症や失行, 他人の手徴候, ミオクローヌスなどはみられず, 一方, ガランタミンに対して明らかな反応性がみられたこと, 軽度

5 図 2 a 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 単語の理解 口頭命令に従う 仮名の理解 呼称 単語の復唱 動作説明 文の復唱 語の列挙 漢字 単語の音読 仮名 1 文字の音読 仮名 単語の音読 短文の音読 漢字 単語の理解 仮名 単語の理解 書字命令に従う 漢字 単語の書字 仮名 単語の書字 仮名 1 文字の書取 漢字 仮名の書取 仮名 単語の書取 短文の書取 Ⅰ. 聴く Ⅱ. 話す Ⅲ. 読む Ⅳ. 書く 図 2 b 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 Ⅰ. 聴く Ⅱ. 話す Ⅲ. 読む Ⅳ. 書く 図 2 c 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 単語の理解 口頭命令に従う 仮名の理解 呼称 単語の理解 口頭命令に従う 仮名の理解 呼称 単語の復唱 動作説明 文の復唱 語の列挙 漢字 単語の音読 仮名 1 文字の音読 仮名 単語の音読 短文の音読 漢字 単語の理解 仮名 単語の理解 書字命令に従う 漢字 単語の書字 仮名 単語の書字 仮名 1 文字の書取 漢字 仮名の書取 仮名 単語の書取 短文の書取 単語の復唱 動作説明 文の復唱 語の列挙 漢字 単語の音読 仮名 1 文字の音読 仮名 単語の音読 短文の音読 漢字 単語の理解 仮名 単語の理解 書字命令に従う 漢字 単語の書字 仮名 単語の書字 仮名 1 文字の書取 漢字 仮名の書取 仮名 単語の書取 短文の書取 Ⅰ. 聴く Ⅱ. 話す Ⅲ. 読む Ⅳ. 書く 図 2 d 10 9 8 7 6 5 4 3 2 1 0 単語の理解 口頭命令に従う 仮名の理解 呼称 単語の復唱 動作説明 文の復唱 語の列挙 漢字 単語の音読 仮名 1 文字の音読 仮名 単語の音読 短文の音読 漢字 単語の理解 仮名 単語の理解 書字命令に従う 漢字 単語の書字 仮名 単語の書字 仮名 1 文字の書取 漢字 仮名の書取 仮名 単語の書取 短文の書取 Ⅰ. 聴く Ⅱ. 話す Ⅲ. 読む Ⅳ. 書く 図 2 各症例の標準失語症検査 (SLTA) 結果 a : 症例 2,b : 症例 3,c : 症例 4,d : 症例 6

6 認知リハビリテーション Vol.19, No.1, 2014 図 3 症例 2 の脳画像 ながらもMIBG 心筋シンチで異常が認められることから現時点ではDLB の可能性が高いと考えられる 同時に,CSF バイオマーカーは脳内にAD 病理が併存する可能性を示唆した 失語の内容は, 語想起障害と文 句の復唱障害の中核症状を両方有し, 自発話 呼称の音韻性誤り, 正常な単語理解, 文法 発語が正常, 明らかな失文法を欠く, の 4 項目を満たし, さらに左シルビウス裂後方から頭頂葉の血流低下を認めたことからLP 型に最も近いと思われる 症例 3 90 歳, 右利き, 女性, 学歴 9 年 初診 2ヵ月前から会話を理解しなくなり, びっくり を びっちり のように言い誤ることが増え, 発話量全体が減少してきた また, この頃からお茶をいれることができなくなったことが受診のきっかけとなった 初診時所見 : 意識障害はないが脱抑制が目立ち, 問診と診察が不可能であるばかりではなく, 家族と診察医の会話に無遠慮に割り込む様子が頻回にみられた 初診時の印象では聴理解困難と音韻性錯語が高度であった 脳神経には異常なく, 両側に高度の手首固化徴候を認め, 軽度のすり足歩行を呈した 言語評価 :SLTA の結果を図 2 b に示す 聴理解に関してかな, 単語, 短文では比較的良好であ るが, 情報量が増加すると理解困難が明らかとなり, 内容の前半部しか把持できない 表出面では, 自発話において発話量低下は軽度であるが, 喚語困難により細部の情報伝達が困難 呼称においても喚語困難が顕著であり, 語頭音ヒントは無効であった 意味記憶は保たれている様子であり, 物品に関するジェスチャー表現がみられた ( 例 : こま 回す動作 ) 復唱は単語にて良好であったが, 短文では最初の部分のみ復唱可能であり錯語が頻回に出現した 音読は比較的良好 書字では文字想起障害を認めた 検査所見 ( 図 4): 脳 MRI では左シルビウス裂周囲の側頭葉 頭頂葉の皮質萎縮, 左優位の側脳室下角の拡大を認めた SPECT では左側頭葉上部と左頭頂葉に明確な血流低下を認めた MIBG 心筋シンチでは, 早期 H/M 1.71, 後期 H/M 1.80 と軽度低下,WR は 28.4% と正常範囲以内であった CSF バイオマーカー測定に関しては同意が得られなかった 経過 : ドネペジルを開始後, 聴理解と音韻性錯語が著明に改善し, 脱抑制的態度も軽減したために正常に近いコミュニケーションが可能となった 一方, 発話量も増加するに伴い文レベルの復唱障害が明らかとなった 臨床診断 : 実行機能障害と思われる日常動作の困難さと失語が比較的短時間に出現し, 一方,

7 図 4 症例 3 の脳画像 図 5 症例 4 の脳画像 CBD を特徴づける症状を認めなかったこと, MIBG 心筋シンチにて軽度の異常を認めたこと, さらにはドネペジルに対する反応性が非常に良好であった点からDLB の可能性を考えた 失語型に関しても, 喚語困難, 文の復唱障害, 音韻性錯語の存在と, 構音障害, 発話失行, 文法障害の欠如から LP 型失語の可能性が高いと考えられる 症例 4 67 歳, 右利き, 女性, 学歴 14 年 初診半年前から健忘, 人物誤認, 連続した計算 障害が出現 初診時には健忘が主症状であり (HDSR 24 点 ), 身体症状, 言語症状は認めなかった 初診時の検査所見 ( 図 5) では脳 MRI に異常を認めず,SPECT では両側前頭葉外側面と両側頭頂後頭葉に血流低下を認めた MIBG 心筋シンチでは, 早期 H/M 1.38, 後期 H/M 1.23と明らかに低下しており,WR が 43.5% と亢進 DLB の可能性を考えてドネペジルにて治療開始したところ, 人物誤認は完全に消失し, 健忘も軽度改善した ( HDSR 26 点 )

8 認知リハビリテーション Vol.19, No.1, 2014 図 6 症例 5 の脳画像 発症 1.5 年後頃から, 話し始める時にうまく語音を作ることが困難となり, 数回言い直すようになってきた また, 言葉を思い出すことに困難を感じるようになったため言語評価を行った SLTA の結果を図 2 c に示す 聴覚的理解はかな文字, 単語, 短文では良好であるが, 文が長くなり情報量が増加すると混乱する 表出面では, 語頭音の開始困難と自己修正を伴った試行錯誤がみられ発語失行と思われた 自発話 語想起にて喚語困難を認める 復唱と音読 / 読解は概ね良好 漢字書字にて形態性錯書がみられる 脳 MRI/ SPECT を再検したが初診時と比べて有意な変化はなかった 経過 : ドネペジルにメマンチンを追加したところ, ごく軽度に発語失行が軽減し発話スピードが上昇したが, 話しにくいという訴えは続いている 診断 : 身体症状は欠くが, 健忘とともに発症当初からの人物誤認が認められた点, 実行機能障害によると思われる連続計算障害, および MIBG 心筋シンチの結果からDLB の可能性が高いと思われる この症例では発症約 1.5 年後に失語を合併し, 発話失行, 喚語困難, 軽度の理解障害から NA 型の範疇に入ると思われる 症例 5 76 歳, 右利き, 女性 初診 4 年前に物忘れが出現し, 前医でAD と診 断されてドネペジル治療を受けていた その後 2 年間でHDSR が 23 点から10 点に低下し, 認知症の急激な悪化が懸念されて当科を紹介受診 初診時所見 :HDSR(14 点 ) の主な減点要因は, 健忘と失見当識のほかに, 発話量減少, 発話スピード低下, 喚語困難,3 音節以上の復唱障害, 多発する音韻性錯語などの失語症状が加わっていたことである 一方, 構音障害と発語失行, 明らかな文法障害は認めなかった 復唱障害は顕著であり, ほととぎす あまてらすおおみかみ には音韻性錯語が混入し, 今日雨が降ると桜が散ってしまうかもしれません は不可能であった 検査所見 ( 図 6): 脳 MRI にて左側頭葉と一部左前頭頭頂葉に萎縮を認める SPECT では左側頭葉中 ~ 後部から左頭頂葉にかけて血流低下を認める MIBG 心筋シンチではWR が 35.2% と軽度亢進しているが, 早期 H/M 1.93, 後期 H/M 2.00 と正常であった Aβ42 は140.6 pg/ml と低下,p tau は62.7 pg/mlと増加しており,ad 病理の存在が考えられた 臨床診断 :AD 型認知症の経過中にLP 型失語を合併し, そのために HDSR 点数が急落したものと考えられた経過 : ドネペジルを5mg から10mg に増量することにより, その後失語の進行が停止している

9 図 7 症例 6 の脳画像 症例 6 80 歳, 右利き, 女性, 学歴 9 年 初診 1 年前からもの忘れと話し始めの困難さが出現し, 両者ともしだいに悪化したために当科を受診 家族によると全般的な知能レベルも軽度ながら低下してきたとの印象を持っているとのことであった 初診時所見 : 意識は清明で協力的である 発話開始困難に関しては明瞭な病識を有している 時間に関する失見当識と近時記憶障害は明らかであり, また発話開始困難に基づく語列挙障害を認めて HDSR は 21 点 初診時には発語失行を伴った発話減少を認めた 一方, 身体症状と感情 行動障害を認めない 言語評価 :SLTA の結果を図 2 d に示す 聴覚的理解は単語, 短文, 情報量の多い文でも正常である 自発話, 復唱, 音読において, 語頭音の発語に軽度の吃と試行錯誤を伴った誤りがみられるが構音障害と喚語困難は認められない 書字ではかなに比べて漢字単語の想起困難なことがあり, ときに形態性錯書がみられた 加減算では2 ~ 3 桁まで遂行可能であったが, 乗除算で誤りがみられたことから, 実行機能障害の可能性が推測された 検査所見 ( 図 7): 脳 MRI では両側前頭側頭葉萎縮を認め, その程度は左側で若干強い SPECT では, 両側の中心前回から第 2 前頭回に限局性血 流低下があり, 左側では血流低下がさらに中心前回下部と前頭前野へ広がっている MIBG 心筋シンチでは, 早期 H/M 1.71, 後期 H/M 1.51 と軽度低下,WR は38.5% と亢進 CSF 中 Aβ42 は310.9 pg/ml と低下し,p tau は 45.4 pg/ml に増加しており,AD 病理の存在が示唆された 経過 : メマンチンを開始したところ, 発語開始の困難は自他ともに明らかに改善している 臨床診断 : 臨床経過はFTLD によるNA 型失語に類似するが, 発症当時から健忘が明らかであること,CSF バイオマーカーにてAD を示唆する所見が得られたこと, またメマンチン投与に対して良好なレスポンスが得られていることからfrontal AD の可能性を考えた また,MIBG 心筋シンチの結果からDLB の合併も否定できないと思われる 4. 考察認知症に伴って進行する失語にもPPA の臨床型が大よそ当てはまる いずれも変性性疾患が原因であることを踏まえると当然のことであろう 一方,PPA に比べて認知症とともに進行する失語例では,AD の関与が大きい点, 一方, 背景で複合病理が関与する可能性がある点, また,DLB

10 認知リハビリテーション Vol.19, No.1, 2014 が失語を合併する可能性がある点が主な特異的事項であり, 以下にこれらの点について考察を深める a. 自験例の解釈症例 1 ~ 3 では臨床的 DLB に LP 型失語が合併したと考えさせるが,MIBG 心筋シンチが典型的な DLB における所見を呈しておらず, また, 症例 1 2 の CSF バイオマーカーはAD 病変の合併を示唆する 症例 4 は身体症状を伴っていない点を除けばDLB である可能性が高く, 他の症状に遅れてNA 型失語が出現したと考えられる 残念ながらCSF バイオマーカーは測定できていない 症例 5 は AD の経過中に典型的なLP 型失語を発症し, それが認知機能の急激な低下と誤って解釈された点が教訓深い 症例 6は発語失行にて発症し, SPECT 上中心前回 ~ 第 2 前頭回に血流低下が限局している点からFTLD の可能性が高いと考えられた しかし発症当初より健忘と時間の失見当識が明らかであり,MIBG 心筋シンチが異常を呈し, CSF バイオマーカーにAD を示唆する所見を認めたことから, 原因疾患の可能性としてAD と DLB, ないしはAD,DLB,FTLD の合併を考慮する必要性が示唆された b. AD 病理による失語 PPA におけるAD の関与についてはすでにいくつかの報告がある AD 病理による失語として報告されているものとして, 非流暢性失語 (74 歳, 女性 ), 意味記憶障害, 音韻障害, 統語障害の混在した失語 (65 歳, 男性 ), 意味記憶障害, 復唱障害, 記憶障害, 視空間障害を合併した流暢失語 (67 歳, 女性 ) などが報告されている (Galton ら, 2000) また,PPA, 前頭側頭型認知症 (FTD), CBS の 3 臨床型の中で,AD 病理を有する症例が最も頻度高く呈する臨床型はPPA であった (Kertesz ら, 2005) AD 病理により典型的な健忘型 AD ではなく PPA を生じる症例 (AD PPA) では, 細胞障害と脳萎縮の分布が異なることが推測される しかし, AD PPA と健忘型 AD の比較において, 臨床症状が大きく異なるにもかかわらず, 嗅内皮質におけ る老人斑と神経原線維変化 (NFT) の量と分布には両者で差がなかった (Mesulamら, 2008) 一方, AD PPA では左半球のNFT の割合が健忘型 AD よりも高い傾向があったが, これは少数例 (4 例 ) の検討の結果ゆえに症例毎のばらつきが大きく, 確固たる結論には至っていない (Mesulam ら, 2008) また, 左半球内の言語に関する部位におけるNFT 量はAD PPA と健忘型 AD の間で差はなかった (Mesulam ら, 2008) 一方, アポリポタンパク 4 遺伝のε4はAD PPA のリスクではないことが判明している (Mesulam ら, 1997) 遺伝学的付加以外はAD PPA と健忘型 AD の形態学的差異は非常に小さいと言える c. 失語の原因としての複合病理それでは,FTLD によるPPA に偶然 AD 病理が合併しているのであろうか 臨床的にFTD と診断された24 例中,46% はFTLD tau に分類されるがこの病理型には錐体外路症状の合併が多く,29 % はFTLD U であり社会的行動異常と言語障害が多く,17% がAD であり記憶障害と言語障害を伴っていることが多かった (Forman ら, 2006) 同様に, 臨床的にFTLD と診断される症例の15 ~ 33% は病理的にはADであった (Bianら, 2008) また,AD 病理によるPPA 12 例中 7 例 (58%) は FTLD 様の萎縮パターンを呈する (Knibbら, 2006) つまり, 臨床症状と画像所見からはFTLD と AD の区別がつかない場合が比較的多いことが示唆される 次に,AD と FTLD の複数病理の場合には, PPA や認知症に伴う失語の可能性が増えるのであろうか? 一般的に, 典型的なAD の 20 ~ 30% に TDP 43 病理の合併が認められるという (Amador Ortiz ら, 2007) 通常,FTLD が高率に PPA/FTD の原因になることが多いことを踏まえると,TDP 43 病理合併例ではPPA/FTD が臨床型となりやすいことが予想される しかし,TDP 43 病理の割合はAD 病理によりPPA/FTD 症状を呈した症例の12% であり, 典型的なAD 型認知症の52% を大きく下回った (Bigioら, 2010) TDP 43 病理は海馬硬化 ( 細胞脱落 + 線維化 ) と有意に相関することから,TDP 43 を伴ったAD はむし

11 ろ健忘型 AD に関連する可能性が示唆される このことから, この報告はPPA の原因を安易に複数病理に求める考え方に警鐘を鳴らしている (Bigio ら, 2010) 以上のように, 認知症における進行性失語と病理の対応には解決されるべき点がまだまだ多い d. CSF バイオマーカーの診断能力 ADではAβ42が著減,p tauが中等度以上増加, FTLD ではAβ 軽度減少,p tau 不変,DLB では A β 中等度減少,p tau 軽度増加, が概ねコンセンサスのとれた疾患別パターンであろう (Blennow, 2004) 今回は測定を依頼した鳥取大学医学部生体制御学におけるAD 診断のためにカットオフ値 (A β 42<500 pg/ml, p tau181>35 pg/ ml) を用いて, 脳内にAD 病理が存在する可能性を判定した より厳しいカットオフ値 (A β 42<192 pg/ml, p tau181>23 pg/ml, p tau181/ A β 42>0.10)( Shaw ら, 2009) を用いた場合は,AD 診断の感度と特異度はそれぞれ,A β 42 単独では 93.9%, 80.0%,p tau181 単独では60.6%, 92.0%, p tau181/a β 42 比を用いた場合は80.3%, 80.0% であるという (Shaw ら, 2009) CSF バイオマーカーが測定可能であった自験 4 例 ( 症例 1, 2, 5, 6) において,p tau181 は 45.4 ~ 135.4 pg/ml,p tau181/ Aβ42は0.15 ~ 0.61の範囲にあったため, この両指標に関するShaw ら (2009) のカットオフ値を用いると, 感度 80.3%, 特異度 92.0% をもってこれらの症例にはAD 病理が存在すると診断される これらの症例の失語にAD 病理が関与したとは断定はできないが, その可能性を否定することもできない e. 認知症に伴う失語に対する治療 AD 病理の存在が推測できた場合は抗 AD 薬による失語の治療が可能となる点から原因疾患診断の重要性が強調される 抗 AD 薬を用いた治療により, 症例 1 では反応性と発話量, 症例 2 では発話量と喚語困難, 症例 3 では聴理解, 音韻性錯語, 脱抑制的態度, 症例 4 と 6 では発語失行に改善がみられ, 症例 5 では失語の進行が停止した これらの結果から, 認知症に伴った進行性失語の場合 には積極的にCSF バイオマーカー測定を施行して抗 AD 薬治療を導入する根拠になると考えられる 失語の対する治療法が乏しい中, この知見は重要だと思われる f. DLBは失語を呈するのか? 最後にDLB は失語を呈するのかとの問題点について触れたい 症例 1 は臨床的にprobable DLB と診断され, 症例 2 ~ 4 は possible DLB が疑われた 一般にDLB により失語が出現するとの考え方は一般的なものではない 調べえた限り,DLB と失語について論じた論文は4 編のみである 1 編目は前述したGrossman(2010) が引用した Kertesz ら ( 2005) の論文であり, 非典型的な症状を呈したDLB 2 例がNA 型 PPA を呈したという 2 編目の症例は61 歳, 女性 認知障害を伴わずに 3 年間の経過で, 喚語困難を伴う発話スピード低下, 大量の音韻性錯語, 復唱障害など, 現在の診断基準ではLP 型に相当する失語を呈した 脳 CT では左側頭葉の皮質萎縮,SPECT では左側頭頭頂葉取り込み低下を認めた その後, 失語と構成能力が悪化し, 次第にうつ傾向, 幻視 妄想, 全般性知能低下, パーキンソン症候群を合併し, 初診 8 年後には高度認知症に至り死亡した 病理所見はCERAD 神経病理学的診断基準による probable AD, および, 新皮質, 帯状回, 嗅内皮質, 扁桃体, 黒質における多数のレビー小体の存在から DLB と診断された この論文の著者らは, 初期の失語はAD により, 後半の幻覚妄想とパーキンソン症候群はDLB により, 認知症は両者の関与で生じたとの考察している (Caselliら, 2002) 3 編目はドパミントランスポーター画像を用いて DLB と診断した症例がLP 型失語を呈したとするものである 症例は67 歳, 右利き, 男性 初診 2 年前から喚語困難が生じて会話が困難となった 初診時に発話スピード低下,6 語以上の文の理解 復唱障害などのLP 型失語を呈した その後, 失語の悪化に続き, 睡眠障害, 認知変動, 幻視, 動作緩慢, 筋強剛が出現 脳 MRI には異常なく, SPECT 上の取り込み低下は, 当初左側頭頭頂葉に限局していたが後に両側後頭葉へ進展した ドパミントランスポーター画像では黒質線条体ドパ

12 認知リハビリテーション Vol.19, No.1, 2014 ミンニューロン減少を認め,DLB の診断基準を満たした なお,CSF A β 42 は 708 pg/ml ( 当文献における正常値 :500 ~ 1500 pg/ml), p tau は 31 pg/ml ( 同 60 pg/ml 以下 ) と正常範囲以内であった 結論として,DLB の中にはLP 型失語で発症する非典型的な症例があること,LP 型失語の原因疾患は必ずしもAD には限らずDLB も考慮すべきであると述べられている (Teichmann ら, 2013) 4 編目はPPA で発症し後に典型的なDLBの臨床症状を呈したが, 病理診断がAD であった症例である 症例は56 歳, 女性 進行性 jargon 失語にて発症し, 次いで繰り返す幻視と軽度パーキンソン症候群を合併した 脳 CT では全般性の軽度萎縮を,SPECT では左側頭頭頂葉の血流低下を認め, 臨床診断はprobable DLB であったが病理所見は典型的なAD であった (Deramecourt ら, 2010) 自験例 1 の病理は不明であるが, 症状は典型的なDLB であるのにもかかわらず,MIBG 心筋シンチの結果が合致せず,CSF バイオマーカーがAD を示唆する点でこの報告例と共通性を有する まとめ少数例の経験から結論を導き出すことには無理があると思われるが, 今回の検討から次の点が示唆された ⅰ. 認知症に伴い進行する失語の臨床型は PPA とほぼオーバーラップする ⅱ. 一方, 認知症に伴う進行性失語ではAD 病変の関与が大きい可能性がある ⅲ. 脳脊髄液バイオマーカーが脳病理に関する重要な情報をもたらす ⅳ.AD 病理の存在が推測される場合は抗 AD 薬による治療が有効である可能性がある ⅴ. 原因論的に,AD 単独なのか複数病理が関与するのかは解決されるべき大きな問題である ⅵ. 臨床的なDLB が進行性失語を呈する可能性はあるが, 背後でAD 病理が関与する可能性も同時に指摘される 謝辞 : 脳脊髄液バイオマーカーを測定していただいた鳥取大学医学部生体制御学の浦上克也先生と谷口美也子先生に深謝いたします 文献 1)Amador Ortiz, C., Lin, W. L., Ahmed, Z., et al. : TDP 43 immunoreactivity in hippocampal sclerosis and Alzheimerʼs disease. Ann Neurol, 61 (5): 435 445, 2007. 2)Bian, H., Van Swieten, J.C., Leight, S., et al. : CSF biomarkers in frontotemporal lobar degeneration with known pathology. Neurology, 70(19 Pt 2): 1827 1835, 2008. 3)Bigio, E.H., Mishra, M., Hatanpaa, K.J., et al. : TDP 43 pathology in primary progressive aphasia and frontotemporal dementia with pathologic Alzheimer disease. Acta Neuropathol, 120(1): 43 54, 2010. 4)Blennow, K. : Cerebrospinal fluid protein biomarkers for Alzheimer's disease. NeuroRx, 1 (2): 213 225, 2004. 5)Caffarra, P., Gardini, S., Cappa, S., et al. : Degenerative jargon aphasia : unusual progression of logopenic/phonological progressive aphasia? Behav Neurol, 26(1 2): 89 93, 2013. 6)Caselli, R.J., Beach, T.G., Sue, L.I., et al. : Progressive aphasia with Lewy bodies. Dement Geriatr Cogn Disord, 14(2): 55 58, 2002. 7)Deramecourt, V., Lebert, F., Debachy, B., et al. : Prediction of pathology in primary progressive language and speech disorders. Neurology, 74(1): 42 49, 2010. 8)Forman, M.S., Farmer, J., Johnson, J.K., et al. : Frontotemporal dementia : clinicopathological correlations. Ann Neurol, 59(6): 952 962, 2006. 9)Galton, C.J., Patterson, K., Xuereb, J.H., et al. : Atypical and typical presentations of Alzheimer's disease: a clinical, neuropsychological, neuroimaging and pathological study of 13 cases. Brain, 123(Pt 3): 484 498, 2000. 10)Gorno Tempini, M.L., Brambati, S.M., Ginex, V., et al. : The logopenic/phonological variant of primary progressive aphasia. Neurology, 71(16): 1227 1234, 2008. 11)Grossman, M. : Primary progressive aphasia :

13 clinicopathological correlations. Nat Rev Neurol, 6 (2): 88 97, 2010. 12)Kertesz, A., McMonagle, P., Blair, M., et al. : The evolution and pathology of frontotemporal dementia. Brain, 128(Pt 9): 1996 2005, 2005. 13)Knibb, J.A., Xuereb, J.H., Patterson, K., et al. : Clinical and pathological characterization of progressive aphasia. Ann Neurol, 59(1): 156 165, 2006. 14)Leyton, C.E., Villemagne, V.L., Savage, S., et al. : Subtypes of progressive aphasia: application of the International Consensus Criteria and validation using β amyloid imaging. Brain, 134(Pt 10): 3030 3043, 2011. 15)McKeith, I.G., Dickson, D.W., Lowe, J., et al. : Consortium on DLB. Diagnosis and management of dementia with Lewy bodies: third report of the DLB Consortium. Neurology, 65(12): 1863 1872, 2005. 16)Mesulam, M.M. : Slowly progressive aphasia without generalized dementia. Ann Neurol, 11(6): 592 598, 1982. 17)Mesulam, M.M., Johnson, N., Grujic, Z., et al. : Apolipoprotein E genotypes in primary progressive aphasia. Neurology, 49(1): 51 55, 1997. 18)Mesulam, M., Wicklund, A., Johnson, N., et al. : Alzheimer and frontotemporal pathology in subsets of primary progressive aphasia. Ann Neurol, 63(6): 709 719, 2008. 19)Shaw, L.M., Vanderstichele, H., Knapik Czajka, M., et al. : Alzheimerʼs Disease Neuroimaging Initiative. Cerebrospinal fluid biomarker signature in Alzheimerʼs disease neuroimaging initiative subjects. Ann Neurol, 65(4): 403 413, 2009. 20)Teichmann, M., Migliaccio, R., Kas, A., et al. : Logopenic progressive aphasia beyond Alzheimerʼs an evolution towards dementia with Lewy bodies. J Neurol Neurosurg Psychiatry, 84 (1): 113 114, 2013.