心不全患者の入院時臨床検査データからみた予後規定因子 * keywords: 慢性心不全の急性増悪 小野寺らの予後推定指数 予後規定因子 笠井久豊 1) Hisatoyo KASAI 川口香 1) Kaoru KAWAGUCHI 松本由紀 2) Yuki MATSUMOTO 佐久間隆幸 3) Takayuki SAKUMA 櫻井正人 4) Masato SAKURAI 清水敦哉 4) Atsuya SHIMIZU 1) 済生会松阪総合病院検査課 2) 管理栄養課 3) 薬剤部 4) 内科 Saiseikai Matsusaka General Hospital, Department of Clinical Laboratory 1), Department of Foods and Nutriton 2), Department of Pharmacy 3), Department of Internal Medicine 4) 目的 慢性心不全の急性増悪患者に対し 入院時臨床検査データから予後規定因子が何であるかを検討した 対象及び方法 2011 年 12 月から 2012 年 12 月まで慢性心不全急性増悪の診断で入院加療を行った 147 症例を対象とした これらを生存群と死亡群の 2 群に分類し 入院時の年齢 身体測定 心機能および血液生化学検査と患者の予後との関連を調査した 結果 心不全患者 147 例のうち院内死亡例は 20 例 (13.6%) であった 入院時臨床検査データのうち小野寺らの予後推定指数 (PNI) が患者の予後に最も相関していた また簡易的糸球体濾過量 (egfr) も予後に関与していた ROC 曲線により両者のカットオフ値を設定したが PNI は 4 0 egfr は 3 6 であった これらのカットオフ値から Kaplan-Meier 法による両者の長期予後につき検討したが egfr がより強く長期予後と相関していた 結論 心不全患者の予後予測には 院内死亡としての短期予後は PNI が有用であり 退院後の長期予後としては egfr が有用であった 入院時臨床検査データから PNI が 40 未満の症例においては より早期の栄養サポートが必要と思われた 目的 慢性心不全とは 慢性の心筋障害により心臓のポンプ機能が低下し 末梢主要臓器の酸素需要量に見合うだけの血液量を 絶対的にまた相対的に拍出できない状態であり 肺 体静脈系にまたは両系にうっ血をきたし 日常生活に障害を生じた病態 と定義されている 1) 慢性心不全は 人口の高齢化に伴いますますの増加が予想される 本病態の予後は 患者の年齢や原因疾患 重症度などによって大きく左右されるが 平均して 5 年生存率は 5 0 ~ 6 0% とされ 悪性腫瘍に匹敵するほど不良である 2) また本疾患は治療によりいったん病状が改善しても 増悪をきたしやすいという特徴があるため その増悪予防のためにも患者の病態と重症度を把握すること は重要である 慢性心不全患者は 異化を亢進させて栄養障害を進行させると考えられており より早期から栄養管理を施行することが望まれている また心不全の進行とともに栄養状態がさらに悪化する可能性が高くなるので 栄養療法は 薬物療法 運動療法とならび重要とされている 1) しかし栄養状態を反映する検査値が予後を推定するかどうかの検討は少ない そこで今回われわれは 慢性心不全患者の急性増悪症例に対して栄養指標を含む入院時臨床検査データから予後推定が可能かどうか検討を行い若干の知見を得たので報告する *Predictive factor among clinical parameters on admission in the patients hospitalized with worsening heart failure. 受付日 :2013 年 9 月 12 日採用決定日 :2014 年 4 月 1 日第 28 回日本静脈経腸栄養学会学術集会座長推薦演題 静脈経腸栄養 Vol.29 No.6 2014 95(1371)
対象および方法 慢性心不全の急性増悪の診断にて 2011 年 12 月より 2012 年 12 月までに当院に入院し 入院時に血液生化学検査および心臓超音波検査を施行した症例 147 例 ( 男性 8 5 例 女性 6 2 例 ) を対象とした 対象症例 1 4 7 例の入院時の患者背景を表 1に示す 平均年齢は 82.2±9.2 歳 ( 平均値 ± 標準偏差 )(51~ 101 歳 ) で 心不全の入院回数としては初回が 9 5 例 ( 6 5 % ) と最も多かった 心不全の原因疾患としては虚血性心疾患と不整脈性が最も多く ともに 3 9 例の 2 6. 5 % であった 次いで弁膜症 2 7 例 ( 1 8. 4 % ) 高血圧心 2 1 例 ( 1 4. 3 % ) と続いた また合併症として慢性腎臓病 (Chronic kidney disease; 以下 CKDと略 ) が最も多く 9 7 例 ( 6 6 % ) 高血圧 7 3 例 ( 5 0 % ) と続いた 対象症例 147 例の平均入院期間は 22.6±17.8 日 (1~82 日 ) で 2 0 例 ( 1 3. 6 % ) が入院中に死亡した 死亡例の平均生存期間は 27.1±25.1 日 (1~75 日 ) であった 死亡 20 例の直接死因を表 2に示す もっとも多かったのは心不全の 9 例 ( 4 5 % ) で 次いで腎不全の 3 例 ( 1 5 % ) であった 対象症例を生存退院群 ( 生存群 ) と死亡退院群 ( 死亡群 ) の2 群に分類し 入院後の栄養療法 年齢 体格指数 (Body mass index; 以下 BMIと略 ) および入院時臨床検査値が 予後にどれだけ関与するか比較検討した 検討した臨床検査値は 血清アルブミン値 ( S e r u m albumin; 以下 Albと略 ) 総コレステロール値 (Total cholesterol; 以下 TCと表 1 入院時患者背景略 ) 血中ヘモグロビン値 (Hemoglobin; 以下 Hgb と略 ) 血中総リンパ球数 (Total lymphocyte 表 2 死亡例 20 例の直接死因 (20 例 ) c o u n t ; 以下 T L C と略 ) 脳性ナトリウム利尿ペプチド値 (Brain natriuretic peptide; 以下 BNPと略 ) 左室駆出率 (Left ventricular ejection fraction; 以下 LV EFと略 ) の6 項目 およびその他の項目として 小野寺ら 3) の予後推定指数 (Prognostic nutritional index; 以下 PN Iと略 )P N I = 1 0 血清 A l b( g / d L )+0. 0 0 5 TLC(/μL) 簡易的糸球体濾過量 (Estimated glomerular filtration rate; 以下 egfrと略 ) を日本腎臓学会の GFR 推定式 4) を用いて算出した 測定方法には Albは BCP 改良法 ( カイノス, 東京 ) TC はコレステロール酸化酵素法 ( 協和メディクス, 東京 ) Hgbは S L S ヘモグロビン法 また T L C は電気抵抗法 ( ともにシスメックス, 神戸市 ) を B N P は化学発光免疫測定法 ( アボットジャパン, 東京 ) を用いた また測定機種として A lb T Cには生化学自動分析装置日立 7600( 日立ハイテクノロジーズ, 東京 ) を H g b および T L C は自動血球計算装置 X E -2100( シスメックス, 神戸市 ) を用いた BNPは全自動化学発光免疫測定装置 ARCHITECT アナラーザー i2000sr( アボットジャパン, 東京 ) を LVEF には超音波診断装置 TOSHI BA Aplio80( 東芝メディカル, 東京 ) を用いた 測定結果は 平均値 ± 標準偏差 (mean±sd) で表した 統計学的検定方法は Excel 統計 2012 for windows[( 株 ) 社会情報サービス ] を用い 有意水準を両側 5% とした 要因分析には Chi-square test を用い 多変量解析には多項ロジスティック回帰分析を用いた 生存率の計算には Kaplan-Meier 法による統計学的解析を行い 有意差検定は Logrank testを施行した 結果 対象症例の栄養管理法を表 3に示す 生存群では 経口摂取のみが 98 例 (77.2%) 経口摂取 + 末梢静脈栄養 (Peripheral parental nutrition; 以下 PPNと略 ) が 28 例 (22.0%) PPNのみが 1 例 (0.8%) であった 一方死亡群では 経口摂取のみが 2 例 ( 1 0. 0 %) 経口摂取 + P P N が 1 1 例 ( 5 5. 0 % ) P P N のみが 7 例 ( 3 5. 0 % ) であった 生存群では有意 (p<0.001) に経口摂取可能な症例が多くみられた 次に年齢 BM I 臨床検査値と患者予後の関係を表 96(1372)
4に示す 生存群と死亡群で有意差がみられたものは A l b P N I e G F R の 3 項目であった さらに予後との関連をより明確にするため 年齢 B M I 臨床検査値を独立変数とし 生死を従属変数として多項ロジスティック回帰分析による多変量解析を行った 短期予後である入院中死亡と最も強い相関を認めたのは PNIであった ( p = 0. 0 0 9 ) 同様に e G F R においても予後に関与していた ( p = 0. 0 2 1 )( 表 5) これら予後と相関する PNI egfrの2 項目につき RO C 曲線による生死のカットオフ値の設定を行った ( 図 1) PN Iでは左上隅から最も近い点である 40をカットオフ値とした その曲線下面積 (Area under the curve; 以下 AUCと略 ) は0.755であった 同様に egfrでは カットオフ値 3 6 で AU C は 0. 7 5 9 であった これをもとに慢性心不全患者の長期予後について検討を行った 退院後の追跡調査を行い Kaplan-Meier 法による生存分析を行った ( 図 2) P N I においてはカットオフ値である 40 以上 (94 例 ) と40 未満 (53 例 ) の2 群に分けて長期予後をみると PNI40 以上はそれ以下と比較して有意に生存率が高く 生存期間が長かった (p=0.0005) 同様に egfrで長期予後を検討してみると egfrのカットオフ値である 36 以上の群 (95 例 ) は 36 未満の群 (52 例 ) に比し有意に生存率が高かった (p=4.7 10-6 ) また egfrは PN Iに比しより明確な長期予後の差を示した 表 3 心不全患者の栄養ルートの内訳 (147 例 ) 生存群と死亡群では栄養管理法の有意な差が認められた (p<0.001) 表 4 心不全患者における臨床検査値と患者予後との関係 (147 例 ) 生存群と死亡群で有意差が認められたのは Alb P N I e G F R の 3 項目であった 表 5 多変量解析結果 ( 多重ロジスティック回帰分析 ) P N I が生死に最も関与していた また egfr でも相関が認められた 図 1 ROC 曲線によるカットオフ値の設定 PNI 左上隅から最も近い点 40.7 ROC 曲線下面積 0.755よりカットオフ値を 40と設定した egfr 左上隅から最も近い点 36.9 ROC 曲線下面積 0.759よりカットオフ値を 36と設定した 静脈経腸栄養 Vol.29 No.6 2014 97(1373)
図 2 PNI および egfrと累積生存率の関係 (logrank 検定 ) PNI PNI40 以上の群は40 未満の群に比し 生存率が高く 生存期間が長かった egfr egfr36 以上の群は36 未満の群に比し 生存率が高かった 考察 心不全は すべての心疾患の終末的な病態で 一般的にその生命予後は不良である 特に最近の高齢化社会において 急性増悪により再入院を反復する高齢患者が増加し医療負担の大きい疾患となっている また再入院の回数が多いほど死亡率が上昇するとの報告 5) もある これら増悪予防のためにもより早期に患者の状態を把握し 適切な薬物療法 栄養療法 運動療法を施行することが肝要と思われる まず栄養管理で重要なことは 慢性心不全ガイドライン 1) に示されているように減塩指導である そして心不全の進行とともに 腸管浮腫による食欲の低下や心機能および骨格筋量低下による身体活動量の低下などから食事摂取量の低下が大きな問題となってくる 本疾患では低アルブミン血症をよく認め これが血液の膠質浸透圧を低下し 心原性肺水腫や体液貯留を助長し さらには心筋の代謝にも影響を与えると考えられる そこで今回われわれは 慢性心不全の急性増悪患者に対し 入院時の臨床検査データから患者の予後を推測可能かどうか検討を行った 心不全の原因疾患については 本邦の慢性心不全多施設共同前向き登録観察研究 JCARE-CARD 6) と比較し 虚血性疾患が2 6. 5% (JCARE-CARDは32%) と概ね合致する結果となった 本検討の院内死亡率は 13.6% と諸家の報告 7)8) の院内死亡率 (3.9 ~ 7.7%) に比し高率となった この原因として考えられるのは 対象症例の平均年齢が82.2 歳と高齢であったことが最も考えられる 他の報告 7)8) での平均年齢は 71~ 73 歳であり 高齢になると合併症も多く予後不 良であるという浜口らの報告 9) を支持する結果となった 死亡原因は 心不全が 9 例 ( 4 5 % ) と最も多く腎不全の 3 例 (15%) と続いた また敗血症 誤嚥性肺炎 下肢壊疽など原疾患とは直接関連しない死亡も認められた これは合併症に耐え得ることのできない全身状態を示唆しているのではないかと思われた 入院後の栄養管理法を調査してみると 生存群で経口摂取可能な症例が 死亡群では輸液の補助が必要な症例が多く 両者の間には有意な差が認められた 栄養管理法の選択は 病態の重症度を反映し P P N しか施行しなかった症例が重症であったためと考えられる 心不全患者では腸管血流に影響を及ぼし 結果的に腸管機能自体を低下させることが示されている 経口摂取が困難になると腸管免疫機能が衰退し さらに病状を悪化させる可能性がある また経口摂取可能例での食事開始までの日数を表 6に示す 生存例では死亡例に比し早期に食事再開が可能で 表 6 心不全患者における食事開始までの日数 (139 例 ) 食事開始までの日数は有意に生存例で早期である 98(1374)
あった 消化器癌術後において より早期の経口摂取が 術後合併症の低下 感染症の低下 在院日数の減少を可能にするという報告 10)11) はあるが 心不全患者での経口摂取開始までの日数と予後との関連を調査した報告は少ない 静脈経腸栄養ガイドライン 12) 図 3 入院時と退院時における PNI の推移 PNI は 生存例でも死亡例でも入院時に比し退院時で有意に低下した によると 心臓悪液質症例に対する栄養療法としては 経腸栄養を第一選択肢とし 阻害し 結果として予後を悪化させたのではないかと考腸管機能や循環動態が不安定な症例では 静脈栄養をえられた P N I はもともと消化器癌患者に対し考えられ中心とした栄養選択を行うよう推奨している それゆえたものであり 心不全患者の予後予測に有用との報告は腸管を使える症例においては 免疫能維持およびバクテ皆無である しかし今回の検討で心不全患者においても リアルトランスロケーション防止のためにもより早期の経有用な指標であると考えられた 腸栄養が重要と考えられる ここで問題となるのは 栄養補給により PNI が改善で今回の検討で 生存群と死亡群で有意差が認められきるかどうかである 入院時と退院前 1 週間に A lb 値とたのは A l b P N I e G F R であった 予後規定因子とし T L C 値が測定され P N I の推移が観察できた症例を図て貧血や BM Iの報告 9)13) もあるが 本検討では両群間 3に示す その結果 PNIは退院時において生存例で有意差は認められなかった ( p < 0. 0 0 1 ) でも死亡例 ( p < 0. 0 5 ) でも有意に低下していまた 心機能を反映する B N P や L V E F とも予後に関た これは 輸液による血液の希釈や採血体位 17) による連がみられなかった BN Pにおいては予後との相関を Alb 値の低下が最も考えられる 従って PNIは 入院時認めるという報告 14) もあるが 加齢による濃度上昇と相の栄養スクリーニングとしては有用であるが 経時的にまって腎機能低下症例では偽高値を示すこともあり 15) 栄養療法のモニタリングやアウトカム評価に使用するに高齢者に限ってみるとエビデンスがほとんどない 1) のがは問題があると考えられた 現状である LV E F においては LV E F 低下群より心不全患者は しばしば腎機能障害を合併する 本 LVEF が保持された群の方が 入院死亡率が高いとの邦における慢性心不全登録観察研究 JCARE-CARD 18) 報告もあり 7) 一定の見解は得られていない では平均 e G F R は 4 5. 9 m L / m i n / 1. 7 3 m 2 であり 今回の結果については 対象症例の平均年齢が高齢 90mL/min/1.73m 2 以上の正常な腎機能患者はわずかであることが最も考えられる 今後はさらに症例を増や 2.6% と 心不全患者における腎不全の合併は高頻度でし 栄養療法との関連についても検討する必要があるとあった 本検討においても e G F R 9 0 m L / m i n / 1. 7 3 m 2 思われた 以上の正常な腎機能患者は 13 例 (8.8%) であった また一方 Albにおいては 低アルブミン血症が心不全患者 egfrはその低下に伴い生存率が低下し 独立した予後で多く認められ これが前述のように心原性肺水腫や悪の規定因子であることが報告されている 18) P R I M E Ⅱ 液質を助長させ 予後がさらに悪化すると考えられる (Prospective randomized study of ibopamine on 本検討においても死亡例で有意に Alb 値が低値を示し mortality and efficacy) では 入院時 egfrが心機たが 文献的にも低アルブミン血症が心不全の予後因子能分類や LV EFを凌ぐ最も強い死亡の予測因子であっであるという報告 16) が認められる P N I は A l b に比したとしている 19) 本検討における C K D の病期分類を表さらに強い相関を示した PN I は 栄養評価と免疫能を 7に示す 腎機能高度低下から末期腎不全期にあたる加味したものであるが 両者の低下が全身状態の改善を G4 G5は死亡群で 65% 生存群で 23% と死亡群で高率 静脈経腸栄養 Vol.29 No.6 2014 99(1375)
表 7 心不全患者における慢性腎臓病の病期分類 (147 例 ) 死亡群では腎機能高度低下 ~ 末期腎不全の頻度が高率である であった 腎不全により死亡した 3 例は いずれも慢性末期腎不全から心不全を合併した症例であった それゆえ腎不全による心不全 さらには高齢が重なると治療抵抗性となり e G F R が予後の規定因子として関与してくるのではないかと考えられた 多変量解析では PNI が最も重要であり次いで egfrであった さらに今回の検討では PNIと egfr について両者のカットオフ値を求めた その結果 カットオフ値はそれぞれ 40と 36であった これらの値をもとに 長期予後としての生存分析を行うと egfrの方がより判別に有用であった P N I のカットオフ値に関しては 小野寺ら 3) は40~ 45 は術後合併症のリスクが高く 4 0 以下は切除 吻合禁忌域と報告している Nozoeら 20) は結腸 直腸癌症例を用いて P N I 4 0 未満であると予後不良としている また入院時の栄養アセスメントとしては 梶谷ら 21) は PNIが30 以下では 40 以上と比較して死亡率が有意に高いと報告している P N I のカットオフ値に関する明確な報告は少なく 計算式の元となる A l b 値が 加齢 22) や採血体位 17) により変動し さらには代謝亢進状態 ( 感染症 創傷などの侵襲 ) でも低値を示すことが知られている また T L C では 肺炎や尿路感染症など急性炎症があると相対的に低値を示す 以上より P N I で評価するには 年齢や体位 疾患を考慮する必要があると思われた 本検討の問題点として 入院時臨床検査データのみで予後を評価していることである 中屋 23) は 栄養評価の最も信頼性のある指標は 体重減少 食事摂取量の低下 極端なやせ としている また Fuhrman 24) は 血清 Alb 値で栄養状態を評価せず 主観的包括的アセスメント (Subjective global assessment; 以下 SGAと略 ) で評価すべきであると述べている 当院においても入院時に SGAの評価を行い 栄養不良患者を抽出し血清 Alb 値や摂食状態など総合的に検討したうえで栄養サポートチームの介入を行うべきかどうか判断している それゆえ SGAや体重減少が心不全患者の予後にどれほど関与しているかが今後の検討課題と思われた 最後に慢性心不全患者に対して臨床検査データより P N I を求め 4 0 未満の症例に対してはより早期から栄養指導や栄養介入を行い栄養状態の改善を行うことが重要である 早期の栄養介入が慢性心不全患者の予後をどの程度改善できるか今後の検証が必要であろう 結論 慢性心不全患者の予後規定因子として 入院時臨床検査データの検討を行った そのうち PNIが最も有用であり 特に P N I 値が 4 0 以下の症例においては 原疾患の治療とともに積極的な栄養サポートが必要であると思われた 本論文の要旨は第 28 回日本静脈経腸栄養学会学術集会 ( 於 : 金沢市 ) にて発表した 本論文に関連し開示すべき利益相反はない 100(1376)
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Predictive factor among clinical parameters on admission in the patients hospitalized with worsening heart failure Keywords:hospitalized worsening heart failure, Onodera s prognostic nutritional index, predictive factor. Hisatoyo KASAI 1) Kaoru KAWAGUCHI 1) Yuki MATSUMOTO 2) Takayuki SAKUMA 3) Masato SAKURAI 4) Atsuya SHIMIZU 4) Aim We investigated the predictive factor among clinical parameters on admission in the patients hospitalized with worsening heart failure. Patients and Methods The subjects were 147 patients worsening heart failure who had been admitted from December 2011 to December 2012 to Saiseikai Matsusaka General Hospital. We categorized them into two groups, survival group and death group. We studied the relationship among age, physical measurement and blood biochemical examination on admission and outcome in heart failure patients. Results In-hospital mortality rate in our subjects was 13.6% (20 of 147). In the clinical parameters, multivariate analysis revealed that Onodera s prognostic nutritional index(pni)value was most reliable predictive factor for mortality of heart failure patients. Also estimated glomerular filtration rate(egfr)value was found to be related with death. We tried to determine those cut off values of PNI and egfr value by receiver-operating characteristic curve. The former was 40, and the latter was 36. Kaplan-Meier analysis showed that egfr value was more powerful predictor than PNI value at long-term prognosis. Conclusion We concluded that PNI value was the most powerful predictive factor for in-hospital mortality, and egfr was more powerful predictor at long-term prognosis among clinical parameters in heart failure patients.therefore, the early intervention though nutrition therapy may improve the outcome in heart failure patients to PNI value <40. Saiseikai Matsusaka General Hospital, Department of Clinical Laboratory 1), Department of Foods and Nutriton 2), Department of Pharmacy 3), Department of Internal Medicine 4) 102(1378)