1.2 熱力学の法則 1 エネルギーが移るとき 一部は熱で逃げる ( 熱も含めれば 全エネルギーは保存される ) 自然の法則 なにかが起こる前の物体のエネルギー なにかが起こった後の物体のエネルギー = 他の物体に与える影響 + 熱 これまでに実験的 理論的な反例がない
熱力学第一法則 2 物体が他の物体に与える影響 動かす / 止める ふくらませる / しぼませる 温める / 冷やす 明るくする / 暗くする 結合させる / 分解させる 電気を流す / 電気を消費する 機械的エネルギー ( 仕事 ) 熱エネルギー ( 熱量 ) 光エネルギー 化学エネルギー電気的エネルギー 系の内部エネルギーの変化量 ΔU = ( 仕事 )+( 化学エネルギー )+( 電気的エネルギー ) +( 光エネルギー ) + ( 熱量 )
化学反応しない物体における熱力学第一法則 3 ΔU = ( 仕事 )+( 熱量 ) 外界を動かす / 止める 外界を温める / 冷やす 仕事 : 1 N の力で外界の物体を 1 m 動かすのに必要な仕事 1 J ( ジュール ) 熱量 : 外界にある ( 常温の )1 g の水を 1 K だけ上昇させるのに必要な熱量 1 cal 1 cal = 4.184 J 圧力 P で膨らむ気体の体積増分を ΔV とすると ( 仕事 )=-PΔV 正負に注意! 外界 系の方向を正にとる つまり 主体は 外界
スターリングエンジン 4 ここに 90 度の位相差をつけておく フライホイル クランク棒 冷たい空気 ディスプレーサー 回転方向 パワーピストン 暖かい空気 ディスプレーサー : 気体が通過する多孔性のしきり板
スターリングエンジン 5 燃焼反応を利用しなくとも 温度差さえあればエンジンができる 高温部低温部ディスプレーサピストン ディスプレーサー右 : 気体が温められメインピストンが右へ左 : 気体が冷却されメインピストンが左へ パワーピストン 小林義行氏 http://members.jcom.home.ne.jp/kobysh/strlng/strlngintro.html
6 スターリングエンジンは永久機関になりうるか? 第一種永久機関何もエネルギーを使わずに仕事を外部にし続けるもの 第二種永久機関外界から熱をもらって そのエネルギーのみで外界に仕事をし続けるもの 答えは No! 理由を考えてみよう これまで永久機関の実験例はない => 熱力学の法則の頑健さ
熱力学第二法則 7 系のエントロピーの変化量 ΔS 系と外界とのやりとり 熱量 Q T 可逆過程の場合 ΔS = Q T 正負に注意! 外界 系の方向を正にとる ( つまり外界が主体です ) ΔS 外界 = ー Q T 系 + 外界の全体のばらつきは一定
Q ΔS = T と S = kb lnw 巨視的な定義 微視的な定義 ある過程のエントロピー変化量は その過程が分解しうる時 その各過程のエントロピー変化量の総和となる 一巡して元に戻る過程でのエントロピー変化量 =0 熱量 Q は加法が成立配置の数 W は乗法が成立 8
非補正熱 熱力学第三法則 9 不可逆過程の場合 ΔS = 熱量 Q T + 非補正熱 Q T もとに戻れないほどのばらつきが系で発生 ( 一方向的拡散など ) 熱力学第三法則 絶対零度ですべての純物質の結晶のエントロピーはゼロである ポイント! エンタルピーは相対値 エントロピーは絶対値で求まる
エンタルピー H とは何か 10 ( 大気圧下 ) 圧力一定での 系の発熱 吸熱の変化を考える エンタルピー 外界から系へ移る熱量 Q H U + PV [J] エンタルピー変化量 ΔH = ΔU + PΔV [J] 発熱過程 ΔH < 0 吸熱過程 ΔH > 0 正負に注意! 外界 系の方向を正にとる
エントロピー変化量を算出しよう 11 ~ 過冷却した水が氷になる現象 ~ 問 1 10 5 Pa, 0 における氷 1mol の融解熱を 6008 J mol -1, 水および氷 1mol の熱容量 (1 K 上昇させるのに必要なエネルギー ( 熱量 )) をそれぞれ 75 J mol -1, 36 J mol -1 とする. 以下の問いに答えよ. 必要であれば ln(273.15/263.15)=0.0373 を用いよ. (1)1 10 5 Pa のもとで 0 の水 1 mol が凝固して 0 の氷になるときのエントロピー変化を求めよ. またこの過程に伴う外界のエントロピー変化も求めよ. (2)1 10 5 Pa のもとで -10 に過冷却された 1 mol の水が凝固して -10 の氷になるときのエントロピー変化を求めよ. またこの過程に伴う外界のエントロピー変化の範囲を求めよ.
水と氷との変化が可逆である場合 12
水から氷への変化が不可逆である場合過冷却した水が氷になる現象 13 水の熱容量 氷の熱容量 t t
第一法則 仕事 熱力学第一法則と第二法則のまとめ 大気圧下など圧力一定のとき 14 ΔU = (-PΔV)+( 化学エネルギー )+( 電気的エネルギー ) +( 光エネルギー ) + ( 熱量 Q) 第二法則 可逆過程の場合 ΔS = 熱量 Q T 光や電気が関与せず 常温など温度一定であれば 可逆過程では ΔU = -PΔV+( 化学エネルギー ) +TΔS
化学エネルギーとギッブス自由エネルギーとの関係 15 ΔU = -PΔV+( 化学エネルギー ) +TΔS 物質量が増える ( 分解 )/ 減る ( 結合 ) ( 化学エネルギー ) = ΔU +PΔV -TΔS = ΔH -TΔS = ΔG 圧力一定 ( 大気圧など ) 温度一定 ( 常温など ) 可逆過程において 物質量増減に必要なエネルギー 反応のギッブス自由エネルギー変化量 ΔG r
反応のギッブス自由エネルギー変化量を算出しよう (1) 16 例 ΔH と ΔS の値がわかっているとき ΔG r = ΔH -TΔS ½ N 2 + ½O 2 NO における ΔG r o 標準状態 (25,1.0x10 5 Pa) 実験値 ΔH o = 2.15 x 10 4 [cal/mol] ( 標準状態のNOの生成熱 ) 標準状態のNOのエントロピー S o NO = 50.3 [cal/k mol] N 2 のエントロピー S o N2 = 45.8 [cal/k mol] O 2 のエントロピー S o O2 = 49.0 [cal/k mol] ΔS o = S o NO ー (½S o N2 +½S o O2) = 2.9 [cal/mol] ΔG ro = ΔH o -TΔS o = 2.15x10 4 ー (273.15+25) x 2.9 = 2.06x10 4 [cal/mol] > 0 ( 逆方向に反応は進行する )
反応のギッブス自由エネルギー変化量を算出しよう (2) 17 ある反応のギッブス自由エネルギー変化量は 反応の素過程のギッブス自由エネルギー変化量の総和となる 一巡して元に戻る反応のギッブス自由エネルギー変化量 =0 例 実験値 Pb + Cl 2 PbCl 2 における ΔG r o 標準状態 (25,1.0x10 5 Pa) Pb + 2 HgCl PbCl 2 + 2Hg における ΔG r o (1) = -24.7 [kcal/mol] Hg + ½ Cl 2 HgCl における ΔG r o (2) = -25.1 [kcal/mol] ΔG ro = ΔG r o (1) +2 ΔG r o (2) = - 74.9 [kcal/mol] < 0 ( 反応は自発的にこの方向に進行 )
化学反応する理想気体の反応のギッブス自由エネルギー 18 物質量増減に必要なエネルギー = 物質量が変化する化学反応で重要! 反応のギッブス自由エネルギー G r μ n n: 物質量 μ: 化学ポテンシャル ( 比例定数 ) 今 理想気体では G = G o +nrt ln P 補助資料 1 が成り立つので 圧力 Pでの反応のギッブス自由エネルギー μ n = μ o n+nrt ln P μ = μ o +RT ln P 混合した理想気体での成分 について μ = μ o +RT ln p μ o : 純物質の成分 の標準化学ポテンシャル ただし p は分圧
理想溶液と実在溶液 19 反応のギッブス自由エネルギー G r μ n n: 物質量 μ: 化学ポテンシャル ( 比例定数 ) 溶液中の成分 について μ = μ o +RT ln x ただし x はモル分率となる溶液を理想溶液と定義 すべての構成成分が衝突して 100% 反応に関与する状態 実在溶液 : μ = μ o +RT ln a ただし a は活量 ( a =f x ) 構成成分 は衝突しても確率 f でしか反応に関与しない
化学反応は反応する分子が多いほど速く進む 20 例 : 臭化エチルの加水分解反応 C 2 H 5 Br(aq) + OH - (aq) C 2 H 5 OH(aq) + Br - (aq) 反応速度式 (Rate equaton) d[c H5Br] - k[c dt H Br][OH 2-2 5 k : 反応速度定数 ( この場合の単位 :[l][mol] -1 [s] -1 ) ] 二次反応 エタノール生成速度は 臭化エチルと水酸化物イオンの濃度 ( それぞれ一次 ) の積に比例する
質量作用の法則 21 rate k 1 A 1 2A2 ' 1 A 1 ' 2 A2 k a v k 任意の時間での化学反応速度は その時間における反応物 の活量 a に比例する ( 比例定数は反応速度定数と呼ぶ ) rate 原系 正反応の反応速度 逆反応の反応速度 ka v つまり A 生成系 コ A A A 1 1 1 1 1 ( 注 )Π は積の記号 平衡に達している場合は反応速度が等しいとして
K: 平衡定数 K a a k k a k a k v v v v K p p v v ' (A) 反応する理想気体の場合 p および p は分圧 K c c v v ' (B) 理想溶液の場合 c および c は濃度 22 質量作用の法則
反応のギッブス自由エネルギーで質量作用の法則をあつかう k 1 A 1 2A2 ' 1 A 1 ' 2 A2 k 反応進行度 α(0 α 1) として Aが減少 Aが増加 n v n n - 原系 ' 生成系 23 反応のギッブス自由エネルギー G r = μ n により G - r Gr ( 生成系 ) Gr ( 原系 ) v v
化学反応する理想気体とする場合 μ = μ o +RT ln p なので o - o Gr v ' v \\\ o G r o G RT ln Q r 反応のギッブス自由エネルギーで質量作用の法則をあつかう P RT ln p' p \\\ Q ' v p 気体の反応指数 24
ΔG ro とは何か? 25 標準反応ギッブス自由エネルギー反応物と生成物が純物質であるときのギッブス自由エネルギーの差 ΔG r Δα 原系 0 1 2
平衡定数は標準反応ギッブス自由エネルギーで決まる 26 例 : H 2 0.5 気圧,I 2 0.5 気圧が反応容器にある この反応の ΔG ro は -24.7 kj mol -1 とする. また, 平衡時の反応進行度 α を求めよ. 気体定数 R は 8.314 J K -1 mol -1 とする. α についての 2 次方程式を解いて 関数電卓を使おう
圧力 濃度変化に関する ルシャトリエの原理 27 大気圧下 ( 全圧として圧力一定 ) では ΔG ro は物質に固有 平衡定数は温度のみに依存する原系温度一定の場合には平衡定数がK( 一定 ) 平衡が成り立っている系に その反応物 ( もしくは生成物 ) を増量すると 反応物 ( もしくは生成物 ) を減らす方向に ( 平衡定数が一定になるように ) 反応が自発的に進行する
大気圧下 ( 全圧として圧力一定 ) では 温度変化に関するルシャトリエの原理 28 平衡が成り立っている系で 発熱反応の場合 その系の温度を下げると 生成物を増大する方向に平衡が移動する 吸熱反応の場合 その系の温度を下げると 生成物を減少する方向に平衡が移動する 発熱反応 ΔH o <0 吸熱反応 ΔH o >0 平衡定数 K は温度 T の関数 ln K = -ΔG ro /RT 温度が変化するので K も変化! 補助資料 2 が成り立つので 0 G r T -R ln K を代入して
温度変化に関するルシャトリエの原理 29 d ln dt K H RT 0 2 ΔH o が温度によらず一定の場合 T で不定積分して ln K H - R 0 1 T 積分定数 lnk 発熱反応 ΔH o <0 K 大 K 小 吸熱反応 ΔH o >0 高温低温 1/T 平衡が成り立っている場合 発熱反応 : T のときK 生成物が増大する方向へ吸熱反応 : T のときK 生成物が減少する方向へ
本日の講義のまとめ 30
補助資料 1 G = G o + nnnlnp の導出 熱力学第一法則と第二法則から 可逆過程では U = P V + T S このとき 有限の変化量を無限に微小な変化量として扱うと dd = PPP + TTT 1 とかける G H TT より dd = dd d(tt) = dd TTT SSS cf. 積の微分 = d(u + PP) TTT SSS ( H U + PP) = dd + VVV + PPP TTT SSS cf. 積の微分 = SSS + VVV 1 温度が一定とすると (dd = 0), dd = VVV 理想気体の場合 PP = nnn なので (R は気体定数 ) 1.0x10 5 Pa( 標準状態 ) から圧力 P までのギッブス自由エネルギー変化量は 両辺を定積分して G dd G o = nnn P 1 P 1.0x10 5 dd ただし 圧力 P,1.0x10 5 Pa のときのギッブス自由エネルギーをそれぞれ G, G o とおく すると G G o = nnnln( P 1.0 10 5) 1 atm( 気圧 ) を標準状態として採用すると G = G o + nnnlnp
補助資料 2 ΔΔ 0 = T 2 d dd G r 0 の導出 熱力学第一法則と第二法則から 可逆過程では U = P V + T S このとき 有限の変化量を無限に微小な変化量として扱うと dd = PPP + TTT 1 とかける G H TT より dd = dd d(tt) = dd TTT SSS cf. 積の微分 = d(u + PP) TTT SSS ( H U + PP) = dd + VVV + PPP TTT SSS cf. 積の微分 = SSS + VVV 1 T 圧力が一定の場合 (dd = 0), dd = SSS これを G = H TT に代入して G = H + T dd dd 正しくは G T と表記します P H = G T dd dd = T 2 d dd G T 正しくは T 2 G T と表記します P d dd G T = G T 2 + 1 T dd dd 温度が一定である場合 最初と最後の状態の差をとると H = T 2 d dd G T 正しくは T 2 ΔG T と表記します P 圧力と温度が標準状態の場合 H 0 を標準反応熱として H 0 = T 2 d dd G r 0 T ここで G r 0 は標準反応ギッブス自由エネルギーである