熱力学第一法則 1 物体が他の物体に与える影響 動かす / 止める ふくらませる / しぼませる 温める / 冷やす 明るくする / 暗くする 結合させる / 分解させる 電気を流す / 電気を消費する 機械的エネルギー ( 仕事 ) 熱エネルギー ( 熱量 ) 光エネルギー 化学エネルギー電気的エネルギー 系の内部エネルギーの変化量 ΔU = ( 仕事 )+( 化学エネルギー )+( 電気的エネルギー ) +( 光エネルギー ) + ( 熱量 )
化学反応しない物体における熱力学第一法則 2 ΔU = ( 仕事 )+( 熱量 ) 外界を動かす / 止める 外界を温める / 冷やす 仕事 : 1 N の力で外界の物体を 1 m 動かすのに必要な仕事 1 J ( ジュール ) 熱量 : 外界にある ( 常温の )1 g の水を 1 K だけ上昇させるのに必要な熱量 1 cal 1 cal = 4.184 J 圧力 P で膨らむ気体の体積増分を ΔV とすると ( 仕事 )=-PΔV 正負に注意! 外界 系の方向を正にとる つまり 主体は 外界
スターリングエンジン 3 燃焼反応を利用しなくとも 温度差さえあればエンジンができる ここに 90 度の位相差をつけておく フライホイル ディスプレーサー : 気体が通過する多孔性のしきり クランク棒 冷たい空気 ディスプレーサー 回転方向 パワーピストン 暖かい空気
スターリングエンジン 4 燃焼反応を利用しなくとも 温度差さえあればエンジンができる 高温部低温部ディスプレーサピストン ディスプレーサー右 : 気体が温められメインピストンが右へ左 : 気体が冷却されメインピストンが左へ パワーピストン クランク棒 フライホイール
5 スターリングエンジンは永久機関になりうるか? 第一種永久機関 第二種永久機関
熱力学第二法則 6 系のエントロピーの変化量 ΔS 系と外界とのやりとり 熱量 Q T 可逆過程の場合 ΔS = Q T 正負に注意! 外界 系の方向を正にとる ( つまり外界が主体です ) ΔS 外界 = ー Q T 系 + 外界の全体のバラツキは一定
ΔS = Q T と S = k lnw 7 巨視的な定義 微視的な定義 ある過程のエントロピー変化量は その過程が分解しうる時 その各過程のエントロピー変化量の総和となる 一巡して元に戻る過程でのエントロピー変化量 =0 熱量 Q は加法が成立状態の数 W は乗法が成立
不可逆過程の場合 非補正熱 熱力学第三法則 ΔS = 熱量 Q T + 非補正熱 Q T もとに戻れないほどのバラツキが系で発生 ( 一方向的拡散など ) 8 熱力学第三法則 絶対零度ですべての純物質の結晶のエントロピーは零である ポイント! エンタルピーは相対値 エントロピーは絶対値で求まる
エンタルピーとは何か 9 ( 大気圧下 ) 圧力一定での 系の発熱 吸熱の変化を考える エンタルピー 外界から系へ移る熱量 Q H U + PV [J] エンタルピー変化量 ΔH =
エントロピーとは何か 10 過冷却した水が氷になる現象 問 1 10 5 Pa, 0 における氷 1mol の融解熱を 6008 J mol -1, 水および氷 1mol の熱容量 (1 K 上昇させるのに必要なエネルギー ( 熱量 )) をそれぞれ 75 J mol -1, 36 J mol -1 とする. 以下の問いに答えよ. 必要であれば ln(273.15/263.15)=0.0373 を用いよ. (1)1 10 5 Pa のもとで 0 の水 1 mol が凝固して 0 の氷になるときのエントロピー変化を求めよ. またこの過程に伴う外界のエントロピー変化も求めよ. (2)1 10 5 Pa のもとで -10 に過冷却された 1 mol の水が凝固して -10 の氷になるときのエントロピー変化を求めよ. またこの過程に伴う外界のエントロピー変化の範囲を求めよ.
エントロピーとは何か教養学部 11 統合自然科学科過冷却した水が氷になる現象
熱力学第一法則と第二法則のまとめ 12 第一法則 大気圧下など圧力一定のとき ΔU =
13 化学エネルギーとギッブス自由エネルギーとの関係 ΔU = -PΔV+( 化学エネルギー ) +TΔS 物質量が増える ( 分解 )/ 減る ( 結合 ) ( 化学エネルギー ) = ΔU +PΔV -TΔS = ΔH -TΔS = ΔG 圧力一定 ( 大気圧など ) 温度一定 ( 常温など ) 可逆過程において 物質量増減に必要なエネルギー = 反応のギッブス自由エネルギー変化量 ΔG r
例 反応のギッブス自由エネルギー変化量を求めてみよう (1) 14 ΔH と ΔS の値がわかっているとき ΔG r = ΔH -TΔS ½ N 2 + ½O 2 NO における ΔG r o 標準状態 (25,1.0x10 5 Pa) 実験値 ΔH o = 2.15 x 10 4 [cal/mol] ( 標準状態のNOの生成熱 ) 標準状態のNOのエントロピー S o NO = 50.3 [cal/k mol] N 2 のエントロピー S o N2 = 45.8 [cal/k mol] O 2 のエントロピー S o O2 = 49.0 [cal/k mol] この反応は吸熱反応 あとはバラツキを考える
反応のギッブス自由エネルギー変化量を求めてみよう (2) 15 ある反応のギッブス自由エネルギー変化量は 反応の素過程のギッブス自由エネルギー変化量の総和となる 一巡して元に戻る反応のギッブス自由エネルギー変化量 =0 例 実験値 Pb + Cl 2 PbCl 2 における ΔG r o 標準状態 (25,1.0x10 5 Pa) Pb + 2 HgCl PbCl 2 + 2Hg における ΔG r o (1) = -24.7 [kcal/mol] Hg + ½ Cl 2 HgCl における ΔG r o (2) = -25.1 [kcal/mol] Hg を介する 2 つの反応は この方向に自発的に進む
反応する理想気体の反応のギッブス自由エネルギー 物質量増減に必要なエネルギー = 物質量が変化する化学反応で重要! 反応のギッブス自由エネルギー G r = μ n n: 物質量 μ: 化学ポテンシャル ( 比例定数 ) 今 理想気体では G = G o +nrt ln P 補助資料 1 が成り立つので 圧力 Pでの反応のギッブス自由エネルギー μ n = μ o n+nrt ln P μ = μ o +RT ln P 混合した理想気体での成分 について μ = μ o +RT ln p μ o : 純物質の成分 の標準化学ポテンシャル 16 ただし p は分圧
理想溶液と実在溶液 17 反応のギッブス自由エネルギー G r = μ n n: 物質量 μ: 化学ポテンシャル ( 比例定数 ) 溶液中の成分 について μ = μ o +RT ln x ただし x はモル分率となる溶液を理想溶液と定義 すべての構成成分が衝突して 100% 反応に関与する状態 実在溶液 : μ = μ o +RT ln a ただし a は活量 ( a =f x ) 構成成分 は衝突しても確率 f でしか反応に関与しない
臭化エチルの加水分解反応 18 C 2 H 5 Br(aq) + OH - (aq) C 2 H 5 OH(aq) + Br - (aq) 反応速度式 (Rate equaton) d[c H5Br] - k[c dt H Br][OH 2-2 5 k : 反応速度定数 ( この場合の単位 :[l][mol] -1 [s] -1 ) ] 二次反応 エタノール生成速度は 臭化エチルと水酸化物イオンの濃度 ( それぞれ一次 ) の積に比例する
質量作用の法則 19 rate k A A ' A ' A 1 1 2 2 1 1 2 2 k a v k 任意の時間での化学反応速度は その時間における反応物 の活量 a に比例する ( 比例定数は反応速度定数と呼ぶ ) rate 原系 正反応の反応速度 逆反応の反応速度 ka v つまり A 生成系 コ A A A 1 1 1 1 1 平衡に達している場合は反応速度が等しいとして
質量作用の法則 K: 平衡定数 K a a k k a k a k v v v v K p p v v ' (A) 反応する理想気体の場合 p および p は分圧 K c c v v ' (B) 理想溶液の場合 c および c は濃度 20
反応のギッブス自由エネルギーで質量作用の法則をあつかう k A A ' A ' A 1 1 2 2 1 1 2 2 k 反応進行度 α(0 α 1) として n v 正反応が進行すると A が減少 n - 原系 Aが増加 n ' 生成系 21 反応のギッブス自由エネルギー G r = μ n により G r G - r( 生成系 ) Gr ( 原系 ) v v
反応のギッブス自由エネルギーで質量作用の法則をあつかう 22 反応する理想気体とする場合 μ = μ o +RT ln p なので o - o Gr v ' v \\\ o G r o G RT ln Q r P RT ln p' p \\\ Q ' v p 反応指数
ΔG r o とは何か? 標準反応ギッブス自由エネルギー反応物と生成物が純物質であるときのギッブス自由エネルギーの差 23 ΔG r Δα 原系 0 1 2
平衡定数は標準反応ギッブス自由エネルギーで決まる 24 例 : H 2 0.5 気圧,I 2 0.5 気圧が反応容器にある この反応の ΔG ro は -24.7 kj mol -1 とする. また, 平衡時の反応進行度 α を求めよ. 気体定数 R は 8.314 J K -1 mol -1 とする. α についての 2 次方程式を解いて 関数電卓を使おう
圧力 濃度変化に関するルシャトリエの原理 25 大気圧下 ( 全圧として圧力一定 ) では ΔG o r は物質に固有原系 平衡定数は温度のみに依存する温度一定の場合には平衡定数がK( 一定 ) 平衡が成り立っている系に その反応物 ( もしくは生成物 ) を増量すると 反応物 ( もしくは生成物 ) を減らす方向に ( 平衡定数が同じ値になるように ) 反応が自発的に進行する
大気圧下 ( 全圧として圧力一定 ) では 温度変化に関するルシャトリエの原理 26 平衡が成り立っている系で 発熱反応の場合 その系の温度を下げると 反応物を増大する方向に平衡が移動する 吸熱反応の場合 その系の温度を下げると 反応物を減少する方向に平衡が移動する 発熱反応 ΔH o <0 吸熱反応 ΔH o >0 平衡定数 K は温度 T の関数 ln K = -ΔG ro /RT 温度が変化するので K も変化! 補助資料 2 が成り立つので 0 G r T -R ln K を代入して
d ln dt K 温度変化に関するルシャトリエの原理 27 H RT 0 2 ΔH o が温度によらず一定の場合 T で不定積分して ln K H - R 0 1 T 積分定数 lnk 発熱反応 ΔH o <0 K 大 K 小 吸熱反応 ΔH o >0 高温低温 1/T 平衡が成り立っている場合 発熱反応 : T のときK 生成物が増大する方向へ吸熱反応 : T のときK 生成物が減少する方向へ
本日の講義のまとめ 28
補助資料 1 G = G o + nrtlnp の導出 熱力学第一法則と第二法則から 可逆過程では U = P V + T S このとき 有限の変化量を無限に微小な変化量として扱うと du = PdV + TdS 1 とかける G H TS より dg = dh d(ts) = dh TdS SdT (cf. 積の微分 ) = d(u + PV) TdS SdT ( H U + PV) = du + VdP + PdV TdS SdT (cf. 積の微分 ) = SdT + VdP ( 1) 温度が一定とすると (dt = 0), dg = VdP 理想気体の場合 PV = nrt なので (R は気体定数 ) 1.0x10 5 Pa( 標準状態 ) から圧力 P までのギッブス自由エネルギー変化量は 両辺を定積分して G dg G o = nrt P 1 P 1.0x10 5 dp ただし 圧力 P,1.0x10 5 Pa のときのギッブス自由エネルギーをそれぞれ G, G o とおく すると G G o = nrtln( P 1.0 10 5) 1 atm( 気圧 ) を標準状態として採用すると G = G o + nrtlnp
補助資料 2 ΔH 0 = T 2 [ d dt ( G r 0 )] の導出 熱力学第一法則と第二法則から 可逆過程では U = P V + T S このとき 有限の変化量を無限に微小な変化量として扱うと du = PdV + TdS 1 とかける G H TS より dg = dh d(ts) = dh TdS SdT (cf. 積の微分 ) = d(u + PV) TdS SdT ( H U + PV) = du + VdP + PdV TdS SdT (cf. 積の微分 ) = SdT + VdP ( 1) T 圧力が一定の場合 (dp = 0), dg = SdT これを G = H TS に代入して G = H + T ( dg dt ) 正しくは ( G T ) と表記します P H = G T ( dg dt ) = T 2 [ d dt (G T )] 正しくは T 2 [ T (G T )] と表記します P ( d dt (G T ) = G T 2 + 1 T (dg dt )) 温度が一定である場合 最初と最後の状態の差をとると H = T 2 [ d dt ( G T )] 正しくは T 2 [ T (ΔG T )] と表記します P 圧力と温度が標準状態の場合 H 0 を標準反応熱として H 0 = T 2 [ d dt ( G r 0 T )] ここで G r 0 は標準反応ギッブス自由エネルギーである